第19話【禁断の力──幕開】
「ハイドカード、上手く手に入れられたぜ」
「案外楽勝だったね」
「あぁ、お前の情報のお陰でな」
マチアの管理する情報屋としての拠点、そこで寛ぐ様に彼らは手に入れたハイドカードを眺めていた。
「情報屋だからね。って事で、その報酬として」
椅子に腰掛けなが等ハイドカードを眺めるヴァンの前に立ち、6枚のうち5枚のカードを抜き取る。
「おい!」
「いいじゃない。これだけ色も能力もバラバラな6枚全部一人で扱える訳ないし、強力なカードなら一枚あれば充分でしょ」
「……使わなくともそれぞれ1枚1枚が、貴重なカードだ。売り捌いて金にするつもりなら許さないぞ」
「売る為の商品にはならなくても色々使い道はあるよ。まぁアタシも力が欲しいって所かな」
「お前に力なんざ必要ねぇだろ」
「まぁまぁ。とりあえず持ち余してるハイドカードはアタシがしっかり管理してあげるよ」
「ちゃっかりしてやがる」とぼやくように呟くヴァンに愛想笑いで返しながらも、一方で。
「それより、これからどうするつもり?」
「どうするも何も罪狩猟団抜けて後は勝手気ままにやる。そう言ってるだろ?」
「あいつらとの縁がその程度で切れないから今まで苦労して来たんでしょ。幾らルディアと拮抗できる力を手に入れたって、まだまだ正面からやり合うには分が悪い」
ドレイクとも手を結んでるとはいえ、ルディアを含め罪狩猟団と言う組織全てを相手にするのは確かに得策ではない。
「まぁヴァンが組織を抜けるのはいいとして、このままじゃ何れ捜索される。脱退が組織に伝わる前に身を隠す場所が欲しいね」
「そんな場所に心当たりなんかねぇよ」
「ははは、アンタの事だから言うと思った。まぁその辺に関してもアタシが受け持つよ」
「?」
「要するに任せろって事」
宛があるように胸を叩くマチア、それに軽く笑いつつもヴァンもまた信頼するように、そのままマチアに連れられ、宛となるその場所へと向かう。
────同時刻、スピリッツエデン、別所にて。
「なるほど、暴食を司る七罪竜。そして欲望を喰らう力か」
「はい、ヘルさんなら何か知ってるかと思って」
シュオンとの一件が片付いたその後日。状況説明の為に烈我、ミナト、星七の三名はヘルの元へと訪れ、彼らの話にヘルは興味深そうに聞き入り、口元に手を添えて考え込むような素振りを見せているが。
「嫌、残念ながら前も言ったようにおじさん、七罪竜について全ては把握していない。暴食の七罪竜、その存在も君たちの話から初めて知った訳だからね」
ヘルからの返答に対し、烈我は「そうですか」と残念そうに肩を落として、低い声で返事をするが、それとは対照的にキラーとバジュラは苛立ち気味に『使えねぇ』と舌打ちながら言葉を吐き捨てる。
「お前等、ホントおじさんいい加減泣いちゃうよ?」
『まぁまぁ、儂に免じて許してくれ。あの二人はあぁいう性格じゃからな』
「いや、今更だしいいんだけどね。ただエヴォルみたいに優しい言葉遣いしてくれる七罪竜がいるのがホントに救い」
涙目になって感動を覚えるヘルにエヴォルは星七と顔を見合わせ、二人共にヘルの苦労を察し、気不味そうに苦笑を浮かべる。
『テメェが何も知らねぇんじゃ、無駄足だったな』
『だな。おいミナト、とっとと帰るぞ』
二人に催促しながら元の世界へ戻ることを促すが、そんな彼らに対しヘルは慌てたように「ちょっと待って!」と呼び止める。
「烈我君、一つ確認したいんだけどシュオンが力得る理由については聞いてるのかい?」
ヘルからの質問に、記憶を辿る様にシュオンと初めて会った時の事を振り返る。シュオンと初めて会った時、彼は自分達に言った。
『力を蓄え続け数年前よりも強く生まれ変わっている、嫌、生まれ戻っているというべきか』
「生まれ戻る? シュオンはそう言ったのかい?」
「はい、確か昔の様な力を取り戻したいと言ってましたけど」
『あぁ。あの野郎、確か俺達と違って数万年前の記憶が微かに残ってる、そう言ってやがったな』
「記憶が!?」
バジュラの言葉に対し、ヘルは思わず声を上げた。普段と違うその様子に烈我達は疑問を感じ、その視線にヘルも気付くとすぐに落ち着きを取り戻して。
「ご、ごめん取り乱して」
「ヘルさん、もしかしてやっぱり何か知ってるんですか?」
「嫌そういう訳じゃなくて、その……数万年前の記憶があるんだったら、是非研究の為に意見を聞いてみたい。そう思っただけだよ」
「はぁ……」と、少しだけ戸惑う様に返事を返すが、「ところで」とヘルは話題を変える様に。
「七罪竜についてではないけど、私からも伝えておきたい情報があるんだ」
「「「?」」」
「ハイドカード、その存在について」
初めて聞くその単語に烈我達は当然知らない様に首を傾げるが、「それは?」と真っ先に烈我が尋ねるが。
「この世界にとっては伝説の存在さ。七罪竜に匹敵する程ね」
「「「!!」」」
ヘルからの言葉に、三人とも目の色を変え、バジュラ達もまた聞き捨てならないように耳を傾けている。
「さてまずハイドカードが何なのか話す前に、この世界について前に話したことは覚えてるかな?」
「確かスピリッツエデンはバジュラ達が作った世界だったんですよね?」
「そう。そしてこの世界には、今私達がバトルスピリッツを通して使用してるスピリット、その存在が過去この世界には実在していた」
「「「!!!」」」
突拍子もない言葉、俄かには信じられないがそれでも既にこの世界の存在自体が元々はイレギュラー、何よりヘルの真剣な顔がそれが嘘か真実かを物語っていた。
「この世界の歴史を調べる中、そういった記録や伝承が伝えられていた。そしてスピリット達は闘争本能のままに戦い続け、カードとして眠りについたとされている」
「初めて七罪竜って存在聞いた時には驚いたけど、まさかスピリットも実在してたとはな」
「はい、僕も話が大きすぎて、とても信じられないですよ
ミナトと星七はそれぞれ自分のスピリット達を見ながら率直な気持ちを語り、烈我もまた同じように自分のキースピリット達を眺めながら、スピリット達がバトルフィールドではなく、この世界を駆け回る姿を想像していた。
「スピリット達が実際に生きていた世界、俺も夢としか思えねぇぜ」
「この世界の先住民、その遥か祖先が後世に伝えた伝説だからね。本当かどうか確かめるのは不可能だが、それでも……確証に足るだけの記録は揃ってると思ってるけどね」
「それが本当だとしても、さっき言ってたハイドカードと何の関係が」
「まぁ聞いてくれ。星が誕生して命が芽生える様に、バジュラ達が作り出したとされ、この星もまた新たな生命が誕生した。それがスピリット、中でも最も強力な力を誇っていた6体、それがハイドカードと呼ばれるスピリット達さ」
「つまり、ハイドカードはこの世界で生まれたスピリットって事ですか?」
星七の言葉にヘルは静かに頷く。
「ただハイドカードは強すぎたんだよ。他のスピリット達を遥かに凌駕する力、そして戦いを求めるその闘争本能も常軌を逸していた」
「!」
「先人達はハイドカードの力を恐れ、ハイドカードを一度封印した」
「一度封印したって、その言い方だとまるで封印が説かれたみたいに聞こえるんですけど?」
ヘルの言葉に横やりを入れるミナト、「その通りだよ」と頷いて返事を返すヘルに再び動揺が走る。
「封印が解かれたって、そんな!!」
「あぁ安心してくれ。ハイドカードは一度目覚めはしたらしいがどうも大きな被害にはなっていない。その後のハイドカード達も、自ら眠りについたとされている」
「詳しい事は分からないけどね」、とお茶を濁す様な発言だが、以前疑問は残る。
「何で急にそんな話を?」
「嫌、おじさんも最近知って是非とも説明したい……じゃなくて、伝えておいた方がいいかなと思って!」
『ケッ、要するに自慢したかっただけかよ!』
さらっとバジュラの一言に毒気としたように肩を震わせる。見た通り図星だったようだ。
「うぅ、確かに自慢したいってのもあったけど、今後もしかしたら君たちの前にも表れるかなって思ってさ。だから話しておきたかった」
「ハイドカード、確かに底知れないカードみたいですね」
『安心せぇ星七、儂等七罪竜、どんな敵でも迎え撃つだけの力はあると自負してる』
『ったりめぇだ。何が相手だろうと最後に勝つのはこの俺様だ!』
自信満々に豪語するエヴォルやキラー、ハイドカードがどういう存在なのか、その詳細は分からなくとも、自信に溢れたキラー達に不安さを感じる事は微塵もなかった。
「うんうん、その調子なら何があっても安心だね」
「はい、とりあえずシュオンについて何ですけど、また何かあったら相談に来ます」
「分かった。こっちもできる限り調べてみるよ。それはそうと」
今日の面子についてずっと気になっていた事が一つ。
「当人のシュオンと持ち主の絵瑠君だっけ? それに今日は光黄君もいないみたいだけど」
「えっと……実は」
***
「ごめん!!!」
元の世界、とあるレストランに向かい合わせで席に座る絵瑠と光黄の二人。だが何故か開口一番に光黄に向かって手を合わせて謝罪する絵瑠に、彼女は訳が分からない様子で困惑していた。
「話があると言うから来てみれば、藪から棒に一体何だ?」
「い、嫌……凄く言い辛いんだけどな」
「構わないから言って見ろ、じゃないと何の話なのかすら分からない」
普段通り落ち着いた様子で絵瑠に言いながら、テーブルの上にある料理を一口、口にするが。
「実は、お前に無断で烈我にデートを誘ってしまって!!」
「!!?」
いきなり絵瑠からの出る衝撃的なワード、思わず目を見開き、動揺するように喉を詰まらせかけ、大きく空気を含んで料理を飲み込む。
「ま、待て! 一体何の話だ!」
「前々から彼奴の事が気になってて……だからこの前、つい声を掛けてしまって」
「れ、烈我は何て!?」
「い、嫌、烈我にはデッキ調整という事で付き合ってもらったから、多分彼奴は気付いてないと思うし、あくまで私だけが意識してたというか」
まるで睨むような鋭い視線を向けて尋ねる光黄に対し、その勢いに押されるように口籠りながらも、その時の状況を説明し、説明に対し少しだけ安心するようにホッ、として胸を撫で下ろす。
「光黄?」
「い、嫌何でもない。というか、何でそもそも俺にそんな話を?」
「だって彼奴はお前の彼氏じゃ──」
「だから彼奴は彼氏じゃない!!!」
その場から立ち上がって絵瑠の言葉を否定するように声を荒げる彼女だったが、店内には他のお客の姿もあり、声を荒げる彼女に周囲から視線が集まる。それに気付いて初めて彼女も我に返ったのか、顔を赤くしながら静かにまた席に座る。
「そ、そもそも……お前は烈我の事が好きなのか?」
冷静さを取り繕う様にまだ顔を赤くしながらも目を瞑って質問するが、その質問に対し、絵瑠は苦笑いを見せる。
「どうかな、今にして思えばただお前の事が羨ましかっただけかもしれない」
「俺が?」
「だって私にないもの全て、お前が持ってるような気がしててな」
今までの事を振り返りながら、彼女は語る。
「私の取柄はバトルしかなかったからな、だからお前と会って初めて負けた時は本当に悔しくて、お前のように強くなりたいと思ってたんだ」
「俺のようにって、お前との戦績は半々だった筈だ」
「前まではな。最近の戦績はすっかり突き放されてるよ」
「けど何より」とさらに言葉を続け。
「私が最も羨ましかったのは、お前の周囲かな」
「どういう?」
「……単純な話、私の周りには友達と呼べる奴もいないからな。バトルに勝ってもそれを祝ってくれる誰かもいない。けど、光黄は違うだろ?」
「!」
「星七君とかいろいろお前の周囲にはいつも人がいて、特に烈我。あいつみたいに自分の気持ちを真っ直ぐ伝えてくれる奴なんて、少なくとも私の周りにはいないからな」
「あんなの、言われてる方からすれば恥ずかしいだけだ」
顔を赤くしながらそう言った光黄に対し、彼女は笑いながらもどこか寂し気に表情を俯かせる。
「けど私にはそういう存在が凄く羨ましかったんだ。あんな風に自分以外の誰かを一途に想ってくれる存在が眩しくて、私にも自分の事を想ってくれる、そういう存在がいてくれたらなと思って」
「烈我程、直球過ぎるのもどうかと思うけどな」
「ははは、けど……あそこまで純粋と言うか、真っ直ぐすぎるからこそ、私は惹かれたのかもしれないな。だからこそ、もし烈我が振り向いてくれたらと思ってつい声を掛けてしまって」
「!」
「結局シュオン……既に聞いてるかもしれないけど色々騒動に巻き込まれて烈我には特に何も伝えられずに終わった。まぁ伝えられたとしても多分結果は聞くまでもないと思うがな」
「どうして?」
「だって私じゃどう足搔いても彼奴を振り向けられそうになかったからな。アイツが想い続ける相手は唯一人だけみたいだった」
軽く妬ける様に溜息をつきながら光黄を見つつ、それに対し一層恥ずかしさを感じる光黄。
「まぁシュオンの一件があって色々気持ちの整理ができて、烈我にも諦めがついた。だからこそお前にも一言謝ろうと思ってな」
「だから俺は別に烈我の事なんて何とも──」
絵瑠の表情を見ながら、何を想うのか突然言い掛けた言葉を止めたかと思うと、少しだけ間を置きながら。
「嫌、確かに俺は……烈我の事、好きだよ」
「!!」
「な、何だその顔は!」
光黄からの言葉が意外だったのか、呆然とする絵瑠にムッとして怒り気味に言い放つ。
「す、すまない。何と言うか、お前がそんなに素直に言うのは意外だと思って」
「……別に。ただ、その、お前があまりにも馬鹿正直に話すから、俺も変に意地張るのも悪い気がしてな」
「成程。お前にも可愛い所があったんだな」
「か、可愛いとか言うな!!」
すっかり照れ臭い様に表情は赤く染まったままだったが、気を取り直す様に一息つきながら。
「まぁ少なくとも、正直に話してくれるならせめて俺もそれに応えたいと思っただけだ。友達としてな」
「えっ? 今、何て!?」
「友達として、そう言っただけだ」
「!!」
光黄からの言葉、それを直ぐに信じられない様に動揺する絵瑠だったが、それに対して光黄は静かに笑うと。
「まっ、そう思ってたのが俺の勘違いだったなら忘れてくれ」
「そ、そんな事ないぞ!! そう言ってくれて、すっごく嬉しい!」
「そうか。なら良かった。今後は七罪竜の件に関して色々戦う事になるだろうけど、改めてよろしくな」
「お、おぉ!! 私の方こそ、宜しくお願いする!!」
感激するように涙目になりながらも笑顔で光黄と握手を交わす絵瑠、その様子を、外から眺めるライトとシュオンの姿が。
『いやぁー可愛いお嬢様の笑顔、とっても素敵です!』
『お前の相棒は別だろうが』
『それはそれこれはこれ。光黄様も素敵ですが、絵瑠様も素敵なのですよ!』
ライトに対し、呆れなよう溜息をつくシュオン。幸い周囲に人影はなく、二体も無関係の人間には気付かれない様必要最低限の気は配っているので問題はないのだろう。
『それにしても何を話しているか、外からじゃ聞こえないのが実に残念です』
『貴様の相棒は外で待ってる事に釘を刺してたからな、余程お前、相棒からの信用がないんじゃないか?』
『そんな事はありません! 私は光黄様の執事ですよ!』
『意味は分からん。分かるとすれば『色欲』のお前に説得力は皆無という事だ』
『五月蠅いですよ』
冷静なシュオンにツッコミに言い返ししつつ、『それにしても』と何かが気になっているように。
『貴方が選んだパートナーが、まさかあんな可愛いお人だとは』
『貴様そればっかりか、それに成り行きで一緒にいるだけでパートナーではない!』
『だったらこれからどうするつもりですか? 言っときますけど、絵瑠さんみたいな素敵な女性に以前みたいな事をやらかすなら、私も本気であなたと戦いますからね』
以前シュオンが絵瑠を乗っ取った件についての騒動は既にライトもバジュラ達から聞き及んでいた。忠告するように睨むライトに対してシュオンは静かにその目を見ながら。
『……お前等とゴタゴタするのは面倒だ。暫くは休んでてやるよ』
『暫くじゃなくてずっとですよ!』
『それを聞く義理はないな』
少なからず警戒心を抱くライトだが、シュオンは静かに窓の向こうに映る絵瑠の姿を見ながら。
『ライト、人間にとって……欲望は必要だと思うか?』
『はぁ? それを聞くって事はアンタやっぱりまたやるつもりですか? 欲望を喰らわれた人間がどういう目に合うか!』
『欲望を喰らった所で死にはしない。それに欲望が消えてもあくまでそのことに対する執着が消えるだけ、得に生きる上で支障はない筈だ』
『だからって、誰かれ構わず喰らっていい訳ではないですよね?』
『誰かれ構わずじゃない、俺が欲望を喰らってきた人間二種類だ……手段を選ばない醜い人間。俺の力を利用とする者とかな』
以前契約を持ちかけていたディストも、己を利用しようとしていた。あの時は契約が果たされないとみて一方的に破棄していたが、もし契約達成していたとすれば容赦なく彼女の欲望を喰い尽くすつもりだったのだろう。
『ならばもう一種は?』
『もう一つは、欲望の果てに破滅する人間だ』
『えっ?』
『何かを求める事には善も悪もない、だが人の欲望は計り知れない、一つを叶えれば次へ、それを叶えればまた次へ、欲望には際限がない』
『……』
『だが人間自体には限界がある。尽きない欲望を求め続け身を亡ぼす人間を俺は何人も見てきた』
脳裏に焼き付く過去の光景、それを見返しながら静かにライトに視線を向ける。
『あの女もそうだ、身に釣り合わない程に膨れ上がる欲望、その先に破滅が見えた。だからあの女が抱えきれなくなる前に欲望を喰らってやれば楽にしてやれる。そう思ってた』
『シュオン、貴方……』
『俺はどうしても過去の力を取り戻したい。だからそういう人間の欲望は喰らっててやっても構わない、ずっとそう自分に言い聞かせて来たが……何故だろうな、キラーに負け、そしてあの人間を見てて考える必要のない事ばかり考えてしまう』
過去に自分が深く考えない様にしてきた想い、だがその想いは今では揺らぎ、それにシュオン自身も訳が分からなくなっていた。
『……必要のない事、本気でそう思ってますか?』
『!』
『それを考えるって事は本当は自分の行動を間違ってるんじゃないかって、過去を振り返り、そして……変わろうとしてるんじゃないですか?』
『俺が、だと!?』
動揺するシュオンを他所に、ライトはまるで感心するようにうんうんと頷き。
『それにしても貴方にも色々思う所があったんですねぇ。まぁとにかく、さっきの質問の答え、言っときましょうかね。人間に欲望は必要か否か、その答えはもちろん必要だと答えますよ』
『!!』
『確かに己の身に合わない欲望は破滅を招くかもしれません。けど例え身を亡ぼす結果になったとしても、それはその人も承知の上で求めた結果であれば悔いはないかもしれません。なのにその気持ちも全て無視するやり方は、関心はしませんね』
『…………なら、どうすれば良かったと?』
『貴方のやり方が間違っていた。そう一概に決めつける訳ではないですが……それでもそれだけがやり方じゃない』
『何?』
『誰かに手を差し伸べられて救われる人がいる様に、その誰かに貴方が為るとか、ね』
『お前、本気で!!』
『さぁね。まぁ少なくとも光黄様の様な綺麗な女性ならともかく、野郎相手に関わろうとは絶対思いませんけどね』
『最後の最後で相変わらずか』
『まぁこれが性分ですから、参考にするかはお任せしますよ』
『……俺は』
ライトの言葉に何を想うか、口を開こうとするがそこへ入り口前のドアが開き、続きの言葉を遮断するように絵瑠と光黄が退店し、出て来る。
「ライト、待たせて悪かったな」
『光黄様! いえいえ全然大丈夫ですとも!!』
喜びを表現するように尻尾を振りながら周囲を飛び回るライト、絵瑠もまた「お待たせ!」とシュオンに声を掛ける。
「成程そっちが光黄の持つ七罪竜か。改めてよろしくな!」
『美しきお嬢様、ライトボルディグスとも申します! まずはご挨拶として!!』
花束を差し出すライトに若干言葉を詰まらせながらも「ありがとう」と受け取り、そんな様子に対し光黄は呆れるように頭を手を置きながら溜息。
「ははは、面白そうな七罪竜だな。まだ出てない七罪竜は聞いた話だとあと二体か」
「確か「嫉妬」と「強欲」、ライトは何か知ってるか?」
『すみません光黄様、私その二体については何も』
「シュオンは何か知ってるか?」
『他人……他竜に興味はない。当然知らん』
「そっか。まっ、何れ会うだろうし、今は深く考える必要はないよな!」
シュオンの返答にあっさりとした様子だったが、最後に光黄に視線を向けて。
「ところで光黄、さっきの言葉、烈我には言わないのか?」
「あ、あいつに言う訳ないだろ!!」
顔を真っ赤にしながら否定する光黄、ライト達は何の話なのかと疑問符を頭に浮かべるが、二体を他所に絵瑠は帰ろうとシュオンを近くに付き添わせ。
「それじゃあ光黄! またな」
「あぁ」
言葉を交わすと、絵瑠とシュオンはその場から立ち去って行き、光黄とライトも手を振りながらその後姿を見送る。
「ライト、どうだった彼奴の様子は?」
『シュオンの事ですよね』
二人の様子を見ながら、ライトは静かに笑うと。
『多分光黄様の心配には及びませんよ、正直あんな綺麗な方の傍にいるのは許せませんがね』
「おい」
ジト目で睨む光黄にライトはハッとしたように、咳払いしながらも。
『まぁでも本当にシュオンなら大丈夫です。今後どうなるかまずは見守りましょう』
「……そうか。なら良かった」
ライトの言葉を信頼するように安心を覚え、二人に対しての不安はすっかり消えていた。
『ところで光黄様、先程絵瑠様が仰った事、どういう意味なんでしょうか?』
「!!」
『何を話していたか、この執事に教えていただいても!!』
「絶対教えないし、執事は雇ってない!」
『こ、光黄様! 教えてくださいよ!!』
早歩きで光黄もまたその場を立ち去って行き、ライトは縋る様に聞くが、その質問に光黄が答える事は絶対になかった。
***
「あれか、マチア」
「うん、アタシの情報に間違いはないよ」
舞台は再びスピリッツエデンに戻り、廃墟に囲まれたとある建物に向けて近付くマチアのヴァンの二人。
「まさか組織脱退しようとする奴が、その組織の一施設を拠点に選ぶとはな」
「灯台下暗しって奴。ここは罪狩猟団が管理してる土地の一つではあるけど、元は街だったんだけど、数年前に地殻変動やらが起きて街の大部分は崩壊。街としては機能しなくなり直ぐに別の街を管理下に置いて、ここを管理していた人員は全てそっちに移り、数年間再整備もされていない」
「つまり今は誰もいないって訳か」
「そう。未だに管理上は組織の物だけど、こんな荒れ地に来る奴もいないし、組織もこの土地を持て余してるから実質放棄したも同然」
「成程な。ルディア達の奴も組織を脱退する人間が、その組織の一施設を隠れ家にしてるなんて夢にも思わねぇだろうな」
「そういう事。だから隠れ家の拠点としてはまさにうってつけって訳」
まさに情報屋だけである彼女だからこそ知り得る情報、彼女の情報通り施設に近付いても一切人影はない。
「なぁマチア」
「?」
「今更だが、テメェは俺についてきてよかったのか?」
「何? 今更改まってどうしたのよ」
まるで何かを確認するかのようなヴァンに、不思議そうに首を傾げる。
「今まで組織と取引してたんだろ。それなのに組織と手を切って俺についてくればどういう目に合うかは分かるだろ?」
「あれ、もしかして心配してくれてる? それに組織と手を切れって言ってたのはどこの誰だっけ?」
「そりゃテメェに危険があるって意味での忠告だろうが! 俺についてきたんじゃ結局意味ねぇだろ!!」
揶揄うようなマチアに真面目に聞けと言わんばかりに怒鳴るヴァンだが、あくまで彼女は落ち着いた様子だった。
「大丈夫。アタシ、バトルの腕もそれなりにあるって自負してるからね。そんじょそこらの奴に遅れは取らない」
「……お前の腕は分かってるつもりだが」
「それなら問題ないでしょ、心配してくれるなら精々アタシを稼がせてよね」
「フン、どこまでも強欲な女だぜ」
呆れたように彼女から視線を外し、また歩き出すヴァンだが、一方でマチアは「それに」と小さく小声で。
「(もう絶対アンタ一人に、背負わせないから)」
「ん? 何か言ったか?」
「別に。ずっと歩き通しだったからさっさと一休みしたいってだけ」
聞き返すヴァンに偽りの言葉を投げ返しながら施設へと入る二人、部屋は薄暗く明かりを探そうとマチアは奥へと進むが。
「マチア、待て」
「? どうかした?」
何かを感じ取るようにその場に立ち止まるヴァン、その様子を不思議がるように彼女は振り返るが。
「マチアッ!!」
「えっ────!!」
声を荒げるヴァン、その視線の先はマチアの背後に立つ人影、ヴァンの言葉に彼女も気配を感じ取るが、完全に不意を突かれた為か対処は間に合わず、その影は両腕でまるで締め上げるかのようにマチアを背後から抑え込み、拘束する。
「ぐっ!?」
「捕まえたわよ。情報屋!」
「あ、アンタ……!!」
「ディスト、テメェ……ッ!!」
人影の正体は、帝騎の一人であるディストの姿。この場に居合わせる彼女の姿に二人とも動揺を隠せなかった。
「(どういう事? ハイドカードを手に入れる前から施設の状況は念入りに調べてた。周囲も特に変わった様子だってなかった筈なのに)」
帝騎が前もってここに来る事が組織で計画されていれば、その情報を事前に掴むことは自分にとっては容易な筈、まして周囲の状況だって何かしら変化がある筈。それが無いという事は、明らかに隠密での作戦、そしてそれはまた彼女が偶然ではなく、意図的にここに居るという事だろう。
「(それによりにもよって何で此奴が……ドレイクから聞いた話じゃルディアに呼び出され、それ以来姿は見ていないって事だったけど)」
「ディスト、お前……ルディアに処分されたんじゃなかったのか?」
『へぇー、それってどこからの情報かな?』
「「!!」」
聞き覚えのある声、そして再び施設のドアが開いたかと思うと、そこに立っていたのは罪狩猟団の狩猟、紛れもないルディアの姿だった。
「る、ルディア!!」
「どうも、ヴァン君」
にこやかに笑いかけるルディアの表情、だがその笑顔の裏に込められた威圧、途方もない程込められるプレッシャーを感じながら、戦慄した空気が張り巡らせてれてゆく。
第19話、更新完了しました!
今回はバトルなしの茶番回となってしまいました。
どうかご容赦を( ;∀;)←
次回はついにハイドカード、その力が発揮され!?
そして罪狩猟団、ルディア! ついに初のバトルか!?
どんな実力を持つのか、そしてどんな戦いのなのか、こうご期待です!
次回、第20話。
【禁断解放! ハイドカード降臨】
是非とも次回もよろしくお願いします!