「絵瑠の奴、大丈夫なのか。今は光黄が看てくれてるけど」
「分からないです。バトルで受けた衝撃もかなりのものでしたけど、それ以上に……」
ミコとの一戦を終え、ひとまず烈我の家で絵瑠を休ませ、部屋の前で彼佇む面々。彼女の様子を危惧する烈我と星七、そして星七の言葉に全員の表情が険しくなる。
「エルドラシュオン、俺は正直アイツと絵瑠が一緒に居る事が心配だった。前の一件もあるしな、けど皮肉だぜ。アイツが絵瑠の元からいなくなってより心配になるだなんて思いもしなかった」
そう呟いたミナトの口調はいつもの様な軽い調子ではなく、今はただ彼女の身を案じる様に俯き、どこか暗かった
「それだけシュオンは、絵瑠にとっては大切な相棒だったって事だろ。俺も、シュオンに対してはよく分からなかったけど、彼奴は最後に……絵瑠を守った。それだけは確かだ」
「……認めたくはねぇけど、認めるしか……ねぇよな」
烈我の言葉、ミナトも思う所はあるもののそれを肯定し、暫く重い空気が流れる中、その空気を切り替えるように部屋の扉が開き、絵瑠の看病を終えた光黄が顔を出す。
「!……絵瑠の様子は?」
真っ先に絵瑠の様子を尋ねるミナト、その質問に対して彼女は「心配ない」と安心させるように返事を返す。
「体調面はもう回復してる、けど、まだ精神的にはまだかなり気落ちしてるようだった」
「……それで?」
「まだ安静にしてるべきだし、今はそっとしておいた方が良いだろう」
「……そうか」
『それで、これからどうすんだよ?』
俯くミナト達に対し、バジュラは見兼ねた様に一声。
「バジュラ?」
『烈我、お前は分かってるよな。俺は、俺達はアイツに借りがある』
依然絵瑠とのバトル、バジュラにとってはその時シュオンに敗北した記憶が今でも屈辱の怒りとして残っているのだろうか、腹立だしいように語る。
「バジュラ、お前今はそんな事言ってる場合じゃ」
『言ってる場合だろうがよ! テメェはあいつにこのまま勝ち逃げさせるつもりか? 俺はんなの御免だぞ!』
「落ち着けよ、勝ち逃げも何もシュオンは今」
『知るか。奴が捕まってんならやる事は唯一つ! 俺達の前に引きずり出す! 捕まってんなら無理やりにでも奴等の元からな!!』
「「!」」
バジュラの言葉で全員がハッとさせられるように顔を上げる。何だかんだ言いつつもバジュラもまたシュオンを連れ戻したいという思いは変わらない。
「ハハッ、相変わらず素直じゃねぇな」
『あぁ? 俺を馬鹿にしてんのか?』
「いいや。ただ俺も気持ちはお前と同じだ。シュオンを助けに行こうぜ」
『ハッ、助けるなんて俺の柄じゃねぇ。ただ俺は怒りをぶつけるだけだ! 借りを貸したい奴と、それに手間取らせる罪狩猟団の奴等になァッ!!』
口角を上げて答えるバジュラに烈我だけでなく、光黄やミナト、さらにキラー達も同じように笑みを浮かべる。
「ハハッ、相変わらず単純な奴」
「あぁ。けどそれが烈我らしい。単純な馬鹿だけど、それでも言う事はいつも真っ直ぐだ」
「んだよ、ミナトも光黄も! 少しは褒めてくれてもいいじゃんか!」
「悪ぃ悪ぃ、けど俺はともかく少なくとも光黄ちゃんは褒めてると思うぜ?」
「えっ?」
「お前……ッ!」
ミナトの言葉に対し烈我は首を傾げるが、一方で光黄は余計な事をと、文句言いたげに睨むような一瞥を向けるが、本人は口笛を吹きながらわざとらしく光黄から視線を逸らす。
『どうでもいいがよ、分かってるよな? シュオンの野郎を助けるって事は奴等の所に直接乗り込むって事だぞ?』
話に横槍を入れるように忠告するキラー、その言葉に対しエヴォルも『そうじゃな』と相槌を打つ。
『敵の本拠地に乗り込むという事はそれだけ危険も伴うという事じゃ。今まで戦って来た組織の奴等や帝騎という幹部連中、その全てを相手にする事にもなる』
帝騎の面々はガイトにドレイク、そしてディストやヴァン、それにミコ。一人一人が並大抵の実力者でない事は、彼等と戦ったり、その実力を目にしている烈我達が一番よく分かってる。
『それに、敵のボスであるルディア、奴の実力は相当の物じゃった』
「「……ッ!!」」
実際にルディアと戦った光黄と星七の二人、今でも悔しさが残る様に思わず拳を握りしめる。
「俺はもう、あんな奴に負けるつもりはない! 次こそは勝つ」
「僕も同じです! あんな悔しい思いはもう御免です。エヴォルに頼るだけじゃない、僕自身の腕ももっと磨いて! 今度はあの人に絶対勝つ!!」
『それでこそ光黄様です!』
『あぁ、星七もよく言った。そうじゃな、次こそリベンジじゃ!』
打倒ルディアに燃える二人、そして今の彼等彼女達に臆する気持ちはもう微塵もなかった。
「それはそれとして敵の本拠地に乗り込むのなら、何か宛はあるのか?」
「宛はない、けどヘルさんなら何か知ってると思う!」
「……確かに。あの人なら何か知ってても可笑しくねぇな」
「それじゃあ決まり!」と行く先を定める烈我達だが、その矢先にもう一度ドアが開いたかと思うと、そこ立つ絵瑠の姿。
「絵瑠!? お前大丈夫なのかよ!!?」
「平気だ。それより話は聞いていた。行くのなら私も一緒に行かしてくれ」
「!!」
絵瑠の言葉に動揺するミナトだが、対照的にそう言った彼女の表情はとても真剣で決意したように強い目を向ける。
「だ、駄目だろ。お前はまだ休んでた方が良いし、それに危険すぎる」
「危険なのはミナト達も同じだろ! 私だって」
「もうシュオンはいないんだ。アイツ等にはハイドカードとか言う強力なカードだってある。シュオン無しに立ち向かうのは無謀すぎるだろ!!」
「……ッ!」
正論だった。今この中で七罪竜を持っていない絵瑠が一番戦う場合に置いての危険が高い。ルディアは勿論、恐らく帝騎全員がハイドカードの所持だろう。そんな相手に七罪竜も無しに正面から立ち向かうのはあまりにも危険すぎる。
「……それでも、私は!!」
ミコとの対戦、脳裏を過るフェンリルドガルムの姿を思い返しながらも彼女は歯を喰いしばると。
「私はそれでもシュオンのパートナーなんだ。見捨てるなんて私は絶対嫌だ!!」
「絵瑠、お前!」
「シュオンがいなくても、私は負けるつもりはない!! アイツを取り戻す為なら、危険なんて怖くない!」
「…………」
「それに私、気付いたんだ」
「?」
「私は最初七罪竜とか言う存在を聞いた時は訳が分からなかったけど、お前や光黄達を見て、七罪竜があればもっと強くなれると少なからず思ってた。もっと強くなりたい。だからシュオンと一緒に居ればもっと強くなれると思ってた。でも、そうじゃなかった」
「そうじゃなかったって?」
「うん。あの時シュオンが私を庇ってくれてやっと気付いたんだ。お前達を見てて心を通わせるパートナーの様な存在が羨ましかった、だから私はシュオンと一緒に居る事を選んだんだ」
「けど彼奴は元々」
「分かってる。でもきっかけはどうあれ、彼奴は私を一度選んでくれたんだ。それが嬉しかった。だから私も彼奴ともっと一緒に居たい、強さなんてどうでもいい。ただパートナーとして、友達としてシュオンと一緒に居たいって思ったんだ」
「絵瑠……!」
「だから頼む! 私も一緒に連れて行ってくれ!! ただ黙ってじっとしてるだけなんて絶対嫌だ!! シュオンを、友達を私は助けたいんだ!」
懇願する絵瑠、咄嗟にミナトは振り返って烈我達を見るが、絵瑠の想いを無下にはできないという風に彼等は首を振り、ミナトもそれを了承するしかなかった。
「分かったよ。けど、お前の代わりにバトルは俺がするからな!」
「ミナト、お前私が負けるとでも!」
「そうじゃねぇよ」
絵瑠に対し、ミナトは少し照れ臭いように息を吐き捨てながらも彼女を見つめる。
「ただ男だから、カッコつけたいってだけさ。まぁ、つまんねぇ理由だ」
「お前……」
二人の様子に笑いつつも、これで全員覚悟は決まった。
「それじゃあヘルさんの元へ行こうぜ!」
***
────罪狩猟団、本拠地。
「ボス、これが……手に入れた七罪竜、暴食のエルドラシュオンです」
玉座の間にて揃う帝騎、玉座に腰掛けるルディアを前にヴァン、ガイト、ドレイクはディストはそれぞれ忠誠を見せる様に片膝を突き、ミコは前へと出て今回の成果であるシュオンのカードをルディアへと差し出し、差し出されたそのカードを手に取って、満足げな笑みを浮かべる。
「うん、流石ミコちゃん。よく仕事を果たしてくれた、ディストも付き添いご苦労様」
「ハッ!」
ルディアからの労いに対しディストは嬉しそうに答え、ミコは慎むように礼をしながら一歩その場から引き下がって行き、そんな彼女の様子に。
「(ミコの奴、何時の間に……!)」
「おや、ドレイク君。君の同期が成果を上げたって言うのに、あまりうれしそうじゃないね?」
「!」
見透かした様なルディアからの指摘に、一瞬息を呑むが落ち着きを払い、「何でもありません」と言葉を返す。
「ふーん、そう。まぁいいや、それよりガイト君。君は……失敗しちゃったね」
「!?」
今度はガイトへと視線を向け、向けられた視線と言葉から取れるプレッシャーに思わずガイトは肩を震わせる。
「申し訳、ありません」
「まぁ一度や二度の失敗で怒る程、僕も鬼じゃないよ、けどね」
笑みを止めて冷たい視線を向けての一言、思わずそれにガイトは背筋が凍るような感覚に陥る。
「僕は君のこの世界に招き、帝騎という地位を与えた。何故だか分かるかい?」
「そ、それは……!」
声に動揺を隠せないガイトに対し、その答えを聞く前に言葉を続けて行く。
「君に期待してるからだよ。君は必ず僕の力に成ってくれる、組織にとって、何より僕にとって君の力が必要不可欠だと思ったから君に今の地位を与えた」
最後に、より一層鋭い重圧を込めて彼は言う。
「だから、その期待……裏切らないでおくれよ?」
「!!!」
あまりのプレッシャー、刃物如く鋭いルディアの言葉に、思わず息苦しさを感じ、自分の首を抑えるが、直ぐにルディアはまたいつのような笑顔を向ける。
「まぁそれはそれとして、次はミコちゃんのように成果を上げてくれることを期待してるよ、ガイト君」
「……は、はい。承知して、おります」
「それじゃあお説教はこの辺りで。今の現状について語ろうか」
玉座から立ち上がり腕を翳すと、中央に映し出されるスクリーン画面、画面にはシュオンや他の七罪竜達の姿を映し出されていた。
「今回エルドラシュオンを手に入れた。そして僕等に敵対するあの子たちが所持する他の七罪竜は後4体! それを手に入れられれば僕達の目的はいよいよあと一歩さ」
「残りの七罪竜については?」
「気にしなくていい。今所在の判明してる七罪竜を狩る事、それが組織の第一優先」
再び玉座へと腰掛け、モニターに映る残りの七罪竜の姿を見ながら面白そうに彼はまた笑って見せる。
「さて七罪竜を狩る為のハイドカードだけど、残りを狩る為にシュオンの力を利用できるかもね?」
『(俺を、利用するだと?)』
「!?」
テレパシーの様に直接語り掛ける様な声、ルディアの言葉が聞き捨てならなかったのか手に持つカードは輝き始めたかと思うと、シュオンの姿が実体化し始める。
「!」
『人間が、お前等の欲望の為に俺を、利用できるとでも……!』
「へぇー、まだ動けたんだ」
「馬鹿な! あれだけ痛めつけたというのに!!!」
実際にシュオンを捕えたディスト達にはもう抵抗する力は完全にないと高を括っていた。にも拘らずそれでもまだ抵抗する意思を示すシュオン、彼の行動は完全に予想外だった。
『暫く眠らしてくれたお陰だ、必要最低限の回復はできた、組織の頭の首を狩れるぐらいになッ!!』
「実力行使って訳? やだね、この世界はバトスピが全てだよ? ルールは守って欲しいね」
『元々この世界を生み出したのは俺達七罪竜だ、ルールを作る立場も俺にある。最も、世界を生み出した頃の記憶は俺も覚えちゃいないがなッ!』
そのままルディアに対し、黒爪を振り翳す。
「ルディア様!!」
その身を案じる様に叫ぶディスト、だがシュオンは躊躇なく翳したその腕を振り下ろすが、その瞬間。
「フリー」
『承知、しました』
『!?』
ルディアの端的な、まるで合図を送る様な一言。そしてその合図に了承の言葉を返すもう一つの声。
瞬間、風の様に吹き抜ける冷気、それは振りかざしたシュオンの腕を一瞬で凍らせてしまう。
『なッ!!?』
『どうかそのまま。聞けないのならこのまま全身を凍らせますが、構いませんか?』
『き、貴様、まさか……!!』
振り返った先に映る雪のような白い体に冷気を灯す竜、氷竜とも言うべき存在が目の前に現れていた。
「シュオン、君でいいよね? 君はさっきルールを作る立場も自分にあるって言ったけど、立場や権利なんてものは支配する側にだけ存在する」
『な、に!?』
「その点で言うならもう君に立場はない、君は……嫌、君たち七罪竜はもう支配される立場にある。そして支配する側は、この僕だよ」
『き、貴様あああッ!』
「じゃあフリー、後は宜しく」
『承知しました』
氷竜はそのままシュオンに取り付き、シュオンを見据える。
『すみませんがもう一度眠ってもらいます』
『ッ!!』
その言葉を最後に視界が真っ暗となり、シュオンの意識はそこで途絶えた。
「やれやれ暴食の七罪竜、手に入れても手懐づけるのはまだまだ難しそうだ」
『如何しますか?』
「管理は君に任せる、下手に動き回れない様閉じ込めて、君が見張っておいて」
『承知、しました』
フリーと呼ばれた氷龍はカードとなったシュオンをそのまま運び出し、立ち去るフリーの姿をドレイク達は静かに見守る。
「(初めて見た。あれがボスの持つ……七罪竜の一体!)」
6体目となる七罪竜の姿、その詳細は今の今までルディア以外誰も知る由もなかった。全員絶句したままその場を立ち尽くす程。
「(一体あのドラゴンに、どんな力が? それにボスは言った、他の七罪竜を気にするなと、まさか既に最後の七罪竜も確保してるのか?)」
未だ予想もつかない未知の存在である氷竜、何より底知れぬルディアの力にその場の誰よりもドレイクが脅威に感じていた。
「色々ドタバタしちゃったし、これで解散にしようか」
「!」
「今後については追って指示を出す。それまで各自待機で、よろしくね」
全員静かに頷くとその場を後に立ち去って行き、そしてただ一人ルディアだけはその場に留まっていた。
「シュオンを捕えた今、計画達成がもう見えて来た。さて、貴方は僕を止めるに来るのかな?」
天上を仰ぎ見ながら、小さく最後に一言。
「ねぇ、ヘルさん」
***
「ドレイク!!」
「ミコ!」
ルディアから別れた直後、ドレイクの前に駆け寄るミコの姿。そのままドレイクの前で立ち止まり、物言いたげな様に彼の顔色を覗う。
「ドレイク、妾は」
「……どういうつもりなんだ?」
「!」
「俺は言った筈だぞ、帝騎を辞めろって。なのにお前は……!」
「……妾も、もう覚悟を決めたのじゃ」
「覚悟、だと?」
質問に対しての答えが予想外の様に、思わず聞き返すがそれでも彼女は想いを示す様に強い眼差しをドレイクに向ける。
「妾は帝騎として戦う。そう決めたのじゃ、お主が何と言おうと、妾は帝騎として、お主の隣に立ち続ける!」
「お前……ッ!!」
物言いたげに苛立ったような態度を向けるが、それでも彼女は真っ直ぐドレイクを見つめたまま、その強い眼差しは変わらない。
仮に文句の一つや二つ行った所で彼女の決意は揺るがない、そうドレイクは理解する他なかった。
「クソが、何で俺に付きまとうんだよ」
「……妾がそうしたいと思うだけじゃ。お主にどう思われようと構わない。それでも妾は……!!」
「もういい、勝手にしろッ!!」
うんざりだと言わんばかりに彼女に背を向け、その場を後にしていくドレイクだが、最後に「ミコ」と名前を呼びながらその場で立ち止まる。
「俺は忠告したぜ……だからこの先、お前がどうなろうが俺は知らない。例えお前が、これから先の道で後悔する事になったって、俺は……振り返らねぇからな」
「!!」
「最後の忠告だ。お前に帝騎なんか向いてない……甘ちゃんのままでいればいいんだよ、お前は」
「ドレイク……!」
振り返ることなくその場を立ち去って行き、その後姿が見えなくなるまで見守るが、彼の姿が見えなくなった後で彼女は静かに「ごめん」と言葉を呟く。
「(悪いけど、妾はもう覚悟を決めた、「後戻りしない」って事を! あの時からずっと妾はお前の隣を歩くってずっと誓ったのじゃ)」
ドレイクの忠告、ミコにはその言葉の意図を充分理解していた、だが理解していてなおその言葉を聞き入れる訳には行かない。
「(ずっとお主の傍にいる、お主を守りたい……それが、妾の唯一つの願いなのじゃ)」
ドレイクを後を追う様に、そこからの先の道を踏み出して、彼女は前へと進む。
「畜生、畜生、畜生……ッ!!」
無人に部屋に一人、感情を荒ぶらせるように拳を壁に叩きつける。
「……ここまで来たって言うのに、なんで俺は……こんな思いしなきゃいけねぇんだよ!」
ルディアからのプレッシャー、その言葉のプレッシャーは想像以上にガイトにとっては重く圧し掛かっていた。
「あの人にまで見捨てられたらもう俺に居場所はねぇ。この世界が俺にとっての楽園なんだ、唯一の居場所、絶対に捨てられねぇ!!」
ルディアからのプレッシャー、そして唯一の居場所を失うかもしれないという恐怖に思わず震えが止まらなかった。だが思考を巡らせる中。
”またお前と昔みたいに良いバトルがしたい”
ミナトに言われた言葉が脳裏を過ったかと思うと、自然と震えは止まっていた。
「(ッ! 何でこんな時に彼奴の顔が……!!)」
一瞬過る記憶に頭を痛める様に抑えるが、少しだけ落ち着いたように脱力し、壁に凭れかかる。
「……何で彼奴は、まだ俺を受け入れようとしてんだよ。とっとと見捨ててくれれば俺も綺麗さっぱり後腐れねぇッてのによぉ」
ミナトの他にも知り合いや友達と呼べる相手はいた。俺の他に凄い才能を持つ奴等ばっかでそれに比べて、俺の取柄はホントにバトスピしかなかった。
けれど、その取柄さえも俺が他の奴より劣ると判断されれば直ぐに俺は見限られ、気付けばすぐに周りに誰もいなくなる。孤独に耐えきれずに環境を変えても、結局はいつもそれの繰り返し。ミナトとはそれを繰り返す内に知り合った一人だった。
「(ミナトの奴は俺より断然、強い。もし、彼奴に超えられたら、また俺は……!)」
ミナトも他の奴と同じ様に俺の前からいなくなる、そんな気がしてならなかった。そんな事を考える度、辛くて苦しくて、とても耐えきれなかった。
「どいつもこいつもあっさり切り捨てる。ミナトも所詮あいつらと同じ……! だから見限られる前に俺の方から切った! そうして全てを捨てて俺は俺を選んでくれたあの人の元に来たんだ!! なのに……! なのにぃ……ッ!!」
最後にもう一度拳を壁に叩きつけ、そして大きく溜息を吐き捨てる。
「なのにどうして今更こんなに悩まなきゃいけねぇんだ。全部自分で臨んだはずなのに、馬鹿みてぇだろうが……俺」
力なく腕を下ろし、静かに一人その場を後に立ち去って行くガイト。
***
「成程、シュオンが……奴等の手に」
舞台は変わり、烈我達は全員ヘルの元へと向かい、彼等の話からヘルも直ぐに状況を理解した。
「私、シュオンを助けたいんです」
「あぁ、ヘルさんなら何か知ってると思って、もし何か知ってるなら教えてください!」
「私からもお願いします」
「……」
二人の言葉に対し、ヘルは少し思いつめた様に表情を詰まらせるが、その様子に「ヘルさん?」と訝しげに思い、声を掛けるが。
「……ごめん、少し考え事をして」
「いえ、別に」
「……烈我君、率直に言うよ。確かに君たちの言う通り、僕は罪狩猟団の組織の場所、その情報を掴んでいる」
「「!!」」
ヘルからの言葉、全員の表情が変わるがヘルはそれを窘める様に「その前に」と言葉を付け足す。
「情報は断片的で確証はない。それに万が一情報が正確だとしても、乗り込むのは敵の本拠地だ。つまり、何が言いたいかは分かるね?」
「危険だって、事ですよね」
烈我の言葉に、ヘルはゆっくりと首を縦に振る。だが危険は承知の上、今更それを言われた所で退く気はない。
「もうここに来る前から危険は覚悟してます。それでも俺達は行くつもりです!」
「そうか」
その一言だけで、どれだけ覚悟してるのか、それを察するには充分だった。今更余計な気遣いは不要、それはもうヘルも十分理解したが。
「じゃあ最後に一つだけ、まだ君達に話していない事を話そうか」
「えっ?」
「敵のルディアについて、彼に知ってる事を全て話そう」
「な、何でヘルさんが彼奴の事を!?」
当然の疑問、だが思い当たる節はあった。前々からヘルはルディアの事を知っており、そしてルディアが以前星七の前に現れた時、その時も彼はヘルの事を知っているような態度を見せていた。以前からそれが引っ掛かっており、ヘルの言葉とあの時のルディアの態度に合点が行く。
「じゃあやっぱり、ヘルさんとルディアって人は以前から知り合いだったんですか?」
「あぁ、その様子だと前から知ってたみたいだがその通りだよ。ルディアと私は、かつて共同でこの世界の研究をしていた」
「!?」
星七の問いへの答えに衝撃が走る。彼らの反応を見つつ、ヘルは間を置きながら丁寧に説明するように続ける。
「十年前、まだ私がバジュラと出会う前の頃だ。その時、偶然ルディアと出会った」
数年前の過去、当時の記憶を頼りにその時の情景はヘルの頭の中に鮮明に浮かび上がる。
「初めて会った時、彼は酷く衰弱していた。荒野の真ん中で倒れて……私が通りかからなかったら、恐らく彼はそのまま死んでいた」
「!」
「当時の彼はまだ10代の少年だった。そんな年端もいかない彼が倒れてるのにただ事ではないと思った。話を聞けば、親にも捨てられ、頼りにすべき親しい人物からは無理矢理盗みなんかに協力させられ、使えなくなってそのまま見捨てられたそうだ」
ルディアの過去、あまりにも悲痛なその言葉に全員言葉を失ってしまう。
「私自身、ルディアと出会った当初は中々心を開いてくれなかった、数週間程経ってようやくその事情を聞けたんだ」
「…………」
「それから私はルディアを介抱し、体調の回復後は本人の希望もあって、私の助手として研究に協力してもらっていた。私も人手が欲しかったしね、数年過ごす内にルディアも次第に心を開いてくれたし、私達は上手くやっていけてると思ってたよ」
少しだけ表情が明るくなるように顔を上げるが、それでもすぐにまた溜息を零す。
「それから数年後、私とルディアは七罪竜についての情報を掴んだ」
「七罪竜の!?」
「あぁ、昔の文献書のようなものでね、内容は七体の龍を集めた物にどんな願いでも叶える、そういった文献だった」
「正直まだその時は半信半疑だったけどね」、と当時の記憶を振り返りながら付け足す。その時まだヘルとバジュラは接触しておらず、文献のみで証拠となるものが何もないのだから仕方がない。
「けどね、ルディアは違ったよ。思えばその頃かな、ルディアの様子がおかしくなった」
「どういう?」
「……私に無断で独自の調査を行うことが多くてね、その全てが七罪竜についてだった。ルディアが勝手に調査を続けても、大した事はないと思い軽く注意する程度に留めて、後は目を瞑っていた。実際の所、ルディアが何をしていたかまでは掴んでいないけどね」
「……」
「それが間違いだった、それを思い知らされたのそこから数日後だった」
────数年前。
「ヘルさん」
「ん? ルディアか。どうしたんだ?」
「単刀直入に言うね、実は僕、そろそろ貴方と別れるべきだなと思ってさ」
「……オイオイ、随分急だな。何か理由でも?」
ルディアの言葉に戸惑いつつも、落ち着いてその理由について尋ねるヘルだが。
「七罪竜」
「!」
その一言に、ヘルの言葉をがピタリと止まる。
「……もっと情報が欲しいんだ、これから先はもっと派手に動くことになると思う。けどそうなったら多分ヘルさんに迷惑をかけることになると思う」
「派手に動くって何をする気だ、それに七罪竜何て根も派もない情報と文献だけ。何でそこまで求める?」
「七体の龍集まりし時願いが叶う、それが気になって仕方ないんだよね」
「へぇー、願いねぇ。そこまで執着するって事は余程叶えたい願いがあるって事かい? そんな事、今までも一言もおじさんに言ってなかったじゃんか」
笑って答えながらも、この時何か胸騒ぎがした。目の前のルディアに対して、何故かとても悪寒がしてならなかった。
「……じゃあさ、今から言う僕の願い、真面目に聞いてもらえる?」
「あぁ。言って見ろ」
「……世界を全て、壊したい」
「は?」
それがルディアからの回答だった、何の悪意もない無邪気な子供の様に発せられた言葉とその内容に一瞬ヘルは思考が追い付かないように固まるが。
「じょ、冗談……だよな?」
恐る恐るルディアに尋ねる。だが、彼を前にそれが冗談でない事は本当はヘルが一番理解していた。そしてその確信通り、ヘルの質問にルディアは首を横に振る。
「だから真面目に聞いてって言ったじゃん、僕は本気だよ。本気でこの世界を壊したいと思ってる」
「どうして! そんな事を……!!」
「……どうして、だろうね」
「?」
足元に視線を落とし、考え込む様に間を置いてゆっくりと彼は口を開く。
「ねぇヘルさん、貴方にはホント感謝してるよ」
「?」
「この数年、貴方には本当に良くしてもらった。家族かどうかまでは分からないけど、それでもそう思えるぐらい貴方には優しくしてもらったし、情も尽くしてもらった。勿論そのことは今でも感謝しきれないと思ってる」
「そう思ってるなら何で?」
「……自分でも分からない。たださ、消えないんだよ」
「!?」
「どうしてもさ。自分の胸の内にあるどす黒い何かがさ!」
胸を掴み、胸の内に抱えた何かを吐き出す様に彼はつづけた。
「この数年、貴方と過ごして笑ったり楽しかったと思う気持ちは確かにあるよ。けどそれ以外で過ごした日々の記憶、その時からずっと抱えてたこの黒い感情はどうしても消えなかった! 何で僕があんな目に合わなきゃいけなかったのか、僕の中で何かがずっと「許せない」と叫んでる。怒り、悲しみ、妬み、恨み、それを忘れるなと内側でずっと僕に問いかけてくる」
「ルディア、お前……ッ!!」
「どんなに楽しい事をしても、どんなに笑っても、どんなに情を貰っても、辛かった頃の記憶が、ずっと頭の片隅にこびり付いて離れない。僕を捨てた肉親も、僕を見捨てた奴等を、復讐しろって声がずっと頭に響いて嫌気が差してくる」
「落ち着いてくれ。俺は確かにお前に何があったのかは知らない、けど……もうお前にとっては過ぎた過去だろ。先の未来がある、これから先のお前に未来に俺はできる力を貸してやれる。それじゃあ駄目なのか? ルディア」
「……分かってるよ。貴方とこのまま過ごす未来は悪くないとそう思ってる」
「なら!」
「嫌、分かってるつもりなんだ。頭で理解してはいても、それでもまだ自分じゃどうしようもない。だってこれから先の未来を歩むって事は、僕の過去を全て忘れるって事だ。怒りも憎しみも悲しみも全部忘れて生きるって事でしょ?」
「!!」
「忘れるなんてできない、この感情を、こんなものを抱えたままこれから先を生きて行ける気がしないんだ、前に進む為に、僕は世界を何もかも壊す!! 世界を壊して作り変えた時、僕はようやくこれから先を生きて行ける!」
「ルディア……!!」
自分の感情をすべて吐き出し終えた様に、またいつものような笑顔を向けるが、再び向けたその笑顔にヘルはぞっとさせられた。
「ふふっ、勿論あなたは僕の考えに賛同できないでしょ。だからここでお別れしましょうよ」
「ま、待てルディア! 本気でそんな事を!!」
「本気ですよ、そして僕は待つつもりはない」
「!!」
後を追い駆けようとした瞬間、まるでルディアとヘルを遮る様に氷の壁が立てられ、その行く手を阻んでしまう。
「氷!? これは一体!!」
「それじゃあヘルさん、お世話になりました」
「ルディア! ルディア!!」
「今度会う時は恐らく敵になるでしょうけど、僕は攻め手貴方と再会しないことを祈ってます。流石に僕も恩人と敵対するのは悲しいですから」
氷の壁の隙間から最後に言葉を残し、ルディアはヘルの前から姿を消した。
「そんな、事が」
「客観的に見てルディアは何かに取り付かれた様だった。そしてその後で、奴が罪狩猟団という組織を作り出した。その構成員の多くは研究の過程で関わったコネクションを利用してだろう」
「……」
「そしてルディアはシュオンを手に入れて本格的に動き出す。全ては、世界を滅ぼすというそんな願いの為に」
「ふざけんな……!」
「烈我?」
ヘルの言葉に対し、拳を握りしめながら小さく呟いたかと思うと、顔を上げて次に子大きく息を吸い込み。
「ふざけんじゃねぇッ!! 何が世界を壊すだ!! そんな下らない願いの為にバジュラ達を、バトスピを利用するなんてムカついて仕方ねぇッ!!」
「烈我」
『ハハハ!! よく言ったぜ烈我! 最高に滾る怒り!! やっぱ俺の相棒はそうでなきゃなッ!』
バジュラもまた烈我の様子に対し、大きく口角を上げて笑い、そんな二人の様子にヘルは心配は杞憂だと理解すると、静かに口元を緩ませる。
「君達なら、きっとルディアを止められる。そう今確信したよ」
「でも、世界を滅ぼすなんて本気で出来るんですか?」
「それは分からない。けど、七罪竜の力は未だに未知数、それに所在の掴めないあと2体。可能だとするなら、最悪のケースも視野に入れておかなければならない」
「!」
光黄の問いに対して冷静に答えるヘル、これまで何度も調査を続け、そしてヘル以上に七罪竜の事を調べ上げて計画した上での行動なのだとしたら不可能とは言い切れない。
「心配すんなよ、光黄! そんな計画俺とバジュラで止める!! それに光黄を酷い目に合わせた分もきっちり償わせてやる!」
「勝手に話を進めるな、それに誰がそんな真似をしろと言った?」
「!」
「お前の出番はない、自分の借りは自分で返す。それだけだ」
「はは、光黄ならそう言うと思ったよ」
「そんじゃあ改めて全員の腹は決まったみたいだな」
「私は元より覚悟してる! 誰が相手でも構わない!」
「僕も同じです! 必ず勝ちます!」
『ふふっ、星七も随分頼もしくなったのぉ。儂も鼻が高い!』
『ハッ、別に誰と戦うことになろうが関係ねぇ! 結局一番強ぇのは俺様だからな!』
『いえいえ、能ある鷹、いえ、龍は爪を隠す! 光黄様の執事として、このライトが全て華麗に解決して見せますよ!』
星七やミナト、絵瑠、そしてキラーやライト、エヴォル達も気合十分。
「……さて、今度はこっちから! 攻め込んでやるだけだ!」
『おぉよ、存分にウサ晴らしできる相手が欲しいからなッ!!」
「本当に君達は頼もしいよ! それじゃルディアの元へ向かおうか! おじさんにも責任があるからね、君達に同行するよ!」
「はい、お願いします! ヘルさん!!」
「あぁ、それじゃ、敵の本拠地に向かう。覚悟はいいね!」
転送装置の一種だろう、機械を取り出しそのスイッチに手を掛ける。
「それじゃあ、行くよ!」
合図の言葉と共にスイッチを押して、彼らは足元に開く空間の穴に飛び込み、その目的地である罪狩猟団へと向かうのだった。
***
「さぁて、いよいよだね」
罪狩猟団本拠地、その玉座にて何かの気配を感じるように口元を緩ませるルディア、そしてその手にはハイドカードの一枚であるアブソドリューガと、もう一枚の別のカードが握られていた。
「七罪竜VSハイドカード! まさに戦争の開幕だねぇ」
これから起こる未来を予期するかのように、彼は玉座で静かに笑みを浮かべた。
如何でしたでしょうか!!第24話! 今回はヘルとルディアの過去に迫りました!
そしてルディアの過去と願い遂に判明!
何だか邪神王みたいなこと言ってます汗
果たして彼を止めることはできるのか! そして6体目の七罪竜の影!
ルディアはフリーと呼んでいますが、その正式な名と能力は今後明かして行くので今しばらくお待ちを!!フリーはゼロワンの亡さんのような感じをイメージしてますが、クールに書くのがなかなか難しい所。
彼?彼女?の活躍も今後に情報を御待ちを!
そしてついに敵の本拠地に乗り込む烈我達!果たしてこれからどうなるのか!
是から一気に怒涛の展開を……と言いたいところですが!!!!
その前に重大発表が一つ!
何と、この度、「バトルスピリッツ 7-Guilt」と
LoBrisさんの書く「バトルスピリッツ Over the Rainbow」とのコラボが決定しました!!!!
ので、現在のそちらの執筆に取り掛かり中であります!
来週までにプロローグと第1話の更新を予定しておりますので、どうぞご期待いただければ!!!
そして現在開催中の企画、第1回人気投票!
締め切りまであと3日!!
既にここまでで10名以上の方に参加をいただいており、読者様には感謝してもしきれません!! 是非残り3日ですが、まだまだ票を受け付けておりますので参加してほしいです!
今後とも宜しくお願いします!