バトルスピリッツ 7 -Guilt-   作:ブラスト

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第36話【強欲の神龍】

燃え滾る大地に満ちる海水、しかしその海は浅瀬の底さえも見えず、闇と言える程に黒き海。海の中で荒々しく咆哮を上げるキラー。

 

 

咆哮は普段の傲慢なキラーから発せられる王者としての咆哮ではなく、ただ力の限りに吼え、例えるならば理性なく飢えた獣の如し。

 

「キラー! 何でお前が……!! ミナトは、ミナトは如何したんだよ!!!」

『ガアアアアアアアァァァァァァッ!!!』

「キラー!?」

 

烈我の問いに対して応えようとはせず、その言葉を掻き消す様に荒々しく咆哮を轟かせるキラー。

 

「無駄だ、今のキラーに自我はない」

「!?」

「キラーの魂は既に回収してる。ここにあるのは抜け殻、ただの獣畜生だ」

「何言って、キラーに何をしたんだよ? それにミナトは……!」

「さぁ、どうだろうね?」

「お前……もしかして星七と絵瑠も!? 答えろヘル!!」

「凄まなくても答えてやるさ。バトルの後でな」

「ッ!!!」

 

激昂する烈我に対し一貫して態度を崩す事のないヘル。言葉の裏を返せばどうあっても今答えるつもりはないのだろう。そんなヘルの態度に自然と拳に力が入る。

 

「アンタだけは……絶対に許さねぇ!! アンタをぶん殴るまでは、俺は絶対倒れねぇッ!!」

「なら精々それを有言実行してくれよ! 少なからず俺はお前に期待してるんだからな」

「何が期待だ! ふざけんじゃねぇぞ!!」

「本心だよ。俺は強い奴を望む。少しだけ話すなら、それが今回の計画の発端だからな」

「?」

「まぁ今理解してもらわなくてもいい。それよりバトルを続けようか、キラー! 潜水(ダイビング)の効果発揮」

 

ヘルの指示に対して、キラーは眼光を輝かせると一度海面から大きく飛び出し、そのまま海面へ急降下、大きく水飛沫を跳ね上げながら、黒い海の底へと自身の影を隠す。

 

「ッ!! 厄介な効果だな」

「実際にキラーを敵にするのは初めてだろ? 対策は出来てるか?」

「うるせぇ、キラーの相棒はミナトだけだ。好き勝手に語るんじゃねぇ!!」

「やれやれ。俺がキラーを使う事に余程不服な様だ。これでも正当な持ち主だってのに」

「あァ!? 何言って……キラーが選んだのはミナトの筈だろ!」

「おっとこれは失言だったな。とりあえず続けようか、アタックステップ開始時にワイズドラゴンの効果! トラッシュのコア5個をこのスピリットに置く」

 

意味深な台詞だが、演技臭いように口元を隠す仕草を見せながらもターンシークエンスを進め、ステップ開始宣言にワイズドラゴンは手に持つ杖を天に翳すと、力を潤す様にコアが置かれ、自動的にワイズドラゴンのレベルも上がって行く。

姿が見えぬキラーだけでなく、ワイズドラゴンやアレックスも同様に相対する烈我にとっては曲者。

 

「さて、俺はこれでターンエンド」

 

 

 

 

────第6ターン、烈我side。

 

[Reserve]6個。

[Hand]3枚。

[Field]魔界幻龍ジークフリードネクロLv.1(1)、BP龍星の射手リュキオースLv.1(1)BP6000、煌星の第五使徒テティスLv.1(1)BP3000、レイニードルLv.1(1)BP1000

 

「(……彼奴、さっきから何が言いたいんだ?)」

 

時折口にするヘルの言葉、それが頭の中に引っ掛かる。

 

「(さっきの言葉……バジュラに対しても同じ事を言ってた)」

 

今回の目的についてバジュラは了承済だと。勿論バジュラは知る様子はなく嘘はつく筈もないだろう。しかしだからと言ってヘルの言葉全てが嘘と断定するのはどうしても烈我にはできなかった。

 

「(キラーもバジュラも……元々過去の記憶はないって言ってた。自分が生まれた頃の記憶なんて覚えてる筈がないって……けど、もしかしてヘルはバジュラ達が覚えてない事も全部知ってるのか?)」

 

『(オイ、烈我! グダグダ悩んでんじゃねぇ!!)』

「!」

 

深く考え込み手が止まる烈我を叱咤するバジュラの声。

 

「バジュラ……!」

『(ヘルの野郎が何を言おうがキラーも俺も、他の奴も全員自分のパートナーに選んだのはただ一人だけだ。断じてあの野郎じゃねぇ)』

「……」

『(始めに言ったが俺は彼奴をぶっ飛ばさなきゃ気が済まん。だから勝つんだ、俺……嫌、俺達でな)』

「!!」

『(テメェはどうだ? 烈我、まだウダウダ考える気か?)』

 

頭に響くバジュラの声、その言葉はバジュラなりの激励なのだろう。その意図を汲み取ると、不思議と先程迄の迷いが吹っ切れたように正面を見据える。

 

「サンキュー! バジュラ!! お前の言う通り、余計な事は考える必要はねぇな。お前を信じて、お前と一緒に勝つ! それだけだ!!」

『(あぁ、そうだ! つー訳で後はとっとと俺を引きやがれ!!)』

 

軽く笑いを含むような声で言い放ち、それに対し烈我も口元を緩ませて静かに頷き、バトルに集中するように意識を切り替え、手札を構えて行く。

 

 

「俺のターン! マジック、ソウルドロー! 効果でソウルコアをコストにしてデッキから3枚ドロー!!」

 

一気に手札を補充するように3枚ものカードをドロー、そしてすぐさま引いたカードを確認するとその内はバジュラブレイズのカード。

 

「(来たッ!! けど……!)」

 

待ちに待ったバジュラのカード、引いたからにはすぐさまバジュラを呼び出したい所ではあるが。

 

「どうする? 一気に来るか?」

「(……あの余裕、まだ相手がどんな手を持ってるか分からない以上、今は様子見だ。バジュラの出番はもう少し後だ)」

 

カードを通してバジュラにも今のフィールドの状況が見えており出番が先送りされた事に軽く舌を打つが、それでも烈我の判断に納得しており、文句は言わず烈我同様様子見に徹するバジュラ。

 

「リュキオースをLv.3、ジークフリードネクロをLv.2にそれぞれアップ!」

「来い!」

「アタックステップ! リュキオースでアタック!」

 

腕を構え挑発するヘルに対し、真っ向から攻撃を仕掛けるリュキオース。矢を構え、跨る獣はヘルに向かって一直線にフィールドを駆けて行く。

 

「リュキオースのアタック時効果! このスピリットが持つ【龍射撃】発揮! 効果でBP20000以下の相手スピリットを破壊! ワイズドラゴンだ!!」

 

蒼炎を矢に灯すと、狙いを定めワイズドラゴン目掛け矢を射抜き、直線状に放たれた矢はワイズドラゴンを貫き、悲鳴を上げながら爆散する。

 

「ならフラッシュ。キラー、浮上だ」

 

ワイズドラゴンを討たれた直後、海底のキラーに指示を送るとリュキオースの目の前から飛び出す様にキラーは浮上するが。

 

「ジークフリードネクロの効果!」

「!」

 

ジークフリードネクロが咆哮を上げ、杖を構えると浮上したキラーを捕えるように紫電の輪が拘束。キラーの動きを封じ込める。

 

「スピリットをブロックするなら、相手はスピリット一体を破壊しなきゃブロックは出来ねぇぜ!」

 

今ヘルの場に残るはキラーの他にアレックスが一体のみ。破壊すればブロックは可能だが、アレックスの持つ効果を鑑みればここで失うのは惜しい。

 

「その効果もネクロが場に居て成立する効果だろ? だったら排除するだけ。フラッシュタイミング! マジック、ドリームハンド!!」

「何!?」

「ジークフリードネクロをデッキの下へ!」

 

白きベールが巨大な腕の様にネクロを掴むと、そのままネクロを掴んだままネクロごと場から消失していき完全にフィールドからその姿を消し去るとネクロのカードはデッキボトムへと送られ、ネクロがいなくなった事でキラーは解放されるように紫電の輪を振り払う。

 

「ッ!!」

「これで通常通りブロック可能。キラーバイザークでブロック!」

 

現在のキラーはLv.2、そのBPは12000とリュキオースを上回る。遠慮なく得物を噛み裂こうとその牙を剥き出しにして襲い掛かって行く。

 

「まだだ! フラッシュタイミング!! スターブレイドラのアクセルを発揮!」

「!」

「リュキオースをBP+3000!! これでBP13000だ!!!」

 

間一髪、弓を捨て両手でキラーを受け止め、体を多少引き摺らせながらもそのまま身体を掴み勢いよく振り回して投げ飛ばし、投げ飛ばされたキラーは海面へと叩きつけられ、リュキオースは即座に矢を拾い、数秒程の間もなく矢を構えキラーへと狙いを定める。

 

「リュキオース! 今だぜ!!」

 

烈我の指示と同時にキラーに向けて今その矢を撃ち放つ、だがまだキラーもそう簡単に倒れるつもりはない様に目を見開き。

 

「甘いんだよ、キラー! 潜水(ダイビング)をもう一度使用させる」

「!」

 

仰向けに倒れながらもまだ動く自身の尾を勢いよく海面に叩きつけ、水を壁の如く叩き上げる。炎の矢を難なく水の壁を突き破るが僅かにその速度を落とし、僅かの隙間を見逃す筈がなく矢がキラーを捕えるその直前、再びキラーは海の底へと潜り込み、矢が身を掠める寸前で回避。

 

「残念。惜しかったがそこまでだ」

「ッ! キラーの効果、こんな形で利用してくんのかよ」

「使える効果は最大限に利用する。基本だろ?」

「(……キラーの効果、仮にバジュラで突っ込んだとしてもさっきみたいに逃げられたら通用しなくなる。どうすれば)」

「さぁどうする? ターンエンドか?」

「舐めんなよ。キラーのLv.2、Lv.3の効果はバトル終了時で発揮される効果。バトルの途中で離脱すれば回復しない! テティスでアタックだ!」

 

懸命にその場を駆け出すテティス、アタック時効果によりデッキからカードを引いて手札に加えて行く。

 

「ライフで受ける」

 

鉄拳をバリアに叩きつけ、ヘルのライフは砕かれるが衝撃にまるで動じる事は無い。

 

「……これで俺の残りライフは2つ、取りに来るか?」

「ッ!!」

 

今烈我の場に残るアタッカーはレイニードルのみ。攻める気は充分な様に鳴き声を上げるが、レイニードルだけでは二つのライフを削り切る事は出来ない。

 

「……ターンエンドだ」

 

 

 

 

────第7ターン、ヘルside。

 

[Reserve]11個。

[Hand]3枚。

[Field](潜水状態)海牙龍王キラーバイザークLv.2(3)BP12000、選ばれし探索者アレックスLv.2(2)BP6000。

 

「キラー、一度浮上だ」

 

手を振ると同時に海面から飛び出すキラー、今フィールドに呼び戻すという事は場の状況を整えるつもりなのだろう。

 

「キラーにコアを追加しLv.3にアップ、そしてアレックスの効果。疲労させる事でドローを選択だ」

 

新たに手札に加わる一枚、そのカードにヘルは口角を少しだけ上げて。

 

「さてそれじゃあ次、行こうか! 怠惰の龍よ、堅牢なる山の如きその身で全てを跳ね除けろ! 召喚! 超樹進龍エヴォルグランドLv.3!!」

「エヴォル!?」

 

フィールドに呼び出したるは2体目の七罪龍、怠惰を司りしエヴォル。大地を砕きながら隆起するように出現する巨大な山、否、山の如く巨大な姿を誇る龍の姿──エヴォルグランドの降臨である。

 

"グオオオオオオオォォォォォォ────ッ!!"

 

だがキラー同様、その目に覇気はなくただただ咆哮を轟かせるエヴォル。

 

「エヴォルまで……!」

 

紛れもないエヴォルの姿、しかし今目の前にいるのは、星七に向けていた温厚で優しげな表情はそこにない。黒い眼光を輝かせながら睨むその姿はもはや命令を遂行するだけの獣。

 

「不足コスト確保の為、アレックスはLv.1。さて言うまでもないと思うがエヴォルも俺の手中だ。手加減してくれると思うなよ?」

「……ヘル、お前……星七まで!!」

「まあそういうこった。一言言っておくなら相手にならなかったとだけ言っておくか」

「テメェ……ッ!!」

 

仲間である星七に対して侮辱とも取れる言葉、烈我にとっては自分が馬鹿にされるよりも腹正しい事この上ない。だが。

 

「あぁ、そうだ。もっと怒れ! もっと俺を憎んでみろ!! その憤怒を糧に、限界を超えた力を俺に見せてみろ!」

「いい加減にしろ! 俺達はアンタの都合のいい駒じゃねえ!! 星七も俺も、お前なんかに見下されたくなんかねえんだッ!!!」

 

必死に声を荒らげてヘルを睨む烈我、その目に強い憤怒を宿し、気付けば体の疲労など全く感じさせない程に怒りが体を突き動かされていた。

 

彼の、思惑通りに。

 

 

 

 

「それでこそだ。だからこそ俺も何一つ躊躇わなくていい! アタックステップ、キラーでアタックッ!」

 

背鰭だけを残して海面に潜ると猛スピードで一気に海面を突っ切り、迫り来るキラー。

 

「レイニードルでブロック!」

 

近付いて来るキラーにレイニードルは鳴き声を上げて構えると、口を開き、海面から見える背鰭に竜巻を吐きつけ、海面に攻撃が直撃し水飛沫が噴き上がる。

 

だが、飛沫が収まるとキラーの姿はそこにはなく、レイニードル自身も手応えを感じ取れていないのか探るように周囲の海を見渡すが、その瞬間、レイニードルの背後から海面が膨れ上がり始め。

 

『ガアアアアアッ!!!』

 

膨れ上がった海面を突き破り飛び出すキラー、完全に不意を突かれたレイニードルに避ける術は皆無。その牙に噛み裂かれ、レイニードルは爆発四散。

 

「キラーバイザークのバトル終了時、キラー自身を回復させ潜水(ダイビング)の効果を発揮できる!」

 

爆炎の中を飛び出し、再び海深く潜るキラー。

 

「次だ、エヴォルグランドでアタック!」

 

今度はエヴォルが吠え始めると、巨大な体を動かし、ブロッカーのいないガラ空きのフィールドを我が物顔で進撃するエヴォル。

 

「ライフで受ける!」

 

宣言と同時に展開されるバリア、そしてバリアの前にエヴォルが接近すると重量級の前脚を持ち上げ始め、そのまま圧し潰す様に上げた前足をバリアへ踏み下ろし、巨大なエヴォルの重量と衝撃が一気に烈我へと襲い掛かる。

 

「があああッ!!!」

 

衝撃を受けた直後にライフは砕け、体を走る衝撃と痛みに思わず顔を歪める。

 

「ターンエンド。どうした、お前の怒りはこの程度か?」

「(ッ!! 見てろ、こっから逆転してやる!!)」

 

エヴォル達を助ける為にも絶対に負ける訳には行かない。闘志と気力で体を動かしバトルを続けて行く。

 

 

 

 

────第8ターン、烈我side。

 

[Reserve]7個。

[Hand]6枚。

[Field]龍星の射手リュキオースLv.3(4)BP10000、煌星の第五使徒テティスLv.1(1)BP3000。

 

「頼むぜ! バジュラ!!」

『あぁ、とっとと呼び出せ。俺はもう待ちきれねぇぐらい滾ってんだ!』

 

バジュラの声に静かに頷くと、バジュラのカードを構えそして叫ぶ。

 

「罪を背負いし怒りの竜! 憤怒の炎、烈火で地獄さえも焼き尽くせ! 爆我炎龍バジュラブレイズ、召喚ッ!!」

 

天より降り注ぐ無数の流星群、空を真っ赤に染め上げながら大地を穿ち、ステージの如く周囲を削り土台を作り上げると、作り上げたステージに振り落ちる巨大な炎、そしてその炎を突き破り飛び出す龍の影、バジュラブレイズ。

 

『…………』

「バジュラ?」

 

現れて早々黙り込む様に沈黙するバジュラ、視線の先にはエヴォル、そして海の底に姿を隠すキラーを見据え、大きく息を吸い込むと。

 

『……エヴォル、キラー! テメェ等、揃いも揃って何やってんだコラァッ!!』

「!」

 

エヴォル達に対しての激昂、その声は今までにない程に荒々しく憤怒の感情が込められており。

 

『オイ、じじい。嫌、エヴォル。テメェいつまで寝てるつもりだ? 幾ら怠惰だからって、俺はお前が芯のある奴だと思ってた。テメェ自身が選んだ相棒と、最後まで向き合える。そんな奴だと!! テメェの相棒を蔑ろにしていつまで呆けてるつもりだ、あァ!?』

『グルルルッ!』

 

エヴォルに対して力の限りに叫ぶバジュラ。だが、そのバジュラの叫びさえも届いていないのか答えようとはせずに唸り声を上げるエヴォル。そんなエヴォルに対して軽く舌打ちながらも。

 

『キラー、お前も聞こえてんだろ? 聞いてんだろ? いつもの大口はどうした? 海の底からでもいい、何時もみたいに『俺様が一番だ』って言ってみろよ。誰よりも傲慢なお前が、何で……パートナーでもねぇ他の誰かに使われたんだよ!! キラーーァッ!!』

「無駄だ、バジュラ。今のエヴォルやキラーに自我なんて──」

『黙ってろ、ヘル。テメェには聞いちゃいねぇ』

「!」

 

 

水を差すようなヘルに対し、殺気と感じる程に鋭い眼光を向け黙らせるとキラー達に視線を戻す。

 

『キラー、エヴォル。テメェらは俺と同じ七罪竜だろうが。何度も俺と張り合っただろうが! そのテメェらがヘルの野郎にいいように使われてんじゃねえ。 テメェらの根性はその程度だったのかよォッ!』

 

息を切らす程に荒々しく叫ぶバジュラ、だがそれでもエヴォルやキラーもまたバジュラの声に答える事は決してない。

 

『ッ! テメェ等……ッ!!」

「……バジュラ、もういい」

『!』

「必ず勝つ、勝ってエヴォル達も助ける、そうだろ?」

 

口には出さずともバジュラの想いは烈我にも痛い程伝わっていた。必ず助けるとその一言にバジュラは口角を上げる。

 

『ハッ、誰がそんな臭え台詞吐くかよ! 俺のやる事は一つ、ぶん殴って目を覚まさせてやるだけだ!』

「素直じゃない奴。けどまあ、それで行くぞ」

『おぉよ!』

 

互いに鼓舞し合うように力強く頷くと、「アタックステップ!」と開始を声高らかに宣言していく。

 

「まずはリュキオースでアタック! アタック時効果で【龍射撃】の効果発揮だ!! 対象はエヴォルだ!」

 

リュキオースは吠えながら矢を構え、そしてエヴォルに向けて最大まで弦を引いて撃ち放ち、矢はエヴォルを捕え直線的に向かって行くが。

 

「無駄だ。そいつはエヴォルには通じない、【進化(エヴォリューション)】の効果を発揮! エヴォルをBP+10000!」

 

成長を遂げるかの如くエヴォルの体が一回り巨大化し始め、そしてリュキオースの放った矢を真っ向から受け止め、自身の硬い甲殻で弾き返してしまう。

 

「残念、効果を使用した事でエヴォルのBPは25000、龍射撃の射程外だ」

「……」

「そして、リュキオースのアタックだが当然対応は決まってる。キラー!」

 

軽く笑いながら指を鳴らすと、再び海面を突き破りリュキオースの目の前から浮上するキラー。

 

「キラーバイザークでリュキオースをブロックだ!」

 

今度こそ獲物を噛み裂くべく鋭い牙を剥き出しにリュキオースへと迫るキラー。まともにぶつかり合えばリュキオースは一瞬で破壊されてしまうだろう。

 

そう、まともにぶつかり合えば。

 

「そう来ると思ってた!! フラッシュタイミング! 【煌臨】!」

「!」

 

「来い! 豪快無頼の破壊皇ッ!! 破壊の矛で全部ぶち砕けッ!! 破壊龍皇ジークフリードルドラ! リュキオースに煌臨ッ!!!」

 

 

リュキオースの体に迸る黒い雷、紫電にその身を黒く染め上げていき黄金の鎧を纏いながらリュキオースはジークフリードルドラへと生まれ変わり、力を知らしめるかの如く雄叫びを上げる。

 

「ジークフリードルドラの効果! 相手スピリットの5体までのコア3個ずつリザーブへ! 行っけぇッ!!!」

 

ジークフリードルドラの咆哮に呼応するように空に響く雷鳴、そして紫電の雷がフィールドへと降り注ぎ、最初にその直撃を浴びたアレックスは一瞬の間もなく消滅し、そして次に紫電の落雷はエヴォルとキラーの二体へと降り注がれ。

 

「まだだ、キラー! そしてエヴォルからもコアを取り除く!」

「!」

「ルドラの効果はアルティメットに対しても有効だぜ!! エヴォルでも逃げられねぇ!!」

 

雷撃の直撃を受け、キラーとエヴォルはコアを取り除かれた事でレベルダウンさせられ力が抜けるようにガクッと体勢を崩すが、それでもコアは一つ残る。

 

「キラーもエヴォルもコアは健在。消滅には至らないぞ?」

「言われるまでもねぇ! フラッシュ、天翔龍刃覇!!」

「!」

「ルドラとテティスから不足コストを確保! そしてBP20000以下の相手のスピリット、又はアルティメットを破壊だぁッ!!」

「(成程、この為にエヴォルのレベルを下げに来てたのか!)」

 

レベルが下がった今のエヴォルなら例え【進化】の効果を使おうとも射程圏内に捕えられる。コアを失い消滅するテティスだが入れ違いの様にマジックより放たれる紅蓮の渦。渦はそのままエヴォルを飲み込み、極度の炎は巨大なエヴォルの体を焼き焦がし、唸りを上げながらその場に崩れ落ちると、エヴォルは大爆発を起こす。

 

「……ハハハ、やるじゃないか!! それぐらいやってくれなきゃな!!」

 

エヴォルが破壊されてなおヘルは高らかに笑い、一方でルドラはヘルには構う事無く、キラーを倒すべく大きく口を開き、キラーへと真っ直ぐ雷撃を撃ち放って行く。

 

「……だが、まだまだだ! まだそれじゃあ俺の期待通りとは言えないな! フラッシュタイミング!!」

 

BP勝負は僅かにルドラが勝る。ならばまた前回と同じ【潜水】の効果でキラーをバトルから離脱させる気なのかと構える烈我。しかしヘルの打つ手はそんな烈我の予想をいとも簡単に超えて行く。

 

「自分のスピリットのバトル中、召喚コストを支払う事で手札のこのカードをバトルに加える事ができる!」

「!?……その効果、まさか……!」

「察しの通りだ! 【天雷】発動ッ!! 高速の霹靂一閃! 色欲を司りし龍よ、敵を穿つ雷電の槍となって現れ出でよ! 雷光天龍ライトボルディグスをLv.2で召喚ッ!!」

 

ルドラの放つ電撃、それがキラーへと直撃する刹那、電撃を掻き消す一筋の閃光。その光の正体こそ、色欲を司りしライトボルディグスの姿。

 

「ライト!?」

『ッ! あの野郎、何で彼奴迄……!!』

 

突然の姿に動揺を隠せていない烈我とバジュラだが、驚いている暇等ない。ルドラに対し、ライトは鋭く睨むような視線を向けたかと思うと、再び弾丸の如く角を突き出して超スピードでルドラへと特攻、かろうじてライトの動きを目で追うと突っ込むライトの角を間一髪受け止め、堪えるルドラ。

 

「言いたい事色々あるだろうが今はバトルに集中しろ」

「ッ!!」

「効果はご存知だろうが、【天雷】の効果でバトルに参加した時、ライトとキラーのBPを合計してバトルを継続する。そして二体の合計はBP18000!!」

「!!?」

 

何時の間に潜り込んでいたのか、ルドラの背後から突如飛び出すキラー、鋭い牙をルドラの背に突き立て、痛みに体勢が崩れた瞬間をライトは見逃さず、押し切るようにルドラ突き飛ばし、吹っ飛ばされた獲物に追撃を掛けるキラーとライト。

そしてライトは空中から、キラーは水中からそれぞれ飛び出しその角と牙を同時にルドラへ繰り出すと、力尽きルドラは爆発四散を起こす。

 

「ルドラ……!!」

「バトルに勝利した時、ライトボルディグスの効果発揮! このスピリットを指定し回復!」

 

静かに翼を羽ばたかせ、無言のまま烈我達を敵と認識しているように睨むライト。その表情は普段のライトから想像できない程、冷たく感情を感じない程に冷酷な目。

 

『ライト……テメェまでヘルの野郎に使われんのかよ? ハハ、いっつも『光黄様』とか『綺麗な人に扱われたい』とか言ってるお前がか?』

『…………』

『テメェまでらしくねぇ事してんじゃねぇぞ。みっともねぇ、テメェの相棒は間違ってもそいつじゃねぇだろうが! ライトォッ!!』

 

フィールドに響くバジュラの声、だがやはりキラー達同様、ライトもバジュラの言葉に応じる気はないらしく、一言も発さずただただ烈我達を睨むばかり。

 

『クソが、お前迄黙り込みやがんのか。イライラしやがる!』

「(……キラーもエヴォルも、そしてライトまで……一体皆、何に操られてんだよ!!)」

 

キラーもエヴォルもそれぞれ七罪竜として絶大な力を誇る。だからこそそう簡単に操られる訳がなく、至極当然の疑問なのだが、幾ら考えどもその理由はこの場においてやはりヘルだけしか知る由がない。

 

「余計な事を考える暇はお前にないぞ。勝つつもりなら、このバトル為だけに全ての思考を費やせ!!」

「ッ!! ターンエンド……!」

 

余裕、否、このバトルを楽しんでる節さえ感じる態度のヘルにバジュラも烈我も腹立だしい様に歯を喰いしばるがそれでもヘルの言う通りバトル以外の事に意識を向ける余裕がない事を自分自身でも理解していた。

 

 

 

 

────第9ターン、ヘルside。

 

[Reserve]11個。

[Hand]3枚。

[Field]海牙龍王キラーバイザークLv.1(1)BP9000、雷光天龍ライトボルディグスLv.2(2)BP9000。

 

「ネクサス、灼熱の谷を配置」

「赤のネクサス!?」

「続けてバーストセット、最後にキラーバイザークをLv.3にアップ。アタックステップ! キラーバイザークでアタック!」

「ッ! ライフだ!」

 

海面に一度潜り、即座に飛び出すと牙をバリアへと突き立て一瞬のうちにバリアを噛み砕きライフを破壊する。

 

「うぐあッ!!」

「バトル終了時の効果でキラーの【潜水】発揮、そしてこれでターンエンドだ」

「追撃して来ないのか?」

 

『ッ! ヘルの奴……俺等を舐めてんのかァ?』

「嫌、多分違う」

『あァ?』

 

まだ余裕のつもりなのかと苛立つバジュラだが、烈我には何かあると、本能的に感じ取っていた。

 

「狙いは分からねぇけど、油断はできない」

『……ケッ、野郎が何企んでようが全部ぶっ潰すだけだ』

「あぁ!」

 

 

 

 

────第10ターン、烈我side。

 

[Reserve]16個。

[Hand]4枚。

[Field]爆我炎龍バジュラブレイズLv.1(1)BP7000。

 

「俺のターン! コアを追加しバジュラをLv.3にアップ!! 決めに行くぜバジュラ!!」

『おぉよッ!!!』

「アタックステップ!!」

 

拳を打ち鳴らしながら構えるバジュラ、他のスピリットは呼び出さないのかバジュラのレベルアップのみでメインステップを終え、アタックステップを開始して行く。

 

「バジュラでアタック! アタック時効果発揮! 【火力推進(ヒートアップ)】!! BP+5000し、さらに手札1枚を破棄することで強制ブロックしてもらうぜ!」

「バジュラ1体で残りのライフを削る気か? キラーの効果は忘れてないだろ? 浮上しろキラー!」

 

『グルアアアアアアッ!!』

 

突っ込むバジュラの目の前を塞ぐように、雄叫びを上げて再び飛び出すキラー。

 

 

「あぁ、忘れてねぇよ! だから此奴だ! フラッシュタイミングッ!!」

「!」

「天翔龍刃覇! 効果でBP20000以下の相手スピリット! キラーを破壊だぜッ!!」

「二枚目か!」

 

マジックの効果によりフィールドに出現する巨大な火球、その火球の傍でバジュラは拳を構えると。

 

『キラー! テメェの目、今覚まさせてやるよ!! オラアアアアアアアッ!!!』

 

ありったけの力を込めてバジュラは火球を殴り飛ばすと、殴りつけた火球は弾丸の如き速度でキラーへと向かって行き、【潜水】の効果で逃げるも間もなく火球はキラーを捕え、周囲の海面を蒸発させる程の炎はキラーを一瞬で焼き尽くし、断末魔を上げながら大爆発を起こすキラー。

 

「バジュラのメインアタック! 残ったライトに強制ブロックしてもらうぜ!!」

「……あぁ。望み通り受けて立て! ライトボルディグスッ!!」

 

一度バジュラを見下ろす様に天高く飛び上がり、雲の中へ姿を消したかと思うと、バジュラへ向けて放たれる落雷の雨。

 

『しゃらくせぇッ!!』

 

だがバジュラは退く事なく足に力を込めて体を固定させると、最大火力で放つ火炎放射を天へと吐き付け、炎は落雷を掻き消しながらそのまま雲を突き破り、雲を吹き飛ばされ、ハッキリとライトの姿を捕える。

 

『グルルルッ!!』

『来いよライト、テメェには以前に借りがある。けど俺が借りを返したい奴は今のお前じゃねぇッ!! あの女と組んでる絶好調のお前なんだよッ!! だからとっと元に戻って、決着つけようやッ!!!』

 

再び口を開きライトに向けて火炎放射を放つが、ライトのスピードは健在。炎を掻い潜る様に避けながらバジュラへ接近し、その角で貫かんとバジュラへと突っ込むライト。それに対しバジュラは片腕を構え。

 

『もう一度言うぜ、ライトッ!!』

『!』

 

超速で突っ込むライトがバジュラを捕えたかに見えた瞬間、構えた腕は角がバジュラの身へ突き立てられる寸での所でガッチリと掴んでいた。

 

『俺が借りを返したいのは今のお前じゃねぇ。ヘルの言いなりになるだけのテメェに、今の俺は……負ける気がしねぇッ!!!』

『ッ!!』

 

ライトを掴んだまま、拳に炎を込めるとライトの腹部に炎拳を撃ち込み、空高く吹っ飛ばす。

 

『とっとと目覚ましやがれッ!! ライトォッ!!!』

 

ライトを打ち上げ、バジュラもまた尻尾を地面に叩きつけ反動で高く飛び上がると、追い討ちをかけるように二度、三度と拳を打ち付けて行き、そして最後に両拳を合わせてライトへ振り下ろし、そのまま地面に叩き落され、大地に激突させられ、耐えきれずライトは大爆発を起こす。

 

「相手スピリットを破壊した事でバジュラは回復! そして再アタックだ!!」

「俺の場にもうブロッカーはない。それ以上の手はあるかな?」

「決めるって言ったんだ! 当然そのつもりに決まってんだろ!! フラッシュタイミングで白晶防壁(Rv)!!」

「!」

「バジュラを回復!! これで!」

「『終わりだッ!!!』」

 

バジュラと共に叫び、そしてヘルへと向かい拳を構えるバジュラ。もうブロッカーはなく、攻撃を阻む障害は何もない。

 

『ヘルーーーーゥッ!!!』 

 

拳に怒りを全て乗せるように吠え、そして展開されたバリアにありったけの力を込めた拳を撃ち込み、バリアを伝ってヘルのライフを破壊する。

 

「ぐうううッ!!!?」

 

渾身の威力、それには流石のヘルにも受け止め切れない様に体を引き摺り、その場で両膝を突いて崩れる。

 

「……終わりだ。ヘル! 全部白状してもらうぜ!!」

「…………」

 

膝を突いた体制のまま、数秒間、沈黙するヘルだが。

 

「……ハハ」

「!」

「何だか今の状況、随分と懐かしい気がするよ」

「?」

 

静かに立ち上がり、口元を緩ませながら平然とヘルは笑みを浮かべ。

 

『お前、急に何言いだしてやがる?』

 

「覚えてるか? 初めて俺とバトルした時の事」

「……あぁ」

 

記憶を辿る様にヘルとのバトルを思い返しながら静かに頷く。

 

「バジュラの攻撃、あの時俺は打つ手はないとサレンダーした。あの時、お前はどう思った?」

「何が言いたいんだよ?」

「単純な質問さ。分からなけりゃ言い方を変えようか? あの時のバトル、お前にとってはつまらないもの……そう感じたんじゃないのか?」

「?」

 

ヘルが何を言いたいのか、その意味を理解できない様に困惑する烈我だが。

 

「最初に俺はこう言ったな、『俺は強い奴を求む』と。カードバトラーにとって、そう思うのは至極普通だよな」

「……」

 

ヘルが何を言いたいのか真意は以前分からないが、強い相手と戦いたいと思う気持ちは少なからず烈我にも理解はできる。

 

「強い相手と戦って勝ちたい。それはカードバトラーにとって共通の、言わば欲望だ」

「欲望?」

「そうだ。そして強者を求めれば求めるほどにそれに比例して強い力も求めるようになる。けど、強すぎる力ってのはカードバトラーにとって一種の毒でもある」

「毒だと?」

 

視線を伏せながら、烈我の言葉に応えるようにヘルは続けて行く。

 

「さっき言ったな。強者を求める事に比例して強い力を求めるようになると。だがな、もし力を手に入れたとしてその力に見合うだけの相手(・・・・・・・・)が存在しないとしたらどうだ?」

「!!?」

「力を手に入れただけで満足する奴はバトラーとして三流。本物のカードバトラーなら力を手に入れて今度はその全力をぶつけられる相手が欲しいと思うもんだろ! 圧倒的な力で雑魚を蹂躙した所で俺は何も楽しいとは思わん」

「!」

「お前なら分かるだろ烈我、バジュラ程の強力なスピリットを手に入れ、そしてバジュラを使って全力で強敵とバトルする喜び!! そして、逆にバジュラで簡単に勝負を決められてしまう虚しさ……丁度俺とのバトルの時の様な」

 

『分からねぇよ。テメェのそのまどっろこしい言い方はやめろ。言いたい事があるなら用件だけ言いやがれ!』

 

二人の問答に痺れを切らす様に苛立ち気味に口を挟むバジュラ、それに対してヘルはまた笑みを見せて。

 

「まぁまずはバトルを続けようか。俺のライフ減少時でバースト、絶甲氷盾!」

「!」

「ボイドからコア1個を俺のライフに置き、そしてコストを支払いアタックステップを終了させる」

 

フィールドに吹き荒れる吹雪、バジュラを後方に吹き飛ばしながら冷気は氷の壁を作り上げ、これ以上の行く手を阻む。

 

『ッ!!!』

 

「これ以上の手が無ければ、ターン、貰っていいか?」

「!」

 

静かに笑うヘルの言葉、瞬間、己の身に見舞う背筋が凍るような感覚。だが今烈我達にもう打つ手はない。

 

『…………ッ!』

「バジュラ?」

 

ふとバジュラの方に視線を向けるが、バジュラもまた何かを感じ取っているのか、心成しかその腕は僅かに震えているように見え。

 

「どうかしたのか?」

『……何でもねぇ。お前はバトルに集中してろ』

 

余計な気を遣うな、と言わんばかりのバジュラだが、不安は拭えない様にいまだその表情を歪めている。

 

『(何だこの感覚……今までにねぇ。だが何かを感じる……得体の知れねぇ何かが……!)』

 

言葉では決して言い表せない悍ましさ、そんな感覚はバジュラにとっては生まれて初めてだった。

 

不穏な空気を感じ取るが、そんな二人の心情とは対照的にフィールドは不気味な程に静粛に包まれ、それは来る嵐の予兆。

 

 

 

 

────第11ターン、ヘルside。

 

「メインステップ、そしてコアステップ」

 

[Reserve]19個。

[Field]灼熱の谷Lv.1(0)。

 

不気味な程静かにターンシークエンスを進めて行くヘル。その挙動一つ一つに烈我達は息を呑む。

 

「ドローステップ、灼熱の谷の効果を発揮、ドロー枚数を+1枚し、ドロー後に手札を破棄」

 

カード2枚を引き、そしてその手札を見ながら捨てるカードを選択する。

 

「俺は、「氷装鏡龍フリーミラルド」を破棄」

「フリー!?」

 

強力な効果を持つフリーだが、敢えてそれをトラッシュに送るヘルに、より警戒心を強める烈我達。

 

「メインステップ。さてさっきの話の続きだが」

「!」

「ルディアが言ってた事を覚えてるか? 七罪竜は七体の龍を指す言葉ではなく、強大な力を持つただ一体を指すと」

「何でその話を……!」

「当然だろ。そもそもルディアにその情報を掴ませたのも俺だからな」

「!?」

「だけどな、ルディアはまだ知らない。本当の七罪竜について、その全ては俺しか知らない」

「本当の七罪竜!?」

「あぁ、そもそもバジュラやライト、キラー、エヴォル、シュオン、そしてフリー、この6体は元は一つの存在だった」

「『!?』」

 

『何言ってやがる!? 俺が……俺達が一つの存在!?』

 

一瞬耳を疑うヘルの言葉、その言葉に対し誰よりも驚いたのは他でもないバジュラ自身だった。

 

「真実だ。憤怒も色欲も傲慢も怠惰も暴食も嫉妬も、人間が持つ欲の一つにすぎない。そしてその罪の起源、それこそが強欲」

「まさか……!」

「あぁ、もう分かるよな。6体の七罪竜が一つになった存在、それこそが強欲の七罪竜だ」

「!!?」

 

『ざけんじゃねぇッ!!!』

「「!」」

 

ヘルの言葉を遮る様に叫ぶバジュラ。

 

『俺は俺だ! 他の誰でもねぇッ!!! ふざけた事言ってんじゃねぇぞヘル!!』

「なら聞くがバジュラ、お前には過去の記憶……自分が生まれた頃の記憶はあるか?」

『んなもの、覚えてる訳が……!!』

「いいや違う、覚えてないんじゃない。お前にとってその記憶は失われてるんだ。強欲は己の身体を6つに分けた際に、その記憶さえも消してな」

『!!?』

 

「だからこそ最初にシュオンの話を聞いた時は驚いた。僅かとは言え己の記憶があった事に」

「まさか、それって!」

「あぁ。それはシュオンの記憶であってシュオンの記憶じゃない。本来の自分だった頃の記憶だ」

 

前にシュオンから語られた自身の記憶、そしてかつての力を取り戻したいと口にしていた事。今でこそ思えばあれは本能的に求めていたのだろう。かつての自分が強欲であった頃の力を。

 

「今にして思えば暴食の罪は強欲に一番近い。だからこそ、シュオンがその記憶を僅かとは言え、引き継げていたのは納得だ」

「シュオンが……!」

「逆を言えば……フリー、嫉妬。嫉妬は満たされないが故に他者にそれを求める。一方で強欲は全てを求めそしてその欲を満たしきった存在。つまり嫉妬とは無縁、だからこそ己の感情が薄かった筈だ」

 

ヘルの言う通りシュオンとは違い、フリーはどこか嫉妬らしい感情はなくどこか無関心という所感。ヘルの話す内容も一見筋は通っているように思えるが。

 

「仮にそれが本当だとして、どうしてお前がそんな事まで知ってるんだ!?」

 

ヘルの話す理由、それは組織の首領であったルディアさえも知る由もなかった筈の事。なのに何故強欲の存在といい、そしてその正体に迄知っているのか。

 

「簡単な事だ」

 

もう一度口角を上げて、そして彼は言う。

 

「俺がかつて、強欲に選ばれた所持者だからだ!」

「!!?」

「信じられない、そう言いたげな顔だな」

「ッ!!」

 

突拍子もない言葉、確かにすぐに信じられる訳がないのだが。

 

「証拠を見せてやるよ、すぐにな」

「えっ?」

 

そう言い放った後、ヘルは手札を構えて見せると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生命が求めし欲望! その全てを満たし叶えし始まりの神ッ!! 溺れし色欲! 驕れ傲慢! 貪る怠惰! 餓え暴食! 狂いし嫉妬! その(ピース)を受け取りて目覚めよ!!」

 

口にする高らかな召喚口上と共に、大地のマグマは活性化するように、フィールド全域から吹き上がる巨大な火柱、そして炎の中に眠りしスピリット──強欲を司る、そのスピリットの名を告げる。

 

 

 

 

「召喚! 罪業神龍オメガデッドノヴァッ!!」

 

瞬間、先程まで空高く天にまで噴き上げた巨大な火柱が消え去り、そして目の前に映りし光。

 

荒れ果てた大地も、黒く染まる空も見えなくなる程に眩く黄金に輝く神の光。

 

全知全能の力を誇りし、そして数多の罪とその全ての欲を司りし神の姿。

 

「その目に焼き付けろ! これが神!! 人が求めし欲の全てを満たす存在、これこそがオメガデッドノヴァだ!!」

「……!!」

 

『オメガデッド……ノヴァ……ッ!』

 

その姿、その威光、その威圧は見た者全てを淘汰するであろう。全て欲望を満たせし強欲。一目見ただけで烈我達は理解した。

 

相対する目の前のスピリットは、正しく全ての生物頂点、否、全てを統べる神であると。思考できずとも、目の前に立った者全て、それを本能で理解するのだ。

 

『(……これが強欲、そして、これが俺だと!!?)』

「バジュラ……!」

『(ざけんな。俺は俺だ……他の誰でもない。なのに、何なんだこの感覚は……! 此奴が俺だと、認められる筈がねぇッ! 筈が、ねぇのに……ッ!!)』

 

目の前の龍、それが自分だと認められる筈がない。頭の中でそう何度も強く思うが、それでもバジュラも気付いていた。認めたくない気持ちとは別に、本能がどこか目の前の存在が自分だと、受け入れている事に。

 

「バジュラ!!!」

『ッ!!』

「しっかりしてくれ! 俺は俺だって自分でそう言ったんだろ!!」

『分かってる! 分かってんだよ! でも……!』

 

「だいぶ困惑してるようだな。特にバジュラは……。」

「『!!』」

「対峙して分かっただろ? もう頭じゃなく本能で理解してる筈だ、この存在が自分自身である事を!」

 

『……ッ!! 黙れ、俺は……!』

「まだ認めない気か? まあそれでもいいさ。お前が理解しようがしまいが関係ない。お前の魂さえ取り込めばオメガデッドは完全に目覚める」

 

「!」

 

他を凌駕する程の威圧感を放つオメガデッドがまだ完全ではないなど俄には信じられない。しかし、呼び出された今のオメガデッドはその目を閉ざし、呆然とその場に立ち尽くし自らで動く気配のない傀儡にも近い状態。だがそんな状態であっても、相対するだけで息がし辛い程に強く感じるプレッシャーは他の七罪竜やハイドカードとは一線を画していた。

 

「キラー達の魂も、此奴に……!」

「人聞きの悪い事言うなよ。説明しただろ? 元々キラー達はオメガデッドの魂の破片に過ぎない。だから俺は本来のあるべき姿に戻す。それだけの事」

「……それだけって……仮に本当だとして、そもそも何で魂を分けるなんてそんな事を!」

「痴れた事。俺の願いの為だ」

「願い!?」

「この際だ。もう全部話してやるよ、このスピリッツエデン。元々この世界を作りあげたのは他でもない、オメガデッドの力だ」

「!?」

「順を追って話そうか。オメガデッドがこの世界を作ったのは数億年にも及ぶ。その話は承知済だよな?」

「あぁ」

 

スピリッツエデンを生まれたルーツの話は以前ヘルからも聞いた。最もその時の記憶のバジュラには覚えてる訳がないと一蹴していたが。

 

「オメガデッドはこの世界を作り出し、そして他の世界にも干渉できる唯一無二の力を持った存在。バジュラ達が他の世界に移動できる力も元はオメガデッドの物」

 

数多の世界に干渉しえる力、バジュラ達も世界に移動する力を持つが、あくまで烈我達の世界等に限り、自由自在に数多の世界を巡れる訳ではない。だがオメガデッドは違う、どんな世界であろうと望めば自由に自在に行き来する事など容易。

 

「そしてオメガデッドはその力を使い、世界を通じて自分以外の存在を見てきた。何年も何十年も何百年も何千年も、そして幾万年の中、ある時目を付けた生物、それが俺達、人間だ」

「!!」

「知性を持ち、そして何より時に醜く、他の誰よりも果てない欲望を抱く人間。オメガデッドはその存在にかなり興味を惹かれたらしい」

「人間に……?」

「実際の所、オメガデッドが俺達人間に何故興味を感じたのかは知らない。此奴自身はそれを語らなかったし、俺も聞いてはいない。だが確かにオメガデッドは人間という存在に惹かれ、そしてある日、己が選んだ人間をこのスピリッツエデンに招くようになった」

「何の為に?」

「真意は分からん。だがオメガデッドは自分が選んだ人間達に対して、こう言った。

『もしも、全てを失ってもいい覚悟があるのならその欲望を叶えてやる』

とな」

「全てをって?」

「文字通り全てだ。己の命を懸けて、自らの欲望を叶える覚悟はあるのかと?」

「なッ!!!」

「強制させた訳ではない。覚悟無く逃げ出す者もいた。けれどそれでも欲望を叶えたいと望む者は尽きず、そして求めた結果、過ぎた欲に身を亡ぼす者が数多にいた」

「それも、そいつが……!?」

「嫌、オメガデッドは手を下していない。全て欲深の人間の自業自得だ、願いを叶える為だけに潰し合い犠牲になった哀れな末路」

「!!」

「そうして最後の一人になった人間にオメガデッドはそいつが望む願いを叶えてきた。人によってその望む願いは多種多様。不老不死、巨万の富、ありきたりな願いから中には、この世界に住まわせて欲しいという奇特な願いもあったそうだ」

「!」

「ま、この世界に人間が存在するようになったのは恐らくそこが理由だろうな。人間が反映する事になってもオメガデッドはそれを良しとした」

「待てよ、それって、一体いつから」

「俺達が生まれる何万年も前からだよ。数十年に一度の周期で選んだ人間を呼び寄せ、選定しそして願いを叶えてきた。遥かの昔からな!!」

「……ッ!!」

 

想像も付かないほど歴史、そして自らの欲望の代償の為に、一体どれ程の命が果てたのか。想像するだけで悍ましさを感じずにはいられない。

そして、同時にヘルの言葉にもう一つ烈我は気付く様に。

 

「もしかしてお前……!!」

「あぁ、そうだよ。俺もまたかつてオメガデッドに選ばれた一人だよ。願いを叶える為、他人を踏み躙ってなッ!」

「!!!」

 

初めて会った頃の面影はもう影も形もなく、狂気に染まった笑顔で言い放った。

 

「そこまでして……そこまでしてアンタが叶えたかった願いって一体何だったんだよ!!!」

 

拳を握り締めながら、問い質す烈我の叫び。それに対してヘルは笑みを止めて、静かに口を開く。

 

「何度も言ったろ、俺が望むのはただ一つ、強者とのバトル……!」

「え?」

「付け加えるなら、オメガデッド。此奴を使って行う全力を出し尽くせる程のバトル。俺が求めるのはただそれだけだ」

「それだけ……? それだけの為に、アンタは……ッ!!」

「理解し切れないか? だがな、お前にとってはそうでもこれが俺の欲望なんだ。誰に何を言われようが、抑えられない程に求めてきた俺の全てだ!!!」

「!」

 

狂気を感じる程の欲望、ヘルに対して思わず圧倒されるように一歩後退る。

 

『テメェ、狂ってやがる……!』

「ハハハ、んな事言うなよ。カードバトラーにとって最も忠実な欲望だろ?」

 

「その為に、他の人を犠牲にしたんだろ?」

「……まあ、ものの弾みさ。仕方がなかったんだ、何せ欲望を叶えられるのは一人だけ。全員その覚悟を持って望んだ事なんだ。だから他人に恨まれる謂れはない!」

「ッ!!」

「元々俺に戦い以外の享楽に興味はない。オメガデッドに選ばれ、そして命を賭けてバトルを繰り広げる快感、あの瞬間は今でも覚えてる」

 

なおも口角を上げて、さらに言葉を続ける。

 

「だがな、他の奴等を倒し勝ち残った時、俺はもうそれだけじゃ満足出来なくなってた。

もっと最高のバトルがしたいと! その為にもっと力が欲しいと! だから俺は強大なオメガデッドの力を望んだ!! そしてオメガデッドも俺を受け入れ、俺は文字通り神の力を手にした!!!」

 

歓喜する想いを噛み締めるように両手を握り締めながら語っていくヘル。

 

「力を手にしたら当然その力を奮いたいと望む。ただ手に入れて終わる訳がねえ、ましてや命を賭けてまで手に入れた力だ。思う存分試したいと思うのが人の性ってもんだ!」

 

声高らかに自分の欲望を口にしていくが、「けど」と暫くして、息を吐き捨てたかと思うと先程までの歓喜に満ちた表情は途端に、冷徹なまでに切り替わり。

 

「直に俺は絶望した、簡単な理由だ。力を手に入れた後に、もう俺とまともに戦える奴等、この世に存在しなかったんだ、それ程までにオメガデッドの力が強大過ぎたって事さ」

 

世界を生み出させる神の如き、否、神そのものと言える力。その存在は絶対であり、そして絶大。故に抗える者が存在しないのは自明の理。

 

「確かに最強の力を望んだ。だがそれだけじゃ足りないんだ!! 力を手に入れて、それを満足に扱えるだけの相手が、敵対出来るだけの存在が欲しいんだよ!!」

「……!」

「子供らしいワガママだと思うか? けどどうしようもないんだ。どうしようもなく、飢えて渇くんだよおォッ!!」

 

狂っている、とそれはヘル自身も理解している。それでも己の欲望は満たされない、だから満たされたいと願う。己の望みを叶えてくれと、ただひたすらに声を上げる。

 

「バトスピってのはそもそもゲームなんだ。だけど、勝ちの決まったゲームに何の喜びがある? 勝って当然のゲームに何の楽しみがある?」

「……」

「俺の言ってる事、分かるだろ? だから俺は欲しかったんだ。全ての力を出し惜しみなく使える程の相手が……! なのにオメガデッドでさえも、それだけは叶えられないと告げた」

 

叶わぬ欲望、それはヘルにとってはこの上のない絶望。

 

「俺にはラスボスを阻む勇者のような存在、もしくはその逆か、何にせよ俺は唯欲しかった。俺にとって障害と成り得る相手、好敵手って呼べる相手が俺には必要だったんだ! でなけりゃ俺の欲望は永遠に満ち足りねぇッ!!

そして、だからこそ俺は今回の計画全てを思いついた。自らの願いを叶える為に!」

「!?」

「まず初めにルディア。元々アイツは俺が手に掛けたカードバトラーの子供だった」

「なッ!!?」

「当時は幼い子供、何れ成長し俺のことを知ればルディアは必ず俺を憎むだろう。憎しみは人を強くする感情、けど俺一人だけを恨むだけの憎しみ等たかが知れてる。もっと強い存在に俺はなって欲しかった。だからこそ、俺はルディアの記憶を操作した、世界全てを恨み程の力を手にしてもらう為に!! オメガデッドの力を使ってな!!!」

「記憶……それじゃあルディアが言ってた事は!」

「あぁ、全部俺が作ったもんだ。あらゆる人間に裏切られ、そして死を彷徨うしかなかった地獄な様な日々、その記憶が消える事がない様に固定させた」

「固定ってそんなの……!」

「あぁ、そんな記憶を見せられれば普通の人間ならまず狂うだろう。けどルディアは違う。消える事のない憎しみをずっと抱き続け、そして世界に復讐する道を選んだ。俺の想像通りに」

「!」

「後はもうまさに魔王を育てる様な感覚だったぜ!! ルディアに親しく過ごす中で、七罪竜の情報を少しずつ与え、奴自身がその内七罪竜の存在を調べ始めるようになるのはそう時間はかからなかった」

「そ、それじゃあ罪狩猟団は……!」

「あぁ、七罪竜の事を知れば当然奴は手に入れようとする。その為に必要な組織を作ろうとする。だから俺は、奴の組織に適切な人材を揃えやすい様、裏で情報を回し続けた。ディスト、ドレイク、ガイト、ヴァンと言った具合にな」

「!!!」

 

ルディアだけでなく、ドレイク達までもがヘルにとって掌で踊らされていたという事実に烈我もバジュラも自分の事以上に怒りを感じ、血が滲むほどその拳を握りしめる。

 

「全部お前が巻き込んだのかよ、ルディアだけじゃなく……ドレイク達も……!!」

「まぁ結果的にな。俺は手を回しただけ。実際に動いたのはルディア自身──」

「ふざけんなァッ!!」

 

ヘルに対して怒りが収まらない様に、言葉を言い切る前に怒号を響かせる烈我。

 

「お前は、人間じゃねぇ!! もうお前は、俺達が知ってるヘルさんじゃねぇ……!!」

「人間だよ。誰よりも俺は欲望に忠実なだけ。そして己の欲望を叶える為なら他人がどうなろうが俺に知ったこっちゃねぇ。程度に差はあれ、人間ってのはそもそもそういう生き物なんだよ」

「ッ!!! ふざけんな、そんなの認められる訳ねぇだろッ!!」

「認められようとなんて思ってねぇさ。お前が俺に対して何を感じようと構わない。だがな、それでも俺のこの欲望の実現だけは譲れないんだ!」

「お前……ッ!!」

「まだ話の途中だ。これが重要なんだがルディアを育てる裏で、もう一つの可能性……魔王に匹敵する勇者を生み出したかった」

「?」

「ルディアが俺を脅かす程の存在になってくれれば問題ないんだが、正直それだけじゃ足りない気がした。だから俺はさらに可能性のある者に投資したかった。そんな俺の考えにオメガデッドはある提案をした」

「提案って?」

 

「……『自分の存在を6つの魂に分けよう、記憶を消し……そしてそれぞれの魂が選んだパートナー達の成長の糧となる』、と」

『オイ、つまりそれが俺達だと……?』

 

「その通りだよ。お前達七罪竜は全て元はオメガデッドという一つの存在! そして、お前達の存在理由は烈我達を強くする事、引いては俺の脅威になるカードバトラーとして育て上げる、それが理由だ!!」

『ッ!!』

 

「お前達の存在はまさに魔王を阻む為の勇者。魔王と勇者が揃ったのなら後は自然とシナリオは出来る。シナリオ通り、俺の思惑通り動いてくれた」

「何が言いたいんだ……?」

「まだ分からないか? 俺は初めからルディア達、罪狩猟団と七罪竜に選ばれたお前達が戦いが始まる様に全てを仕向けた。潰し合ってもらう為に! 最後に勝ち上がったどちらかが、俺と対等になれるように……ッ!!」

「!!」

 

バジュラ達と共に罪狩猟団と戦い続けて来た烈我達、その全てが彼の掌の上だったと誰が信じられよう。バジュラも、烈我も絶句する程に衝撃を感じずにはいられなかった。

 

「俺達は……アンタのそんな余興に巻き込まれたって言うのかよ……俺も光黄達も……!!」

「……そう言う事だ。ルディアを倒したお前は俺を楽しませる義務がある!!」

「ふざけんな……。」

 

手を握り締め、強く握りしめた拳から流れる血。だが今の烈我に籠る怒りはその手の痛みを感じさせない程に強く湧き上がっていた。

 

「ふざけんなあああああああッ!! 俺もバジュラもお前の都合のいい存在じゃねぇぞッ!! お前に利用される為に、俺達は戦って来た訳じゃねぇええええッ!!!」

 

怒りに込めた思いをぶつけるように、ヘルに向かって叫ぶ烈我。だが、そんな思いにヘルは平然とした態度で受け止め。

 

「怒りは結構。だがその怒りも全部今のこのバトルにおいての糧としてくれ。そうでなきゃその怒りも、お前のこれまでも全部、無駄になるんだからな」

「ッ!!」

「だから精々抗え、これから行う攻撃に!!」

 

『(来るッ!!)』

 

「バトルを続けようぜ! オメガデッドォッ! 召喚効果を発揮!!』

 

バジュラが何かを直感するとほぼ同時に、自身の効果を起動し始めて行く。

 

「オメガデッドの効果、自分のフィールドとトラッシュにある七罪竜を全て取り込む!!」

「ッ!!」

 

フィールドの後方から幻影のように出現するライト、キラー、エヴォル、そしてフリー。オメガデッドはその4体を己の身に取り込んで行く。

 

「!?」

「オメガデッドは罪竜を持つスピリット全てを取り込み、そして取り込んだスピリット一体につき、BP+10000。つまり今のオメガデッドのBPは40000!」

「なッ!!?」

 

『ッ! 完全に化け物じゃねぇか。こいつが俺だって尚更認めたくはねぇなッ!!』

「安心しろ。バジュラ……認めざるを得なくなるさ。すぐにな」

『何?』

 

意味深に呟いたかと思うと、手を振り上げ。

 

「アタックステップ! 行け……オメガデッドォッ!!」

 

指示を下し静かに動き出すオメガデッド、ゆっくりと進撃を開始して行く。

 

『チッ……!』

 

こちらに近付くオメガデッドに構えようとするバジュラだが、突如体に走る違和感。

 

『(!?……足が、動かねぇッ!?)』

「バジュラッ!?」

 

「無駄だよ。バジュラ、お前に抵抗できるものか」

「『!?』」

「オメガデッドは他でもないお前自身。自分に拳を向けるなんて事ができる訳ないだろ?」

 

オメガデッドの威圧に飲まれたのか、手足が凍り付いたようにその場から身動き一つ取る事は出来ず、それはまるでヘルの言う事を肯定するかのように。

 

「もうお前は何もできない。ただそこで見てろ、バジュラッ!!」

『俺が、んな訳……ッ!!』

 

「好きに足搔け、無駄な徒労をな。オメガデッドの効果、【罪界放】発揮!」

「!?」

「1ターンに一度、このスピリットが取り込んだ七罪竜をノーコストで召喚できる!」

「!」

「俺が選ぶのは、此奴だ。さぁ出て来い……嫉妬に咲き乱れし氷華、氷装鏡龍フリーミラルド、召喚ッ!!!」

 

オメガデッドはその手を地に翳すと、大地を砕き飛び出す巨大な氷柱。その氷柱を砕き、現れるは氷の鎧を身に纏いし白き龍────フリーミラルド。

 

『フリーッ!!』

『…………』

 

怒りの目を向けるバジュラだが、フリーは沈黙し無感情のままにその翼を羽ばたかせて地へと降り立つ。

 

「フリーの召喚時による【氷鏡(アイスミラー)】、そしてフラッシュによる【氷装(アイスアームズ)】発揮!!」

「!」

 

【氷鏡】は相手スピリット1体につき、その分身体のスピリットを召喚する効果。バジュラの姿を模した氷のスピリットを出現させると、そのスピリットはオメガデッドへと取り付き。

 

「【氷装】の効果で、氷分身のスピリットをオメガデッドに装備ッ!」

 

氷のスピリットはオメガデッドに取り付き、黄金の体の上に纏われる氷の鎧。

 

「これでフリーの効果が使える。【氷装】を纏ったスピリットはフラッシュで回復できる!! オメガデッド、回復!」

「ッ!!」

 

オメガデッドのカードはスタンドし、そして烈我に対しオメガデッドは静かに腕を翳す、瞬間的にバリアが展開されるが、そのバリアは一瞬に砕け散りライフが破壊される。

 

「があああああああッ!!!!」

『烈我ッ!!』

 

「がぁ……がはぁッ!!」

 

衝撃に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる烈我。その場に倒れ伏し、体に走る激痛に立ち上がる事さえできない。

 

「……止めだ。オメガデッドッ!!」

 

今度は両腕を構え、そして手にエネルギーを収束させるかの如く光弾を作り上げ、その質量を増大させて行く。

 

「ッ……!?」

 

身動きの取れないバジュラにもうオメガデッドを阻む事はできない。当然残された手はライフで受けるしかのないのだが。

 

『!?』

「どういう……事だ!?」

 

繰り出されようとするオメガデッドの攻撃、だがそれに対し烈我の身を守ろうとするバリアが出現する気配はない。

 

『何で……!』

「言い忘れてたな。オメガデッドが存在するこのバトルフィールドでの敗北は全てを失う時」

「『!?』」

「文字通り最後のライフは、お前の命だ」

 

仰向けに倒され、立ち上がる事もできずもはや虫の息同然の烈我に対してヘルはその手を振り上げ。

 

 

 

 

「さよなら」

 

笑顔を向けて翳した手を振り下ろすと、オメガデッドは光弾を撃ち放ち倒れる烈我に向けて放たれる、その命を奪う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『烈我アアアアアッ!』

 

何やってんだ、俺の身体は。動け、動けよ。

 

このまま彼奴を見殺しにしたら俺は、もう俺じゃない。

 

俺が誰だとかもう知らない、そんなどうだっていい。

 

ただもし相棒一人守る事が出来ないのだとしたら、そんな自分を例え殺したって許せる訳がねぇ、俺自身を。

 

「ば、バジュラ……ッ!!」

『ガアアアアアアアアァァァァァ────ッ!!』

 

吼え叫びながらただ我武者羅に突っ込み、放たれたその攻撃を受け止めるバジュラ。光弾はそのままバジュラへと直撃し、フィールドが崩れる程に巻き起こる大爆発。

 

「『うわああああああああッ!!!』」

 

爆風に吹き飛ばされる烈我とバジュラ、吹き飛ばされその場に倒れ伏す二人。

 

 

 

「勝負あり。だな」

「……うぅ、うぁ……ッ!」

「決着はついた、もう止めを指す必要はない、バジュラに感謝するんだな」

「へ……ヘ、ル……ッ!!」

「ここまでだ。案外、お前も俺を楽しませてくれる存在じゃなかったな」

「ッ!!」

 

見下したような烈我に対する言葉、怒りに歯を喰い縛るが、それでももう今の烈我に僅かな余力さえない。

 

「さて、バジュラは貰うぞ」

「や、やめ……ろぉ……ッ!」

 

バジュラを守ろうと、倒れるバジュラに手を伸ばすが。

 

「ッ!! があああああああああああッ!!!」

 

刹那、その手を踏み突ける影、何度も必死に伸ばす烈我の手を踏みつけ、そしてその手を踏み躙って行く。

 

「がああああああ……ッ!!?」

 

咄嗟にその人物を見上げるが、見上げた視界に映る人物に思わず硬直した。

 

「な、何……で……ミナ、ト!?」

「……」

 

そこにいたのは紛れもなくミナトの姿。言葉を失う烈我に対し、ミナトは足を構えるとそのまま烈我を蹴り上げる。

 

「がぁ……ッ!?」

 

血反吐を吐きながら地面を転げる烈我だが、ミナトは容赦なく倒れる烈我をさらに踏み突ける。

 

「ぐがッ……! な、何で……ミナ、ト……!」

 

完全に意識を失い、視界を閉ざす烈我。そしてヘルはその様子に軽く笑みを零し。

 

「悪いな。そいつは使える方なんでな、俺の駒にさせてもらったよ」

「……」

 

意思のない様子のミナトに対して笑いながらそして、オメガデッドに視線を向けるヘル。

 

「最後だ、オメガデッド……バジュラを、その憤怒の魂を喰らえ!!」

 

倒れるバジュラに近付き、頭を掴み持ち上げて行く。

 

『ぐ……ぅぐっ……離し、やがれェ……!』

『……』

 

「やれ、オメガデッド」

『ッ!!!』

 

先程光弾を生み出した様に粒子をその手に集わせると、それを刃の鋭く腕に集中させて行き、そしてその光の刃をバジュラに突き立て、刺し貫く。

 

『ガァ……ッ!! テ、メェ……ッ!!』

 

最後の力を振り絞る様に自分を刺し貫くオメガデッドの腕を掴むが、刺し貫いた刃はバジュラの力を奪い取るように吸収して行き、そして力を抜き取ると刃を無慈悲にバジュラから引き抜く。

 

『グァ…………ッ!!』

 

僅かに声を上げ、静かに地面に倒れ伏すバジュラ。元の姿を維持できず、カードの状態に戻り、そして。

 

「お前ともお別れだな。バジュラ」

 

カードは徐々に白く色褪せ、カードに描かれたバジュラの姿が完全に消え失せ白紙となるカード。

 

 

 

 

「これで揃った。全てのピースが! ようやく本当にお前に会える。なぁ、オメガデッド!!」

 

その名を今一度叫び、オメガデッドは閉ざしていた両眼開く。

 

"グオオオオオオォォォォォォォ─────ッ!”

 

開眼し、天にまで響く咆哮、それは自身の完全な覚醒を意味する雄叫び。

 

「やっとだ。やっとやっと、約十年……お前に会えるのを楽しみにしてたぜェッ!! オメガデッドオオオオオオオッ!!!」

 

 




こんばんはブラストでございます!!
第36話!お待たせいたしました!!

ついについに今回、最後の七罪竜!強欲を司る七罪竜を書く事が出来ましたので大歓喜でございます!!!
それでは早速効果をチェック&チェック!








罪業神龍オメガデッドノヴァ、コスト12(0)、全色、赤シンボル
系統:罪竜、帝皇
Lv.1(1)BP10000。
このスピリットは系統:「罪竜」を持つスピリット以外の効果を受けず、このスピリットはトラッシュ/フィールドに系統:「罪竜」を持つスピリットが合計4体以上いない場合、召喚出来ない。

Lv.1
このスピリットのシンボルは白/紫/青/黄/緑としても扱い、このスピリットが場にいる間、自分は系統:「罪竜」を持たないスピリットを召喚する事はできず、系統:「罪竜」を持つスピリットがトラッシュに送られる場合、トラッシュに置く代わりにこのスピリットの下に置く。

Lv.1『このスピリットの召喚時』
自分のトラッシュにある系統:「罪竜」を持つスピリットを全てこのスピリットの下に置き、このスピリットの下にあるカード1枚につき、BP+10000。

Lv.1『相手によるこのスピリットの破壊/消滅時』
このスピリットの下にあるカード1枚を裏向きにし、その後裏向きにしたカードをトラッシュに送る事でこのスピリットをフィールドに残す。

Lv.1 フラッシュ:【罪界放】
ターンに一度このスピリットに下にある系統:「罪竜」を持つスピリット1体をコストを支払わずに召喚する。

Lv.1『自分のメインステップ開始時』
トラッシュ/フィールドにある系統:「罪竜」を持つスピリットを任意の数、このスピリットの下に置く。

Lv.1 【???】



以上がオメガデッドの能力になります!!えっ?最後の効果が分からない?
ハイ、まだ明かせないので諦めてください!!!←



強大な力を誇るオメガデッドの前に倒れた烈我達、そしてバジュラの力を取り込み完全に覚醒するオメガデッド! これからどうなるのか!!!
今後もぜひ応援よろしくお願いします!

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