バトルスピリッツ 7 -Guilt-   作:ブラスト

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第37話【剣龍神の試練】

「久しぶりだな、オメガデッド」

『……』

 

その場に佇むヘルと、それを見下ろす強大なオメガデッドの姿。絶大な力を誇るが故なのか、バトルを終え元の場所に戻ってなおオメガデッドの姿は実体として顕現していた。

 

『お前に会うのは……数十年ぶりか。懐かしいな、ヘル。そして』

 

倒れる烈我に視線を配りながら。

 

『取り込んだ我の魂を通じて状況は掌握した。この者達では……お前の欲望は満たせなかったようだな。ヘル』

「やっぱ分かるか、そうだよ。実に残念」

 

オメガデッドからの指摘通り、落胆するように溜息を吐き、その場に腰を下ろすヘル。

 

「オメガデッド、まだ完全に目覚めてなかったお前を使っての勝負なら一度俺を負かしてくれると思ってたんだがな。期待外れさ」

『……ならばどうする気だ?』

「そうだな」

 

烈我に視線を向けるオメガデッドとヘルの二人だが。

 

 

『行け! バーニングドラゴン、スーパーディラノスッ!!』

「『!』」

 

瞬間、突如オメガデッドの足元から飛び出す巨大な二体の龍、激昂する二体の龍は咆哮を上げて剛腕による拳をオメガデッドへと振り翳し、オメガデッドは両腕を構えて二体の拳を受け止める。

 

『これも余興か? ヘル』

「おいおい、何でもかんでも俺の仕業にすんなよ。バーニングドラゴンとスーパーディラノス、確か此奴ら二体を扱ってのは」

 

何かを察したように前方奥へ視線を向け、その視線の先に映る一人の人物。

 

「やっぱお前か、ドレイク」

 

ヘルの予想通り、視線の先に居たのはドレイクの姿だった。

 

「ルディアの残党が、俺に何の用だ?」

「……テメェに説明する義務はねぇ。バーニングドラゴン、スーパーディラノス! やれッ!!」

 

""グオオオオオオォォォォォォォ────ッ!!""

 

同時に吼える赤き二体の龍、バーニングドラゴンとスーパーディラノスは防がれてもなお、さらに拳を振るって行きオメガデッドはガードするように両腕を構え防いでいく。

 

「オメガデッド以外にバトルフィールドの外でスピリットを実体化させるとはな、一体それは何の道具だ? そんな発明、俺はした記憶はないが?」

「フン、変な女から成り行きで受け取っただけだ。存分に利用させてもらうけどな!!」

 

以前出会った異世界から来た女性から受け渡されたBパッドと呼ばれるツール。それを駆使してバーニングドラゴンとスーパーディラノスの二体を実体化させており、バーニングドラゴンはさらに激昂するように強く雄叫びを上げ、両拳に炎を纏わせると、炎を込めた両拳を一気にオメガデッドへと叩き込み、巻き起こる爆炎と爆風。

 

その衝撃にドレイクは吹き飛ばされそうになりながらも踏み止まるように堪える中、ヘルだけは動じていない様に静かに告げる。

 

「目障りだ、失せろ」

 

ヘルがそう言ったすぐ直後、爆風の中に光る眼光。刹那、オメガデッドは咆哮を上げてその身を輝かせ衝撃波を起こすと、目の前のバーニングドラゴンとスーパーディラノスをいとも簡単に吹き飛ばし、一番至近距離で衝撃波を受けたバーニングドラゴンは倒れ伏し、力尽きたようにその場から消滅してしまう。

 

「!……バーニングドラゴンが、一撃だと!?」

「その程度のスピリット達で、オメガデッドに対抗できるとでも思ってたのか? だとしたらよっぽどお気楽だぜ?」

「ッ!!」

 

ハイドカードの一体であるバーニングドラゴン、その力は七罪竜であるバジュラ達にも匹敵する程。にも関わらずバーニングドラゴンを「その程度」だと切り捨てるのはオメガデッドの前ではどんなスピリットも等しく無力と言う現れ。

バーニングドラゴンを僅か一撃で再起不能にさせてしまう程の力に、それを認めざるを得ない。

 

「化け物が!」

「お前程度じゃ逆立ちしても、俺の相手には成り得ねぇ、よ!」

 

指示を出す様に手を翳すと、オメガデッドは周囲に光弾を作り出し、それをドレイクの足元に向けて撃ち出して行く。

 

「ぐあああああッ!!」

 

爆風に吹き飛ばされ、吹き飛ばされた拍子に腕に付けたBパッドに走る亀裂。機械が壊れた事でスーパーディラノスはその体を維持できないように半透明になって行く。

 

「ぐッ!!」

「無駄な足搔きだったな」

「……まだだァ、ディラノスッッッ!!!」

 

力強く叫び、スーパーディラノスは最後の力を振り絞るように二双の口から火炎放射を放ち、それはオメガデッドの足元に撃ち込まれると巨大な爆発を起こし、攻撃を放ち終えるとBパッドの耐久度は限界を迎えた様に粉々に砕け、それに伴いスーパーディラノスもその場から完全に消失する。

 

 

 

 

「やれやれ、無駄な足搔きだって言うのが分から────!」

 

爆風が晴れてなお無傷の状態であるオメガデッド、しかし爆風が晴れて周囲を見渡すヘル達だが、ドレイクの姿はそこにはなく、ドレイクだけでなく倒れる烈我達の姿もない。

 

「成程。逃げたのか……やれやれ、懸命な判断だと褒めてやるべきか、それとも臆病者と蔑むべきか」

 

指で軽く頬を掻く様な仕草を取りながら呟くヘル。

 

『どうする? 後を追うか?』

「嫌だよ面倒くさい、生憎俺はもうあいつらに興味はねぇんだ」

『興味はない、か』

 

ヘルの言葉に対し、オメガデッドも何かを考えるようにそう呟く。

 

『お前が我に臨んだ欲望、己を満足させるだけの強者だったな。アイツ等で駄目というなら、もうお前が望みが叶う可能性はゼロだぞ』

「あぁそうだな。これからどうっすか」

 

暫く考え込むように、また深く溜息を吐き捨てるヘルだが。

 

「とりあえず場所を変えようぜ、ここは窮屈で敵わん、お前だってそう思うだろ? なぁ…………ミナト君」

 

軽く笑うヘルの視線の先に佇むミナト。オメガデッドは二人を掌に載せ、翼を広げると天上を突き破り何処へと飛翔しその場を後にしていく。果たして、彼等が向かう先とは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……!」

 

目を開ける烈我、彼の周囲に広がったのは光の届かない暗い闇の中。不気味な周囲の光景に状況が理解できないまま辺りを見回すが。

 

『烈我、烈我……!』

「バジュラ!?」

 

暗い闇の中で自分を呼び掛けるバジュラの声、咄嗟に声の方角に振り向くと、紛れもなくバジュラの姿がそこにあり、咄嗟に駆け寄ろうとする烈我だが。

 

『来るんじゃねぇッ!!』

「!?」

 

バジュラの怒号に思わず足を止めてしまう烈我。

 

「何言ってんだよ、バジュラ!?」

『いいから!! 早くお前は逃げろッ!!』

「逃げろ? お前何言って……ッ!!」

 

瞬間、絶句する烈我。視線の先にはバジュラのすぐ後ろで腕を翳すオメガデッドの姿。

 

「や、やめろ!!!」

 

咄嗟にその場に駆け寄ろうとする烈我だが、瞬間、まるで何かに足を掴まれたようにその場に立ち止まってしまう烈我。

 

「な、何で!? 何で……動けねぇんだ!」

『それでいい。じゃあな、烈我』

「やめろ! 行くなッ!! バジュラアアアアアアアッ!!!」

 

必至に叫ぶ烈我、しかし無慈悲なまでにオメガデッドはそのまま翳した腕を振り下ろすと、手の中に消えるように圧し潰されるバジュラ。

 

「バジュラアアアアアアッ!!!」

 

目の前の光景に絶望するように、崩れ落ちる烈我だが。

 

「烈我」

「!」

 

聞き覚えのある声、咄嗟に顔を上げると目の前にいたのは光黄だった。

 

「烈我……!」

「光黄……ッ!?」

 

瞬間、次にオメガデッドは光黄に視線を向けたかと思うとその腕を今度は彼女へと構えて行き。

 

「おい……何する気だよ!」

『……』

「やめろ! それだけは……!! それだけは……!!!」

 

腕を翳し光弾を生み出すと徐々にその大きさを増大させていき。

 

「やめ────ッ!!!!」

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

もう何も奪わないでくれ、バジュラだけじゃなく、仲間を、一番大事な人を俺から奪わないでくれ!!! 俺はどうなってもいい、だから……!!

 

必死に訴える心の叫び、だがそんな烈我の想いを残酷に裏切るように光黄に向けてオメガデッドの繰り出す光弾が放たれ。

 

 

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「烈我ッ! 烈我ッ!!」

「!!」

 

瞬間、再び目が覚め景色が変わったように映る何処かの一室と周囲を照らす室内ライト、そして自分を呼び掛けていたであろう光黄の姿があった。

 

「光……黄……!?」

「酷く魘されたが、大丈──」

 

心配するように烈我に声を掛けようとする光黄だが、それを言い掛けた瞬間、すぐさま光黄を抱き締める烈我。

 

「ッ!!!?」

 

不意に抱き締められ、途端に彼女の表情は真っ赤に染まる。

 

「れ、烈我!? お前……何して!!!」

「……」

「……?、烈我?」

「良かった、俺……お前迄……いなくなるんじゃないかって」

「!」

 

抱き締めたその手は震え、涙を零しながら小さく声を漏らす烈我に彼女は、冷静に戻るように。

 

「落ち着け。俺はここに居る。いなくなったりなんかしない、とりあえず離してくれ」

「……あ、あぁ、ごめん」

 

少し落ち着いたように光黄から離れる。

 

「所で他の皆は!?」

「絵瑠や星七も無事だ、ドレイク達が助けてくれた」

「ドレイクが……そっか」

 

仲間の無事を聞けた事に一瞬安堵するが、すぐに烈我はミナトの事が頭を過り。

 

「ミナトは!? 彼奴は……!」

「それについて、俺からも聞きたい事がある」

「!」

「ドレイクからおおよその状況は聞いてる。でもお前は知ってるんだよな、何があったのか全て」

 

核心に触れる光黄、初めに烈我の様子から彼女も今回の事態について自分の想定以上だと察していた。

 

「光黄、俺……。」

「話してくれるよな。お前の口から全部聞きたいんだ」

「……あぁ」

 

俯き躊躇いながらも重い口を開いて、今回起きた事、ヘルが言った事含め、自分の記憶している全てを彼女に打ち明けて行く。

 

 

 

 

***

 

 

 

「つまり……ヘルさんが今回の首謀者で、ライト達も奪われたままだと」

「あぁ、ヘルは言った。ライトやキラー達の魂、元は一つの魂……それが強欲だって」

「戦ったのか?」

 

光黄からの言葉に、頷きながら。

 

「……でも、勝てなかった……全く太刀打ち出来なかったんだ……バジュラまで……!」

「!?」

 

そう言った烈我の手には何も書かれてない白紙のカードが握られ、烈我にはそれがバジュラだと直感的に理解出来ており、そして瞳から零れる涙がカードに滴る。

 

「烈我!」

「……俺、駄目だった。ライトを取り戻すって約束したのに、何も出来なくて……バジュラまで……失って」

 

止めどなく涙は流れ続け、カードを握る手は震えていた。

 

「お前……!」

「……思い返すだけで怖いって思っちまった。シュオンやフリー、他のハイドカード相手にした時とか怯みそうな度に、バジュラが喝を入れてくれてさ。だからあんま怖いって思う事なんか今まで無かったんだ。

でも、バジュラがいなくなって……思い返す度にさ……体が、震えて止まんないんだ」

「!」

「次戦った時、バジュラだけじゃなく今度は俺も……!」

 

打つ手無くヘルにもう一度挑もうものなら確実に自分の命は無いだろう。嫌、烈我にとって何より恐ろしいのは自分自身ではなく。

 

「……光黄、俺……もう……戦いたく、ない」

「……!」

 

もう既に烈我の心は完全に折れていた。苦しいように押し殺した声で、言ってはならないと分かっていながらその弱さを打ち明けてしまった。

 

「……なあ、光黄。このまま皆で、もう元の世界に帰ろう」

「!」

「……元々俺達はこの世界とは無関係だったんだ、なら──!」

 

逃げ出したい。一緒に逃げてくれ、と彼女の手を握ろうと手を伸ばすがそう言い掛けた瞬間、差し伸べた手を振り払い、言葉を遮るように渇いた音がその場に響く。

 

「え」

 

頬は赤く腫れ、何が起こったのか分からないまま赤く腫れた頬に手を置く烈我。そして彼の前には目線を隠すように俯きながら手を出し、烈我を叩いたであろうその手もまた赤くなっていた。

 

「……光、黄?」

「……関係ないってライト達は?」

「!」

 

そのまま彼女は烈我の胸倉を掴みながら。

 

「ライト達だけじゃない、他の皆は? ヘルの事は放っておくのか? 何よりミナトの事は、このまま見捨てる気なのか?」

「……そ、それは」

「バジュラの事もそうだ、お前は彼奴と戦う覚悟を決めたんじゃないのか? なのにお前は……!」

「だって……しょうがねぇじゃんか!! もうバジュラはいない! こんな俺にどうしろってんだよ!!!」

「ッ!!」

 

胸倉を掴む手をより強く引っ張り、片腕を構える光黄。また叩かれるのかと思わず目を瞑る烈我だが。

 

 

 

目を瞑って数秒、これから来る痛みに待ち構えるも一向に痛みは無く、怯えながらも少しづつ目を開け、真っ先に視界に映った光黄の姿に思わず目を見開いた。

 

「この……バカ烈……!」

 

構えた腕を寸止めし、そう言った彼女の表情は涙に染まっていた。

 

「光黄……!?」

「俺はお前のそんな姿、見たくなかった」

 

突き放すように胸倉を掴む手を離し、そのまま振り返り、烈我を一瞥すること無く部屋のドアまで歩き、ドアノブに手を掛けて。

 

「今のお前なんて、大嫌いだ」

 

最後に冷たく言い放ちながら、彼女は部屋から出て行った。

 

そんな彼女は後ろ姿に何も言えず追い掛ける事も出来ないまま見送ってしまい、光黄が立ち去った後、力が抜け落ちたように倒れ込んでベッドに横たわる。

 

「大嫌い……か」

 

最も大切な人から言われた言葉は心に深く突き刺さる。だが何よりも辛かったのは、何よりも心を抉ったのは、彼女を泣かせてしまった事だ。

他の誰でもない、自分自身のせいで。

 

「……ごめん……俺、最低だ。こんなんじゃお前に嫌われて当然だよな。でも……俺は……俺は!」

 

目を隠すように腕を置いてその場で一人、烈我は泣き続けた。

 

 

 

 

***

 

 

 

「光黄!」

「光黄さん!!」

 

部屋から出た光黄に駆け寄る星七と絵瑠。烈我に言っていた通り二人共無事な様子でそして周囲には罪狩猟団の面々、彼らを保護したであろうドレイク、ミコ、ヴァン、ガイト、ディスト、マチアの面々があった。

 

「光黄さん、その……烈我は?」

「……」

 

星七の質問に対し、彼女は何も言わずに首を横に振る。

 

「そんな……!」

 

「ちょっと。それってつまりリタイアって事かしら?」

「「!」」

 

星七達に対し、真っ先に口を挟んだのは帝騎の一人であるディスト。

 

「マグレとは言えルディア様を倒した彼が今この中で、最も希望があるって言うのに、とんだ期待外れだわ」

「お前、勝手な事を……!!」

 

ディストの言い分に腹を立てるように突っかかろうとする絵瑠だが、二人に対し、「黙ってろ!」と声を荒らげるドレイク。

 

「「!」」

 

「グダグダ余計な討論はいい。それよりディスト、肝心のボス……嫌、ルディアの野郎はどうなんだ?」

「無礼な口聞かないで! ルディア様は……生憎まだ目を覚まさないわ」

「……そうか」

 

今はこの場にはいないが未だルディアは別室にて眠ったままだった。記憶の修正による負荷、それはヘルが口にしていた以上の物という事だろう。

 

「……ミナト、それに烈我の奴が」

「どうしたガイト、何時ものお前なら戦意喪失してる奴なんか煽り倒すと思ってたが?」

「るせえぞヴァン、こちとらダチになった奴に追い討ち掛ける程白状じゃねんだよ」

「フン、変わったなお前」

「お前に言われたくねえよ、お前に」

 

「余計な話はいい、それより今の状況整理が先だ。オイ!」

 

場を取り仕切るドレイク、そして光黄へと視線を向け。

 

「烈我の奴から状況は聞いてるよな。聞いてるなら共有してくれ」

「……あぁ、そのつもりだ」

 

ドレイクに頷いて見せると、烈我から聞いた内容をそのまま全員に伝えていく。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「まさか全てヘルが黒幕でルディア様や私達を利用していたって事?」

「……烈我はそう言っていた」

「確かに奴は隔離していた筈の地下牢から簡単に抜け出したのを知った時から違和感を感じたけれど」

 

「それについて俺からも補足だが、組織から数名抜け出した者がいた。恐らくヘルの内通者だろう、奴が組織内部の情報や場所を熟知してる事についても説明が付く」

 

ディストに続いて、ガイトからの報告。完全に帝騎の面々でさえヘルに出し抜かれていたのだ。

 

「ヘルの手には七罪竜、そして何より強欲の存在。マチア、お前何か知ってるか?」

「ごめんヴァン。アタシも知らない。七罪竜の中で唯一強欲だけはアタシも情報を掴む事は出来なかった」

 

無理もない、そもそも強欲についてライトやバジュラ達も知らなかった情報。恐らく強欲についての全容を知っているのはヘル唯一人だけであろう。

 

 

「強欲、アレの存在を間近で見たがハッキリ言って想像を遥かに超えていた。実際、実体化させたバーニングドラゴンが秒殺された」

「「!」」

 

帝騎の面々はそれぞれ自分の持つハイドカードを見る。我王牙、デュアルベルガス、フェンリルドガルム。光黄達に敗れたとは言えハイドカードは七罪竜に近い程の力を持ち、その絶大さはそれを扱った彼等本人が一番理解している。

だからこそそのハイドカードがオメガデッドに全く歯が立たなかった等、想像出来る筈もないが、それ故に改めてオメガデッドがどれ程の存在かと言う事を思い知らされる。

 

「ガイト、そう言えばお主のハイドカードはどうしたのじゃ?」

「……俺のは、ない」.

「何じゃと!!?」

「「「!?」」」

 

ミコの質問に対するガイトの回答に全員の顔色が変わる。

 

「気が付いた時にはデッキからオルガウェーブのカードは無くなってた。恐らく奪われた」

「ヘルの仕業なのじゃ?」

「多分な」

 

ミコに対し肯定するように頷くガイト、状況としては益々絶望的。

 

「七罪竜は全てヘルの手中。そして他の七罪竜やハイドカードを凌駕する強欲。オマケに頼みの綱であるハイドカードの1枚も敵の手に。まさに絶望的ね」

「……妾達は、どうすればいいのじゃ」

 

「……」

 

打つ手無しと言わんばかりのディスト、ミコやドレイク達も打開策を見い出せないまま口篭るが、そんな中。

 

 

「俺がやる」

「「「!?」」」

 

「「光黄(さん)!?」」

 

絶望的な状況下で真っ先に名乗りを上げる光黄、彼女の発言に絵瑠と星七は最も驚いた様子だった。

 

「貴方が? 馬鹿言わないで! あの彼ならいざ知らずルディア様にも負けた貴方が勝てると思ってる訳?」

「少なくとも、ここで蹲るだけのお前より可能性はある」

「何ですって?」

 

「止せディスト!」

 

一食触発寸前のディスト達に静止をかけるドレイク、その横でマチアは心配そうに光黄を見つめる。

 

「ねえ、本気なの?」

「……あぁ、本気だ」

「でも分かってるの? 相手は得体が知れない。その上今のアンタは七罪竜もハイドカードもない」

「特別なカードはなくても戦う事は出来る。だから俺は、そうするだけだ」

「……光黄」

 

「……それは唯の無謀だぞ」

 

マチアに続き、ドレイクも忠告するように彼女に告げるがそれでも彼女の決意は変わらない。

 

「無謀かどうか、それこそやって見なきゃ分からない」

「!」

「彼奴なら、俺の知ってる彼奴ならきっとそう言ってた」

 

「光黄!」

 

その場を後にしようとする光黄を呼び止めようと絵瑠は叫ぶが。

 

「悪い、少し一人にさせてくれ」

「待って! 光黄!!」

 

外へ飛び出して行く彼女に、絵瑠も追うようにその場を飛び出して後を追い掛けて行く。

 

 

「……ドレイク、どうすれば良いのじゃ」

「俺に聞くな。彼奴らの問題だ、首を突っ込む義理はねえ」

「じゃが……!」

「クドい!」

「!……ごめんなのじゃ」

 

返す言葉はなく口を噤むミコ、策もなく虚しい静寂だけが流れるが。

 

「せめて……ハイドカードのような切り札がまだあれば」

 

不意にボソリと一言を零すミコ。その言葉に対して反応を示すようにディストは。

 

「そう言えばルディア様が言ってた」

「「「?」」」

「もし七罪竜の確保が難しい場合は、「あのカードを手に入れる必要があるかも」って」

 

「オイ、何だその話は?」

 

ディストの話に対し、真っ先に問い質すドレイク。

 

「し、知らないわよ。ルディア様がそう言ってたのを偶然聞いたのよ。ただ、口振りからしてハイドカードをも超えるかもしれないって思って」

 

「待って、その話ならアタシも覚えがある」

「「「!!?」」」

 

今度はマチアからの言葉に全員が反応を示す。

 

「七罪竜の頂点に立つのが強欲なように、ハイドカード達を統べる王のような存在があるって、そういう話を聞いたんだ」

「マチア、その話詳しく教えろ」

「いや、でも信憑性はかなり低いよ。実際アタシも情報元に赴いたけど収穫はゼロだったし」

「いいから教えろ! その情報について知ってる事全部!」

 

ドレイクに対し、「眉唾でも文句は言わないでよね」と釘を指しながらマチアは自分が知り得る情報を全員に伝えていく。

 

 

 

 

***

 

 

 

「光黄……!!」

 

何処へ向かっているのか、後ろから呼び掛ける絵瑠に対して全く足を止める事なく先へ先へと進む彼女だが。

 

「光黄! 待ってってば!!」

「!……絵瑠!」

 

駆け出し強引に彼女の前に飛び出すと、行く手に立ち塞ぐ絵瑠に光黄もようやく足を止める。

 

「一体どうしたんだ? 何だかお前らしくないぞ」

「……俺らしくない、か。はは、確かにそうかもな」

「……光黄」

 

何でもないように軽く笑う彼女だが、絵瑠にはそれが作り笑いだという事は直ぐに理解できた。

 

「やっぱり、烈我の事気にしてるのか」

「……嫌、別に」

「嘘言うな!」

「!」

 

気丈に振る舞おうとする彼女だが、それが見ていられないように叱咤する絵瑠。

 

「今更抱え込もうとしないで! 前に私に言ってくれたよな? 私の事友達だと思ってるって!」

「……」

「シュオンと会う前の私は、お前の事を妬ましいと思った事もあった。けど今は違う! お前が友達って言ってくれた日、私はなによりも嬉しくて、お前とライバルで、友達としていられる事が今じゃ私にとって誇りなんだ!!」

「絵瑠」

「なのに、私はお前の友として何も出来ないのか? 友達が……お前がそんなに苦しいのに、私はそれを見てるしかないのか!!」

「……」

「頼むから……「助けて」って言って。お願いだから……烈我みたいに一人で苦しむのはやめてくれ!」

 

涙目で訴える絵瑠に対し、彼女はもう何も言い返せなかった。

ただ、静かに彼女は。

 

「絵瑠……俺は……!」

「!」

 

今までずっと他人に弱みを見せる事がない彼女が初めて、絵瑠の目の前で泣き崩れた。そんな彼女を抱き締めるように受け止めながら。

 

「ごめん……ごめん……絵瑠、俺は……。」

「分かってる。分かってるから、今は何も言わなくていいよ」

 

泣き崩れる彼女に絵瑠はその後何も言わず、ただその涙を受け入れ続けた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『烈我』

「!」

 

コンコンとノックする音に続いて自分を呼ぶ声、声の主は星七だった。

 

「今、入っても大丈夫ですか?」

「う、うん。平気だぜ」

 

ドアを開けてそのまま失礼して、烈我の隣に座る星七。招きはしたものの星七に対してどう声を掛けていいのか、言葉が見つからない烈我だが。

 

「光黄さんから、事情は聞きました。ヘルさんの事、強欲の事……そして、エヴォルやバジュラ、それにミナトさんの事全部」

「……俺の事は?」

 

身体を震わせながら尋ねる烈我に対し、星七は静かに視線を烈我へと向ける。

 

「光黄さんは言ってました。烈我さんは戦わないって」

「……そっか」

 

星七に対し、罪悪感を感じるように視線を逸らし俯きながら。

 

「ごめん、星七」

「?」

「元々星七はバトルしたきっかけが俺って言ってくれたよな。なのに……今の俺がこんなザマで、幻滅……したよな」

 

俯き顔も合わせられない様に呟く烈我、しかしそんな烈我に対し、「いいえ」と首を横に振りながら真っ先に否定した。

 

「……ヘルさんが敵って分かった時僕は何も出来なかった。強欲すら使ってないヘルさんに惨敗した僕に、烈我を幻滅する資格すらないです」

 

ヘルと戦った時の事、何もできず敗北した時の事を思い返す様に拳を握りしめる星七。

 

「ヘルさんと戦った時、僕も恐ろしいって思いました。エヴォルは奪われて自分の無力を思い知らされて……でも、烈我は僕よりももっと恐怖を感じたんですよね、僕等が想像もできないぐらいの」

「……」

「だから無理に烈我に戦ってとは言いません。烈我の代わりに僕が戦うつもりです」

「ッ! やめろ星七、お前じゃ──!」

「勝てない、そう言いたいんですよね」

「!」

 

自分ではヘルに及ばないかもしれない、そんな考えは星七自身もまた重々承知していた。

 

「もし負ければどうなるか分からない。死ぬかもしれない……でも烈我は自分よりも、僕等がそうなる事が怖いですよね」

「な、何で!?」

「何でって分かりますよ、烈我は僕の目標ですから。ずっと見てきた……烈我がどういう人間なのか、自分以外の誰か……僕達や何より光黄さんを大切に想ってる人なんだなって。

恋愛とかは良く分からないですが、それぐらいは分かってるつもりです!」

「……本当にそう思うのかよ? 俺がそんな奴だって」

 

不安な様になおも俯いながら尋ねる烈我だが、それでも星七は何一つ躊躇う事無く真っ直ぐな表情を烈我へ向けて。

 

「はい! そう思うから烈我は僕の目標なんです。烈我が僕らを大切に思ってるように、僕だって烈我は大切な仲間ですし、きっと絵瑠さんや、光黄さんも……!」

「光黄、が」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

一方で話題になっている当人である絵瑠と光黄は外の岩場に並んで腰掛けながら。

 

「……烈我の事、まだ心配なのか」

 

絵瑠からの質問に静かに頷く光黄。

 

「彼奴がバジュラ達と一緒に戦うって聞いた時、いつかこうなるんじゃないかって予感があったんだ」

「予感?」

「……あぁ。罪狩猟団を倒すだのなんだのそれを一人で全部やろうしていた。だからいつか一人じゃ抱えきれなくなって、彼奴が傷ついて立ち上がれなくなるんじゃないかって不安を感じてた」

「……」

「だから俺は彼奴のことを守りたいって思った。ライトと出会って、いつかこの力でそうならないよう、彼奴の事を守れればって。ずっと……!」

 

分かっていた筈なのに、それでもどうする事も出来なかった自分に腹が立つ様に自分の腕を強く握りしめる。

 

「なのに俺は、ルディアに負けて何もすることが出来なかった。烈我に全て押し付けて、結果彼奴が傷ついて苦しめた」

「それはお前のせいじゃ……!」

 

否定しようとする絵瑠だが。

 

「彼奴が傷ついて苦しい時、本当は支えになるような言葉を言ってやりたかった。お前の分まで俺が戦うから、もう何も心配しなくていいって安心させてやりたかった」

 

「でも」と彼女はさらに言葉を続けて行き。

 

「言えなかった。彼奴に対して……誰よりも辛くて苦しい彼奴を突き離してしまった。自分でも、それが苦しい筈なのに」

「……光黄」

「冷たい奴だなって思う。おかしいと自分でも思う。それなのに、俺は……。」

「それって、烈我に立ち上がって欲しいからだろ」

「!」

「信じてるから。彼奴なら立ち上がれるって信じてるから光黄はそう言ったんだろ?」

「…………俺は」

「大丈夫。私も信じてるから、烈我ならまた立ち上がって来るって。それにミナトの事も」

「!」

 

心配でないと言えば嘘になる、それでも光黄が烈我を信じているように絵瑠もミナトが必ず元に戻ると信じて疑う事は無かった。

 

「絵瑠の方が、俺よりよっぽど強いな」

「まさか……私なんてまだまださ。けど、ライバルに……お前に負けてられないだろ?」

 

にこやかに笑う絵瑠に対し、彼女も口元を緩ませる。

 

「あぁ、ありがとう絵瑠」

「勝ってみんなを助ける! ライトやシュオン、それに……ミナトの事も!」

「うん、そうだな」

「その為にも、みんなで協力しないとな! だから戻ろう」

 

指し伸べる絵瑠の手に、彼女は頷きながら掴み立ち上がる中、そこへ。

 

「あっ、いたいた。探したよ」

「「マチア?」」

 

遠くから二人に声を掛けるマチアの姿、何事かと思いながら二人もマチアへと合流し。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「星七、俺どうしたらいいと思う?」

「えっ?」

 

再び舞台は戻り、ふと烈我から尋ねられる星七。

 

「戦うのが怖い。けどミナトやライト達も助けたい。その気持ちは光黄達と同じだから、戦おうとする光黄達を止める事すらできない」

「烈我……。」

「もう自分でもどうすればいいのか分かんねぇよ。何が正解か、どうすれば後悔しないのか、分からなくて、結局何もできない」

「……残念ですけど、どうすればいいか。それを決めるのは僕じゃできません」

「……」

「でも光黄さんは戦わないって言ってた。戦えない(・・・・)じゃなくて」

「!!」

「光黄さんは必ず烈我さんはまた立ち上がってくれるって信じてるんです。勿論僕も……けど、それでもどうするかを最後に決めるのは烈我さん自身です」

「どうするか決めろって言われても、俺にもうできる事なんて──」

 

そう言い掛けた直後、突然ドアを蹴破り現れる人影。

 

「「ドレイク!?」」

 

入室したのはドレイクの姿、無遠慮にそのまま烈我の前まで歩み寄って行く。

 

「何てツラしてやがる。再戦するんじゃなかったのか?」

「……ドレイク」

 

「ドレイク! 急に何しに!!」

「星七つったか? コイツと二人で話したい。だから席外せ」

「なッ! 烈我に何の用ですか!!」

「お前に関係ねぇよ。ミコ、連れてけ」

 

何処からか現れたか、ドレイクの一言と同時に星七の背後からミコが現れ羽交い締めにして拘束。

 

「悪く思わんで欲しいのじゃ」

「ちょ、離してください! 烈我ーーっ!!」

 

「せ、星七!?」

 

連れていかれる星七の様子に呆気に取られるが、直ぐにドレイクの方へ視線を戻す。

 

「……俺を笑いにでも来たのかよ?」

「抜かせ。笑うだけの価値もねぇよ」

 

辛辣な言葉を向けるドレイクだが、言い返そうとはせずただ俯くが、そんな烈我に軽く舌打ち。

 

「ケッ、腑抜けが。テメェに負けたと思うと心底腹が立つ」

「悪かったな。こんな様で」

「悪いと思うなら立ち上がって見ろ。テメェにリベンジするだけの価値があると思わせてみろ」

「……勝手な事ばっかり。お前に俺の気持ちなんて──!」

「知らねえよ。別に知りたいとすら思わねえ」

 

「けどな」と付け足し、さらに強く言葉を続けて行く。

 

「テメェが今そうやって何もせず蹲ってりゃ、他の奴らは戦わないなんて思ってたら、大きな間違いだぞ」

「!」

「落ち込みたけりゃ一人で落ち込んでればいい。他の奴が倒れる事になってもな!」

「ッ!!!」

 

その言葉に思わず烈我は歯噛みし、ドレイクは一瞬ドアの向こうに視線を配ったと思うと、またすぐに烈我の方へ向き直り。

 

「テメェ、俺に言ったな? 俺が「戦うのは誰かを守る為」だって。あぁ、そうだよ。癪だが認めてやるよ、確かに俺はミコを守りたいと思った。

突き放してでも危険な目に合わせたくなかった。大切だと思うからこそ……テメェと同じだ」

 

「本当に癪だけどな」と憎まれ口を挟みながら。

 

「だけど突き放そうとしても彼奴は結局俺を見捨てなかった。彼奴は俺が思ってるよりもずっと強え。テメェの仲間だって同じだ。

お前に代わって戦おうとする。お前を守りたいから、お前の分まで戦おうとする」

「……もし、俺がこのまま戦わなかったとしたら?」

「死ぬな。立ち向かったテメェ等の仲間は全員」

「!!」

 

残酷なドレイクの一言、その言葉に思わず体が震える。

 

「なら、俺が戦えば……変えられるか」

「……どうだろうな。お前が戦おうとしても、結局結末は変わらねぇかもしれねぇ」

「じゃぁどうすりゃいいんだよ!!」

「決まってる」

 

振り向く烈我に対して、ドレイクは。

 

「強くなりゃいいだけだろ。ヘルの野郎も、オメガデッドも全部ぶっ潰せるぐらいによ」

「!」

「テメェ一人がだけじゃねぇ。お前等の仲間も誰かを守りたいから強くなる。全員で強くなって、倒せるようになればいい」

「……強くなる、俺に出来るのかよ?」

「さぁな。やるかやらないかだけだ」

「……」

 

自分のデッキを取り出し、静かにもう今は影も形もないバジュラのカードをじっと見つめる。

 

もしヘルに立ち向かえばどうなるか、敗北すればどうなるのかそれに対する恐怖がある。だけど烈我にとって守りたいものはただ1つ。

 

「やるよ」

「!」

「バジュラがもしいたらきっと俺の事ぶん殴ってる、殴られて……それでもバジュラはきっと俺のことを許さない」

 

ドレイクが言ったように自分が戦っても戦わなくても結果は一緒なのかもしれない、それでも可能性はある。その可能性にすら目を背けて、自分の仲間を、大切な人を見殺しにする事だけは絶対に出来ない。

 

「後悔はねぇな?」

「……正直まだ怖ぇよ。けど、もしこのまま何もせずもし光黄達を見殺しにしたら、きっと後悔じゃすまなくなる。彼奴の事を守れるように、バジュラのパートナーに恥じない為にも!!」

「守りたいって思ってんのはお前だけじゃないだろうがな。けど、今の言葉が本心なら充分だ」

 

口元を緩ませながら言うと、一枚の紙を烈我へと投げ渡す。

 

「!」

「マチアからの情報だ。オメガデッド、奴が七罪竜達の王とするならハイドカードにもそれに似た存在があるらしい」

「!!?」

「詳しい情報はマチアから聞け。他の奴には既にマチアが伝えに行ってる。エヴォルの使い手はもう既にそこに記してる場所に向かった。お前はどうする?」

「……!!」

「それが最後の希望か、若しくは絶望かは分からねぇ。でも、もうそれに縋るしかねぇとしたらどうする?」

 

それしかないのならば、答えは決まってる。

 

「やる! まだわずかでも希望が、可能性があるならそれに賭ける!!」

「じゃあさっさとそこに向かえ。守るんだろ、仲間を。大切な奴をよ」

「ドレイク達は?」

「俺等は他にやる事があるんでな。そっちはテメェ等だけに任せる」

「やる事?」

「俺等の問題だ、ともかく行け」

 

気になりながらも、それ以上追求する事は無く、その場から立ち上がり部屋を飛び出そうとする烈我。

 

「ドレイク」

「!」

「ありがとう」

「フン、さっさと行け」

 

ドレイクに礼を告げ、部屋を飛び出しその場を後にしていく烈我、そして烈我と入れ違いになるようにミコがそこへ顔を出し。

 

「ホント、お主は素直じゃないの」

「ミコ、お前盗み耳立ててんじゃねぇぞ」

「べ、別に盗み聞きなんか……!!」

「フン、それより俺等も行くぞ。奴のとこへ」

「……」

 

ドレイクの言葉に黙って頷くミコ。彼等もまた自分達が行くべき場所へ向かおうとしていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

案内された場所へ向かって掛けて行く烈我、息が切れるまで全力で走り、そして向かった先に。

 

「「「烈我(さん)!」」」

「!!」

 

駆け抜けた先には絵瑠や星七、そして光黄の姿。

 

「烈我、お前……!」

「光黄、皆……ごめん。やっぱ俺、戦いたい。何もしないなんてやっぱ俺にはできない!!」

「…………」

「だからもう一度戦う! 今度は全員守れるように……!! お前の事も!!」

 

力強く言い放つ烈我、その言葉に光黄は少しだけ口元を緩ませると。

 

「俺の事を守るか、俺はお前より強いが?」

 

笑いながらそう言った光黄の表情は強気と自信に溢れた何時もと変わらない彼女だった。

 

「……分かってる。だからもっと強くなる! お前に勝てるぐらい、お前のことも守れるぐらい、もっと!」

「生憎強くなるのは俺の方だ。強くなってライト達を助ける。お前の事も、助けられるぐらいな」

「あぁ、それでこそ光黄だよな」

 

互いに認め合う様に自然と笑う二人、そんな二人に星七と絵瑠の二人も微笑ましく笑い。

 

 

「ようやく来たね」

 

そんな彼等を出迎えるマチアの姿、今いるこの場所こそが彼女が指定した場所だった。

 

「ここがハイドカード達を統べる王が眠るとされる場所」

「マチア、それって?」

「うん。多種多様なハイドカード、かつてある男はそのエネルギーを集めて絶対的な存在を作ろうしたけどあくまでそれは紛い物。本当のハイドカード達を統べる存在は別にいる」

「!!」

「名は剣龍神、ゴッドキャリバス。最強のハイドカードの名前だよ」

 

マチアの言葉に、思わず全員が息を呑む。

 

「そしてここが剣龍神が目覚めるとされる場所なんだけど……。」

「?」

 

バツが悪そうに言葉を詰まらせる彼女。

 

「ドレイクにも言ったけど、私が前にここに来た時の収穫はゼロ。祠の奥は何もないただの行き止まりだった」

「……折角ここまで来たんだ。とりあえず調べるのが先だろ」

 

「あぁ、そうだな」

 

光黄の言葉に頷く烈我、そして二人が先に祠の中へと入り続けて中へ入ろうとするマチアだが。

 

「!!?」

 

入ろうとした瞬間、祠から弾かれるように突き飛ばされるマチア。弾かれる彼女を咄嗟に星七と絵瑠が受け止める。

 

「「マチア!?」」

 

その様子に烈我と光黄も気付き、慌てて振り返る。

 

「何で……前にアタシが来た時は普通に入れたのに!?」

「これって!?」

 

星七達も祠に手を翳してみるが、まるで見えない壁でもそこにあるかのように祠の中に立ち入る事ができないでいた。

 

 

 

 

『悪いけどここから先に入るべき人間は選定させてもらってるみたいだな。剣龍神の試練を受けるべき人間が誰かを』

「「!?」」

 

祠の奥から聞こえてくる謎の人物の声、それに思わず身構える二人。

 

「誰だ!!」

 

烈我の声に、足を止める人物。

 

『悪い、驚かせたみたいで。まずは自己紹介だな』

 

祠から差し込む光にその人物の姿が鮮明に映り、ヘアバンドに橙色の髪、そして烈我達の変わらない年代の少年の姿がそこにあり。

 

 

 

 

「俺の名は若槻和人。剣龍神ゴッドキャリバスが選んでくれた元パートナー!」

「「!?」」

「まっ、よろしくな!!」

 

突拍子もない言葉、驚く二人を他所に和人と名乗る少年は親指をグッと上げながらそう言った。




第37話!! 無事更新できました!!!
今回はバトルなし回で申し訳ないです。( ;∀;)


今回はサブタイから察された方からもいるかもしれませんが、今回最期に登場したのはまさかの……!!!!!

次回はどんな展開なのか!是非ご期待くださいませ!!!!




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