バトルスピリッツ 7 -Guilt-   作:ブラスト

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第40話【唯我独尊、イグニール降臨】

『ヘル、報告だ』

「!」

 

異世界であるスピリッツエデン、その中心地とされる平地。人の気配はなく荒地のみが広がる場所、だった筈だが、荒地のど真ん中に周囲の風景にそぐわない巨大な城の様な建造物が建てられ、城の内部にて会話を交わすのは強欲を司る七罪竜、オメガデットとこの世でただ一人、オメガデッドに選ばれし人間、ヘル。

 

『バジュラの魂が蘇った』

「何……?」

 

僅かばかりヘルの表情が曇る。他でもない最期を見届けた筈のバジュラが蘇ったというのだから当然だ。

 

「バジュラの魂は回収したんだろ?」

『そのつもりだった。だが奴の魂を取り込む時、バジュラは最後の最後まで足掻き切った。故に完全に取り込むには至らなかった』

「つまり取り損ねた分の魂が蘇った、そういう訳か」

『あぁ。バジュラの魂は他でもない我の一部。だから奴の復活の兆しを感じたからこそお前にも伝えた方がいいと思ってな、どう動くかはお前に任せる』

「…………」

 

オメガデッドの言葉にヘルはそれ以上の反応を見せることは無く、ただ静かに考え込み暫し静寂が流れるが、暫くしてヘルは目を瞑ってその口元を緩ませる。

 

「バジュラの復活、という事は烈我達か」

 

静かに呟いて笑みを浮かべると、とある方向へと視線を向けて。

 

「この期に及んでまだ諦めずに頑張ってるとは感動だ。流石は君の友達だ、なぁ……ミナト君」

 

ヘルの視線の先には無言のままその場に立ち尽くすミナトの姿。

 

「折角なら挨拶しといた方が、いいんじゃないか」

「……」

 

不穏を感じさせるようにミナトに告げる言葉、果たして彼の真意は。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「バジュラの復活、ひとまずおめでとうって言っておいた方がいいのかな」

 

一方で和人達による試練を終え、無事バジュラと再会を果たした烈我達。彼らの功績に対して労いの言葉をかけるマチア。

 

「ありがとうって言いたいけど、まだ終わりじゃない」

『おぉよ! 折角復活したんだ。なら次はヘルと、強欲野郎に借りを返すッ! 必ずなッ!!』

 

リベンジに燃える烈我とバジュラ、口にしなくても伝わる闘志に心配や労いは不要だと悟るマチア。

 

「私は一旦ヴァン達の所へ戻るけど、アンタ達はどうするの?」

「え、えっとそれは……!」

 

「俺達は俺達で一旦今後の作戦会議だ。無策のままヘルの所へ突っ込む訳には行かないだろう」

 

口籠る烈我に代わって話す光黄、彼女の言う通りヘルと戦うにはまだまだ準備不足だ。

 

 

「分かった。通信機渡しておくからまた連絡して。何か情報があったらこっちからも連絡するし」

「あぁ、気を付けてな」

「お互い様にね」

 

「それじゃあ」と一旦別れを告げてヴァン達の元へ帰還するマチア、一方で烈我達は烈我達で今後どうするかだが。

 

 

「まずは状況を整理します。僕達の目的はヘルを止める事。そしてオメガデッドを倒して僕はエヴォルを救いたいです」

 

これからに向けての作戦会議、自分達の目的を改めて再確認するように切り出す星七。

 

「俺も同じだ、俺だってライトを助けたい」

「私もシュオン、それから…………ミナトの事も」

 

ふと零す絵瑠に全員が頷く。自分たちの相棒の七罪竜達、そして大切な友人であるミナトも助けたいと切に思う。

 

「ミナトの事は正直まだ許せないと思った事はある。でもだからって、こんな形でお別れしたい訳じゃない」

「……絵瑠」

「今は彼奴を助けたい。また会って話したい、それが私の正直な気持ちだ」

「俺も同じだ、今度は絶対彼奴の目を必ず覚まさせる。なっ、バジュラ!」

 

『ハッ、俺のやる事なんざ変わらねぇ。俺の怒りを以て目の前の相手をぶっ倒す。そして何より俺がぶっ倒したいと思ってるのはヘルとオメガデッドッ!』

 

一度は負けた相手、だからこそ次は勝つと心に誓うバジュラ達だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前らじゃ無理だよ』

「「!」」

 

瞬間、彼等の意気込みをぶち壊すかのように響く声、と同時に目の前の空間は歪み始め、何事かと構える烈我達だが歪んだ空間は扉となって開かれ、彼の前に姿を現す人物。

 

「ミナトッ!?」

「「!!?」」

 

予期せぬ再会に思わずその場の全員が動揺を表情に表すが、ミナトはまるで普段通りに振舞うように涼しい顔で笑って見せる。

 

「よぉ、久しぶりだな。烈我に星七、絵瑠や光黄ちゃんもお変わりないようで?」

「ミナト……!!」

 

最後にミナトと会った時の記憶が烈我の脳裏に浮かぶ。仲間との再会、烈我達にとって当然嬉しい筈なのに操られた彼を前に素直に喜べず歯痒さに表情を歪ませる。

 

「随分怖い顔してるな、あの時蹴飛ばした事、まだ怒ってるとかか?」

「……ッ!!」

 

揶揄う様に笑う港に烈我は静かに拳を握り締める。

 

「無駄話はいい。それよりミナト、さっきの言葉どういう意味だ?」

「……「どういう意味」ってそりゃあ」

 

烈我からの質問に対して、途端にミナトは先程までの笑った表情から非情な程冷たい顔へと切り替える。

 

「言葉通りだよ。お前らが束になろうが、あの人に……ヘル様に勝てる訳がない」

「!?」

 

陽気で明るい普段のミナトの面影を一切残さない冷淡な態度での一言。さらに「ヘル様」と口にした事が今なお彼がヘルに操られている事の何より証拠。

 

「それと、まさかまたお前に会えるとは思ってなかったよ。バジュラ」

 

烈我達から今度はバジュラへと視線を向けるミナト、彼から感じるキナ臭い雰囲気にバジュラは睨み付ける様に港を見る。

 

『ヘルの傀儡か、今のお前をキラーが見たらきっと失望するだろうぜ』

「キラー? 此奴がどうしたって?」

『!!?』

 

ふと取り出す一枚のカードにバジュラは目を疑った。ミナトの取り出したカードは紛れもなくキラーのカードであり、バジュラだけでなく烈我達も驚きを隠せなかった。

 

「何でお前がそれを?」

「元々俺はキラーに選ばれた人間だぜ。持ってても不思議じゃないだろ? 最も今の此奴の魂はオメガデッドに取り込まれたまま。殻になった此奴をヘル様から受け取ったに過ぎないがな」

 

ヘルも以前烈我とのバトルした際にオメガデッドを手にしていながらも、キラーやライトなど他の七罪竜のカードも普通に使用していた。その時のカードを恐らくミナトへ渡したのであろう。

 

「まっ、余計な話はここまででいい。それより本題だ、バジュラを俺に渡せ」

「!?……バジュラをどうするつもりだ?」

「決まってる。オメガデッドに差し出すだけだ。今度は魂の一欠けらも残さないようにな!」

 

「やめてくれミナト!!」

 

「!」

「絵瑠!?」

 

一触即発の二人の間に割って入る絵瑠、動揺する烈我を他所に彼女は言葉を続けていく。

 

「ミナト、お前とは色々あったけど、それでもお前の事……大切な友達だと思ってる。だからできればこんな形でお前と戦いたくなんかない。私はお前にまだまだ伝えたい事もたくさん!!」

「絵瑠」

 

優しく微笑んで絵瑠に歩み寄り、そっと耳元で囁く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の邪魔、するなよ」

「え」

 

豹変したように冷淡な一言、そして次の瞬間、絵瑠を突き飛ばし理解が追い付けず固まったままの絵瑠に対してミナトはキラーのカードを構えると、実体化するようにキラーが本来の姿となって飛び出し、絵瑠へと牙を向ける。

 

「!」

「絵瑠ッ!!!」

 

咄嗟に絵瑠を庇う様に、烈我は彼女を抱えて地面に倒れ込んでキラーの牙を間一髪で避ける。

 

 

「「烈我ッ! 絵瑠(さん)ッ!!」」

 

衝撃的な光景を前に、二人の身を案じて呼びかけながら駆け寄る星七と光黄。

 

「俺は大丈夫。それより絵瑠は!!」

「わ、私も大丈夫。で、でも……今ミナト本気で」

 

何が起きたか理解できず動く事すら判断できなかった彼女、もし今烈我に助けられなかったら、と最悪の想像に恐怖が全身を駆け巡る。

 

「ミナト……お前ぇッ!!!」

「俺の、嫌、ヘル様の邪魔をする奴は全部潰す。元々俺はそのためにここへ来た。当然の行動だろ?」

 

 

「ミナト……!」

 

操られた今のミナトはもう完全に自分の知っているミナトとは別人だ。自分の知っているミナトは明るく時折冗談や調子のいい面もあったりするが、それでも誰よりも仲間に対して優しく温かった。だがもう自分の知るミナトはいない、目の前の事実に彼女は恐怖よりも、辛い感情に思わず涙が零れる。

泣き崩れる絵瑠に、烈我は。

 

 

「ヘル様、ヘル様……俺の、俺達の知ってるミナトはどこに行っちまったんだよ。今のお前にとって、俺達の事なんてどうでもいいのかよ!!」

 

抑えきれない怒りを声に出して、ミナトに問いかける烈我。だが、それでも彼は何一つ表情を変えることは無く。

 

「あぁそうだよ。今更な事聞くな。今の俺はヘル様の道具だ。お前等の事なんか簡単に切り捨てられるよ」

「……!!」

 

残酷な一言に、烈我は。

 

「……ざけんな」

「?」

「ふざけんな!! 今のお前なんかミナトじゃねぇ!!! 俺や絵瑠が知ってるミナトはお調子者でナンパばっかり、時々人をおちょくって来るけど、でも! 絶対に仲間を、友達を傷つけたりなんかしねぇ!! 誰よりも友達思いで俺達にとっての親友なんだ!!! だから返せッ!! 俺達の知ってるミナトを返せよッ!!!!」

「返せも何も俺は俺だ、訳の分からん言い分を押し付けてくるのはやめてもらえるか?」

「うるせぇッ!! 絶対勝ってお前の目を覚まさせてやる!!!」

 

力強くデッキを構える烈我、怒りの籠る烈我の表情にバジュラは口角を上げ。

 

『いい怒りだ、復活して早々、テメェと初めて会った時の事を思い出すぜ!』

 

始めて烈我と会った頃の記憶。出会って早々ドレイクと対面し怒りのままにデッキを構えた烈我に力を貸した時の事を思い出し、懐かしさを感じる様に笑う。

 

『けどもう俺もお前も昔のままじゃねぇ、今の俺達は怒りも腕もさらに昂ってやがる!! とっとと勝って、奴らの目を覚まさせんぞ!!! じゃねぇと俺の怒りは微塵も収まりやしねぇ!!』

「おぉ!! お前と一緒なら、もう誰にも負ける気なんてしねぇ!!」

 

「怒りで冷静な判断すら出来ないのは考えもんだぜ? まぁいい、どちらにしろすぐに分からせてやる。お前じゃ俺やヘル様に絶対に勝てねぇって」

 

ミナトも同様にデッキを構え、互いに烈我はカードへと戻ったバジュラを、ミナトはキラーのカードをデッキへと加え、舞台を整える様にミナトは取り出したキューブ上のデバイスを足元に投げ、二人をバトルフィールドへと誘うべく光のサークルが二人を囲う。

 

 

「「ゲートオープン! 界放ッ!!!」」

 

バトルフィールドへと転送される二人。二人の様子はスクリーンの様にバトルフィールド外の絵瑠達に映し出され、三人とも烈我の勝利を祈りながら静かに見守り、バトルはミナトの先行から開始されて行く。

 

 

 

 

────第1ターン、ミナトside。

 

[Reserve]4個。

[Hand]5枚。

 

「メインステップ、異海人シャークマンを召喚。召喚時効果、手札にあるコスト4以下のネクサスをノーコストで配置。俺が選ぶのはNo.36バーチャスアイランド」

 

開始早々、青のサファイアが出現と同時に砕け現れるシャークマン。自身の効果によってさらに手札を切りバーチャスアイランドがミナトの背後に建築されていく。

 

「ネクサス配置後、シャークマンの効果でバーチャスアイランドにボイドからコアを追加。さらにそのコアを使ってマジック、ストロングドロー!」

 

マジックの効果は3枚ドローした後に2枚のカードを破棄する効果。効果に従い「ディアマントチャージ」と「轟魔神」を破棄。

 

「バーチャスアイランドの効果、お互いの効果によって自分の手札を破棄した時、ボイドからコア一つをこのネクサスに追加!」

 

「(先行からコアブーストの連続。流石はミナト)」

 

操られてるといえど、彼の実力の高さは健在。一瞬も気を抜けないバトルになる事は必須。

 

「シャークマンをLv.2に、俺はこれでターン終了だ」

 

 

 

 

────第2ターン、烈我side。

 

[Reserve]5個。

[Hand]5枚。

 

「俺のターンだ! バーストセットしてライトブレイドを召喚、さらに創界神アポローンを配置!」

 

烈我の背後に姿を現すアポローンの幻影。配置時によって神託を行い、トラッシュに送られたのは「太陽神龍アポロヴルム」、「レイニードル」、「ソウルドロー」の3枚。

 

「神託対象は1枚、よってアポローンにコア1つ追加! もう一枚、手札から煌星の第五使徒テティス召喚!」

 

アポローンの神託条件を満たすスピリットが召喚されたことにより、アポローンに自動的にコアが追加され、これで合計2つ。

 

「フッ、いつもの攻撃パターンか」

「うるせッ! ミナト、絶対勝ってお前の目を覚まさせてやる! アタックステップ!!」

「来い」

 

手招くような素振りで攻撃を促すミナト。端から攻撃するつもりの烈我にとってはミナトの態度は意にも介さない。

 

「テティスでアタックッ! アタック時効果で1枚ドロー、さらにフラッシュ! アポローンの【神技】を発揮! シャークマンを破壊だッ!!」

 

速攻を仕掛ける様に突っ込むテティスと合わせるようにアポローンはシャークマンに向けて矢を射り、炎の矢に貫かれたシャークマンは爆散。

 

「破壊した事で1枚ドロー! テティスのメインアタックだ!」

「ライフで受けてやる」

 

先手必勝の如く展開されたバリアに撃ち込まれるテティスの拳。火花を散らしながらバリアは砕け、ミナトのライフが1つ削られるが。

 

「ッ! ……ハハッ、この程度で俺の目を覚ます? 冗談だろ。益々眠くなるんだよッ! ライフ減少時でバースト発動!!」

 

余裕の表情でライフの破壊によるダメージを受け切ると、反撃と言わんばかりにバーストのトリガーが開かれる。

 

「バースト効果、デッキから3枚ドローした後、1枚破棄。その後このスピリットをバースト召喚できる!」

「!!」

「生温い浅瀬に浸る得物共を絶望の底まで引きずり落とせッ!! 宇宙大海晶ヴァルダラム、バースト召喚ッ!」

 

間欠泉となってフィールドから噴き出す水が一瞬で海となって広がると、海原の底に光る眼光。次の瞬間、海面を盛り上げ飛び出す三つ首、三種三様な顔を持つ異質な海龍───ヴァルダラム。

 

「手札を破棄した事でバーチャスアイランドにコアを追加。さぁ、次はどうする?」

「……くッ! これ以上は攻めれねぇ。ターン終了」

 

強力なスピリットを前にできる手はなくエンド宣言。ミナトは不敵な笑みを浮かべ次の自身のターンを迎えていく。

 

 

 

────第3ターン、ミナトside。

 

[Reserve]8個。

[Hand]5枚。

[Field]宇宙大海晶ヴァルダラムLv.1(1)BP6000、No.36バーチャスアイランドLv.1(0)。

 

「出て来やがれ、海魔神!」

「なッ!?」

 

水飛沫を上げながら次に現れるは異魔神ブレイヴの一種、海魔神。

 

「海魔神の効果、手札からドスダイモスをノーコストで召喚できる! 駆け抜けし王者のロード! 障害壊して突き進め! 千獣の王者ドスダイモス、召喚ッ!!」

 

海魔神により招かりし異界の王者。飛び込むかのように海面へ着地し、王者の雄叫びを上げて海面を荒れ狂わせていく。

 

「異魔神ブレイヴにドスダイモスまで……! 一気に決める気かよ!!」

「当然だ。お前みたいに眠てぇバトルをする気はないからなッ! 海魔神! ドスダイモスとヴァルダラムに合体ッ!!」

 

両腕を翳して波動を送り、ドスダイモスとヴァルダラムにリンクすると半透明だった海魔神の体が実体となり、合体によりBPが跳ね上がった二体は勢いづく様に咆哮。

 

「バーチャスアイランドをLv.2にアップさせ、アタックステップ! そのままバーチャスアイランドのLv.2効果で俺のスピリット全てを最高レベルに!」

「!!」

「さぁヴァルダラム、殺れッ!!」

 

命令を受けると同時にヴァルダラムの三つ首の内、左右の首がライトブレイドラとテティスへ向けて飛び出し二体を一飲みに破壊してしまう。

 

「ッ!!?」

「ヴァルダラムのアタック時効果、コスト7以下のスピリットを破壊する!!」

 

一気に烈我のスピリットを退け残る中央の首が狙いを定めて烈我へと喰らい掛かっていく。

 

「スピリット破壊によりバースト発動! 双光気弾!! デッキから2枚ドロー!」

「おっとッ! 手札は増やさせねぇぞ?」

「ッ!?」

 

バースト効果によって手札を増やした直後、ドスダイモスがそれを許さないかのように咆哮を上げて、手札のカードが烈我の手を離れていく。

 

「分かってるよな? ドスダイモスの効果でお互い手札は4枚以上に出来ない。折角で悪いが手札5枚の内、2枚は捨ててもらうぜ」

「ぐッ……ごめん!」

 

破棄するカードは「創界神ブラフマー」と「煌星竜コメットヴルム」の2枚。

 

「けどまだ終わりじゃない! コストを支払ってフラッシュ効果! 海魔神を破壊だ!」

 

二つの火球が後方の海魔神へ放たれ、直撃を受け全身炎に身を焼かれながら爆発四散するが、攻撃を行っているヴァルダラムは止まらない。

 

「ライフで受ける!」

 

ヴァルダラムによる突進、バリアへ激突し鈍器で殴られたような衝撃と共にライフが砕ける。

 

「ぐああッ!!」

「ターンエンド。良かったな、この程度で済んで。けど無駄に足掻くならこの先もっと苦しくなるぜ?」

「何、だと?」

「忠告してやってんだよ。一方的な蹂躙じゃこっちもつまらないんでな!」

「……ミナト」

 

狂気を感じさせる目に戦慄が走る。二人のバトルの様子から光黄や絵瑠達も烈我と同じくそれを感じ取っていた。

 

 

 

 

「ミナトさん、ここまでやるなんて」

「あぁ。操られてるなら尚更今のミナトに容赦なんてない。手札も制限され、烈我にとっては苦しい状況だな」

 

心配そうにバトルの状況を見守る星七と光黄、だが二人以上に最も不安な気持ちを抱いているのは絵瑠だった。

 

「(あの時のミナトの冷たい目……もうあれは完全に私の知ってるミナトじゃない)」

 

モニターに映るミナトの表情を改めて目にし、キラーに襲われかけた光景が脳裏にフラッシュバックする。最初だけでなく先程からのバトルの様子を見ても、普段の冗談交じりのような明るい彼の面影はなく、目の前の相手を見下すような目や口調、自分の知っているミナトはそこにいないという事実に彼女は震えを感じずにはいられなかった。

 

「(もし、烈我が負けてミナトがこのまま元に戻らなかったら……!)」

 

押し潰されそうな不安に目を瞑りながら彼女は必死に胸を手を当てて祈るが、そんな彼女の背中を叩く光黄。

 

「絵瑠、大丈夫。烈我は必ず勝つ」

「えっ!?」

 

はっきりと「烈我が勝つ」、そう断言した彼女に先程まで瞑っていた眼を開き、不安で握りしめていた腕が緩む。

 

「ど、どうしてそう言い切れるんだ?」

「……どうしてだろうな。俺もこう言って根拠がある訳じゃないけど」

「けど?」

 

彼女にしては珍しい勘頼りの言葉に思わず絵瑠も聞き返してしまう。

 

「ドレイクの時もそうだった、彼奴は誰かの為ならどこまでも戦い抜く。ミナトを助けたい気持ちは俺も烈我もお前と同じ。それに今の彼奴にはバジュラもついてる、だから俺は彼奴が勝つって、そう信じられる」

「……光黄」

 

根拠はなくとも、ただ烈我を信じる。それだけで不思議と先程まで感じていた不安が晴れたような気がした。まっすぐ前を向き。

 

「光黄、ありがとう。私も烈我を信じるぞ! 必ず勝つ、勝ってミナトも元に戻るって!」

 

絵瑠に対して光黄も笑って頷くと彼女達は続くモニターに映るバトルの光景に目を向けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

────第4ターン、烈我side。

 

迎える烈我のターン。ドローステップで手札を増やすも、ドスダイモスの効果にすぐに手札の一枚を破棄させられてしまう。

 

[Reserve]7個。

[Hand]3枚。

[Field]創界神アポローンLv.1

 

「さて、そんな少ない手札でどうする気だ?」

「あんまり見縊んなよミナト! まずは目の前の壁、打ち壊すまでだぜ!! 俺のターン!」

 

ドスダイモスとヴァルダラム、二体の壁は高く分厚い壁であるが立ち止まってはいられない。

 

「行くぜ! 太陽星龍プロミネンス、召喚ッ!」

「何?」

 

炎の翼を広げ現れる一体の白竜。これまでに烈我が使ったことのないスピリットの姿に少なからず反応を見せるミナト。

 

「召喚によりアポローンに神託。さらにプロミネンスの召喚時効果、相手のBP10000以下のスピリットを破壊! ヴァルダラムだッ!!」

 

自分よりも遥かに巨大なヴァルダラムへ立ち向かっていき、迎撃すべく様に三つ首がそれぞれプロミネンスへと喰らい掛かるが、炎の翼でボールの如くヴァルダラムの首を打ち返し押し返すと、火炎放射を吐き付け、炎に焼かれヴァルダラムは爆発四散。

 

「破壊した時、デッキから1枚ドロー!」

「フン、こっちも召喚時効果を持つスピリットが召喚された事で、トラッシュのディアマントチャージを手札に戻せる!」

 

手札にディアマントチャージが加わるが、待っていたとばかりに吠えるドスダイモス。

 

「手札が4枚になった事でドスダイモスの効果で今手札に加えたディアマントチャージを破棄! 破棄により、バーチャスアイランドに再びボイドからコアを追加だ!」

「またコアブーストか」

「真似できるならお前もしてみな」

 

挑発的なミナトだが、彼の言葉に烈我は口角を上げて。

 

「だったら俺も乗ってやる! けどその前に、マジック! レーザーボレーの【ミラージュ】発揮!!」

「ミラージュ!?」

 

予想外の一手、バーストゾーンにレーザーボレーのカードがセットされると共に起動される効果。

 

「ミラージュ効果は相手のBP5000以下のスピリットを破壊、さらに赤のシンボルがあれば相手ネクサスを破壊する! バーチャスアイランドだ!」

 

名の通り放たれる赤きレーザーがバーチャスアイランドを貫き、全焼してフィールドから消失。

 

「これで準備は出来た! アタックステップ、プロミネンス! 行けッ!!」

 

鳴き声を上げて空へ羽ばたくプロミネンス、瞬間、翼の炎は全身へと逆巻き、逆巻く全身の炎を熱く燃え滾らせていく。

 

「プロミネンスの効果! 系統「占征」を持つ自身がアタックした時、赤のミラージュをセットしていれば【転醒】!」

「!!」

「龍よ! 燃えろ!! 熱く滾る炎を糧に進化しろッ!! 太陽星龍プロミネンスハンドラー、転醒ッ!!」

 

小さなプロミネンスの体はより大きく変化し、四足歩行の体制から二本足で地面へ降り立ち、炎纏う拳を掲げ、プロミネンスハンドラーとして転醒を遂げる。

 

「プロミネンスハンドラーの転醒時の効果でボイドからコア2つを追加! さらにLv.2、3の効果、【超激突】発揮ッ!!」

「強制ブロックか……ッ!」

 

表情歪めつつも超激突によるバトルは絶対に拒めない。戦闘態勢に入らざるを得ないドスダイモスは、剛腕を構えて突っ込むプロミネンスハンドラーへ両腕を振り下ろすが、プロミネンスハンドラーは両手を構え、ドスダイモスの両腕を掴み、多少足を引き摺らせながらも踏み止まって巨大なドスダイモスを持ち上げて見せる。

 

「プロミネンスハンドラー! 決めろぉッ!」

 

上空へと投げ飛ばし、空中であたふたと身動きの取れない頭上のドスダイモスに向けて火炎放射を吐きつけると、炎に焼かれドスダイモスは大爆発。最期の姿を見届け、プロミネンスハンドラーはバトルの勝利に雄叫びを上げる。

 

「よっしゃッ! これでターン終了だ!」

 

 

 

 

────第5ターン、ミナトside。

 

[Reserve]11個。

[Hand]4枚。

[Field]無。

 

「バーストセット。さてプロミネンスハンドラー、新しいスピリットか……けど、それが此奴にも通用するのか、今試してやるよ」

「!?」

 

スピリット、ネクサス全て破壊されたにも関わらず強気な姿勢と余裕の笑みはなおも消えない。彼の態度がブラフではない事を証明するように手札の一枚を構えて。

 

「三つ首の獣、本能のままに叫び! 敵を威圧する咆哮を! 勝利の雄叫びを上げろッ!! 戌の十二神皇グリードッグ、召喚ッ!」

 

地の奥深く煉獄の鎖に繋がれし三つ首の獣、眼光を輝かせ鎖を力づくで引き千切ると、煉獄からフィールドへと飛び出し三つ首が一斉に吠え上がる。

 

「アタックステップ! グリードッグ、アタックだ! 絶望の牙を奴に突き立てろッ!!」

 

ミナトの命令に地を駆け疾走しながら目を光らせ、グリードッグの効果を発動させていく。

 

「アタック時効果、【封印】! ソウルコアを俺のライフに!!」

 

ソウルコアの赤い光がライフへと灯るが、当然これだけではない。

 

「封印時の効果、【強奪】発揮ッ!」

「!!」

「さぁ、手札を全て見せな!」

「ぐッ!」

 

グリードッグによって烈我の手札全てが公開されオープンされたのは「フォースブライトドロー」が2枚。

 

「フン、2枚とも同じカードか。けど一枚は奪い取らせてもらうぞ! グリードッグッ!!」

 

オープンされたフォースブライトドローに飛び掛かり咥え込むと、咥えたカードを噛み砕く。

 

「【強奪】で奪ったフォースブライトドローの効果を俺が使用させてもらう! 手札が4枚になるように、つまりデッキから2枚ドロー!」

「マジックを奪い取る効果厄介だ……ッ!!」

 

気を取られてる間はない。グリードッグによるメインの攻撃は終わっておらず、今度は烈我に向けて牙を差し向けていき、ライフで受ける以外に選択肢はなく、展開されたバリアを瞬時に噛み裂く。

 

「ぐうぅぅッ!!」

「俺のターン、終了だ」

 

 

 

 

────第6ターン、烈我side。

 

[Reserve]8個。

[Hand]2枚。

[Field]太陽星龍プロミネンスハンドラーLv.2(3)BP9000、創界神アポローンLv.1

 

「メインステップ! プロミネンスハンドラー、太陽神龍アポロヴルムに煌臨ッ!!」

 

プロミネンスハンドラーの身体がより強い炎へ包まれさらに変化を遂げると、白い体表は赤く一変し、太陽神龍の名を持つアポロヴルムへと進化。

 

「今グリードッグで確認した手札の中になかった一枚、さっきのドローで引いてくるなんて、運だけは一流じゃねぇか」

「運だろうが何だろうが勝つ為に頼れるもんには頼る! さらにマジックでフォースブライトドロー! 今俺の手札は0枚、よって4枚ドローするぜ!」

 

手札補充も万全、これから行われるであろうアタックステップを前にグリードッグとアポロヴルムは早くも牽制し合うように睨み合う。

 

「行けッ! アポロヴルム! アタック時効果、【界放】発揮!! 相手の最もコストの高いスピリットを破壊! さらにアポローンのコア2個をアポロヴルムに追加する事で回復!」

 

ミナトの場にはグリードッグが一体のみ、即ちグリードッグが対象となり、アポロヴルムは体に装備したバリスタの矢を全て射出すると、炎を灯した矢はグリードッグの四方を囲むように展開され、四方八方の矢はグリードッグを一斉に撃ち抜き破壊する。

 

「そう来ると思ってたよッ! 相手による自分のスピリット破壊後でバースト発動! クラッシュザバビロン!」

「ッ!!」

「グリードッグと同じコストのアポロヴルムは破壊させてもらう!!」

 

破壊されてもタダでは転ばない。トリガーが引かれたクラッシュザバビロンがアポロヴルムを道連れにすべく放たれようとするが。

 

「させるか! 相手のバースト発動時、超星使徒スピッツァードラゴンを召喚ッ!」

「!?」

「クラッシュザバビロンを破棄だ!!」

 

攻撃が今にも放たれようとするその瞬間、颯爽と異次元より現れるスピッツァー、腕に炎を灯して撃ち放つとクラッシュザバビロンのカードを焼き尽くし、アポロヴルムに放たれようとしていた雷撃は消失。

 

「ボイドからコア2個をスピッツァーに追加しLv.3だぜ!」

 

並び立つ二体の龍、咆哮を上げて敵を威圧しアポロヴルムは追撃を掛けるかの如く腕を振り上げてミナトへと迫る。

 

「……そのアタック、ソウルコアで受けてやる!」

 

アポロヴルムの振るう爪がバリアを抉り取るように切り裂き、破壊されるライフ。先程のグリードッグによってライフに置かれたソウルコアが再びリザーブへと戻る。

 

「……ッ!!」

 

無論ソウルコアで受けるダメージは通常のライフよりも遥かにダメージがある。だが、今の彼にはまるでそのダメージを感じさせないように多少表情を歪ませるのみで耐え切って見せる。

 

「まだ行くぜ、もう一度アポロヴルムでアタック! 今度はトラッシュのコア2個をアポロヴルムに戻す事で回復だ!」

「それもライフで受けてやる!」

 

再び破壊されるライフ、だがライフ消失による衝撃を受けてなお余裕そうに笑ってみせると。

 

「俺のライフが減った時、手札から絶甲氷盾を発動させる!」

「ッ!?」

「これでお前のアタックステップは強制終了だ」

「くッ……ターン、エンド」

 

一度意表突いたぐらいで押し切れる程ミナトは甘くない。親友として彼の実力を分かってる烈我にとって、このバトルに気を抜ける間など一時もない。

 

 

 

 

────第7ターン、ミナトside。

 

[Reserve]13個。

[Hand]4枚。

[Field]無。

 

「俺のターン、二体目のシャークマンを召喚、召喚時効果により手札からNo.34 ラージアイランドを配置!」

「!」

 

新たにフィールドに出現するラージアイランド、ネクサスを配置した事でボイドからコアが一個、再びネクサスへと追加されていき。

 

「こんなもんじゃねえ。これからお前に見せる絶望って奴はなッ!」

「(何か来る!)」

 

予感を確信へと変えるその一枚を構え、高らかに叫ぶ。

 

「縋りつく希望の何もかもを呑み込くす厄災ッ! 大海の底から大津波を呼び起こせ!! 海帝獣オルガウェーブ、Lv.3で出て来やがれッ!!」

 

フィールドの水面を逆巻き起こる巨大な大津波、コスト確保に伴い波の中にシャークマンは呑み込まれると、波の中にギラりと光る眼光。

次の瞬間、津波から飛び出す巨影──身体に鎖取り付けし海帝の獣、ハイドカードの一種であるオルガウェーブが今フィールドへと降臨する。

 

"ギュラアアアアアァァァァァ────ッ!"

 

「ハイドカード!? ミナト、何でお前がそれを!?」

「ヘル様から貰ったんだよ、無駄な足掻きを続けるお前等を完膚無きまで叩き潰す為になッ!!」

 

オルガウェーブとは一度バトルしているだけにその強さは身を以て味わっている。一度勝ったとはいえ、改めて真正面から感じるオルガウェーブの殺気、重圧には怯まされそうになる程。

 

「アタックステップ! オルガウェーブ、狩りを楽しもうぜ! アタックだッ!!」

 

アタック指示と同時に吼え上がり、海面へ飛び込むオルガウェーブ。

 

「アタック時効果、オルガウェーブのコスト以下の相手を破壊! アポロヴルムだッ!

 

アポロヴルムの足元の海面に潜む影、殺気に気付き足元に視線を向けた瞬間、海面から飛び出す鎖がアポロヴルムの首へ巻き付き、そのまま海へ引き摺り込むと水中の中でアポロヴルムへ喰らい付き噛み裂き、海中の中で爆散を遂げるアポロヴルム。

 

「ッ!!!」

「メインアタックは続いてる! ラージアイランドの効果、このネクサスにソウルコアが置かれていれば相手デッキ1枚を破棄し、アタック中のオルガウェーブのBP+5000ッ!」

「BP16000、スピッツァーじゃ勝てない。ライフで受ける!」

 

むざむざ犠牲にさせる訳には行かず、攻撃を受け入れると出現するバリアにオルガウェーブは鎖を巻き付け、鎖を手繰り寄せて一気に烈我に飛び掛かると剥き出しにした牙をバリアに突き立て、噛み砕く。

 

「ぐあッ!」

「残りライフ2、後が見えて来たな。けどオルガウェーブの力はまだこの程度じゃねぇ。エンドステップ時、効果発揮!」

 

今度はラージアイランドにオルガウェーブは自身の鎖を縛り付けると、唸り声を上げてラージアイランドをそのまま鎖で絞め潰し破壊。だが破壊した事によりオルガウェーブは青いオーラを身に纏って起き上がる。

 

「ネクサスを破壊した事でオルガウェーブは回復。さぁ、お前の番だぜ?」

 

ターンを終え、続くは烈我の番。

 

 

 

 

────第8ターン、烈我side。

 

[Reserve]13個。

[Hand]4枚。

[Field]超星使徒スピッツァーLv.3(4)BP12000、創界神アポローンLv.1

 

「メインステップ! ライトブレイドラとレイニードルを召喚! このまま決める!! アタックステップ!」

「そうは行くか! オルガウェーブ!!」

 

アタックステップ開始直後、オルガウェーブは眼光輝かせてレイニードルとライトブレイドラの二体を睨み付けると、殺気を込めた睨みにレイニードルとライトブレイドラは身を強張らせ固まってしまう。

 

「しまったッ! 確かオルガウェーブは……!」

「そうだ。オルガウェーブの前じゃ弱小スピリットは何一つ出来ねぇよ」

 

オルガウェーブが回復状態の間、コスト5以下のスピリットによる一切のアタックを禁じる効果。幾ら烈我が低コストのスピリットを並べても、オルガウェーブの前では何の意味を為さない。

 

「無様だなあ、その程度で本当にヘル様に、オルガウェーブに勝てると思ってんのか? お前如きが」

「ミナト……ッ!」

「おいおい、そう怖い顔すんなよ。これでも元親友として気遣ってやってるんだぜ? この程度じゃヘル様に挑んでも無駄死にするだけっていう忠告だ」

「ふざけんな! 俺はまだ負けてねえ!」

「だったらとっとと負かしてやるよ。そうすりゃお前の方が目も覚めるだろ。どうせお前にこれ以上手はねえ、さっさとターンを返しな」

「ぐッ!!」

 

スピッツァーで無理にアタックしてもライフを削り切れる訳では無く状況を悪くするだけ。反論する言葉はなくターンを明け渡すしか選択肢はなかった。

 

 

 

────第9ターン、ミナトside。

 

[Reserve]12個。

[Hand]2枚。

[Field]海帝獣オルガウェーブLv.3(4)BP11000。

 

「マジック、トレジャードロー! 効果で3枚オープン、その中にあるネクサスを配置し、海賊を含むスピリットを1枚手札に加える!」

 

オープンされたカードは「最後の優勝旗」、「海賊船ジークフリード号」、「龍王海賊団船長ホワイトジャック」

 

「来たぜ、海賊船ジークフリード号を配置、ホワイトジャックは俺の手札に加える!」

 

海原の底より浮上する巨大な海賊船、ジークフリード号がミナトの場へと出現し、そして。

 

「ネクサス配置時の効果発揮! 俺の手札にあるコスト6以下の「海賊」を持つスピリットを召喚できる! 召喚するのは当然、今加えたホワイトジャック!」

「ッ!!」

 

ジークフリード号に乗り込む様に現れるホワイトジャック、甲板に降り立つや否やジークフリード号の錨を下ろし始めていき。

 

「ホワイトジャックの召喚時効果、トラッシュにある青ネクサス2枚を配置できる。俺が選ぶのは最後の優勝旗とラージアイランドだ!」

 

再びミナトの場に再構築されていく2枚のネクサス、配置されさらに連鎖の如く効果は続く。

 

「最後の優勝旗は配置時ボイドからコアを追加、ホワイトジャックは自身の効果で配置されたネクサス1枚につきドロー、よって2枚……!」

 

引いたカードにミナトの目の色が途端に変わる。

 

「(何を引いた……まさかッ!)」

「大方お前の予想通りだよ! 今見せてやる!!

 

烈我の疑問の答えを口にしながら、手に持つカードの名を叫ぶ。

 

「神をも恐れぬ大胆不敵の傲慢な王よ! 牙を研いでその傲慢な野望を実現させろ! 海牙龍王キラーバイザーク、Lv.3で召喚ッ!!!」

 

巨大なオルガウェーブに勝るとも劣らぬ程海の底に蠢く巨大な影、真打の如く海面を突き破り飛び出すは傲慢を司る七罪竜、キラーバイザーク。キラーの姿に烈我や光黄達も驚かずにはいられなかった。

 

「キラーッ!? どうして!」

「オルガウェーブだけじゃねぇ。当然ヘル様から渡されてるんだよ。テメェを確実に潰せるようになッ!!!」

 

オルガウェーブと共に並ぶキラーバイザーク、七罪竜とハイドカード、圧倒的な力を持つ二体の怪物、攻守自在の二体は正に最凶の矛と盾に成り得る二体。

 

「このターンで終らせてやる! マジック、ギャラクーエターナルレクイエム! 俺のスピリットを最高レベルとして扱う!」

「!!?」

 

不足コストはオルガウェーブから確保されるがギャラクシーエターナルレクイエムの効果で最高レベルとなった事で自らの力を最大限に解き放つ様に唸り、叫び、吠え上がると殺意と闘争本能に満ちた目と牙を剥き出しに解放。

 

「アタックステップ! 終わらせてやるよ、烈我ァッ!」

「!」

「オルガウェーブ、まずはお前からだ。アタック時効果でスピッツァーを喰らえッ!!」

 

鎖を飛ばしスピッツァーを縛り付け、自分の前まで引き寄せると牙で一気に得物を噛み裂き、スピッツァーが破壊される。

 

「オルガウェーブの効果でお前は残ったスピリットでブロックする事もできねぇ! さぁ、どうする?」

「ライフで受ける!」

オルガウェーブは鎖を飛び矢の如く撃ち飛ばすと、展開されたバリアを貫きライフを砕く。

 

「ッ! ライフ減少時で手札からペネトレイトフレイムを使用!」

「!」

「赤一色のカードがあるとき、このカードをノーコストで使用でき、フラッシュ効果! ホワイトジャックを破壊だ!!」

 

上空に出現する火球、それは炎の弾丸となってホワイトジャックに撃ち込まれ、為す術なく直撃を受けて爆散。

 

「まだ粘る気か? そう言うの無駄な足搔きって言うんだぜ! キラー!!」

 

"ガアアアアアアアアァァァァァ────ッ!"

 

海面を振動させるキラーバイザークの咆哮、ミナトとの言葉と共に前進すると背鰭を残して海へ潜り、残る烈我のライフを噛み裂かんと迫っていく。

 

「レイニードルでブロック!」

 

迎撃すべく立ち向かうレイニードルだが力の差は歴然。相手になる訳はなく背鰭を青白く輝かせたかと思うとオーラを斬撃波としてレイニードルに撃ち飛ばし、光の斬撃に斬り裂かれレイニードルは爆発四散。

 

「キラーバイザークのバトル終了時にも【潜水】の効果発揮可能! 潜れ、キラー!」

 

攻撃を終えると背鰭ごと海面深くに姿を眩ませるキラー。

 

「アタックステップ終了。エンドステップ! オルガウェーブの効果で再び俺の場のネクサス、バーチャスアイランドを破壊! オルガウェーブは回復!!」

 

キラーに続き今度はオルガウェーブによる効果、自らの手でネクサスを破壊し尽くすと残骸から力を吸収するように再びオルガウェーブは起き上がる。

 

「俺のターンはここまで、どうやら首の皮一枚繋がったみたいだな」

「ぐッ!」

「だがここまでだ。次のターンで確実にジエンドって奴だ。無様に負ける準備は出来てるよなァ?」

「!!」

 

”グルアアアアアアアアアァァァァァァァ────ッ!!!”

”ギュアアアアアアアアアァァァァァァァ────ッ!!!”

 

一瞬海面から姿を見せるキラー、オルガウェーブ二体同時に吼える怪物達の姿、大抵のバトラーであれば全員絶望としか例える他無いでだろう。

 

 

 

 

「……ミナトさん、まさかここまでなんて……!」

「あぁ。オルガウェーブが回復状態なら烈我のコスト5以下のスピリットはアタックが出来ない」

「しかも潜水中のキラーが何時飛び出してくるかも分からない。これじゃあ打つ手が……!」

 

誰が見ても追詰められた状況の烈我に星七も光黄も表情を歪める。

 

「…………ミナト」

 

絶望的な状況だがそれでもただ一人絵瑠は、懸命に祈るようにモニターの光景を見守り続ける。

 

「(ミナト、私……こんな形でお別れなんて嫌だ。だからお願い烈我、ミナトを絶対ッ!)」

 

 

 

 

────第10ターン、烈我side。

 

[Reserve]18個。

[Field]ライトブレイドラLv.1(1)、創界神アポローンLv.1

 

「俺のターン……!」

 

現在烈我の手札は1枚、ドローする手に思わず緊張が走る。

 

「(ここで切り札を引けなきゃ俺の負け……そしたらミナトはこのまま)」

 

脳裏に浮かぶ最悪の結末に不安が過る。ドローステップで構える手に思わず緊張が走るが。

 

 

『(何ビビッてやがんだよ、烈我ァッ!!)』

「!!」

 

瞬間、喝を入れるかのようにバジュラの怒声が頭の中に鳴り響く。

 

『(テメェもしかして今、負けるかもって思ってたか)』

「(ッ! そんな訳……!!)」

『(あぁ違ぇよな! 俺達は勝つんだよな! 目の前の奴にもヘルの野郎にも!! だったら不安そうな顔なんて一寸でもすんじゃねぇ!! 俺の相棒なら、必ず勝つ! そういう面でずっといやがれッ!!!)」

「(バジュラ……!)」

『(俺はもう二度と負ける気はねぇ。オメガデッドの野郎を超えてやる!! あんな想い、二度としてたまるか!!)』

 

歯を食いしばりながら過去の記憶を振り返る。オメガデッドを前に何もできなかった自分の無力さ。決して口には出さないが烈我がバジュラを思うようにバジュラ自身も己の無力で烈我を失いかけた事をずっと後悔していた。

二度とそんな思いはしない。だからこそ烈我だけでないバジュラ自身もまた強くなる為に、己の限界を超える。

 

『(さぁ烈我、とっとと俺を引け! 生まれ変わった俺の力、見せてやるよ!!)」

「!」

 

バジュラの声に、不安は吹っ切れ目を見開いて力強くカードをドローする。

 

 

「ミナト、さっき「負ける準備は、出来てるか」って言ったよな?」

「うん?」

 

先程のミナトの言葉をそのまま呟いたかと思うと、口角を上げて。

 

「誰がするかよ! お前なら分かってる筈だぜ、勝負は何が起きるか最後まで分からねぇって!!」

 

絵瑠の想いが届いているかのように烈我の目はまだ希望を捨てておらず、絶望とは無縁な程、今の烈我には必ず逆転するという思い、唯一つ。

 

「やれやれ。人の気遣いも知らずに。そんなに欲しけりゃくれてやるよ!! 敗北をッ!! どの道烈我、これがお前のラストターンだ!」

「言われなくても分かってる! 俺が勝つかお前が勝つか、此処が正念場だぜ!!!」

 

気持ちを奮い立たせ手札をより一層強く構える。

 

「来い! 極限憤怒の大烈火!!! 怒りが吹っ切れる程に豪快過激に燃え上がれッ!!!! 獄神火龍バジュラレッドイグニール!!! 召喚ッ!!!!」

「何だとッ!?」

 

 

火山の噴火の如くフィールドに巻き起こる大爆発、轟音とともに爆炎を巻き上げ、高温の炎は烈我の周囲に広がったフィールドの海面を蒸発させ、大地を溶かす程。そして爆炎の中から極度の炎を身に纏いながら姿を現す龍の影。

 

”グオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ─────ッ!!!!!!”

 

炎の中、ハッキリと見える程に眼光を輝かせ、フィールドを震撼させる咆哮を轟かせると炎を振り払い姿を見せるのはバジュラブレイズ────否、新たな力を手に生まれ変わったバジュラレッドイグニール。

 

「バジュラレッド、イグニール!!?」

 

 

 

 

「バジュラが、進化した!?」

「イグニール……これが烈我の新しい、切り札」

 

ミナトだけでなく新たなバジュラの姿に星七や光黄達も驚き、まじまじとモニターに映るバジュラの姿に注目していた。

 

 

 

 

『ハッハァッ! 新しくなった俺の初披露は決まったみたいだなッ!! さぁ烈我、こっから派手に過激に! ぶちかますぞ!!』

「あぁ、見せてやろうぜ! こっからの俺達の大逆転ッ!!」

 

 

「ッ! いい気になんなよ。多少姿が変わったところで、今更バジュラ一体にこの劣勢は覆せねぇだろ?」

『ハッ、侮んなよ。ただ姿が変わっただけじゃねぇ。一度屈辱を味合わされたお陰で、俺の怒りもさらに燃え滾ってんだ。テメェも、潜ってる抜け殻の傲慢野郎にも存分に俺の怒りをぶつけさせてもらうぞ!!!』

「!!」

 

 

怒号を張り上げるバジュラの気迫にミナトも、フィールドのオルガウェーブでさえも気圧される様に一瞬怯まされる。

 

「早速アタックステップって言いたいけど、まだ続けるぜ! マジック、フォースドロー! 効果で4枚になるようドロー! さらに来い、闇をも照らす光の聖剣ッ! 真紅に輝く炎で闇を斬り払えッ!! 輝きの聖剣シャイニングソードX、バジュラレッドイグニールに直接合体(ダイレクトブレイヴ)ッ!」

 

腕を構え、構えた腕で振り落ちるシャイニングソードXを掴み取ると合体スピリットとなってより強く吠え上がる。

 

「シャイニングソードXの召喚時効果で相手ネクサス一つを破壊! バーチャスアイランドを破壊だ!」

「チッ!!」

 

手に握り締めたシャイニングソードXを地面へと振り下ろすと、振り下ろされた衝撃は炎の斬撃波となってバーチャスアイランドを両断し、爆発と共に砕け散る。

 

「まだまだ行くぜッ!! 此奴を前に絶対はねぇ! 鉄壁の壁だろうが無敵の相手だろうが一撃必中必殺の矢を叩き込めッ! 龍星の射手リュキオース、召喚ッ!!」

 

バジュラに続いて現れる烈我のもう一体のキースピリット、熱く燃え滾る炎のフィールド駆け抜け参じる白獣に跨りし龍────リュキオース。バジュラと並び立ち共鳴するかのようにリュキオースもまた咆哮を上げる。

 

「リュキオースの召喚時効果! 【龍射撃】発揮! オルガウェーブを破壊する!!」

「ッ! オルガウェーブッ!!」

 

”ギュララララアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ──────ッッッ!!!!”

 

リュキオースに向けて自身の鎖を飛ばすが、リュキオースは静かに矢を構えると、標的を見据えて炎の矢を撃ち放ち、放たれた炎の矢がオルガウェーブの鎖の先端へとぶつかると、鎖を打ち砕きながら炎の矢は真っすぐ突き進み、鎖を完全に破壊し炎の矢はオルガウェーブを貫くと絶叫を上げながら大爆発を起こす。

 

「!」

「これでもうオルガウェーブの縛りはない! アタックステップ! リュキオース、行けぇッ!!」

「それで勝ったつもりかよ! キラーバイザークの効果! 浮上しろキラーッ!」

 

突っ込むリュキオースの行く手を塞ぐかのように海面が壁の如く盛り上がり、次の瞬間、海面を突き破って現れるキラー。

 

「フラッシュ! インパクトロア!! 効果でライトブレイドラを破壊する! 消え失せろ!!」

 

マジックの効果が発揮され、キラーは海面に尾を叩き付け衝撃で波を引き起こすと、津波にライトブレイドラは飲まれ海の中で四散。

 

「リュキオースのアタックはキラーでブロック。お前の攻撃なんざ、一切俺には届かねぇよ!」

「嫌、届かせてやるぜッ! フラッシュタイミング、マジック! メロディアスハープ!」

「なッ!!?」

「効果でこのターン、キラーの効果を全て無効にする!!」

 

天使の奏でるメロディーが具現化となって、キラーを取り囲み効果を打ち消されるがバトル自体が中止される訳ではない。違和感を感じながらも構う事なくキラーはリュキオースの迎撃態勢へと入り、リュキオースは炎の矢をキラーへ撃ち飛ばしていくが、キラーは海面から飛び上がり空中で体を反転させて尾を振り下ろすと、放たれた炎の矢を全て尾で弾き飛ばす。

ならばと今度は大きく口を開き火炎放射を放つが、キラーもまた鋭い牙を剥き出しに迫り来る炎に牙を突き立てると炎を噛み裂いて掻き消し、炎を破られ、たじろぐリュキオースに突っ込み、そのままリュキオースの身体に深々と牙を突き立て空中に放り投げると、リュキオースは爆発四散。

 

「リュキオースごめん。でもこれで! もうキラーは【潜水】の効果を使う事ができない!」

「成程、リュキオースを囮にしたって訳か。けどそれが何になる! お前の場にはバジュラが1体だけ。【火力推進(ヒートアップ)】も【超爆火力(オーバーヒート)】も使えなけりゃ、今のお前に俺のライフを削り切る手段はないだろ!」

 

勝ちを確信するように笑って語るミナトだが。

 

『ハッ、【火力推進】? 【超爆火力】? 何時の話をしてやがる。お前にも言った筈だぜ、俺は新しくなったってなッ!』

「何!?」

 

「そうさ、ミナト! お前にも見せてやるぜ! 強くなった今の俺たちの力!!」

「!」

「バジュラレッドイグニールでアタック! アタック時効果、【超爆龍王(オーバーロード)】発揮ッ!!」

「オーバー、ロード!?」

「効果でキラーバイザークに指定アタック!」

「指定アタックだと!?」

「それだけじゃない! 指定アタックしたスピリットが相手の最後の一体なら、バジュラはLv.4、合体したシャイニングソードXと合わせてBP合計40000だァッ!!!」

「!!?」

 

『派手に過激に! 昂ってきたぜェッ!!!』

 

まるでバイクがエンジン音を鳴らす様に、滾る炎を噴き上げ、足元の海面を蒸発させながらキラーへとガンを飛ばす。

 

『構えろよキラー! お互い遠慮なくガチで殺り合おうやッ!!!』

 

拳を構えながら歩み寄り、キラーも同様に威嚇の様に唸りながら牙を構え、互いの距離が近づいていき。

 

『!!』

 

まず真っ先に仕掛けたのはキラー、海面から飛び上がり空中で回転し、勢いを付けた尾を振り下ろしての一撃、たいしてバジュラは迎え撃つように力を込めての右ストレート、ぶつかり合う尾と拳、最初の一撃の威力は完全に拮抗し互いに弾き飛ばされるが、足を引き摺らせるバジュラに対しキラーはそのまま海面へダイブし、強襲する隙を狙おうとするが。

 

『逃がすかよッ!!』

 

今度は両腕を海面へと叩き付け、海を叩き割って見せると衝撃に海からキラーバイザークは弾かれ、海から宙へ引き摺り出される。

 

「今だ! フラッシュタイミング! マジック、シーズグローリーッ! 効果でキラーをBP−7000!」

「!?」

 

手札に残る最後の一枚、好機と言わんばかりにシーズグローリーを発動させると空から降り注ぐ落雷がキラーへと直撃し、体を麻痺させながら一瞬硬直。その隙を見逃さないように止めを刺すべく拳を突き出すバジュラだが。

 

「何の真似だ? たかがBP−7000如きでキラーが倒せるとでも思ったのかよッ!! キラーッ!」

 

ミナトの言う通りまだキラーのBPは9000、倒すまでには至らない。目を見開くと、バジュラが突き出す拳に喰らい突き、拳を文字通りに食い止めると、そのままキラーは喰らい付いた拳に牙を突き立て、鋭い痛みにバジュラは表情を歪ませる。

 

「バジュラ!」

『……分かってるよ、こんぐらいで俺の怒りは止まらねぇッ!!! もっと、ありったけの怒りをぶちかましてやる! だからキラー、精々そのまま離すんじゃねぇぞ!!』

 

拳に牙を突き立てられながらも微動だにする事無く拳を掲げてキラーを持ち上げ、空いたもう片方の腕を烈火の如く燃え上がらせて構える。

 

『歯ァ喰いしばれよッ!! キラーッ!!!』

『!』

 

最大限の力を込めた左の拳をキラーの身体へと叩き込まれ、極限の怒りを込めた一撃にキラーは耐え切れず思わずバジュラに突き立てた牙を離し。

 

『キラー、今に目を覚まさせてやる! テメェの相棒も、テメェもな!!』

『!』

 

バジュラの言葉に僅かばかり反応を示すキラー、そして咆哮と共に拳を一気に突き出すとキラーを遥か空高くまでぶっ飛ばし、キラーの絶叫と共に空中で巻き起こる巨大な大爆発。

 

「ぐッ!! だが、これでバジュラの攻撃は終わった。連続アタックさえなけりゃ今のお前に俺のライフは削り切れねぇだろ!! 次のターンで──」

「お前に次のターンはねぇ!」

「!?」

「バジュラのLv.3、Lv.4効果! 【超爆怒獄焉(ブラストバーン)】発揮ッ!! BPを比べて相手スピリットだけを破壊した時、上回ったBP10000につき、相手ライフを破壊!!」

「なっ! って事はつまり!!」

「残るお前のライフを、全て破壊だ!! 決めるぜ、バジュラアアアアアアッ!!!」

 

『あぁ、これが俺の怒りの全てだアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』

 

灼熱烈火に燃え上がるバジュラ、全てを焼き焦がす程の熱を帯び、燃え滾る拳をバリアへと打ち込まれる。

 

「そんな、俺が……がああああああああああッ!!」

 

三つのライフが全て木っ端微塵に砕け散り衝撃と共に吹き飛ばされるミナト。

 

「俺達の勝ちだーーッ!!」

『しゃぁぁぁぁッ!!!』

 

勝利を手に、烈我とバジュラの歓喜の声がバトルフィールド中に響く。

 

 

 

 

***

 

 

 

バトル終了と共に元の場所へ帰還する二人。

 

「ミナt──」

 

真っ先にミナトへ駆け寄ろうとする烈我だが、烈我が動き出すよりも真っ先に彼に駆け寄ったのは絵瑠であった。

 

「ミナト! ミナト!!」

 

上体を抱きかかえて呼び掛ける絵瑠、この場で一番彼の身を案じていたのは他でもなく彼女であり、余程心配だったのか彼女の眼には涙を籠っていた。

 

「……っ…………絵……瑠?」

「ミナト!?」

 

少しずつ目を開けてまだ半覚醒の状態だが、それでも意識はあるように呼び掛ける絵瑠に返事を返す。

 

「何で、俺……こんな所にいるんだっけ」

「ミナト、お前覚えてないのか?」

「……確かヘルと戦ってそれから、ずっと……どっか暗い場所にずっと閉じ込められてるような感覚だった。何も見えない、何も聞こえない場所で、地獄みたいに思えたけど……。」

「けど?」

「お前に抱きかかえられてる今は、天国かなって」

 

笑ったミナトの表情は紛れもなく自分達の知っている牙威ミナトと本人の温かい笑顔だった。また見ることのできた優しい表情に安堵する絵瑠だが、同時にミナトの言葉の意味を遅れて理解し彼女は顔を赤く染めて。

 

「ッ!! ま、またお前は調子のいい事言ってッ!」

「は、はは……。ごめんって。でも、これでも、本当に思ってる事……だからさ」

「ミナト!?」

 

気を失う港に一瞬動揺するも、体力の限界だったのか、絵瑠に体を預ける様に事切れたように眠り、ひとまず無事な様子のミナトに全員安堵し、絵瑠もまた心の底から安心するように胸を撫で下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヘルの駒はどうやら、敗れた様だな』

 

「「「!!!」」」

 

重圧を感じる程の声、ミナトの時の様な前触れはなくまるで初めからそこに居たかのように出現するは神々しく光り輝く巨大な一体の龍、強欲の罪を司るオメガデッド。烈我にとっては二度目だが光黄や星七、絵瑠にとってその姿は初めてであり、生物として全てを超える存在、神と例えるべくオメガデッドをまえに全員が声を失う程に圧倒されていた。

 

『オメガデッドッ!!!』

 

唯一雪辱を晴らすべき相手を前に、怯む事無く真っ向から睨むバジュラ、眼に籠るバジュラの闘志にオメガデッドは興味深そうに目を細める。

 

『バジュラ……我が一部。嫌、レッドイグニールだったか? お前の力……存分に見せてもらった』

『あぁ!? 見せてもらった?』

『ヘルの目的は元よりお前の排除ではなく視察だ。故に今回あの人間をお前達にぶつけさせてもらった。お前達の言葉を借りるなら、その為の捨て駒だ』

 

「捨て駒、だと!?」

 

先程までオメガデッドに気圧されながらも、口にした言葉が聞き捨てならない様に烈我は。

 

「ふざけんな! ミナトを散々利用しやがった癖に捨て駒だと!? お前らは……どこまで人を見下すつもりなんだよ!!!」

 

『……』

 

自らに怒りを向ける烈我の視線にオメガデッドは何を感じているのか、じっと己を睨むその目を見つめ。

 

『気に触ったのなら訂正しよう。今のはヘルの言った言葉を借りたに過ぎない』

「え!?」

 

意図もあっさりと発言を取り消すオメガデッドの言動に思わず毒気を抜かれた様に怒りを込めた表情が途端に緩む。

 

『何だヤケにあっさり折れやがって、随分素直じゃねえか』

『……さぁな。ただ、伝えるべき言葉ではない気がしたのみだ』

 

「……」

 

オメガデッドが何を思うのか、少しだけ烈我達の中で疑問が生まれるが、一方でバジュラはオメガデッドに対して全力の警戒。

 

『テメェ、そもそも何でこんな場所に現れやがった!』

『……そうだったな』

 

オメガデッドは本来の要件を果たすべく絵瑠に抱えられたミナトの方へ向くと、腕を翳しミナトの懐からキラーのカードが飛び出しオメガデッドの手へと収まる。

 

「キラー!?」

 

『テメェ……ッ!!』

『回収させてもらうぞ、我の一部をな。そして』

『……次は俺って訳か?』

 

この場で戦うこともやむ得ないように一歩も引かずに構えるバジュラ、オメガデッドとしばらく睨み合うが。

 

『安心しろ。今この場でお前達をどうこうしようとするつもりはない。ヘルの命令でもあれば別だがな』

「!!」

『ここに来たのはキラーの回収ともう一つ……ヘルからの伝言を伝えに来た』

 

「「『!』」」

 

全員が反応示し、『奴の言葉だと!?』と、バジュラは怪訝そうな顔を浮かべる。

 

『一つ言っておく、今からの奴の言葉はお前達だけではない。この世界全てだ』

「「!!?」」

 

意味深な発言の後にオメガデッドは眼光を輝かせ始めると、上空にオーロラが浮かびまるで画面のように空に映し出される映像、そしてその映像に映るのは他の誰でもないヘルの姿であった。

 

「「「ヘル!!?」」」

 

全員が声を揃えて反応を示し、映像に映し出されたヘルはニヤリと笑う。

 

 

 

 

『始めまして。スピリッツエデンに住む全世界の皆様、私はヘルと申します。突然の事で申し訳ありませんが、今日この時この日より全ての皆様にお知らせしたいことがございます』

 

この場だけでなくスピリッツエデンの世界中の至る場所で、上空に映し出されるヘルの映像。突然の人物の出現と言葉に世界中がザワつく中、ヘルは次の言葉を言い放つ。

 

『そう。この世界の最期を、ね』

 

今、悪魔の宣言がスピリッツエデン全土に向けて放たれる。

 




如何でしたでしょうか!!!
今回の見せ場は何と言っても進化したバジュラの新たな姿、その名もバジュラレッドイグニール!!!!早速スペックをチェック&チェック!!!

獄神火龍バジュラレッドイグニール/9(5)赤、古竜、罪竜
LV.1(1)BP10000、Lv.2(2)BP15000、Lv.3(4)BP21000、Lv.4(8)BP35000
Lv.1、Lv.2、Lv.3、Lv.4 、【超爆龍王(オーバーロード)】「このスピリットのアタック時」
このスピリットは相手スピリット/アルティメットに指定アタックできる。その後、相手のフィールドに他のスピリット/アルティメットがなければこのターンの間、このスピリットは最高レベルとして扱う。
Lv.3、Lv.4 【超爆怒獄焉(ブラストバーン)】「このスピリットのアタック時」
BPを比べ相手スピリットだけを破壊した場合、破壊したスピリットとBPを比べ、上回ったBP10000に付き相手ライフ1つをリザーブに送る。
Lv.4【???】


今見せられるのはここまで!!!オメガデッド同様ここから先の情報はシークレットでございます!そしていよいよ次回から物語は終盤に向けて一気に進めていきます!ここからどうなるのか、是非とも次回もよろしくお願いします!

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