とある一帯に広がるバトルフィールド、そしてフィールドには無数のスピリット達の姿。武器を手に取り並び立つその姿は正にスピリットによる大軍勢。
多種多様なスピリット達の軍勢、彼等が敵するは対して一体。フィールド中央に鎮座する黄金に輝く一体の龍、神の如く雄々しく君臨する神龍────オメガデッド。
オメガデッドに対立するスピリット達は目の前の相手に殺意を込めてそれぞれ武器を、拳を、牙を、爪を、炎を、雷を、冷気を込めて向き合うが、オメガデッドは無数のスピリット軍団相手にもまるで殺意は込めておらず、あくまでも等しく平等に悠然と敵の姿を見下ろしていた。
「オメガデッド」
『!』
無数のスピリットの姿にも呆然と眺めるだけのオメガデッドが、呼び掛ける声に視線を向ける。他ならぬオメガデッドに指示を下す唯一の人間、ヘル。
『命令を出せ、ヘル、我の為す事を』
「あぁ」
オメガデッド同様、無数のスピリット達を前にしてもまるで動じず寧ろ退屈させ感じているかのような気怠い声で。
「片付けろ」
簡潔無比な命令が主より下される。オメガデッドは静かに構えを取る。
始めにゴッドスレイヤードラゴン、ソウルドラゴン、ソーディアスアーサー、カラミティボアと言った近接に長けたスピリット達が我先にと突っ込んでいくが、剣や槍、矛による突きや突進。次に上空からホウオウガが羽の矢を、カタストロフドラゴンが火球を、グランウォーデンが肩の発射口よりレーザーを、ジークヴルムノヴァが火炎放射を。
海中からはディストルクシオンが雷を、トリアイナが激流を、地上からはオーディンによる砲撃、ビャクガロウによる剣の投擲、イスフィールによる魔力を込めた光弾を放ち、それに続くかのように他のスピリット達もそれぞれ一斉に攻撃を放ち、スピリットの軍勢による一斉射撃がオメガデッドへと直撃し、範囲数十kmを覆い隠す程の巨大な爆炎と爆風が巻き起こる。
オメガデッドの姿が爆発の中に消えてもなおスピリット達の攻撃の手を緩めず、耳を劈く程の爆音は暫く鳴り止まず、数分に及びそれが続いた後、漸く攻撃を止め、爆音はピタリと鳴り止むが。
『!』
黒く包まれた爆煙の中で、唯一赤く光る眼光。オメガデッドは腕を翳すと、手の平サイズの光弾を生み出し、次の瞬間、煙を直線状に吹き飛ばしながら音速の如きスピードで撃ち出され、光弾はスピリット達による軍勢の中心へと撃ち込まれ、直撃を受けたスピリットは跡形もなく消失し、直撃でなくとも近くにいたスピリット達は光弾による爆風に吹き飛ばされ破壊される。
圧倒的な破壊力、フィールドを埋め尽くす程展開されたいた筈のスピリットはオメガデッドのたった一度の攻撃で四割程減少していた。それでもスピリット達は怯まない。オメガデッドへと突っ込み懸命に戦おうとするが。
それより先はもはやただの蹂躙であった。
突撃するスピリット達の群れをまるで羽虫を手で振り払うかの如く叩き落とし破壊。群がる足元のスピリットに巨大な腕を振り下ろして押し潰し破壊。さらに後に続くスピリット達を尻尾による一振りで薙ぎ払い破壊。強靭なスピリット達の群れを木の葉の如く吹き飛ばし、蹴散らし、一体また一体と。
破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊。
レール作業の如く行われる蹂躙。気付いた頃にはもうオメガデッドに立ち向かえるスピリットは一体として残っては居なかった。
***
「がはああああッ!!」
バトルフィールドから元の景色へと戻り、吹っ飛ばされ倒れる多くのカードバトラー達、以前大会にて烈我達と戦ったソルガにノルガ、エンザやヒョウガ達の姿も見れる。スピリット達を使役してたカードバトラー達は紛れもない実力者、だがその全員がただ一人と一体の龍を前にまるで為す術がなかった。
「(ぐッ……クソ、俺達じゃまるで相手にもならねぇ。バケモンにも程があんだろうが)」
倒れ伏しながらも悔しさに拳を握り締めながらヘルとオメガデッドを睨むエンザ達だが、退屈そうに溜息を零すヘル。
「弱すぎる。まるで相手にもならねぇ、揃いも揃ってこの程度の実力でよくもまぁ俺に挑めたものだ」
「ッ! ざけん、じゃねぇ……!!」
「!」
見下すヘルの言葉、聞き捨てられないように痛みにふらつく体を叩き起こしてヘルを睨むエンザ。
「テメェが……どれほどの実力かなんざ……知ったこっちゃねぇ。だが、俺達の……世界が、滅ぼされるってのに、黙ってられる訳……ねぇだろうがァ……!」
エンザ同様、まだ意識のあるバトラー達は負けてもなお強くヘルを睨むが、彼らの敵意を鼻で笑って一蹴。
「はは、お前らの気持ちは確かに理解できる。だけど、どれだけ立派だろうと力がなきゃ結局犬死するだけだ。最も、今のお前等なんざ殺すにも値しないけどな」
「ぐッ……まさか、テメェ……! 俺たち全員を相手に手加減してた、って事か!」
「分かり切った事言わせるな、とっとと失せろ。オメガデッド!」
「ッ!!! テメェェ──────」
屈辱による怒り、だがその叫びは決して届かずオメガデッドは腕を翳し彼等全員、何処かへと強制的に送還される。
「全くこの期に及んでも雑魚ばかり……。頼むからこれ以上俺を失望させないで欲しいもんだ」
平地のど真ん中にただ一つ、ポツンと置かれた玉座に腰掛け、視線をオメガデッドへと配りながら愚痴を零す。
『ヘル、以前告げた筈だ。我の力を振るうならそれに拮抗出来る強者等存在しないと。唯一可能性があるとすれば』
「分かってるよ、彼奴等だけって事だろ」
ヘルが口にする"彼奴等"とは七罪竜に選ばれた者、さらに詳しく絞るならバジュラと烈我、ただその二名だけを指す。
「頼むぜ、烈我、バジュラ。お前らは最後の希望だ。この世界にとっても、俺にとってもな!!」
この世界を滅ぼすと宣言した以上、必ずもう一度烈我達が挑んで来ると確信していた。自分を満足させる事の出来る強者か否か、希望を抱きながら座して何れ訪れる決着の時を待ち侘びるのだった。
***
「よく来てくれた。待ってたよ。君達を」
「……ルディア」
舞台は変わってそこは元罪狩猟団のアジトだった場所。ヘルのせいで崩壊寸前だがまだ施設としては機能しており、マチアに連れられ足を運ぶ烈我達、彼等を出迎えたのは他でもないルディアだった。
「……」
再び対面する烈我達とルディア、七罪竜を巡り是迄対立してきたルディアと烈我達。全てはヘルにより仕組まれた事といえど全部まとめて水に流せるほど簡単に割り切れない。ルディアを前に難しい表情のまま黙り込む烈我だったが。
「……烈我君、君の気持ちは分かってる。だから」
「!」
次の瞬間、真っ先に烈我達に対して頭を下げるルディア。組織のトップだった筈の男の最初の行動に思わず呆気に取られた。
「君達には今まで本当に迷惑をかけてしまった。君と、そして君の友達にも」
烈我だけでなく、光黄や星七の方にも視線を向けながら。
「君にも悪かったと思ってる。ヘルがどうとか言い訳をするつもりはない。僕が自分の意思で君達に色々危害を加えた事には変わりないんだ。だから僕の事は君達の気の済むようにしてもらって構わない、だけどそれでも……虫の言い話かもしれないけど、お願いだ、力を……どうか君達の力を僕らに貸してほしい」
頭を下げたまま必死に懇願するように頼み込むルディア、先程迄しかめっ面だった烈我の表情から毒気が抜かれたように戸惑いながら一瞬光黄達と顔を見合わせるが、ルディアに対して「顔を上げろ」と前に出る光黄と星七。
「俺は……ただお前とバトルして負けた、その結果を恨む気なんかない、バトル借りならば何れバトルで返す。だからそれ以外にどうこうするつもりなんて俺にはない」
「僕も同じです。バトルに負けた、でもそれは僕自身が弱かったからです。だから光黄さんと同じく僕もバトルの屈辱はバトルで晴らすだけです!」
「……それってつまり許して、くれるのかい?」
黙って頷く光黄、それを見て烈我もまた軽く口元を緩ませながらルディアの方を見る。
「光黄や星七を傷つけた事についてはまだ怒ってるけど、でも光黄達本人が許すなら、俺も許すぜ。元々は俺もお前もヘルに利用されてただけだ。だからもう水に流すよ」
烈我達と同様にミナトや絵瑠の二人も同じ気持ちの様に首を縦に振り、改めて烈我はルディアへと手を差し出しながら。
「この世界を救いたいのは俺達も一緒だ。だから、戦おうぜ! 俺達で」
「!……あぁ、本当にありがとう」
烈我の手を取るルディア。経緯はどうあれ、今の彼等にはもう蟠りはない。
「話はどうやらまとまったようだな」
「……ドレイク!!」
会話に加わるように奥から顔を出すドレイク、彼の姿に安堵の表情を浮かべるように反応する烈我。
「時間がねぇから無駄話する気はねぇぞ。面子は揃った、さっさと始めるぞ」
「そうだね。とりあえず烈我君達も中に入って。情報共有をさせてくれ、これからに備えて」
二人に連れられ案内された場所はアジトの中央広場、しかしアジトと言っても現在ルディアとドレイクの二人を除けば内部に人の気配を感じられなかった。
「ねぇ、ヴァン達は?」
「今罪狩猟団を総動員して世界中の混乱の収拾、それから避難活動を率先して行ってもらってる。世界各地を回ってヴァン君、それにミコちゃんやディスト、ガイトには団員達の指揮を担当してもらってる」
マチアの質問に即答するように答えるルディアだが、「けど」と言葉を続けながら。
「率直に言おう。ヘルがこの世界を滅ぼすと言った期限まであと今日と明日の二日、それまでにこの世界の全て人間を避難させる事はまず不可能だ」
「「!」」
ルディアから聞かせられる残酷な現実。実際問題この世界全ての人間の総数は計り知れない程。たった二日で全員を非難させる等まず不可能だろう。奇跡の余地はなく、表情を強張らせつつ反論の余地がないように烈我達も誰一人として異議を唱える事はない。
「避難させられる人間はどれだけ多く見積もっても3,4割程とみていいだろう」
「…………」
「じゃあどうするのが最善か、決まっている。ヘルを倒すしかない、それ以外にこの世界とスピリッツエデンに住む人間全てを救う方法はない」
改めてルディアより聞かせられる目的、全員がルディアの言葉にはっきりと頷く。
「さて、まずはその為にどうするかだけど」
「まずはアタシから情報共有するよ。ヘルの事だけど、彼奴を倒すために実力達が集まってヘルに挑みに行ったらしい。結果は──」
「結果についてなら団員から報告があったよ……全員ヘルにやられた」
「「「!!?」」」
マチアの報告に対して即答するルディア、彼の言葉に全員の顔色が変わる。
「ぜ、全滅って事か?」
「あぁ。幸い命に別状はない、バトルに負けオメガデッドに適当な場所に飛ばされ、各地で団員達が挑んだカードバトラー達を保護してる。彼等の話を聞けば、オメガデッドに対しまるで歯が立たなかった。口を揃えてそう言っていた」
「……」
「この世界では名の知れたカードバトラー達だった。彼等の中には僕もよく知る実力者が何名もいたよ。けれどそんなカードバトラー達が束になってもヘルには及ばなかった。
この際ハッキリ言うけど、もうこの世界誰一人としてヘルに適う人間なんて一人もいないのかもしれない」
ヘルの言葉に歯を喰いしばるが誰一人として直ぐには反論できなかった。それほどまでにヘルの実力が凄まじいという事はこの誰もが痛感しているからだ。しかしそれでも。
「まだ希望はある。ヘルに勝てるかもしれない可能性、それは僕やドレイクでもない、七罪竜に選ばれた君達、嫌、烈我君とバジュラ、君達二人しかいない」
「「「!!」」」
全員の視線が烈我へと集まり、初めは緊張している様にビクついた反応をしながらもすぐに表情を切り替える。
「……俺達が希望!」
『ハッ、まさかビビってんじゃねえだろな?』
「!」
口を挟むようにその場で実体化するバジュラ。
『ヘルの野郎をぶっ飛ばすのは俺達以外にいねえ! ずっと分かってた事だ。今更引く道はねえ、分かってるだろ?』
「ったりまえだ! 一度は負けた……けど、もう負けない!! 必ず、絶対……俺達はヘルに勝つ!!!」
真っ直ぐな表情で"絶対"を言い切る烈我、世界を賭けての勝負等、それに挑もうとする者にどれ程の精神的な重圧が掛かるか計り知れない。それでも計り知れない重圧に押し潰されないと証明する程、彼の表情は自信と決意を表していた。
「今の君なら余計な心配は不要だね」
「此奴はそうだろ、わざわざ俺にもデカい口叩きやがったんだ、今更臆病風に吹かれてたら蹴り倒してたよ」
にこやかに笑うルディアと当然だと言わんばかりの様子のドレイク、だが烈我を認めているという点においては二人とも同じだった。
「残りの期間、その間にできる事全て僕もドレイクも協力させてもらう」
「アタシも勿論協力してもらうよ。やっとヴァンと昔の仲に戻れたのに、今更世界を滅ぼされるとか絶対嫌だからね」
ルディアに続き、口を挟む様に加わるマチア。相変わらずな様子の彼女だが、それでもこの世界を守りたいという想いは皆一つ。
「ありがとう。皆がいれば心強い! 負ける気がしねぇぜ!!」
「自信があるのは分かるがあまり慢心するなよ。ヘルの力は見縊れないからな」
「分かってるって。でも皆もいるし、それに光黄の応援があれば俺にとっては百人力だぜ!」
「ッ!! こんな時まで恥ずかしい事言うなバカ烈!! 第一正式試合なら俺にさえまだ一度も勝ったことないだろ!!」
「うっ、それは……!」
『ハハッハ、世界の救世主になろうって奴がそれじゃあ形無しだな』
「まっ、いつもの事だけどな」
烈我を窘める光黄。痛い所を突かれたように顔を顰め、二人にやり取りにバジュラやミナト達は笑って、これから世界を救うとなればそのプレッシャーは計り知れない筈なのに、それを感じさせない程、賑やかな活気に満ちていた。
「それじゃあ打倒ヘルに向けて、頑張ろうぜ! 皆!!」
「「「「「おぉーーッ!!」」」」」
烈我の言葉に全員の気持ちが一つとなる。早速ルディアや光黄達の協力の元、打倒ヘルに向けたデッキの改良へと取り掛かる。
***
「ヘルにはオメガデッドだけじゃない。ライトやキラー、エヴォルにシュオン、他の七罪竜のカードも使ってくる。それの対抗が必須だよな」
「烈我、あの、これ……!」
「?」
悩んだ様子の烈我に、真っ先に声を上げる星七。一枚のカードを取り出し始めたかと思うと。
「烈我、僕の切り札。良ければ使ってくれませんか?」
「ガーヤトリーフォックス!? いいのかよ?」
「はい。七罪竜には及ばないかもしれないけど、それでも僕も力になりたいんです。エヴォルに少しでも対抗できるとしたら、このカードが……このカードならきっと力になれるんじゃないか、そう思って……!!」
星七の強い表情に烈我も何かを感じ取るように頷くと、手渡されたカードを受け取る。
「星七、サンキュー! "少し"ぐらいなんかじゃない。すっごく頼りにさせてもらうぜ!」
「!……はい、ありがとうございます!」
「そういう事なら、私のウロヴォリアスも使ってくれ! シュオンにも負けない相棒だ!」
「俺のグリードッグもな。此奴の力は俺が保証するよ」
絵瑠やミナトも自らのキースピリットを烈我へと手渡し、最後に光黄も自分のキースピリットを見るが。
「ヴィーナルシファー……正直言って此奴は癖が強い。赤デッキとの相性を考えても加えるべきかどうか」
「そんな事ねぇよ。ヘルは強い。とてつもなく、今まであったどんな奴よりもデタラメに……そいつに勝とうと思ったらやっぱり皆の力がいる。誰一人欠けても勝てない。光黄の力も借りなきゃ絶対に勝てない、そんな気がするんだ」
「…………」
渡すべきかどうか悩みながらも、烈我の目を見て。
「分かった。ならヴィーナルシファー、使いこなして見せろ。俺の相棒に不甲斐ない真似させたら承知しない!」
「あぁ。約束する、皆の力……絶対無駄になんかしない!」
力強く答える烈我に安心するように笑う光黄達。
「彼奴、六色全部デッキに加える気か。回せるのか、そんなデッキ」
「まぁいいんじゃないかな。これから戦う相手は強いのは当然として、ヘルの強さは規格外すぎる。そんなのを相手にセオリーや、僕等の常識が通用なんてする訳ない。彼もそれを分かってるんだろう」
「……常識外れには常識外れ、って訳か」
「あぁ、信じよう彼等を。僕達は僕達にできる事をするだけだ」
烈我達の様子を眺めるルディアやドレイク、烈我達へと加わりそれぞれデッキの調整相手となったり、その結果を見て次に試すカードを選び、デッキを調整しては対戦と何度もそれの繰り返し。シンプルとも思えるが、それでも全員がそれぞれ必死に自分の役割を果たす他ない。そうした中で時間は着々と過ぎていき。
***
そして日は流れ、ヘルとの決戦はついに明日へと迫る。
「……完成した! これが、俺の、嫌俺達皆で作った最高のデッキだ!!!」
「考えうる限りの思考を試した、様々なケースを想定した。間違いなく全員が考えた最高の答えだと思うよ、けれど、それでもヘルに勝てる保証はない」
忠告するようなルディアの言葉。けどどれだけ頑張っても、どれだけ思いを込めても時に仮定を一蹴する結果となるのが現実だ。だがそんなルディアの言葉に。
『負けねぇよ』
「「!」」
『今更野暮な言葉はいらねぇ、腹立だしい』
「バジュラ?」
「テメェ等は
単純明快なバジュラ、一瞬呆気に取られながらも烈我は口角を上げて。
「そうだよな、バジュラの言う通りだぜ。俺は絶対に勝つ! だから、信じてくれ!!」
全員それ以上何かを言うことは無かった。ただ烈我を信じる様に、頷いて答えて見せた。
「確かに野暮だったみたいだね。ヘルと戦うのは明日の夜明け。皆ゆっくり休んでくれ」
解散となり、ルディア達とは別室でアジト内部にて比較的被害のない一室に案内され、明日に備え休息を取る烈我達。部屋と言ってもそこまでちゃんとした設備はなく、広い部屋に烈我達五人は雑魚寝になって転び、一人が「お休み」と言ったのを皮切りそれぞれ目を瞑り眠りにつくのだった。
***
「(んんっ…。)」
まだ夜明け前の深夜、眠れないのかふと目が覚め起き上がる光黄、彼女としては珍しい事だった。明日の事を心の隅で不安に感じているが故の影響なのだろうか、この日はすぐに寝付く事が出来なかった。
「(……やれやれ。不安を感じてるんだろうか俺は、烈我を信じると言ったのに、これじゃあ立つ瀬ないな)」
近くで寝ている烈我達の方を向き、烈我と星七の二人はまだスヤスヤと規則正しい寝息を立てながら熟睡している様子だが、ふと何かに気付き。
「(?…絵瑠とミナトがいない?)」
同じ部屋で寝ていた筈の二人の姿はなく何処かに出掛けたのだろうか。このまま部屋に留まってもどうせ寝付けそうにはなくついでに二人を探そうと彼女もまた部屋を出る。
「……あれ? 光黄」
丁度烈我もまた目が覚めたように薄らぼやける視界の中、彼女が出ていく姿が目に写り。
「(あの二人は何処に……うん?)」
散歩するように外の景色を見渡しながら二人を探す光黄、幸い外に出てすぐ絵瑠の姿が映り。
「(絵瑠? 彼奴ここで何を?)」
「おーい!」
「!?」
光黄とは違う方角から駆け寄るミナト、不意の声に動揺したのか咄嗟に近くの岩壁に隠れる。
「絵瑠、話ってどうしたんだ。そっちから誘ってくれるなんて随分珍しい。まっ、お前の誘いなら身に余る光栄だけどな」
「…………」
「絵瑠?」
陽気に笑いながら相変わらずチャラけた態度のミナト、普段ならば絵瑠はそれに食って掛かるが、今日この日ばかりは物静かな様子で、普段と違う彼女の様子にわずかばかりミナトも戸惑う。
「ど、どうしんだよ絵瑠。何かいつもと雰囲気違くないか?」
「…………ミナト」
「!」
数秒間をおいて、ようやく答える様に彼の名を呼ぶ絵瑠。
「ミナト、今からお前に聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「な、何だよ。改まって……はは、何か怖いな、俺また何かしちゃって────」
「いいから。誤魔化さずに答えてほしい」
「…………」
普段のノリで茶を濁そうとするミナトだが、静かに言葉を告げていく絵瑠の様子に次第に彼も真剣に絵瑠と向き合う。
「ミナト、お前は私の事をどう思ってる? 率直に聞かせてほしい」
真剣に向き合いながら絵瑠から問いかけられる質問、それに対して先程までチャラけていた態度は今は片鱗も見せず、じっと絵瑠を見つめたまま彼は口を開く。
「俺にとって、お前は……大切な仲間で友達……嫌、それ以上。親友や友達としてじゃなくて」
少しだけ照れ臭さを感じながらも、決して絵瑠から目を背けず彼は続ける。
「他の誰でもない、俺にとってお前が……絵瑠が、俺の一番大切な人だ」
「…………」
「本当は、お前を一番大切だなんて俺に言う資格はないかもしれない。嫌、現に今も思ってる」
彼が思い返すのは絵瑠と初めて会った時の事、そして、彼女を気持ちを裏切ってしまったあの時の事。
「お前はよく俺の事、お調子者だとか言ってたけど、実際その通りだし俺も自覚してる。烈我と会う前はさ、人付き合いは楽しくできりゃその場限りの適当でいいと思ってて、誰かとの縁なんていつ切れるかわからないもん、別に惜しくないと思ってた。
けど、初めて会った時お前は、こんないい加減な俺の言葉を真面目に受け入れてくれた。こんな俺の告白を、真剣に考えてくれてた。それが嬉しくて、俺はお前との縁を失くしたくないって心の底から思ったんだ。なのに結局、お前の気持ちを裏切る羽目になっちまった」
「…………」
「今更俺が何言っても言い訳でしかない。それでも俺は……お前に嫌われたままでいるのが、とても辛かった。正直ただの自己満足だよ。一度お前に悲しい思いさせた俺が、今更お前を大切な人だって言える資格はとっくにない。けどどうしても、もしお前との縁が切れるとしても、せめてお前に笑顔を向けられるような仲で終わりたいって。そう思って、俺はずっとお前に謝りたかった。けど反面、どうしてもこんなチャラけた態度の俺でいた方が、お前とずっといられるような気がして、ごめんな」
ミナトの言葉に黙って聞き入れる絵瑠。
「話が逸れた上に、この期に及んでまた言い訳になっちまった。自己嫌悪はしたくねぇけど、それでもやっぱり……いい加減だったよな俺。本当に……悪かった。絵瑠、お前を悲しませるような真似をして。許されねぇかもしれぇけど、それでも────」
「もういいよ」
「!?」
ずっとミナトの話を聞いていた彼女だが、ここで初めて声を上げたかと思うと。
「本当にいい加減な奴はそこまで思い詰めたりなんかしない。あの時、シュオンに乗っ取られた時、私を本気で助けてくれようとした時から、本当は私もお前がいい加減な奴じゃないって事を分かってた。お前が本気で私に対して謝ろうとしてくれてた事も分かっていた。そもそもあれは、ただの誤解だったんだろ」
「!」
「分かってたはずなのに……どうしても素直になれなかった。私は自分に自信がないから、周りと比べて私はお前の気持ちに応えられる程に釣り合うのかって、勝手に嫉妬して……強がって。だからお前が私の事、大切に想ってくれてるってとっくに分かってた筈なのに、勇気が無くてずっと逃げてた」
「……絵瑠」
「でもヘルに操られてお前がいなくなった時、すごく怖かった。もしこのまま自分の意持ちを伝える事が出来ないままお別れになったらって、涙が止まらなくなりそうだった」
もしミナトがいなくなってしまったら、それを考えた時全身の震えが止まらなかった。言葉さえまともに出なかった。何故ならば彼女にとってもミナトは。
「烈我の事を信じてない訳じゃない、ヘルを倒すって信じてる。でもどうしても、烈我が負けたらって、”もしかして”を考えてしまうんだ、その時私達はどうなるか分からない。今度は本当にミナトとお別れになるかもしれない……そう思うと怖くて……後悔だけは残したくない、だからミナト、あの時の答えを今、言わせて」
「!」
静かに息を呑むミナト、絵瑠もまた目を瞑りながら深呼吸すると、静かに目を開けて。
「ミナト、私は……お前の事が、大好きだ。私を選んでくれて、本当にありがとう」
「!!!」
「言えてよかった。ごめんね、こんな時でしか素直になれなくて」
感情極まるように彼女の目からは涙が零れ、彼女の涙を目にミナトは何も言わずに絵瑠を抱きしめる。
「み、ミナト?」
「謝んなよ。お前から答えを聞けただけで……俺はそれだけで十分なんだ、ありがとう絵瑠。もうお前を絶対悲しませるような事はしない、誓ってもいい。烈我は必ず勝つ、俺も絶対お前の傍にいるって約束する。だからお前も、俺の傍に、いてくれ」
「!……うん、うん…………いいよ!」
涙はいつの間にか止まり、ミナトに対して満面の笑みで彼女はそう答えた。
「(……つ、つい聞き入ってしまった。何してるんだ俺は……!)」
一方で物陰隠れて二人の会話を聞いていた光黄。動くに動けず結果盗み聞きに近い状態となってしまった事に、はしたないと反省する彼女だが。
「(それにしても……”後悔だけは残したくない”、か)」
冷静に戻り、絵瑠の言葉が頭を過る。もし烈我がヘルに負けたら、その最悪を仮定した上で今回絵瑠はミナトに想いを伝える事を決意した。勿論絵瑠が烈我を信じていない訳ではない、だがどうしても最悪の"もしも"を頭から切り離すことが出来なかったのだろう。絵瑠の気持ちは彼女にも理解できる。絵瑠だけじゃない彼女自身もまた、頭の片隅でどうしても、最悪を想像してしまう。もしそうなってしまったとしたら。
「俺は彼奴に、何も言えないまま……」
「何が?」
「ひゃあ!!?」
突然背後から声をかけるのは噂の当人である烈我、急な彼の姿に思わず驚いた声を上げてしまう。
「きゅ、急に出て来るな! ビックリするだろ!!」
「ご、ごめん。驚かせる気は無くて……ただ光黄が出て行くの見えたから、つい心配で」
「ッ! べ、別に……寝れないから夜風に少しあたりに行っただけだ。お前の方こそ気にせずさっさと寝ろ、戦うのはお前なんだからな!」
「わ、分かってるって!!」
いつもの調子でやり取り、けれどもしかしたらこんな他愛もないやり取りももしかしたら最後になってしまうのかもしれない。ふとそんな不安が脳裏を過る。絵瑠は後悔が無い道を選択した、だったら自分もそうするべきなのだろうか、と考えてしまう。
「なぁ、烈g────」
「光黄」
「!」
声を掛けようとした矢先に、烈我と声が被り、動揺しながらも要件を尋ねる光黄。
「明日俺は必ず勝つ、勝ってライト達も取り戻す。それでさ全部解決して元の世界に戻ったらさ、最初に俺と、バトルしてくれないか?」
「!」
「ヘルにも勝つ。それは絶対にやらなきゃ行けない事だとして、俺の目標はやっぱりお前に勝つこと、だからな」
「……それで、俺に勝てたら?」
「あぁ! 勝ったら、俺はお前に告白する! ずっと言ってるけど、今でも俺の夢はそれに変わりないからな!!」
「…………」
まるで子供の様に無邪気で、けれど強く真っ直ぐな目。それに対して彼女は。
「あっ、そういえば光黄、さっき何か言いかけてたんじゃ」
「……嫌、別にいい。大したことじゃないさ」
「そ、そうなのか? ならいいけど」
「さっさと戻るぞ。とにかく今は休め」
「もう夜風に当たんなくていいのか?」
「煩い、どうせお前一人だけ戻っても、俺の事が心配だとか何とか言って寝そうにないからな」
「うっ、そりゃ……そうかもだけど」
見通されるかのような光黄の言葉に、立つ瀬がない様子の烈我。
「烈我、それと……さっき言った事だが」
「?」
「お前がヘルに勝って、元の世界に帰ったら俺は何時でもお前の挑戦なら受けてやる」
「!」
「だから明日のバトル、必ず勝て。お前を、信じてる」
真っ直ぐ烈我を見つめながら言い放つ彼女の言葉、それが嬉しいように胸が熱くなり頬を赤く染めながらも頷く烈我。
「あぁ、サンキュー! 光黄!!」
「……それじゃあ戻るぞ」
結局烈我に対して自分の想いを伝えることは無かった。烈我が勝つと信じると心の底から決めた今、余計な言葉は要らない。
無事に元の世界に戻った時に、そして、いつか交わした約束を果たした時、この想いを伝えよう。だって。
「(烈我、お前が約束を破るような奴じゃないのは、俺が一番知ってるから)」
小さく呟きながら並んで歩く烈我と光黄の二人。まもなく夜が明ける。二人の想いも、この世界も、明日の決戦に全てが委ねられていた。
いかがでしょうか?
第42話!!!今回はバトルなし回です!!!
ついに迎えるヘル達との決戦、その前夜祭でした。
ようやくミナトと絵瑠も完全に仲直り出来ましたね。そして烈我と言うと…おおっとまだ出遅れてますね笑←
彼らの仲もまだまだ温かい目で見守ってもらえればと思います。そしていよいよ最終決戦!!!一体どうなるのか是非ともよろしくお願いします!