バトルスピリッツ 7 -Guilt-   作:ブラスト

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夏の特別編 【SUMMER VACATION】PART‐Ⅲ

"XX月XX日、花火大会実施"

 

「!」

 

広告のように店舗に貼られた一枚のポスター、何気なく街を歩いていた烈我は視界に映るそのポスターに目を惹かれるように足を止める。

 

「烈我さん、どうかしました?」

「何か面白いのでもあった?」

 

今日は一緒に遊んで行動していたミナトと星七も烈我の様子に気付き、そのポスターを覗き込み。

 

「花火大会ですか? そういうイベント何だか久々な気がしますね」

「そうだな、まぁでも楽しそうで偶にはいいんじゃねぇの?」

 

陽気にそんな事を言いながら、「それで」とミナトは烈我に肩を組みながら。

 

「当然、光黄ちゃんも誘おうと思ってんだよな?」

「!!」

 

ミナトからの直球的な問い、それは図星だったのか、「何でバレた!?」と声に動揺を全く隠せていなかった。

 

「お前は分かり安すぎるからな。勿論誘い文句は決まってんだろ?」

「お前と一緒にすんな! そんなお決まりの台詞とかないから!」

 

「それに」と少しだけ自信がなさそうに顔を俯かせながら言葉を続けて行き。

 

「無理に誘うのも悪いかな~って思ってる。ほら、多分アイツなら「あんまり人の多い所は好きじゃない」って言いそうだと思って」

「…………」

 

軽く光黄の真似をするような言い方だが、ミナトはその話を聞き終えると同時に「はあぁ~~」とわざとらしい程に大きく声を上げて溜め息をつき始める。

 

「な、何だよ?」

「随分女々しいな~。誘う前から、んな調子でどうすんだよ?」

「う、うるせぇな! お前に言われる筋合いねぇだろ」

「筋合いならあるよ、好きな子にそんな調子でどうすんだ。グダグダ言わずにとっと誘え、それに」

「それに?」

「(お前の誘いに光黄ちゃんが断る訳ねぇだろ?)」

「ん? 今何て言った?」

「全くしょうがねぇなぁ」

 

わざと小声で呟き、聞き取れない様に烈我は再度聞き返すが、その質問には答えずミナトは携帯を取り出して、どこかに掛け始めたかと思うと。

 

「あっ、もしもし光黄ちゃん?」

『……ミナトか?』

 

「!!?」

 

掛けた相手はまさかの光黄であり、彼女が返事を返す声に烈我は思いっきり驚く様に反応。

 

『俺に何か用か?』

「嫌、用があるのは俺じゃなくてさ、今烈我と一緒に居るんだけどとりあえず代わるわ」

『「!!?」』

 

不意打ちなミナトの言葉、それには思わず烈我だけでなく光黄もまた電話越しで驚いている様子だった。

 

「そんじゃ、ホレ烈我」

「おまっ! ふざけッ……!!」

 

投げ渡される携帯をあたふたしながらもキャッチし、少しだけ緊張しながらも恐る恐る携帯を耳に当てる。

 

「そ、その光黄」

「れ、烈我……俺に、何か用か?」

「え、えっと……その」

 

何を話せばいいのか突然すぎる事態にすっかり冷静さに掛け、口籠ってしまい助けを求めるようにミナトに視線を向けるが、本人は笑って親指をグッと上げる仕草を見せるだけ。

 

「(テメェ! 何がグッ、だ!!)」

『烈我?』

 

ミナトに対して文句を言ってやりたい気持ちで一杯だったが、ともかくこうなってしまった以上、今更うだうだ言っても仕方がなく気持ちを整理するように一旦落ち着くと。

 

「その、光黄……急で悪いんだけどさ、今度花火大会があって良かったら一緒に行かねぇか」

『そ、それってお前と……二人きりでって?』

「い、嫌……勿論皆とでさ!」

『……そう』

「光黄?」

 

あれ?気のせいだろうか、何となく小さく呟く光黄の声が残念そうに聞こえた。

 

『あまり人の多い所は苦手なんだけどな』

 

やはり予想していた通りの答え、分かっていただけにとても申し訳なく思う。

 

「ごめん。やっぱり迷惑だったか?」

『……まぁ別に迷惑という訳じゃないが』

「えっ?」

『折角誘ってくれたし、俺も気分転換したかったんだ』

「本当に! じゃあさ、明日俺ん家で待ち合わせってのは?」

『分かった。それで構わない』

「サンキュー! じゃあ明日楽しみに待ってるから!」

「はいはい、分かったから。ともかくまた明日な」

 

会話を追えてそこで電話を切ると同時に、烈我は大きく「うっしゃぁッ!!」と高らかにガッツポーズ。

 

「おーおー、よく頑張った。でもまっ、これも俺のお陰かな?」

「どの口が?」

 

携帯を返しながらも先程の事に恨み募るのか、威嚇する様な目を向けるが本人はケラケラと笑ってまるで気にしてはいない。

 

「バジュラの言葉を借りるならテメェに俺の怒りをぶつけてやろうか?」

「おー、怖っ。まぁまぁ悪かったよ」

「ったく!」

 

とはいえあまり強く言った所で無駄だろう。正直まだまだ文句を言ってやりたい気持ちはあるが、溜め息をついて諦める。

 

「まぁでも素直に光黄を誘えたのはお前のお陰だしな。礼は言っとくよ」

「はは、どう致しまして。でもすこーしだけ物言わせてもらうなら別に俺達は気にせず、光黄ちゃんと二人きりでも良かったんだぜ?」

「バカ言うな! まだ光黄と付き合ってもねぇのにそんなデートみたいな事、出来る資格がねぇよ」

「まだそんな事言ってる。邪魔なら俺等は遠慮しとこうか?」

「オイ、来るよな?」

 

逃がさない様にミナトの肩を掴みながら睨み、「怖い怖い」と棒読み気味に台詞を吐く。

 

「あはは、まぁ烈我が迷惑じゃないなら僕も一緒に行かせてください」

「あぁ! サンキュー星七! 寧ろ、是非来てくれ! 勿論ミナトもな!」

 

ジト目を向けながら釘を指す様に一言、「分かりましたよ」と若干呆れながらも返事を返す。

 

「じゃあ俺と星七は距離的に近いから、先に会場近くで待ってるよ。絵瑠も誘ってな」

「それはいいけど、しっかり謝れるか?」

「う~ん、まぁ善処はしとく。というかお前は俺の心配なんかしてずに光黄ちゃんをエスコートする事だけ考えてろ」

「大きなお世話だっつーの!」

 

「それじゃあな」と手を振って先に帰宅する烈我、星七も手を振りながら見送るが、烈我の後ろ姿が見えなくなるのを確認するとミナトは。

 

「はぁ~、全くあの二人は本当に相変わらずだな」

「あの二人って光黄と烈我の事ですか?」

「まぁね、星七君はどう思う?」

「どうって、まぁよくは分からないですけど烈我は相変わらず一直線ですし、光黄も嫌そうには見えないから楽しそうだなって」

「ははは、純粋な感想をありがとう! でも俺から言わせりゃどっちもじれったいんだよな?」

「?……烈我は割と直球だと思いますけど? それに光黄も、ですか?」

「気にしなくていいよ、これは俺の独り言だしね」

 

そう言いながら携帯を取り出してまたどこかに電話をかけて。

 

「あっ、もしもしるみかさん?」

『もしもしミナト君? どったの~?』

「実はかくかくしかじかで──」

 

 

***

 

 

翌日、夕暮れも近い時間。まだかまだかとそわそわそながら玄関近くをうろうろと歩き回る烈我。

 

「列我ー、少しは落ち着きなって」

「べ、別に俺はいつも通りだし!」

「はいはい」

 

そんなやり取りを交わしながらも、そこへようやく待ちに待っていたように、ピンポーンとチャイムの音が鳴り響く。

 

「来たぁーッ!!」

「ステイステイ、私が応対するから」

 

玄関へ向かう二人、ドアを開けるとそこには玄関前に待つ光黄の姿。

 

「光黄ちゃん、いらっしゃーい!」

「よぉ光黄、来てくれてありがとう!」

 

「どうも、こんにちは」

 

るみかに軽く頭を下げて挨拶し、光黄の姿に烈我は嬉しそうな様子で端から見ればまるで尻尾を振りながら喜ぶ犬の様。一方で光黄の姿に何故かるみかは烈我の後ろで何かが不満げに難しい顔をしており、嫌な予感を感じて彼女はあえて触れない様にした。

 

「急な誘いでごめんな」

「別に。丁度俺も予定が空いてたから構わない。それより行くんだろ?」

 

「それじゃあ姉ちゃん、光黄も来たことだし早速行ってくるぜ!」

「あっ、ちょっと待って!」

「?」

 

「ごめん、やっぱりアタシも花火大会行きたくなって、衣装とか用意するからちょっと待って!」

「はっ!? さっきまでそんな事!!」

「いや~今思い付いちゃったってさ。着替えに光黄ちゃんも手伝ってくれない?」

 

「お、俺もですか?」

「そうだよ、何で光黄まで!!」

 

「煩い! 女性のオシャレに男子は口出ししない!!」

「んだよ俺を邪険にしようとして! オシャレってさてはナンパでも狙うつもりかよ? この前カラぶってそんなの二度としないって──」

「それ以上言ったら、コロスヨ?」

「ひぇっ!!!?」

 

口元を緩ませながらもその眼は決して笑っておらず、その迫力はさながら鬼。先程迄抗議の声を上げようとしていた烈我は途端に固まってしまい、光黄も思わず見た瞬間に一瞬ビクッと肩を震わせる。

そしてるみかはそのまま、目線で「行け!」と合図を送るような素振りを見せると、「分かりました!」と全速力で走り去る。

 

「お、おい! 烈我!!」

「フフフ」

「!!」

 

烈我がいなくなったのを確認すると、それを待っていたように不敵な笑みを浮かべるるみか。

 

「さぁて、これで厄介払いは済んだ!」

「あ、あのるみかさん、何を!?」

 

不敵に笑うるみかに、思わず距離を置く様に一歩下がるが。

 

「抵抗は無駄だよ! 大人しく往生しなさい!!」

「ちょっと待っ──!!」

 

 

***

 

 

『あっ、来た来た! おーい!!』

 

一方で夏祭り開催場所の入り口付近で佇む絵瑠やミナト達、そして人目を避ける為、ミナト達の陰に隠れるバジュラやライト達の姿もあり、彼等は烈我の姿に気付くと手を振りながら声を掛け、烈我もそれに気付き、返事を返しながらその場に駆け寄る。

 

「あれ? 光黄ちゃんとるみかさんは?」

「あぁー姉ちゃんまだ色々準備があるって。光黄もそれに付き合わされちまった」

 

『ハハッ、で? お前はるみかの奴に追い出されたってか?』

『ちょっ! まさか二人を置いてきたんですか! 光黄様とるみか様に何かあったらどうする気ですか!』

 

ミナトは烈我の話に「相変わらずだな」と言った様子で、バジュラは腹を抱えて笑い、ライトは対照的に抗議するように睨んでいる。

 

「仕方ねぇだろ! 姉ちゃん、怒らしたら命が幾つあっても足りねぇんだよ!!」

 

とは言え、だからこそ道中、るみかと光黄が一緒にいるならばと安心できる訳なのだが。

 

『ハッ、何を馬鹿な! 光黄様と同じくるみか様の様な女神のように美しいあの人に限ってそんな事ある訳ないじゃないですか』

 

烈我の話を全く信じず、煽る様に鼻で笑うライト、「テメェ!」と怒りに思わず拳を握りしめずにはいられない。

 

「あはは、でも僕もるみかさんは優しそうに見えるし、あんまり信じられないですね」

 

そんな星七に対し、烈我は星七の肩を掴みながら。

 

「騙されんなよ! 姉ちゃんを本気で怒らしたらまさに鬼だからな! どんなスピリットよりも確実に恐ろしい!!」

「そ、そんなにですか!?」

 

『ハッ、バジュラのパートナーも姉には形無しか。まっ、俺様には関係ねぇ事だがな』

『端から見とる分には面白くて退屈しないがのぅ~』

 

烈我達の様子に完全に高みの見物を決め込むキラーとエヴォル。

 

「なぁそれより私の恰好! どう思う?」

「!」

 

唐突に声を掛ける絵瑠、今日は祭りという事もあり、場の雰囲気に合わせてか彼女は浴衣を着ており、浴衣姿を自慢するように袖を振りながらアピール。

 

「へぇー、結構似合ってると思うぜ!」

「はい、僕も良いと思います」

 

烈我と星七からの言葉に、「二人ともありがとう!」と素直に感謝の気持ちを述べるが。

 

「絵瑠、その恰好──」

「お前には聞いてない」

 

後ろからのミナトの言葉に振り替える事無く、相変わらずに辛辣な一言。

 

「んだよ、俺には偉い冷たいじゃんか」

「当たり前だ! 何度も言うが私はまだあの時の事許してないからな」

「だからそれについては謝るって。それに浴衣も俺は本当に似合ってると」

「謝罪は結構! それにここに来る途中、散々見掛けた他の女の子にナンパ紛いな事しといて……!!」

 

「またか」とミナトに対し冷ややかな目線を向ける烈我だが、ミナトはてへッと軽く舌出しながら反省の色はなし。

 

「まぁまぁ、それが俺の性分だし大目に見て欲しいかなーって」

「何が大目に見て欲しいだ! ちょっと殴らせろ!!」

「やれやれ、そりゃ勘弁! つー訳でキラー、逃げるぞ!!」

「逃がすか! 追うぞシュオン!!」

 

『やれやれ、俺様が逃げか? まぁ上の者は余興にも付き合ってやる』

『人遣いが荒い。どうでもいいが出店の料理を回るのは忘れるなよ?』

 

それぞれ人目を避ける為一旦カードの姿に戻り、絵瑠とミナトの懐に収まるとそのまま二人は追いかけっ子の様に先へ向かってしまう。

 

「ミナトさん相変わらずですね」

「まぁ彼奴は前々からあぁだし仕方ねぇよ。それより光黄達は?」

 

『おっ待たせ~~ッ!!』

「「!」」

 

満を持して登場するように高らかに叫ぶるみかの声、その方角に振り替えるが。

 

「こ、光黄!?」

「!」

 

言葉を失う程の衝撃、目の前にはるみかと並び淡いオレンジ色の浴衣を着こなし、金髪の髪を簪で留め、普段と違い御淑やかな姿の光黄の姿がそこにあった。

 

「ふふん、どう?」

 

るみかもまた白の花柄の浴衣を着こなしているが自分以上に、まるで娘を自慢するかのようにどや顔見せているが、一方で光黄は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら今の状況を後悔していた。

 

「(やっぱりこうなった!)」

 

何となく感じたあの時の嫌な予感、それは見事にも的中してしまい、浴衣自体はるみかの御下がりであり、烈我が先に向かったあの後、結局半ば無理矢理に着せられてしまった。

 

「(全く何で俺が浴衣なんかを)」

 

自分なんかよりもるみかの方がよっぽど似合っているだろう、自分にとっては似合わずおまけに動きづらいだけ、正直な所、彼女の感想はそれだけなのだが。

 

「(ごめんねぇ~、だって折角の夏祭りなのにいつもと同じ恰好じゃもったないでしょ)」

 

悪いと言いつつ小声で話す本人の顔にはまるで反省が見えない。怒った所で無駄だろう。

 

「こ、光黄! どうしたんだよ、それ!?」

「あ、あんまりジロジロ見るな! 自分でも可笑しいと分かってる!」

「嫌々全然そんな事無いって! 驚きはしたけど、でもすっごく可愛いぜ!!!」

「ッ!!」

 

相変わらずど直球な烈我からの一言、恥ずかしく思いつつもそれが嬉しくて、高まる感情にさらに顔が赤くなり、その様子にるみかは顔をにやけさせており、それに八ッとしたように気付くと顔を振って気を取り直す様に気持ちを落ち着かせる。

 

『光黄様! 浴衣姿とっても綺麗ですとも! まさに絶世の浴衣美人!!』

「いいから。そう言う世辞はやめてくれ」

『何を言いますか! このライト、執事として本気でそう思っております!』

「何度も言うが、執事は雇ってないからな」

 

何時もながらのやり取り、たが烈我はやはり光黄の姿にすっかり気がいってしまい、本人は自然に振舞ってるつもりだが傍から見れば逆にそれが不自然に感じて仕方ない。

それに対し、るみかはまた何か悪巧みするよう笑みを浮かべ。

 

「さ〜てそれじゃあ私はちょっと行きたい所あるんだけど、星七くんも付き合ってくれない?」

「ぼ、僕ですか?」

「そうそう、ついでにバジュラ君とライト君にも付き合ってくれたら嬉しいな」

 

『あぁ? 俺がついでだと?!』

『ふふふ! 美しい方からのご指名とあらば喜んで!』

『おいライト、テメエまで何を勝手に!』

『煩いですよ、つべこべ言わずにとっとと来ればいいんですよ、それともまさか女性のエスコートも出来ないんですかぁ?』

 

揶揄うようにニヤケながら煽るライトだか、その一言はバジュラの癇に障り。

 

『上等だコラ!! エスコートでも何でも来い! テメェら付き殺してやんよ! 』

 

「(わぁ〜、付き殺すなんて初めての日本語)」

 

あははとあえてツッコまずにスルーしながらも「じゃあ決まり」と早速人混みの中に消えていくるみか達だが、彼女達がいなくなってすぐ2人はハッ、としたように今自分達が二人だけという状況に遅れて気付く。

 

「(!?、嘘だろ!? まさか光黄と二人きり!!?)」

「(や、やられた。また何かされるんじゃないかって警戒してたからつい気付かなかった!!)」

 

取り残される烈我と光黄、光黄は勿論、烈我も光黄と二人きりという状況があまりなく、どうしたものかと暫し気まずい空気が流れる。

 

 

「じゃ、じゃあ折角だし色々回ろうぜ?」

「そ、そうだな」

 

今までにない二人きりという状況、互いが互いを想ってるだけに思わずつい意識してしまい何処かぎこちなくなってしまい、空気を変えるべくの提案。彼女もまたそれが助け舟のように、烈我の提案にすぐに賛成し、早速2人も出店をまわり始める。

 

「(……にしても、光黄、滅茶苦茶綺麗だな)」

 

ちらっと隣にいる光黄に視線を向けながらそんな事を想う烈我、今までも彼女を意識してはいるが、普段の彼女はボーイッシュな恰好で可愛いと言うよりかはカッコいいという印象。

だが今日は何時もとは違う女性らしさのあるしおらしい着物姿。それはとても新鮮で、潤った艶かしい唇や表情についドキッ、と普段以上に意識してしまう。

 

「(というか近くにいるだけでいい匂いするし、普段と違ってすっごく色っぽいって言うか)」

 

こんな事を想ってしまうのは失礼だろうか、だが考えながらもそう意識せずにはいられない。

 

「(ヤベェ。浴衣ってだけでつい意識しすぎてまともに光黄の顔を見れねぇ。さっきもあんまり見るなって言われてたのにこんな調子じゃ絶対光黄に嫌われる)」

 

なるべく平常心を保とうと光黄から視線を外そうとするが、それでも気になって仕方がない。彼女もまたそんな烈我からの視線が気になった様に足を止めて。

 

「烈我、やっぱりまだ何か言いたい事あるんじゃないか」

「!!」

「別に気にしないし、ハッキリ言ってくれて構わない。あんまり気遣わないでくれ、どうせこんな格好俺なんか」

 

前の水着の時も思ったが、こういった女性らしい恰好はあまりしないし、とてもではないが似合っていると言える自信がない。だからつい烈我からの視線が気になって仕方ないが。

 

「……そんな事ねぇよ!、普段と違って何ていうか凄く似合ってて可愛いって思ってる!」

「ッ!」

 

面と向かって言うのは流石に照れ臭くて、光黄から顔を反らし表情を赤くさせながら言うが、恥ずかしそうにしながらも呟くその台詞が嘘をついてるか否か何て直ぐに分かる。

偽りなく想いを伝えてくれる烈我に思わず胸が熱くなるように脈が上がり、咄嗟に胸に手を押し当てて高鳴る鼓動を抑え込み、自分の思いに気付かれない様「そうか」とあくまで冷淡に返事を返す。

 

「何かごめんな、変に誤解させちまって。正直言って、いつもと違う光黄が綺麗でさ」

「ッ!!」

「い、嫌、でも別に何時もの恰好がどうって訳じゃなくてさ! 普段の光黄も好きだけど、浴衣姿も綺麗でっていう話で!!」

「う、煩い! そこまで聞いてない!」

「痛ぇッ!!」

 

流石にこれ以上聞いてると、胸の鼓動が抑えきれそうになく、肩をバシッと叩いてその先の言葉を無理矢理中断させる。

 

「ご、ごめん」

「フン。それより……その、褒めてくれて……ありがと」

「!!」

「な、何でもない、忘れろ!」

 

失言だったと顔を赤くして慌てて表情を隠すように烈我からそっぽを向け、烈我は烈我で一先ず光黄が嫌がってはいない事に安堵し、お互い少しして気を取り直す様に並んで屋台を見歩き回る。

 

「光黄、あれやってみようぜ!」

「?」

 

色んな出店が並ぶ中、喜々として指差したのは射的。興味惹かれるようにその場に向かう二人。

 

「よっ、お二人さん! もしかしてデートかい?」

「デートじゃないです!」

 

店主からのありきたりな宣伝文句に真っ先に否定する光黄、烈我は否定する光黄の言葉にやるせない様に苦笑いするが、店主はそんな二人により可笑しそうに笑う。

 

「ハッハハハ、イイねぇ若いってのは。それよりどうだい? うちの射的やってくかい? 彼氏さん、カッコいい所、是非彼女さんに見せてやりな!」

 

「だから俺は彼女なんかじゃ──!」

「はい、俺やります!!」

「烈我!?」

 

呆れる様に店主の言葉を否定しようとする光黄を他所に、烈我には逆に俄然乗り気でアピールする絶好のチャンスとして、闘志を滾らせていた。

 

「(ここでカッコいい所を光黄に見せれるチャンス! 決めてやるぜ!!)」

 

闘志を燃やす理由は何とも分かりやすく、自信あふれる様に店主から射的用の銃を受け取り弾を込めて行く。

 

「光黄はどれがいい?」

「全く……それじゃあ、あれで」

 

多種多様に並ぶ景品の中、彼女が指差したのは赤い龍を模したドラゴンのぬいぐるみ、誰かを意識しているからか少しだけ照れているが、烈我はまるで気にしていない様に「任せな!」と返事を返す。

 

「彼氏さん、是非頑張ってね!」

 

「勿論、任せてください!」

「少しは否定しろ、このバカ烈!」

 

顔を赤くしてツッコみの言葉を入れるが、既に本人は射的に目を向けて耳を傾ける様子はなく、そのまま構えて、景品に狙いを定めて引き金を引く。

だが、狙いは標的から僅かに逸れて空振りに終わる。

 

「ありゃ? ぐッ! 今度こそ!!」

 

もう一度狙いを定めて今度は連続でコルク弾を発射して行くが、撃ち放った何発かは標的から外れ、最後の一発だけぬいぐるみにヒットするものの標的は微動だにせず、気付けば何時の間にか弾は尽きてしまっている。

 

「残念、もう一回やるかい?」

「はい! 勿論やらせてください!」

 

「お、おい烈我。その辺に」

 

不安に感じるように忠告を促すが本人はすっかり熱が入ってしまって、忠告に耳を傾けず、そのまま何度も射的にのめり込むが。

 

「残念」

「もう一回!」

 

***

 

「残念!!」

「もう一回!!」

 

***

 

「……残念」

「も、もう一回!!!」

 

何度も何度も闘魂を込めてチャレンジを繰り返すが無情なまでに不動の景品。それ以上は聞くまでもなく、結果烈我の惨敗だった。

 

「うぅっ……畜生」

「バカ」

「返す言葉もございません」

 

本気で悔しい様に涙目を浮かべる様は何とも幼い子供のようで、呆れざるを得ないが、それでも元々は自分の為に頑張ってくれようとしていたので、このまま見過ごすにも見過ごしきれず。

 

「うぅ、もう最後の一発しかない」

「全く、少し代われ」

「えっ、光黄?」

 

「おっ、今度は彼女さんの挑戦かい?」

「だから彼女じゃ──嫌、もういいです」

 

烈我に代わって今度は光黄の挑戦、もう店主に対してはツッコむ気も失せたように黙って銃を受け取り、その様子を後ろから見守る烈我。

光黄は少ししゃがみながら銃を構えて狙いを定め、視界を広げる為、髪を耳の後ろに退けるような仕草を取り、どこか色っぽく感じるその仕草につい見惚れてしまう。

 

「(でも光黄、射的なんてできんのかな?)」

 

不安が過る中、彼女はそのまま集中し一点を見定めると引き金を勢い良く引き。

 

「!……大当たり!!」

「い、一発で」

 

見事一発必中でぬいぐるみを獲得し、散々自分が苦労したというのに難なく涼しい顔であっさりと取られた事に立場がない。

 

「光黄って何こなしても完璧すぎかよ」

「止せ、こんなの大したことない」

「そう言われるといよいよ俺の立場がねぇよ。それにどうせならここは俺が取って、カッコよくプレゼントしたかったなぁ」

 

心底残念そうに落ち込んだ様子の烈我に、少し面倒な様に溜息を零すが何か思いついたようで。

 

「なら」

「ん?」

 

獲得した景品を一度烈我に渡したかと思うと、彼女はまた手を差し出し。

 

「そ、それをプレゼントって事にすればいいだろ?」

「……!」

 

恥ずかし気に頬を掻きながらもそんな光黄からの提案に、軽く笑いつつ「それじゃあ」と受け取ったぬいぐるみを両手でまた光黄へと差し出す。

 

「カッコ悪くて悪いけど、受け取ってくれるか」

「……あぁ。ありがと、大事にするよ」

 

差し出されたそれを改めて受け取り、笑顔で礼を返す彼女にまた烈我は思わず顔を赤く染める。

 

「可愛い」

「ば、バカ!! 一々恥ずかしいこと言うな!!」

「えっ? 俺今何か言った!?」

「思いっ切り口に出してるよ、このバカ烈!」

 

とうとう思った事に思考を挟まず口にするようになり、散々それに赤面させられる光黄、何だかんだその後も引き続き色んな出店を回る二人。

 

 

 

***

 

 

 

「美味し~~っ!!」

 

『フン、悪くない』

『あぁ、このたこ焼きって奴も俺様の口に合う!』

 

一方で別行動の絵瑠とミナトの二人、先程の怒りはどこへやら絵瑠と並んでキラーとシュオンも焼きそばやたこ焼きなど色んな食べ物を手に満喫しきっていた。勿論全てミナトのおごりで。

 

「(今月のバイトのシフト増やしとくか)」

 

表情には出していないが、軽く財布の中身を見ながらそんな事を考えるミナト。とはいえ今は絵瑠が上機嫌なら彼にとってはそれで十分だった。

 

「少しは機嫌直してくれたか?」

「……ムッ、食べ物ぐらいで私が許すとでも?」

「オイオイ、さっきまであんな幸せそうな顔しといてか?」

「そ、それは……!」

「まぁさっきの顔も凄く可愛かったけど!」

「ぐッ! お前はまたそうやって見え透いたお世辞を!」

 

また普段の軽いノリだろうか、騙されないぞとジト目を向ける絵瑠に対し、ミナトはただ黙って絵瑠を見つめ。

 

「本気だぜ?」

「っっっ!!!?」

「信用はねぇかもしれねぇけど、俺が誰かを可愛いって思うのに嘘はねぇからさ」

「……そ、そんな事言ったって」

 

まだミナトに対しては以前の一件もあって素直に聞き入れられずどこかギクシャクする二人、それでも軽く一息つきながら。

 

「まだお前が俺を良く思ってはないのは重々承知してる。だから別に物で許してもらおうなんて思ってねぇ、本気でお前に謝りたいと思ってるよ」

「…………」

「だからいい加減、本気で聞いてくれないか? 俺は──」

「ダ、ダメ!!」

「!」

 

改めて謝罪の言葉を伝えようとするが、何故か絵瑠は顔を赤くしながら続きを言おうとするミナトを中断させる。

 

「い、今謝られても、何か祭りの雰囲気で誤魔化されそうで何か嫌だ」

「……」

「だ、だからお前からの謝罪はまた場を改めて、聞きたい」

「絵瑠」

 

顔を赤く染めながらどこか堅苦しいような物言い。気まずそうにミナトの顔色を覗うような絵瑠に少し疑問を感じつつも、あまり詮索しない方が良いだろう。

 

「……分かったよ。お前がそう言うなら、場はまた改める。お前が良いと思うタイミングで話すよ」

「……」

 

どこか気まずい空気が流れる二人、しかし空気を変える様に絵瑠は「でも!」と大きく声を上げて。

 

「せ、折角の祭りの場なんだ。だから今日ぐらいは、お前に付き合ってやっても構わない」

「!」

「で、でも勘違いするなよ! 私はまだお前を許したわけじゃないし、これもデートとかじゃなくて単に友達と遊ぶ的なアレで!」

「はいはい、分かってるよ」

 

少し慌てた様に弁明する絵瑠に対し、ミナトは全て承知してかのように笑いながら頷く。

 

「それじゃ、今はとにかく楽しもうぜ! アレとかどうだ?」

 

彼が指差したのは何かの施設のように大きなテント。

 

「フン、分かればいいんだ! そうと決まれば早く行くぞ」

 

言いたい事を伝えきったのか絵瑠は清々しい様子で、指差された施設に無邪気に駆け寄って行き、それにミナトも可笑しそうに笑いながらも後を追って施設に入る。

だが、ミナトと違い絵瑠はろくに確認もせずただ反射的にその施設に入っただけであり、二人が入ったそこは……。

 

 

「うわああああああああッ!!!」

 

テントに響く絶叫、紛れもなくそこに響いたのは絵瑠の声であり、その施設の正体は。

 

「お前ッ!! な、ななな何でお化け屋敷なんか選んだんだあああああッ!!」

「テントにちゃんと書いてたろ?」

「そんなの私見てないもん!!」

 

物陰から顔を出す亡霊やがしゃ髑髏やフーリン等、妖怪やお化けの数々に絵瑠は何度も何度も絶叫させられる。

 

「きゃああああっ!! 怖い怖い怖い!!」

「大丈夫だって。皆作りもんだから、それにお前デッキとか死竜使ってるし、それこそお化けみたいだろ?」

「お、お化けって言うな!! ウロヴォリアスとかはヴァルドラムとか全然カッコいいから平気なんだ!」

 

ミナトに言わせればウロヴォリアスとかの方がよっぽど恐ろしいけどなと思いつつも、価値観は人それぞれ。絵瑠から見れば自分が扱うスピリットよりも、目の前のお化けの方が遥かに怖いのだろう。そうだとすれば、彼女が確認していなかったとはいえ、この施設を提案した事に少し罪悪感を感じる。

 

「そんなに怖いなら俺の背中にしがみついてるか?」

「!」

 

軽く絵瑠の前へと出て提案するが、すぐに「な~んてな」と先程の台詞が冗談だったと告白しようとするが、その台詞を言い切る前に絵瑠は、すぐさまミナトの背中にしがみつく。

 

「絵瑠!!?」

 

突然の彼女の行動に珍しく思わずミナトも一瞬顔を赤くさせるが、震えながら自分の背中にしがみつく絵瑠にすぐさま表情を落ち着かせる。

 

「こ……こっち見たら殴るからな!」

「はいはい、分かりましたよ」

 

呆れ半分に一息吐きつつも、頼られていること自体には悪い気はしない、しかし。

 

「それにしてもよ」

「きゃああああああああッ!!」

 

また物陰からバッと顔を出すお化けに絶叫する絵瑠、耳を塞ぎつつ少し肩を落とす様に苦笑い。

 

「(もう少しムードが欲しかったな~……。)」

 

苦笑しつつ残念そうに呟くミナト、そして絵瑠の悲鳴はテントにも外にも響き。

 

 

「光黄! 次、あれ行って見ないか?」

「お化け屋敷、か? またベタな」

「そう言わずに、面白そうだし言ってみようぜ!」

「まぁ、お前が言うなら」

 

何だかんだ言いつつもテントの中へと入って行く二人、光黄と並んで歩く烈我だが、今の彼の脳内にはありきたりなカップルのデートのような光景が頭にパッと浮かぶ。

 

「(お化け屋敷、ここで頼れるところを見せればさっきの名誉挽回だぜ! お化けが怖がる光黄に頼られるとか、悪くねぇな!)」

 

定番なパターン。最近では女性ではなく男性の方がお化けを怖がるパターンも存在するが自分はそうならないと自信を持って言える。本質的なその理由は、姉のるみかが怒った時以上に怖い物はないと断言できる事に他ならない。

 

「(お化けでも何でも来いってんだ!)」

 

自信満々に奥へと進む二人だったが。

 

 

『ぎゃおおおっ!』

 

不意打ちのように大きく声を上げながら飛び出すお化け、だが二人共もまるで驚く様子はなく、平気な様子だった。

 

「案外、退屈だな」

「ソウデスネ」

 

物足りなさそうな光黄に対し、烈我は残念そうに肩を落とす。

 

「(冷静に考えてお化けに怖がる光黄とか確かにイメージ出来ないもんな。ちょっと残念)」

 

ホロりと涙が出る烈我だったが、一方で彼女は彼女で。

 

「(こういう時、素直に怖がれたら気にせずに……)」

 

こういったシチュエーションに対し彼女は全く興味が無いという訳ではなく、寧ろ憧れるようにお化けを怖がり烈我の胸に飛び込む自分の姿を思い浮かべ。

 

「(って、俺は何を考えてるだ!! こ、こんなの俺らしくない!!)」

 

邪念を振り払うように思い浮かびかけた妄想を搔き消す彼女、だがこういう時に素直に烈我を頼れればとつい考えてしまう。

 

「(お化けを怖がるような可愛げの1つでもあればもう少し素直に、アイツに思いを伝えられるだろうか)」

 

ふとそんな考えが彼女の頭を過ぎるが。

 

「(でも流石にこれで怖がるのは無いな。うん、絶対無いな)」

 

光黄の目から見てお化けのクオリティに正直怖がれる気は全く起きず、寧ろこれで怖がる奴がいるのかと疑いたくなる。ちなみに彼女と同じ状況にいる絵瑠が今絶賛絶叫中なのは光黄には知る由もなかった。

 

 

「何か人混みが多くなってきたな」

「確かに。烈我、迷うなよ?」

「イヤイヤ、十八にもなって迷わねえよ!」

 

とは言え、流石に人混みが多くて危ないので手でも繋いだ方が良いのではと思うが、恥ずかしくてつい提案できずそんな自分を情けなく思う烈我だが。

 

「うおっ!!」

「きゃっ!」

 

人混みに押される二人、その拍子に光黄は体制を崩し、何とか踏み止まるが足を捻ってしまい。

 

『す、すいません! お怪我は?』

 

「いえ、俺は何とも。それより光黄は?」

「俺も平気……ッ!!」

「光黄!」

 

少し強く足を捻ってしまったのか、痛みに一瞬顔を歪めるがすぐに落ち着いて。

 

「何でもない、平気だ」

 

涼し気な顔色で返す光黄だが。

 

「んな訳ないだろ! とりあえず何処かで一旦休もうぜ」

「だからこれぐらい、別に」

「平気かそうかじゃないぐらい、お前の顔見てれば分かるって!」

「ッ!」

「とにかく無理すんなって。向こうにベンチあるけど、歩けそうか?」

「……少し、なら」

 

列我の手を取り近くのベンチまで向かうとその場に座る二人。普段の格好ならそんなことは無いのに、動き辛く慣れない着物姿が災いした事に溜息が出そうになる。

さらに不幸が重なるようにるみか達を呼ぼうにも烈我の携帯はバジュラに渡しっぱなしにしており、光黄もまた自分の携帯は着替えと一緒に家に置いてきてしまっている。

 

 

「はぁー、ツイてないなー」

「……悪い、俺もいつもならこんな事は」

「嫌、光黄が謝る事ねえよ! ! 悪いのは俺と姉ちゃんの方だし」

「別にそんな事」

 

暗い空気が漂い始めるが、烈我は何とか話題を変えようと。

 

「さ、幸いさ! 今日の花火大会、ここから充分近いしここからでも花火見えると思うぜ!!」

 

何とか明るい話題に切り替えようと笑顔を向ける烈我、そんな気遣いがとても彼女の心に染みる様で。

 

「烈我、悪かったな」

「?……どうしたんだよ突然」

「……今日1日、お前には迷惑を掛けっぱなしだと思って。俺が誘いを断ってたらもう少しこの祭りも楽しくなってたんじゃないか?」

「……何で、んな事言うんだよ」

「烈我?」

 

悲しみが篭もるような声、それに彼女は不思議に思うが烈我は静かに顔を俯かせる。

 

「頼むからそんな事言わないでくれ。俺は、光黄がいてくれて何より楽しいと思ってんだ」

「……!」

「勿論他の皆といても楽しいけど、俺はやっぱ光黄がいないと心の底から楽しいとは思えねえよ」

 

恥ずかしげな様子はなく面と向かって伝えてくれる烈我の言葉、それが何よりも嬉しく彼女の胸に突き刺さる。

 

「……烈我」

「それに迷惑掛けてんのは俺の方だよ、さっきも本当は危ないから手でも繋いだ方が良いかなって思ったけど、つい躊躇ってさ」

「どうして?」

「……だって何か、それこそまるでカップルみたいだと思って」

「!!」

「前々からお前に勝ったら告白するつもりでいるけど、まだまだ俺全然で……お前に認めて貰えるような男になれなくてさ」

 

まだ一度も烈我は自分の実力で光黄に勝てたことは無い。未熟者であることを充分自覚していた。

 

「つい今日もこれがデートだったらなんて考えちまって舞い上がってたんだけど、冷静に考えて見て、やっぱりまだ俺には堂々と光黄と並んでる資格があるかなんてつまらない事ばっか考えて、それで」

「……」

 

ごめんとまた謝る烈我、本当にどこまでも真っ直ぐすぎる烈我にどう返したものかと苦労するように溜息が出るが、それでも光黄にとってはそんなどこまでも真っ直ぐで偽りのない烈我の気持ちが何よりも。

 

「ホントにバカだよ、お前は」

「うっ……またバカって言われた」

「何度だって言うぞ、ホントにバカ!」

「悪かったって」

「……違う。バカって言ってるのは一方的に自分ばっかりが悪いと思ってる事だ」

「え?!」

 

聞き返す烈我に、少し恥ずかしさを感じながらも落ち着くように彼女は言葉を続ける。

 

「舞い上がってたのは、俺も同じだよ。お前と一緒にこれて、本当に……楽しかったと思ってる」

「!」

「で、デートかどうかは知らないけど……俺は少なくとも、友達として、お前とここに来れて良かった」

「こ、光黄」

「お前からの好意が嬉しくてそれに甘えて迷惑を掛けたのは俺も同じだ。だから、お前ばっかりが悪いと思わないでくれ」

 

軽く咳払いをしながら、烈我に彼女は優しげな表情を向ける。

 

「だから悪いのはお互い様、辛気臭いのはこれで終わり。いいな」

「光黄、ありがとう」

「別に、それより資格とか云々気にするなら精々、早く俺より強くなるんだな」

「わ、分かってるよ! もっともっと腕を磨いて、お前より絶対強くなるからな!」

「あぁ、気の済むまで受けて立つよ」

 

笑いながらそんなやり取りを交わす2人、「見てろよ!」と意気込む烈我だが、ふとそんな彼の様子に光黄はどこか寂しげに表情をしおらせる。

 

「(ごめん、烈我。お前は何処までも真っ直ぐなのに、それに比べて俺は……)」

 

真っ直ぐな烈我の気持ちがとても輝かしい反面、正反対に気持ちに嘘をつく自分自身の事が嫌になる。

 

「(本当は、実力とか関係なく好きな筈なのに……未だにそれが言えない。つまらない自分のプライドや性格がホント嫌になる)」

 

烈我に強くなって欲しい、そう思う気持ちは確かに自分の本心だがそれとは別に今すぐにでも烈我に自分の気持ちを伝えたい、そう思うこともまた彼女の本心だった。

 

だから想いを伝えられればどんなに楽かとそればかり考えてしまうが、そんな光黄の心情に未だ気付いていない烈我。

 

「おっ、もうすぐ花火大会始まるみたいだぜ!」

 

何処までも真っ直ぐで純粋な笑顔を向ける烈我に彼女は。

 

「烈我、俺は」

 

夜空に打ちあがる花火、だが彼女はそれに目もくれずにただ真っ直ぐ烈我を見つめ、彼の手を握りながら。

 

「俺は、お前の事が──」

 

彼女が続きの言葉を告げると同時に、夜空に打ちあがった花火は大きく乾いた音を夜空に響かせて空に弾け光り輝く。

 

「おおおおッ!! 滅茶苦茶綺麗じゃん! 光黄も見たよな!!」

「!!」

 

烈我がこちらに視線を向ける前に慌てて手を放し、何でもないような素振りを取り繕う。

 

「?……どうかした?」

 

すっかり花火に夢中だった為、先程の様子に全く気付いていない様子。

 

「な、何でもない」

「そうか。でもさっき何か言い掛けなかったか?」

「知らない、そんなの気のせいだ!」

「?、それならいいけど」

 

光黄の様子を不思議に思いつつも特に追及はせず、その後連続して打ちあがる花火にお互いに気を取り直し、夜空に映る色鮮やかな光景をしばらく眺めながら。

 

「なぁ、光黄」

「ん?」

「何かドタバタしちゃったけど、楽しめた?」

「……まぁ、それなりに」

「そっか。じゃあ良かった!」

 

彼女からの答えにただ烈我は満足するように笑うが、今度は逆に光黄が質問しようと口を開く。

 

「な、なぁ烈我」

「ん?」

「またいつか、次の夏祭りの時も、誘ってもらえるか?」

「!!」

 

気のせいだろうか、花火の光のせいか、烈我から見て彼女の表情が赤く染まっているように見えそれにドキッ、としつつも直ぐに烈我は満面の笑みを彼女に向けて。

 

「勿論! 次も、その次も……俺は絶対光黄と行きたい!」

「……そっか」

「あぁ、約束する!」

 

互いに顔を褪せて笑顔を向けながらそんな事を想う二人、その後花火も終わり、暫くして足の痛みも退いたのか難なく立ち上がり、二人は帰路へ向けて歩き出す。

 

「あっ、光黄! 最後にあれだけ!」

 

指差したのはくじ引きの屋台、目を輝かせる烈我だが彼女は呆れたような表情を浮かべる。

 

「もう充分懲りたんじゃないのか? それにお金ももうないだろ?」

「ま、まだ一回分ぐらいできるし! それにこれなら運だし、やって見なきゃわからないだろ!!」

「……全く」

 

溜息を吐きつつも止めた所で聞く訳もなく、早くも挑戦するようにくじ箱の中に手を入れる烈我。

 

「全くこのバカ」

「え、光黄!?」

 

それを見かねてか、何故か彼女も烈我と同じ様にくじ箱の中に手を入れ始める。

 

「お、お前の運じゃ頼りにならないからな。だから、その……俺も一緒に引く」

「し、辛辣……でもまぁ、何だか引ける気がしてきた」

 

「う~ん、アオハルだねぇ! いいよぉ、お二人さん頑張って!」

 

店主に煽られ恥ずかしさを感じつつ、お互いに同じ一枚のクジを選び、互いの手が触れ合い、それに烈我も光黄も赤面しつつも顔を見合わせて「せーの!」とその一枚のクジを引き。

 

「!、大当たりぃーーっ!!」

「「!!」」

 

見事二人が引いたのは当たりのクジであり、店主が祝う様に鳴らす鐘に烈我は周りの目も気にせずに大はしゃぎ。

 

「やった! やったぜ!!」

「少しは落ち着け、このバカ」

「でもこういうくじで大当たりって俺初めてでさ、光黄のお陰だ!!」

「……別に俺は」

 

「さて大当たりは特注のレアカード! はいどうぞ!」

 

一枚のバトスピカードを受け取り、大当たりしたことに喜びつつも受け取ったそのカードを光黄へと差し出す。

 

「!?」

「光黄、受け取ってくれ。今日付き合ってくれた礼って事で!」

「べ、別に俺は」

「いいから! 俺だって少しはいい格好したいんだっての!!」

「ッ!!」

 

半ば強引気味に光黄の手を握ってカードを受け渡すと、顔を赤くさせられつつも強引にそのカードを受け取らされ。

 

「……まだ何のカードかも分かってないのに」

「うぅ、まぁでもレアカードって言うからには強力なのに違いないからさ!!」

「全くお前って奴は……でも、ありがとう。大切にするよ」

「おぉ!!」

 

「ヒューヒュー、熱いね~! お二人さん!!」

「「!!」」

 

また煽る様な声、後ろから聞こえるその声に振り替えるとそこにはるみか達の姿があり。

 

「いや~、イイもの見せてもらったよ~! うんうんアオハルアオハル!」

「「!!」」

 

「ふふふ、烈我も光黄ちゃんもホント可愛かったよ!」

「そうっすね。二人で手を繋いでクジ引いたり、俺も見てて妬けちゃいそうな〜んて」

 

『おのれ!! 私がいない隙によくも光黄様と!!』

『ハハハハ、俺達置いといて随分楽しそうだなァ! 烈我!!』

 

揶揄うようにニヤニヤとした笑みを向けるるみかとミナト、一方でライトは2人に対しての嫉妬、バジュラはずっと自分達が放置された事に対しての憤怒とそれぞれ怒りの炎を燃やし……。

 

「げっ! バジュラにライトも!!」

「……ぜ、全部見られて」

「光黄?」

 

一方で先程の様子の始終を見られていた事にとうとう光黄の羞恥心も限界で、耐えきれない様にその場から駆け出してその場を走り去って行く。

 

「ちょ、光黄!! 待ってくれってッ!!」

 

『逃がすかァッ! 待ちやがれ烈我!!』

『光黄様とイチャイチャしやがってうらやm──じゃなくて後悔させてやりますよ!』

 

慌てて光黄の後を追う烈我と逃がすまいとすぐ後を追い駆けるバジュラとライト。

 

 

『いいのか、あの馬鹿共放置しといて?』

『よくはないのぅ、人目に付く前に止めてやらねば!』

 

「まったくあの二人といい」

「ははは、まぁでもあれが烈我達らしいですけどね。ともかく止めに行きましょ!」

 

すぐその後を追う絵瑠と星七。一方でその様子を傍観するように眺めるミナトとるみか。

 

「いやぁ~、皆相変わらずだね~! 青春っていいな」

「そういうるみかさんはどうなんっすか?」

「うん、聞かないでくれると嬉しい」

「あぁー」

 

ナンパを望んでいたるみかだが、ミナトからの質問に死んだような目で答える彼女に全てを察する。

 

「あぁ!! もう、ミナト君でもいいかも私! ミナト君優しいし褒めてくれるし、私も好きだからさー!」

「んな事言って、本気にしちゃいますよ、俺?」

「あははは、まぁ私は構わないんだけどね。でもやっぱ辞めといたほうがいいかな」

 

軽く笑いながらるみかも落ち着いたようにまた元の表情に戻る。

 

「ミナト君でミナト君で、ちゃんと想い人がいるんだもんね」

「!」

 

全ての事情を分かってるようなるみかの一言に「敵わないな」と苦笑しながら一言。

 

「でも正直俺はまだまだ前途多難っす。というか今のままじゃしっかり向き合うこともできないんで」

「ふふふ、でも本当はあの子の気持ち、ミナト君が一番分かってるんじゃないの?」

「……どうすっかね」

「おぉ、珍しい? 光黄ちゃんとかの気持ちも見抜いた癖に」

「そう言われても、彼奴に対して変に分かった気になろうとしたら何か一生嫌われそうな気がして、それこそ向き合えなくなりますよ」

 

どこか冷静な表情を向けながらミナトはさらに言葉を続ける。

 

「まぁ俺なりにやりますよ! だからこっちの事は気にしないでもらえたら」

「ふふふ、残念。やっぱ冷静だね、ミナト君は」

「できれば馬鹿になりたいぐらいっすけどね。それこそ烈我みたいな……まぁとにかく俺はこの辺で……それと、るみかさんにもいい出会いがあるといいっすね!」

「最後の最後で余計!」

 

ミナトもまたその場を後に、一人残るるみかは静かに彼らの後ろ姿を見守る。

 

「(本当皆青春してるなぁ~、この夏は本当に飽きなかったよ)」

 

穏やかな表情を向けながら小声で。

 

「(何があっても、この先もみんな変わらず純粋でいて欲しいな! )」

 

柄にもなくそんな事を考えつつるみかもまたその場を後に帰路へと足を向け、最後に「私もアオハルしたいな〜」と呑気な台詞を吐きつつ彼女もまたその場を立ち去っていく。

 

果たしてこの先彼等に何が待っているのか、それはまだこの長い夏を終えた先のお話。

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか!!
まさかの特別編パートⅢ

今回は夏祭り編という事でまた欲望のままに執筆しちゃいました!←

バトル無し回で申し訳ない!
ですが書いてて楽しかった!!(バカ正直

正直書いててこれで烈我と光黄がついにと思いましたがやはりそんなことは無かった←オィ
まだまだ季節は夏真っ盛り、皆様はどうお過ごしでしょうか?コロナのせいで、外出の機会は減ったかと思うのですが、どうか無事に皆様がこの夏を無事に過ごせますように。この小説で少しでも皆様の暇を潰せましたらそれが何より嬉しく思います。
そして今回まさかのパートⅢまで書いた夏の特別編もこれでほんとに完結です!でもリクエストがあればもしかして←


コラボと本編がすっかり疎かになってるので更新せねば!
これからも執筆頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたします!!!

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