バトルスピリッツ-7guilt- 特別編
・それぞれのバレンタイン〜
────ディストの場合。
「ルディア様! ルディア様!!」
罪狩猟団組織内部、まだ朝日が昇り始めてすぐの早朝、喜びに満ちた表情で通路を駆ける一人の女性。そして、彼女が向かう先は。
「ふぁ~、おはようディスト。朝早くて感心感心」
「ルディア様、おはようございます!」
ルディアのいる王宮の間へと辿り着き、先程迄の喜びに満ちた表情を浮かべていた彼女だが、ルディアの前に立つなり、キリっとした表情に切り替えながら挨拶を交わすディスト。
「ディスト、所で如何したの? 何だか嬉しそうだけど」
「えっ!?」
表情を切り替えた筈、なのだがルディアの前では御見通しらしい。指摘され途端に表情が綻ぶのを感じながらも、照れ臭そうに「実は」と手に持つチョコをルディアの前へと差し出し。
「る、ルディア様にお渡ししたいものが」
「うん? 中身は?」
「チョ、チョコでございます」
「ふ~ん、どうしてまた?」
「む、向こうの世界では女性がお世話になった方に対してチョコを送るのが主流らしくて。何でもバレンタインデーとか言うらしく」
というのは建前で本当はそのバレンタインデーの本来の意味をも知っている彼女だが、流石にそれを全てルディアにの前では説明できない彼女。
「ハハ、ディストったら向こうの文化に馴染んでんの? その適応力見習いたいな」
「い、いえ! 決してそう言う訳で!!」
「大丈夫大丈夫。君そういう所も含めて僕は好きだしね」
「!!」
「じゃあそのチョコ、貰おうかな。どうせなら一緒に食べるかい?」
「え、えぇっ!? そんな恐れ多い!!」
「え~、遠慮しなくてもいいのに。それとも僕と一緒じゃ嫌かい?」
「そ、そんな事は!」
子供のように不満を述べるルディアに、彼女も断るに断り切れず「それなら」と恥ずかしそうにしながらもルディアの元へと近づき、手に持つチョコをルディアへと受け渡して。
「(……本当はバレンタインデー、その意味僕知ってるんだよな)」
その意味を知りながらも、知らないフリをしているのには勿論理由がある。
「(僕はいずれ世界を壊す身。だから、この世界に、誰かに余計な情を持ちたくない。だからこそ僕は君の気持には答えられない)」
ディストに笑顔を向けながらも、彼女の好意を全て受け止める訳にも行かない。だが組織に所属する彼女の全て無下にする訳にも行かない。
「(悪く思わないでよディスト。君の気持に応えられない。けれどせめて、あくまで余興としてなら僕はこの些事を楽しませてもらう)」
彼女の気持ちを知りながらもあえてそれに目を向けない事は罪というのだろう、だが、それを頭で理解しながらも自分のこれからは変わらない。変わる気も毛頭ない
「(恨むのなら幾らでも恨んでもらって構わない。世界を壊した、その先でね)」
────ミコの場合。
「ドレイク!!」
「!」
何時ものように笑顔と、珍しくラッピングに包んだギフトを手に持ち歩むミコ、それを渡す相手は勿論決まっている。
「何だ藪から棒に」
「いや……その……いつもお主にはお世話になっておるし、だからその! コレを! 受け取って欲しいんじゃ!!」
「!」
緊張からかどこかぎこちない様子ながらも力強く腕を突き出し、ドレイクへと差し出す。
「お前の世話した覚えなんかねぇんだが」
「いいからいいから、ともかく受け取るのじゃ!」
半ば押され気味になりながらもギフトを受け取り、中身を確かめるとその中身はチョコケーキがあり。
「菓子か?」
「ま、まぁその手作りなのじゃ。だから良かったら食べて欲しいなって」
「……構わんが、気の利いた感想は期待すんなよ?」
溜息を付きながらも無下には扱えないのか、軽くそのケーキを一つ摘み取ると、それを口へと放り。
「っ!!」
「ど、どうじゃ味は?」
「……おいミコ、お前コレ……砂糖と塩間違えてんだろ?」
「えっ!!?」
言われて直ぐ彼女もそのチョコケーキを一口、口に含むが食べた瞬間思わず表情を苦々しくさせて。
「っ!! ほ、ホントじゃ。 ご、ごめんなのじゃドレイク」
「ったく、相変わらずドジだな」
「うぅっ……。」
自信はあったにもかかわらず、結局は失敗。期待値が大きかっただけにその結果が余程応えるように涙目を浮かべ落ち込むミコだがその様子に対しドレイクは少しだけ溜息を付くが。
「ドレイク、そのケーキ」
「……フン、一度貰っちまったからな。適当に俺の方で処分しとくぞ」
「処分って、まさか食べる気か?」
「あぁ? だとしたら文句あるか?」
「い、嫌でも……それ、失敗作じゃし」
「ケッ、どうせ俺は甘いの嫌いだから別に構わねぇよ」
「ドレイク……!」
悪態をつきながらもなおも食べ勧め、そんな彼の優しい嘘にミコは自然と落ち込んだ表情を嘘のように一変させながら。
「ドレイク、来年こそはもっと美味しいの作るからの」
「来年って、これっきりだよ」
口ではそう言いながら顔少し赤くさせながら答えるドレイクに、恐らく来年もまた受け取ってくれるのだとミコは笑みを浮かべながら確信するのだった。
────マチアの場合。
マチアが情報屋として拠点に置いている一軒の店、そこへ休憩がてらに寛ぐヴァンだが。
「ねぇヴァン」
「ん?」
「2月14日、今日って何の日か知ってる?」
「知らねぇけど、いきなりどうしたんだお前?」
「嫌別に。向こうの世界の風習なんだけどね、今日って女の子が好きな人にチョコを渡す日でもあるんだって」
「!!?」
突拍子もないマチアの言葉に余程驚いたように椅子から転げ落ち、慌てる様に咳をしながら「何だって!?」と思わず聞き返してしまう。
「だから好きな人にチョコを渡すらしいよ。向こうの世界の事だけど」
「っ! お前それって……!」
「さて、じゃあアタシは仕事に戻るから」
「嫌、待て待て待て!! 何で急にそんな話したんだよ!!!」
思わせぶりにもほどがある。ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべながら彼女は「別に」と呟くが。
「ッ!! その……他に、渡す奴でもいるのかよ」
「ふふっ、やっぱり気になる?」
「べ、別に……お前が誰にチョコ渡そうが俺には」
「そ。気にならないならじゃあアタシが誰に渡すかヴァンには関係ないよね」
「ッ!!!」
なおも笑みを崩さないマチアにヴァンは恥ずかしそうに顔を赤くしながらも。
「き、気にならないとか一言も言ってねぇだろ」
「それじゃあ、聞きたい?」
「ッ!!」
「アハハ、まぁまぁ揶揄うのはこれぐらいにして、ハイ」
「!!」
すっかり顔を赤くするヴァン、その反応を一通り楽しむと満足したように懐からラッピングのついた箱をヴァンに手渡し。
「こ、コレ!?」
「うん。チョコだよ、アタシお手製の」
「!!」
チョコを受け取り、先の話を聞いた後のせいで思わず受け取った直後に固まってしまうヴァン。
「ま、マチア……これってつまり」
「あっ、そうそう。バレンタインデーの続きでね。好きな人に渡すチョコは本命チョコって言うみたいだけど、それとは別に、お世話になった人に渡したりする友チョコとか、義理チョコとか色々あるみたいだよ」
「ハ? じゃ、じゃあこのチョコは」
ヴァンからの問いに彼女は口角を上げて。
「アタシ、本命チョコだなんて一言も言ってないよ!!」
「ッ!! お前、人を揶揄うのも大概にしやがれッ!!!」
ヴァンの反応にさらに笑うマチア。すっかり顔を赤くしながら声を荒げて激昂。
「ごめんごめん、拗ねないでよ」
「知るか! 俺は帰るぞ!」
「へぇ~、でもちゃっかりチョコは貰ってくれるんだ?」
「う、うるせぇ! ストレス溜まったから甘いもん食って解消すんだよ!!」
「じゃあな」と乱暴気味にドアを飛び出しその場を後にするヴァン、その後姿に彼女は手をヒラヒラと降りながら見送り。
「(アタシ、別に本命チョコじゃないとも言ってないけどね)」
そんな事を小さく呟きながら、ヴァンの後ろ姿を見送るのだった。
────式音絵瑠の場合。
「良し、それじゃあチョコづくり始めるぞ! シュオンも手伝ってくれよな」
『……構わんが、相応の対価は貰うぞ?』
「はいはい、ちゃんとお前の分も後で渡すから!」
バレンタインデー前日、当日に向けてチョコ作りを開始する一人と一匹。直ぐとなりに料理用の本を置き、何度も本に書かれてある工程に何度も目にやりながら試行錯誤を繰り返す事数時間。
「よ、ようやく完成だ!!」
『随分と手間取ったな』
「あぁ、シュオンもありがとな」
『礼は不要だ。それより』
「分かってるって。ハイ、これご褒美」
『その言い方は癪なんだが、まぁいい』
チョコの入った菓子包みを受け取ると、早速中身を食し満悦気味な様子。その様子に絵瑠はシュオンにバレない様にクスリと笑う。
『ところで、絵瑠』
「!」
『あいつ等にはチョコ渡すのか?』
「……まぁ烈我や星七君達には友チョコとして渡す予定だけども」
『なら彼奴は?』
「!!」
シュオンの質問に対し、彼女の頭の中にミナトの顔がパッと過る。
「あ、アイツは……!」
ミナトとは過去の一件もあり、それに対しては正直未だに許せない気持ちもある。少し前までは口すら聞きたくもなかったが、シュオンの一件で何となく彼には借りが出来てしまっている。
勿論本人は貸しを作ったつもりはないだろうが、義理堅い彼女にとって「はいそうですか」と気にしない訳には行かなくて。
『どうするんだ? 絵瑠?』
「……仕方ないからミナトの奴にも作ってやるさ。でも、アイツのチョコなんか義理中の義理だからな! その辺キッチリ分からせてやる!!」
『(……俺は誰かなんて聞いたつもりはないが)』
そんな事を想いつつもあえて口には出さず、チョコを食べながら検討する絵瑠の様子をシュオンは静観するのだった。
「で? 何で急に俺が呼び出された訳?」
翌日、事情を知らないまま絵瑠に呼び出される事となったミナト。
「まぁ俺としては可愛い子ちゃんの呼び出しなら喜んで受ける訳だけど」
「フン、そう言うの良いから」
「相変わらず連れない。まだ怒ってるのか?」
「当然だ! 一生許さないことも覚悟しろ!!」
「一生許してくれないは勘弁してほしいんだけど」
「…………」
相変わらずミナトの前では不機嫌気味で、その様子にミナトも形無しと言わんばかりの様子だったが、絵瑠はしびれを切らす様に包みを取り出すと。
「ん」
「へっ?」
「ん!」
特に何も言わずにその包みを手渡し、中身を空けるとその中にはチョコがあり。
「絵瑠、これって!」
「……まぁ、お前には何だかんだ世話になってるからな」
「おぉ、サンキュー! 超嬉しいぜ!!」
感激するように絵瑠からチョコを受け取り、満面の笑みを浮かべるミナト。その反応に渡した彼女からすれば嬉しさを感じるが、それでも気を取り直す様に意識を切り替え。
「ふん、勘違いするなよ! どうせ義理なんだから!!」
「ハハ、分かってるって。本命チョコを貰えるなんて自惚れてませんよ」
「本当か? その割には大袈裟に喜ぶじゃないか」
「そりゃ、何てたってお前からのチョコを貰えるのが何より嬉しいからな」
「!!」
嘘と思わせないミナトの笑顔に少しだけ顔を赤くさせられるが、直ぐに首を振って平常心を保ちつつ。
「ど、どうせそんな事言ったってお前のことだ! 他の女の子からも貰ってるんだろ」
「ま、まぁそれなりかな」
「ほら見ろ! やっぱり!!」
「そう怒んなって。折角大なり小なり気持ち込めてくれたもの受け取らねぇ訳には行かないだろ?」
「まぁ多分他も全部義理だろうけど」と付け足すミナトだが、それでも絵瑠はジト目を向け。
「それだけ受け取ってるなら私からのチョコも別に嬉しくはないだろ?」
「そんな事ないって。一生懸命作ってくれたチョコなんだろ、充分嬉しいさ」
「義理チョコだとしてもか?」
「義理チョコでもさ。男ってのは単純だから、例え1%だろうが気持ちを込めてくれたチョコなら死ぬ程嬉しいさ」
「そ、そうか!」
ミナトの言葉に自然と無意識の内に彼女も口元を緩ませ、一方でミナトはもっらたチョコを早速食べながら。
「うん、美味い。やっぱ絵瑠のチョコは最高だな」
「……ま、まぁそれ程でも、あるけど」
「やっぱ絵瑠のチョコが一番美味いかもな」
「!!」
満面の笑みで答えるミナトにいつしか彼女は顔を真っ赤にさせられ。
「なぁ、来年も期待していいか」
「……き、気が向いたらまた作ってやる」
「はは、そっか。それじゃあまた来年楽しみにしてるぜ」
顔を赤くしながらも、ミナトに対し小さく首を縦に振る絵瑠であった。
────黄空光黄の場合。
「ごめん! 光黄ちゃん!!」
唐突に手を合わせて謝るるみか、突然の事態に光黄もまた困惑していた。
「いえ、大丈夫です。すみません、俺の方こそ。るみかさんに毎年チョコづくりを手伝って貰うの……何時の間にか当たり前になってたみたいで」
「まぁ手伝ってあげたいのはやまやまなんだけど、生憎今年は私も急に予定は行っちゃって」
去年からずっとチョコ作りをるみかに手伝ってもらっていた彼女。それが今年は急にその予定がキャンセルになってしまい、表情には出していないが内心動揺していた。
一先ずるみかに礼を返し、自宅に戻りやむを得ず今年は一人でチョコ作りをすることになってしまった光黄。
「(今年は一人でか。随分と緊張するな)」
『光黄様、チョコ作り私もお手伝いしましょうか?』
「不要だ。お前は向こうに行ってろ。ちゃんと後でお前の分も作るから」
『分かりました。ではこのライト! 光黄様からの本命チョコ、楽しみにお待ちしておりますね!!』
「はいはい」
何時もの調子のライトを軽く流しつつ早速チョコ作りに励む彼女。課題としては去年以上の出来を目指す彼女。しかしそれなりに課題は大きく、数時間悪戦苦闘を重ねる彼女だが。
***
「ふぅー、一先ずこんな所か」
それなりに苦労を重ねたもののそれでも何とか納得のいくチョコを完成させる事ができ、一人ではあっても卒なくこなしてしまうのは彼女の才能だろう。
「(後は、これを烈我に……!)」
クールな表情ながらも内心ではそれなりに緊張するように一息零す彼女だが、そんな折に突然、テーブルに置いてあった携帯が鳴り出し。
「!……烈我から?」
着信相手は烈我から。何用かと緊張しつつも一息ついて落ち着きを払い、改めてその電話に応答する彼女だが。
「烈我か? 急にどうした?」
『光黄、急にごめん。この後予定とかある?』
「別に無いが?」
『そ、そっか。なら、少し会えないかな……って?」
「えっ?」
『い、嫌、変な意味じゃなくて……そのお前に渡したいものっていうか、伝えたい事って言うか!!』
突然の誘いに顔を赤く染める彼女だが、烈我もまた緊張しているのかそんな感情が電話越しでも彼女には伝わりその様子が可笑しく彼女は少しだけ笑うと。
「構わない。俺も丁度お前に用事があったしな」
『本当に!? じゃあこの後待ち合わせで』
待ち合わせの場所を伝えられ、早速その場所に向かう光黄。そして向かった先には彼女を待っていたように手を振る烈我の姿が。
「光黄、コレ!!」
「!?」
唐突に烈我から差し出される箱、中身に入っていたのは少し形が崩れたチョコであり。
「急に呼び出して御免。実はこれをどうしても、光黄に渡したくてさ」
「烈我!? これって……!」
「その、俺去年光黄にチョコ貰ったけど、浮かれすぎて結局お返しするの忘れてて。それを今日思い出してさ。だからその……そのお返しとして作ってみたんだ」
「一人で、か?」
「勿論、不安だったから姉ちゃんにもちょっと手伝ってもらって」
「(あぁ……るみかさんが言ってた用事ってそう言う事か)」
烈我からの言葉に理由をすぐさま察する彼女だが、烈我から差し出されたチョコに対して、彼女は口元を緩ませながらそれを受け取る。
「烈我、ありがとう」
「おぉ! 喜んでくれて嬉しいぜ」
「ふふ、じゃあ俺の方からもお返しというか、まぁ今年もよろしくって事で」
自分も手に持っていたチョコの入ったギフトを烈我に渡し、受け取り烈我は目の色を輝かせて。
「光黄、これってもしかして!! ほ、本m──」
「ただの友チョコだ」
「あ、ハイ」
肩を落としてガックリとした様子だが、それでも他ならぬ烈我にとっては想い人から受け取るチョコ、嬉しい事には変わりない。直ぐに気を取り直して、歓喜する様に「ありがとうな!」とチョコを受け取る。
「なぁ光黄、どうせならそこで一緒に食べないか?」
「こ、ここでか」
「どうせなら味の感想聞きたいし、俺も、光黄のチョコ早く食べたくてさ」
「全く、何時まで経っても子供か」
「うっ、それは……。」
反省するように項垂れる烈我だが、一方で彼女は少し辺りを見渡すと幸い、人通りはなくこの場には二人だけの様子で。
「……まぁ、お前がそこまで言うんだったら俺は別に構わないが」
「えっ! いいのか!?」
「一々大袈裟に反応するな、バカ烈!」
彼女もまた内心心躍らせているのだが、烈我にはそれを悟らせない様にあくまでも冷静にやれやれと溜息を付いて見せながらも、近くにあったベンチに二人並んで腰かけ、早速烈我は受け取ったチョコをまずは一口。
「うん! 美味い、やっぱ光黄のチョコは最高だぜ!!」
「一々大袈裟だな、そう言う世辞はいらないから」
「嫌々、御世辞じゃないって! 本当ありがとう」
「あぁ、どういたしまして。それより俺もお前からのチョコ、貰うぞ?」
「お、おぉ。不味かったら遠慮なく言ってくれよ」
自分で味見した時には文句はなかったが、それを身内以外の他人に食べてもらうとなれば話は別。自分のチョコを食べる彼女。どんな感想を告げられるのか、少しばかり不安に緊張するように彼女を見るが。
「形はともかく、味は美味しい」
「本当に!!? 光黄に喜んでもらえるなら嬉しいぜ!!」
「チョコ作りは初めてだったんだろ? ここまで出来れば大したものだと思うぞ」
「ハハハ、実は姉ちゃんからさ。おまじないと言うか、美味しくなる秘訣みたいなもの教えられてさ」
「秘訣?」
「そうそう。料理は愛情だからとにかく渡したい相手の事を一番に考えろって言うもんだから、とにかく俺、光黄に喜んで欲しくてそればっか考えてさ。何度も作って作って、味としては自分でもようやく納得できる出来になったなって」
「ッ!!」
烈我の台詞に思わず顔が赤く染まり、それを烈我に見せまいと慌てて顔を烈我から背ける。
「そ、そうか」
「でもやっぱり光黄のチョコ方が美味しい。光黄は何かチョコ作りの秘訣とかあるのか?」
「そ、それは……!」
「?」
「(お前と同じだなんて、言える訳ないだろ)」
「光黄?」
チョコ作りの際、彼女もまた烈我の事を考えながらチョコ作りに専念していたのだが、間違ってもそれを本人に伝える度胸はまだ彼女にはない。顔を赤くしながら顔を背ける彼女に、烈我は不思議そうな様子だが。
「光黄、どうかした?」
「な、何でもない!!」
「な、ならいいけど」
結局理由は分からないものの、それでも美味しいと感想が聞けた事に烈我としては満足だった。二人とも黙々とチョコを食べ、二人とも元々甘いチョコがより一層甘く感じたのは秘密である。
────チルの場合。
「シャドウさーん!! もう限界ですちる!!!」
怪盗として文字通りあらゆる世界を駆け回るシャドウ、そしてひょんなことからその助手としてサポートする事となったチル。この日は珍しくシャドウに対して声を大に不満をぶつける。
「何で今日に限って、大仕事しなきゃならないんですか!!」
「今日に限ってじゃありません。今日だからこそです! 幻のお宝とされる激レアカード、年に一度とある場所に出展され、そしてそれが今日! 何としても奪わなくてはです!」
「え~、チル大事な用事があるんですけど? こんな美少女を働かせるなんてブラック労働過ぎませんかね?」
「振替休日はとります。今日の仕事終わってからアフターケアも希望に沿いますから滅多な事言わないでください。そもそも怪盗が真っ当な職種だとでも?」
「はぁ~、聞いた私が馬鹿でしたちる」
「それじゃあ今日の働きも期待してますよ」
「はいはい、この天才美少女にお任せちる~。」
どこか軽薄なように応えるチル、しかしそれでもチルの働きに対してシャドウの信頼は変わらない。理由は一つ、それ程優秀な人材だとシャドウは理解してるからであって。
「それじゃあ今日のお宝、狙いに行きましょうか!
***
日も落ちた夜更け、間もなく日付も変わろうとしている頃、アジトに開く空間の穴から帰還するチルとシャドウの二人、二人の手には抱えきれない程のお宝が手に。
「フフフ、今回も見事に作成成功ですね! また一つお宝のコレクションが増えましたよ! まさに
「はいはい、ご機嫌な様で何よりですちる」
「えぇ、チルも存分に成果を上げていただきありがと──」
ふと振り返りチルの表情を見た時、かなり疲れた様子でかなり不満げな様子に見えた。
「もしかしてまだ不貞腐れてます?」
「別に」
「はぁー、お疲れのようですね。まぁ存分に働いてくれました事ですし、望みがあるなら聞きますよ?」
「……それじゃあ」
そんなシャドウに対して、チルは。
「ならこれ、受け取ってくれます?」
「!」
そう言って手渡されたのはチョコの入った小包であり。
「これを、私に?」
「はい。そうですよ!」
「いや、どうして?」
「だってシャドウさん、女の子からチョコ何て受け取った事無いでしょ?」
「あれ? 私唐突にディスられてます?」
「あははは、まぁ半分冗談ですけど感謝を込めて、ですかね」
「感謝?」
「はい、これでも私シャドウさんには感謝してるんですよ罪狩猟団を辞めて、その私を拾ってくれた事。まぁ日々大変ですけど、それでも前よりはマシな環境で雇ってもらってますし、そのお礼という事で」
「今日ってそう言えば」
「はい、バレンタインデーですよ! 日頃の感謝伝える日にはちょうどいいかなって思ってまして、なのに全然チョコ準備する暇がなくて、当日すらお宝がどうとか言って、準備もほとんどできませんでしたよ!!」
「ちょ、チョコの用意何てどうやって」
「それはこの私天才美少女ですから、合間合間の時間を使えばチョコの用意ぐらいはできます。何ならチョコ作りの為の時間短縮する発明もありますから」
「それ才能の無駄遣いでは?」
「やかましいちる! 問題はこの天才美少女が、何のサプライズの用意もできず!! 結局時間ギリギリでこんな形でしか渡せなくなったことですよ!!!」
「は、はぁ……そう言う事でしたか」
「きちんとサプライズの準備が出来てれば、始めてでしかもこの天才美少女からチョコを貰うというシチュエーションでシャドウさんを感激に号泣させることもできましたのにちる!!」
「クレームにディス混ぜるのやめてもらえます?」
要約すれば彼女は彼女なりに、キチンとした場でチョコを渡したかったという事だろう。結局は今日という日に渡す事を優先した為、まともな場所も用意できず今に至ると言う訳だ。
「……まぁ、ありがとうございます。サプライズというなら、貴方からチョコを渡してもらえるだけで私にとっては、何よりのサプライズです」
「あー、サプライズ自体はチル自身の問題なので、シャドウさんの所感とかはどうでもいいですちる」
「無礼の極みですね、この野郎」
「まぁまぁ、とにかく渡す物は渡せましたしチルはこれで。来月のホワイトデー、三倍返し、嫌、美少女に対しての敬意も込めて5倍返しでお願いしますね」
「怪盗にたかる気ですか、貴方」
「はい今日の働きに見合った対価としては安いものです! それでは期待してますからね、ちるーん!」
「やれやれ」
その場を後にするチルに対し、溜息を付きながら椅子に腰掛けるシャドウ。
「全く、五倍返しですか。何とも強欲な助手になった物です」
苦労を口にしまた深く溜息を付きつつも、貰ったチョコを眺め静かに彼は笑うと。
「まぁ女性一人のお返しもできないようでは怪盗の名折れかもしれませんし、そこまで言うのなら、期待の物を嫌、期待以上の物をお返ししないといけませんね」
苦労を感じながらもお返しは何にしようか、どこか楽し気にそんな事を考えるシャドウであった。
────イカヅチの場合。
異世界後にて日々強い相手を求めて旅を続ける一人の女性、名をイカヅチ。そして旅の道中、何もない荒野のど真ん中に腰を下ろしたかと思うと。
「出て来い、ギドラ」
手に持つBパッドにカードを置くと、その場に実体化するキングギドラ。荒野のど真ん中に出現する巨大な黄金の三つ首竜は天に向かって咆哮を上げるが。
「よぉー、ギドラ」
"!"
キングギドラは小さく鳴き声を上げながら三つ首共に足元へのイカヅチへと視線を向けると、そっとその場に伏せ、キングギドラの体にイカヅチは凭れる。
「今年も一年、頑張ったな。またこれからもよろしく頼むぜ」
そう言って彼女は懐からチョコを取り出すと、それを三つに分けてキングギドラに投げ、三つ首は三つ別れたチョコをそれぞれ口でキャッチして見せ、イカヅチもまたギドラの体に凭れながら余ったチョコを食べ寛ぐ。
ただ相棒であるギドラとこの場所で菓子を喰らいながらのんびりと過ごす。イカヅチにとってこれは毎年の恒例。嫌、正確に言えば毎年の恒例として決めた事であり、その決めた理由は……。
「チルの奴、2月14日バレンタインデーとか言ってたが、まぁ今のところアタイにとっちゃ一番のパートナーはギドラだけだからな」
軽くギドラの身体を撫でながら呟く。チルからは好きな相手にチョコを渡すのが主流と聞いていたが、そのあたりは正直バトルジャンキーな彼女にとってあまり分かってはいない。
「恋愛だのなんだのアタイにとっちゃ正直どうでもいい。けどこの先……アタイにもそんな感情抱ける相手がいんのかね。まぁアタイより強い奴なら歓迎するけども」
そんな事を思い浮かべていると、ふとチルの顔が頭を過りそれに対して笑いながら。
「まぁ何だかんだギドラとのんびりできる日も悪くねぇ。多分アイツが言ってたのとは別の意味だろうが、それでも感謝ぐらいはしてやるさ」
余ったチョコを見て、もし近い内会う機会があれば礼代わりにこのチョコでも渡そうか。そんな事を考えるイカヅチ。その翌日、この世界に遊びに来たチルにチョコをねだられるのはまた別の話である。
どうも皆さまブラストです!
はい、タイトル通り今回はバレンタインを記念した特別回でございます!
えぇ、分かってます。一日遅刻してしまいました。
ご容赦ください!!!m( ;∀;)m←
本編合間の茶番回になってしまいましたが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。今回最期特別枠としてイカヅチとチルにも出演いただきました。
本編だけでなく二人もまた書きたかったので欲望のまま書きました(笑)
もし、もし気に入ったシチュエーションとか感想で教えてもらえると(小声)
それではまた次回もよろしくお願いします!