S級3位“奇跡の殺戮者”キャロル・マールス・ディーンハイム   作:空飛ぶ柴犬

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本当はスフォルツァンドの残響を使いたかったのですが、JASRACの番号がまだ載ってなかったので……。
でも、五線譜のサンクチュアリも格好いい曲ですし、この戦闘には合っているかも。


五線譜のサンクチュアリ

「キミはジェノスくんじゃな。ワシはバングという者じゃ。よろしこ」

 

「ジェノス? ああ、最近デビューしたと同時にS級ヒーローになったというサイボーグか。なるほど、面白い身体をしている」

 

 バングのセリフにキャロルは思い出す。ヒーロー試験で満点を取り、18人目のS級ヒーローとなったサイボーグの名前を。

 一流の研究者でもあるキャロルはジェノスの身体を構成しているオーバーテクノロジーに興味を持った。上手く技術を盗めば自らが創り出したオートスコアラーたちを強化することが出来るかもしれない。

 

(キャロルとバング。S級3位と4位のヒーローたち。本物の実力者だ……)

 

 ジェノスはひと目でキャロルとバングの実力を見抜いた。自身が最強の男だと信じている彼の師匠ほどではないが、相当の力を秘めていると……。

 

「協会に呼ばれてきたのだが、誰もいない。これはどういうことだ?」

 

「協会員はみーんな、避難しちまって空っぽじゃよ。この中は」

 

「貴様も律儀に召集などに応じなければ良かったな。35分後に巨大隕石がここに落ちる。連中はその処理をオレたちS級ヒーローに押し付けたというわけだ」

 

 ジェノスの質問にバングとキャロルが答える。このZ市に隕石が落ちるから、協会員は避難して、後処理をヒーローたちに押し付けたことを。

 キャロルもバングも比較的に真面目にヒーロー活動を行っているからこそ、協会の身勝手さには辟易していたが、既に慣れてきていた。

 

「招集に応じて来たのはワシとキャロルちゃんだけかと思ったが……。災害レベル竜のこの事態。隕石が落ちればZ市は滅ぶ。成功すれば協会の地位は跳ね上がるじゃろう。それと同時に多額の寄付も入るようになる。連中の狙いはそこにあるんじゃ」

 

 バングはキャロルの言葉に続けてヒーロー協会の狙いを話した。ヒーロー協会は活動資金集めに躍起になっている。そして、ヒーローのことを単なる労働力としか見ていない。

 協会の上層部は今回の隕石のことも協会の地位向上のためのチャンスとくらいしか見ていなかった。

 

「……だが不可能じゃな。キャロルちゃんもキミも大切な人を連れて逃げるがいい。今回ばかりはどうにもならん」

 

 バングは隕石の落下阻止は不可能だと断じる。確かに直径200メートルの巨大隕石を食い止めるなど、人の力の限界を超えているかもしれない。

 

「隕石……、市民は知ってるのか?」

 

「そろそろ落下地点の計算を連中が終えているだろう。報道しているんじゃないか? 隕石が落ちるから逃げてくれとな。パニックは必至だろう」

 

 ジェノスの質問にキャロルが答える。実際、テレビなどでZ市に隕石が落ちるという報道が開始されると同時に道路は大渋滞を起こし、生存を諦める者が続出。まさに地獄絵図が展開されていた。

 

「そうか……。わかった……」

 

 ジェノスはキャロルの言葉を聞くと、この場を去っていった。ある覚悟を胸に秘めながら……。

 

「ジェノスくんは行ったか」

 

「あの目は逃げ出す人間の目じゃなかったな。ああいった目を見ると忌々しい記憶が蘇る。バング、貴様はどうするんだ?」

 

 キャロルは思い出していた。かつて自分が世界を破壊しようとしていたとき、それを止めようと立ち向かってきた者たちのことを。

 彼女らはキャロルの絶対的な力を目の当たりにしても決して諦めるこなく戦い抜いて勝利した。キャロルにはジェノスの覚悟を決めた表情がそんな彼女たちの顔とダブって見えていたのである。

 

「知っておるじゃろ。ワシには代々継いできた道場がある。離れるわけにはいかんの。小さな子供頃からの想い出もあるでな」

 

 バングは自分の道場があるZ市から離れられないとキャロルに語る。幼いころからの想い出が詰まっている道場に彼は愛着を持っているからだ。

 

「ふっ……、想い出ときたか。仕方あるまい。お前には1つ借りがある。丁度いい……、そろそろ返させてもらうぞ」

 

「お主の身元の保証人になったことか? 無理に返さんでもええて。独り身の老いぼれにとって、キャロルちゃんは孫のようなものじゃ。お主と居た期間は短かったが大切な想い出になっちょるよ」

 

 キャロルがこちらの世界に転移したばかりで途方に暮れていた頃、バングが彼女を助けた。

 彼はたった一人で知らない世界に飛ばされたという彼女を気にかけて、ヒーローになって生計が立てられるようになるまで色々と世話を焼いていたのだ。

 

「オレにはパパの想い出はあっても、グランパの想い出はなかったからな。バング、オレを見くびるなよ。あの程度の隕石……、オレが全力を出せば落下を阻止するなど造作もない」

 

 キャロルとしても、祖父のように接してくれたバングの優しさを素直に受け止めている。そして、彼と過ごした想い出は彼女にとっても大切なモノになっていた。

 キャロルはバングの大事にしている道場を守ることで彼への恩を返そうと考えたのだ。

 

「じゃが、全力が出せんのではなかったのか?」

 

「問題ない。既に95パーセント以上は修復が終了している」

 

 キャロルが全力を出すためにはあるアイテムを使わなくてはならない。そのアイテムはこちらの世界に来たとき破損していたが、彼女曰くほとんど修復は完了しているらしい。

 そして、彼女は進みだした。ジェノスを追って巨大隕石の落下を防ぐために――。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

「ぐぐっ……、駄目だ! 破壊できるような代物じゃない!」

 

 ジェノスは自らの焼却エネルギーを放出させることで、何とか隕石を食い止めようとしたが、無駄な抵抗だということを悟りかけている。

 ちなみに少し前にS級ヒーローのメタルナイトが自慢の兵器を駆使して隕石の破壊を試みたが、それは失敗に終わって彼は撤退していた。

 

「破壊はできる。選手交代だ。どいていろ」

 

 そこにキャロルが到着して、ジェノスに隕石の相手を代わるように声をかける。彼女の目は自信に満ち溢れており、有無を言わせない雰囲気を醸し出している。

 

「“マスター”キャロルか。お前なら破壊できるだと? 馬鹿な……、()()でも起こすつもりか?」

 

 ジェノスはキャロルの言葉を聞いて信じられないという表情をした。それもそのはず、あの巨大隕石は半端な力では接近を阻むことすらできない。

 それこそ奇跡でも起きなくては、この絶望的な状況を打破することは出来ないと彼は思っていた。

 

()()だと? 冗談じゃない! オレは()()()()()()だ!」

 

 キャロルは奇跡という言葉に反応する。そう、彼女は奇跡を嫌悪しているのだ。彼女の父イザークはその昔、自らの研究の成果によって町を疫病から救った。

 

 しかし、イザークの功績は奇跡の一言で片付けられ、そして彼は資格なき奇跡の代行者として焚刑に処された。そんな過去があるキャロルだからこそ、性格が以前よりも丸くなった現在でも奇跡という言葉だけは好きになれずにいた。

 

「下がっとれ、ジェノスくん。ここは、キャロルちゃんに任せるんじゃ」

 

 覇気を剥き出しにしているキャロルを見て、バングはジェノスに下がるように口を出す。キャロルのことをよく知る彼は彼女が勝算のないことをしない性格であることをよく知っている。

 

「ダウルダヴラをこっちで使うのは初めてだが……」

 

 キャロルが左手を伸ばすと魔法陣が出現してその中から竪琴のような物が出現する。これはダウルダヴラという名前の聖遺物で、彼女の“ファウストローブ”というプロテクターの媒体となるアイテムである。

 “ファウストローブ”を身に着けるとキャロルの戦闘力は急激に上昇する。さらに――。

 

「おおっ! キャロルちゃん、なかなかスタイルがええのう!」

 

 普段のキャロルは子供ような見た目だが、彼女が“ファウストローブ”を纏うと成人女性の見た目に変化する。

 そう、バングの言うようにかなりスタイルの良い美人に変貌するのだ。

 

「いやらしい目で見るな! クソジジイ! ――さて、試運転といこうじゃないか。巨大隕石とやら……、オレの歌は高くつくぞ!」

 

 キャロルは少しだけ顔を赤らめてバングに向かって怒鳴ると、巨大隕石に向かって妖しく微笑んだ。

 

♪逆襲ノ歌ヲ…… 蓋世(がいせい)ノ歌ヲ……!

 

 そして、空中へと飛び出して、彼女は歌った――。

 歌うことで彼女の錬金術の力が増大する――。

 

「歌が聞こえる……」

「キャロルちゃん……、こんな力を隠しとったか……」

 

♪矜持なる旋律を聴け 叡智と数美の交響曲(シンフォニー)

 

 キャロルは幾層もの錬成陣によるバリアを展開する。

 隕石は少しだけ動きが緩慢になるが、バリアは次々と破られてキャロルに向かってくる。

 

♪破壊、破砕、全反転し 闇よ光を識れ

 

(ちっ、やはり生半可なガードでは抑えることすら叶わんか)

 

 キャロルは思った以上の隕石の圧力に心の中で舌打ちした。しかし、ここまでは想定内である。

 

♪0と1に鎮座した 音楽の源とは二元論、始祖と終極「世界を識る……」その言葉通りだ

 

 さらに彼女は4つの魔法陣から同時に四属性のエネルギーを放出させる。高出力の隕石に亀裂が入り、一瞬だけ押し戻されていった。

 

♪Swear song 心が分かり合うためにも 万象、万物を読み解こう

 

(想い出のエネルギーのストックはあるが、さすがに連発は出来ない。分解するにも塊が大きすぎる。それならば……)

 

♪血肉を焼かれても守り紡ぐ 愛が託した命題を

 

 キャロルは次なる手を考える。隕石が大きくて分解できないなら、どうするか。その答えはシンプルだった。

 

♪愛も憎しみも、不完な守護と赦してやろうと言うのだ

 

 キャロルは両手を掲げて重力子を発生させる。超重力子による圧縮で隕石を砕こうと彼女は考えたのだ。

 

♪さあ……宇宙が傾く歌に爆ぜよ

 

(如何に巨大隕石といえどもこの超重力子の塊をくらえば――)

 

 キャロルは隕石に向かって重力子の塊を放つ。そして、鋼鉄よりも硬い糸を伸ばして隕石に巻きつける。

 

♪……Checkmate

 

 超重力子は隕石に直撃したと、同時に巻きつけた糸で隕石を締め付ける。重力と糸によって隕石に大きな亀裂が幾つも入る。

 

♪砂塵のように崩れ消える 思い出の燃える今を 一瞬だって無駄にはしない 絆への弔い

 

(ファウストローブの出力が安定しない。やはり早かったか……。フォニックゲインも高まらないのは、この世界の歌の力が弱いからか?)

 

 キャロルは重力子と同時にエネルギー波を隕石に押し当てて、どうにか隕石の進行を食い止めたが、打つ手が無くなりつつあった。

 

♪寂しさの代価の為 造られたマリオネット

 

(くそっ、オレはここまでなのか……、いや、奴らはこんなことくらいでは諦めなかった)

 

『泣いてる子には手を差し伸べなくっちゃね』

 

(ふん。誰が泣いてるって……? オレだって、あのときのままではない。立花響……、やはり気に食わない……。オレの苦しいときに呑気な笑い顔を思い出させやがって)

 

♪いつの日か似合いもしない「五文字」の声かけてやれるのなら

 

(オレの歌はただ一人で、70億の絶唱を凌駕するフォニックゲインだ!)

 

 キャロルは前の世界で戦い、そして共闘もした一人の少女の顔を思い出して奮起する。

 彼女から放たれるエネルギーは歌の力――“フォニックゲイン”。彼女の持つフォニックゲインの量は強大で、かつては世界を滅ぼしかけた。

 そんな彼女の底力によって、巨大隕石は少しずつ押し戻されていった。

 

♪Swear song 断末魔の果てる叫びも オレの音楽にしてやる 最終定理の音符飛び交う 猛る五線譜の聖域

 

(これで、形勢は五分に戻った。あと一撃、強力なパワーをぶち当てることが出来れば……。隕石は破壊できる。しかし、オレにはもう……)

 

 キャロルは隕石を食い止めるだけで精一杯で、四大元素(アリストテレス)を放つ余裕がなくなっていた。

 

♪さあ…太陽でさえも凍る歌で ……Checkmate

 

 そんな焦りを抱いていたキャロルの耳元に声が聞こえた。

 

「へぇ、歌上手いな。歌手か何かか?」

 

(誰だ? この状況で呑気に話しかけるバカは? ん、本当に誰だ? なんで、あんな所に立っているんだ? あのハゲは……)

 

 キャロルは目を見張った。隕石の上に頭の寂しいマントを付けた男が突っ立っていたからだ。

 

♪あの遠い温もる日々 あの柔い大きい手に (いだ)かれる夢を胸に「世界を識る……」命すべてかけて

 

「なぁ、頑張ってるところ悪いんだけど、隕石(これ)壊しちゃっていいか? これが落ちると迷惑だろ?」

 

(こいつ、何を言っている? そんなこと出来るはず……)

 

 キャロルが異常な行動をしている男の異常な言動にツッコミを入れようとしたその時――。

 

♪Swear song 心が分かり合うためにも 万象、万物を読み解こう

 

 巨大隕石は粉々になって破裂した。ハゲたマント男が軽く殴っただけで……。

 

(ば、バカな……。オレの攻撃で亀裂が入り脆くなっていたとはいえ、この高質量の物体を殴っただけで粉々に? 明らかに物理法則を無視ししている。哲学兵装というやつか?)

 

 キャロルは理不尽なほどに強力な一撃を放った、目の前の男に驚愕している。

 彼の拳に宿っている力はいつか戦った神とやらの力にも匹敵するように思えた。

 

♪血肉を焼かれても守り紡ぐ 愛が託した命題を

 

 しかし、粉々になった隕石の破片は重力の法則に従って尚もZ市に向かって降り注ごうとしていた。

 

♪さあ……宇宙が傾く歌に爆ぜよ……Checkmate

 

(雑な破壊をしやがって! 最後の力だ!)

 

 キャロルは広範囲に錬金術によるフィールドバリアをZ市の上空に展開させて、降り注ぐ小さな隕石の破片を細かく分解して無力化させることに成功する。

 こうして、彼女はZ市を巨大隕石の落下から完全に守ることに成功したのだ。

 

 だが、とうのキャロルは不完全なファウストローブを無理に使ったことによる疲労で、既に変身は解けて少女の姿に戻り……、無防備な姿を晒しながら空中から落下していた――。

 

「こうやって落ちるのは……、2度目か……。しかし、悪くない……」

 

 キャロルは死を覚悟して目を閉じた。かつては世界を壊すために戦い破れて空中から落下した。そして、今回は破壊から守るために――。

 以前と真逆の理由で戦う自分に対して、キャロルはそんな自分も悪くないと心から思い、満ち足りた表情をしている。

 

『手を伸ばすんだ!』

 

 彼女の耳元にふと声が聞こえる。あの日、死闘を演じた相手である立花響は最後まで自分を救おうと手を差し伸べ続けた。

 

『いつか人と人が分かり合うことこそ、僕たちに与えられた命題なんだ。賢いキャロルなら、そのために何をすればいいのか、わかるよね?』

 

 そして、同時に再び思い出す。父の遺した言葉を――。

 

「パパ……」

 

 キャロルは手を伸ばした。この世界には彼女たちがいないことは知っていたが……。

 

(ふっ、何をやっているんだオレは……、こんなことをしたって――)

 

「おっ、危なかったな。お前」

「はぁ?」

 

 彼女の小さな手を力強く手を握ったのは、さっきのハゲた男だった。

 彼の名はサイタマ。強くなるためにハゲるくらい修行した結果、どんな相手も一撃(ワンパン)で倒せるようになった本物の最強のヒーローである。

 

 これが、キャロルとサイタマの最初の出会いだった――。

 

 




前回の後書きでキャロルが強くなったみたいなこと書きましたけど、現時点では燃費は良くなったけど、全盛期よりは出力は低下している感じにします。
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