S級3位“奇跡の殺戮者”キャロル・マールス・ディーンハイム   作:空飛ぶ柴犬

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前回までがプロローグといった感じで、ここからキャロル視点でストーリーが展開します。


キャロルとサイタマ

 なんだ? このハゲは……。ヒーローなのか? いや、S級ヒーローにこんなハゲはいなかったはず……。

 

 オレの腕を掴み、抱きかかえて着地したこの男はとんでもない力を秘めている。

 なぜなら、この男は直径200メートルはあろう巨大隕石を軽く殴っただけで粉々に砕いた。オレはその瞬間を目の当たりにしたとき、この男の肉体に神が宿っていると直感する。

 少なくとも、かつて戦った“シェム・ハ”という先史文明の神と同等以上の力を有していると……。

 

「貴様は何者だ……」

 

 オレを抱えながらぼんやりとした顔で突っ立っているハゲ男にそう声をかける。この男に助けられたことは事実だが、強大な力には警戒せねばならん。

 

「ん? 俺か? 俺はサイタマ。ヒーローだ。一応、プロの……」

 

「プロヒーローか。お前みたいなヤツ知らんが……」

 

「わ、悪かったな。最近、ヒーローになったばかりで知名度とか無いんだよ」

 

 男はサイタマと名乗り、プロヒーローだという。S級ではないからA級からデビューしたというところか。

 大方、身体能力はあっても学力試験の結果が悪かったんだろう。頭悪そうだし……。

 

「助けてもらったことは礼を言っておく。そろそろ下ろせ。自分で歩ける」

 

 オレはいつまでもオレのことを抱きかかえているサイタマに自分を下ろすように伝える。

 こんなふうに抱えられていること自体が屈辱的なのだ。一刻も早く解放してほしい。

 

「いや、お前迷子だろ? 週一でヒーロー活動の報告をしなきゃいけないんだ。迷子を家まで送るのはヒーローの仕事だ」

 

 サイタマはオレのことを迷子だと言い放ち家まで送るとか言い出した。ふざけるな。まったく失礼な男だ。

 

「誰が迷子だ! 自分の家くらい自分で帰れる! いや、待てよ。週一の活動ノルマはC級ヒーローだけのはず。お前、まさかC級なのか?」

 

 オレは頭に来ていたが、ヤツの週一の活動という言葉がひっかかる。まさか、こいつがC級だと? ヒーロー協会は何を考えてるんだ……。

 

 数が多いC級ヒーローたちは選別するために週一の活動報告のノルマがある。そして、一週間、何も実績を残せなかったC級ヒーローはヒーローの資格を剥奪されてしまう。

 

 だから、活動報告とか言っているこの男はC級ヒーローに間違いない。

 

「うるせーな。C級だよ。子供なのにそんなことも知ってんのか」

 

 サイタマは嫌そうな顔をして自分がC級だと口にする。嫌そうな顔をするより、なんでC級なのかを考えろ。どうせあの超簡単な学力テストの結果がよほど悪かったのだろう……。

 

「だから、なりを見て判断してくれるな! オレもお前と同じヒーローなんだ!」

 

「ごめんな。ヒーローごっこに付き合う暇はないんだよ。さっさと家がどこだか教えてくれ」

 

「ええい! 話が通じん奴め! というより、お前は隕石を砕いただろ! 週一のノルマはそれで十分ではないか!」

 

 そして、オレはヒーローということを一向に信じないサイタマに週一のノルマは巨大隕石の破壊で十分だと伝える。

 どう考えてもC級レベルの仕事を超えてるが、それを知れば間抜けな協会もこいつの順位を引き上げるだろう。

 

「えっ? あれは歌が上手いヤツの手柄だろ?」

 

 オレが巨大隕石を破壊した実績を報告しろと言うと、サイタマはキョトンとした顔であれはオレの手柄だと曰う。変なヤツだな。手柄が要らんのか? 律儀に活動報告しているクセに。

 

「それがオレだ!」

 

「ああ、そういえばお前と似てたな。姉ちゃんか?」

 

「くっ、やはりそうなるか! ならば力づくで! ――いや、無理か……」

 

 サイタマの頭では、ファウストローブを着たオレと今のオレが同一人物だと結びつかないことと、この男を今のオレが力づくで振り切ることが出来ないことをオレは悟った。

 諦めるしかないか。非常に遺憾だが……。

 

「じゃあ家まで案内してもらうぞ」

 

 こうしてオレは自分の家をこのハゲに教えることになった。何という屈辱だ。早くファウストローブを完全に修復しなくては……。

 

 

 

 

「あらぁ、マスター。随分と可愛らしいご帰宅ですこと。クスクス……」

 

 さらに最悪だったのは、ガリィ(こいつ)が出迎えたことだ。いつもはオレが帰ってもテレビばかり見てるくせに、こういうときは妙な嗅覚が働く。

 ファラはファラで気まずそうな顔をしてチラチラこっちを見ているし……。

 

「おお、まさかオレの住んでるマンションの隣の家だったとはな。気付かなかったぜ」

 

 しかも、サイタマはオレの近所に住んでるらしい。ここに住み始めたのは最近だが、早くも引っ越したくなってきた……。

 

「じゃ、これでオレは帰るから。姉ちゃんにもよろしく。歌、また聞きたいし」

 

 サイタマは呑気な声でそう言って立ち去ろうとした。バカ言え、二度とお前の近くで歌うものか。

 

「あらぁ、もうお帰りですか? マスターの恩人に晩御飯でもご馳走して差し上げようと思っていましたのに」

 

「ガリィ、お前何を!?」

 

 サイタマが帰ろうという動作をすると、ガリィのバカが彼を呼び止めて飯を誘おうとする。いつもの悪そうな笑みを浮かべて。

 こいつの底意地の悪い性根の腐った部分を見るたびにオレは自己嫌悪する。自分の中にこいつみたいな腐った部分があると突きつけられるからだ。

 

「えー、いいよ。帰ってテレビみたいし」

 

「今日のメニューはプレミアム高級牛肉のステーキですが……」

 

「ちょっとだけだぞ」

 

「チョロすぎるし、少しは遠慮しろ!」

 

 最初は断ったクセにこいつは高級食材の名前を聞いた瞬間にずかずかとオレの家に上がり込んだ。ファラもそんな奴に頭など下げるな。もてなすな! そもそも、節約しろと言っているのになんで高そうな肉を買っているんだ!

 

 

「お前んとこ、面白いな。人形が喋ったり動いたりするんだ。ロボットか?」

 

 サイタマは人の家のソファーでだらしなく横になり、テレビを見ながらオレに話しかける。態度がデカいというか、なんというか。初めて会った人の家でよくそんなにくつろげるな……。

 

「まぁ、そんなところだ。どうせオートスコアラーなんて言っても分からんだろうし……。オレが作った」

 

「お前が? すげぇじゃん。手先が器用なんだな」

 

「反応がいちいち薄い! 手先が器用って、折り紙感覚か!」

 

 この男はオレがガリィやファラを創ったことをまるで折鶴が上手くできたみたいな感じで褒める。手先が器用なだけで錬金術の知識の集大成であるオートスコアラーが作れてたまるか!

 

「マスター、あまり怒ると血圧が上がりますわ」

 

「うむ。そうだな。オレとしたことが熱くなった……」

 

 ここまで感情を逆撫でされたのは実に久しぶりで、オレが興奮してしまっているとファラが嗜めてくる。確かに少し怒り過ぎたかもしれん。

 

「サイタマ様はプロヒーローなのですよね? なんで、ヒーローなんてやってるんですか〜? やっぱり、マスターと同じでお金のためとか〜?」

 

「ん? ああ、ヒーローは趣味でやってるんだ」

 

「しゅ、趣味ですか?」

 

 ガリィのヒーローになった理由を聞かれて“趣味”と言い切るサイタマに対してファラは理解不能だという顔をする。

 趣味か……。だから、こいつは手柄とかそういうのに無頓着なのか。高級食材には釣られるクセに……。

 

「まさか、人助けが趣味とか言うんじゃないだろうな」

 

「え? そうだけど。お前はお金のためなんだ。あれ? うーん……。――お前ってヒーローなのか? 迷子じゃなくて」

 

「だからさっきからそう言ってるだろ!」

 

 ここに来て、というかガリィの言葉を聞いてようやくサイタマのやつはオレが迷子ではなくて、ヒーローだということに気付く。

 こいつの趣味は人助けか……。

 

『ボクのヒーローと一緒ですね』

 

 心の中のもう一人のオレがそんなことを口にする。ああ、あいつもそんなことを言っていたのか。だから、オレはあのとき……。

 

「マスターを迷子だと勘違いされたのですか? それはなんとも」

「面白いお話ですね〜。キャハハハハ」

 

 サイタマの返答に対して、ファラは困った顔をして、ガリィは遠慮なく笑い転げる。やっぱりイライラするな……。

 

「じゃあ、姉ちゃんと姉妹でヒーローってことか」

 

「あれもオレだ。錬金術で姿形を変えていたが」 

 

 ファウストローブを纏って姿が変わったことを錬金術によるものだとオレはサイタマに説明する。どうせ理解など出来んだろうが。

 

「錬金術?」

 

「こういう力ですよ〜。サイタマ様」

「ええ、我々は大したことは出来ませんが」

 

 錬金術が何かわからないサイタマにガリィとファラは自分たちの能力を披露した。ガリィは水、ファラは風をそれぞれ操ることができる。

 

「うおっ、何もないところに氷と風が。なるほど。そういう力を使うのか。えっと……」

 

「キャロルだ」

 

 そして、この男……、やっとここに来てオレの名前を聞く気になったらしい。最初にそういうことは聞け。デリカシーのない男だ……。

 

「ああ、キャロルっていうのか。お前……。だから、錬金術っていうのは、アレか。何か格好いいマジックみたいなモノ――」

 

「全然違う! 理解が浅すぎる!」

 

 想像以上に錬金術のことを理解しようとしなかったサイタマに対してオレは死ぬほど面倒くさいヤツだという認識を持つ。

 ダメだ。根本的に性格が合わん。タツマキよりもダメかもしれん。

 

「マスターが完全に翻弄されてますわ。恐ろしい方です」

「ぼっちのマスターには丁度いい友達ですね〜」

 

 友達だと? 冗談じゃない。もう二度と関わるものか!

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「おっ、また会ったな。キャロル」

 

「――っ!? なぜ、お前がここにいる!?」

 

 あれから、3日後……、オレはサイタマと再会した。二度と会わぬと誓っていたのに……。

 

「いや、近所のスーパーここだけだろ? 特売日にはそりゃ来るだろ」

 

「ちっ、お前の狙いも同じか……。狙いは超格安バーゲン豚肉だな」

 

 ガリィとファラに買い物を任せるとあまり値段を気にせずに買ってくることが多かったので、特売日の今日だけはオレが買い物に出ることにした。それがそもそもの失敗だった……。

 

 しかし、特売品の中でも特に目玉商品である豚肉は買って帰らねばな。あいつらに節約しろと大見得をきって出たからには。

 

「へぇ、そんなのがあるんだ。知らなかったけど、それも買って帰るか」 

 

「しまった……、喋りすぎたか」

 

 ここの特売品は熾烈な争いの勝者のみが手に入れることができる。オレが口を滑らせたせいで、一人増やしてしまった。

 

『今から、豚肉の格安セールを行うつもりでしたが、1パックしか用意出来ませんでした〜。なので、早い者順でーす!』

 

「はぁ? 在庫の確認もしないのか? この店は」

 

 ありえない事だが、特売品は1つしかないらしい。しかし、幸い周囲に人はほとんどいない。1つしかないから、他の特売品の方に流れたのだろう。逆にいい流れだ。

 

「早い者勝ちか……」

 

「さ、サイタマ、お前! オレの獲物を横取りする気では!」

 

 オレはこのハゲの存在を忘れていた。サイタマはずんずん豚肉の方に進んでいく。

 

「パワーでは打ち負けるが、重力子を錬成して超重力の檻に閉じ込めてやる」

 

「ん? ちょっと太ったかな?」

 

 オレがサイタマの足元にだけ小さな重力子の塊から成す超重力をかける。常人どころか、並のヒーローならこれで身動き1つ出来なくなるはずだが、サイタマの歩く速度はまったく変わらなかった。

 

「き、効いてない? というか鈍感すぎる……。もっと出力を上げるか……」

 

「菓子を食べて、すぐに横になったことが原因? 俺もいい歳になってきたもんな」

 

「バカな!? 高層ビルも潰れるくらいの負荷がかかっているのだぞ! あいつ、本当に何者だ?」

 

 さらに大きな負荷をかけてもあの男の足取りは変わらない。このスーパーの床が壊れないように斥力も同程度発生させているから、もっと出力を上げるとコントロールが利かなくなる。

 

 それに、仮にコントロール出来ても無駄だろう……。あの男の身体はどう考えてもおかしい……。

 

「肉ゲット〜」

 

「くっ、仕方ない。オレの負けだ……」

 

 本気で挑んで何も出来なかった。こいつと戦闘になるともっと旗色は悪いだろう。

 関わらない方がいいと最初に思ったのは正解だったな。

 

「ほら、キャロル。1パックしかないみたいだったから焦ったぜ」

 

「サイタマ。お前……」

 

 サイタマはオレに豚肉を渡した。どうやらこいつは残り1つだと聞いてオレのために取りに行ったらしい。

 どこまでお人好しなんだ。さすがは趣味でヒーローをやってる馬鹿者だな。

 

「じゃあな。オレは昆布とか買って帰るから」

 

「あ、ああ。ありが――」

「ああー! あたしのミルちゃんストラップが!」

 

 オレが礼を言おうとしたら、子供が女の子の人形のついたストラップを落として、サイタマの足元に転がって行っていく様子が見えた。

 そして、そのストラップはサイタマの足元で原型がなくなるくらいグシャリと潰れた。

 

「しまった。サイタマの足元にかけた重力子を解除してなかった」

 

 オレはサイタマに超重力をかけ続けていたが、ヤツがあまりにも平然としていたので、解除することを忘れていた。

 

「えっ? お、俺のせい? いや、踏んでもないし、触れてもないし。違うよな?」

 

「ええい。泣くな! ストラップくらいオレが買ってやる!」

 

 子供は大声で泣いていた。よくわからん牛みたいな衣装を着た女のアニメキャラみたいだったが、原型を留めてないからよく分からん。まぁ、壊したのはオレの責任だから弁償くらいはするが……。

 

 

 

「で、マスターはこの大会に出ることにしたんですか〜」

 

「ウェストポーチモンスター。通称ポチモン。モンスターを捕まえて、戦わせるゲームのようですわね」

 

「う、うるさいな。限定品でこの大会の成績優秀者しか貰えない物らしいから仕方ないだろ」

 

 そして、オレはゲーム大会に出ることになった。あの女の子のキャラクターはモンスターだったらしい。よく分からんが……。

 とにかく、たかがゲームの大会だ。オレの頭脳をもってすれば優勝くらい容易い――。

 




キャロルが大きめの買い物かご持ってスーパーとかいうシチュエーションを書きたかっただけのお話し。
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