S級3位“奇跡の殺戮者”キャロル・マールス・ディーンハイム 作:空飛ぶ柴犬
ボロス編の最後までって感じです。
「えっ? もしかして、キャロルちゃん……?」
立花響は声を聞いてようやくオレに気が付いたらしい。まぁ、ヤツの世界ではオレは消えているはずだからな。エルフナインと勘違いするのは致し方あるまい。
「――やはり、どう見ても立花響だな。お前がどうしてこの世界にいる!?」
「こ、この世界? 全然言ってること分からないよ。キャロルちゃん」
オレは立花響にこの世界にいる理由を問うたが、ポカンと口を開けているこの女は自分の状況もよく分かってなさそうだった。
もしや、転移したという自覚がない?
「……質問を変える。お前はどうやってここまで来たのかは、わかっているか?」
「ええーっと、話せば長くなるんだけど、でっかい宇宙船が来て、いきなりそれが攻撃してきたんだ。それで、S.O.N.G.も国連の指示で動いて、私たちも宇宙人と戦うことになった」
オレがこの宇宙船内に来るまでの過程を尋ねると、この女は話し出す。どうやら、あちらの世界でも宇宙船の襲来があったようだ。
「では、この宇宙船は……」
「襲ってきた宇宙船だよ。多分……。そして、私たち装者全員でこの宇宙船に乗り込んだの」
「シンフォギア装者たちが乗り込んだと? そんな形跡はなかったが……」
立花響は異星人を特異災害とみなして、国連が装者を宇宙船内に送り出したと語る。しかし、この宇宙船はサイタマ以外に何者かが入ってきた形跡はない。
つまり、立花響の言っている宇宙船とこの宇宙船は別物ということだろう。並行世界で同時に宇宙船の侵攻が地球にあり、立花響だけが何らかの影響でこちらの宇宙船に飛ばされたという可能性が高いな……。
「みんなで頑張って、戦って……。最後にボロスさんっていう、この船のリーダーと戦うことになったんだけど……。すごく強くて……、みんなボロボロにされた」
「ボロスという異星人がここのボスということか……?」
「うん。そのあと、最後の手段として7人全員の歌を1つにして、私がそれを束ねてボロスさんと衝突したところまでは覚えてる。ボロスさんの攻撃が凄くてそれとぶつかり合って、大きな爆発に飲み込まれた。そして、気付いたらキャロルちゃんが目の前に居たんだ……」
装者が7人がかりでも圧倒するほどのボスとの戦いで、大きなエネルギー同士のぶつかり合い……。
そして、その後オレと立花響が遭遇した……。なるほど、だからこいつは至るところに怪我をしているということか……。
そのエネルギー同士の衝突こそ、この現象の原因という可能性が高い。
「――なるほど。良く分かった。結論から言おう。立花響……、お前もオレと同じで別の世界に飛ばされた。この世界にはシンフォギアもS.O.N.G.も存在しない」
「別の世界に? シンフォギアもS.O.N.G.も無い世界?」
オレが立花響に別世界に飛ばされたという結論を先に話すと、やはり理解の範疇を超えているようで、首を傾げていた。
あまり頭を働かせるのは得意ではないか……。
「この宇宙船は、お前たちの世界を襲ったものではない。今まさに、地球に侵攻してきたばかりなのだ」
「今、地球に侵攻してきたばかり? でも、私はさっきまで……」
「お前は宇宙船で戦い、大きな爆発が生じる程の戦いをした。それによって恐らく次元に亀裂が生じて、違う世界にワープしたのだろう」
オレはこの女の話を聞いて、立花響とボロスとかいうヤツの放った高エネルギー同士の衝突が次元に干渉してヤツを別の世界に転移させたという仮説を立てた。
まったく、こいつらの世界とはもう関わることは無いと思っていたが……。
「よく分からないけど、私は迷子になっちゃったってこと?」
「平たく言えばそうなる。警察に行っても帰れないがな」
「ええーっ! 今度の日曜日は未来とデートの約束してるのに〜!」
オレが異世界転移という結論を述べたのに、立花響は素っ頓狂な声を上げて呑気なことを口走る。それどころの話じゃないだろ。こんなヤツが世界を何度も救っているのか……。いや、こんなヤツだからこそか……。
「諦めろ。とにかく、ガス欠寸前のお前はここから出た方がいい。安全なところに逃げておけ。この世界はお前には関係のない場所なのだからな」
大きな戦いの後という感じの立花響にオレは隠れていろと助言する。
こいつには借りがある。こんなクソみたいなところで死なせるわけにはいかない。
「キャロルちゃんは……?」
「オレはこの世界のために戦う約束をしている。引く訳にはいかん……」
ヒーローとして招集された以上、義務は果たさなくてはならない。オレはどんな相手だろうと引くつもりはなかった。
「じゃあ私もキャロルちゃんと戦うよ。キャロルちゃんが守りたい世界なんでしょ? わたしはそれを助けたい」
「――勝手にしろ。異星人共はほとんどあいつが倒しているみたいだが、まだ残ってるヤツがいるかもしれん」
立花響はオレに付いて来ると言ったが、よくよく考えてみるとサイタマが先に行っている。
あいつなら或いは一人で決着も……。オレはそんな予感がしながらも先へ進む。
「こ、こんなに沢山……。み、みんな死んでる……。キャロルちゃんがやったの?」
「いや、オレではない。先にここに潜入した男が1人居るのだ……」
立花響は異星人の死体に眉をしかめる。甘いこいつらの事だ、異星人であろうと殺しはしなかったのだろう。もしこの女がこの世界のヒーローとなっても甘さが全面に出るだろうな。元人間の怪人など、こいつには殺せるはずがないのだから……。
「先に入った人? ――あっ!?」
「くっ、この衝撃……!? 始まったのか? 大きな戦いが……?」
そんな会話をしている折に、轟音と共に凄まじい衝撃が宇宙船内を駆け巡る。
サイタマのヤツがここのボスと戦闘を開始したか……。
「まさか、たった1人でボロスさんと……? 急がなきゃ!」
「あまり心配しなくても良いとは思わんでもないが……。万が一ということもある……」
オレはあの化物が誰かに蹂躙される姿など想像も出来なかった。しかし、先を急いでいる立花響を放って置くわけにもいかず、彼女を追いかける。
「――っ!? タツマキあたりが、こっちに攻撃を仕掛けてきたか!?」
さらにこの宇宙船が外部から攻撃を受ける。こんな真似が出来るやつは下には一人しかいない。
くそっ、さすがに遠慮のない攻撃をしてきやがる……。
「キャロルちゃん! 危ない!」
瓦礫がオレに向かって落ちてきて、立花響は身を呈してオレを守ろうとする。
「余計なことはせんでいい! お前は自分の身だけ心配していろ!」
「ご、ごめん。つい、体が勝手に……」
「そんな顔はするな! ――一応、礼は言っておく……」
この女はいつもそうだ。自分がボロボロでもまだ人を助けようと懸命に動く。
変わってない……。あの時のまんまだ……。少しはワガママになったと思ったのだが……。
「どうやら、この上で戦っているみたいだ……」
「行こう! キャロルちゃんのお友達が戦っているんでしょ? 早く助けなきゃ!」
「断っておくが、友などではない! 顔見知り程度だ!」
オレたちは宇宙船の上方へと空けられた大きな穴を見て、上で連中が戦闘をしていると察した。
そして、死線へと向かった――。
「――あいつがボロスとかいう奴で間違いないか?」
「うん。見間違えないよ。さっきまで戦っていたから」
目の前でとんでもないエネルギーを放出している異星人が空を見上げている。どうやら、ヤツがボロスという宇宙船のボスらしい。
なるほど、こいつも相当の化物だ。サイタマはどこだ? まさかやられたのか?
「――なんだ。まだ侵入者が居たのか。今は取り込んでいるんだ。消えてもらおう!」
「下がれ! 立花響!」
「――キャロルちゃん!?」
ボロスはオレと立花響に気付くと、問答無用で光線を放ってきた。
オレは錬金術によってバリアを展開してこれを防ぐ。しかし、あまりの威力にバリアは粉々になって砕け散り、オレたちは爆風によって吹き飛ばされた。
「ほう。ここまで来るだけあって、貴様も愚図ではないらしい。だが――!」
「やらせない! ボロスさん! 強い人と戦いたいってだけでこんなことをするなんて間違ってます!」
さらにボロスが追撃を加えようとしてきたが、立花響が前に出て両腕でヤツのパンチを食い止める。
「貴様、なぜオレの名を知っている!? まぁ、そんなことはどうでもいい! 今までにない強者と戦っているのだ! お前らは邪魔だ! 死ぬが良い!」
しかし、ボロスはガス欠寸前の立花響が敵う相手ではなく、強烈な蹴りを腹に受けて吹き飛ばされてしまう。
「うっ……! あっ……!?」
「とどめだ! 小娘!」
そして、ボロスは倒れた立花響にエネルギーを込めた拳を振り下ろす。あれを食らえば、シンフォギアを纏っていてもタダでは済まんな……。
ちっ、どこに行ってやがった……、サイタマ……。
「キャロル。この子誰だ? 何か格好いい衣装着てるけど」
サイタマが空高くから降ってきて、ボロスと立花響の間に割って入る。腕一本で軽くボロスの攻撃を受け止めながら……。
やはり、こいつはどうかしている……。
「この人がキャロルちゃんの言ってた……」
「フハハハハッ! やはり、まだ生きていたか!」
ボロスはサイタマの出現に大喜びで、ターゲットを変更する。
そして、目にも止まらぬ連撃をヤツに浴びせる。あの男は今まで全力ではなかったのか……。
「あまり長引くと、子供たちが危ないからな。――連続普通のパンチ!」
「――ッッ!! グ……、オ゛オ゛ッ!!」
しかし、サイタマにはまったくボロスの攻撃は通じない。
それどころか、サイタマが数発拳を繰り出しただけで、ボロボロにされてしまう。
「キャロルちゃんのお友達……、す、凄い……、師匠よりも強いかも……」
「だから、友などではない!」
「ならば、最終手段だ! 全エネルギーを放出し、貴様もろとも星の表面ごと消し飛ばしてやろう!」
ボロスは再生能力を持っているみたいで、体の修復をすると、空中に飛び上がりエネルギーを充填する。
「なっ!? あのエネルギー……、本当に地球ごと消し飛ばすつもりか……!?」
「キャロルちゃん、アレだよ! 私と衝突したのは……!」
そのエネルギー量は地表を消し飛ばすのに申し分のない量だ。あいつ、こんな切り札を持っていたのか……。
「崩星咆哮砲――!!」
サイタマに向かって高出力のエネルギーが放出される。
こんなもの地上に落とされてたまるか……。かなり力を消費しているが、全力でフォニックゲインを高めれば何とか相殺出来るかもしれん。
オレが覚悟を決めたとき、サイタマからただならぬ気配を感じる。
「だったら、こっちも切り札を使うぜ。――必殺“マジシリーズ”……!」
サイタマの身に纏う空気が変わった……。
寒気がするほどのパワーが空気を通してオレに伝わる……。
「――マジ殴りッ!!」
ヤツの本気の拳は、ボロスの放った高出力のエネルギーを四散させ――ボロス自身に致命傷を負わせるに至った。
今までもおかしいと思っていたが……。この力は――。
「あり得ん……。人間の持てる限界を遥かに超えている……」
「でも、あの人……、悲しそうな顔してる……」
人間には力の限界というものがある。だから、オレだって他の錬金術師やフィーネという巫女ですら、聖遺物の力を利用してさらなる力を得ようとした。
だが、ヤツは違う。自らの努力だけで限界という概念を壊したのだ。おそらく、想像を絶するほどの鍛錬の結果、哲学兵装のような力が宿り、ヤツは限界を取っ払ったのだろう。
「キャロル。この船落ちるけど、逃げられるか?」
オレがサイタマの馬鹿力について考察していると、あの男はバカ面をしながら宇宙船が墜落することをオレたちに告げた。
「――っ!? ちょっとは加減しろ! ええい、サイタマ、立花響、そこを動くなよ!」
オレは錬金術によるバリアで包み込み、墜落のショックに備えた――。
とりあえず、この宇宙船からの驚異は去ったということか……。
「――おっ、出れた!」
「“出れた”ではない! まったく、派手にやらかしやがって……」
オレはどこまでもマイペースなこの男に苛つきを隠せなかった。まったく、デカい力を手に入れると共にデリカシーを捨ててしまったらしいな。
「でも、サイタマさんには助けられました。私は全然ダメダメで……」
「助かってよかったな」
立花響は俯いて落ち込んでいるみたいだが、サイタマはそんな彼女の肩を叩き、一言そう告げる。
「――っ!? はい。ありがとうございます」
すると、彼女はサイタマの言葉で何を元気付けられたのか知らんが、顔を上げて笑顔で彼に礼を言っていた。さて、この女をこれからどうするか……。
「ちょっと! なんで、あなたたちが宇宙船から出てくるわけ? キャロル、あなた抜け駆けしたわね!?」
「キャロルちゃんと、お茶を飲んでいたB級……、と誰?」
「うるさいな。今は呑気に話をする気分じゃないんだ」
宇宙船からオレたちが出てくるのを見ていたタツマキとクロビカリがこっちに向かってくる。
説明とかいろいろと面倒臭いから構ってほしくないのだが……。
「先生! 無事でしたか! なるほど。マスター・キャロルと共闘していたのですね!」
「おう、ジェノス。終わったから、帰ろうぜ」
そして、サイタマに弟子入りしているらしい、ジェノスもこちらに走ってきていた。まぁ、あの力を見たらそういう気を持つ奴もいるか……。
「立花響、お前のことを聞かれるといろいろと面倒だ。取り敢えず、オレの家に来い」
「キャロルちゃんの家? いいの?」
「良いも悪いもない。お前はオレと違ってあの世界に戻るべき人間だ。それが可能なのはこの世界にはオレ以外に居ないだろう」
オレとて、この世界に来て何もしていないわけではない。時空間の歪みの研究もしている。
あの世界に未練が無かったので、本気で取り組んでいなかったが、こいつは戻してやらねばならん。
立花響はあの世界に必要な人間だ。待っているヤツも多くいるだろう……。
「あはっ……! ありがとう! キャロルちゃん!」
「バカ者! くっつくな! 離れろ! 気安くするな!」
遠慮なく思いっきりオレを抱きしめるバカ女にオレは辟易する。
しかし、人の温もりを感じたのは何百年ぶりだ? こんなにも体温というのは温かなのだな……。
こうして、オレの家にしばらくやかましい女が居候することとなった――。
ということで、響がキャロルの家に居候することになりました。
次回からガロウ編になるのかな?