S級3位“奇跡の殺戮者”キャロル・マールス・ディーンハイム 作:空飛ぶ柴犬
響のワンパンマンの世界での生活の一部始終。
「はっ――! よっ! とりゃあっ――!!」
何日か家を空ける予定が出来たので、オレは立花をバングのところに預けた。ちょうど、ファラとガリィはメンテナンスの為に機能を停止しなくてはならなかったので、こいつの面倒を見てくれそうなヤツがバングくらいしか居なかったのだ。
バングから手解きを受けたのか、立花のヤツは早くも流水岩砕拳の動きを習得しているみたいだ。そういえば、こいつの成長速度はシンフォギア装者の中でも段違いだったな……。
「ほぅ、響ちゃん。めちゃめちゃ筋がええのう。流水岩砕拳をこうも早く自分の動きに取り入れるとは……。その武術はどういう流派なんじゃ」
「えっ? いやぁ、師匠と一緒に映画を見て覚えた動きなんで、特に流派は……」
「なんと、我流でそこまで……。お主の師匠とやらはとんでもない人間じゃのう」
バングは立花の格闘センスに太鼓判を押す。おそらく半分くらい本気で弟子にしたいと思っているな。
こいつの師匠って、S.O.N.G.の司令官だったか? 情報によれば素手でシンフォギア装者を圧倒するほどの戦闘力を持つと聞いていたが……。確かにとんでもない化物だ。
「バング、立花を見てもらって済まない。お前くらいしか信用の出来る人間が居ないんでな」
「気にせんでええって。チャランコしか弟子が居らんから、楽しかったわい。センスが良いから、教えがいがある」
バングはやはり立花の格闘センスに目を付けているみたいだ。
バングのところには、オレと会う少し前までたくさん弟子が居るみたいだったが、今じゃチャランコとかいう貧弱そうなガキしかいない。
「そのチャランコはなぜ蹲っているんだ?」
「女の子にも勝てなかったんです……。そりゃあ自信を無くします……」
「ご、ごめんなさい。寸止めして、当てるつもりはなかったんだけど……」
チャランコはおそらく立花と組手でもしたんだろう。そして、簡単に負けたんだろうな。見なくても察しがつく。
「こいつはオレをかつて打ち負かしたほどのヤツだ。お前ごときが勝てるわけ無いだろ」
「キャロルさんを!? またまた冗談言わないでください! S級3位っすよ!! 最強のヒーローの1人って言われてるのに……」
「そ、そうだよ。キャロルちゃん。私一人じゃどうにもならなかったんだから」
チャランコみたいな一般人がギアを纏っていないとはいえ、死線を何度も超えてきた響に勝てるはずがない。
響は自覚してないみたいだが、素の状態でもこいつの戦闘力は普通の人間を大きく凌駕している。
「しかし、この道場も相変わらず人が居ないな。ガロウだったか……。お前の元一番弟子でここの有望な弟子たちを再起不能にした奴は……。今はどうしているか知ってるのか?」
バングのところに弟子がいないのは、ガロウという元一番弟子が原因だ。
ある日、ガロウはバングの留守中に突然暴れだして、彼の弟子で有望な連中を一人残らず病院送りにしたらしい。そして、その光景に恐れを成した他の門下生は一人残らず辞めたのだそうだ。
ガロウはバングにボコボコにされて破門にされたらしいが……。
「いや、知らなんだ。だがしかし、もしも人の道を外れようとしていたら、その時はワシが……」
「殺すというのか?」
バングはガロウに対して親心のような責任感があるのだろう。もしもの時は自分がケリを付けるという覚悟をこの男からオレは感じた。
「そ、そんな……、駄目ですよ。バングさん! 人間同士なんですから、話し合うべきです!」
しかし、そんな物騒な言葉を聞き流せない奴が居た。
立花はバングの前に立って、ガロウと話し合うべきだと主張する。
こいつの甘っちょろい考えはこの世界だと優しすぎる……。おそらく、響はヒーローの世界にはついていけないだろう。
元人間の怪人を躊躇わずに殺すなんてこと、こいつには無理だろうから……。まぁ、どうしてもこいつが戦う力を求めたら考えがないわけじゃないが……。
「ほっほっ……、ええ子じゃのう。響ちゃんは……。皆が響ちゃんみたいなら世の中争いは起こらんのじゃろう」
「まぁ、程々にするんだな。お前がバカ野郎の命まで背負わんでいい。もしそうせざる得ないから、オレが力を貸してやる。帰るぞ、立花……」
ガロウとかいうガキが何か起こしてバングの顔に泥を塗るならオレが制裁してやってもいい。この老人がクソみたいな奴の為に手を汚す必要はあるまい。
「あっ! そういえば今度、サイタマさんとゲームで対戦する約束してたんだった! ねぇ、キャロルちゃん、あのゲーム貸して」
「ちっ、どうしてお前はこの世界でも簡単に友達を作るんだ!? しかも、よりによって、あの男と……」
「ええーっ、いい人だよ。サイタマさん」
立花はファラと買い物に行ったときにサイタマと再会して意気投合。そのまま連れて帰ってきて一緒に夕飯を食べることになった。
こいつら、根っこの図々しい部分が似てるから両方揃うと苛つき度合いが急上昇するんだよな……。
そして、数日後……。オレは立花に付き合ってサイタマのマンションに行くこととなった。
「くっ……、やるなサイタマ……。だが、オレは負けんぞ!」
「キャロル。ここまで強いとは思わなかったぜ……」
「ほら、みろ。オレの勝ちだ。大会ではキングに不覚を取ったが、お前には負けん」
サイタマをポチモンでフルボッコにしてやった。腕っぷしは大したものだが、ゲームはキングと違ってそうでもないらしいな……。
「くっそー! もう一回やろうぜ!」
「あ、キャロルちゃん。次は私にもやらせてよ」
「仕方ないな。ほら」
立花が交代しろとせがむので、オレはゲーム機を彼女に渡す。
「懐かしいなー、ポチモンって。小学生くらいのとき、未来とよく遊んだんだー。未来が強くって……」
「おいおい、響も強いじゃん。あれ? オレが弱いのか? もしかして……」
どうやらサイタマは立花よりもゲームが弱いらしい。情けない顔をしているな……。
「先生の順位がB級の7位にまで上がってます。俺もS級の15位まで上がりました」
「へぇ、視界に入った怪人を普通に倒してるだけなのに、そんなに上がるんだな」
「最近、怪人が多いですからね。しかも先生は怪人を倒しても協会に報告していない。にも関わらず順位が上がっているということは、目撃者が協会に先生の活躍を報告しているということです」
サイタマに師事して同棲しているらしいジェノスが手紙を見ながら、ヒーローランキングの話をしている。
というか、こいつまだB級をうろついているのか。災害レベル“鬼”を単独で2体くらい倒せば簡単にS級に昇格出来るのだが、報告してないんじゃ仕方ない……。
「きちんと報告くらいしたらどうだ? ルーズなヤツだな」
「だって、面倒だし……」
面倒の一言でこいつは報告をしないと言い切った。絶対にこんな無精なやつと一緒に仕事はしたくない。タツマキがまともに見えるレベルだ。
「ヒーローって大変なんですね。キャロルちゃんも色々と大変そうだし」
「お前がよく食べるからだ。家計の為にも金を稼がなくてはならんだろ」
「ごめーん。キャロルちゃん。でも、ファラさんの料理美味しんだもん」
「なんで、ファラはさん付けで、オレはちゃん付けなんだ!」
よく考えたら、こいつオレよりもファラを尊敬しているような疑いがある。オレとガリィはちゃん付けで呼んでるのに、何故かファラだけさん付けなのだ。
もしかしたら、餌をくれる奴が偉いみたいに考えてるんじゃないだろうな?
「あー、ファラの料理は美味いよなー。スーパーで会うと大体飯に誘ってくれるし、いいやつだな」
「お前も少しは遠慮しろ! もしくは材料費くらい払え!」
サイタマもサイタマで、オレの家で散々飲み食いして心づけも払わず帰っていく。
いろいろ思い出すとイライラする。この記憶は焼却してやりたい。
「先生の知名度も上がってきてますから、もしかしたら先生のファンクラブも出来るかもしれません」
「あり得ないだろ。S級のジェノスやキャロルのファンクラブもないのに」
「オレのファンクラブも、キャロルのファンクラブもあります。キャロルに至っては10個以上あります」
「うるさいな。そんな情報は言わんでいい!」
ジェノスが唐突にファンクラブの話をするから、オレは不快感を顕にする。
オレのファンクラブなんて、訳の分からんもの何処に需要があるというのだ?
「マジかよ。人気者じゃん。キャロルって」
「へぇ、キャロルちゃんのファンクラブってそんなに沢山あるんだー。可愛いもんねー」
「嬉しくない……。最近、特売品もなかなか買い辛い……! いいもの食べないと大きくなれんとか、余計なお世話だ!」
オレの知名度が上がるに連れて声をかけられる頻度が上がった。買い物する時など、本当に迷惑を被っている。
キングのように強面ならそれほど声をかけられないのだろうが……。
「――先生、雑談中に失礼しますが、用事が出来ましたので、少し出てきます」
「おう! 気を付けろよ!」
そんな中、ジェノスが何か用事があるからと言って退室した。こいつも師事するヤツをもっと選べば良いのに……。
「サイタマ、インターフォン鳴ってるぞ」
「新聞の勧誘だろ。ちょっとこのステージクリアしたいから、キャロル出てくれ」
「ちっ、なんでオレが……」
サイタマに頼まれて仕方なくオレは玄関のドアを開ける。ったく、新聞の勧誘くらい自分であしらえ……。
「おいっ! B級7位のヒーロー、サイタマ! B級1位のヒーロー、地獄のフブキ様が話がある! 出てきなさい!」
「なんだ、うるさい。玄関前で怒鳴るな」
オレは迷惑顔を全面に出して、玄関前で怒鳴っている黒スーツのまつ毛の長い男を睨んだ。
こいつらの後ろにいる女は確か……。
「はじめまして、新人のサイタマ……。って、マスター・キャロルじゃない!? S級3位のヒーローがどうしてここに……!?」
「タツマキの妹か。姉に似て生意気そうな顔だな」
この生意気そうな目つきは覚えがある。確か、タツマキの妹でB級1位のヒーロー、“地獄のフブキ”……。
姉と同じく超能力者で、エスパー姉妹とか言われている……。
「貴様、フブキ様になんてことを!」
「……ん?」
体がデカイ黒スーツの男がオレに凄んできたから、オレはそいつをひと睨みする。
「やめなさい! この女は唯一、私の姉がライバル視してるようなヤツよ。ここにB級7位のヒーローのサイタマが居るでしょう? 私は彼に用事があるの」
しかし、フブキはオレに喧嘩を売るほどバカじゃないらしい。ここに来た時点で察しはついたが、どうやらサイタマを自分の派閥に勧誘しに来たようだ。
「サイタマに? 止めといた方が良いと思うが……。まぁいい。入れ……」
こいつ如きにサイタマをどうこう出来るとは思えんが、別にオレが門前払いする義理もないので、フブキを中に入れることにした。
「おい。中にはフブキだけ入るんだ。狭いからな」
「ふ、フブキ様……」
「言うことを聞くしかなさそうね」
オレは窮屈を嫌がって子分の二人には外で待つように言うと、フブキはそれに従って一人で部屋の中に入ってきた。
「サイタマ、お前に客だ」
「うわっ! すっごく、きれいな人! サイタマさんの彼女さんとかですかね」
「あり得んだろ。こいつに女なんか」
「うるせーな。キャロル。本当でも言うな、そんなこと」
オレがサイタマに女っ気などあるはずないと、口にするとイラッとした口調のサイタマがゲーム機をようやく置いてフブキを見た。
「随分、マスター・キャロルと仲が良いようね。新人のサイタマさん。私は地獄のフブキと言えばわかるかしら?」
「えっ? 全然わからん。誰?」
「くくっ……」
フブキがいかにも有名人みたいな感じで自己紹介するも、サイタマがそれをバッサリ切って落としたのでオレは少し愉快な気持ちになってしまった。
「キャロルちゃん、笑ったら悪いんじゃないかな? す、すみません。フブキさんって言うんですね。キレイな方ですけど、モデルさんとかですか? あははっ……」
「違うわよ! あなた、一般人? 地獄のフブキって知らないの?」
「ご、ごめんなさい。全然わかりません」
立花は立花で、勝手に地雷を踏みに行く。こいつも、こいつで人を怒らせるのが中々上手い。
「むっ……。仕方ないわね。私はB級1位のヒーロー。B級に昇格したヒーローは私のところに挨拶に来るのがしきたりになってるの」
「そうなの? キャロルちゃん」
「さぁ、オレはA級からスタートだったから挨拶云々はわからん。ただ、こいつの噂は知っている。B級の上位のランカーを囲って、徒党を組み、ランキングを上がってきた連中で目を付けたヤツを仲間に勧誘する。そして、邪魔な者や逆らったヤツは尽く潰している。いわゆる新人潰しのようなことをやっているとな」
B級以下の話はよく知らんが、フブキは新人潰しとして有名だ。
いろいろとヒーローで派閥を組んでいるヤツはいるが、フブキ組は特に勢力が強いと聞いたことがあった。
「マスター・キャロルの言い方は乱暴だけど、間違いじゃないわ。安心なさい。サイタマ、あなたは私の眼鏡に適ったの。私の傘下に入ることを許してあげる。そうすれば、B級の上位の席は保証してあげるわ」
フブキはやはりサイタマを自分の派閥に勧誘しに来たようだ。
さて、サイタマはどう答えるか……。オレは奴の反応を窺う。
「なんだ、俺に1位の席を取られるのが怖いのか。安心しろよ、どうせ俺はA級に上がるから。なんで、フブキはA級に上がらないの? いくら手下を作ってもB級のまんまだとつまらなくないか?」
「断るっていうの?」
「当たり前だろ? ヒーローに上下関係なんてあってたまるか」
思ったとおり、サイタマはフブキの誘いを断る。というか、こいつが誰かの下につく姿など想像もつかない。
「とか言って、マスター・キャロルが守ってくれるとか考えてるんでしょ? どうやって取り入ったか知らないけど、強いやつの後ろに隠れて吠えてるだけじゃない」
「オレがこいつを守る? バカ言うな。何でそんなことしなきなきゃならんのだ?」
「じゃあ私がこの人を痛めつけても何も文句は言わないのね」
フブキはオレがサイタマの後ろに付いているから、強気なのだろうと読んでいるようで、オレの顔色を窺ってきた。こいつを痛めつけられるなら、勝手にしろって感じだ。
「ちょっと、待ってください! フブキさん! 自分の思いどおりにならないからって暴力に訴えるのは間違ってます!」
オレはサイタマが痛い目に遭おうが構わなかったが、立花はそうはいかなかったらしい。
彼女はフブキとサイタマの間に立って、暴力は良くないとか常識的なことを主張する。
お前も結構殴りかかったりしてきたけどな……。まぁ、オレが先に手を出したことは認めるが……。
「何? あなた、守られてばかりの一般人のクセに私に意見するの? これが、私のやり方なの。そこを退きなさい」
「退きません! ランキングとかそんな事のために人を傷つけるなんて、ヒーローのやることじゃないですよ! フブキさんだって、考えれば、わかるはずです!」
「黙りなさい! 人の気持ちも知らないで! 退かないと後悔するわよ! ――地獄嵐!!」
フブキは立花の主張が気に食わないらしく、一般人でもお構い無しで超能力を使って衝撃波を繰り出そうとした。
まったく、ヒステリックなところは姉と同じか……。
しかし、オレが立花を助けるまでもないな。さすがにこの男も動いたか……。
立花の目の前にはハゲ頭のヒーローが立って衝撃波から彼女を守っていた――。
ここから、原作どおりガロウ編に突入します。
響がいい子すぎる……。
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