仮面ライダーAZ   作:否下

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これまでの「仮面ライダーAZ」!
我らが三山かいちょーは、……まぁ頼れるかはビミョーだけど、まさかまさか! 仮面ライダーに変身しちゃったんだよね!
「変身!」『ジャッジメントナイツ!』
「梓野中の仮面ライダー、AZだ!」
『フィナーレ!』「はあああぁああああぁぁっ!」
今回ばっかりは、ちょーっとだけカッコよかったかも。
以上、執行部書記の……あとで出るし、今は別にいっか!


#02 Q―AZはバイクに乗るか?

1月9日火曜日。開翔は激痛と共に目覚めた。身体の節々が痛む、とはこのことか。このところ運動不足なのもかかわっているだろうが、バスケットボールの試合を終えた次の日でもここまでの痛みはなかったはずだ。

 

歩くのもきついが、学校までは大して距離もない。歩いていくよりほかなかった。苦行である。

 

まあ、痛みのおかげで早く起きられたのは素直にうれしいが。昇降口の開錠時間より僅か2分ほど遅れた7時20分前、開翔は正門をくぐった。

 

下駄箱横の黒板には、「新生徒会をよろしくお願いします!」と美しい文字。向かって正面に立てられた板には、目移りするほど多くの掲示。その中の、力強くも華麗な墨文字で目を引くのが梓野中の月目標だ。

 

「ニューイヤー 気を引き締めて いざ進め」抽象的と言われれば抽象的な1月の目標は、開翔が冬休み中の本部会でふと思いついたものである。推敲もなしに、一発で採用されてしまった。ありえねぇ、と開翔は今でも思っている。

 

荷物を教室に放り、代わりにファイルやノートを携え、3階の生徒会室に向かう。昨日突き破ったガラスのあった場所にはベニヤ板がはめられ、ひしゃげた机や椅子も取り替えられていた。当事者である自分こそが率先してすべきことを、いぬ間にやっておいてくれた先生方には感謝しかない。自然と声が出ていた。2-1には、開翔を除けばまだ誰の荷物もない。

 

階段を上がると、踊り場に植木鉢が3個ほど置かれている。環境委員会の管轄だ。毎日、当番を設定して水をやっている。休み時間に彼らの姿を目にすることも多い。階段だけでなく、廊下の草花や、昇降口のプランターも環境委員が管理している。昨日よりも長い時間植物が視界に入り、痛む身体が何となく癒されるような心地がした。

 

美術室横のショーケースに並べられた、先輩方の美術作品。絵画展のポスターの廊下を抜けると、生徒会室がある。すでに照明がついていた。

 

ガラガラと引き戸を開けると、奥のパソコンとにらめっこをする恵輝の姿が見えた。おはよう、と声をかけると、

 

「お、カイト来たじゃん。昨日は寝坊したって聞いたけど」

 

「うるせぇ。……筋肉痛」

 

背中に疑りの気持ちを浮かべつつ、恵輝はキーボードを打つ。開翔はパソコン初心者だが、かつて父にブラインドタッチを教わったという恵輝、手慣れている。その様を横目で見ながら、雑然とプリントが積まれた机にファイルを置いた。去年の先輩が残していったプリントだ。もちろん、引き継いだファイルとUSBメモリに、生徒会運営に必要な情報はほぼ入っているので、ただのゴミ(資源)の山である。迅速に片づけねばならない。

 

不意に恵輝が叫んだ。「っしゃぁ!」開翔が後ろからモニターをのぞく。

 

「奥の方に眠ってた。……10年前のだな」恵輝の上機嫌な表情が画面に映る。見ると、ソフトで作成した、写真の貼り付けられた文書が表示されていた。

 

開翔にはわからなかったが、その写真に写っているのは紛れもなく、仮面ライダーAZ。「スゴいぞこれ。何から何まで載ってる」恵輝が興奮気味に話す。決めポーズの写真はさておき、開翔は文章に目をやった。

 

 

 

仮面ライダーAZ(エーゼット)は、梓野中学校生徒会長が変身する仮面ライダーです。今から20年ほど前に開発されたそうですが、詳しいところはよくわかりません。ですが、高勾市内のその他中学校の仮面ライダーに比べて、拡張性は高いと思います。

 

現在、確認した限りでAZのフォーム数は10。生徒会組織の改編によって、昔よりは減ってしまったらしいですがこれは前述の仮面ライダーたちの中で最多です。ドアノブ型のアイテム「聖戸総開(セイントレバー)」を挿し換えて姿を変えるのです。巧みに使いこなせれば、どれほど心強いことでしょう。

 

また、今年度生徒会では、技術科の先生の協力を得て、AZをサポートする小型ロボットも作ってもらいました。それについては、別のところに書きます。

 

では、仮面ライダーAZの能力について――

 

 

 

ここまで読んだところで、生徒会室に法政率いる男子の軍勢が入ってきた。2-1の面々。「よ、何見てんの?」規則副委員長・保土ヶ谷(りゅう)が興味を示すも、恵輝は既にウィンドウを閉じていた。「後で説明する」仕方なく流は食い下がる。

 

少し遅れて、2-2の男子と2-1の女子。総勢8人、本部の約半数だ。急に生徒会室が騒がしくなる。最後に、2-2の女子2人が入室し、人員はそろった。連絡は一応行き渡っていたようで、開翔は安堵する。

 

「空っち、ちょっと遅れるってさー。40分には来るみたい」と福祉委員長の二科笑理(えみり)

 

それを聞き、愛菜。「じゃあ、始めちゃう?」「そうするか」

 

起立、恵輝の鋭敏な声が飛んだ。咳払いをする。

 

「これから、臨時の本部会を始めます」朝の7時半。お願いしまーす、とバラバラな返事がきた。

 

寒いからと、開式の挨拶直後にもかかわらず規律委員長・井上明光(あきら)が席を立って電気ストーブをつける。周囲にある評議員会、規律委員会の前列と、会計の席だけがじんわりと暖まり始めた。

 

開翔が切り出す。「まず、神路さんの席なんですけど……」愛菜の表情が険しくなった。

 

神路逢梨紗(ありさ)。地区別生徒会副会長の女子生徒だ。だが、新生徒会役員を決めてから少し経過した昨年11月の中頃、突然行方が分からなくなってしまった。彼女の母が警察に届け出たそうだが、未だ見つかっていない。現時点で、彼女のポストは空席となっているが……。

 

「そこは空けておいてほしい。あいつが……逢梨紗が帰る場所がなくなる」立ち上がり、そう力強く弁じたのは環境委員会委員長の尾木照弥(しょうや)。「お熱いことで」と横の法政が小声でからかうが、耳に入っていないようだ。

 

「まぁ、最悪なくても回るけど……どうする?」開翔が問うが、隣の恵輝はひそひそと急かす。「それかよ。それもだけど、最重要課題はアレだ、アレ」もしや、わざと避けているのか? そう思ったりもしたが、恵輝が口に出すことはなかった。

 

悪い悪い、と開翔は苦笑いし、姿勢を正す。「じゃあ一旦この話はやめってことで。次……えっと、昨日の仮面ライダーのことなんですけど」

 

「仮面ライダー!?」そろって大声を上げたのは照弥と、文芸委員長を務める小島美花(みか)だった。即座に顔を真っ赤にする美花に、評議員会議長の亀安真彩(まや)が「どうしたミカりん?」追撃する。机に突っ伏す美花。その一方で、照弥は何事もなかったかのようにメモを取るふりだ。まだ話し合いもほぼなされていないのに。

 

「あの中庭のやつ?」

 

「そ。2-1めちゃくちゃになってるらしい」会計の納戸一視(かずみ)の質問に恵輝が答える。本部の2-1メンバーの顔色が、心なしか悪くなったような。

 

「知ってる。何か割れたみたいな音したから教室チラ見した」彼もまた、真相を少なからず知る者の一人といえそうだ。

 

開翔がオドオドしつつ続ける。「実はあれ、俺……です」一時、狭い室内はざわついた。

 

「あーーー、撮りたかったーーーー!」と絶叫するのは執行部書記の文野璃莉(りり)。写真が撮れていれば、生徒会報のネタにするつもりだったのかもしれない。もちろん開翔イジりにも使えるし。

 

じゃあ璃莉ちゃんよろしく、と言いかける恵輝を制止し、開翔は鋭い目つきで述べた。「あと、戦ってた鳥みたいな……あれは、2-1の大森です」またも、17人の生徒会室が騒然とした。

 

「おいカイト、俺も初耳なんだけど」恵輝が焦る。「ホント。オレ、その……瞬間、っていうか、見てたし。っつーか知らなかったの?」

 

「だから正くん、早退したのか」文芸副委員長の杜史乃(しの)が納得する裏で、厚生副委員長・平崎善渡(よしと)は開翔を糾弾する。

 

「何お前、大森ボコってたのかよ」

 

「しょうがないだろ。教室で色々あったんだよ」

 

「そりゃダメでしょ」とさしあたり賛同する、評議員会副議長は垣内柔雅(にゅうが)だ。「垣内」は「かいとう」と読む。

 

議論と果たして呼んでいいのか、非難の応酬が始まりそうである。その中で机を叩いたのは、法政であった。

 

「一旦落ち着こう。カイト、結局何が言いたいんだ?」

 

「あぁ。今言ったこと、全校に言うべきかどうか……」そこかよ、と突っ込む恵輝。

 

昨日の光景を思い返せば、仮面ライダーと怪人の存在はほとんどの生徒にばれている。倒した後に、開翔が正を抱えて去っていったことを知らぬものが多いのは驚いたが。そして、開翔が変身していることは、今ここにいる面々を除けば、3人しか知らない。

 

まず意見したのは流だ。「いずれバレるだろうし、今言わなくてもよくないか?」

 

「でも、言った方がいいでしょ。全校のみんな不安だろうし」即座に真彩が反論する。

 

一視は、「いや、今言ったら、かえって不安あおるだけじゃない?」との主張。「梓中(あずちゅう)の生徒が怪人になりました、なんてさ。何が何だかわからないのに明かすのはちょっと」

 

「こーゆーときは、多数決!」ハイテンション気味な璃莉の鶴の一声に、室内が静まり返ったその瞬間。

 

空知が遅れて登場した。「お待たせ。中庭の片づけ終わらなくって」

 

その場にいる誰もが、空知に助けを求めた。これまで一言も発していない福祉副委員長・君津冬天(とうあ)でさえ。そして誰もが、自分が伝えたいことこそ総意と思い、遠慮していた。

 

暫し続いた静寂を打ち破ったのは、やはりこの男。「先生、中庭の片づけって……」

 

「ガラスが飛び散っててね。あと昇降口のところにも何か刺さってた。()()()。開翔君、昨日までの原稿見せて。ノートちょうだい」開翔、すっかり忘れていた。大慌てで立とうとするが、筋肉痛のせいで立ち方すらぎこちなくなる。

 

教室全体を見回した空知。「――で、今は何の話?」

 

「昨日のことについて、です」愛菜が報告した。「ちょっと行き詰まっちゃってるんですけど……」

 

「仮面ライダーが開翔君なのは知ってるけど、他はまだ調べてる途中でね……ほら、2-1もあんなになっちゃったし。あれはどうして?」

 

これまで開翔が話した内容を、簡単に恵輝が説明する。「――って感じです」

 

「なるほど……つまり、開翔君が使う道具に似たのを大森君が持ってて、あの鳥みたいな怪物に変わっちゃったのか」空知香里、2-2の担任である。

 

少しばかり考えていたが、「一応だけど、色々はっきりするまで発表するのは待って。やっぱり学校で起きたことだから、先生たちがまずは動かないとね。生徒総会でも間に合わないことないし」とまとめた。

 

今週末の放送で発表できればいいけどね、と言い残し、空知は着信を受けて退室してしまった。

 

「先生たちがやってくれるってこと?」

 

「多分。でも、俺らでもできる範囲でやろう」笑理の疑問を利用し、恵輝がきれいに総括した。

 

「それにしても、大森が何であんなもの持ってたんだろうな」法政の素朴な疑問は、皆が抱いていたもの。「誰かにもらったんかな。そういうの、よくあるだろ」

 

誰かって……美花が半ば呆れたように呟くが、お構いなしに語り続ける法政。「あの鳥みたいなの……って、いちいちメンドいな――」

 

「スコーラ」

 

突然、照弥が一言放った。「ラテン語で学校だ。怪人の名前。雰囲気も出るだろう」目つきと言葉が強すぎるあまり、誰も反論できなかった。

 

「じゃあ、その、スコーラ、だっけ? 何で正がそうなったんだ? やっぱ誰かにそのアイテムもらったんじゃね?」

 

「……それも調べてたんだよ、ここで」恵輝が口を開いた。「コピー機の横のパソコンに、ライダーの資料があった」

 

すっくと立ち上がるとマウスを動かし、スクリーンセーバーを解除。デスクトップのアイコンをクリックすると、AZの写真がついた資料が現れた。だが角度的に、室内の半数には全く見えない。

 

画面をスクロールして軽く読むと、恵輝は席へと戻った。

 

「見た感じ、割といろいろ載ってそう。他のパソコンにもあるかもしれないからあとで探しとく」生徒会室には、中古のパソコンが計4台ある。

 

「でも、それは俺らの仕事ってことで。委員会ごと、やらなきゃいけないことをきちんとやろう。生徒総会とか3送会まではだいぶあるから、俺らが一番暇だし」

 

じゃあ解散、と開翔の一声。それぞれがパソコンに我先にと向かい、先月引き継いだUSBメモリを差し込んで作業を始めた。規則委員会は既に仕事を終えていたため、教室の中をぶらついている。後れを取った法政は、仕方なく開翔らの方に向かう。

 

遠慮がちに話しかけた。「パソコンが埋まってしまった……入れてくれ」

 

「じゃ早速」開翔が会長らしく指示を飛ばす。「さっき恵輝が見せたヤツに『サポートするロボット』とか書いてあったと思うんだけど。ここのどこかにあるかもしれない、とか思って」

 

よしきた、と暇を持て余していた法政。教室奥の棚目がけて一直線、段ボール箱の山から何から漁り始めた。開翔の筋肉痛を察したか、普段と違って開翔を無理に引きずっていかない。

 

「で、だ。教室のどうこうって、お前がぶっ壊したの?」

 

「……多少はね。正攻法じゃドアが開かなかったんだよ」

 

鍵がついていないはずの教室のドアが締め切られるという怪現象を、今ここで話しても信じてもらえないことは明らかだった。

 

「ふーん。とりあえず、またああいう事があったら、の話だけど。教室の外で戦ってくれ」やっぱりだ。

 

「ないのが一番だけどね……」心配そうに愛菜がぼそり。

 

でも、一応話しておいた方がいいだろうか。開翔が迷っていると、法政が叫ぶ。

 

彼は、ガムテープでところどころ補強がなされた段ボールを机にドン、と置いた。プリントの束が下敷きになり、段ボールは不安定になる。

 

中には黄緑色の受話器や、鮮やかに色分けされたカメラ、乳白色の電卓などが乱雑に詰め込まれていた。試しに受話器をひとつ拾い上げた開翔は、「……何でこれだけ?」

 

「あった」恵輝はすでに動いていた。「同じフォルダの中。『アニマハンドル』だって」半ば強引にパソコンを譲らされた照弥だったが、不平不満は何一つとして言わない。机上の不思議なアイテムを眺めている。

 

文書の形で残された情報と、今現在目の前にある現物とを交互に見ながら恵輝が説明する。

 

まず、たくさんある受話器みたいなやつが「テレホン応歌L」。

 

そこのカメラっぽいのが「スクープ翔機G」。

 

あと、そこの電卓型のやつが「バリュー大蔵K」。

 

まだ文書にはいくつかのアニマハンドルが乗っていたが、ここで恵輝は説明をやめた。「……何、このダジャレみたいなネーミング」

 

一通り理解した愛菜が訊く。「テレホンってことは、これ同士でつなげられる感じなのかな?」

 

「そうみたい。個人を認識させれば、○○に、って喋るとかけられるらしい」

 

じろじろと受話器を見回していた開翔は、背のレバーに気付いた。「ん……?」昨日の変身の記憶から、無意識に回す。

 

「ぅおっ!?」受話器は開翔の手をはねのけ、カエルの姿に変形して机上を跳ね回った。愛菜の叫び声がこだまする。その場の誰もが、雑然とした机に視線を集中させる。

 

応歌L、とでも呼べばいいのだろうか、そのカエルは、驚きを隠せない開翔の顔を見つめ、そのサイズからは想像もつかないようなジャンプ力で、開翔の右肩に飛び乗った。「個人認識だ……」恵輝がうつろに独言する。右肩でケロケロと鳴く応歌L。「何これ!?」流が興味津々に寄ってくる。

 

「多分、どこかに似たようなレバーがあるはず。回せば認証完了、って感じっぽい」と、恵輝も受話器をひとつ手に取るとハンドルを回した。こちらの応歌Lは学生服の胸ポケットに入り込もうとするも、生徒手帳に阻まれ、渋々胴のポケットに収まった。こんなに小さな機械にも、人格もといカエル格があるのか。興味をそそられる開翔。

 

「じゃあ、このカメラもらうよー!」と璃莉。ハンドルのせいで、だいぶ写真が撮りにくそうな形状だ。カメラの背面についたハンドルを回すと、上下から翼が、左右から頭と尾羽がそれぞれ現れ、カメラを胴体とした鳥が完成した。カメラの向きは縦。名前からして、キジをモチーフにしているのだろう。璃々の周りを延々と飛び回る姿に、つい「かわいいぃ~……」と惚けた声でこぼす璃莉。

 

「よし、委員長集まって!」開翔が大声で呼びかけた。皆、これから何が行われるかはうすうす感づいている様子。

 

委員長一人一人に、テレホン応歌Lをひとつずつ渡していく。会計にも。「学校の中で何かあった時は、これで連絡とろう」俺にもくれよ、とぼやく流。

 

それぞれにハンドルを回し、個別認証を完了させていく。渡された皆が変化に驚く中、照弥はにやりと笑った。総勢11体の応歌Lが跳梁跋扈する机を前に、またも愛菜が絶叫した。

 

 

 

本部会を終えて教室に帰る開翔だったが、やはり筋肉痛に苦しめられている。さっきよりは慣れたような気もするが、さほど変わらないか。

 

教室に入ると、「三山ー!」と大声が彼を迎えた。上士が駆け寄ってくる。

 

「結局10話まで見ちゃったよ。眠い」

 

「何のことだよ……つーか上士に話しかけられるとかレアだな」

 

何のこと? そんなこともわからないのか、といった勝ち誇った表情で開翔の前に立つ上士。明らかに興奮している。

 

世音(ゼノン)だよ、仮面ライダー世音! 観てないのか?」まくしたてる口調に押しつぶされそうになる。そもそもお前も昨日まで見てなかっただろ、などとは言えない。

 

「やっぱテンション上がるねー、ライダーは。久々に観たけど超面白かった」言い終わると彼は、開翔の耳元にぐぐっと接近した。「2時休、トイレ来て」小声で吐く。お、おう……と答えるのが精いっぱいだった。感情の上下が激しすぎるのだ。しかも、2時休――2時間目終了後の休み時間――は生徒会室に来るようにと、恵輝にも呼ばれている。どうするのが最適解か、分かりかねる開翔であった。

 

 

 

何も考えないままに過ごしていると、1日はあっという間に過ぎ去ってゆくもの。気づけば6時間目が終わり、清掃を経て帰りの学活が流れるように過ぎていった。

 

梓野中学校には、全部で7つの部活動がある。全校生徒のほとんどが思い思いの部活に入り、仲間たちとの活動を楽しんでいる。唯一の欠点といえば、全校生徒の少なさゆえ、これまでに多くの部が廃部になり、生徒の選択肢が他方より少ないことだろうか。

 

男子バスケットボール部所属の開翔。筋肉痛には多少順応したものの、今日のところは一応休むことにした。このところ男子バスケットボール部では、部活動としての時間を減らす代わりに、外部コーチに委託した社会体育活動という形をとることが増えてきた。今日もそうした社会体育、所謂「社体」である。部員たちはいったん帰宅し、再び梓野中の体育館までやってきて練習をするのだ。

 

「カイト、休むこと言ったのか?」

 

「授業の時に済ませた」男子バスケットボール部顧問は、社会科担当の小杉である。今日の2時間目に授業があったので、そこで話をつけた。その時点では、筋肉痛もかなりきつかったが、今では慣れが来たこともあって、軽めになら運動してもよさそうなほどだ。

 

「ところでさ恵輝、上士が変身させろって迫ってくんだけど。何かその、バレちゃってさ」

 

2階の通称「いこいの広場」で練習に励む陸上競技部員たちを過ぎ、階段を下りるさなか、恵輝が声を荒らげた。「おい! マジかよ」

 

「たぶん心配いらん。あいつ、ああ見えて口堅いから」

 

恵輝の承服しかねる表情を見る。果たして自分は本当に信用されているのだろうか……? 疑問を抱いたその時。

 

カエルの鳴き声がした。学生服のポケットからだ。

 

「え、何これ」開翔が困惑する。「カイト、電話。出て」

 

訳が分からないまま、ポケットからテレホン応歌Lを取り出し、「もしもし?」電話に出る。

 

電話口の向こうには、切迫した声色の璃莉がいた。

 

「カイト? あのっ、後輩がね、あの、どわぁーってなって、その」

 

『……何かあった? 落ち着いて』

 

「そうっ! す、スコ……スコーラ! そうそれ! 暴れててっ……」

 

璃莉が電話越しに聞く驚愕の声。こちらでは、女子バスケットボール部員が変貌した怪人が、顧問の数学科教師・雨宮に襲い掛かっていた。体育館中が悲鳴に包まれる。

 

力なく逃げ回る雨宮を心なき眼で睨むと、社会体育玄関へと続く廊下に、怪人は頑健な扉を押し破って進み出た。

 

「おい、カイト!」

 

「荷物持ってて。ベルト取ってくる」いてて……と襲い来る痛みに悶えつつも、今来た階段を出せる限りの早さで駆け上がる。「三山先輩、ウチらと同じことしてんじゃん」陸上部所属の1年生女子が、走り行く開翔の姿を見てくすくすと笑っていた。

 

 

 

『えっと、出てっちゃった……!』

 

「マジか! ……ありがとう。とりあえず切るわ」

 

『一応、スクープ翔機G(キジちゃん)に追っかけてもらってるから!』

 

電話が切れたその瞬間、社会体育玄関の半自動ドアを破砕し、スコーラが恵輝を含め、下校する生徒10名弱の前に現れた。そこそこの広さがある昇降口前は、上を下への大騒ぎだ。逃げるように帰路に就く者、校内へ逃げ戻る者。ロータリー手前には、子供を迎えに来ていた軽自動車。今まさに、校門を出ていこうとしているところだ。

 

そのスコーラの姿は、昨日現れたものとは大きく異なっていた。

 

足の横に付いた小さな車輪が音を立てて回り、直立した姿勢のまま、スコーラは校門へ一直線。軽自動車の左後ろに激突した。大きくバランスを崩し、横転するスコーラ。大きく凹んだ軽自動車が、アクセルを精一杯ふかして去っていくのと時を同じくして、昇降口に息を切らした開翔が到着した。

 

「何だよあれ……」

 

戦うしかない。ベルトを学生服の上から、腰に巻き付ける。

 

『J/H/Sドライバー!』

 

変身せぬうちに、倒れていたスコーラが起き上がろうとする。足元のタイヤに邪魔されてなかなか起き上がれそうにないが。

 

「逃げられる……カイト!」

 

「分かってる」『評議員会!』

 

校歌のフレーズがベルトから鳴り響く。AZは梓野中の象徴的存在としてつくられたことが伺える。右手を突き出し、手のひら側を上へ。

 

「変身!」

 

『ジャッジメントナイツ!』チャイムに挟まれたフォーム名が、力に溺れた生徒を一喝した。

 

スコーラが唸る。左腰に生えたレバーが開翔にはっきりと見えた。

 

昇降口の階段の上から仮面ライダーに見据えられたスコーラは、腰の部分をかくっと直角に折り曲げると、胸に縦に突き刺さったタイヤを回して起き上がった。明らかに、人間の肉体では不可能な業だ。

 

起きるや否や、スコーラは正門を出て右折、坂を高速で駆け下っていった。開翔は走り出たものの及ばず。

 

おろおろする開翔だが、何か思い出したように、社会体育玄関横の駐輪場へと駆けた。

 

「これか……!」開翔の目線の先には、さび付いた屋根の下に孤独に停められた1台の自転車があった。

 

 

 

「いってて……で、何のこと? 恵輝」

 

遡ること数時間、2時間目休み中のできごと。トイレで、またも上士に迫られた開翔は辛くも抜け出し、生徒会室に急行した。

 

開翔が生徒会室の扉を開くと、そこには恵輝だけがいる。コピー機横のパソコン。その画面に映し出されていたのは、駐輪場に以前から置かれていた自転車の写真だった。

 

「カイト。これ、見て」

 

「ん? あぁ、あそこの痛い自転車?」

 

時折、用事があるときに駐輪場の前を通ると、常に置かれている自転車が気にかかっていた。どう見ても、荒れていたので有名な数年前の卒業生たちが置いていった改造自転車。開翔は、なぜ処分しないのかと、常々疑問に思っていた。

 

「もともとライダーってのは、バイクとかに乗る人のことなんだっけ? まぁ今は仮面ライダーのイメージが強すぎるけど。ライダーにはバイクがつきもの、ってことで」恵輝が画面をスクロールした。

 

サイクル鳴地Q。

 

「これが、AZのバイクだってさ」

 

「え? ちょ待って待って待って、理解が追いつかん」

 

確かに、自転車は英語で「bike」だと学んだが。仮面ライダーはバイクに乗るものだが。

 

あの改造自転車が、AZのバイク? 何となくダサい気もする。

 

「理解するな、感じろ」恵輝、そう言われても困る。

 

「待ってくれ……こういうネーミングってことは」

 

 

 

――大急ぎで、駐輪場から引っ張り出す。変身した姿でまたがるのも気が引けたが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

開翔がサドルに腰を下ろすと、前面に付いた2つのライトがこうこうと輝いた。勝手に車輪が回転し、バランスを崩した開翔を乗せて強引に昇降口前を横切る。AZは会長が変身するもの、と決まっているのか、座っただけで個別認識が済んだようだ。

 

「うおぉおぉぉぉっ!? 電動!? ちょ、ちょおおぉぉぉぉい! 待てってぇぇぇぇぇぇ」眼前を絶叫しながら猛スピードで去ってゆく開翔を、恵輝は表情一つ変えず眺めていた。

 

自転車は直進し、校庭へ進む階段を転げ落ちるように疾走した。危ないといったらない。右へと曲がり、校庭を斜めに突っ切る最短ルート。

 

驚異の加速と圧倒的なGが開翔の身を襲うが、ライダースーツのおかげで負担はあまり感じない。振り落とされぬよう、必死でハンドルにしがみつく。校庭を砂塵が舞う。

 

校庭横の林道に合流すると、手造り感溢れる丸太製の階段をまたも凄まじい速度で駆け下りた。跳ねる車体、開翔が突き上げる衝撃を受ける。

 

林道の出口、そこは梓野中の裏門だ。開翔は正門側に住んでいるため、こちらを通るのはかなり珍しい。

 

せいぜい、この先にある老人ホーム「たかぎの郷」へボランティアに行く時ぐらいだろうか。

 

まっすぐ行った先の橋で、自転車は大きくカーブして止まった。独りでに車止めが動く。遠心力で飛ばされ、橋の上に転がる開翔。

 

「ってぇ……!」

 

開翔の視界に、体を折り曲げ、3つのタイヤで爆走するスコーラの姿が映る。さっきまでの自分に比べれば速くないが、法定速度を遵守した車くらいか。

 

あの見てくれ、車いすに似ている。ジャッジメントナイツの頭部装甲がもたらした判断力が下した結論だ。

 

ならば。停車した自転車のもとに走り、ハンドル部に見えるレバーを確実に回す。

 

自転車、いやサイクル鳴地Qは、タイヤが分かれ、サドルが広がり、ペダルが回り、変形してゆく。周囲の土を、石を巻き上げ、体に寄せ集めながら。

 

「おぉ……」サイクル鳴地Q。その姿は、屈強な筋肉を携えたサイに変容した。天を裂くほどの大声で吼える。

 

今来た道を戻り、鳴地Qはスコーラと正面衝突した。当然、軽いスコーラが吹き飛ばされる。「おぉっ! 凄いな……じゃあ」ホルダーから取り出したレバーは『規則!』。

 

『レギュラリーナイツ!』回り回るロッカーが虚空に失せると、数歩走り出た開翔は右拳を突き、袖から鎖を放出。直進した鎖が、鳴地Qの脇を逃げんとしていたスコーラの胴を貫くタイヤを捕らえ、急速に引き付けた。大きくバランスを崩し、鎖に引きずられるままスコーラは開翔の前に引き出された。帰ってきたサイクル鳴地Qが開翔の後ろに回り、前方へ逃げ出すことはもはや不能。

 

窮したスコーラは、車輪の加速の勢いに任せて開翔を殴りつける。腕から直接生えたトンファーの強烈な打撃だが、鎖を格納した堅牢な袖がそれを受け付けない。レギュラリーナイツは一撃の威力こそジャッジメントナイツに劣るものの、毛羽立った布のスコーラには大差のないことだ。

 

不意に、足元の車輪を空転させてスコーラがつんのめった。「よし!」今だとばかりに、力の所属を示す胸のシンボルに手をかざす。

 

『セイントカリバー!』シンボルの延長線上に、校舎と同じ乳白色の大剣が出現した。

 

両手でがっちりと柄を握り、再度起き上がったスコーラのボディを勢いよく切りつける。重いひと振りがスコーラを襲った。

 

「はっ! とりゃぁっ!」剣はかなり重いはずだが、さすがはライダーアーマー。負担がかなり軽減され、中学生でも力を込めれば振るえるほどだ。立て続けに斬撃を決めていく。高欄まで追い詰められたスコーラは、とどめの一振りを受けて大きく横に吹き飛び、横転した。

 

決める。剣を地面につき、ベルトからセイントレバーを取り外すと、セイントカリバーの凹みに立て、奥に倒した。

 

『レギュラリー・スラッシュ!』「はぁぁっ!」寸分の狂いもなく一直線な一撃が、スコーラの身体を真一文字に切り裂いた。『サクシード!』英語で成功を意味する台詞を背に、スコーラは爆散したのである。

 

変身が解除されると同時に剣は霧散した。剣を振る勢い余って後ろを向いた開翔は即座に向き直ると、怪異に蝕まれていたであろう女子生徒を抱き起こす。恥ずかしながら、名前と顔が一致しなかった。法政に言ったら、ふざけ交じりに会長の資質を問われるに違いない。また、自分たちが道路のど真ん中にいたことに気付き、慌てて歩道に戻る。交通量の少ない地区で本当に助かった。この騒ぎはばれていないようだし。

 

目線の先に、恵輝と璃莉が走ってくるのが見えた。その脇を、何やら小さいものが飛んでいる。恵輝がわざわざ鞄を抱えてきてくれているようだ。

 

「さらちゃん!」璃莉が叫び、彼女の肩をゆすった。昏倒していた彼女は気がつき、惑う。

 

「あれ、先輩……私、なんでこんなとこに……? ゎわっ、何ですか先輩、急に飛び付いてきて」

 

とりあえず、学校に戻ろう。今この場にいる誰も、家がこちら方向にないのだ。

 

 

 

近くの林に、自転車の姿に戻ったサイクル鳴地Qが転がっていた。道路に石や土をまき散らさない、まさしく乗り物の鑑である。責任を持って、学校までは開翔が押すことになった。

 

「――先輩。私、雨宮先生に謝らないと」橋を渡り終えたころ、さら、と呼ばれた1年生が静かに言う。

 

璃莉の顔に、彼女らしい笑顔がようやく戻った。「……うんっ! まず保健室行ってからかな?」つられて、開翔までも自然と笑顔がこぼれる。

 

「お疲れ。……お前ホントに筋肉痛なのか? ほい、カバン」

 

「ありがとう。まあ、割と慣れた」

 

裏門に着くと、男2人と女2人で別れる。整備されていない裏門の道は、自転車を押して進むには向いていない。加えて、同じ部の先輩・後輩同士、2人きりで話したいこともあるのだそうだ。

 

ここまでの道の延長をそのまま歩いていく2人の男子生徒。

 

「カイト。何かが校庭突っ走ってったって、空知先生が言っててさ。開翔君ですって言っといた」

 

「マジかよ……めんどいことにならなきゃいいけど」

 

「まあ大丈夫だろ、いきさつから話しといた。そうだ、空知先生はカイトを呼ぼうと思ってたらしいぞ。居残り届出してないからもう帰らなきゃだし、一応聞いといた。今週末のライダーマッチのことだってさ」

 

ライダーマッチ。その言葉を開翔が聞くのは、引き継ぎ会以来であった。




・ライト・スコーラ(#01)
2年1組の男子生徒・大森 正が、「正しさ」を記録したアクトレバーを使用して変貌したスコーラ。
全身が羽毛に覆われた、オウムのような鳥に似た姿をしており、右腕のみが翼に変化している。鳥の足に酷似した左腕に生えた鋭い爪「イグザクロー」による引っ掻きが主な攻撃方法。
・テレホン応歌L
(ハンドルモード)全長:15㎝
(アニマルモード)体高:9㎝
アニマハンドル№02。電話機の子機を模したアニマハンドル。本体背部のハンドルを180°回転させることで、アマガエルをイメージしたアニマルモードに変形する。
発信先を口頭で伝え、応歌Lを所持している者同士の通話を可能とする。アニマルモードは6mのジャンプ力を持ち、人間一人では届かない高所に入り込み、印鑑等の小物を回収することもできる。
・スクープ翔機G
(ハンドルモード)全幅:12㎝
(アニマルモード)全長:21㎝ 翼長:11㎝
アニマハンドル№03。デジタルカメラを模したアニマハンドル。本体モニター横のハンドルを180°回転させることで、キジをイメージしたアニマルモードに変形する。
撮影者の意思を認識し、複数の被写体に正確にピントを合わせる。アニマルモードは自律思考に基づいて飛行、撮影を行い、生徒会室のパソコンに自動で撮影データを転送する。
・サイクル鳴地Q
(ハンドルモード)全長:174㎝ 最高速度:150㎞/h
(アニマルモード)体長:2.5m
アニマハンドル№06。自転車を模した大型のアニマハンドル。本体ハンドルバー中央のハンドルを180°回転させることで、サイをイメージしたアニマルモードに変形する。この時、周囲の土砂や岩石を巻き上げて吸着、サイの肉体を構成するため、本体そのものは骨組みに変形している。
搭乗と同時に索敵機能が起動し、自律思考に基づいて電動走行する。アニマルモードはその重量を活かした突進攻撃や、硬い体組織による防御などをこなし、AZをサポートする。また、アニマルモードにおいても騎乗が可能である。
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