fortune tale   作:瑠川Abel

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技術開発局

 

 

 

 値踏みするような守護者たちの視線から逃げるように彰とヨシノは食堂を後にした。

 シオンはなおも食事を続けている。そろそろ食器の山が三十を超えようとしていたが、まだ食べるのだろう。注文する手が止まる様子は一切なかった。

 

「技術開発部は一層にあるわ。エレベーターで向かいましょう」

 

 任務に出る前、受付でも『技術開発部でカムイを受け取ってください』と言われていた。その後すぐに任務が入ったことによって忘れてしまっていたが、彰が自分の身を守るためにもカムイは必要である――とヨシノはエレベーターを操作しながらそんなことを説明していた。

 多くを語ってはくれないが、カムイとは守護者たちの扱う武器と彰はイメージしている。ヨシノが使う銃と剣がまさにそれなのだろう。

 だとすれば、自分はどんなカムイが貰えるのか。

 

「俺はどんなカムイが貰えるんだ? やっぱり王道の剣とかなのか?」

「カムイは使用する人それぞれに調整されるわ。適正がある武器を用意してもらえるわ」

「え、じゃあヨシノは銃も剣も使えるってことだよな。……凄いよな、それって」

 

 ヨシノの戦闘を二度も見てきたが、流れるように自然で美しい戦いだった。銃による中・近距離戦と剣を用いての接近戦は相対したこともあるからこそイメージとして焼き付いている。

 だがそこでヨシノは複雑そうな表情をする。ふい、と珍しく不機嫌そうに顔を逸らした。

 

「あの剣は借りているだけよ。使いづらくて仕方がないわ」

「え」

「私が本当にやりたい戦闘はシステム構築が複雑で開発も手を焼いてるのよ。それで任務に間に合わないから、その場しのぎで用意してもらったのがこの剣なのよ」

 

 ぶん、とヨシノが何処からともなく剣を取り出し軽く振り回して見せた。あまりにも熟れた様子だが、ヨシノ本人が言うには剣の戦いは性に合ってない、というのだ。

 ヨシノの剣戟は見事なモノだった。バグの首を切り落とした時も、違和感もなにも抱かせないほどに完成された動きのように感じていた。

 

「……じゃあ、もしヨシノのカムイが完成してたら」

「そうね。あなたと会話する前にあなたを殺してたわね」

「えぇぇぇぇ」

 

 ある意味では技術開発部の人が彰の命を救った形であったことを知ってしまった彰である。

 

「あれが完成すれば、もっと上の任務も依頼されるわ。そうすれば……」

「そうすれば?」

「っ……。なんでもないわ」

「お、おう?」

 

 珍しくヨシノの歯切れが悪い。あんまり突っ込むのも野暮だと判断した彰はすぐに口を噤み、それ以上の詮索はしないことにした。それが功を奏したのか、先を歩き出したヨシノが彰に問いかけるように口を開く。

 

「……身体に異常はないのよね?」

「ん、ああ。まったく問題ない」

「バグ化も治まってるのね」

「シオンの診断通りなら、そうだな」

「……よかったわ」

 

 不意を突かれるように言われた言葉に、思わず彰は「へ?」と返してしまう。

 「よかったわ」と言われると言うことは、ヨシノは彰を殺したくない――失いたくないと思っている、ということだ。

 それは彰にとって前進以上のなにものでもない。まだこなした任務も一つだけだが、ヨシノが少しでも彰を認めてくれているのだ。

 いや、ヨシノは最初から彰を認めてくれている――名前で呼んでくれている。それはわかっているのだが、改めてヨシノの口から聞かされると嬉しくて仕方ない。

 

「ヨシノ、俺も頑張るから!」

「なにいきなり元気になってるのかしら」

「いやだって、なあ!?」

「同意を求められても困るわ」

「急に冷静にならないでくれぇ!」

 

 すかさずヨシノにアピールを送った彰だが、ヨシノはいつも通りの表情に戻ってしまっていた。タイミングを失ってしまった彰だが、それで諦めるわけではない。

 そんなやり取りを続けている内に目的の部屋に到着した。外からの造りはシオンの医務室となんら変わらない無機質な扉があるだけだ。

 扉の上のプレートには確かに『技術開発部』と書かれている。目的地であることは確かなようだ。

 

「……気を付けた方が良いわ。ここの部長は変人だから」

「え」

「まあ、あなたとは気が合うと思うけど」

 

 会う前からそんなことを言われても安心出来るわけがない。少しの躊躇いを見せる彰であったが、ヨシノはそんなこと関係ないとばかりに扉を開けてしまう。

 

「おやおや四宮ではないか。オレへの愛しさが極まって会いに来てくれたのか?」

 

 部屋の中心に経っていたのは白衣を着た眼鏡の女性、だった。

 いや、果たして彼女は女性なのか。中性的な容姿と男性が好んで使う一人称はどちらかというと見目麗しい男性を彷彿とさせる。

 

「有り得ない事を前提とするのはあなたらしくないわね」

「うむ、さすが四宮。オレのことをキチンと理解しているではないか」

 

 にか、と笑う中性的な人物との会話を聞いていても、彰はどうすればいいのかわからず困惑してしまう。そこにヨシノはすぐに助け船を出す。

 

「セリスティア・マクスウェルよ。性別不祥の不審人物だから気にしないでいいわ」

「え? あ、ああ……」

「む、新人か?」

 

 彰の存在に気付いたセリスティアがじろじろと彰の全身をなめるように観察する。琥珀色の双眸が隅々まで巡り、ふむふむとセリスティアは興味なさげに頷いた。

 

「凡夫だな。魔力も平均値以下、身体能力も平均値。身体的特徴があるわけでもない。どうして守護者になったか理解に苦しむな?」

「そうね、才能があるかないかと問われたら無いわ。熱意だけで突っ走るわよ」

「なんだこれ」

 

 セリスティアの言葉にヨシノは同意し、意図せずに晒しあげられる形となってしまった彰は突っ込まずにはいられない。

 だが予想とは裏腹にセリスティアはぐいぐいと彰に詰め寄る。男性かも女性かもわからないセレスティアだが、女性にも見えてしまうのだから必要以上にドギマギしてしまう。

 

「熱意! ほう熱意! 良いではないか。守護者として一番大事なモノを持っているではないか!」

「あ、ああ……どうも?」

「熱意はいい。信念はいい。強い心を持つことこそが、カムイを握るに相応しい資格となる! なあ四宮!?」

「私に振らないで欲しいわ。暑苦しいもの」

 

 そんなヨシノの態度など知ったことかとばかりにセリスティアはにやにやと不敵な笑みを浮かべ、壁に掛けられていたシーツを引きずり下ろす。

 

「ならばアキラよ選ぶがいい! 貴様も男子ならばこういうのが好きだろう!」

 

 壁に吊り下げられていたのは、大小様々な刀剣だった。そのどれもが機械的なフォルムであり、彰の見知った日本刀や片手剣とは趣が異なるものである。

 だが彰も思春期の男子である。特にメカは大好きだった。

 

「うおお……っ! かっこいい……!」

「そうだろうそうだろう。そしてこれは『採算度外視のオーバースペックの試作機』!」

「男の子が好きな奴……!」

「やはりお前は趣味がいいな!」

「ああ!」

 

 がっしりと熱い握手を交わす彰とセレスティア。一方のヨシノは「理解に苦しむわ」と冷めた目をしている。

 ニカっと笑うセレスティアは壁の剣を一つ手に取ると、彰に手渡す。

 受け取った剣は彰の想像以上に軽く、まるで木の枝でも持ち上げたような感覚だ。

 

「お、意外と軽いんだな」

「守護者が使用するカムイはまず第一に守護者の肉体を守るためにある。武器が重くて動けないなどは言語道断だ」

 

 微笑みつつもセレスティアは真面目な表情で開発のコンセプトを嬉々として語る。

 そこには開発をする上で欠かせない思い――世界を守るために奮闘する守護者を思う気持ちが確かに込められていた。

 

「……これ、俺がもらっていいのか?」

「構わんよ。どっちみち守護者にはとりあえず試作武器を渡してデータを集め、そこからフラッシュアップし専用機を造っていくからな」

「何それカッコイイ」

「専用機はロマンだからなっ!」

「わかる」

「わからないわ」

 

 流れについていけないヨシノは何度目かもわからないため息を吐いた。彰は申し訳なさを感じつつも、セレスティアとの会話に興じるのであった。

 

「水を差すなぁ四宮ぁ……!」

 

 寂しげなセレスティアの慟哭が、開発室に寂しく木霊するのであった。

 

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