fortune tale   作:瑠川Abel

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いざ、特訓

 

 

 

「ひっろい……」

「第一層のほとんどは守護者たちの訓練施設となっているわ。自由に使っていいから、好きな時に来るといいわ」

 

 カムイを受け取った彰はヨシノの案内で第一層にある訓練場に赴いていた。

 せっかく武器を手に入れたのだから、馴染ませた方がいいとセレスティアが言い出したのだ。

 ヨシノもその意見には概ね同意し、こうして二人で訓練場へ来た。

 結局のところ、一緒の任務を受ける以上は彰に自衛をしてもらいたいのだろう。

 彰が自衛出来るようになれば、それだけヨシノはバグを討つことだけに集中出来る。

 それはそのまま任務の成功率を上げると同時に、彰の生存率を上げることに繋がる。

 足手纏いになりたくない思いもあるからこそ、彰は訓練の提案に同意した。

 

「これも魔法……なんだよな?」

 

 訓練場は、シオンの医務室やセレスティアの開発室とはまったく違う光景だった。

 扉の先には荒野が広がっていた。吹き荒む風と褐色の大地が彰とヨシノを迎え入れる。

 およそ室内とは思えない世界。呆けてしまう彰だが、ヨシノはしっかりと説明をしてくれる。

 

「そうよ。魔法によって空間を拡張しているわ」

「空間魔法、って奴か」

「ええ。理解が早くて助かるわ」

 

 そもそも彰も創作物とはいえ『魔法』という言葉で連想できる下地がある。だからからか、ヨシノの説明も言葉通りの意味で理解出来ている。

 それはヨシノにとっても嬉しい誤算なのだろう。ひとしきり頷くと、ヨシノはミラーズの操作を始める。

 

「この訓練場もミラーズのアプリで連携しているわ。設定を弄れば好きな戦闘シミュレーションで訓練できるわ」

「空を飛んだり!?」

「普通の人間は空を飛べないわ」

「……そういう魔法とかカムイはないのか?」

「あるけど、空を飛ぶこと自体にも適正があるわ。適性検査をクリアして、セレスティアが許可を出せば造れるけどオススメしないわ」

「どうしてだ?」

 

 どうしてだかヨシノは空を飛ぶことに忌避感を抱いている。彰はただ純粋に空を飛べた方が便利ではないのか、と考えただけなのだが――どうやらヨシノは、それ以上の考えがあるようだ。

 

「空は人の世界じゃないわ。人はいつか、翼を失い墜落するわ」

「……よくわからん!」

「わからないなら理解しなくていいわ。……私個人の意見だもの」

 

 そう言ったヨシノの横顔はとても寂しそうで――けれど彰にしてみれば、そんな表情も思いがこみ上げてくるほどだった。

 

「……綺麗だなぁ」

「どうかしたの?」

「いや、ヨシノのどんな表情も好きだなーって思ったのが口から飛び出た」

 

 思わず出た言葉だがヨシノは照れもせず驚きもしなかった。呆れたりされなかったのは彰にとっても救いではあるが、あまりにも無感情なのも寂しいものである。

 

「さっさと始めるわよ。カムイを構えなさい」

「おう。……ヨシノも剣なのか?」

 

 言われるがままにセレスティアから譲ってもらったカムイの剣を構える。ヨシノも彰に相対するように剣を構えると、空気が引き締まる。

 彰の疑問は尤もだ。ヨシノは刀剣の武器が得意では無いと開発室で言っていた。

 だが今のヨシノは剣を握っている。手加減のつもりなのだろうか。

 いや、剣を握って初めての彰を相手にするのだから、手加減するのは当然のことなのだが。

 

「あなたがしっかりカムイを振るえるようになるのが一番よ。私のことを気に掛ける必要はないわ」

「……それもそうだが」

「それに、あなたがカムイを使いこなせたとしても――私に傷一つ付ける事は出来ないわ」

「好きな女の子を傷つけるわけにはいかないだろう!?」

「……あなたって本当に馬鹿なのね」

 

 表情の変化が乏しいヨシノではあるが、彰を馬鹿呼ばわりする時だけはほんの少しだがジト目になったりもする。それが彰にとってはたまらないほど嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまう。

 

「さあやろうぜ! こうか、こう振ればいいのか!?」

「カムイは所有者の身体能力を底上げもしてくれるからそこまで剣術の型を意識しなくていいわ。結局のところ、見える攻撃にしっかり反応することが一番よ」

「見える速度でお願いします!」

「……あら?」

 

 ものは試しにと剣を振り回してみる彰だが、真似をするように剣を振り下ろしたヨシノの剣筋を見切ることは出来なかった。

 バグを討った時もそうだが、基本的にヨシノの動きは鮮やかで流麗だ。目にも止まらぬとはよく言ったものだが、実際に目の前でやられては反応もなにもない。

 

「そうね。訓練校ではこれくらいが当たり前だったから……これなら、どう?」

「……おお、見えた!」

「このくらいね。だいたい把握したわ」

 

 ヨシノはヨシノで彰の動体視力を把握し切れているわけではなかったようだ。いつも通りに剣を振るっていたのだが、それでも彰には反応できるものではなかった。

 彰の反応を見ながら速度を落としていく。次第にだが、彰の目でもヨシノの剣を目で追う事が出来るようになってきた。

 

「そうね……とりあえずは私の剣速を見切れるようになって貰わないと困るわね」

「え」

「シオンがくれた休みを目一杯使ってとにかく慣れて貰うのが一番ね」

「買い物に行くって話は――――」

「必要最低限のものは寮に揃っているわ。安心して訓練に集中するといいわ」

「……はい」

 

 意外と乗り気なヨシノを見ては彰も逆らえない。というより彰を鍛えるために訓練に付き合ってくれるのだから、彰からしたら断われない雰囲気である。

 とはいえ、だ。

 

「普段私が訓練で出してる剣速くらいは見切れるようになってもらうわ」

「はい…………」

 

 思わず口から出そうになった言葉を、ぐっと飲みこんだ。

 『動体視力は鍛えようがないだろ!?』と――――。

 とてもじゃないが、少しだけ楽しそうなヨシノを見ては何も言えないのであった。

 

「で、どうやって見切る特訓をするんだ?」

「あら、簡単じゃない」

「簡単なのか?」

「私の攻撃をかわし続けなさい。振るう方向は教えてあげるから、あとは刀身の長さで判断できるでしょ?」

「は?」

「さっそく始めるわよ」

「ちょ、ま――――」

 

 とても、とてもそれが論理的でないことくらいは普通の男子高校生であった彰でも理解できた。

 そういえば、とふとヨシノとのこれまでの会話を思い出す。

 ヨシノの説明は抽象的なものが多かった。細かく教えてくれるのもあったが、大半は彰が解釈できたことで説明も最初の段階で終わっていたのだ。

 

 彰の中で一つの可能性が浮かび上がってくる。

 もしかして、ヨシノは――思った以上に小回りが利かないのでは。

 ざっくばらんに言えば雑なのだ。

 そして彰の予想は悪いことに的中してしまうのであった。

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