fortune tale   作:瑠川Abel

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新たな任務へ

 

 

 

 金属特有の衝撃音が訓練室に木霊する。荒野の世界はすっかり見慣れた光景となっていた。今日も今日とてヨシノが繰り出す剣戟をひたすら躱す特訓なのだが、毎日繰り返している成果もあってか目覚ましい成長を遂げている。

 本来なら回避しきれない部分はヨシノが綺麗に寸止めをしてくれていた。だが今では彰が自らのカムイで受け止められるようになったのだ。特訓を初めてまだ一週間も掛かっていない。それがどれだけ凄いことなのかは、残念なことにヨシノも彰も気付いていない。

 

「――シッ!」

「――っ!」

 

 また一度、彰がヨシノの剣を受け止めて見せた。さすがのヨシノも二度連続で受け止められたことに驚きを隠せないようで、珍しく瞳孔を開き驚愕の色を浮かべている。

 どうだ、と言わんばかりに彰は胸を反らしてみせるが、短い息の繰り返しが限界であることを隠しきれない。

 あからさまに強がっている彰にヨシノはクスリと微笑む。旗から見れば変化が乏しく微笑んだかもわからないのだが、数日のやりとりですっかりヨシノの表情に見分けが付くようになっている彰であった。

 

「今日はここまでにしておきましょう。あなたも限界のようだし」

「ああ、そうしよ、う……」

 

 ヨシノが訓練の終了を告げると、気が緩んだのか彰はがくっと膝から崩れ落ちた。どうやら本当に体力の限界だったようで、しばらくは立ち上がれそうもない。

 断続的に荒い呼吸を繰り返し、バクバクと脈打つ心臓をどうにか落ち着けようと大きく息を吸おうとする。しかし彰の願いもむなしく身体はきしみ全身から痛みを訴えてくる。

 連日行っているとはいえ、やはりヨシノとの特訓は今の彰には限界を超えている。都度シオンによってケアを受けているから身体へのダメージは抑えられているが、それでもまだ身体は慣れてくれないようだ。

 

「大丈夫? シオンを呼んでくるわ」

「……ああ、たのむ……」

 

 少しでも身体への負担を軽くするために地面に寝転がる。荒野の景色だというのに、地面の質感は明らかに土の感触ではない。

 あくまで訓練室の中の映像を、荒野の世界に書き換えているだけなのだ。頭では理解しているが、感じてみるのではやはり違う。

 だがこの時ばかりは地面ではないことに感謝する彰であった。寝転がって土を食べる趣味はない。

 

 少ししてヨシノに連れられてシオンが駆けつけてくる。いつも通りぶかぶかの白衣を引きずりながら駆け寄ってくる姿を見ていると、どうしても年上の女性に見えないことは秘密だ。

 

「はいはーい。今日もお疲れ様ですよー」

「う、おおおお……きくぅ……」

 

 うつ伏せになった彰の背中をシオンが摩る。新緑色の淡い光がシオンの手に宿り、じっくりと彰の背中に広がっていく。浸透していく光は治癒魔法だ。

 治癒魔法はゆっくりと彰の身体を癒やしていく。限界を超えた肉体も、治癒魔法によって調子を取り戻していく。彰には治っていく身体の感覚がマッサージに感じるのか、びりびりと痺れるような心地よい感覚に身悶えている。

 

「……私も治癒魔法を専攻した方がシオンを呼びに行く手間が省けるわね」

「駄目ですよー。みんなのアフターケアはボクのお仕事なんですから。ヨシノちゃんはボクの生きがいを奪うんですか!?」

「生きがいって……あなたの本当の仕事は――」

「彰くーん。気持ちいいですかー?」

 

 嘆息するヨシノの言葉を遮るようにシオンが彰へ語りかける。その彰は治癒魔法がよっぽど気持ちいいのかうつらうつらと今にも眠ってしまいそうだ。

 そんな彰を見てシオンはふふ、と愛らしく微笑む。表情変化の乏しいヨシノと比べると、シオンはころころと表情を変えてより愛らしさが目立つ。

 とはいえ彰からは二人の表情は見えないのだが。

 

「……眠かったら寝てもいいわよ。部屋まで運んであげるから」

「いや、それは……男の沽券に関わる……!」

「っふふ。男の子ですもんねー。女の子に情けない姿は見せたくないんですね?」

「私のほうが強いんだから、素直に甘えればいいのよ」

「だが……」

 

 ヨシノの提案は非常に魅力的なものだが、好きな女の子に情けない姿を晒しっぱにしたくないのもある。要するに男の意地なのだ。一ノ瀬彰は男の子。

 

「ほら、無理はしないでいいのよ」

 

 ぽふん、とヨシノが彰の頭の上に手を置いた。撫でるような仕草が妙に心地よくて、彰の意思は速効で折れそうになる。出来ればそのまま膝枕をお願いしたいくらいだ。

 

「なあヨシノ、だったらひざま――」

 

 勇気を振り絞って恥辱を振り払って甘える言葉を口にしようとした瞬間。言葉を遮って電子音が鳴り響く。電子音はつい最近も聞いたものだ。

 

 ミラーズの通知音。

 それが何を意味するのか、わからない彰ではない。

 

 ヨシノはすぐに表情を引き締めミラーズを立ち上げる。

 浮かび上がった画面へ目を通すと、すぐにその表情が険しくなる。

 視線を送るよりも早く、ヨシノの口が開いた。

 

「任務よ、彰」

「よっし!」

 

 ヨシノの言葉を待っていたかのように彰は飛び上がる。シオンの治癒魔法によって身体は調子を取り戻し、混濁していた意識は任務の言葉で覚醒した。

 

「まだ特訓終わったばっかりですから、無理はしちゃ駄目ですよー」

「わかってる。でも、立ち向かわなきゃいけない時がきたんだ。寝ていられない!」

「そうですね。彰くん、頑張ってください」

 

 ぽんぽんとシオンは発破をかけるように彰の腰を叩いてくる。どこまでも優しい力加減に見送られながら、彰とヨシノは訓練室を飛び出した。

 残されたシオンは、ポケットから自分のミラーズを取り出す。寂しげな表情を見せながら、表示された画面に目を落とす。

 

「……今回は、彰くんに辛い現実を突きつけることになりそうですね」

 

 表示されていたのは、ヨシノが受けた任務の詳細。

 シオンの元には、大半の任務の詳細が送られてくるようになっているのだ。

 いつ如何なる時も、負傷者に対応するためだろう。任務に関わる守護者たちの名前がびっしりと羅列されている。

 

 そしてそこには、彰たちも見知った名前が記されていた。

 

【負傷者リスト詳細】

 

 ヒュウガ・ココノエ――行方不明。

 シェーン・アルジリオ――行方不明。

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