fortune tale   作:瑠川Abel

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狂光と銀炎

 

 

 

 視界を覆い尽くす光を前にして、彰は受け止めるように手にしたカムイを倒し、その名を叫ぶ。

 

「吸い尽くせ、カイゼルベント!」

 

 カイゼルベント――それは、彰がセレスティアから譲り受けたカムイの名だ。

 名を呼ばれたカイゼルベントは応えるように可動していく。柄が展開し、刀身が回転していく。

 シェーンが放った光がカイゼルベントの刀身に吸い込まれていく。それはまるで大渦だ。光の全てを飲み込んで、カイゼルベントは停止する。

 

「あら、セレスティアの新型なのね」

「吐き出せ、カイゼルベント!」

「……あら」

 

 彰の言葉に再びカイゼルベントが応える。先ほどとは逆に回転し、今度はその刀身から光を放出する。それは先ほど吸い込んだ光であり、光は振り下ろされたカイゼルベントに従うようにシェーンへ向かって放たれる。

 

 ――カムイ・カイゼルベント。

 その特性は、魔力エネルギーを回転機構によって吸収し取り込むこと。

 近接戦闘を得意とする守護者を、少しでも敵に接近させるために開発された新型カムイだ。

 

 それをまさか、守護者の姿形をしている者に使うとは、彰は想像もしていなかったが。

 

「ロードバロン、弾きなさい」

 

 しかして放たれた光はシェーンを飲み込むどころかさらに放たれた光に飲み込まれてかき消える。シェーンは動じる素振りも見せず、光が収束したところで追撃を繰り返す。

 

「くっ……カイゼルベント、吸い込め――」

「吸い込めとか、吐き出せとか。そんな手間を言葉にしてること自体が弱点って気付かないの?」

「――!」

 

 放たれた光の矢を再びカイゼルベントが吸い尽くす。しかし吐き出すよりも早く、シェーンが彰の前に肉薄していた。

 

「彰っ!」

「……もう元気になっちゃったの?」

 

 シェーンの肉薄をギリギリのところでヨシノが拒む。まだ腹部は痛むのだろうか。片方の手で腹部を押さえ、もう片方の手で握っていたカムイでシェーンを振り払った。

 

「すまん、ヨシノ!」

「カイゼルベントはまだ試作なのだから、それを見越して戦闘しなさいと訓練でやったでしょう!」

「あ、ああ!」

 

 ヨシノが戦線復帰したことによって、彰はカイゼルベントの回転機構を停止させる。二人でシェーンを挟み込むように移動し、左右から同時に剣を振り下ろす。

 しかしシェーンは容易く回避する。ヨシノの剣をロードバロンで受け止め、彰の剣はロードバロンを支えにすることで軽やかに跳んでみせたのだ。

 

「ロードバロン、放ちなさい。――そっちの彰くんをね!」

 

 そして、シェーン・アルジリオの記憶があるということを最大限に利用する。

 ヨシノを狙うのではなく、彰を狙う。彰が守護者として新米なのを知っているから。彰がまだ独り立ち出来ていないことを知っているから。彰がヨシノの弱点になると知っているから。

 

 光の矢を番えることのないままロードバロンが光を放つ。シェーンの言葉通り、彰に向けて、だ。

 至近で放たれた光はとてもじゃないがカイゼルベントの吸収では間に合わない。

 光が彰を飲み込もうとして――彰はさせないとばかりに、姿勢を捻って強引に横に跳んだ。

 地面に転がってしまう彰だが、光の一撃は回避することが出来た。服の先が焦げてしまったが、それで済んだのだから上出来だ。

 

「あなたの相手は私よ、バグ!」

「バグじゃないわぁ。シェーンだってぇ!」

「シェーンはそんな言葉を吐かないわ!」

 

 ヨシノは自分が少し冷静さを欠いているのを認めている。けれど、激情に任せて剣を振るうことだけは避けることが出来ていた。

 こんな時までも冷たい自分に少し辟易するが、それでも今するべきことは自虐ではない。

 目の前の存在を、存在を手に入れてしまったバグを討つ。

 それが守護者の使命なのだから。

 

「でも動きが鈍いわよ。ダメージが残ってて私は嬉しいわ!」

「くぅ……っ!」

 

 接近さえしてしまえばシェーンはロードバロンによる掃射は行えない。カムイの攻撃をさせないことは戦況をヨシノの優位に傾けるが、シェーンもそれを理解して容易くロードバロンを投げ捨てた。

 

 幾度となく振るわれるヨシノの剣戟を、シェーンは徒手空拳でいなしていく。

 

「――――カムイよ目覚めろ。今、バグを討つためにッ!」

 

 痺れを切らしたのはヨシノだった。一旦シェーンとの距離を取ると同時に、カムイに銀の炎を纏わせる。

 

「知ってるわ。再び私に急速接近して不意打ち気味に首を落とすんでしょう?」

「知っていても、間に合わなければ意味がないわ」

「なら……やってみれば?」

 

 挑発するようにシェーンは自らの首をトントン、と指で叩く。明らかに何かしらの対策を講じている。あからさまな罠を前にして、ヨシノは。

 

「後悔なさい、あなたの知らない力を。――アルマ・テラム」

「――あら?」

 

 それはさながら閃光だった。流れる一筋の光のように、ヨシノの身体から銀の炎が猛り溢れ――気付いた時には、シェーンの背後へ回り込んでいた。

 

 何が起きたかをシェーンも彰も理解していなかった。

 世界が時間を取り戻したかのように、変化が訪れる。

 シェーンの首が落ちていく。ヨシノは片膝を突き、はぁ、と大きく息を吐いた。

 

「――――」

 

 首から上を失ったシェーンの身体が崩れて大地に転がる。

 ヨシノは倒れ伏したシェーンの身体を忌々しく睨めつけると、立ち上がって歩き出す。

 

「ヨシノ、やった……のか?」

「ええ。まさかこんなところで奥の手を使うとは思わなかったけど……ごほっ」

「ヨシノ!?」

「大丈夫よ。アルマ・テラムの反動なだけ……少し休めば落ち着くわ」

「あ、ああ」

 

 駆け寄ってきた彰にヨシノは寄りかかる。『アルマ・テラム』はよほどヨシノの身体に負担を掛けたのか、ヨシノは咳き込むと同時に血を吐いてしまった。

 彰はヨシノを抱き留めながら、倒れたシェーンの亡骸へ視線を向ける。バグを倒したのなら、もう崩壊が始まるはずだ。

 

「……え」

「どうしたの、あき――」

 

 身体が、起き上がっていた。

 首を失ったシェーンが、立ち上がっていた。

 転がっていた首から上が、ケタケタと嗤いだした。

 

「凄い」「凄い」「凄いわ」「とっても凄い」「見たことない」「ああ、凄い」「やっぱりあなたは凄い」「私じゃ敵わない」「私一人じゃ敵わない」「じゃあ」「じゃあ」「じゃあ」「じゃあ」

 

「「「「「私たちなら」」」」」

 

 首から上が崩壊していく。いや、それは崩壊ではなかった。頭は液状に溶け出して、ずるずると這って身体へ合流していく。身体は身体で這い寄ってきた液体を踏みにじる。ゾゾゾゾゾゾと液体が身体を這い上り、瞬く間に頭を再生していく。

 

 そしてまた、シェーンが嗤う。

 

「凄いわぁ。さすが私が憧れて、追いつこうと努力したヨシノ・四宮! いつも私の上を行くのね! 凄くて羨ましくて、本当に――殺したかった!」

「……そう、もうそれだけの人間を喰っていたのね」

「ええそうよ! 十人くらいで数えるのをやめたもの! でも怒らないでね? 食べた人数なんていちいち数えないから、十人も百人も同じでしょ?」

「あなた……いえ……お前は……!」

「強いて言うなら百人強! 私には、食べた全ての命がある! だから言ってるでしょう? 私は世界を食らいつくして、世界を私で埋め尽くしたいの。私が世界になりたいの!」

 

 事態は最悪へと変化していた。彰のカイゼルベントでは有効打を与えられない。彰の技量では止められない。頼みの綱のヨシノは血を吐いてこれ以上の戦闘は出来そうにない。

 闘志はあるだろうけど、戦うために身体が動かない。

 

 ゆっくりとシェーンがにじり寄ってくる。その表情は恍惚に染まっていて、舌なめずりが悍ましさを助長する。

 

「まずはヨシノを食べちゃうわ。ああきっと、あなたは美味しいもの」

「……カイゼルベント、力を貸してくれ。俺はヨシノを失いたくないし、ここで死ぬつもりもない!」

 

 ヨシノを庇うように彰はシェーンの前に立ち塞がる。カイゼルベントを握りしめ、決を込めた瞳でシェーンを睨む。

 

「あなたはいらないわ。死んでいいもの」

 

 シェーンが三度ロードバロンに矢を番えたところで――。

 

「爆ぜろブラストゲイン。彼女にこれ以上の過ちを繰り返させないためにも!」

 

 聞き覚えのある少年の声が――ヒュウガの声が、光をかき消すように木霊した。

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