fortune tale   作:瑠川Abel

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決死の一撃

 

 

 

「……あら、意外と早く戻ってきたのね」

「当たり前だ。これ以上お前に罪を重ねさせるわけにはいかない」

 

 結界を閉じて、ヒュウガとヨシノが世界に舞い戻る。そこに彰の姿はない。

 シェーンはきょろきょろと二人を見て、彰の姿が見当たらないことに気がついた。

 

「あら、彰は?」

「お前とは戦いたくないそうだ。シェーンの顔をしているお前に、剣は向けたくない、と」

「可愛いわねぇ。クスクスクスクス」

「それに、あなた程度なら私とヒュウガで十分殺しきれるわ。覚悟は出来ているわね?」

「あら。さっきの爆発的な加速――あれの反動もまだ癒えてないのに、よく言えるわね」

「この程度なら支障はないってことよ」

 

 いくつかの言葉を交わすと同時に三人は動き出す。剣を構えて突進するヒュウガをシェーンは真っ正面から受け止める。ヨシノは二丁拳銃を取り出し、ヒュウガを援護するように縦断の嵐を浴びせていく。

 

「ロードバロン、受け止めなさい!」

 

 シェーンの言葉に呼応してロードバロンから光の弓が掃射され、ヨシノが放った銃弾の悉くを粉砕していく。大弓を振り回しヒュウガの一撃を防ぎつつも、シェーンはなおも繰り出される銃撃を打ち落とし続ける。

 

「私はシェーン・アルジリオの力を理解している。そしてシェーン・アルジリオでは出来なかった並列思考が容易なの。それが何を意味しているか、シェーン・アルジリオの相棒であったあなたなら理解出来るでしょう!」

「がっ……!」

「ヒュウガ、動きを止めないで!」

「わか……ってる!」

 

 ヒュウガは止まらない。足を上げ、腕を上げ、刃を振り上げて戦い続ける。退屈そうに受け止めるシェーンは、その瞳をずっとヨシノに向けている。今この場でもっとも警戒しなければならない一撃。それは先ほどの戦いでヨシノが使った『アルマ・テラム』に他ならない。

 あくまでも自分の存在を意に介さないシェーンに、ヒュウガは刃を振り下ろしながら声を張り上げる。

 

「こっちを見ろ、バグ!」

「バグじゃないよぉ。私はシェーンだよぉ」

「シェーンは死んだ! 俺の所為で、俺の油断で貴様に喰われた! 今のお前は、シェーンの皮を被っただけのバグだ。貴様に彼女は理解出来ない!」

「出来るよぉ。――ほらヒュウガ、私の胸に飛び込んでいいのよ?」

「っ……彼女を、侮辱するなッ!」

 

 あざ笑うかのように、挑発するかのようにシェーンはこれみよがしにヒュウガを抱きしめようと両手を広げる。だがそれはヒュウガの琴線に触れる。激昂するヒュウガはさらに剣戟の速度を上げ続け、怒りの言葉が放たれる。

 

「爆ぜろ、ブラストゲインっ!」

 

 ヒュウガの怒りに応えて、剣が爆発する。名を呼ばれたカムイはその真価を発揮する。

 刀身が触れた箇所が爆発し、音と煙によってシェーンの視界を覆い尽くす。ヒュウガは攻撃の手を緩めない。爆発による反動を堪えながら、連続でシェーンへ斬りかかる。

 

 手応えは、あった。

 立ち上る炎と煙の中で、確かに肉を貫いた感触が伝わってきた。

 

「……やるじゃなぁい。でも、それくらいじゃまだまだ死なないわぁ」

「でも、一回は一回だ……っ!」

 

 ブラストゲインは確かにシェーンの胸を貫いた。剣から離れようとするシェーンを逃さないとばかりに、ヒュウガは握る手に力を込める。

 

「ブラストゲイン!」

「あはっ。それでもまた一回死んだだけよ!」

 

 刀身が爆発する。爆発はシェーンの身体の中を灼き、確実にもう一回シェーンを死に至らしめる。

 けれど、それでも足りないとシェーンは嗤う。爆発の衝撃を利用してブラストゲインを引き抜いたシェーンは、大弓を力任せに振り回す。

 

「ヒュウガ、よけなさい!」

「っが――」

 

 離れようと足に力を込めるヒュウガだったが、まだ全快出来ていない身体はヒュウガの意思に反して動きを止めてしまう。躱すことも受け止めることも出来ずに大弓の一撃を食らってしまったヒュウガは大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「これで一対一じゃないヨシノ。さあ、殺し合いを始めましょう!」

「……殺し合い? ふざけたこと言わないで。最初から、私たちがあなたを殺すだけの戦いよ」

 

 ヨシノがその言葉を言い切った刹那、シェーンは殺気を感じた。振り向くよりも早く気付く。自分の後ろに誰かがいることを。

 彰だ。結界から飛び出してきた彰が、カムイを振り上げてそこにいた。

 

「あら奇襲。凄い、綺麗な奇襲。見事な奇襲。でもね、殺気を出すのが早すぎるわ?」

「それでも、刃を振るうと決めたから!」

「ロードバロンを甘く見ないで欲しいわ!」

「――っ」

 

 シェーンは振り向くことなくその場で弦を弾いた。完全に死角からの一撃を、シェーンは振り返ることなく光の矢で迎撃する。咄嗟に放たれた光の矢を彰はギリギリで躱すことが出来たが、奇襲は完全に失敗した。

 

 けれど、次の手は打っている。

 

「は、きだせ――カイゼルベント!」

「あら――」

 

 カイゼルベントの刀身が激しく回転する。シェーンの記憶の中では、先ほどの戦いの中でもカイゼルベントは何も取り込めていない。ならば何を取り込んでいるのか。

 思い当たるのは、ヨシノの魔法かヒュウガのブラストゲインの一撃。何をどこまで取り込めるかは把握していないが、どのみち自身の全てを消失させれるほどのものは取り込めないと考えている。

 だから、受け止めてやればいい。死を持って受け止め、カウンターで彰の命を奪えばいいと。

 

 シェーンが口角を吊り上げた瞬間、カイゼルベントから溢れ出てきたのは――見たことも聞いたこともない幻想的な金色の炎。

 不味い、とシェーンではないバグの本能が警鐘を鳴らした。

 何が、かはわからない。だが、その炎を受けてはならないと直感で理解した。

 シェーンは咄嗟に身を捻り、足を上げ彰のカイゼルベントを蹴り飛ばす。炎が身体に触れる前にカイゼルベントは中空へ吹き飛び、金の炎は静かに消失する。

 

「――この瞬間を待っていたのよ。それはあなたに必ず悪影響を与える。そうなればあなたは抵抗する。だから、第三の手は防ぎきれないとね」

「え――」

「猛ろ炎、お前の力はわからなくても、今の事態を切り開くことくらいは出来るだろ!?」

「――!」

 

 カイゼルベントを吹き飛ばされたというのに、彰はなおをシェーンに向かって拳を突き出していた。あまりにも無謀な特攻。シェーンがロードバロンの弦を引くだけで、その心臓を一突きに出来る距離。

 事実、ほとんど無意識にシェーンはロードバロンの弦を引き光の矢を放った。矢はズレることなく彰の胸に突き刺さる。

 ごほ、と彰は血を吐いた。だが、止まらない。その拳に金の炎を纏わせて、なおをシェーンへ突貫する。

 

「やめて、その炎を、私に近づけないで!」

「……なら、こっちの炎はどうかしら?」

「な――」

 

 彰の方を集中しすぎていたシェーンはヨシノの動向に気付くのが遅れてしまった。シェーンの背後を取るように移動していたヨシノもまた、その右手に炎を纏わせていた。

 彰の炎とは対局的な、銀色の炎を。

 

「バグよ、受けなさい。これが――『命の炎』よ」

 

 金と銀、二つの炎がシェーンを貫いた――――。

 

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