fortune tale   作:瑠川Abel

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黒き胎動

 

 

 

 守護者の戦場とは、誇りを掲げ死地を駆け抜ける。

 故に、バグに喰われ存在を取り込まれることこそ守護者にとって一番あってはならない事態。誇りすらも全てねじ曲げられ力も知識も全て利用される。

 それだけは、決して避けねばならない。

 

 何故か。

 

 『何故か?』

 

 ただのバグが――ただのヒトがバグになり、守護者を喰らい、力を得て知識を得て、それがどうして、避けねばならない事態なのだろうか。

 

 答えは否。

 

 ただのバグに喰われる程度ならば、守護者の犠牲だけで済む。

 脅威には、なる。だがそれは対峙する守護者にとっての脅威であり、討伐の対象であることはなんら変わりないバグである。

 

 ――仮定の話をしよう。

 

 もし、平凡ではないヒトがバグへと堕ちたら。

 もし、平凡ではないバグが守護者を喰らったら。

 もし、その力と知識が――そのバグにとって有益なものだとしたら。

 

 もし、そのバグが、ヒトを喰らい存在を取り戻すことが目的でないとしたら。

 

 何をする(・・・・)

 

 人智を越えた領域の力と知識で、何を成す?

 

 それこそが、守護者が避けねばならない最悪の事態。

 

 世界が滅びるまで――XXX日。

 

 

 

 

 

 

「違う、違うの! 何で!? だって、ただのバグで、発生する瞬間に間に合うって観測班が言ったじゃん!」

 

 剣のカムイを担いだ少女が泣き叫びながら走り続ける。すでに全身はボロボロで、失われた右腕が酷く痛々しい。

 少女はこの世界に派遣された守護者の一人、ミルイレンだ。守護者ジェシカとクレイと共に、バグを討つために万全の準備を整えて任務に就いた。

 

 任務自体は簡単なものだった。守護者の調査・観測班はどういうわけか『バグが生まれる』ことを先に観測できることがある。

 今回はまさにその事例だ。生まれたばかりのバグを討つ。ないしバグになる前に、その人を隔離してしまう。

 わざわざ三人で挑むほどではない、ミルイレン一人でも達成可能な任務である。

 事実三人は油断するわけでもなくバグを見事に討伐した。誰の一人の犠牲も出さずに、バグが生まれた瞬間に任務を達成した。

 

 これでもう一安心。さっさと帰って暖かい布団で眠ろうとしたところで――クレイが突如として消えたのだ。

 

 困惑した次の瞬間には、ジェシカが消えた。

 二人を急に見失ったミルイレンは帰還ではなく捜索を選んだ。――それが間違いであったことにも気付かずに。

 報告をした。任務は達成したが、クレイとジェシカの行方が知れないと。

 本部からは捜索の許可が下り、ミルイレンはカムイの反応を頼りに二人の捜索を始めた。

 

 知らない誰かの嗤い声が聞こえて、知ってる誰かの笑い声が聞こえてきた。

 重なった笑い声は二つどころではない。三つ四つ五つと知らない声と知ってる声が混じり合っていつの間にかミルイレンの背後に迫っていた。

 

 得体の知れない事態に、ミルイレンは逃走の選択をした。――正しい。

 だがそれが正しくても結果はどうなのか。

 ミルイレンはわけもわからず片腕を失った。どうして腕がなくなったかもわからないまま、見えない衝撃に襲われた。身体を貫かれ、衝撃に骨は折れ、立っていることも走れていることも不思議なほどの傷を負ってしまった。

 

 困惑はより視野を狭める。クレイとジェシカの声が聞こえる。二人とも後ろにいる。後ろで笑っている。……嗤っている。

 

 ああ、これは。そこでようやくミルイレンは二人の声でないことを理解した。

 

 ミルイレンが次に選んだ行動は、結果的には正解だ。

 だが彼女自身の選択としては、不正解。

 正しさも何もわからない極限の状況で、彼女は正解にたどり着いた。それは賞賛されるべき行動であり、彼女はこれからの未来をずっとその選択を誇りとして語り継いでいいほどだ。

 

「本部へ連絡します! バグは一体じゃありませんでした。クレイ、ジェシカ二人が喰われ、私にはもう手に負えません。っ……特異事態発生、"災厄"の可能性あり! より強い守護者を、いえ――『創星将』の出動を要請します!」

 

 ミルイレンが選んだのは、事態を解決に導くための報告。

 損害を、事態の急変を伝え、次に繋げること。

 それは、自分の命を捨てることに他ならない。

 ミルイレンは、自分の救援を求めはしなかった。

 

「この連絡が届くかも、わかりません。ですがお願いです。ミルイレン・フォーマッハは、最後の最後まで、世界のために戦います。だから、だから私を忘れないで……っ」

 

 混乱と恐怖の中で、ミルイレンは涙を振り払って決意を固めた。

 ミラーズを叩きつけ、破壊する。守護者二名を喰らったバグであるならば、ミラーズの使い方を熟知している可能性がある。

 どんな小さな物でも、とにかく情報の処分が優先される。知識と力が喰われても、それでも全てを奪われないために。それが、守護者として受けてきた教育だ。

 

 クレイとジェシカのミラーズばかりはどこにいってしまったかもわからない。そればかりは心残りだが――不意を突かれたとはいえ、二人も守護者だ。自分の尻拭いくらいはしてくれていると、ミルイレンは信じることしか出来なかった。

 

 全ての処理を終えたミルイレンは、逃げることをやめる。

 このまま逃げ続けてはやがて人里に出てしまう。そうなればバグは無尽蔵にヒトを喰らい力を増していくだろう。

 少しでも。少しでも、時間を稼がなければならない。

 痛む身体の全てを無視して、カムイを引き抜き迫るバグへと振り返る。

 

「さあ来なさいバグ! 私はミルイレン、世界を守る、守護者――――ッ」

 

 ――――名乗ることすら叶わずに、ミルイレンの身体は両断される。

 崩れゆく視界。寸断される意識の中で、ミルイレンは最後の抵抗とばかりにカムイを強く握りしめ、自爆シークエンスを起動させる。

 

 機構はミルイレンの手から離れても暴走を始めた。

 溢れ出た破滅の閃光が全てを飲み込んでいく。せめて道連れにと放たれた少女の決死の抵抗。

 

 黒き顔は、口角を吊り上げてケタケタと嗤っていた。

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