fortune tale   作:瑠川Abel

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緊急招集ミーティング

 

 

 

「失礼します。ヨシノ・四宮並びに彰・一ノ瀬、入室します」

「し、失礼します!」

 

 転移用エレベーターから直行したのは、彰はまだ訪れたことがない階層だった。

 ミーティングルームが並ぶ階層は他のどの階層よりも静寂に支配されている。この階層だけ空気が明らかに引き締まっているのを、彰は肌で感じる。

 その中の一室にヨシノと共に飛び込むと、大柄な体躯の男が真っ先に視界に飛び込んできた。

 

「おう四宮! お前たちが最後だな!」

「任務終了からの緊急招集でしたので、申し訳ありません」

「はっはっは! 文句は事務局に言っておく。さて、これで揃ったわけだ」

 

 ヨシノに促されるまま彰は空いている席に座る。これまでとは違う明らかに堅い雰囲気に彰は気圧されてしまう。救いだったのは、誰も彼も彰に特別意識を向けることをしなかったことだ。

 ほっと一息吐く暇も無く、大柄の男性が声を張り上げる。

 

「改めて初顔合わせの守護者もいるから自己紹介を済ませておく。俺はミネルバ・バーバリオン。今回の特殊任務において部隊長を任された! 任務達成までは俺の指示に従って貰う、いいな!」

 

 有無を言わさぬ迫力だが、誰も異を挟もうとはしなかった。むしろ彰以外の守護者たちはミネルバを知っているようで、「あのミネルバ・バーバリオンか……」とヒソヒソと小声で呟くほどだ。

 

「なあヨシノ、この人って有名なのか?」

「有名よ。守護者の大半はミネルバ・バーバリオンという人間を知っているわ。……大豪傑、最も創星将に近い男――とまで言われているわ」

「創星将……?」

 

 聞こう聞こうと思っていた言葉が再びヨシノの口から飛び出てきた。首を傾げる彰だが、今は聞いている余裕はない。

 ゴホンと咳払いをしてミネルバが室内にいる守護者たちに視線を送る。

 ニカッと大きく険しい表情を破顔させた。白い歯を見せながらの豪快な笑顔は緊張していた空気を一気に緩め、守護者たちの力を抜けさせた。

 

「大丈夫だ。すでに三名の尊い命が失われてしまったが、任せろ。俺が必ずバグを討ち、お前たちに勝利の美酒を振る舞ってやる! ミネルバ・バーバリオンの誇りにかけて、バグを討ち散っていった同士の無念を晴らそうではないか!」

 

 湧き上がる拍手喝采によって部屋はたちまち拍手の音に満たされる。自分たち以外の守護者たちの目が輝いて見えるのは彰だけなのだろうか。隣のヨシノは相変わらず表情を変えていないが、この空気だけでミネルバ・バーバリオンという人物がどれだけ慕われているのかが理解出来る。

 

「詳しい説明を開始する! 再調査によって確認されたバグは一体。だがすでに百名以上――いや、もう千の桁に達しているかもしれないとも言われている『特殊個体』だ。十数回殺しても殺しきれない、極めて対処が難しいバグだ」

 

 思い出すのはシェーンを喰らったバグのことだ。確かに数回殺しても蘇ったあのバグは、それだけで脅威となる。何回殺せば死ぬのかもわからない。下手を打てば自分が喰われる極限の状況は、判断を鈍らせてしまうだろう。

 事実、ヒュウガが大けがを負いあそこまで追い込まれていたのはバグがシェーンの姿をしていた以上にその部分に寄るところが大きい。

 自分が食われてはいけない。自分は一回死ねば終わり。でも相手は命のストックがある限り命を捨てて攻勢に出れる。

 

 考えれば考えるほど、バグという存在が恐ろしい。同時に、自分がそうなってしまう可能性があることを考えると……怖くて、悲しい。

 彰はバグになりかけた。だから、バグとしての世界を知っている。孤独と飢えに支配された世界は簡単に人を狂わせる。

 バグは、バグとして討たねばならない。人として討ってしまえば、悲しみと後悔に苛まれるだけなのだ。

 それが思考放棄であることを彰は理解している。それでも――自分が生きて人に戻るには、貫かなければならない選択だ。

 

「まず守護者四名によってバグの発見、誘導。攻撃地点に誘導した後に、他の守護者六名による一斉砲撃で命のストックを出来る限り削る。それでもバグは必ず反撃してくるから、お前たちは命を最優先に立ち回ってくれ。ある程度まで削れたら、俺が出る!」

 

 力強く胸を叩くミネルバの勇士に、誰もが心を震わせ喝采を上げる。

 彰も思わず拍手を送ってしまうほどだ。それでもヨシノは淡々と作戦をメモしているのだが。

 

「質問があります」

 

 ミネルバが作戦の説明を終えたところで、ヨシノが手を挙げる。周囲の目が一斉にヨシノに向けられるが、ヨシノは平然と質問を投げかける。

 

「私、ヨシノ・四宮と相棒(バディ)である彰・一ノ瀬は近距離戦を得意としています。また、彰・一ノ瀬に関しては遠距離砲撃の適正が限りなく低いと思われますが、その場合は誘導班として行動すればよろしいのですか? また、誘導班は攻撃時にはどういう対応を取ればいいですか」

「おう。すぐに質問してくれて俺も助かる! そうだな。近接戦闘が得意なタイプっつーことは足の速さに自信があるか、重装甲ってとこだな。足が早いんなら誘導に回って貰う。重装甲ならセレスティアに頼んで遠距離砲撃の支援AIを積んで貰う。時間が足りないだろうが、とにかくやってもらわなければ困るからな!」

「彰・一ノ瀬はまだ守護者になって数ヶ月の新人です。いきなり遠距離砲撃は難しいと思われますが」

「おう、じゃあ何が得意だ。彰、お前の口から聞かせてくれ!」

 

 ミネルバは唐突にヨシノとの会話を打ち切り彰に問いかける。いきなり問いかけられた彰はどもりつつも、ありのままの思いを語る。

 

「砲撃戦の研修を受けたことはありません。……ただ、自分は剣を振るうほうが性に合っていると考えています。遠距離で戦いをする、というイメージが抱けません」

「なるほどな! よし、じゃあ彰以外にも同じ考えがいる奴がいるなら名乗り上げてくれ!」

 

 ミネルバは彰から他の守護者に視線を向ける。手を震わせながら二人が手を挙げた。

 その二人を見てミネルバは大きく破顔する。バンバンと自分の腹を叩き大きな声量で笑い出す。

 

「おう、よく勇気を出して手を挙げてくれた! お前たちのことを考えていなかった俺の不始末だ、申し訳ないな!」

「そんな、ミネルバ様顔をあげてください!」

「言い出せなかった自分たちが悪いんです!」

「いいんだよ。今回に限れば俺はお前たちの上官だ。部下の思いを汲んでやることが出来なかったのは俺のミスだ! だから頼む、こんな上官だが、お前たちの力を貸してくれ!」

 

 勢いよく頭を下げるミネルバに守護者たちが圧倒されている。彰もまた、清々しいまでに相手を立てるミネルバの姿勢に感動する。

 それを察したのか、ヨシノが肘で小突いてくる。痛くも痒くもない肘鉄は、暗に「警戒しろ」と伝えてきているのだろう。

 

 ミネルバは次々に作戦を説明していく。とはいえ全体的な流れの補足であり、状況状況に応じての対応策の説明だ。何が起こっても支障がないように徹底されているのは、バグを滅ぼすための作戦だ。

 

「作戦については以上だ。出撃は明朝、各員は装備を整えてしっかり休んでくれ!」

「「「了解!」」」

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