赤月の雷霆   作:狼ルプス

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第一話

一人の少年が竿と籠を持ち走っている。少年の名は桐生燐、農家の一人息子として生まれ、親からはたくさんの愛情を注がれて生きてきた。だが燐は、心に深い傷跡を残すことになる。

 

「父さん!母さん!ただいま!遅くなってごめん!今日もいっぱい釣れた……え?」

 

 

川へ魚釣りに出かけ、日が暮れる頃に、家へ帰ると、家族は死んでいた。辺りは血塗れで、家の中には人ならざる異形の存在がいた。

 

「父……さん、母さん………」

 

 

そして異形と目が合った燐は、その異形が、町で噂になっている存在“鬼”だと理解した。

 

「クヒヒヒ…丁度いい、餌がまた増えたなぁ、しかもガキ、肉は特に柔らかいからな」

 

 

突然、鬼が襲いかかってきた。親の死に呆然としていたのもあり、逃げるのが遅れた少年は、自らの死を悟った。

 

「(しまった!俺も殺される!)」

 

 

 

ドゴーン!

 

 

次の瞬間、雷の落ちるような音が響いた。いつまで経っても痛みがなかったので燐は目を開けると、鬼の頸がゴトリと鈍い音を立てて落ちた。頸を斬られた鬼の体は、塵となり、崩れながら消滅した。

 

「え…………一体何が?」

 

 

「無事か小僧?」

 

救ってくれたのは俺より少し背が小さく、右足に義足をつけていたお爺さんだった。

 

両親を埋葬し、話を聞くとそのお爺さんは鬼を殺す組織の人間であるらしい。しかし今は引退して育手として隠居をしているとのことだ。

鬼について聞くと、「人間を主食とし、人肉や血に対して激しい飢餓感を覚える」,「 身体能力については、人間を完全に圧倒し、年若い鬼でも容易く石壁を砕く程の怪力と、岩より硬い身体を有する」,「鬼としての年齢を重ねるほど(人を喰らうほど)力が上がっていき、一定を超えると血鬼術を行使できるようになる者もいる」といった事が分かった。

「鬼は、特殊な刀で頸を斬るか日光を浴びせないと死なない」,「その鬼の祖である鬼舞辻無惨が今も鬼を生み出している」という事も……。

そして、お爺さんは身寄りのない俺を引き取ってくれると言うのだ。迷惑をかけると思い断ろうとしたが、俺の心情を察してか頭をぐりぐりと乱暴に撫でてくる。

乱暴だったが、その手は温かく、俺は我慢していた涙を流し声を上げながら泣いた。

 

燐と老人は気づかなかったが、この時、燐の瞳に変化があった。瞳は赤くなり、瞳孔の周りには輪がかかり、更に黒の勾玉模様が三つできたのだ。

 

 

 

俺には二つの選択肢があった。お爺さんが言っていた鬼を殺す鬼殺隊に入るか、お爺さんの紹介で職に就くかだった。俺の答えは、既に決まっていた。

 

「俺は、鬼殺隊の剣士になります。」

 

燐は迷わずに答えた。そしてお爺さんは燐の表情を見て、うむ、と言う様に頷いた。

 

「そうか……お主の覚悟は本物みたいじゃな。名を聞かせてくれんか?」

 

「桐生 燐です。これからよろしくお願いします、えっと……」

 

「桑島 慈悟郎じゃ。これからは『師範』と呼ぶように!言っておくが、わしの修行は厳しいぞ?覚悟はできとるか?」

 

「はい!覚悟は出来ています!これから御指導よろしくお願いします、“師範”!」

 

 

俺は元鳴柱である桑島 慈悟郎師範に弟子入りし、鬼殺隊になるための特訓が始まった。……それから半年が経った頃の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいか燐、お主は鬼殺の道を選んだ。今以上に辛いことや苦しいことが沢山ある。その中で心を折られるかもしれん。しかし、どんな事があろうとも……諦めるな」

 

師範の一言を噛み締めながら胸に刻む。諦めるな……か。俺はここで折れるわけにはいかない。

 

師範には大きな恩がある。修行内容はキツイが……やるしかないんだ、これが俺の選んだ道だから。

 

 

 

ここからは日記で修行内容を記そうと思う。俺は農家生まれだが、家系の事情で読み書きが出来る。因みに家系は父さんからの方だ。

 

 

 

○月♡日

 

師範の主な修行内容は、朝起きて基本的な体力づくりの走り込み。空気の薄い山中で死ぬほど走らされる。師範が良いと言うまで山を下ることは許されない。この広い山中、師範は走りが終わると俺を必ず見つけてくる。

加えて、鬼殺隊がほぼ習得している呼吸法を用いながらの集中力も求められるため、体力をごっそり持っていかれる。

 

 

 

数刻の時間をかけて走り込みを終えた後は、食事の休憩を挟んでから、木刀の素振り。

足の次に腕を痛めつけに来る。しかし、

 

「997!99──いてっ!」

 

「太刀筋が歪んどる!」

 

このように少しでも太刀筋が歪めば師範から拳骨が飛んでくる。師範の拳骨は凄く痛い。初めて殴られた時、「何で殴るのですか⁉︎」と聞いたら、「愛ある拳じゃ!」という回答を賜った。俺は「何故そこで愛⁉︎」とツッコんだ。疲労で太刀筋が歪み、師範から拳骨が落とされ、痛みで太刀筋がさらに歪み、また拳骨の繰り返しだった。

 

 

 

○月△日

 

ようやく素振りを歪まずに千回振れるようになった。

 

「999!1000!」

 

「ようし!更にそのまま1000回追加じゃ!」

 

「っ、はい!」

 

素振りが上手く行っても、回数を倍に追加される地獄が待っていた。

 

 

 

⭐︎月×日

 

今日から真剣をもっての修行に入る。刀を携え、いつものように山で走り込みをする。しかし刀を持った状態ではかなり走りづらかった。鞘を木々にぶつけてしまうので慣れるのに苦労した。

 

刀の握り方や振り方などを教わり、ある程度形になった後、刀を持って師範を斬るつもりで挑む。しかしあの小さな体のどこに力があるのか、俺は投げ技で倒され、やられるがままであった。しかし、やられ続けるうちにどんな状態でも受け身をできる様になった。

 

 

 

△月×日

 

今日から鬼殺隊に必須である特殊な呼吸法の鍛錬……“全集中の呼吸”というものを会得しないと話にならないらしい。また、師範が現役でも使用していた雷の呼吸という剣技や呼吸法を会得しなければならない。ただ人によって呼吸は適性があるらしい。

これが一番キツかった。肺なんて意識した事ないし、今までにないくらい肺は痛み、心臓はドクンドクンとうるさいくらいに聞こえる。しまいには耳から心臓が出てきそうな感覚だった。

 

師範の壱ノ型である霹靂一閃を見せてもらったが、雷が鳴り、まるで瞬間移動したかの様な動きだった。

見た当初は本当にお年寄りのお爺さんなのか?引退したのか、あの人?まだ現役じゃないの?と思ったくらいだが、あれでも現役時代より劣っていると言うくらいだ。未だ鬼殺隊の常識が身に付かない自分だった。

 

 

⭐︎月⭐︎日

 

鍛錬を始めてしばらく経ち、俺は鍛錬をする為、夜中に外出するが、何故か仕掛けられていた落とし穴に落ちてしまった。

 

「な、なんだこれ?」

 

そして師範に見つかり説教に加え拳骨をくらった。

 

どうやら隠れてやっていた鍛錬を怪しんだ師範が、小屋付近に落とし穴を作っていたみたいだ。俺は何度か鍛錬をする為、抜け出したが師範にはお見通しだったみたいで、鍛錬していた場所にいつの間にか待ち伏せされたり、小さな体に似つかわしくない圧倒的速さで俺を捕らえたりされた。

そして愛(拳骨)をくらう。

 

「全く、お主は……!真面目なのは良いが、休む時はしっかり休め。休むことも鍛錬の一つじゃ」

 

 

師範の言われた事に納得するしかなかった。人生経験の長さ故か、その言葉に重みを感じたのだ。そして、師範と話すときは必ず目を離さず、まっすぐに向き合って話す。

 

「……ごめんなさい、師範」

 

「わかればよい。ならばさっさと家に戻って寝ておれ」

言い終わると、杖で背中を叩かれた俺はきた道を師範と一緒に引き返していく。

 

 

 

 

 

「フゥー、ある程度形になってきたぞ」

 

燐は木刀を下ろし息を吐く。燐は師範に言われた様に休む時はしっかり体を休め、鍛えられる時は鍛錬をするようになった。

燐は現在雷の呼吸の六つの型全てを習得し、現在ある型を師範にばれない様に秘密に編み出している。

 

「(霹靂一閃は流石にまだ師範には程遠いが、やはり練度や場数もあるんだろうな。神速でギリギリ同じくらいだって言うのに、師範が神速を使ったら、一体どのくらいの速さなんだ?)」

 

時々、鍛錬内容が変わり、遊びであるような鬼ごっこをすることがあった。俺が逃げる方で師範が鬼……しかし初めてはほんの僅かな時間で捕まった。

 

あれは老人がするような動きじゃない、鬼殺隊だった人はみんな歳をとってもあんな感じなのだろうか。おかげで霹靂一閃の応用で移動技を習得できた。

 

 

最近思いついた個人鍛錬は、肺を鍛え、全集中の呼吸を持続している状態で、走り込みや素振り、腕立て伏せ、川で泳いだりしている。

なんと、これがかなりの効果があったのだ。最初は全集中を維持するのがキツかったが、やり始めて数週間も経てば長時間維持できるようになってきた。体力の向上や動きが今までより格段に上がってきているのがわかる。今は寝る時も常に維持できるようになり新記録を出している。

 

勿論、型の鍛錬は怠っていないし、師範との修行も手は抜いていない。

 

「(全集中を常時維持……なかなか良い効果だ。長く走っても疲れづらくなったし、技も長時間繰り出せるようになった)」

燐は瞑想をしながら全集中を維持しており、体中に空気を巡らす。

 

 

「ほぉ、瞑想か……感心じゃのぉ、燐」

 

「うわぁっ⁉︎し、師範⁉︎お、驚かさないでくださいよ!」 

 

 

慈悟郎の突然の声に驚き、燐は危うく全集中を乱す所だった。

 

「いやぁ、すまんすまん。しかし、ただ瞑想をしていただけではなかったようじゃが」

 

「は、はい!全集中を維持しながら瞑想をしていました」

 

「そうかそうか……ん?お主いま、全集中を維持していると?」

 

「は、はい、自分なりに考えて鍛錬をしていたので……もしかして、やってはいけないことでしたか?」

 

「いや、お主がやっていた全集中の維持は“全集中・常中”と言う。まさか独学でやり遂げるとは……!儂、驚いちゃったぞ」

 

「“全集中・常中”……」

 

「燐よ、今……どれくらい続いておるのだ?」

 

「えっと、昨日からです。寝ている時間を含め、今まで維持できています」

 

「一年でここまで……よし!燐、“これから”は指導を厳しくする。儂の全てを叩き込んでやるから覚悟せい!」

 

「えっ、本当ですか!?(『これから』?)」

 

「先ほど言ったように、今までの修行より何十倍もキツくなるぞ、良いか?」

 

「はい!覚悟の上です!必ずやり遂げて見せます!」

 

そして時は最終選別へと移る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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