赤月の雷霆   作:狼ルプス

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第十話

蝶屋敷にから離れて数刻、現在燐は速度を落とし、目的地に向かっている。天気は爽快で雲ひとつもかかっていない。鬼が現れるのは夜だろう。

 

「白、後どのくらいで目的地につく?」

 

「コノ調子デイケバ夕方ニハツクハズダ!」

 

「夕方、ちょうどいいかもな。ん…この気配、もしかして!」

燐は走り出し気配の主の元に向かう。すると人影が見え来た。服の背には「滅」の字があり同じ鬼殺隊隊士だと確認できた。

 

「村田さん!」

 

「えっ、お前…燐じゃないか!どうしたんだ、こんなところで!?」

 

鬼殺隊の隊員村田さん、俺の先輩隊士だ。艶のある綺麗な髪が特徴だからすぐ分かった。 階級は『庚』、人柄も良く、面倒見の良い先輩だ。

全集中の呼吸は水の呼吸を用いているが、言葉足らずの知り合いより技量が無いためか、合同任務の時、日輪刀の色は薄すぎて分からず、型を使った際に周囲に見える水流も薄すぎて見えない。

 

「俺は任務で目的地に向かってる途中で……もしかして村田さんも同じ目的地なんですか?」

 

「お前もか?じゃあ今回はお前と合同任務になるのか」

 

「そう見たいです。ただ、今回の任務、異様にイヤな予感がするんです」

 

「やっ、やめろよな!お前が言うと本当に洒落にならん!?」

 

「ですが、現に鬼殺隊士が十五人以上消息をくらませている時点で、鬼にやられたと見てもいいでしょう。かなりの人を食ったか、下手すれば、“十二鬼月”の可能性もありますね」

 

十二鬼月、それは、鬼舞辻 無惨が選別した直属の配下で、“最強”の十二体の鬼のことである。

 

物事の常として鬼の素養にも優劣があり、優れた者はより多くの人間を喰らう事ができる。

これらの鬼は人喰いにより力を増すだけでなく、無惨から更なる血を授けられることにより加速度的に力を増す。

中でも十二鬼月は数百人の単位で人を喰らう素養があり、その力は通常の鬼殺隊士では文字通り刃が立たない。 そう、通常の隊士では、の話だ。

 

鬼は潜在的に強さへの渇望と、無惨への忠誠を刷り込まれている他、十二鬼月となった者には群れを作るなどある程度の自由が許されることから、十二鬼月に選別される事を至上の名誉としている。しかし、完全実力制のため選別された後も更なる力の鬼が現れ、席位を剥奪される個体もいるみたいだ。

燐も元とはいえ、十二鬼月だった鬼も何体か斬っている。そして文字の書かれていたであろう眼球には傷があり再生する様子もなかった。

 

「十二鬼月…、俺は遭遇したことはないけど、お前、半年でそれを二体倒したんだろ?俺、お前みたいに強くはないからな」

 

「俺はまだまだですよ。村田さんは村田さんなりに頑張ってるじゃないですか」

 

「ハハ、ありがとうな、強いお前にそう言ってもらえると気が楽になるよ。今回も頼りにさせてもらうぞ、燐」

 

「はい、期待に応えられるよう頑張ります」

二人は目的地に向かうため一緒に行動をする。しばらく雑談しながら進む。休日どう過ごしているかとかあいつがあんなんだとか至って普通の会話だ。燐にとってはこの会話も大切な時間の一つだ。

 

―ギュルルルルルル

 

「今、腹なったのお前か?」

 

「そう…ですね。日の位置からしてもう昼あたりですし」

燐は持っていた風呂敷から胡蝶姉妹が作ったおにぎりを取り出す。綺麗な形でとても美味しそうだ。

 

「村田さんもよければ食べます?」

 

「いいのか?じゃあ遠慮なく」

村田さんはおにぎりを一個手に取り口に運ぶ。俺もおにぎりを食べる。

 

「おっ、美味いなこのおにぎり!」

 

「(やっぱり懐かしいな、この味付け。おっ?このおにぎりは、具材が入ってるのか。しかもおかか)」

燐は母が作った味を思い出しながら食べていると、梅干し、高菜などいろいろあった。

 

「(あの二人に今度、甘味を差し入れよう)」

そう思いながら俺達はおにぎりをたいらげる。数個のおにぎりで腹が満たされた。腹は減っては戦はできぬって言うしな。

 

 

 

 

 

 

一人の男が夜の山中に立っている。周りの木々は鋭利な刃物で斬られ、周りは死体だらけで、乾いた血の海が残っている。

男は長い黒髪を後ろで縛り、六つ眼を持った異形の者……さらに額や首元から頰にかけて揺らめく炎のような黒い痣がある。

 そう、その男は人ではなく鬼……。

 

「来たか……」

 

鬼はゆっくり目を開ける。月明かりに照らされたその眼球には両目に“上弦壱”と刻まれている。

 

 他の十二鬼月とは隔絶した力を有するこの鬼は正しく無惨にとっての切り札である。その男が単独でこの山で待ち続けている人物がいる。最近噂になっている鬼狩り、鬼はその剣士に興味があったからだ。

 

「…お前を……待っているぞ…鬼狩りの雷霆…」

 

———————–––––

 

————————

 

—————

 

 

 

 

目的地の山にたどり着いた。日が落ち、辺りは暗闇に包まれる。山はやたら異臭が漂い鼻が曲がりそうだ。村田さんは慣れていないのか、少し顔色も悪い。鬼が行動出来る時間帯になった。勿論緊張感も高まる。

 

 

「なぁ、燐、本当に鬼はいるのか?一向に現れる気配はないぞ」

 

「いや、鬼の気配はあります。なので気は抜かないでください。そうだ、村田さん、少しお願いしてもいいですか?」

 

「なんだ?」

燐は懐から箱を取り出し村田に渡す。村田は突然のことに訳がわからず首を傾げる。

 

「燐、なんだなんだ…これ?」

 

「中身は、注射と数字の書かれた瓶があるはずです。瓶の中身は知り合いが藤の花で作った毒です。」

 

「え?毒?藤の花は鬼が嫌うだけだろ?」

 

「今回はその実験です。俺が鬼の動きを封じるので、村田さんはそれを使って鬼に毒を投与してください」

 

「あ、ああ……わかった」

 

村田は渋々とだが燐の頼みを聞き入れる。

できることなら全部やろうと思ったが、一人では限界がある。村田さんがいてくれて助かった。

 

「っ!村田さん、鬼が一匹、この先にいます。」

 鬼の気配を感知したところ、そう遠くはない。すると辺りは霧に覆われた。

 

 

「き…霧が突然!?」

 

「この感じ……血鬼術か!村田さん、警戒してください。いつ襲いかかってきてもおかしくありません」

 

「わ、わかった!」

村田も日輪刀を抜刀し警戒する。燐は目を瞑り意識を周囲に集中させる。鬼は気配は消しているものの、燐は感知出来る。

 

「(そこだ!)」

燐は刀の柄を握り全集中の呼吸を行う。

 

「雷の呼吸 肆ノ型・遠雷」

 

鬼に放射線状の斬撃を放ち、鬼の両足を斬り飛ばす。

 

「「えっ?」」

 

 

村田さんと鬼から素っ頓狂な声が漏れる。

 

 

「い、痛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

自身の現状に頭が追いついたのか、錆びれた金切り声を上げる。

 

「(十二鬼月……!)」

 

右目には下伍と確認できた。俺はそんなことを気に掛けず、続いて両腕を斬り飛ばして完全に達磨状態にした。

 

「ギャーーッ⁉︎何故だ⁉︎何故俺様の位置がわかっ…ハガッ!」

 

燐は刀身を鬼の口の中に刺し串刺し状態にする。

 

「口を閉じろ。お前みたいな雑魚が十二鬼月?弱すぎるにも程があるだろ。俺の考えが正しければ最近加入したばかりだろう。血鬼術で視界を眩ませていたみたいだが、俺にはお前の位置は丸わかりなんだ。悪いが、お前には少し実験に付き合ってもらうぞ」

 

村田は冷や汗を掻く。先程までの燐と全く別人に思えるくらいの変わりようだ。

 

 

「村田さん」

 

「っ!、なっ…なんだ!?」

 

「こいつが動けない間に、毒を投与してください。早くしないとまた再生して暴れますよ」

 

「わ…わかった!」

 

村田は先程燐に渡された注射器の入った箱を取り出し、鬼に投与した。

燐は症状を確認し、記録を取った後、再び違う薬を投与するよう村田に頼む。鬼が苦しんでも燐たちに罵倒の声を投げかけても無視だ。

 

「ま、まじかよ、鬼が苦しんでる!?」

 

「(成る程、壱の毒は再生を遅らせることが出来るみたいだな。弐は体の麻痺を確認……)」

 

燐は結果をしっかりと記録し鬼の症状を観察する。しのぶの作った三個の内、壱と弐の藤の花の毒は血鬼術を使える鬼でも死には至らないが効果は抜群だと分かった。個体差によって効果も確認したいが、鬼、しかも十二鬼月の鬼に有効だとわかっただけでも、しのぶにいい報告が出来る。

ある意味この毒は連携を取るときには有効だ。この鬼が突如牙を剥かないかだけ警戒しておく。

 

しのぶは薬学や医学に精通している。カナエも医学、薬学共に修めているが、しのぶには及ばないらしい。俺は蝶屋敷に滞在してる間、しのぶに医学に関する授業を受けたが、ある程度の事しか分からなかった。医学、薬学に関してしのぶは知識が豊富だ。

 

「なぁ、燐、この鬼どうするんだよ?」

 

「……後は楽にさせてやりましょう」

 

燐は日輪刀を逆手に持ち鬼の頸を斬る。斬られた鬼が消滅する際、燐は目を瞑り両手を合わせる。

 

俺は鬼を人として、弔う。例えそれが、人間だった頃に罪人であったとしてもだ。

 

「終わった…のか?」

 

「はい、終わりました。っ!この気配は、人の気配!」

 

「あ!おい、待ってくれ燐!」

リンはその場から駆け出し気配のある方へ向かう。村田も燐の後を追う。

 

そして、移動にかかった時間はわずか十数秒、軈て見えてきた。

 

 

「……っ⁉︎な、何だ…これ…一体何が」

 

倒れている無数の人が、無残に倒れていた。中には身体を真っ二つされた者や手足などを鋭利な刃物で斬られた者もいた。しかもこの場にいる人達は全て鬼殺隊員だ。

 

「はぁっ!はぁっ!やっと追いついた!お前早すぎなんだ……よ、なっ、何だよこれ⁉︎」

村田さんも追いつき周りの光景を目にし愕然とする。普通の人なら吐いてもおかしくない光景だが、二それなりに耐性はあるためは吐かずにすんだようだ。

 

 

「だ………だれ、か……い…ない…のか」

かすれた声が中から聞こえた。燐と村田はすぐに声の主を見つけ駆け寄る。

 

「おい!大丈夫か!俺の声が聞こえるか!」

 

「これは……かなりの重症だ。村田さん、急いで手当てを」

 

 村田は隊士を運びおろす。流れている血が、負傷している部分を見てよく判る。命があっただけ良かったとほっとする間もない。村田は布をすぐに出し止血を始める。

 

「村田さん、ほかの人達も確認しましたが、もう死んでからかなり時間がたっています。この人を急いで手当てしないと…」

燐はしのぶからもらった携帯用医療機器を懐から取り出し鎮痛剤を投与する。これなら多少の痛みは和らげられるはずだ。

 

「大丈夫ですか、俺の声が聞こえますか?ここで一体何があったんですか」

 

「う、うう……」

 

 生き残っていたのは、目の前にいる隊士一人だけだった。あの状態で生きているのが奇跡といえるほどだ。

 

「つた、えてく、れ……。この山に来た隊士はほぼ…… 全滅、させられた」

 

「っ……」

 

 それは被害はこの場だけではないと言う内容だった。

 

「じょ、……上……っ」

 

「無理に喋るな!?死ぬぞお前!」

村田さんはもう喋らないよう促すが負傷している隊士はそれをやめようとはしなかった。

 

「上弦の……鬼、が、この山にいる……。そいつは、俺達と同じ……呼吸剣技を使う」

 

「上弦の…鬼?」

 

 

「たの、む……。柱、を、よんでくれ、できることなら……にげろ。たの、む……」

彼は力尽き、開いた目を瞑った。

 

「お、おい!しっかりしろ!」

 

「気を失ったみたいです。応急処置をして、早く運ばないと」

気を失った隊士の応急処置をする為、この場から移動をする為立ち上がろうとするが、

 

「っ⁉︎村田さん!伏せてください‼︎」

突如、殺気を感じ村田に伏せるよう指示した。するとかなり早い攻撃速度と月輪の斬撃が合わさったような斬撃が飛んできた。ギリギリ回避できたが、辺りは木々は綺麗に斬り裂かれ、辺りは見渡しやすくなる。

 

「あ、危なかった。さっきの攻撃は一体……燐?」

 

「………っ」

リンは日輪刀をすでに抜いており構えている。村田もつられて燐の視線の先に目を向ける。

 

 

「今の斬撃……よく避けたな…褒めて遣わす」

月明かりに照らされ、影から姿を表す。長い黒髪を後ろで縛り、六つ眼を持った異貌の鬼だ。さらに額や首元から頰にかけて揺らめく炎のような黒い痣がある。

 

そしてその目には

 

「上弦の……壱⁉︎」

 

 

「…その通りだ…名を黒死牟…と言う…そう言う貴様は……鬼狩りの雷霆か?」

 

「鬼狩りの雷霆?」

上弦の壱、黒死牟は俺のことを「鬼狩りの雷霆」と言ってきた。訳がわからず口に出してしまうが黒死牟は答える。

 

「我ら…鬼の中では…貴様は……そう呼ばれている」

 

「上弦の壱…何故こんな所に貴様のような鬼がいるんだ?」

燐はいつでも動けるように神経を研ぎ澄ませる。今回ばかりは一筋縄ではいかないからだ。

 

「…お前を…始末するため……だが……個人的に…貴様に興味がある」

  

その言葉と共に黒死牟の姿は燐の視界から消えていた。

 

「くっ…!!」

 

 自身の視界から黒死牟が消えた刹那、鍔迫り合いになり刀身から火花を上げる。燐のいた場所からかなり押され地面がえぐれる。

 

「村田さん‼︎その人を連れて逃げてください!」

鍔迫り合いになりながらも村田に逃げるよう指示する燐

 

「お前はどうするつもりなんだ、燐‼︎」

 

「俺は…こいつと戦います!だから、早くその人を連れて逃げてください!」

 

「くぅ!わかった。死ぬんじゃないぞ!燐‼︎」

村田は隊士を背に背負いその場から走り出す。どうあがいても自分ではあの鬼に殺されてしまうとわかっていたからだ。

村田が離れたのを確認した燐は黒死牟から距離を取り全集中の呼吸を行う。

 

しかし先手を打ってきたのは上弦の壱の方だ。

 

 

「月の呼吸 壱ノ型・闇月・宵の宮」

異次元の攻撃速度と月輪の斬撃が合わさり燐に放たれる。

 

「(雷の呼吸 伍ノ型・熱界雷!)」

即座に体が反応し動いた。俺は下から上に斬り上げ、なんとか斬撃の軌道を逸らすことに成功した。

 

「(月の呼吸?聞いたこともない呼吸、まずいな…それに一撃でこの重さ…日が昇るまで持ち堪えられるか…)」

 

『諦めるな、燐‼︎』

 

「っ!師範?」

突然、頭の中に声が響いた。燐は幻聴だと思ったが確かに聞こえた気がした。

 

「(そうだよな、ここで諦めたら、何もかも終わりだ。師範、ありがとうございます!)」

燐は深呼吸をし腕、に力を込める。

 

「雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃・神速」

前傾の居合の構えから一瞬で敵と間合いを詰めて、すれ違い様に一閃する。 が、しかし、

 

「……ほぉ…見事な…居合いだ」

黒死牟は何ともない様子だった。しかも傷一つもついてはいなかった。一瞬だったが、俺の居合いの剣筋を受け流しやがった。

 

「お前に褒められても嬉しくはないな」

 

 そう言うと燐は刀を構える。対する黒死牟は上段の構えを取り、両者から今まで以上の剣気が迸る。

 

「…来い…鬼狩りの雷霆…」

 

「…行くぞ、黒死牟!」

 

二人の戦い、いや、生きるか死ぬかの殺し合いが始まった。

 


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