赤月の雷霆   作:狼ルプス

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第十一話

山から離れた場所、そこには二人の隊士がいる。一人はサラサラヘアーが特徴的な村田と、負傷している隊士だ。

殺し合いに巻き込まれることなく山から離れる事が出来た村田は、負傷した隊士の応急処置を始める。その際、村田は鴉を呼び寄せた。

 

「緊急伝令だ!上弦の鬼の壱が現れた!桐生 燐が一人で応戦中!至急応援を頼むと!」

 

「マカサレタ!」

村田の鎹鴉は飛び出す。その間、村田は負傷した隊士を治療しながら山の方を見る。

 

「(燐は今、上弦の壱と戦ってるのか、たった一人で……今の俺の実力じゃ足手纏いになる。無事でいてくれよ……燐!)」

 

 

 

 

 

 

 

上弦の壱…黒死牟との死闘を繰り広げる中、燐の身体からは血が流れている。重症までとはいかず、まだ動きが衰える気配はない。

 

黒死牟の動きは一切の無駄がない。正に“侍”そのものだった。

 

上弦の壱相手に日が昇るまで戦うなんて今の俺では不可能だ。ましてや逃げることも無理だろう。いや、俺は敵に背を向けるつもりはない!

 

 

 

「月の呼吸 弐ノ型・珠華ノ弄月」

 

斬り上げるげるようにして三連の斬撃を放ち、燐を取り囲む。

 

「(雷の呼吸 弐ノ型・稲魂!)」

燐は弐ノ型で、なんとか攻撃を受け流し回避するが、新たな傷ができるだけだ。

 

「(クソ!あいつ、あれだけの攻撃を仕掛けているのに平然としてやがる。流石上弦の壱だけのことはある。俺の攻撃が全く通用しない)」

 

距離をとっても黒死牟の技は簡単に届く。接近するしか手はない。

 

黒死牟から剣筋により生まれる無数の月の斬撃、それが上弦の壱の特異性だ。重症を負った隊士の情報通り、鬼にして全集中の呼吸の使い手なのだ。技の精度,速度,威力は他と比べ物にならないくらい脅威だ。

 

 

「(雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃・神速・五連!)」

 

 

俺の剣筋と抜刀術…霹靂一閃・神速の連撃から弐ノ型稲魂五撃を続けて放つ。

 

燐は、上弦の壱への攻撃の手を緩めない。剣を止める事なく高速の剣撃を放つ。

 

しかし、相手の攻撃は聞いたことのない呼吸…"月の呼吸“と言う剣技だ。血気術を混ぜているのか、攻撃範囲が広範囲の型であるため、鬼の剣戟が俺の体を傷つける。

 

刀を振るわずとも発生する斬撃を身をひねって躱し、刀をこれでもかと高速で振るった致命傷となり得そうな斬撃だけを防ぐ。雷の呼吸で最も手数の多い陸ノ型でも全て防げそうにはない……「今、ある型」での話だ。

 

ここまでの攻撃で、かすり傷を負わせるものの、上弦の鬼は今までの鬼より再生が早く一瞬にして治る。四肢の一つも奪えない。しかも相手は無数の斬撃を平気で使ってる。

 

燐の体から更に血が流れる。もはやまともに立っていられるのも時間の問題だ。

 

 

「……ここまで見事なものだ」

 

「はぁ…はぁ…はぁ」

 

傷はそこまで酷くはない、出血量は少ないが、出血箇所が多い。時間が経ち、貧血が起こり倒れてもおかしくはない。今の状況で止血の呼吸をさせてくれる程優しい相手ではない。

 

使うしかないか、漆ノ型を……。

 

 

シィィィィィィ

 

「(雷の呼吸 漆ノ型・雷切り!)」

 

 

「…っ⁉︎」

 

黒死牟は一瞬驚く程の、精密で神速かつ静かな抜刀術だ。この技により、すれ違い様に斬る。黒死牟の頸に傷を入れることはできなかったが、身体に傷を入れることができた。

 

 

「ほぉ… 雷の新たな型…か、私が戦った剣士で…雷の新たな型を生み出した者は初めてだ……ん?」

 

突如、黒死牟の両腕が落ちた。

 

「(今だ!)」

 

──雷の呼吸・六連!

 

両腕を斬り落とし、刀から手が離れた瞬間、壱ノ型からの陸ノ型まで連続に技を繰り出す。黒死牟の周りで一つ一つの技を放った。

 

連続で放ち続け、背後から斬りかかり稲妻の斬撃が迫る。しかし

 

「月の呼吸 伍ノ型・月魄災渦」

 

黒死牟から無数の斬撃が放たれた。燐は予想外のことに回避が出来ず、月の斬撃を受けてしまう。

 

「グッ⁉︎(こいつ…刀を持たずに斬撃を⁉︎)」

 

俺は黒死牟の斬撃を受け流すことができず、鮮血を散らしながら地に倒れる。

 

血溜まりが辺りに広がる。この状態で意識があるのが不思議なくらいだ。

 

出血量が先程の比じゃない。

 

ここまでしても、上弦の壱の頸に刃は届かない。

 

「先程は……見事な剣技だったが……痣も発現していない状態では……所詮こんなものか」

 

 

「(ッ!両腕がもう再生して……)」

 

黒死牟の両腕は既に再生していた。上弦の鬼の再生は瞬きする一瞬でできるらしい。

 

 

「(痣の発現?なんのことだ。しかし不味い、このままでは、死ぬ。出血も相当なもだ。やばい…意識が、遠退いて)」

 

 

『………約束だからね/ですよ』

 

ふと二人の声が聞こえた気がした。

 

 

「(ッ!……死ねない、こんな所で死んでたまるか!)」

 

俺には死ねない。二人に約束したんだ、“また今度”って。

ならば立て!このまま寝ていても死ぬ!!諦めるな、桐生 燐!!!立つんだ!!少しでもある可能性を信じて!!!

 

「…鬼狩りの雷霆…貴様…鬼に……なるつもりはないか?」

 

「は?何を…言ってるんだ、お前……?」

 

息も絶え絶えで、足も震える。この隙に止血の呼吸で、できるだけ出血を止める。

 

俺はまだ動ける。呼吸もできる。刀も振るえる。周りもしっかり見える。重症だが、だからと言って、退くわけにはいかないし、死ぬわけにもいかない。

 

 

「鬼狩りの雷霆……ここまでの打ち合い、この実力であるならばすぐに十二鬼月にも迎え入れられるだろう」

 

黒死牟が口を動かしている間に止血の呼吸を続ける。すぐに動けるよう体勢を整える。

 

「悪いが……お断りだ。鬼になるくらいなら戦って死んだほうが…マシだ。生憎俺は、爺さんになるまで生きたいんでな、鬼になる気はない」

 

「そうか……残念だ」

 

黒死牟は剣を構える。俺も全集中の呼吸を行う。

 

 

「(雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃!)」

 

「……ならば死ね」

 

月の呼吸 拾肆ノ型・兇変・天満繊月

 

攻撃範囲が更に広範囲になり接近はおろか、回避も非常に困難な斬撃が迫ってくる。

 

 

「(不味い!これじゃあ回避しようがない!くそ!ここまでか!!ごめん、カナエ、しのぶ、約束…守れない——!)」

不思議と燐の見ている世界はゆっくり動いているように見えた。もう死を受け入れようとしていたが、ふと頭の中の思い出が流れてくる。

 

 

———————–––––

 

————————

 

—————

 

『お父さん、逃げようよ!あいつ、最近町で噂になってる人食い熊だよ!」

 

なんだこれ……これは過去の記憶?周りは山中で雪が降り積もっていた。

そして少し離れた場所に父さん…桐生 未来が大きい熊と対峙していた。

しかも武器も何も持たずにだ。すると熊は父さんに襲いかかる。

 

『お父さん‼︎』

 

燐は食われると思い目を手で隠す。すると、

 

ドコン!と鈍い音が鳴り響いた。

燐は覆っていた手を退けると、熊は宙を舞っていた。父を見ると体勢から見て熊を片足で蹴り上げたのだ。

 

熊を蹴り上げ、宙に浮かせ空中に浮いた熊の背後を取り、回し蹴りで熊の脇腹を蹴る。その反動を利用して一回転し反対側から殴りかかって、熊の上に回り、熊の腹にまた回し蹴りを叩き込む。

 

熊は地面に叩きつけられた。熊はぴくりとも動く気配がない。

当時の俺は信じられなかった。熊を武器を持たずして圧倒した父の姿を見てその場で動けずただ驚いていた。

 

 

『燐!出てきていいぞ!』

燐に笑顔で顔を向け出てくるよう言ってくるが、燐は近づこうにも近づけなかった。

父の右眼は別の何かに変化していたからだ。赤い瞳に、瞳孔の周りには輪ができ、その上に黒の勾玉模様が三つあった。燐は未来に近づき、右眼を見ながら父に問いかける。

 

『お父さん、右眼が!』

 

『ん?ああ、燐は見るのは初めてだったな。この目は俺の先祖に代々伝わるものでな。ある条件で開眼する眼だ。燐も開眼したら教えてやるさ……あまりいいことじゃないんだがな』

最後の方は聞き取ることが出来なかった燐は首を傾げるが、父は右眼を元の目に戻し一息を吐く。

 

 

『さて!早くこの熊解体して、肉を持ち帰ろう!今夜は熊鍋だ!』

 

『うん!』

この時の父は、眼の事は少ししか話してくれなかった。

 

ある時のことだった。

 

 

『燐……お前、父さんの右眼、どう思う?』

家の縁側で父さんと話していた時だった。庭先には母さんが洗濯物を干している。

 

『んー?綺麗だと思う。だって赤いお月様みたいだから!』

 

『はは…赤いお月様か。……いいか燐、この眼は普通の眼じゃない。人生何が起こるかわからないし、父さんも色々あった。後悔したことやあの時ああしておけばよかったとか思ったこともある。でもいいか燐、過去は変えられないが未来は変えられる。お前がもしこの眼を開眼したら———」

 

 

この意思を、繋いでくれ、燐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!」

 

燐は意識を眼に集中させると、両眼が父やカグラのように変化した。それに続き、リンは壱ノ型の呼吸から別の型の全集中の呼吸を行う。

 

シィィィィィィ

 

「(雷の呼吸 捌ノ型——)」

 

日輪刀を抜刀し刀身に雷が纏い、まるで鳥のさえずりの様にチチチチ・・・と音を発する。その新たな型名は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──千鳥!

 

 

 

 

そんな蒼い雷の刀身は月の斬撃を斬り裂き、雷を纏った刀を振るい、リンは黒死牟に接近する。

 

「(こいつ…私の斬撃を…斬り裂いただと⁉︎)」

黒死牟は動揺を隠せなかった。しかしすぐに切り替え、攻撃の手を緩めない。

 

「月の呼吸 陸ノ型・常世孤月・無間」

一振りで広範囲かつ縦横無尽に無数の斬撃を放つ。

無数の斬撃が迫る中、燐は赤い瞳で斬撃の軌道を見切り、月の斬撃を避ける。避けるのが難しい斬撃は千鳥で斬り裂いていく。

 

「(なんだ、この感じ……!?相手の動きがわかる。どう動いたらいいのか明確にわかる!)」

 

月の斬撃を掻い潜り黒死牟に迫っていく。

 

「(この男!陸ノ型を……当たらずに掻い潜ったのか⁉︎)」

 

「(こいつを今ここで倒す!この好機、逃すわけにはいかない!)」

 

黒死牟は焦り始め距離を取る。しかし燐はそれ許さず追撃する。

 

「(何故だ……!動きが急激に良くなってきている…なんなのだ……あの赤い瞳は!?)」

暗闇のためか燐の瞳は赤く発光している。今の黒死牟は目の前にいる剣士の赤い瞳が不気味で仕方なかった

 

 

「(月の呼吸 弐ノ型・珠華ノ弄月!)」

黒死牟は斬り上げるようにして正面に三連の斬撃を燐に放ち、月輪の斬撃で取り囲む。しかし……

 

燐の高速の雷刀の剣筋が黒死牟の月の斬撃を全て斬り裂く。

 

「(あいつの剣筋が見える。踏ん張れ!もう少しだ、もう少しで奴の頸に届く!)」

 

「(なんなんだ……一体なんなのだ…‼︎)」

 

 

 これにはさしもの黒死牟も驚愕を隠しきれない。先程までの状況が一気に逆転してしまったからだ。次の攻撃を放つことなく燐を鋭い六ッ目で凝視する。

 

 気に入らない……

 

 この戦いの果て、黒死牟が燐に抱いた感情だった。

 

 ここまでの黒死牟なら自身の攻撃をこれ程防いだ敵が居れば惜しみない称賛を送っていた。

 だが今の黒死牟にはそのような考えなど微塵たりともない。今、黒死牟に有るのは眼前の敵への怒り、

 

 そして、嫉妬だ。

 

 そして、今の燐の赤い瞳が……赤い月が照らしていたあの日、黒死牟が最も憎んだ剣士が鮮明に浮かんでくる。

 

————— おいたわしや…兄上

 

忌々しい… 忌々しい忌々しい忌々しい忌々しい‼︎

 

数百の時を経てもお前は俺の記憶から消えぬのか……縁壱‼︎

 

 

「(っ!、なんだこれ……あいつから怒り?嫉妬?いろんな感情が混ざった気配が!?)」

燐は黒死牟に迫りながらそんな気配を感じた。しかし燐は止まらない。走り続け、剣を振るい、黒死牟に迫る。

 

 

──月の呼吸 玖ノ型・降り月・連面

 

しかし黒死牟は剣を振り、対象に降り注ぐような軌道の複雑かつ無数の斬撃を放つ。その影響で辺りは土煙が舞い、視界が防がれる。

 

 

「終わった……」

あの斬撃を避けたものは今までいない。黒死牟はこの場から去ろうとしたが、煙の中から何かが飛んできて黒死牟は反応できず足に刺さる。

 

「(これは…刃折れの刀身!?まさか!!まさかッ!!)」

黒死牟は煙の方を見ると中からゆらゆらと動く二つ赤い光が見えた。そして中から、黒紫の何かを覆い、髪の色が白に変わっていた燐が勢いよく飛び出てきた。飛び出た瞬間それはすぐに消え髪の色は戻った

 

「(信じられん…玖ノ型でさえも見切ったとでもいうのか⁉︎それよりも……一瞬だったが……何故奴から鬼の気配がしたのだ⁉︎)」

 

「おおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」

 

「クッ!月の呼吸 伍ノか…っ!(な、なんだ……体が動かん⁉︎)」

黒死牟は迎撃の為に、型を繰り出そうとしたが体を思うように動かすことができなかった。しかし黒死牟はすぐに原因を理解した。

 

「(この感じ……藤の花!まさか…先程の刃折れの刀身に毒を仕込んでいだとでも言うのか⁉︎……っ⁉︎)」

リンの雷の刀身が頸に迫り黒死牟の頸に剣が入る。

 

「(馬鹿な…こんな事が…認めぬ……認めんぞッ‼︎)」

 

「斬れろォォォォォォォ――――ッッ!!!」

 

刀身に雷の他、蒼炎が纏い、燐は剣を振り抜き、周りに蒼炎の雷が、円を作る。

 

 そして────

 

 

 

 夜空に、月明かりが照らす中、一匹の鬼の頸が鮮血と共に舞った。

 

 


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