赤月の雷霆   作:狼ルプス

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第十二話

現在燐はうつ伏せ状態で倒れている。黒死牟の頸を斬り落とした後、力尽き倒れたのだ。意識はあるが、その場から動けない状態なのだ。

 

「はぁ、はぁ……勝った、のか?」

黒死牟がどうなったか気になるが、体を動かすこともままならない状態だ。気配を探ろうにもそんな余裕は今の燐にはない。

 

「(とにかく止血だ……)」

燐は止血の呼吸を始め、血が多く流れている場所から止血をする。

 

「(まずい、呼吸は出来るが……もう体を動かすこともできない。一瞬だけアレを解放したから尚更だ)」

すると俺の前に鴉が降りてきた。しかしそれはただの鴉ではなく白色の鴉だった。俺はこの鴉を誰よりも知っている。

 

「燐!無事か⁉︎」

すると村田が燐の元に駆けつけたのだ。おそらく白に案内されたのだろう。

 

「村田、さん?」

 

「よかった!生きてる!って、お前その目どうした⁉︎それより鬼はどうなった⁉︎」

村田は燐の発光してる赤い目を見て驚きながら抱える。そして村田は燐の表情を見て確信した。

 

「お前、まさか倒したのか、上弦の鬼を⁉︎」

 

「はは、はい、ギリギリ、でしたけど、倒せました。」

 

「確かに……死んでる。鬼の体に頸はない」

燐は村田の言葉を聞き顔色を悪くする。

 

鬼の体に頸はない?消滅したの聞き違いか。

 

 

「村田さん……今、なんて?」

 

「え?確かに死んでるな……って!」

村田は振り向くと信じられないものをみてしまった。

 

 

 

先程倒れていた上弦の鬼の体が……”頭無し"に立っていたのだ。

 

 

 

 

「人間如きが、痣すら発現させてない者がよくぞここまでやってくれたものだ」

黒死牟は頭を再生しかけていて、口の方まで再生していたのだ。

 

「なんで……お前の頸は斬ったはずだろ⁉︎」

信じられない光景を目の当たりにしたが、何とか声を振り絞れた。

 

「何か勘違いをしているようだな……鬼は頸を斬り落とされれば死ぬと思っているようだが……例外もある、と言う事だ」

 

「(こいつまさか、頸が弱点じゃなくなっているのか⁉︎)」

まずい、もはやなす術もない。俺はもう動けないし村田さんじゃ勝つこともできない。

 

「燐、掴まれ!逃げるぞ‼︎」

村田さんはこの場から逃げるため動こうとするが、黒死牟は既に頭の半分まで再生していて俺達の姿を捉えていた。

 

「逃すとでも思うか?」

 

黒死牟は刀を持ち攻撃をしようと、剣を構えて技を繰り出そうとする。

 

「(こんな所で…こんな所で、死んでたまるかぁぁーーーっ!)」

燐は赤い瞳で黒死牟を睨むと、突如、黒死牟の体から黒い炎が燃え上がる。

 

「…っ⁉︎グァァァァァァッ‼︎なっ、なんだこれは⁉︎」

 

突然のことに村田は更に困惑する。そして、燐の瞳から血が流れ、そのまま力尽き、意識を落とした。

 

「(な、なんだかよくわからんが…逃げるなら、いまだ!)」

黒死牟が黒炎にもがいている間に、村田は燐を背負い離脱を開始する。燐は意識を失って、ぐったりしている。

 

この時、燐は気付いていなかった。

 

赤い瞳の勾玉模様が別の模様に変化していたことに……。

 

 

上弦の壱・黒死牟、鬼殺隊・甲・桐生 燐の戦いは、複雑な結果で終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

朝日が完全に昇り、なんとか日にあたる場所から離れた黒死牟は着ていた羽織を脱ぎ捨てなんとか炎上するのは回避できたが、その黒炎によって負った火傷がなかなか再生しなかった。

 

 

そして今ある場所で黒死牟は報告をしていた。

 

「黒死牟。貴様は鬼狩りの雷霆を始末する事も出来ず、取り逃して戻って来たというわけか?」

 

「…申し訳‥ありません…」

 

 目の前にいる男の名は鬼舞辻 無惨…千年以上前に、一番最初に鬼になった人喰い鬼の原種にして首魁だ。

拠点である無限城にて、黒死牟は頭を垂れ平伏し自らの主と対面していた。

 

「上弦の壱はいつからそこまで墜ちたのだ? 私は貴様を信用して確実に鬼狩りの雷霆を始末するために命令を出したというのに」

 

 主である無惨から黒死牟に注がれる視線には怒りも含まれていた。そして、心の底からの呆れと軽蔑も。

 

「貴様を信用し過ぎた私の間違いだったようだ。鬼狩りの一人の始末も貴様には荷が重かったのだろう」

 

「…ッ!!」

 

「何だ? 何か言いたい事が有るのなら言ってみせろ? 貴様は上弦の壱でありながら一人の鬼狩りの始末をしくじった。これに何か間違いでもあるのか?」

 

「…いえ…何も……間違ってはおりません…」

 

 黒死牟は歯を食い縛りながらも、無惨の言葉に平伏し続ける。

 

「…失せろ黒死牟。今貴様を見ていると虫唾が奔る」

 

「お待ち下さい……無惨様…お伝えしたい事が」

 

「私は失せろと言った。私の命令に逆らう気か?」

 

「鬼狩りの雷霆についての事です。今後我らにとって脅威的な存在になるのは確かだと……思われます。鬼狩りの頸よりとても貴重な情報……かと」

 

「ほぉ、ならばその情報を言ってみるがいい」

 

「はっ、鬼狩りの雷霆の瞳…両眼は…暗闇に光る赤い瞳…瞳孔の周りには輪があり、その上に三つの“黒の勾玉“がある模様へ変化しており……私の技を見切っておりました」

 

「黒死牟、貴様………今何と言った?」

 

「………無惨様?」

 

「赤く光る……瞳……黒の勾玉模様をした瞳だと…………!」

無惨の表情は、誰からも分かる様に怒りの表情に塗りつぶされていた。

 

次の瞬間、無惨から出てきた針が黒死牟の首に刺さる。

 

「ぐっ……!あがっ……!」

 

「私の血を更に与える。貴様ならすぐに順応するだろう……次は必ず鬼狩りの雷霆を始末してみせよ」

 

「ぎょ……御意」

無惨は三味線の音と共に黒死牟の前から消えた。

 

黒死牟は立ち上がり、その場から姿を晦ます。

 

「次こそは……必ず貴様を殺してやる……鬼狩りの雷霆‼︎」

 

六つの目を限界まで見開き、その心中に煮えたぎった怒りをあらわにする。

 

 

 

 

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ポチャン

 

 

 

ポチャン

 

 

「っ!なんだ…ここ?」

響く雫の音に、燐は目を覚ました。辺りは暗闇に包まれ、自分のいる位置だけ水の波紋が広がり薄明るい青い水の空間が広がっていた。

 

「ここは一体、俺は……死んだ?」

 

「死んでおらん、“天照”を使った後、意識を失ったんじゃ……お主は」

状況を整理していたら誰かに声を掛けられた。振り向くと勾玉模様の入った白い羽織を身に着けた女性、そして瞳は……赤かった。

 

瞳孔の周りには輪がかかり、その上に黒の勾玉模様が三つあった。

 

 

「今まで魂の霊体として血縁者に数百年憑依してきたが、こうやって対話をするのは初めてじゃな……」

 

「貴女は……カグラ⁉︎」

俺は彼女の姿を見た途端名前を口に出す。夢で見た内容だっだが、衝撃が強かったので記憶に残っている。

 

「…⁉︎、お主…何故私の名を?」

 

「えっ、あ、いや、夢で…あなたが鬼舞辻 無惨と戦おうとした場面を見たから……」

 

「(此奴…私の記憶を……おそらく私の血を濃く継いでいるな。両眼を開眼しただけのことはある)」

 

「なぁ…ここは何処だ?なんで死んでいるはずの貴女が俺の目の前に?」

 

「そうじゃな、一応自己紹介するか。私はカグラ、一応鬼じゃ。ここはお主の空間、いわば内面の世界のようなものじゃ、お主の言った通り、私は生きている存在ではない。私は魂の霊体としてお主に宿っておる」

 

「え……霊体?宿ってる?魂?なんか気味が悪いな……数百年もそうしていたのか?」

幽霊や地縛霊の類と似ていて、燐は少し冷や汗をかいてしまう。

 

「私も好きでこんな存在になったわけではないわ。後一歩の所で無惨に勝てると思ったが、隙をつかれやられたんじゃ。いつのまにかこのような空間にずっとお主の先代から続いていたんじゃ。そして今世はお主じゃ」

 

「俺に?と言うか俺の先祖からって、じゃあ、前に宿っていた人は?」

 

「お主から言うと曾祖父さんじゃな」

曾祖父さん。俺には祖父母はいなかったからどんな人物かは知らない。俺が聞きたいのはそんな事じゃなかった。

 

「貴女にどうしても聞きたい事がある……俺の父さんもそうだったが、あの瞳は何なんだ?ただの変化するだけの眼じゃないだろ」

カグラは一変して雰囲気が変わる。先程との空気が変わり、緊張感が増した。

 

「その様子だと、お主、気付いているようじゃな。私の血、鬼の遺伝子を継いでいることに」

 

「……そうか」

不思議と驚きはしなかった。あの夢を見て何となくは察していたからだ。

 

「だからと言ってお主は鬼ではない。私の力を大きく継いでいるだけのこと、そうでなければ日の下には立てんからな」

 

「そうだな。次の質問だが、意識を失う前、村田さんに言われて気付いたが、なんで俺は貴女のように両眼が変化したんだ?」

燐は両眼を変化させ、カグラに問う。

あの時、戻ってきた村田さんが「その眼どうした」と言った。あの言い方だと、片目だけではない事が今ならはっきりわかる。

 

「その瞳の名は写輪眼。両眼開眼したのは、お主が私の力を濃く継いでいることもある。今までのやつは片目だけの開眼だった。しかし開眼しなかった者もいた。そしてお主は…私と同じ領域に辿り着いている。」

 

「同じ領域?どう言う意味だ?」

“同じ領域”という言葉、俺には訳がわからなかった。すると、カグラは瞳の勾玉模様を六芒星の形に変化させた。

 

「そ、その形は……」

 

「先程のやつよりも上の段階じゃ。そうじゃなぁ…万華鏡写輪眼とでも言おう。形は違うが、お主もできるはずじゃ、天照を使えたのがいい証拠じゃからのう」

 

「え……俺が?って言うか…“天照”って?」

 

「天照はこの瞳の状態で使える血鬼術の一つじゃ。ただこの瞳の開眼は条件があっての。お主は経験した筈じゃ。私はずっとこの中でお主を見守り続けた」

 

「その条件は……」

俺は息を呑み返答を待つ。しかし内容は残酷な物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最も親しい友を殺すこと」

 

「……⁉︎」

燐は頭に鈍器を叩きつけられたくらいの衝撃が走る。そして脳裏に、忘れたくても忘れられない友の姿が映る。

 

『ありがとな、燐……お前のおかげで、人として……心はここに置いていける』

日輪刀で胴体…正確には心臓に位置する場所を貫いており返り血が燐に付着する。そして彼は…日の光と共に消滅した。

 

 

「………っ」

 

「お主は気付いておらんようじゃが、写輪眼を開眼したのは、両親が殺された日。そして万華鏡写輪眼は……言わずとも分かるであろう」

 

「…ああ、分かってる」

燐の瞳からは涙が流れ、勾玉模様は別の形に変化していた。

ほんの数ヶ月前、俺は、戦いの果てに鬼化してしまった友を自分の手で殺した。鬼の血が入り込み鬼となってしまった人間を人に戻す方法は現段階では無い。

 

 

「そろそろ本題に入る。お主にはこの眼の能力、そして、私が使っていた呼吸も叩き込まなきゃいけないからのう。二度と言わんからしっかり覚えておくのだぞ」

 

「……っ、全集中を使えたのか、わかった……頼む」

 

燐は袖で涙を拭い、カグラに眼の力について説明を受ける。

この赤い瞳…写輪眼は相手の動きを模する。簡単に言えば真似ができるらしい。相手を幻術にかけることもできる。ただし対象が写輪眼の瞳を見ないと幻術にはかからないそうだ。

写輪眼は特に動体視力に優れ、見切りに秀でた性能を持つ。あの時、黒死牟の動きを見切れていたのはこの能力のお陰らしい。

 

万華鏡写輪眼は全ての面で写輪眼を凌駕するものであり、この形でのみ使用が可能となる能力もあるらしい。

先程カグラの言っていた天照などがそうだ。しかし今の俺では目に負担が大きいため使用回数は少ない方がいいとの事だ。

 

そしてカグラの使用する呼吸は鬼化状態でないときついということも。

 

「以上じゃ……何か質問はないか?」

 

「万華鏡写輪眼だが、天照以外に他に能力はあるのか?」

 

「まぁ、あるにはあるのじゃが、今のお主では負担が大きいからのう。時が来たら教える。他はお主自身で編み出すかじゃ、(まだ使いこなせてはおらんが、鬼の力を解放できているようじゃな。こやつ、将来とんでもない剣士になるぞ)」

 

「分かった。ありがとうな。色々と教えてくれて」

 

「……燐よ、お主に聞いて良いか?」

 

「…?なんだ」

カグラは少し複雑そうな表情で燐に問う。

 

「私は鬼じゃ……一人の男を愛し、子を身篭り、そしてお主の代まで続いた。人間ではないものがお主に混じってしまっている。私は、お主に不幸を与えたのかもしれ「“カグラ様”」…っ」

 

「貴女は無惨に言ったでしょう?『心は人間だ』って、俺は貴女を信じた。鬼であって無惨に立ち向かった貴女残した意思は、ここに残ってる」

燐は手を自身の胸にあてカグラに言う。カグラはそれを見て笑みを浮かべる。

 

「…そうか、今世は面白いことになるかもしれんな」

 

「あんまり期待はしないでくださいよ。それよりここからどう出ればいいんですか?」

 

「ここをまっすぐ行けば現実に戻れる筈じゃ。ただし……お主がこの空間にいる間は現実の進んでいる時間と異なる」

カグラ様は俺の背後を指差す。そして道を確認した後、ご先祖の方に顔を向ける。

 

 

 

 

「色々とありがとうございました」

 

燐は指差された方向に、現実世界の方に道を進み始める。

 

 

「(これからお主が、どの様に成長するか見せてもらうぞ……我が子孫よ)」

 

 

カグラは楽しみそうに笑みを浮かべ、内心で燐の成長を楽しみにしていた。

 

 


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