赤月の雷霆   作:狼ルプス

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第十三話

瀕死状態だった燐が蝶屋敷に運ばれてから四ヶ月経った……。

 

胡蝶姉妹が、村田と隠に運ばれた2人の内一人を見て、仰天した。二人の見知った顔だったからだ。身体中血塗れでいつ死んでもおかしくないくらいの重症だった。もう一人の隊士も重傷であるものの、村田や隠の応急処置の甲斐あって一命は取り留めた。しかし、燐は油断も許されない状態だった。

 

緊急手術により、なんとか一命をとりとめたが、治療を受けてから未だに目を覚まさなかった。村田から話を聞いたところ、十二鬼月…しかも最強と言われる上弦の壱と一人で戦ったとのことだ。

「燐が上弦の壱と一人で戦い、瀕死状態で帰ってきた。そして、未だ意識がまだ戻ってない」と鬼殺隊中に広まると、燐に関わっていた者達…音柱である宇髄 天元や炎の呼吸の使い手である煉獄 杏寿郎が蝶屋敷に見舞いに来た。村田は毎日見舞いに来ている状況だ。

 

 

「燐くん……目を覚まして」

 

カナエは未だに眠り続ける燐の手を握り、早く目を覚まして欲しいと祈っていた 。

 

「燐さん、まだ……起きないわね」

しのぶが水の入った桶を持って病室にやってきた。タオルを水に濡らし眠っている燐の額に置く。

 

「…うん、だいぶ落ち着いてきたから大丈夫よ」

 

「姉さん、ちゃんと寝てるの?任務が終わって夜遅くに帰ってきても燐さんのそばにずっといるでしょ?」

 

「しのぶこそ、私がいない時は燐くんのそばにいるじゃない」

 

「姉さんみたいに一晩中そばにはいないから」

 

「そう、しのぶは大丈夫?一日中薬や毒の研究してるじゃない」

 

「私は大丈夫……燐さんが実験に使った毒の成果を見てジッとしていられないの。いつか燐さんの隣で戦えるようになりたいから」

治療後、燐の着ていた服の懐から、毒の効果について書かれた資料が出てきた。しかも使った対象の鬼は十二鬼月の下弦の伍だ。

死には至らなかったが、それでもしっかり効果があると正確に記されていた。

 

「私の作った毒が十二鬼月に有効だって分かったからには、鬼が絶命する毒を完成させないと、燐さんの為にも」

 

そう言いながら、しのぶは燐のもう片方の手を握った。

 

「しのぶ……、気持ちはわかるけど、無理はしちゃだめよ」

 

「分かってるわよ……無茶はしない程度でやってるから」

しのぶはあれ以来、毒の成果を見て、あの時以上の物を作り出そうと試行錯誤を繰り返している。

 

「しのぶは、燐くんのこと、好き?そんなに頑張っちゃって」

 

からかい気味にカナエはしのぶに問いかけた。

 

「べ、別にそんなんじゃない!尊敬はしてるけど……姉さんこそどうなのよ?」

しのぶは否定するが、顔と耳が赤くなっており、嘘だとすぐにわかる。それくらいわかりやすいのだ。

 

「私は……好きよ……。違和感を持ったのは最終選別の後だけど、気持ちに気づいたのは、あの表情を見た時かしら。それに……いつも男の人を警戒していたしのぶが、『尊敬してる』なんて理由で男の子の手を握ってあげるかしら?」

 

「………」

 

「うふふっ、しのぶは嘘をつくのが下手ね」

 

一人の男性が恋人を共有するのは確かに一般的な恋愛ではない。戸惑う気持ちも分かる。しかし噂によれば音柱である宇髄 天元は奥さんが三人いると聞いた事がある。自分の感情だからといって簡単に整理できるわけでもない。

 

「お見舞いに来てくださった音柱様みたいな家庭もあるから、きっと大丈夫よ」

 

「そう言う問題じゃない!」

ついいつもの調子でしのぶは大声を出した。それが聞こえたのか、カナエが握っていた燐の手がぴくりと動いたようだ。

 

「……ぅぅ!」

 

手を握っていたカナエにはしっかりと握った感覚と声が届いた。姉妹は顔を見合わせて、パッと弾かれたように燐の顔を見る。

 

そして、閉じていた目が数度震え、燐の目はゆっくりと開く。視線を動かし目の前にいる人物を確認する。

 

「……カナエ、しのぶ……か?おはよう」

 

「燐さんっ!!」

 

四ヶ月の間、目を覚まさなかった燐が遂に覚醒した。

 

「っ、燐くん!!」

 

「……いたい、心配……かけて悪かったな…カナエ、しのぶも」

 

なんとか言葉に出すが喋るのがキツそうな様子だ。燐は、突然胸に飛び込んできた痛みを耐えなんとかカナエを受け止めた。カナエは涙を流しながら燐を抱きしめていた。しのぶも同様涙を流し両手でリンの手を握る

 

「心配したんですよ!本当にあの時……死んじゃうのかと思ったんですから‼︎」

 

「……約束を守れずに、死んでたまるかよ」

 

辺りを見渡して、蝶屋敷の病室にいる事がわかった。俺が意識を失った後、おそらく村田さんが蝶屋敷に運んでくれたのだろう。もし村田さんが戻ってきてくれなかったら俺は死んでいたかもしれない。

 

しかし問題はそこではない。

 

「あの、カナエ…すまないが…離れてくれないか?」

 

「いやだ……四ヶ月も……ずっと心配したんだから……」

 

「……カナエ…ホントに……離して……くれないか、そろそろ……げん……かい」

 

未だに胸元で泣いているカナエを離そうとするが思いのほか強く抱きしめていた。その為、今の燐にはカナエを引き剥がす力はない。

目を覚ましたばかりで傷が痛む燐にとってそれは地獄のような激痛が襲いピークを迎え力尽きた。

 

「ちょっ⁉︎姉さん!燐さん気を失ってるわよ⁉︎」

 

「えっ?キャァァァァァァッ!ご、ごめんなさい燐くん!しっかりしてぇ!」

この時、燐の口からは出てはいけないものがでてしまい、なんとかそれを引き戻すことに成功した。

 

この後、燐は一時間後に目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、危うく三途の川を渡りかけたよ。」

何とか目を覚まし、水を飲もうにも手は動かせずカナエに飲ませてもらう形で乾いた喉を潤し、やっと普通に喋れるようになった。身体中まだ痛むのはやむなしだ。

 

「ほ……本当にごめんね。嬉しくて…つい」

 

「気持ちはわかるけど…加減を覚えないとな。怪我人相手にあの行為は危険だぞ」

 

「大丈夫よ、燐くん以外にはしないから。本当に心配したのよ?落ち着くまではいつ死んでもおかしくない状態だったから、私、気が気じゃなくて任務には集中できないし、ふとした時に泣いちゃってたんだから」

 

「……すまない」

最初の方で恥ずかしいことを言っていた気がするが、カナエは気付いていないようだ。

 

「姉さん、空いた時間は燐さんの手を握ってたんですよ」

 

「そうなのか?ありがとう、カナエ」

 

「どういたしまして」

 

ちょっと顔を赤くして照れている。その表情に一瞬胸が高鳴った感覚がした。

 

「でもね、私だけじゃなくてしのぶもずーっと燐くんの手を握っていたのよ?薬の研究の時以外はここにいたんだから」

 

「そうだ、研究で思い出した。」

燐はしのぶの方に顔を向ける。そして手をなんとか動かし、しのぶの手を握る

 

「あ、あの…燐さん、急にどうしたんですか?」

 

「しのぶ、お前の作った毒が…俺を救ってくれたんだ」

 

「え……どう言う…意味ですか?」

 

「あの時上弦の鬼との戦いで、参の毒を使って一瞬だけ隙を作る事ができたんだ。倒せはしなかったけど、あの毒のおかげで俺は一度上弦の鬼の頸を斬る事ができた。あれがなかったら俺は死んでいた。しのぶの作った毒が、俺を救ってくれたんだ。ありがとうな…しのぶ」

 

あの時、一瞬とはいえ上弦の鬼にも通用した。しのぶがやってきた事は無駄じゃないと証明できたから、それがたまらなく嬉しいんだ。

黒死牟と鍔迫り合いになる前にすかさず参の毒を俺に渡してくれた村田さんの判断にも感謝してもし足りない。

 

「ど、どういたしまして。ふふっ、燐さんの力になれて…よかった」

しのぶもつられて笑ったのだ。

 

「あっ、すまない…そういえば俺、四ヶ月も寝てたんだよな?臭いよな、嫌だったろ」

俺は握っていた手を離しすぐに謝罪する。

 

四ヶ月も寝たきりだったため当然風呂にも入っていないから体は綺麗とは言えない。

 

「いやじゃないですよ。それに、毎日私と姉さんが体を拭いていましたから。あっ、もちろん男性の隠の方にも手伝ってもらいましたよ。」

 

……意識のない間に世話されていたと知って、少しの気恥ずかしさが生まれる。

 

やばい、すごく申し訳ない気持ちだ。

 

 

―ギュルルルルルル―

 

「…………」

燐のお腹から音が鳴り、更に恥ずかしそうに顔を赤くする

 

 

「うふふっ、しのぶ♪」

 

「わかった。簡単なもの、すぐ用意しますね」

しのぶはパタパタと病室から退室し、台所へと駆け出して行った。

 

「カナエ、お前は仕事は大丈夫なのか?看病してくれるのは有難いが、カナエ達にあまり迷惑をかけたくない」

 

「大丈夫よ。仕事は全部終わらせてやってる事だから」

 

カナエの顔は少し赤い。

 

なんだろう…カナエの気配が、何か言いたそうなような、緊張?不安?いろいろまざっているが、大丈夫か?

 

「カナエ……何か言いたいことでもあるのか?」

 

「え?きゅ、急にどうしたの、燐くん?」

 

「さっきからカナエからの気配が妙なんだ。実際どうなんだ?」

 

カナエの心臓が何倍も早く鼓動している感じがする。

 

「やっぱり、燐くんにはわかっちゃうか。言わなきゃ……いけない?」

 

 

蠱惑的な笑みを浮かべるカナエに俺はどきっとした。

 

「あ、ああ、ただ無理にとは言わない。何か悩み事があるなら相談してくれ」

 

 

「うん、それじゃあ」

 

何故かベットに乗り、カナエの顔が俺に迫る。近い…凄く近い、肌白い。燐の黒の瞳と違い綺麗な瞳が燐を近距離で見つめる。

突然の行為に燐の頬も耳も赤くなる。異性にここまで近づかれた事はないので緊張と恥ずかしさが増す。

 

 

「あ…あの、カナエ、ちか……」

 

俺の頬に柔らかなカナエの唇が触れた。

 

「燐くん………大好きっ!」

 

カナエはくしゃっとした笑顔で自身の想いを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………え」


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