赤月の雷霆   作:狼ルプス

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第十六話

燐が目覚めて三ヶ月半、現在蝶屋敷の道場で木刀を握っている。相手は胡蝶姉妹の二人だ。今回の訓練は最終確認…模擬戦で二人を相手にする。

二人の協力のおかげで、以前の実力を取り戻すことができた。機能回復訓練がない時は個人の鍛練をし、更に力をつけることができた。

 

「二人とも、模擬戦だからって遠慮はするな。俺がお前たちに稽古をつけてた時のように、殺すつもりでかかってこい」

 

「うん、わかってるわ。今の燐くんはあの時と同じ…いえ、それ以上の力をつけてるから油断するつもりはないわ」

 

「よろしくお願いします…燐さん」

 

「お前達も俺が稽古をつけていた時よりも腕をあげたからな…今回の俺は…一味違うぞ?」

 

燐は目を瞑り、目を開けると、瞳は写輪眼に変化していた。

 

「写輪眼……燐くん、今回はその状態でやるのね」

 

「ああ、この状態での戦い方も、身体に叩き込まないといけないからな」

 

木刀を構え、胡蝶姉妹と対峙する。構えた時点で模擬戦開始だ。

 

 

しばらく三人は動かず様子を窺っていたが、最初に仕掛けたのは、カナエとしのぶの二人だった。

 

「花の呼吸 肆ノ型・紅花衣!」

 

「蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞・複眼六角!」

 

二人が同時に燐に斬りかかる。しのぶは高速の剣技、カナエは前方に向けて大きな円を描くかの様に斬りかかる。

 

「(二人の動きが見える…この感覚、黒死牟と戦った時と同じ感覚)」

燐は回避の難しい二人の攻撃を難なく躱す。

 

 

「なっ、嘘!?躱した!?(一瞬にして見切ったていうの、初見でそんな事が)」

 

「しのぶ、ぼけっとしない!攻撃の手を緩めないで!」

 

「分かってるわよ!」 

 

「花の呼吸 伍ノ型・徒の芍薬」

 

カナエは九連撃の斬撃を放つ。

二人の動きは以前よりも上達し、技の精度も高くなっている。だが、それすら今の燐には見えている。

 

成る程、こんな感じになってるのか。よし、だったら少し驚かせるか。

 

「花の呼吸 伍ノ型・徒の芍薬」

燐はカナエの使っていた花の呼吸を使用する。

 

「え…!?」

 

突然の事に驚きカナエは目を見開く。カナエは後ろに後退し、態勢を立て直す。

 

「(なんで燐くんが…花の呼吸を…?)」

 

「蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞・百足蛇腹」

しのぶは強烈な踏み込みと四方八方にうねる百足のような動きで敵を撹乱した動きで、深く沈みこみ、突きを放つ。

 

 

これが写輪眼……不思議な感覚だ。カグラ様の説明の通り、写輪眼の状態でいると、初見なのにカナエやしのぶがどうやって攻撃してくるか見切る事ができる。それに相手の動きや呼吸も含め模する事もいとも簡単に出来た。

 

「花の呼吸 肆ノ型・紅花衣」

 

「蟲の呼吸 蝶ノ舞・戯れ」

 

 

二人が合わせて呼吸剣技を放ってくる。しかし動きは見える。燐は確実な方法を考え全集中の呼吸を行う。

 

「全集中・雷の呼吸 捌ノ型」

 

木刀が雷が纏い、鳥のさえずりの様にチチチチ・・・と音を発する。

 

 

 

 

 

「千鳥!」

 

二人の技を千鳥で円を描くように一閃、二人の技を斬り裂く。そして二人の木刀は刃物で斬られたかのように見事に折れる。

 

勝負は燐の勝利で終わった。

 

「……嘘」

 

「燐くん…、捌ノ型って……」

姉妹は見た事のない型に驚きを隠せない状態だった。

 

「雷の呼吸の新しい型…千鳥、上弦の鬼との戦いで生み出したんだ」

 

「やられたわ…まさか新しい型を使ってくるなんて予想もしてなかった」

 

「燐さん…どれだけ強くなるんですか?」

 

「さぁな…自分でもわからない、初めて写輪眼の状態で模擬戦をしたが、要領は分かってきた。後は実戦で慣らしていくだけだ」

燐は眼を元の状態に戻す。

 

写輪眼の状態で戦闘がどれほど変わるか二人と訓練をして分かった。しかしこの眼を知っているのは胡蝶姉妹と村田だけだ。

 

「あの…燐くん、さっき私の花の呼吸を使っていたけど…その眼の能力なの?」

 

「ああ…そう言えば、言ってなかったな、写輪眼は見切りだけじゃなく、相手の動きを模する事ができるんだ。さっきカナエの花の呼吸を使ったのがそうだ。写輪眼の状態で初見で真似出来たのは自分でも驚いたが」

 

「もしかして、写輪眼の状態で他の呼吸剣技を見たらその型を使えるって事ですか?」

 

「多分出来るんじゃないか?まだやったことはないが、しかし複数呼吸を使うと肺に負担が掛かるかもしれないからな」

 

写輪眼にも限度がある。血鬼術などはまず無理で、自分以上の動きをする相手の動作を無理に模し、動くと体の負担は大きい。写輪眼は決して万能ではないのだ。

 

燐はそれはカグラの説明で理解している。

 

「(万華鏡の方も試してみたかったが、カグラ様の話じゃ使い方を誤れば相当危ない物なのは確かだからな。万華鏡写輪眼は今後鬼相手に使うか)」

燐は万華鏡写輪眼は今回は使わなかった。理由としては鬼と少し違うが血鬼術を使えるため人相手に万華鏡写輪眼は危険だと判断したのだ。

 

「燐さん…もう一度、お願いしてもいいですか?」

しのぶがいきなりもう一本手合わせをお願いしてきた。

 

「えっ、ああ…別に構わない。カナエはどうする?」

燐は写輪眼の件で、考え事をしていたため、少し返事が遅れるも、しのぶの頼みを承諾する。

 

「私も、もう一度だけお願いするわ。」

 

「わかった。だがその前に木刀…壊してしまったからな。すまない。今度弁償するよ」

予備はまだあるだろうが人の物を壊してしまったことに変わりないため謝罪する。

 

しばらく訓練は続き、カナエは少し相手にした後、審判に徹した。俺の動きを観察したいとのことだ。

 

今はしのぶと一対一で相手をしている。しのぶは何度も挑んでくるが、燐に攻撃を掠める事もできずにいた。動きと剣技は格段に成果が出ているが、これが何度も続き数刻は相手をしている。

 

「はぁ…はぁ……はぁ、もう一本!」

 

「なぁしのぶ…今回はここまでにしないか?流石に動きにムラが出始めてる。その状態で呼吸をするとその内倒れるぞ?」

 

「まだ行けます!もう一本……後、もう一本だけ!」

前から知っていたが、しのぶは少し負けず嫌いな所がある。もう一本と言って数十回付き合わされたことが何度もあった。

 

根性は認めるが、正直言って、このままやれば倒れるか怪我をしかねない。

 

「今日はここまでだ……いいな?」

 

「…うー、わかりました」

 

納得いかない様子だったが、しのぶは渋々とだが諦めてくれた。

 

「……しのぶ」

燐はしのぶを手招し、こちらに来るように促す。

 

そして近づいたしのぶを右手の人差し指で額を小突く。

 

「許せしのぶ……また今度な」

しのぶは、燐の穏やかな表情に頬を赤くし、この一言しか言えなかった。

 

「………約束ですからね」

 

「ああ…いつでも稽古つけてやる。だから今日は終わりだ……なっ」

俺はしのぶの頭を撫でる。

 

今のしのぶはホワホワしており気持ち良さそうに目を細める。

 

暫くしてしのぶは我に返り、手を強引に退けたが嫌そうな感じではなかった。

 

三人は道場を出た後、燐は縁側に向かい風に当たる。

 

 

「ふぅ(今日は目が一番疲れたな。慣れるまで写輪眼は訓練で多用していかないと)」

 

燐は目頭を押さえる。すると花のような香りがフワッとし、突然背後から“彼女”が俺を抱きしめてきた。

 

「カナエか…どうしたんだ突然」

 

「しのぶばかりずるい…私にも構ってよ、燐くん」

 

カナエは腕にさらに力を入れ俺をギュッと抱き締める。

 

「もしかしてカナエ……妬いてるのか?」

カナエは少しビクッとさせたがどうやら図星みたいだ。

 

 

「ははっ、カナエ」

俺はカナエの腕を少し強引に外し、カナエと向かい合い、抱きしめる。

 

「り、燐くん」

 

燐の胸元に埋まったカナエは突然の事で頬を赤くし、一瞬驚くが、直ぐに背中に手をまわす。カナエは愛おしそうな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、な、な、目の前で何堂々やってるんですか、二人とも⁉︎そう言うのは他所でやってください!!」

お茶を持ってきたしのぶが顔を真っ赤にし怒鳴る。

 

「しのぶも混ざるか?」

 

「んなっ!だ…誰が混ざるもんですか!」

 

「うふふっ、さっきは頭を気持ちよさそうに撫でられていたじゃない。しのぶ…燐くんは私達の恋人でしょ。抱きしめ合うのも普通の事だわ♪」

 

「そう言う問題じゃない!」

 

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結果、座った状態で、燐がしのぶをあすなろ抱き、カナエは後ろから燐にあすなろ抱きになる形に収まった。

 

 

「どうしてこんな事に……」

 

「嫌だったか?」

 

「べっ、別に嫌と言う訳じゃ…」

 

「うふふっ、しのぶったら顔を赤くしちゃって可愛いわ〜」

しのぶはしのぶで燐の手を握っており、カナエは燐の肩の上に顔を乗せている。

 

「俺は幸せものだよ。目の前に大切な人がいる。手を伸ばせばいつだって届く距離にお前たちがいる。俺はそんなささやかなことが、何より愛おしい」

 

燐は優しい微笑みを浮かべた。

 

そして

 

「♪〜♪〜」

燐は歌を歌う。二人は突然の事で驚くが直ぐに燐の歌に聴き入る。

 

「(素敵な歌声…なんだか心がポカポカしてくる)」

 

「(燐くんの歌…とても優しくて温かい)」

 

数分歌った後、燐は歌い終わった。

 

「約束だったよな…お前達に歌を聞かせるの」

 

「約束…覚えてくれてたんだ。」

 

「当たり前だろ」

 

「正直驚きました。ここまでとは予想外でしたよ」

燐はあの時、また姉妹に歌を聞かせる約束をした。そして今は気分が良い状態で歌った。しのぶは燐の歌を聞くのは初めてだった。

 

 

「カナエには言ったが…この歌は母さんが歌っていた歌なんだ。俺も何回か聴いてたら歌えるようになってたんだ」

 

「…燐さんの、お母さんが」

 

「……そっか」

胡蝶姉妹にも自分の両親が鬼に殺されているのは話している。だからあえて二人は何もいわなかった

 

 

だから俺は…二人に伝えたい言葉があった。

 

「カナエ…しのぶ、鬼の血が混じっている俺を受け入れたお前達に、俺から贈る言葉がある、受け取ってくれるか?」

 

 

「……?なに、燐くん」

 

「どうしたんですか?急に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、カナエとしのぶを……愛してる」

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

予想外の言葉に二人は呆然とする。しかし二人はすぐに顔を茹で蛸のように真っ赤にした。

 

「り、燐くん…そ、それって」

 

「な、なな、なな…何とんでもないことさらって言っているんですか⁉︎」

 

 

「俺の本心だ、嘘偽りもない」

 

その表情は日輪のような微笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人は日が暮れるまで、互いに笑い合い、時には戯れ合う。その光景は言わずとも…幸せな気持ちに満ち溢れていた。


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