赤月の雷霆   作:狼ルプス

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第二十話

 

「……ッ⁉︎」

 

目を見開き、視線だけを動かし、辺りを見渡す。辺りは暗く窓から月明かりが照らしていた。

 

「(……ここは…蝶屋敷か、そうか、俺はあの後……)」

 

 

 

『目覚めたか、燐』

 

「(カグラ様、俺…どのくらい寝ていたんですか?)」

 

『三週間は寝込んでおったぞ、全く……無茶しおってお主は』

 

「(三週間も…予想以上に力の解放に負担が大きかったみたいだな。カグラ様……カナエはどうなった?)」  

 

『安心しろ…あやつは無事じゃ。治療後、一週間で目を覚ました。しかし…胡蝶 カナエは、剣士としての命を失ってしまったがの』

 

 

 

 

 

 

「(……そうですか)」

 

 

カグラ様からの話によると、眠っている間も、俺の中から現実側の声は聞こえていたみたいだ。カナエは戦闘による外傷は酷かったものの治療に問題はなかった。しかし、童磨の血気術の影響で機能が大幅に低下してしまった肺だけはどうにもならなかったの事だ。

 

しかし日常生活を送る分には問題はない状態だと言う。

 

 

 

 

 

俺は命をかけて守ると誓ったのに、カナエを死なせかけた。

 

カナエだったら「気にしないで」と笑って許してくれそうだが、俺は自分を許すことができない。

 

 

 

 

 

 

「もっと強くならないとな」

 

そう言い、寝返りをした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えっ」

 

 

燐は身体を右に向けると信じられない光景を見てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カナエが燐の目の前で、綺麗な寝息をたてて眠っていたのだ。

 

よくよく確認すると、カナエは俺の手をぎゅっと握っていた。

 

 

 

「(な、なんでカナエが俺の隣で寝ているんだ?って言うか……どう言う状況だこれは)」

 

 

突然の事に燐は状況が上手く呑み込めなかった。

 

 

「う、ぅん…」

混乱してる中、カナエが目を開け、互いの視線が見つめ合う状態になる。

 

「…燐……くん?」

 

「カ……カナエ、すまない、起こしてしまっ「燐くんっ!!」え?ちょっ…」

 

カナエは目を覚めた燐を見るなり胸に寄ってくる様抱きしめてきた。

 

 

「よかった……目が覚めて…よかった」

 

「カナエ…」

 

 

胸に飛び込んできたカナエを受け止めるとカナエは涙を流していた。

燐もカナエをぎゅっと抱きしめる。

 

「何泣いてんだよ……けど、お前が無事で本当によかった」

 

「燐くんが悪いのよ!だって……私が目を覚ましても燐くん、意識がなくて心配したんだから……!」

 

どうやらカナエは意識が戻っても俺が寝込んでいた事に相当心配していたみたいだ。

 

「それに関しては本当にすまない、ところでカナエ…お前は一応患者だろ?なんで俺の布団に寝ているんだ?」

 

「燐くんのそばに……居たかったから、だからお願い…強くギュってして」

 

カナエにそう言われ、顔が熱くなる感覚がした。恐らく俺の頬は赤くなっているのは間違い無いだろう。

 

「わかった……だったら何されても文句言うなよ…カナエ」

 

「えっ、燐くん…?」

 

燐は起き上がりカナエと正面と向き合う。カナエは白い肌を赤く染めながら燐の黒曜石の如き瞳を見つめる。

 

俺は構わず、そのままカナエを抱きしめ、自分の唇をカナエの唇に重ねた。

 

「ッ!?ん、ん~~~~~~!!」

 

 

腕の中でカナエは突然の事に少し力を込めて抵抗していたが、次第に力は弱まり、俺の背中に手を回し、カナエは目を瞑り俺の唇を受け入れた。

 

最初の数秒くらい唇が重ねるだけだったが、カナエは俺の口の中に舌を押し込んできた。

 

 

「んっ⁉︎」

 

突然の事に驚くが、俺は抵抗する事なくカナエを受け入れ、自身の舌を絡める。

 

 

「んっ……んぅ……」

 

「んっ、ふっ、んぁっ……」

 

 

何秒かそうして、俺は唇を離した。

 

 

 

何分、何時間にも感じた。

 

カナエは顔を真っ赤にして、俺にもたれ掛るように倒れる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「俺、接吻は初めてだから……その…」

 

「わたしもよ……………バカ」

 

二人は再び布団に入り、抱きしめ合いながら横になる

 

 

 

「好き…燐くん………大好き……」

 

 

「俺も、好きだよ……カナエ」

 

 

 

 

 

 

 

 

この時間は暫く続き、二人は眠りに入った。

 

 

 

———————–––––

 

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「姉さんったらまた病室から抜け出して……一番重症なのに自覚がないんだからもう…」

カナエの診察をしにきたのに、患者のカナエは病室にはいなかった。

 

しのぶは何処にいるかは見当がついているため、別の病室に向かっている。

 

「姉さん!また勝手に病室を抜け出して!これで三度目……よ?」

しのぶが向かった病室は燐の病室で目にした光景は、燐とカナエが向かい合い添い寝をしていた。

 

 

「な、な、なっ、二人とも何してるのよ⁉︎」

しのぶは抱きしめあって眠っている二人を見て声を上げる

 

 

「う、ぅん……ふぁぁぁ…… おはよう~しのぶ」

カナエは燐を起こさないように起き上がり目元をさすりながらしのぶに挨拶をする。

 

「また勝手に燐さんの病室に入り込んで!姉さんはまだ安静にしなきゃだめよ!それよりも……燐さん、意識戻ってるでしょ「シィー…起こしちゃダメよしのぶ」ムグッ!」

カナエはしのぶの口を手で押さえ人差し指を口の前で立てる。

 

 

「今はまだ寝かせてあげましょ。燐くん、私のために無茶したみたいだし、今はまだこの寝顔を見ていたいから」

 

カナエは燐の顔をそっと撫で寝顔を見つめる。その顔は普段の燐と違い、気持ちよさそうに布団に包まりながら眠っている。

 

 

「……姉さん、その首筋の痣……どうしたの?」

 

「えっ?あっ!いや…これは……その」

カナエは顔を真っ赤にし咄嗟に隠すがもう遅く、しのぶにはもう何があったか想像できてしまい顔を真っ赤にする。

 

 

 

「ありがとう……二人とも」

 

 

突然の寝言に二人は「夢の中の私達と何をしているのだろう」と思いながら燐を見つめる。

 

その寝言には何か特別な感情がこもっているように見えた。

 

そしてしのぶは呆れた様子で燐に顔を近づけた。

 

「起きろ寝坊助!」

 

 

「うわっ‼︎」

耳元で怒鳴り声を出したしのぶの声にバッ!と勢いよく起きる。

 

 

 

「三週間ぶりのお目覚めですね、燐さん。気分はいかがですか?」

燐はゆっくりしのぶの方に顔を向け、寝ぼけているのかじっとしのぶを見つめた。

 

 

「………天女?」

 

「…………へっ?」

 

「あらあら」

 

しのぶはまさかの一言に素っ頓狂な声を出し、カナエは笑みを浮かべる。

 

 

「ね……寝惚けないでください!」

 

「グッ!」

しのぶは燐の腹に手で突きを繰り出す。そして目を覚ました燐は第一にしのぶから説教を喰らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの夜は色々あった。

 

 

まぁ……イロイロと……な。

 

 

朝は第一にしのぶの怒声により叩き起こされ、しのぶから手刀の突きを喰らい、朝から説教を喰らった、説教をしていたしのぶは顔を真っ赤にしていたが。

 

しのぶは何があったかは大体察していたようだ。きっかけはカナエの首筋に接吻の跡だろうな。

 

「(………強く吸い過ぎた)」

 

『中々激しかっからのぉ〜お主ら』

 

「(覗き見はよくないですよ、ご先祖さま!)」

 

 

しばらく俺とカナエはまともに顔を見ることができなかった。

 

お互い触れ合って気持ちを確かめ合った。

 

触れ合ったと言うが、決して一線は超えていない。

 

 

数週間後、カナエは機能回復訓練を行なったが、カグラの話した通り鬼殺隊の呼吸を行うのが困難になり、無理に全集中を行うと咳き込んでしまう状態だ。

しかし日常生活を送るのに支障はないくらいに回復した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が醒めて一週間後、燐は鴉からの連絡で、緊急柱合会議が行われる事を知り、産屋敷邸に訪れている。

 

 

柱合会議

 

鬼殺隊最高位の剣士である柱たちと鬼殺隊の当主によって、半年に一度行われる会議のことである。今回は緊急のため急遽集められた。

 

原則として柱以外の剣士はこの会議に参加することは認められず、逆に柱はよほどの理由がない限り会議を欠席することは認められない。

 

 この屋敷に六名の剣士が集まっていた。

 

 

 水柱・冨岡 義勇

 

 音柱・宇髄 天元

 

 岩柱・悲鳴嶼 行冥

 

 風柱・不死川 実弥

 

 鳴柱・桐生 燐

 

 

 いずれも鬼殺隊の頂点に相応しい実力を有する、または有していた剣士たちである。

 

 

 

「やぁ、よく来たね私の可愛い剣士たち」

 

 そして現鬼殺隊当主産屋敷 耀哉様が……彼の登場と共に剣士たちは皆一斉に膝をつき頭を垂れる。

 

 

 

「まずは燐、数百年の間、討伐の叶わなかった上弦の鬼を単独で討伐してくれたことは偉業と言える。本当によくやってくれた。ここにはいないけど、カナエにも伝えてほしい」

 

「ありがとうございます、お館様」

 

カナエの情報無しに童磨に勝つのは難しかったかもしれない、下手をすれば逃していた可能性もあった。

 

俺が勝てたのはカナエのおかげでもある。お館様も…それが分かっていた。

 

 

 

まず今回遭遇した上弦の弐について話を始めた。

 

血鬼術の強大さや、性格の異常さについて説明した。

 

上弦の鬼の情報は一年前に上弦の壱と遭遇した燐の説明によりあらかた上弦の鬼は普通の鬼とは違うのに理解はしている。

 

 

そして今回は、鬼殺隊の生命線である呼吸を封じるような血鬼術使いがいた事に他の柱は驚いている。

 

俺の場合はいつでも対処はできるが、炎の呼吸の使い手である杏寿郎が戦ったらどうなるか分からない。

 

 

その後も会議は続いた。

 

 

各自、担当区域に異常があった者は報告した後、会議終了した。その後他の柱からは色々質問攻めにあった。

 

まぁ、かすり傷は負ったがほぼ無傷に等しいくらいの状態だった為、信じない者もいた。

 

 

信じるか信じないかはそんな事はどうでもいい…俺は事実を言っただけだったが、不死川はその後俺にいきなり突っ掛かったので、師範直伝の愛ある拳で黙らせた。

 

 

 

 

頭にコブを作り、捨て台詞を言って帰ったが、いつもの事なのでもう慣れた。

 

 

『あやつ、相当不器用な奴だからのぉ』

 

「(それは言わない約束ですよ……確かに俺も同じ気持ちだがな)」

 

確かに性格はキツめだが、意外と面倒見のいい人物だ。

不死川が初めて柱として柱合会議に参加した時はお館様に大変失礼なことを言ったのは衝撃で今も覚えている。

 

その時、殺気を放って黙らせたが、お館様の一言で鎮め謝罪をした後、カナエからでこぴんをくらい注意された。

お館様は不死川と目を向き合って話し始めた。

 

その時のお館様の言葉に、節々に強い思いやりの気持ちを感じた不死川はお館様に対する視線が軟化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…上弦の強さは、やはり想像を超えるな、俺がこの力を持っていなかったら…生きていたかどうかも分からない。雄一、お前ならどうしていたんだろうな」

 

柱合会議を終え、帰りの道中、友に問いかけるように名を口にする燐

 

『燐、お前はお前じゃ』

 

「カグラ様?」

 

『何をしてもしなくても、何を持っていても、持っていなくても、どんな姿になろうとも…お前はお前じゃ、燐』

 

 

「俺は俺………そうですね」

 

燐はカグラ様の御言葉を胸に刻み込み、そのまま自身の屋敷である“鳴”屋敷に帰った。

 


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