赤月の雷霆   作:狼ルプス

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第二十一話

お館様からの計らいでしばらく休暇をいただいた。

 

上弦の鬼の討伐を会議で報告した後、お館様の鴉から手紙が届いたのだ。

内容は「しばらくの間ゆっくり休んでくれ」とのことだった。

 

「なぁ、しのぶ」

 

「なんですか?」

 

「こうやって二人で出かけるの…初めてじゃないか?」

 

「そう言われるとそうですね」

 

現在燐はしのぶと一緒に都会の街に買い物へ来ている。

 

「今まで出かけた時は、姉さんやカナヲ達も一緒でしたからね」

 

「そうだったな」

 

「姉さんもついていくなんて言っていたけど、まさか燐さんの一言で言うことを聞くなんて思いませんでした。あの時の姉さんはしつこいですからね」

 

「まだ療養中だからな。流石に無理をさせるわけにはいかない」

 

カナエはどうしてもついて行きたいと文句を言っていたが、右手の人差し指でカナエの額を小突き「許せカナエ、また今度な」と言うと、カナエは簡単に引き下がってくれた。

 

 

 「燐さん、目は大丈夫なんですか?煉獄さんに運ばれた時は目からの出血が酷かったんですよ。その様子だと視力の低下は見られないようですが」

 

「カグラ様も似たようなことを仰ってたな……万華鏡写輪眼は、人間が酷使すると視力が低下するってな。カグラ様の見立てだと、俺の体質は少し特殊らしい。流石に使いすぎると酷い激痛は来るんだけどな」

 

「……あまり無茶はしないでください。姉さんも私も心配なんですから」

 

「安心しろ、今後は十二鬼月か手強い相手にしか使わない」

 

 

「だったら何も言いませんが……」

 

最初会った時の威嚇していたしのぶが懐かしく思う。恋人になってからは丸くなった。カナエみたいに自分から甘えてくることはないが、しのぶはよく膝枕をしてくれる。

 

「ところでしのぶ、今日は何を買うんだ?」

 

「包帯の買い足しに、薬草や傷薬も必要です」

 

「要するに、俺は荷物運びって事だな」

 

「そんな所です。任せてもらっていいですか?」

 

「お安い御用だ」

 

「そうと決まれば、行きましょう!」

 

「ああ…わかった、っておい!」

しのぶに手をつかまれ、強引に引っ張られた燐は体勢を崩しかけた。

 

 

しのぶと手を繋ぎ、人通りの多い都会の街を歩く。数年前までは人混みの中で酔ってしまい目眩を起こしたものだが、何度か訪れるうちに、慣れたようだ。

 

しのぶとはぐれないようにしっかり手は繋いでいる。

 

しのぶの手はカナエとは違い、一回りほど小さく細かった。しかしその小さな手は驚くほど温かい。

しのぶが隣に並びながら会話に花を咲かせた。俺がいない時は、カナエに相変わらず俺以外の男がいっぱい釣れるだの何だの、まぁ、カナエは魅力的な美女だから仕方がないとはいえ不安だ。

 

けど、しのぶがいるから安心出来る自分がいる。

 

しのぶはしっかりしていて、言いたいことははっきり言ってくれるから自分も助かっている。

 

まぁ、怒らせると一番怖いのはダントツでしのぶだな、それに次いでカナエだ。

 

 

「燐さん、少しここで待ってもらえないですか?」

 

「ん?別に構わないが…どうした?」

 

「少し買い忘れたものが…すぐに戻ってきますから待っててください!」

 

 

 

蝶屋敷に必要な物は揃い、目的はすでに果たしたはずだが、しのぶは途中で一人何処かへ行ってしまった。

 

「仕方ない、近くの店を見て回るか」

燐はしのぶが来るまで、近くの店に置かれている品を見て回る。

 

 

「やっぱり都会なだけあって品揃えもいいな。ん?これは…」

 

燐は女性物の櫛が目に入った。柄は紫の綺麗な蝶と花の模様だった。

 

 

「綺麗な櫛だな、すいません……この櫛下さい。」

 

「はいよ。なんだい兄ちゃん、女にでも贈り物か?」

 

「そんな所です。代金はこれでいいですか?」

 

「はっきり言うな兄ちゃん、丁度預かったぜ」

櫛を買った燐は、包装された櫛を受け取り、懐に入れる。

 

 

「上手くいくといいな、兄ちゃん」

 

 

「?……はい」

店主の言っている意味がわからずとりあえず返事をして店から離れる。

 

 

「(前にカナエには簪を贈ったからな。しのぶ、気に入ってくれるといいな)」

 

『お主、それを渡す意味…わかっておるのか?』

 

「(ん?何か意味があるんですか?)」

 

『……いや、なんでもない。田舎育ちは純粋じゃと思ってな』

 

最後の方は何を言っていたかわからなかったが、燐は気にせずしのぶが来るのを待つ。

 

「ごめんなさい燐さん!お待たせしました!」

 

「いや…そこまで待ってはいないから大丈夫だ」

 

 

そして二人は、ある程度時間ができたので、二人で茶屋に寄り甘味を食べている。

 

 

「ん〜、美味しい」

 

「だろ?甘味に詳しい隊士から教えてもらったんだ。ここの茶屋のみたらし団子が美味しいって」

 

以前桜色の髪をした女性隊士から勧められ、一度一人で訪れた際に食べたがかなりの美味だった。燐もこの茶屋を気に入り、いつかはしのぶ達と訪れたいと思っていたほどだ。

 

「ふっ、しのぶ…餡が付いてるぞ」

 

燐は指でしのぶの口元に付いた葛餡を取ると、そのままペロッと舐めた。

 

「な、なななな、何するんですか燐さん!?」

 

「いいだろ別に。それとも……直接舐めて欲しかったか?」

 

「人がいる所で何言ってるんですか!?」

頬を赤らめながら怒鳴るしのぶも魅力のひとつだ。気配からすると内心嫌がってはいないのはすぐにわかったが口には出さない。

 

言ったら、しのぶの手刀を食らう羽目になるからだ。

 

「恥ずかしかったら、仕返ししたっていいんだぞ…?」

 

「言ったわね?絶対にギャフンと言わせてやるんだから!」

その後は雑談し、楽しい時間を過ごした。

 

そして日が暮れる頃、蝶屋敷までの帰路を二人は並び歩く。

 

「今日はありがとうございました、燐さん」

 

「礼はいい、俺もなんだかんだで楽しかったからな」

 

「ふふっ、そう言ってもらえると、こちらも誘った甲斐がありました」

 

二人で出かけるのも新鮮な感じだった。

 

 

「あっ、そうだしのぶ、これ…俺からの贈り物」

懐から包みに入った櫛を取り出し、しのぶに手渡す。しのぶは手渡された箱を開け中身を見る。

 

「これは…櫛」

 

「俺の気持ちと、まぁ…その他色々、しのぶには世話にもなってるし」

 

 

「ありがとうございます……燐さん」

 しのぶは照れながら受け取り、大事そうに櫛を見つめる。この様子だと気に入ってくれたみたいだ。

 

 

「それより燐さん、この櫛を大切な女性に渡す意味…知っていますか?」

 

「ん……なんだ?」

 

「未婚の男性が女性に渡すのは、愛の告白でもあるんですよ」

 

「……マジで?」

 

「マジです。」

燐は櫛を女性に贈る意味を聞いて、今になって恥ずかしくなり黙り込んでしまった。

 

「ふふっ、まさか燐さんも贈り物を買っていたなんて思いませんでした」

 

「え……?」

しのぶは持っていた風呂敷から箱を取り出し燐に渡す。

 

「…まさかしのぶも同じことを考えていたなんてな、開けてみていいか?」

 

「ええ、構いませんよ」

燐はしのぶから許可をもらい箱を開けると、中身は赤い月輪に黒色の蝶の模様が載った耳飾りだった

 

「耳飾り…お前、なんでこれを?」

 

「燐さん、一緒に街に出かけた時、耳飾りをよくみていたじゃないですか、だから私達と同じ蝶の柄の乗ったのを選びました。それに、その耳飾りの月の色…燐さんの写輪眼の瞳に似てたから」

 

 

「ありがとう、しのぶ……凄く嬉しい。大切にするよ」

燐は耳飾りを懐にしまいしのぶにお礼を言う。

 

 

「あっ、それと…贈り物は耳飾りだけじゃないんですよ」

 

「えっ…まだあるのか?」

 

「はい、取り敢えず目を瞑って少し屈んでもらっていいですか?」

燐はしのぶ指示に従い目を瞑り、少しかがむ。

 

「(一体何をするつもりなんだしのぶは、それに…なんだがいい香りが近付いているような)」

すると首に手を回され抱きしめられる感覚がし、そして唇には柔らかい感触がした。

 

「んっ⁉︎」

突然の事に燐は目を見開くと、しのぶは燐の唇に口づけをしていた。

 

燐は突然の事に硬直するが、しのぶは燐をぎゅっと抱きしめる。しばらくしてから唇を離し、頬を赤くしながら……

 

 

「これからも姉妹共々末長くよろしくお願いします、燐さん」

 

日輪の様な笑顔を見せる。

 

 

「……ったく、今その顔はずるいだろ」

 

燐はしのぶをぎゅっと抱きしめ返した後、蝶屋敷まで手をつなぎ合って歩いた。




しのぶが燐に贈った耳飾りは赤い月と黒色の蝶柄の耳飾りです



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