赤月の雷霆   作:狼ルプス

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第二十五話

チュンチュンと、スズメの囀りを目覚ましに燐はゆっくりと瞼を数度震えさせながら開けた。

 

「う、ぅん…」

 

燐は起き上がると、服は隊服のままで布団の中にいた。

 

「この部屋……蝶屋敷か?うーん…頭いてぇ」

燐は昨日何があったか状況を整理した後、部屋から出て顔を洗う為屋敷内を歩く。

 

「あっ、燐さん…おはようございます」

 

「ああ、おはよう。アオイも朝早くからお疲れ様」

 

「いえ、これが私の仕事ですから」

 

彼女は神崎 アオイ、蝶屋敷で雑務をはじめ何事もテキパキとこなすしっかり者だ。

 

 

「いーやーだーーッ!! ! こんな苦い薬、飲みたくないよぉっ!」

突然近くの部屋からの叫び声に、燐は頭によく響いた。

 

「だ、大丈夫ですか燐さん?」

 

 

「あ、ああ…大丈夫だ。この叫び声は…」

 

「またあの人ですか…全く」

 

ガラッと病室の扉を開けると、中にいたのは4人だ。

 

全員、見覚えのある顔だ。

 

一人は弟弟子である善逸だった。

 

 

そしてその善逸に、すみが持っていた薬を、駆け寄ったアオイが押し付ける。

 

……弟弟子が迷惑を掛けているみたいだ。

 

そして、先日、裁判にかけられていた竈門と猪頭の少年がいた。

 

竈門は善逸を説得していて、猪頭は前に見たときと一寸違わぬ姿でベッドに横たわっていた。

 

 

「これすげぇ苦いんだけど!?辛いんだけど!?ていうか、薬飲むだけで俺の手と足治るの!?ほんとに!?」

 

「お、落ち着いてください善逸さん!」

 

「もっと説明して!一回でも飲み損ねたらどうなるの!?ねぇ!?」

 

「またあなたは騒いでる!静かになさってください!説明は何度もしたでしょ!いい加減にしないと刻みますよ!」

 

 

「(この様子だと精神面は余り変わっていないな…善逸)」

 

久しぶりの再会に燐は呆れている様子だ。

 

 

「(仕方ない、手助けしてやるか)」

 

燐は、善逸のベットの近くに寄る。善逸は燐の登場に驚いた様子だった。

 

 

「リン兄ちゃん!なんでここに?」

 

「久しぶりだな善逸…元気だったか?」

 

 

アオイの手から薬を受け取った。

 

「あ、あの」

 

「り、燐さん」

 

「ありがとうアオイ、すみ。薬は俺がなんとか飲ませておくから、後は任せてくれ」

 

「わかりました。では、あとはお任せします」

 

「よろしくお願いします…燐さん」

 

ちょっと疲れた様子のアオイとすみが部屋を出たのを確認して、善逸と向き合う。

 

「よし善逸、久しぶりの再会で悪いが、いい知らせと悪い知らせがある…どっちから聞きたい?」

 

少し善逸に圧を掛けながら問う燐は少しばかり機嫌が悪い、ただでさえ頭痛がする中、騒がれたらさらに辛くなる。

 

「えっと……いい知らせからお願いします」

 

 

 

「そうだな…まずはこの薬をちゃんと飲めたらお前の体は元通りになる。そして悪い知らせは……」

 

「わ、悪い知らせは…どうなるって言うんだよ」

 

 

「善逸、お前は────蜘蛛になる」

 

「…え?」

 

「もし薬を飲まなかったら」

 

「の、飲まなかったら?」

 

「お前の体内に残った鬼の毒が身体中を巡り…徐々に侵食していく……」

 

「ヒェッ」

 

「すでに縮んでいる腕がもっと縮んで………そして人の形は残らず……お前は」

 

 

「ぎゃああああああっ!イデッ!」

 

 

 想像して怖くなったのか、急に叫びだした善逸の頭に拳骨を喰らわせる

 

「薬、飲むよな?」

 

 

「いてて……でも、この薬すっごく苦いんだ」

 

「薬は基本苦い。だが効果は確かだ」

 

「………苦いんだよぅ」

 

 

「善逸、この薬を作ったのはしのぶだ。これはお前らの為に作った薬なんだ。ちゃんと飲まなかったら「しのぶさんが俺のために⁉︎…」五月蝿い!」

 

善逸は燐の持っていたコップを強奪し薬を口に流し込む。

 

 そして、引いたように様子を窺っていた竈門を見ると、目が合った。

 

「えっと」

 

「やぁ、調子はどうだ?」

 

「え、えぇなんとか」

 

「そんな緊張しなくてもいい。怪我の具合はどうだ?」

 

「はっ…はい!顎は少し痛みますが、昨日よりは大分良くはなっています。」

 

「そうか…そっちの猪頭くんは?」

 

「ダイジョウブ…キニシナイデ」

 

俺が聞いた彼の声は、聞き覚えのある威勢のある声ではなかった。

 

「……やっぱり喉潰れたか」

 

「桐生さんは猪之助を知っているんですか?」

 

「伊之助?そこの猪頭の事か?」

 

「はい、名前は嘴平 伊之助…俺と善逸の同期なんです。」

 

「(伊之助……もしかして…あの伊之助か⁉︎)」

燐は童磨の戦いで記憶を除いた時、伊之助と名前を呟いていた女性を思い出した。

 

 

「(とんだ巡り合わせだなこれは…生きていたんだな。伊之助のお母さん息子さんはちゃんと生きていますよ。あなたのやった事は、間違いじゃありませんでした)」

 

そして、三人の状態は

 

炭治郎 顔面及び腕・足に切創 擦過傷多数 全身筋肉痛 肉離れ 下顎打撲

 

伊之助 喉頭及び声帯の圧挫傷

 

善逸 一番重傷で、右腕右足の蜘蛛化による縮み・痺れ 左腕の痙攣

 

 

「おはよう、三人共!体調はどうかしら?」

 

「おはようございます!カナエさん!」

 

花のような笑みの女性が現れた。長い黒髪に蝶の髪飾りを付けた隊服の女性だ。

 

「は、はい!大丈夫です!えっと、あなたは?」

 

「桐生 カナエです、よろしくね、炭治郎君!」

 

「はい!よろしくお願いします!ん…………桐生?」

 

「うん、燐としのぶとは柱合会議で会ったんだよね。嫁で姉です」

 

「お嫁さんでお姉さん!」

 

「うん!燐のお嫁さんです!後、しのぶも燐のお嫁さんだからよろしくね!」

 

「え⁉︎あの人も桐生さんの⁉︎」

 

「そんなはっきりと言うなよ、恥ずかしいだろ?」

 

「うふふ、別に構わないじゃない。それより大丈夫?体調良くないみたいだけど」

 

「昨日飲みすぎてな…大丈夫、しっかり休めば良くなるから」

 

「後でお水持ってくるわ、それから朝ご飯…食べられる?」

 

「すまない…軽いもので頼む。何を作るかは任せる」

 

「わかったわ、すぐ用意するからね」

カナエは病室から退出し、姿を消すと燐は炭治郎達に向き気まずそうに口を開く

 

「えーとだなぁ、さっきカナエが言った通り…カナエとしのぶは俺の奥さんだ。炭治郎は柱合会議でしのぶと顔合わせしてるから知ってるよな」

 

「はい、確か蝶柄の羽織を羽織ってた人ですよね?」

 

「ああ…そうだ、二人共俺にとって「いいご身分だな惚気兄貴!嫁が二人⁉︎ふざっけんな!しかもあんな別嬪な女性が!」(やっぱりキレたか……)」

 

いきなり叫んだと思えば善逸が血涙を流していた。

 

「俺が必死になって戦ってる間に!兄貴は毎日アハハのウフフやってる間に俺は身体中傷だらけになってたんだぞ!あの時兄貴なんて言った!『強靭な刃になれ!覚悟を超えた先に希望はある!』なんて言ったあんたが毎日うきうきうきうきしながら過ごしてたのかよ‼︎俺の努力を返せよ‼︎」

 

善逸は急に興奮し出し、すごい汚い声量で叫ぶ。

 

「落ち着け善逸、声が大きい!他の患者の迷惑になるだろう」

 

「そんな事関係ないんだよ‼︎鬼殺隊はあなぁ‼︎お遊び気分で入るところじゃない‼︎土下座して謝れ‼︎切腹しろ‼︎」

 

 

 

プツン

 

 

 

「善逸…」

 

「なんだよ‼︎土下座する気になったか惚気兄貴‼︎」

燐の表情は善逸からは見えないが、燐は善逸に向かい合うと、真顔のままゆっくり目を合わせる。

 

「寝ろ」

 

「あ……」

善逸は燐の目を見た途端ベッドに倒れ、いびきをかきながら眠り始めた。

 

「ふぅ、取り敢えず静かにはなったか」

燐は写輪眼を使い幻術を善逸にかけた。

 

 

内容?それは聞かない方が身のためだ

 

 

「うちの弟弟子がすまん。二人とも一緒に行動してたんだろ?迷惑かけたな」

 

「あ、いえ、確かにおかしな事を言う事はありますけど…善逸はいざと言う時はすごく頼りになるんです!俺の命より大事な者を体を張って守ってくれたんです」

 

「…そうか」

この気配だと嘘はない。

 

善逸、俺が知らない所で強くなっているんだな。お前は逃げなかった。それだけでも十分すごいさ。

 

 

「あの、桐生さん…その眼は」

 

「ああ…これか、この眼は写輪眼と言ってな、俺の先祖から代々開眼する眼だ。お前は確か那田蜘蛛山で見てるよな?」

 

「はい、でも…俺が見たのと形が違うような…」

 

「お前が見たのは写輪眼であって俺の写輪眼じゃない。俺の中にいる鬼の眼だ」

 

「鬼?そうだ思い出した!「静かにな」ああ…すみません、今はしませんが、あの時桐生さんから鬼の臭いがしました。桐生さんって…鬼なんですか?」

 

竈門炭治郎、彼は鬼殺隊は中でも嗅覚が異常に鋭く、相手の感情も読み取れるくらいの離れ技を持つ。

 

「匂いでそこまでわかるのか…善逸といいお前といい、俺は人間だよ。俺の先祖が鬼だった。それだけだ」

 

「え⁉︎鬼がご先祖様ですか⁉︎」

 

「だから静かに、無理もないけど、これで二度目だぞ…お前が嗅いだ匂いは俺であって俺じゃない。俺の中にいる内なる鬼だ。」

 

「内なる鬼?」

 

「実際に紹介しようにも…今は寝ておられるからな、いつか紹介する。ご先祖も、お前に興味があるみたいだからな」

 

 

「え、俺にですか?」

 

カグラは眠っていることが多い為、起きている時間は少ない。日が昇っている時も人格を入れ替えられるし、鬼の気配は感じられるが俺の体は人間の為日の光に焼かれる事はない。

 

以前カグラ様の状態でいる間、鬼同様再生できるかと思い斬り傷を入れてみたが再生はしなかった。

 

これを偶然目撃したしのぶに、精神世界にいる自分共々一緒に叱られた。まさか精神世界まで届くとは……。

 

 

「さて、善逸の顔も見られたし…そろそろ行かないとな、お前達は当分の間傷を治すことに専念することだ」

 

「はい!」

 

「それから…呼び方は燐でいい、俺も炭治郎って呼ばせてもらう」

 

 

「わかりました、燐さん!」

 

 

素直なやつだと思いながら、燐はそのまま病室から退室し廊下内を歩く。

 

 

「(炭治郎はこれから問題はなさそうだが、二人はどうだろうな…機能回復訓練で心折れなきゃいいが…特に善逸は)」

 

顔を洗った後、燐は予備の隊服に着替えた後、顔を洗い庭で素振りを始めた。

 

「(新しい術はまだ未完成、それに…あの状態は体にも負担が大きい)」

 

燐は鬼の力のさらに先の状態を試みるが、威力は絶大で、未だ力の加減が上手くいかない。

 

 

「燐!朝ごはん…持ってきたわよ!」

 

「ああ!わかった!」

お盆を持ったカナエが縁側に来ており、燐を呼ぶ。お盆の上にはおにぎりが二つあり、水が置かれていた。

 

 

「さっき善逸君、叫んでたけど、何かあったの?」

 

「気にしないでくれ……聞いたら多分引く。アオイ達にも迷惑かけていたみたいだからな、かわりに後で謝りに行くつもりだ」

 

アオイから話を聞いたが、炭治郎が蝶屋敷に運ばれた際も叫んでいたようで苦労していたとのことだ。

 

「あっ、そうだ、カナヲが貴方を探していたわよ」

 

「カナヲが?」

 

「うん、気まずそうにだったけど…稽古をつけてほしいって言っていたわ」

 

「わかった。後で道場に来るように伝えておいてくれ」

 

 

「わかりました」

 

カナヲは初めの頃より感情は出せるようになり、俺の事をリン兄さんと呼ぶようになったが、未だ決め事を硬貨で決めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして燐の精神世界では……。

 

 

 

 

 

『無惨、お前との因縁が今代で終わるかもしれぬな。今の燐ならば……鬼の力を使いこなせるはずじゃ』

 

 


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