場所は蝶屋敷、怪我の療養中の炭治郎、善逸、伊之助、うち二人は機能回復訓練に努めている。
部屋に戻ってきた炭治郎、伊之助はしんどそうに死にそうな勢いで一緒に戻ってきた。
「ふ、二人とも………どうしたんだ?一体何があったんだよ?」
「ごめん」
「キニシナイデ」
善逸は心配になって声を掛けるが、今の二人には何も言う気力もなく布団にもぐりこむ。
二人は真っ白に燃え尽きていた。
そんなことが数日続いた。
そして、善逸もある程度回復した為、機能回復訓練に参加することになった。
因みに機能回復訓練と言うのは、長い間、動かせなかった体を動かし、鬼殺隊の仕事に復帰させるための物である。
アオイから聞かされた内容は、まず最初に寝たきりで固くなった体をなほ,きよ,すみの三人がほぐす。
伊之助は被り物越しから涙を流していた。
その後に反射神経の訓練で、薬湯の入った湯飲みを互いに掛け合うもので、湯飲みを持ち上げる前に相手に湯飲みを抑えられたら湯飲みは動かせない。
最後は全身訓練の鬼ごっこ…アオイが初参加の善逸の為に些細を説明すると、善逸が手を上げた。
「あの…すみません、ちょっといいですか?」
「…?何かわからなかったところでも?」
「いやちょっと…こい二人とも」
「…?善逸?」
「行かねーヨ」
「いいから来いって言ってんだろうがァァァ!!」
急に怒鳴ったため、アオイを含め驚く中、善逸は炭治郎と伊之助を引っ張り外へと強引に連れて行った。
「正座しろ正座ァ!!この馬鹿野郎共」
「なんダトテメェ…」
善逸は伊之助を殴り飛ばす。全集中を含めていたため、伊之助は殴り飛ばされ壁に激突してしまう。
「伊之助ェー!なんて事するんだ善逸‼︎伊之助に謝れ‼︎」
「お前が謝れ!お前らが詫びれ!天国に居たのに地獄に居たような顔してんじゃねぇぇええええ!!!」
善逸の怒声が響き渡る。
「女の子と毎日キャッキャッキャッキャしてただけのくせして、何をやつれた顔して見せてたんだよ!土下座して謝れよ!切腹しろ!」
『なんてこと言うんだ!』
「黙れこの堅物デコ真面目が!いいか、よく聞け!女の子に触れれるんだぞ!体揉んでもらえて!湯飲みで遊んでる時は手!鬼ごっこの時は、体触れる!女の子一人につきおっぱい二つ、お尻二つ、太もも二つ!すれ違えばいい匂いがして、見てるだけでも楽しいだろうが!幸せ!!うわあああ幸せ!!」
善逸の魂の叫びの様なものが響き渡る。
そしてその叫びは、道場内にいた女性陣にまで響き渡った。
「(まさかここまでとは、燐さんの言った通りの人だったわ)」
時は燐が善逸に薬を飲ませた後に遡る。
『アオイ、善逸に薬はちゃんと飲ませておいたぞ』
『すみません燐さん、起きたばかりで手間をかけさせてしまって』
『気にしなくていい。暇な時は蝶屋敷の仕事手伝ってるからお安い御用さ。それと、アオイ、これから言うことをよく聞いてくれないか』
『はい…なんですか?』
『善逸はあんな感じだが実はかなりの女性好きだ。機能回復訓練の時はどうしても触れてしまうことがあるだろ?もし善逸が変なことを言う様であれば遠慮なく心折るつもりでやってくれ。気を遣う必要はないからな。妹同然のお前達に不快な思いをさせると流石に弟弟子でも見逃せない」
『は、はい…わかりました』
あの時の燐さんの声はドスの利いた声だった。さっきまた騒いでいたけど、燐さん怒らせたのかしら
カナヲを除き、三人娘達は凄く引き攣った表情になっていた。
「(遠慮する必要はなさそうですね。燐さん、助言ありがとうございます)」
その後、三人は戻って来ました。善逸さんは、なほ達の柔軟を痛がる様子もなく、受けて終始笑顔でした……。
炭治郎さんは「そんな邪な気持ちで訓練したら行けないと思う」と言ってました。
ごもっとも。
そして善逸さんとの湯呑みかけは善逸さんが一発で湯飲みの掛け合いに勝ちました。
それ自体よかったのですが、その直後、「俺は女の子にお茶をぶっかけたりしないぜ」っとカッコつけながら言って湯飲みの中の薬湯を掛けませんでした。あんな丸聞こえの大声で考えが筒抜けだったのに……怒りを抑えるのが大変でした。
「(燐さんの方がよっぽどマトモだわ)」
私が蝶屋敷で働く事になった当時、湯飲みの掛け合いを見せてもらい、実戦形式で燐さんとやる事になりました。当然の如く燐さんの反射速度は早く、「かけられる!」と思い目を瞑りました。すると薬湯の入った湯呑を私の頭の上に乗せた後、こう言ってくれたのです。
『すまないな』
何故か申し訳なさそうに丁寧に謝られた。その表情に少しドキッとしたけど、その直後しのぶ様が代わりにやる事になりました。何故かしのぶ様の圧が凄かったのは憶えてます。
当然の如く薬湯をかけられ続けびしょ濡れになりました。
話を戻して、鬼ごっこ……善逸さんの相手をしましたが、捕まえるなりいきなり抱きついてきたからボコボコにしてやったわ。
勝負には負けたけど戦いには勝たせてもらいました。
「(燐さんに善逸さんの事、報告しておこうかしら。それに…カナエ様、あの様子だとまだ燐さんに妊娠している事を報告出来ていないみたいですね)」
「ハクシュッ!」
「む、どうした燐!風邪か?」
「嫌……誰か俺のこと噂していた様な」
「胡蝶に薬をもらってきたらどうだ?」
「だから風邪じゃない、ほら……続きやるぞ杏寿郎」
「うむ!承知した!」
「雷の呼吸 伍ノ型・熱界雷!」
「炎の呼吸 漆ノ型・盛炎のうねり!」
どこかの柱二人は木刀を激しくぶつけ合い、汗を流していた。
◇
伊之助と善逸は湯飲みの掛け合いと鬼ごっこに勝ったが、二人が順調だったのはここまでだった。
その後に二人の相手をしたのは、現花の呼吸の使い手の剣士、栗花落 カナヲである。二人はカナヲに勝てず見事薬湯をぶっかけられ続け、鬼ごっこでは触れる事すらできなかった。
それから五日間、全員がカナヲに負け続ける日々を送っており、負け慣れていない伊之助は不貞腐れてしまい、善逸は早々と諦め、二人は訓練に来なくなった。
最後まで残ったのは炭治郎一人……
そんな炭治郎も十日間負け続けて、少し精神的に疲れが見え始めるのであった。
「(何で勝てないんだろう?俺とあの子、何が違うんだ?)」
炭治郎は何故同期であるカナヲにあれほどの差があるのか考えるが、この五日間、いくら考えても答えは出てこなかった。
「あの…」
炭治郎が後ろを振り向くと、そこにはなほ,きよ,すみの三人が居た。
「うわっ!?居たの!?ごめん、気が付かなくて!」
「あの、炭治郎さん、これ、手拭い……」
きよは手拭いを炭治郎に差し出す。
「ありがとう、助かるよ!優しいね」
炭治郎はお礼を言って、手拭いを受け取り顔を拭く。
「あの……炭治郎さんは全集中の呼吸を四六時中やっておられますか?」
「……ん?」
「朝も昼も夜も、寝ている間もずっと全集中の呼吸をしていますか?」
「…………やってないです、やったことないです………そんなことできるの?」
「出来るわよ、実際現役だった頃の私もやっていたもの」
「あっ、カナエ様」
炭治郎は声のした方へ振り向くとカナエが炭治郎に近づく。
「えっ⁉︎本当ですかカナエさん!」
四六時中全集中の呼吸を維持できることを知ると、炭治郎は驚いている。
「本当よ、全集中の呼吸を常にすれば、基礎体力が飛躍的に向上する。この呼吸方を全集中・常中って言うの」
「全集中・常中」
「できる方々は既にいらっしゃいます。柱の皆さんやカナヲさんも」
「そうか……!ありがとう!やってみるよ!」
「うふふ、応援してるわ…炭治郎君!」