赤月の雷霆   作:狼ルプス

28 / 33
第二十八話

炭治郎は現在全集中の詳細を聞き維持しているが、長く持たず膝をついて倒れた。

 

「(全集中の呼吸を長くやろうとすると死にそうになる………!苦し過ぎるし、肺も痛いし、耳痛いし、耳の近くで心臓がドクンドクンとしてる様な………)あっ!」

 

炭治郎は両耳を押さえて、何かを確認する。

 

「(びっくりしたーー!今、一瞬耳から心臓が出たかと思った!)」

炭治郎は涙目になりながら、状態を確認し何が駄目なのか考える。

 

「(全然駄目だこんな調子じゃ、困った時は基本に戻るんだ!!)」

 

炭治郎は身体を起こし、そのまま蝶屋敷の周りを走り回る。

 

「炭治郎さん、毎日頑張ってるね」

 

「うん」

 

「おにぎり、持って行ってあげよう」

 

「そうだね」

 

「後、瓢箪も」

 

 

炭治郎が十回ほど蝶屋敷の周囲を走りこんだ後、様子を見守っていたなほ,きよ,すみがおにぎりと瓢箪を持ってきた。

 

 

 

「瓢箪を吹く?」

 

「はい。カナヲさんに稽古を付ける時、しのぶ様と燐様はよく瓢箪を吹かせていました」

 

「へー、面白い訓練だね。音でも鳴ったりするのかな?」

 

「いいえ、吹いて瓢箪を破裂させてました」

 

「へぇー…………破裂?」

 

 瓢箪を吹いただけで破裂させるということに炭治郎はまたしても青ざめる。

 

「え?これを⁉︎この硬い瓢箪を⁉︎」

 

「はい、しかもこの瓢箪は特殊ですから通常の瓢箪より硬いです」

 

「(こんな硬いのをあんな華奢な女の子が!?)

 

「それは炭治郎さん用に小さいのを持って来たんです。だんだんと瓢箪を大きくしていくんです。カナヲさんが今破裂させてるのは、これです」

 

そう言って持ってきたのは、炭治郎が手渡された瓢箪より倍の大きさの瓢箪だった。

 

「(でっ……デッカ!?が、頑張ろう!!)」

 

 

 

 

 

それから十五日後……

 

炭治郎は肺も心臓も大分強くなり、全集中・常中も長く維持できている。

 

炭治郎は今日も蝶屋敷の屋根の上で瞑想を始める。

  

 

「(よし、体力もかなり戻ってきた。そして以前より走れるし肺も強くなってきたぞ、いい感じだ)」

炭治郎はここまで全集中の呼吸を維持し続け、自身の変化に手応えを感じ始める。ゆっくりと深く呼吸を行い指先まで空気を巡らす。

 

「(瞑想は集中力が上がるんだ、鱗滝さんも言っていた。鱗滝さ……)」

 

よくも折ってくれたな……俺の刀ァァ!!

 

「(すみません………鋼鐵塚さん)」

炭治郎は自分の刀を担当してくれた鍛冶師が包丁を構え、怒りのこもった声で迫って来た気がした。

 

「(凄い怒ってるだろうな、今刀を打ち直してもらってるけど…本当に申し訳ない…)」

この時、炭治郎や周りからは視認できないが、一匹の猫が、炭治郎を責める様な視線で見つめていた。

 

 

「(余計な事は考えるな!集中だ集中!呼吸に集中するんだ!!)」

 

「こんな時間まで精が出るな…炭治郎」

 

「うわっ!り、燐さん⁉︎」

突如隣に現れた来客に炭治郎は驚いた。燐は炭治郎の反応が面白かったのか笑みを浮かべ隣に座る。

 

「悪いな、突然声なんてかけて、それとほら、常中が乱れてるぞ」

 

「す、すみません!」

 

「何で謝るんだよ、それよりお前一人か?善逸と伊之助はどっかに行ったってカナエから聞いたが、寂しくないのか?」

 

「いえ!出来る様になったら二人にやり方教えてあげられるので!」

 

「ふ、真面目だな…お前」

 

「燐さん…何か良いことでもありましたか?」

 

「ん、何でそう思う?」

 

唐突な質問に一瞬だけ戸惑う燐に炭治郎は迷わず告げる。

 

「燐さんの匂いがなんだが嬉しそうな匂いがしてて・・・その、いつも物静かな匂いなんですけど、今は全く違うので」

 

「そこまでわかるのか、善逸と同じで誤魔化せそうにないな。実はな…俺、父親になるんだ。カナエが妊娠していてな」

 

「え⁉︎本当ですか!おめでとうございます!」

 

「ありがとな」

 

炭治郎は祝福してくれた。カナエから聞いたが、カナヲはカナエが妊娠している事を報告された時に「負担があると思われることは任せて下さい」と言ったそうだ。その時のカナヲの表情はカナエの妊娠を喜んでいるようだったと聞く。

 

燐は夜空を眺め、しばらく沈黙が続いたが、炭治郎は気まずくなったのか口を開く。

 

 

「あの…燐さん、一つ聞いてもいいですか?」

 

「ん、なんだ?」

 

「あの時、どうして俺の言葉を信じてくれたんですか?」

炭治郎にはわからなかった、あの時、他の柱達が信じない中、何故自分の言葉を信じたのか。

 

「柱合裁判の事か?そうだな…一言で言えば、お前達に賭けてみたくなった」

 

「え?かけ…ですか?」

 

「ああ、最初は義勇に聞いて半信半疑だったが、お前の妹の気配を感じて考えが変わった。義勇の言っていた“新たな風”、今ならわかる。お前達の存在は鬼殺隊を変えていく…そんな風に思えたのさ」

 

「…燐さん」

 

「前にも言ったが、お前はカナエに似てる。炭治郎ならカナエの夢を託せるかもな」

 

「カナエさんの夢…ですか」

 

「カナエはお前のように優しい女だ。鬼に同情していた。自分を殺そうとした鬼すら哀れんでいた。鬼と仲良くしたい、カナエの夢だった。しのぶも俺もカナエの夢を、せめて想いを継がなければならないと思っていた。けど、俺もしのぶもカナエみたいには出来ない。俺はせめて、鬼に悲しみを重ねさせないためにも鬼を斬る。それが…俺にできる唯一の情けだ」

 

俺はカナエじゃない、俺は…俺の出来る事をやる。しのぶも自分にしか出来ない事を進んでやっている。

 

「炭治郎、禰豆子はたった一人残った家族だ。守り抜けよ。お前は…俺と同じ事にならない様祈ってる」

 

夜風が吹くと同時に燐はその場から消える。去り際に残った優しく、そして少しだけ切ない匂いに炭治郎は

 

「はい…頑張ります。ありがとうございます…燐さん」

 

 

炭治郎は燐に礼を言い、再び瞑想を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雄一…鬼殺隊は今、歴史の歯車が確かに動き始めた。お前も見守ってくれよな」

 

燐は蝶屋敷の縁側で月を眺めながら酒を飲んでいる。

 

「…燐さん」

 

「しのぶか…どうした」

 

しのぶは燐に近寄り隣に座る。

 

「竈門君と話していたみたいですね」

 

「なんだ…盗み聞きでもしていたのか?」

 

「話し声が聞こえただけよ」

しのぶは燐の肩に体を預ける様にもたれかかる。

 

「珍しいな…お前からそうやってしてくるの」

 

「たまには良いじゃない…、いつも姉さんばかりに構ってるんだから」

 

「なんだ…妬いてるのか?」

 

「…だったら何よ」

しのぶは少しふてくされながら頬を膨らませる。その姿に燐はキュンとしてしまいしのぶをギュッと抱きしめ見つめる。その距離は肌が触れ合う程近い。

 

「あ、あの…燐さん?」

 

「悪い、しのぶ…」

 

「え、え!ちょ…ちょっとまっ…んんっ!」

 

燐はそのまましのぶに近づき唇を重ねる。しのぶは突然の接吻で慌てていたが、燐はしのぶの背中に手を回し抱きしめる。しのぶは落ち着いたのか燐を受け入れ両手を頬にやる。

 

十秒ほどで終えた軽い接吻だったが、しのぶは頬を赤く染めて俯いていた。

 

「…はぁ、はぁ、少しお酒臭いです」

 

「うっ、すまない」

 

「ふふ、平気です。あなた以外の人だったら張っ倒していたところです。それから…私からも仕返しです」

 

「仕返し?って、え?しのぶ、何やってんの?」

 

しのぶは燐の首筋に顔を埋め強く吸い始める

 

「っ、しのぶ…何してんだ?」

 

「虫除けです。前に燐さんが他の女性と親しげに話していたところを見ていたので」

 

「それだけの事でか?結構強く吸ったろ?他の奴になんて言われるか」

 

「良いじゃないですか、夜を一緒に過ごしたと言えば、皆さん納得するわよ」

 

「揶揄われるのが目に見える……」

 

その後、燐はしのぶを座った状態でしのぶをあすなろ抱きし、密着し月を眺める。

 

 

 

 

その後、二人は一緒に寝た。朝一に善逸に首筋の跡を見られ騒がれたが慈悟郎直伝の拳骨で黙らせた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。