赤月の雷霆   作:狼ルプス

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第三話

最終選別を終えて、十三日が経った。

 

「ふぅ、今日はこんなものだろう」

俺は最終選別を無傷で帰ってきた為、鍛練を続けている。帰ってきた翌日に知ったが、師範が言うには俺の雷の呼吸は幻視する雷の色が蒼色だったと言うのだ。師範が言ってるのだから本当だろうと納得した。鍛錬を終えた俺は木刀を持ち師範の家まで戻っていく。

 

師範の家へと戻ると、師範が誰かと話していた。

 

「師範、ただいま戻りました」

 

「おお、帰ってきたか。燐、お主の刀がようやく届いたぞ」

 

「えっ!本当ですか!?」

 

「ああ。此奴が届けてくれたのじゃ」

 

そう言って指をさしたのは、ひょっとこのお面を付けていた人だ。

 

なぜひょっとこ?

 

 

「はじめまして、私は今回担当させていただいた鉄穴森と申します。今日は燐殿の刀を届けにきました」

 

「桐生 燐です。この様な姿で申し訳ありません」

 

「いえ、構いません、あなたの事は慈悟郎殿から聞いております。真面目で素直な子だと」

師範は俺の事をそんな風に思っていたのか、なんだか少し恥ずかしい。

 

鉄穴森さんは木箱を俺の前で取り出し、蓋を開け、中から日輪刀を取り出す。

 

鞘の色は黒で、柄巻は紺色、刀を抜き放つ際には非常に握りやすい。

続いて刀……鯉口を切り、ゆっくりと抜き放つと、鉛色に鈍く光る刀身だった。

 

「さあ、色が変わりますよ」

 

日輪刀は、またの名を『色変わりの刀』と言う。刀を扱う者の呼吸にその色は左右される。師範が言うには、

 

炎の呼吸 赤色

 

水の呼吸 青色

 

風の呼吸 緑色

 

岩の呼吸 灰色

 

雷の呼吸 黄色

 

その他の色が出れば、この中の派生系の呼吸で色は違うらしい。

 

「(本当にこの刀の色が変わるのか?)」

と、疑念を持った。しかし、その疑念は一瞬にして晴れることとなる。

 

燐が日輪刀を掲げると、徐々に刀身に色が入り込む。刀の色は黒色に変わりそして刀身に蒼色の稲妻の模様が浮かび上がった。

 

「凄い……色が」

 

「これは……」

 

「ふむ……黒色、そしてこの模様……」

 

雷の呼吸の使い手だと黄色に変わるはずだが、燐の日輪刀の色は違った。全く同じ色に変化する日輪刀は無いとさえ言われる。

 

「慈悟郎殿……確認なのですが、燐殿は雷の呼吸使いなのですよね?」

 

「ああ。勿論じゃ」

 

「で、あれば……黄色やそれに近い模様に変わる筈です……燐殿の刀の模様は雷の呼吸の使い手にある模様ですが、この二色……蒼い稲妻模様は初めて見ました」

 

「燐、その日輪刀でお主の型を鉄穴森に見せてやれ」

 

「はい……わかりました」

 

慈悟郎の指示に従い外に出た燐は、抜き放った刀を構える。先には丸太を設置している。

 

 シィィィィィィィ。

 

燐は全集中の呼吸を行う

 

高められた集中力、燐の迫力に気圧された鉄穴森は、空気が震える感覚を身に覚えた。

 

「よく見ておるんじゃぞ、燐の太刀筋を」

 

「剣術に明るくない私でも、とても洗練された構えと分かります。いい絵ですねぇ」

 

「雷の呼吸 漆ノ型・雷切り」

 

この技による高速の抜刀術に、蒼色の稲妻が迸ると、設置した丸太が静かに斬り落ちた。

 

 

 

「……本当に蒼色の雷が。」

 

 

「(燐のやつ、あの時よりさらに技の精度を上げおった!)」

 

 

 燐の技は最終選別が終わってからも自身の鍛練を続けている為、精度を上げ続けている。

 

「すごい……この日輪刀、すごいです!手にすごく馴染む。こんなすごい刀を作った鉄穴森さんが俺の担当だなんて、本当に嬉しいです‼︎」

 

燐は鉄穴森に駆け寄り、嬉しそうに告げる。

 

「ありがとうございます。それが我ら鍛冶師の仕事ですから」

 

面で表情こそ見えないが、燐はその隠れた顔は満面の笑みだろうと想像出来た。

 

「燐、決して忘れるな。お主は独りでは無い……!どんなことがあろうとも諦めるな。お主は自分の信じた道を突っ走ればいい」

 

「私からも助言させていただきます。刀も物と同じで大事に扱ってもいずれは壊れます。その時はまた、私があなたの為に刀を打ちます。こんなことでしか燐殿を支える事は出来ませんが、その刀で、一人でも多くの人の命を救ってください」

 

「はい!」

 

燐は誓う。この刀で、悪鬼を滅してみせる、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今小さな墓前にいる、もうここに戻ってくることもないかもしれないと思うから。

 

「父さん、母さん、来るのが遅くなってごめん。」

 

俺はあの日、鬼により両親を失った。しかもそれだけではない、あの時、母さんのお腹の中には小さな命が宿っていた。俺はその時、兄になれるのをすごく喜んだ。しかしそれは叶わず、子もろとも殺された、小さな命が始まりの呼吸をすることなく。

あの時、師範が助けてくれなかったら、今頃俺は鬼に食われていただろう。師範は選択肢を俺に委ね、俺は迷わず鬼殺隊の道を選んだ。

二人がどう思っているかはわからないが、生きていたら絶対反対しただろう。

 

「父さん、母さん、俺……鬼殺隊の剣士になったんだ。かなり危ない仕事だから、二人は反対するだろうと思うけど、これが俺の選んだ道なんだ。もう…同じ悲劇を繰り返さないために」

 しばらく燐は墓標に眠っている両親に言葉を続ける。そして、充分に言いたい事を伝えると立ち上がった。

 

「モウイイノカ?」

白鴉は空気を読んでその間何も言わず待っていてくれたのだ。

 

「ごめん、待ってくれてありがとう、鴉…どこに向かえばいい?」

 

 

「東二ムカエ!旅人ヤ商人ガ!忽然ト行方ヲ晦マシテイル!コレヲ調査スルノダ!」

 

「了解」

 

最後にもう一度、父さんと母さんの墓を振り返る。

 

「……いってきます」

 

 

それを最後に、俺はもう二度と後ろを振り向くことなく駆けだした。

 

ザァァア。

 

その時、ほんの少しだけ追い風が吹いた。

 

『『いってらっしゃい……燐』』

 

その風はどこか温かく、まるで父さんと母さんが俺の背をそっと押してくれたように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が鬼殺隊の道を選んだ選択を後悔する事はない……絶対に──




今回は短めです。

刀身の色は炭治郎と同じでその中に蒼色の稲妻模様が入った感じです



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