赤月の雷霆   作:狼ルプス

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第六話

朝食から数時間後、俺は今、屋敷の屋根の上で瞑想をしている……けど、集中できずにいた。

 

「……」

 

「ふふ」

 

胡蝶(姉)が隣でじっと俺を見つめているからだ。しかもかなり距離が近い。気が散って仕方ない。

 

「胡蝶、用があるならなんか言ったらどうだ?」

 

「あらあら、さっきはあれだけ可愛い顔していたのに」

 

「あれのどこが可愛いんだよ?正直情けない姿を見せたんだ、俺は」

 

あの後、かなり気まずかった。何とか食べ終えた俺は、何ごともなかったように澄まして、その場から逃げるように離れ、今に至る。羽織は洗濯してもらっているため、乾くまで時間がかかる。白からの報告は今の所ない為、待機している状態だ。

 

「カァー!カァー!桐生燐!次ノ任務ガクルマデ休暇ダ!」

噂をすれば、突如相棒の白が伝令に来た……と言うか休暇?

 

「え?休暇って……俺、全然動けるぞ?」

 

「ケケケッ」

 

「いや、ケケケッ…って!おい待て!詳しい説明をもう少し!」

白鴉は無視して飛び去っていった。

 

「…………はぁー、どうしたものか」

ため息を吐き、とりあえず瞑想の続きをする。休暇と言われても、釣り以外の趣味がないから、鍛錬に当てるしかないだろう。

 

「あのー、もしもーし?」

 

「(新たな型も試みているが……中々形にならない、まぁ、新しい型はそう簡単に編み出せるもんじゃないからな。地道にやっていくしかない)」

現在、雷の呼吸の新たな型を試しているが中々形にならない。雷は速さに重きを置いているため、力強い型は少ないのも理由の一つだ。

 

「ムゥー……きこえてるー、燐く〜ん?無視は悲しいな〜」

 

「(漆ノ型の雷切りは精密な居合技だ。それに、“あの力”を使いこなさないと)」

一度任務で漆ノ型を使ったことがあるが、それは静かな居合で雷の音が後から鳴っていたと、任務に同行していた隊士に言われたことがある。

 

「…ふー」

 

「わひぁっ⁉︎」

耳に息を吹きかけられ変な声を出してしまった燐は、隣を見返す。

 

「なっ、一体何を⁉︎」

 

「あらあら、可愛い声出しちゃって〜、でも無視するのがいけないのよ」

 

胡蝶は悪戯が成功した子どものような笑顔を浮かべた。白の伝令で、すっかり忘れていた。

 

「悪かったな、鎹鴉の伝令で少し考え込んでしまってな」

 

「その事なんだけど、燐君……もし燐君が良ければ私としのぶに稽古をつけてくれないかしら?」

 

「稽古?いや、別に構わないが……俺で大丈夫か?」

 

「うふふ、柱と同等の実力を持ってる燐君だから問題はないわ、この屋敷、実は道場もあるのよ」

 

「道場まであるのか……」

 

「ええ、主に怪我をした隊士がある程度治ったら機能回復訓練を行うの」

 

「なるほどな」

治療だけでなく、治った後に万全な状態まで回復させるのも一環らしい、詳しい内容は知らないが。

 

「案内するから、準備ができたら「いやあああああああっ!!」あら?」

突然しのぶの叫び声が聞こえた。燐はすぐさま屋根から飛び降り走り出し、悲鳴の聞こえた方へ向かう。

 

「今の悲鳴、もしかしたら……燐くんには言っておけばよかったわ、しのぶが、全体に毛の生えた動物が苦手だってこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!大丈夫か⁉︎何があった!」

怯えるしのぶを見つけた燐が、視線を先に向けるとそこには……。

 

「え………猫?」

燐はてっきり不審者がいるのかと思い駆けつけたのだが、彼女を見ると猫を見て怯えている様子だった。

 

「あ、あ、あ」

しのぶは身体を震わせて腰を抜かしている状態だった。燐は猫に近づき頭を撫でる。

 

「どうしたんだ、お前?何でここに?」

野良猫だが、かなり人懐っこいのかすごくおとなしい。

 

「ニャーン」

 

「迷い込んだのか……」

燐は猫の顎を撫でると、猫は気持ち良さそうな様子だ。しかししのぶは真逆でかなりの怯えようだ。

 

「は、早くその子を追い出してください!」

しのぶは狼狽えていた。燐はその様子が不思議で仕方なかったため彼女に問う

 

「どうしたんだよ?たかが猫だろ、なぁ?」

 

「ニャー」

 

「ほっ、本当に無理なんですよ、私!ここだけの話…こういう毛がボサボサな生き物が苦手なんです!」

 

胡蝶(妹)が涙目になりながら訴えるので、やむなく俺は猫を抱え屋敷内の外に出す。

 

「……これでいいか?」

 

「す…すみません、ありがとうございます」

胡蝶(妹)は礼を言ってくる。警戒はまだされているだろうがやはりしっかりした子だ。

 

「いや、大した事はしていない。苦手なのは仕方ない事だからな」

 

「そう言ってもらえると助かります。」

胡蝶(妹)は立ち上がり、服に付いた土を払う。

 

「ああ…そうだ、これから胡蝶の提案で稽古する事になったんだが、お前はどうする?」

 

「………はぁぁぁぁぁぁ」

は?なぜそこでため息をつく?

 

燐はおかしなことを言っただろうかと心配になる。しかししのぶが思ったのはそんな事ではない。

 

 

「ねぇ……桐生さん、”胡蝶”だと少し紛らわしくありませんか?」

 

「……え、何か問題が…」

 

「胡蝶って呼称だと、姉の方と区別がつかないでしょ? だから、名前の方で呼んでくれても構いません」

 

「いや、昨日知り合って間もない人を下の名前で呼ぶのは……」

 

「私が良いって言ってるんです!姉さんと一緒にいる時、どっちを呼ばれているかわからないんですからね」

俺は少し考え込んだが、結局彼女の言葉に従うことにした。

 

「わかった、”しのぶ”……これでいいか?」

 

「よろしい」

しのぶは満足したような顔をして頷く。

 

「俺は鴉からの伝令が来るまで休暇になったんだ。羽織が乾いたら出ていくつもりだったが、胡蝶が、しのぶや俺と一緒に鍛錬をしたいそうだ。」

 

「……姉さんが?」

 

「ああ……どの道暇になったから、胡蝶が提案してきたんだ。お前もやるか?」

 

「やります。鬼殺隊、しかも……『雷の剣聖』に稽古をつけてもらえるなんて滅多にありませんから」

この様子だと、しのぶにまで俺の噂は知れ渡っているみたいだ、おそらくは胡蝶がしのぶに語ったのだろうが。

 

「そんな大層な剣士じゃないんだがな……それは置いとくとして、道場まで案内してくれないか?胡蝶は気配からして既に移動しているしな」

 

「構いませんけど、気配…ですか?」

しのぶは訳がわからないと言う表情をしていた。いきなりそんな事を言われても理解は難しい。

 

「ああ、簡単に言えば気配を感知出来るんだ、俺。気配には人によって特徴もあるから、顔さえわかれば誰の気配かすぐにわかるからな」

 

「それは……鬼も感じとることが出来るんですか?」

 

「ああ、鬼は主に邪気を感じるからすぐにわかる。だから仮に鬼が人に紛れて変装していたとしてもすぐにわかる。まっ……これは父さんから教えられた技なんだけどな」

 

「桐生さんのお父さんに……ですか?」

 

「ああ…」

 

「その、桐生さんのお父さんは……」

 

「いないよ……俺の両親は、鬼に殺された。」

しのぶは顔を俯かせる。この反応だと、胡蝶姉妹も両親を喪ったのだろう。鬼殺隊は、鬼に大切なものを奪われた者が多い。先輩の村田さんもそうだ。

 

「とりあえずこの話は終わりだ。道場まで案内を頼む」

 

「はい、わかりました。道場は屋敷内とつながっているのでついてきてください」

 

「…了解」

 

しのぶに道場まで案内されると、胡蝶が木刀を持って鍛錬をしていた。道場に入り、向き合って正座をする。

 

「今日はよろしくね、燐君」

 

「よろしくお願いします」

 

「ああ、よろしく。始める前にいくつか質問をする。まずはしのぶ、お前……全集中の呼吸は出来るか?」

始める前に幾つか確認しないと鍛錬は始められない。いきなりきつい内容だったら話にならないからだ。しのぶはまだ正規の鬼殺隊ではないため、確認しないといけない。

 

「はい、一応それなりには、まだ呼吸剣技はイマイチですが」

 

「ありがとう。これなら教えられそうだな、二人に質問する。二人は……全集中を維持したままどのくらい保てる?」

 

「「え?/は?」」

胡蝶としのぶは目を丸くした。まぁ、普通ならそういう反応になるよな。俺の場合独学だったし。

 

「ちょ、ちょっと待って燐君、今……なんて?」

 

「ん?全集中をどのくらい維持できるかって」

 

「ちょっと待ってください!ただでさえ全集中の呼吸を行うだけでもきついのに、それを維持⁉︎冗談にも程がありますよ!」

 

「冗談で言っている訳じゃない。全集中を維持する状態を全集中・常中と言う。」

 

「……全集中・常中」

 

「この呼吸は、柱や階級の高い者の殆どが会得してる。覚えておいて損はないはずだ」

常中について説明すると、二人は納得するよう頷く。

 

「その前に、二人にはこれを使ってもらう」

燐はどこから出したのか瓢箪を姉妹に見せる。

 

「瓢箪?」

 

「普通の瓢箪ね。これをどうするのかしら、燐君?」

 

「その瓢箪を破裂させるんだ」

 

「「えっ……破裂?」」

 

流石姉妹、息ぴったりだ。

 

「ああ、破裂させるんだ。息を吹いて…」

 

「えっ!この硬い瓢箪を破裂させるんですか⁉︎」

 

「さ、流石に無理があるんじゃあ」

 

「こうでもしないと常中を会得できたかわからないからな。ただ…この瓢箪は普通の瓢箪より硬いからな、なんなら手本を見せるよ」

燐は二人が持っていた瓢箪を手に取り息を吹きかける。瓢箪はいとも簡単に破裂した。

 

「「…………」」

 

「こんな風に破裂させる事ができるんだ。今の俺くらいになると、これより倍の大きさの瓢箪を破裂させる事ができる。」

姉妹は呆然としている状態だ。目の前で常識外れな事をやれば無理もない。しかしこの二人ものちに常識離れをする事になる。

 

「とりあえず、まずは全集中を維持するためには肺を鍛えないといけない、そのため先ずは俺とお前達で鬼ごっこをする。俺が逃げる方で二人が俺を捕まえる方だ。」

 

 

「えっ?流石にそれは私達の方が有利なんじゃ…」

 

「安心しろ……今のお前達には絶対に捕まらない自信がある」

 

「舐めた事言って…、姉さんやろう!桐生さんに一泡吹かせてやりましょう!」

 

「あらあら、珍しくしのぶもやる気が出てるわね。」

 

 

 

 

 

 

 

こうして胡蝶姉妹の修行が始まった。




この時点で胡蝶姉妹の強化が始まります。しのぶは鬼殺隊に入る前には常中を会得しています。

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