終わりそうな世界で、それでも私は「生きたい」と叫ぶ   作:青川トーン

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開闢の旋律

 この世界を支える結晶樹、その根元の更に下に広がる洞窟の泉。

 精霊の泉と呼ばれるそこにマコトは居た。

 密着するような体を覆うスーツの上から装束を着た彼女はメガリスとも精霊とも違う「新しい力」がこの世界に生まれた事を感じ取った。

 

「そうか、あれが私達の最後の希望……なんですね、精霊様」

 

 500年前、地球は宇宙よりやってきた12体のメガリスによって蹂躙された。

 あらゆる命が死に絶えていく中、全てを投じた抵抗によって3体のメガリスを倒す事が出来たものの、結果として人類は敗北した。

 死力を尽くし終わりを待つだけだった人類の前に「それ」は舞い降りた。

 3体のメガリスの残骸を使って、この星に最後の「箱舟」を作り出した。

 

 それが「アーク」と呼ばれるこの島であり、そして今「精霊」と呼ばれる存在である。

 

 マコトは、この精霊の声を「受け取る」事のできる巫女でありの一人であり、当代の「祭司長」。

 この島に生きる命全てを背負って立つ者である。

 

 水面が淡い光を放ち、波打つ。

 

「さあ、私も役目を果たさなければな」

 

★ ☆ ★ ☆

 

『MAGIC-GIRL-STANDARD-SYSTEM HEAVENS HEART AKATSUKI-X2』

 

 その身に白き「アカツキ」を纏い、魔法少女は行く。

 彼女を突き動かすのは、生きたいという意志一つ。

 

 故にアカリは飛ぶ。

 

 

 巨石建造物体「メガリス」

 文字通り、その巨体を構成するのは「石」だ。

 それもただの石ではない、地球上には存在しない未知の構造体だ。

 核となるエネルギー結晶体を中心に流動し、まるで生物の様に振舞うが、そこに「命」も「魂」もない。

 

 異星人の兵器と推測されてこそいるもののその正体は定かではない。

 

 山ほどもある巨大な球体を中心に一つ一つがビルほどのサイズの球体が12。

 防衛の為に出た戦闘機に向かって凄まじい速度で体当たりをしかけて撃墜し、さらにはその質量で転がる事で街を蹂躙するのは旧時代において人類との戦いで残った9体のメガリスのうちの一体。

 

 破壊天球サテライト

 

 戦闘機の機銃も、レールガンによる対空砲火も効かず、ミサイルでさえも傷つける事のできない頑強な敵に対し、アカリの持つ武器はただ一振りの「杖」だけ。

 

 当然だが、アカリには戦闘経験などない。

 武術の心得どころか、暴力に訴える喧嘩も。

 

‐怖い

 

 恐怖を抱きながらも、アカリはメガリスに向かって飛ぶ。

 不安を抱きながらも、与えられた力を信じて、握り締める。

 

 

『聞こえるか』

 

 不意に、よく知る声が聞こえた。

 それはマコトの声だ。

 驚きながらもアカリは精霊の力か何かと納得して、肯定の意志を告げる。

 

『ならよし、私がお前に敵との戦い方を教える』

 

‐マコト先輩が?

 

『そうだ、巫女として、祭司長として、精霊様の意志と、人々の願いでお前を導く』

 

 メグリ・アカリは最後の希望であり、その器だ。

 だがまだ未熟で、幼いが故に支えが必要だ。

 

 最後の希望を守る事こそが精霊巫女「マコト・カノン・エシズ」としての役目。

 

『まずは小物から片付けろ、握った杖に意識を乗せろ』

 

 言われたとおり、アカリは右手に持つ杖を強く握り「通れ」と念じる。

 すると驚くほどすんなりと「杖」に体の一部の様に感覚が通る。

 

‐あのこれはっ!?

 

『後で説明する、それよりも次は攻撃だ、メガリスの質量に対して物理攻撃は通りにくい。コアを狙って「波動」で攻撃しろ』

 

‐波動って何ですか!?どうやって!?

 

『なら《ウタ》を杖で増幅して撃ち出すんだ、お前も歌唱部なら歌える筈だ』

 

 音とは光についで最も身近な「波」。

 アカリは攻撃となる《ウタ》を考えながらも、戦闘機を追いかける「衛星球」に狙いをつける。

 

 敵を凝視するとまるでゲームの様にターゲティングマークが視界に現れる、さらに凝視すれば透ける様に絶えず流動する石の球体の中に浮かぶ結晶核が視えた。

 

 スゥと息を吸い込む、春の暖かくもまだ冷たい空気が肺の中に満ちる。

 

「ウィア ス ロクアーゴ エ レンセ ララ レロノータ」

 

 口から紡がれるのは「音」の羅列。

 ヒトの言語としての意味はもたない、だが「詠唱」としては意味を持つ。

 

 「波」が手から伝わり、杖に供給されているエネルギーが形状を変えていく。

 

-撃てる

 

 直感的にそう感じたアカリは、杖の先に繋ぎ止めているエネルギーを「開放」する。

 

《ウェーブショット》

 

 放たれた「音の槍」は真っ直ぐに衛星球のコアに突き刺さり爆裂。

 常に流動している石は動力と制御を失うとまるで液体の様に解けて崩壊した。

 

-やった!?

 

『まだだ、来るぞ』

 

 一撃で衛星球を破壊したアカリをメガリスは「脅威」と認識した。

 戦闘機を追っていたもの、街を破壊していたもの、全てが等しく浮かび上がり、本体の周囲に戻ってくる。

 

 衛星球がまるで口を開くように変形して、コアを露出しながらメガリスを中心に周回軌道を描き出す。

 

『回避しながら、ウタで壁を作り、隙を見て周囲の奴らを片付けろ、本体は一番最後まで残せ』

 

‐わかりました!

 

 500年前、人類は多大な犠牲を払って3体のメガリスを倒した。

 だがその際に本体を狙った攻撃を行ったが故に、攻撃部隊は誰一人帰ってくる事が出来なかった。

 それは本体の制御を失った「眷属物」の暴走によるものだ。

 

 一体一体が反応兵器と同等以上の威力の爆弾になる、故に先に眷属物を始末しなければならない。

 

 

 露出した衛星球のコアからアカリ目掛け赤いエネルギー弾の弾幕が展開される。

 一発一発の威力は体当たりによる質量攻撃に比べればマシだが、十分以上の殺傷力と、空と視界を埋め尽くす程、まるで光の吹雪だ。

 

「エルル ワール ヴォーテ ウォル ロール」

 

《スパイラルシールド》

 

 弾幕は熱量を持ってこそいるが、質量自体はさほどない。

 杖を正面に向け、波動の渦を描く、空間を歪め、重力を歪め、エネルギー弾を収束していく。

 

 そしてそのまま収束したエネルギー弾に波動特性を込めて《チャージショット》として露出している衛星球のコアに撃ち込み、崩壊させる。

 

 残り10体。

 衛星球は軌道を変化させつつ、速度を上げて失った分を補うように弾幕を激しくし、さらにそれに加えて衛星球を構成する石を変化させた砲弾を混ぜてくる。

 

‐!!

 

 物理的・質量的な威力を持った弾は《スパイラルシールド》では吸収しきれない、アカリは石の砲弾を回避しながら次の攻撃手段を模索する。

 

『メグリ、一体ずつではなく一気に纏めて始末するんだ。敵はお前の行動に対応してくる』

 

 メガリスは基本的に機械的・規則的な攻撃を仕掛けてくるが、相手の行動にあわせて「学習」する。

 つまり長期戦になれば不利になるのはこちら側だ。

 

 距離を取り、アカリは残る全ての衛星球を視野に入れ《マルチロックオン》を行う。

 

「メルガ レレイースル アーラ ロウルス」

 

 《スパイラルシールド》でエネルギーを吸収し、石弾は回避、そして詠唱により自身からもエネルギーを杖に供給していく。

 

 そして杖が保持可能なエネルギーの最大値に達したと同時に全開放。

 

《ホーミング・リリース》

 追尾弾により、9体の衛星球のコアを同時に撃ち砕き、崩壊させる。

 

 これによって残るは本体である「メガリス・サテライト」だけ。

 

 しかしアカリはサテライトの内部のコアを見て驚愕の表情を浮かべた。

 それはあまりに巨大で、衛星球とは桁違いのエネルギーを持っていた。

 

 つまり、とてもではないが撃ち落せない。

 

-こんなの、どうすれば

 

『一発で撃ち落せないなら、百発撃ち込め、百発でだめなら千、千でダメなら、一万だ。お前のウタは「届く」だから諦めるな』

 

 衛星球を失ったサテライトは形状を変化させ、全方位に向けて無軌道に直線的な光線を放ち始める。

 それを回避、あるいは被弾しつつも全身を覆うバリアコーティングで耐えつつアカリは敵を見据える。

 そうだ。

 

-私は、生きたい……

 

 メグリ・アカリは「生きなければいけない」。

 ロックオンを解除し、《フルオート》へ切り替える。

 

「エール ロード ロール ウォーラララララララララ」

 

最初の3節で形状を固定し、ひたすら《La》の音をショットへと変換していく。

 

「ララララララララララララララ!!!!」

 

 息の続く限り《ウタ》い、空気がなくなればありったけの大気を吸い込む。

 かつて地球という星を覆い、生命を育んできた大気。

 

「ララララララララ!!」

 

 ここに生きる存在として、滅びへの抵抗と精霊への感謝を込めたウタを、メガリスのコアへと撃ち込む。

 

 それはメガリス・サテライトのコアを確実に削り、亀裂を生み、そしてついに「打ち砕いた」。

 絶え間なく流れ出た光線が止まり、メガリス・サテライトが波動エネルギーによって内部から「爆裂」した。

 

 粉々に砕け散った残骸が天蓋から与えられる精霊の光によってキラキラと瞬いて、降り注ぎ消滅していく。

 正しくは、精霊によって「同化」されていく。

 

『……アカリ、よくやった。本当に……』

 

 感極まったマコトの声に、アカリは安堵の息を吐く。

 痛む喉を押さえ、未だに自分でも信じられないという気持ちを抑えながらも、生き残ったという真実を噛み締める。

 

 

 かつて精霊は三体のメガリスの残骸でこのアークを作り、500年に渡り人を生かしてきた。

 それを支えてきたエネルギーの一つがこのメガリスのコアだ。

 

 そして今日という日にメガリスの襲撃があったのは何も偶然ではない。

 精霊の力が尽き、限界が訪れたのだ。

 

 当然、全てのモノには限りがある。

 故に何も対策が無かった訳ではない、いくつもの手段で延命を繰り返し、未来を求めて抗った。

 

 メグリ・アカリが最後の希望というのは比喩ではない、文字通り、精霊の力が完全に尽きる前にメガリスと戦う事の出来る「最後の手段」だった。

 

 それに加え、エネルギーを補給できたとはいえ、すでに「サテライト」の襲撃でこの地に人の生き残りがいる事は敵に伝わっている。

 

 この先、隠れ通す事は出来ない。

 やってくる残り8体のメガリスと戦わなければならない。

 それが人類が生き残る為のただ一つの手段。

 

 メガリスと人類の最後の戦いが始まった。

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