「おかしいよ!」
「おかしくないわよ!」
副将同士で口論が起こるが、それを制したのはラウラだった。
「いや、いい簪。ハンデは要らん」
ラウラがニヤリと不敵に笑う。
「これで私が勝ってみろ、もう奴らは勝てないぞ?酸っぱいものでもダメかぁ、となるぞ?」
「じゃあハンデは無くていいわね?当たり前だけどさ」
「あぁ、無くていい。簪、見てろよ」
ラウラの宣言に、鈴とセシリア、簪も不敵な笑みを浮かべるのであった。そして終始、一夏と箒は会話から置いていかれていた。
「ふ菓子は1本丸々だとごちゃごちゃしてアレだから半分ずついこうか。で、まずあたし達副将が食べて、その後に大将が」
「承知した。残りを食べればいいのだな?」
「そうね。これが無くなった時点からこのラムネに入っていくっていう」
鈴はルール説明をしながらシートの上に置かれた駄菓子の山の中から瓶ラムネを取る。
「これは食べ方があってね。中に粉が入ってんのよ」
瓶ラムネを上下に振ると、シャカシャカと音が鳴る。
「こうストローを刺して、中の粉を全部吸ってもらうから」
「まず吸うのか?容器ごと直接かぶりつくのではなく」
「吸うわよ。粉が全部無くなったなー、ってタイミングで殻を全部食べると」
続いて取り出されたのは花丸せんべい、そしてラウラ1番の懸念材料、梅ジャム。
「1つ間違えないでもらいたいのは、あくまでメインは梅ジャムを食べることですので」
「その辺の食べ方は自由で構わないな?」
「はい。まず梅ジャムを全部先に飲んで頂いてせんべいを食べる、というのも作戦の1つですわ」
その後のルール設定で、さすがに1人ではキツいということで花丸せんべいと梅ジャムはチーム2人が共同で参戦することも決定。
「そして、これが終わったところで」
「大将戦。梅ジャムを食べた勢いで流れ込んでもらうわよ」
大将戦に選ばれたのは勿論梅干し。大将1人で約30個全部食べるという、まさに至極の対決となっている。
「では、まずどれくらい酸っぱいかを確かめてもらうために」
セシリアはラウラに渡された梅干しの容器を開け、蚊帳の外に置かれている一夏と箒に目を向ける。
「一夏さん、箒さん。少し試食してみてくださいな」
「え?いいのか?」
「なら、頂こう…」
一夏と箒はそれぞれ梅干しを1個ずつ手に取って口の中に入れる。
「昔ながらの漬け方らしいですわ」
「見るのも嫌だな………」
一夏と箒がうんざりとした表情で愚痴るラウラを横目に梅干しを味わっていると、「おおっ…」「うーん……」と唸り、苦笑いを浮かべる。
2人のリアクションから、相当酸っぱい梅干しであることを瞬時に察したラウラが作り笑いを見せる。
「どうした…?」
「ラウラ、セシリア。この梅干しは遊びのない梅干しだ…」
「よくあるだろ?甘い梅干しとかカツオ風味とかそーいうちょっとした工夫が施されているやつ。この梅干しはそういった遊びが一切ないぞ」
つまり、普通に、ガチで酸っぱい梅干しである。昔ながらは伊達ではない。そんな梅干しを早食いで30個となると塩分摂取がとんでもないことになりそうだが、お互い引くに引けないところまで辿り着いていた。
「分かった。ということでセシリア早くやろう。もう私は正直耐えられん」
「お昼休みも限られてるし、ちゃっちゃとやっちゃおうか」
対決する4人はそれぞれ半分に分けられたふ菓子を片手に持つ。スタートの音頭を取る箒は「ごほん」と咳払いをする。
「準備はいいか?」
「はい」
「えぇ」
「うむ」
「うん…!」
「ではいくぞ…………構え!!」
鈴、簪はすぐにかぶりつけるように、ふ菓子の先端を口元に近づける。
一夏も固唾を飲んで見守るが、今この時においては、彼の視線が気にならない程に4人の集中力、戦いに勝つという意識は極限状態にまで達していた。
「よーい……………始めッ!!」
「よしいけ簪!」
こうして、対決学園何戦目か分からない戦いの火蓋が切られた。
「あーっ!もっさもさするコレ!」
「水、水………」
鈴、簪の2人はほぼ同じタイミングでふ菓子をかっ食らう。が、思うように喉を通らない。冷静に分析していたラウラはその理由を見極めていた。
「これは水分だな…」
ふ菓子はただでさえ口の中の水分を持っていかれる上に、水分補給は自販機で買った缶のお茶1本のみ。鈴も簪も早々にお茶を流し込んでいくが、これが後々展開を大きく左右することになる。
「飲み込め飲み込め、簪慌てる必要はない。無くなってから入れればいい、慌ててはダメだ!そうだいいぞいいぞ!」
ふ菓子を口いっぱいに含んだ簪がコクコクと首を縦に振り、ふ菓子とお茶を交互に口に入れていく。
「鈴さんその調子ですわ!」
「ふんがっが!」
「簪!簪!焦るな、焦るな!アイツは絶対に自滅する!」
お互い大将直々の激を飛ばされながら、一心不乱にふ菓子を減らす。
「ははははははは!アイツ噴き出したぞ!今だ簪!リードを広げろ!そうだ一定のリズムを刻んでいけ!」
噴き出して動きを止めた鈴を尻目に、簪はどんどんふ菓子を食らう。
しかし簪の攻勢に対してある懸念を抱いている人物がいた。一夏と箒、審判であるシャルロットだ。
彼らが気になったのは簪のお茶の量だ。お茶は1人につき1本支給されていて、それ以上はない。しかもまだせんべいに梅ジャム、梅干しとお茶を使うべき大物を残している。水分を消耗するふ菓子をどれだけお茶を残した状態で食べ切るかが、ある意味この戦いの行く末を分けることになる。
鈴はお茶を飲み込む量を少なくした上でふ菓子を食している。しかしここまで簪はハイペースでお茶を飲んでいた。見立てが正しければ、簪が飲めるお茶の量は既に半分を切っているはず、大丈夫なのだろうか?
そんな懸念も露知らず、「どこを見ていますの…」とセシリアからツッコミをもらいながら簪は爆進、少し遅れて鈴が続く。
「勝ってるぞ!飲め飲め飲め!いいか、私は梅干しが食えん。だからここでリードを取るんだ」
そしてついに簪のふ菓子があと一口で食べ切れるサイズになる。
「いいぞ焦るな簪、そこで最後だゆっくり食えばいいんだ」
最後の締めとばかりに流し込んだお茶と共に飲み込んだ簪が「あ!」と口を大きく開ける。この合図がテレマークとなる。
合図を貰ったラウラが食べ始めたと同時に鈴もセシリアへバトンタッチ。これでもまだほぼ互角。
「セシリア、これ給水ホント大事だから」
「私はもうお茶が全部無くなった」
「は!?」
「あははははは!」
簪の口からさらりと戦局を左右する爆弾発言が投下され、鈴は爆笑、ラウラは一瞬狼狽たが食らう速度は緩めない。
「かなりの給水が必要よこれは。あっでもセシリア早い早い!あははははは!」
普段の振る舞いからは想像もできない齧り付きでラウラを追うセシリア。そんな追撃を振り切らんとばかりにラウラも一定のペースでふ菓子を食べ続けていく。
「あたしまた恐いよ、ラウラ笑わなくなってきたよ」
「どこ見てんのそれ…?」
「ホントどこ見てんのもう虚空見てるんだけど」
鈴と簪の解説が入る中、一歩先をいっていたラウラが口を開けて「はい!」と叫ぶ。それと同時に簪は瓶ラムネを開封、中身の酸っぱい粉をストローで吸い始める。
「さぁセシリアはテレマークがつくのか!」
「吸え吸え吸え、大丈夫だ、リードをとっていけ」
「はい!!」
「はい!テレマーク!」
少し遅れて鈴も瓶ラムネを吸い始める。しかしその酸っぱさに「うわっ…!」とむせてしまう。
「どうだ!?どうだ簪!頑張れ!頑張れよ!焦る必要はないぞ。無くなったか?」
粉を無くなったことを確認した簪は首を小さく縦に振る。
「よし食え食え食え簪!!でもお前お茶ないって言ってたよな…?」
ラウラからの捲し立てに応えるように簪は一心不乱に瓶ラムネの容器へと齧り付いていく。簪のお茶が尽きたという不安要素が心配だが、現状その不利を感じさせないスピードで瓶ラムネを頬張っていく。
「リードはしてる…リードはしてる」
「あ」
「よしいいぞ!!」
テレマークを合図にラウラが瓶ラムネの封を切る。それから少し経って鈴も完食、セシリアも瓶ラムネに取り掛かる。
「あはあはあは…!!」
しかしラウラが瓶ラムネの酸っぱさにむせて足が止まる。シメたとばかりにセシリアが猛追。結果、先に粉を吸い切ったセシリアがここにきてラウラ達から初めてリードを奪う形になった。
「それ無くなったら
「まずい…リードがあまり広がってない」
ラウラが思ったより瓶ラムネに苦戦したためかセシリアにリードを詰められ、2人はほぼ同時のタイミングでテレマーク、ついに両チームが並んだ。
「どうするラウラ!」
「ジャム!ジャムいけ!自分で食え!自分で食え!自分で食え!」
次の食べ物は花丸せんべいと梅ジャム5袋、梅ジャムが曲者である以上拮抗した戦いになると思われた。
だが大勢の予想に反して、1人の人物が覚醒を遂げる。それに最初に気付いたのはシャルロットだった。
「セシリア全部ジャム食べてる!」
「あははははは!セシリア直でジャム食べてるはははははは!!」
何とセシリアは梅ジャムを花丸せんべいに付けることをせず、直で吸って食べる作戦に出たのだ。これには鈴も大爆笑、ラウラと簪、ギャラリーの一夏達も呆気を取られて固まっている。
セシリアの覚悟に怯んだもののすぐさま追いつかんと3人は曲者梅ジャムに食らいついていく。
「あぁ酸っぱい!酸っぱいぞコレ!」
「すっぱーい!!」
「簪!せんべい全部私が食べるからジャム食べてくれ!」
「えぇ!?」
予想を超えた酸っぱさにラウラはとうとう梅ジャムを全部簪に擦りつけ、自分は花丸せんべいを食べる作戦に打って出る。
「いや酸っぱいわよコレ!セシリア酸っぱいってコレ!」
「あぁ!ああああっ!!」
「酸っぱい酸っぱい酸っぱい!!」
その酸っぱさに鈴と簪が悶絶する横で1人黙々と食していたセシリアは再び梅ジャムを直吸いで口に入れていく。それも1袋だけでなく一気に3袋も。
「簪、ジャム全部食え」
「んんんんんんんん!!」
「わたくしはジャム無くなりましたわ」
「ははははははははは!!」
1人で梅ジャム4袋完食という荒業を成し遂げたセシリアにもはや笑うしかない鈴。
「いいな、ジャムだけ食え」
「何なのこれ…」
「簪、ジャム無くせ早く」
「んんん…」
簪へ対するブラックすぎる無茶振りに鈴とセシリアが苦笑いを浮かべる。そんな中ようやくラウラ・簪ペアも梅ジャムを完食、花丸せんべいに取り掛かる。
「全然すぐ終わらないじゃないかコレ、すごい沢山あるぞ!」
思ったより枚数が多い花丸せんべいに毒づきながらも先程の梅ジャムとは違ってスピードを上げて食していく。
「やばいな…」
「ウチら勝ってるわよリーダー!」
「まずい!無くなったぞ向こう!」
ついにセシリア・鈴ペアが花丸せんべいを完食。鈴のテレマークを合図に最終戦、梅干しの蓋をセシリアが開けた。
「いけるいける!勝てる勝てる!もらったわよこの勝負!!」
「あっ!」
「無くなった無くなった!大将梅に入った!」
「いけラウラ!頑張って!」
「あっはっはっはっはっはっはっは!!」
ラウラも最後の梅干しを怒涛の勢いで口の中へと押し込んでいく。
「無言です!無言ですラウラ!」
喧しい外野(主に鈴)に目もくれず死に物狂いで梅干しを頬張っていたラウラだったが、ついに決定的な瞬間が訪れた。
「ぐああああああああああ!!!!」
ラウラが目にしたのは、セシリアの梅干しがあと1個になった瞬間だった。敗北を突きつけられるには充分すぎる決定的な一撃に表情が歪む。
「あははははは!ラウラの顔が苦痛に歪んでいます!!ラウラの顔が…!苦痛に…!」
完全に手が止まったラウラを他所に、セシリアが最後の1個を悠々と口へ運んでいく。
「あーセシリア食べたセシリア食べた!」
そして最後の1個を充分に堪能したセシリアは静かに、高らかに宣言した。
「ごちそうさまでしたわ」
「しゅーーりょーーー!!!!」
鈴の終了宣言を前に、ラウラは朦朧としたまま俯いた。
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」
「やったああああああああああ!!」
魔神ラウラを撃破した喜びに沸くセシリアと鈴。セシリアからガッツポーズが出る一方ラウラは敗北の悔しさから自身の膝を叩く。
「これはやっぱアレよねー。梅までにリードできなかったのがつらかったわね、見てた感じあのせんべいに手こずってた感あるわ」
「そうだなぁ………でもそれ以上にあれだな」
喜びから落ち着いた鈴が冷静にラウラ達の敗北を回顧していく。鈴の回顧を聞いていたラウラは横にいる簪を見てボソッと呟く。
「お茶飲みすぎだなぁ…」
「いやだからふ菓子のところでお茶を使い果たしたことが敗因よね」
「簪は序盤でお茶を飲みすぎたなぁ…」
「ラウラ、私だけに責任なすりつけるのは良くないと思う」
「何だと?」
「『梅ジャムだけ食え』はさすかに酷い」
「はははははは!」
「梅ジャム5つはキツかった…」
「そうか……私としたことが明らかに作戦ミスだったか」
早々に簪のお茶が底を尽きたこと、酸っぱい物が食べれないラウラの無茶振り、それらが巡り巡った結果この敗戦に繋がってしまった。
「済まない簪、私は大量の梅を前に自分を見失っていた」
「初めて見たよあんなに弱ったラウラ」
「これがあんこ団子なら私はいくらでも平らげてやるぞ。それこそ一坪ぐらい食べてやるさ30坪ぐらいの家建ててやるさ」
「でもこれは食べれなかったな…」と空になった梅ジャムやせんべい、梅干しの容器をしみじみと眺める。
「——でもまた簪を投入して負けたな私…」
ラウラは頬杖をつきながら簪へ不満を吐く。レゾナンスでのソフトクリーム戦の時のようにこれまでも何度か取りこぼしているが、大体原因は簪だった。
「お茶飲み干しちゃったのがもう、ね」
「お茶飲み干したのはさすがにな…」
「うーむ…」と暫く考え込んだ末、ラウラは1つの結論に至り、簪にそれを告げた。
「簪、お前もう出なくていい」
「えっ!?」
「これからは私が1人でセシリアと戦る」
「ははははははははは!!」
ラウラの下した決断に目を見開く簪、それを見て爆笑する鈴、その光景を何が何だかといった様子で見つめる一夏らギャラリー。そんなこんなで、今日も何でもない日常が過ぎていくのだった。