久々のどうでしょう。ちなみにR2の方はオリジナルということで本編にあります
そもそものきっかけは臨海学校の初日に行なったかき氷の早食い対決、結果的にわたくしの勝利にはなりましたが自分自身あれはフロックだと思っています。
その後もわたくしはラウラさんに挑まれる形でソフトクリームや寿司など多種多様な食べ物で勝負をしてきました。戦績はわたくしが負け越していて、何れも完敗。たまに勝つこともありましたが、ほとんどが辛勝。パートナーが足を引っ張ったりアクシデントが起きたりと自分の実力で勝ったことがありません。
誇れるところなのか分かりませんが、ラウラさんと戦っていくうちにわたくしも早食いのペースにはだいぶ慣れました。それでもラウラさんには敵いません。
ラウラさんは軍人で『早く食べる』のには慣れています、何より甘い物での強さは最強クラス。わたくしも甘いスイーツは好きですが早食いとなると話は別です。こちらが胃もたれを起こしてる間にラウラさんはケーキをペロリと食べ終えてしまいます。
最初はラウラさんのお遊びに付き合わされてると思いながら早食い対決を受けて立ってきましたが、やはり勝負は勝負。最近は負けると普通に悔しくてたまりませんし、是が非でもラウラさんに勝ちたいと思い始めてきました。何より仲間と一緒に本気でふざけることがとても楽しいのです。鈴さんには呆れられましたが……。
前回の勝負のあとに、
「今度はそちらが選んでも構わん」
と言われ、わたくしのチームがコミッショナーとなりました。これまでの戦いは全てラウラさんが先手を取ってきて、自ずとラウラさんに有利なステージで戦ってきました。
そんな中で巡ってきたコミッショナー任命、この千載一遇のチャンスを逃すつもりは毛頭ありません。
ラウラさんに隙などありません。普通の食べ物で挑んでも返り討ちにされるのは目に見えています。出来るだけラウラさんが苦手そうな食べ物を、少しでもわたくしが有利になるようにしなければと密かに悩んでいました。
そんな時ですわ、あの情報を手に入れたのは———
「本当ですの?それ」
「多分そうだと思うよ」
この日、セシリアの元にある意味今1番手に入れたかった情報が入った。
「ラウラさんは酸っぱい物が苦手。間違いないのですか?」
「だから多分ね。デュノアさんと話してた内容だけしか知らないけど」
「なるほど……」
今1番手に入れたかった情報、それは『ラウラが苦手な食べ物』。その有力な情報を持っていた生徒にセシリアは密かにコンタクトを取った。
聞くところによるとラウラとシャルロットが朝ご飯を食べている時の会話を偶然聞いた生徒がいた。彼女が言うに2人は
「ラウラ、梅干し食べないの?」
「むぅ…食べれないことはないのだが…」
「もしかして、酸っぱいのダメ?」
「好きか苦手かで言えば、苦手ではある」
と話し合っていたらしい。
(これはかなり有益な情報ですわ…)
セシリアは確かな手応えを得ていた。何よりその時の話し相手がシャルロットなのも大きかった。ラウラはシャルロットとはルームメイトでその仲の良さはセシリアもよく知っている。親友同士の他愛のない会話故に信憑性もまた大きい。
「問題は何で挑むか、ですわね……」
酸っぱい食べ物といっても色々ある。梅干しやレモンを使った食べ物もそうだ。あまり酸っぱすぎる物を選んで自分も食べられないとなっては本末転倒、今回はより一層慎重に食べ物を選ばなければならない。
「梅干しは確定として…あとはどうしましょう…」
酸っぱい食べ物を検索してみるとスーパーに売ってある何種類かグミ系のお菓子がヒットした。だがグミではいくら酸っぱい物が苦手なラウラでもあっさり食べてしまう。
どうしたものか、と考えを巡らせる頭を気分転換させるためにセシリアはテレビをつける。数人のタレントが街を散策するという人気旅番組である。
『いやぁ〜やっぱり川越にきたら菓子屋横丁に行かないとですね』
ふと、タレントの1人が呟いたワードにセシリアは眉をひそめる。
「菓子屋横丁…?」
テレビの方へ注目すると、タレントの一行が大通りから横道へと入っていく。石畳で舗装された道の周りのは昔ながらの家屋が並んでいる。レトロな面持ちを醸し出すお店の店頭に並ぶ商品にセシリアは目を輝かせた。
「これですわ!!」
セシリアはすぐに菓子屋横丁について調べ始める。検索にかかった情報を一通り精査していったセシリアの表情に一筋の光明が射していた。
数日後、IS学園の屋上でいつものようにみんな+楯無という面子でお昼ご飯を食べようとする中、ラウラは悶々としていた。
発端となったのは朝のSHR後、授業の準備を進めているところへセシリアが
「今日のお昼は、屋上でご一緒に」
と言ってきた。普段屋上で食べる時の提案は大体一夏からで、その度に期待して行ってみたら案の定みんないるということが恒例で毎回裏切られてきたお昼休みだが、今回に限ってはいつものメンバー全員がセシリアから誘いを受けたのだ。
そんなセシリアだが、まだ屋上には来ていない。「教室に忘れ物をした」と言ったきりどこかへ向かって行ったのだ。
「しかし解らん。セシリアからしたら我々に内緒で一夏だけを誘うこともできたはず。なのに何故…」
この場にいる全員、セシリアの行動に違和感を覚えている。一夏も「セシリアからなんて珍しいな」と言っていた。
箒の言う通り、他の皆に内緒で一夏だけを誘うことも充分できるし、ヒロインズ全員はそう感じている。普段なら、の話だが。
実を言うと、ラウラはセシリアの行動におおよその見当をつけていた。今日の相手は一夏ではない、自分だ。
(前回の勝負から2週間と少し。時期的には何ら不思議ではない)
セシリアは確実に今日勝負を仕掛ける気だろう。そしてタイミングは今、恐らく勝負に使う食べ物を取りに行っているはず。
故にラウラはまだ持参した弁当に手をつけていない。ふと見ると鈴、シャルロット、簪の3人も弁当箱を開けていなかった。前回の勝負に立ち会った彼女達のことだ、なんとなくだが察しがついているのだろう。
「あれ?食わないのか?」
弁当箱を開けようとしない面々に不思議がった一夏が訊ねる。
「あぁ、どうせならセシリアを待ってからにしようとな」
勿論嘘だ。今回のコミッショナーはセシリアと鈴。何がくるか分からない以上、無駄に腹を膨らませるわけにはいかない。鈴たちも同じである。
「そっか、それなら俺たちも待つとするか」
「それにしても遅いな。どこまで取りにいったのだ?」
勝負のことを知らない一夏と箒もセシリアを待とうと弁当を置く。
妙な空気が立ち込める中、鈴がラウラに耳打ちする。
「ねぇ、セシリア何持ってくると思う?」
ソワソワした様子の鈴に、ラウラは引っかかりを覚えた。
「ん?お前とセシリアが選んできたのではないのか?」
「知らないわよ。セシリアからはなんにも聞かされてないし、あたしも勝負のこととかすっかり忘れてたもの」
「嘘ではないだろうな?」
「嘘じゃないわよ。嘘ついて何になるのよ」
「甘い物じゃない可能性も…」
「あるよね。コミッショナーはセシリアだし、てか僕でもそうするよ」
簪とシャルロットも交えてヒソヒソと話し合う4人に一夏と箒が首を傾げる。
と、屋上の扉が開く音が耳に入る。
「お待たせしましたわ」
少し遅れて聞こえてきたセシリアの声に反応した4人は、次の瞬間これ以上ないほどの乾いた笑い声を上げた。
「あっ……」
「待て、なんだそのデカいのは」
皆の視線がセシリアに注がれる。正確に言えば腕で携えている紙袋と、やたらと細長い物体に。それも2本ある。
「ラウラさん」
「な、なんだ?」
「この2週間、わたくしはずっと考えてきました。どうしたらラウラさんに勝てるのか?細かい情報を収集したおかげで打開策を見出しましたわ。ラウラさんはいつも『自分が好き』なもので勝負を仕掛けてきましたわね?」
「あっ………」
「この日のために、わたくしも策は練ってきましたわ。そしてようやく1つの結論に至りました。
『ラウラさんが苦手なジャンルで戦えばいい』と!」
そう言うとセシリアは紙袋をレジャーシートの上に置く。全員呆気を取られるが、一夏と箒、それ以外とはリアクションが違う。
紙袋の中身は全て食べ物。なのだが、ラウラは気付いてしまった。この中に甘い物が1つもないことを。
「そ…そうか。う、うむ、なるほど、セシリアの決意はよ、よくわかった」
「ラウラあんた明らかに狼狽てるけど」
「それより、そのデカいのはなんなのだ?それが1番気になる」
一際異彩を放つ細長いお菓子、セシリアはそれを構えて「ふふん」と笑う。
「ふ菓子、ですわ」
「ふ、ふ菓子だと…?」
元々ふ菓子は江戸時代から存在している物だが、皆がよく知る駄菓子としてのふ菓子の登場は昭和になってから。砂糖や飴が染み込ませてあり、60、70年代の子供にとっては慣れ親しんだ、まさしく駄菓子屋の顔。
ラウラやシャルロットもレゾナンス内のお菓子コーナーでふ菓子を見たことはあるが、今セシリアが携えているものは明らかに普段から見知ったサイズではない。
「セシリア、もしかして川越に行ったか?」
特大ふ菓子に心当たりがある箒がそう聞くと、セシリアは「ええ」と頷いた。
ラウラは素早く自身のスマホで【ふ菓子 川越】と検索をかける。
「………」
やがてスマホを静かに置き、盛大に溜め息をつく。鈴と簪も横で頭を抱えている。
それもそのはず、埼玉県川越市にある松陸製菓が作るふ菓子は『日本一長いふ菓子』として特に有名な駄菓子である。全長は95センチとぶっちぎりで長い。
「日本一長いふ菓子って…あたしに何も知らせずにそんな…」
「わざわざ現地に赴いて買ってきたのか…」
「何が恥ずかしいって持って帰る時ですわ…電車を利用しましたのでとにかく目立って目立って…」
「いいわよそんな話は。で、こっち何よ」
鈴が別の紙袋を開けると、中から饅頭が入っている箱が出てきた。
「何これ、饅頭じゃん」
「十万石まんじゅうですわ。でもこれは勝負には関係ありませんわ。ただのお土産です」
「大宮駅で買いましたの」と付け加えてセシリアは十万石まんじゅうを仕舞う。少しラウラが残念そうな表情を浮かべていると、また違う食べ物が出てくる。
「次はこれですわ。瓶ラムネという駄菓子ですわ」
「あ、懐かしい」
セシリアが取り出す駄菓子に一夏を始めとした日本勢はついつい反応してしまう。彼らにとっても駄菓子というものは子供の時から親しんだ食べ物。無理もない話なのだ。
「それはなんだ?中になんか入っているのか?」
「中にラムネの粉が入っていますわ。酸っぱいわけ」
「………」
セシリアは袋の中から瓶ラムネを数本取り出す。
「4本あるのか?」
「4本ありますわ」
「1人1本ずつか?」
「1本ずつですわ」
「うーーーん………」
唸るラウラのリアクションを面白がっているセシリアが次の駄菓子を取り出す。
「こちらは花丸せんべいですわ」
「それはどういうものなのだ?」
「普通のせんべいですわ。それにこの、ジャムを…」
「なるほど、付けて食べるわけだな?」
「そうですわ。そしてこのジャムが、梅ジャムと言いまして」
「ふふふふふふ……」
どう考えても嫌な予感しかしないワードに思わずラウラは苦笑する。そして予想通り2度目の「酸っぱいわけ」が刺さる。
「いやしかし黒みつ付きと書いてあるから、黒みつでもいい…」
「………………」
「あ、あぁ〜買ってきたのかぁ」
「勿論、別に買ってきてありますわ」
少し余裕が無くなり始めてきたラウラを嘲笑うかのように、ジト目を浮かべるセシリアが何も言わずに梅ジャム数袋を置く。
「そして大将戦はやはり、最後はデザートということで………」
デザート、という単語にラウラの気持ちは僅かに持ち直す。
「お、デザートがあるn………か………」
「丸々1パックですわ」
自身のメンタルにトドメを刺さんとばかりに取り出された梅干しに、ラウラだけでなく鈴と簪も苦笑する。
「ラウラさんにはこれを全て食べると」
「なっ!?これを全部だと!?食べたことないぞこんなに!」
「選んでも構いませんわ。どちらかを、そちらかこちらか」
案の定別の梅干しが登場し、ラウラにはもう笑うしか選択肢がなかった。
「これ、私1人、大将だけでか?」
「そこはやはり大将戦ですので」
「お前も食べるんだぞ…?」
震えた声を絞り出すラウラに、セシリアはきっぱりと言い放つ。
「承知していますわ。だからこそ梅干しを持ってきたのですから」
間違いなくセシリアは勝ちに来ている。梅干し丸々1パックという重荷を自分から背負っていく辺り、本気であることが窺える。
「でも1人はキツいんじゃないかな…」
「簪もそう思うか?」
「うん、だってこれじゃあこっちの負けが目に見えてるし…」
「よく言ってくれた簪。これは卑怯だぞセシリア!」
「いやいやいやいやいや…」
不満を垂れるラウラ組。そこへセシリア組の鈴が待ったをかける。
「あんた真夜中に奇襲までして、何この期に及んで卑怯って言ってんのよ?卑怯もクソもないわよ。うちの大将は常に劣勢に立たされてたんだから」
「そうかそうか」とラウラが頷く。会話についていけない一夏と箒を置き去りにしながらまだまだ白熱の議論は続く。
「鈴、うちの大将だって甘い物に関してはハンデを背負ってきた」
「そうだ。1粒食べていいとか、そういうもあったっていいだろう」
「そうねぇ…」
「ちょっとくらいハンデを…」
「そりゃそうだ」
「えー?どうするセシリア、アイツらなんか言ってるけど」
鈴の問いに、セシリアは黙ったまま答えようとしない。数秒の間沈黙が続いたのち、セシリアの沈黙の意味を汲み取った鈴は決断した。
「うん、ノーだ」
瞬間、その場にいる全員から爆笑が起こるのであった。