アイエスどうでしょう   作:フレイア

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 まさか2か月も間が開くとは…

 今回は短編が2つ、対決学園の続きではないお話です。そして今話のセシリア達は20歳ぐらいです。


別れは突然に

「嫌な予感がする」

 

 開口一番、ラウラが言う。

 

 

 

 

 IS学園を卒業してから数年。祖国での仕事が落ち着いたある時、セシリアはラウラから

 

「あの4人で旅行にでも行こうではないか」

 

 と誘われた。言わずもがな『あの4人』とはセシリア、鈴、ラウラ、シャルロットのことである。

 他の3人もすでに承諾しており、セシリアも丁度スケジュールが空いていたため行くことになった。

 

 行程はまずイギリスにあるオルコット邸を起点として、ユーロトンネルを通りフランスに上陸。『どうせなら長く旅を楽しみたい』という思いからあえてスイス・イタリア経由と遠回りして、南フランスの田舎町にあるシャルロットの生家を終着点とする中々大規模な旅となった。

 

 数日前、一行はオルコット邸を出発。フランスに向かう道中でラウラが立ち寄ったお土産店でプーさんの風船を買っていた。

 その後はフランスはパリで一泊し、スイスに入国。【アルプスの少女ハイジの家】を見物して、その日は東へ舵を取りリヒテンシュタインという小さな国で一泊。

 そして日が明け3日目、スイスとイタリアの国境へ向かう途中、事件は起きたのであった…………。

 

 

 

 

「なんかモノが落ちてきたような…ドンって音がしたわよね?」

「うん。でもなんともないよ?」

 

 鈴もシャルロットも先程起きた事態に戸惑いを隠せない。

 というのもイタリアへ向け走行している最中、突然車内に『ドン!』という強烈な音が響いたのだ。運転していた鈴は慌てて路肩に車を停め、全員外に飛び出し周囲を確認したのだが、車の外観には全く変化がない。

 

「わたくしは落石があったのかと思いましたが…」

「もしくは道に落ちてた石か何かを踏んでぶつかったのかなって思ったけど、どうもそういう原因じゃ無さそうだし…」

 

 改めて車のボディを見やる。どこか凹んだわけでもないし、キズがついたわけでもなくセシリアと鈴が唱えた説は考えにくい。

 

「1つ考えられることがある」

 

 真剣な面持ちで、ラウラはトランクに手を置く。

 

「この中に、私の愛しのプーさんがいる」

 

 ラウラがイギリスで買ったプーさんの風船は、移動中は車のトランクの中に仕舞われていた。

 

「それでここからが本題なのだ。気圧の関係でまさかとは思っているのだが…」

「この辺りは標高2000メートル超えてるからね……」

 

 平均標高は1307メートル、国土のおよそ2割が標高2000メートル以上という高山地帯にあるのがスイスという国だ。

 そして気圧は高度が高くなり空気が希薄になればなるほど低下する。高山でお菓子の袋が膨らむのはこの気圧の変化によるもの。ラウラ達がいる位置は標高2000メートルの高地、風船の中に詰まっているヘリウムガスが気圧の変化で膨張するには充分すぎる高度。つまり、

 

()()()()………()()()()()()()()()()()

「忘れちゃいけないのは、リヒテンシュタインでオヤジがプーさんをパンパンにしてくれたってことよ」

 

 旅の途中、リヒテンシュタインで出会った玩具屋を経営する気さくなおじさんの手により、長旅ですっかり萎み切っていたプーさんは空気を入れられ再び浮く力を取り戻していた。その時、おじさんはプーさんをめちゃくちゃパンパンにしていた。

 

「では、見るぞ…」

「プーさんが無事であることを祈っていますわ…」

 

 意を決してラウラはトランクに手をかける。セシリア達が固唾を飲んで見守る中、ラウラはゆっくりと、僅かにトランクを開け覗き込み———

 

「あ」

 

 バンっ!トランクを閉めた。確実に、ラウラは何かを見た。

 

「どうしたの?」

「あ、ラウラまさか…」

 

 頭を抱え項垂れるラウラにシャルロットが声をかけ、その様子に全てを察した鈴は苦笑いを浮かべる。

 ラウラが重苦しい動作でトランクを全開にする。そこには………

 

 

 

 

 

 

 

「プーさぁぁぁぁぁぁあん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ………生地に大穴が開いたプーさんが無残な姿で横たわっていた。

 

「プーさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!」

「プーさん…」

「ああああああ………」

 

 皆が吼え、セシリアも色んな意味で言葉を失う。すっかり平らに変わり果てたプーさんを持つと、なんとも言えない気持ちが込み上げてくる。

 ぺしゃんこになったプーさんを見て、セシリアはどこか清々しい様子で語りかける。

 

「でもどこか、いい死に…、いい顔をしているではありませんか」

「顔は変わらんぞ」

 

 ラウラの冷静なツッコミに、セシリアは苦笑いを返す。

 

「笑顔で死んでいったわよ…」

「満足そうなお顔ですわ。嬉しかったのかもしれませんわね」

「嬉しかった、か…」

 

 意気消沈したラウラは、プーさんを眺めながらポツリと漏らす。

 

「ここまでこれてね…」

「イギリスから、フランスを経てスイスにまで来たのですから」

「ラウラ。プーさんはね、イギリスから出たことなかったんだよ」

 

 諭すように語りかける仲間に、ラウラは静かに顔を上げる。

 

「できることなら、ドイツの土を踏ませてやりたかった」

「そうね、踏ましてあげたかったわね…」

 

 フッ、とラウラは微笑みを浮かべる。

 

「まぁずっと浮いてるから踏むことはないんだが」

『あはははははははははは!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たまにはこういう旅もいいものですね」

「どうかしらね」

 

 くすりと微笑むセシリアに、鈴が素っ気なく返す。

 休暇を使って日本に訪れた彼女達は本来なら京都を観光するつもりだった。しかし今セシリアと鈴は何故かカブに乗り、2人の後を追いかける車にはラウラとシャルロットが乗車している。ちなみにラウラが運転。

 これも例に漏れず京都観光は3人が策した嘘っぱち。またもや騙された鈴はラウラの提案した西日本〜九州走破の旅に付き合っているのだ。城崎温泉、鳥取砂丘と廻り現在は山口県に向けて走行中。

 

「だいたいアンタらいいわよね、車でさ。こっちかなりつらいのよ。ラウラが言い出しっぺなんだからラウラもカブ乗りなさいよ!」

 

 後方を追走するラウラ達に鈴がボヤく。カブ組2人には無線を預けているため鈴のボヤきは運転席のラウラに届いている。

 

「仕方ないだろ。この車にはお前らの荷物も土産も入っているのだぞ。それに車の免許持ってないのだろう?どのみち車には乗せられん」

 

 互いに20代前半、この面子で車の免許を持っているのはラウラとシャルロットだけだ。

 

「だったら助手席に———」

「つべこべ言わず走れ。今日中にはどうにか山口県に入るぞ」

 

 これ以上言っても仕方ないと、鈴は運転に意識を切り替える。

 なんだかんだで旅を続けて3日目。鍛えている分体力はまだ余裕があるが、500キロにも及ぶカブでの長距離移動に鈴はそれなりにへばってきていた。

 対するセシリアはまずカブに乗ることが新鮮で、温泉や砂丘を廻ったりしたお陰で結構楽しんでいる。

 

「それにしても鈴、その荷台のやつ揺れてるな」

「そうでしょ?この張子の虎、1万5000円ぐらいするから」

 

 鈴のカブの荷台に積まれているのは出雲の民芸品としても知られる張子の虎、それなりにお値段が張っており、1万もはたいた。

 

「わざわざこれを留める金具だって買ったんだからさぁ」

「虎もどこか、のどかに揺れてるね」

「そう?」

 

 助手席に座るシャルロットが張子の虎に目をやりながら言う。

 

「あぁ、随分気持ちよさそうだぞ」

 

 風に吹かれて、張子の虎の首がゆらゆらと揺れる。

 

「まぁ〜虎もお店にいるよりか、カブか何かに乗せられて走ってる方がいいに決まってるじゃないのー」

 

 「そうだな」とラウラも朗らかに言う。しかしこの時、のちに悲劇が起きることを彼女達は知る由もなかった。

 

 のどかな風景に目をやりながら走ること幾分か。天気も快晴で気分が良いのか鈴とセシリアは鼻歌を口ずさんでいる。だが、2人の後を追走する車に座しているラウラとシャルロットは張子の虎に起こった悲劇を目の当たりにする。

 

「あれ…ちょ、ラウラ!?」

「あっ、あっ!」

 

 一瞬の出来事だったが、2人は決して見逃さなかった。

 前を走る鈴のカブ、その荷台に積まれていた張子の虎の首が、振動による拍子で道路に落下してしまったのだ。

 咄嗟にハンドルを左に切り、落下した首を避けたラウラは異変に気付いていない鈴とセシリアに無線を送る。

 

「鈴、セシリア。少しストップだ」

『え?』

『どうかしましたか?』

「近くに停まっておいてくれ」

『分かりましたわ』

 

 ラウラの指示通り、2人は近くの路肩にカブを停める。そして少し遅れて車も到着。バツの悪そうな笑みを浮かべたラウラとシャルロットが降りてきた。

 

「鈴ちょっとこれ…外させてもらってもいいか?」

「えっ?」

「外させてもらっていいかな?」

「え?いや、突然なんで?」

 

 いきなり虎を外すと言われ、鈴は疑問をぶつける。対するラウラとシャルロットは変わらず気まずげに張子の虎を見やる。

 

「いや、その…首が…」

「首が無くなってしまったのだ」

「首がぁ!?」

 

 ラウラから告げられた衝撃の事実に鈴は目を見開き、張子の虎を見るや「あああ!?」と声を上げる。

 

「あ!?いやいやええ!?何よぉぉ…!」

 

 鈴はカブから降り、改めて首が無くなった張子の虎を見る。

 

「やはりその、首振りだから、ここしか固定できてないから恐らく揺れか何かで落ちてしまったのだろう」

「運が悪かったんだよ、虎さんは」

 

 予想外のハプニングに絶句していた鈴だったが、なんとか落ち着きながらラウラにあることを確認しようと歩み寄る。

 

「あれ、じゃあさ…勿論見つけてくれたのよね?」

「何を?」

「首を」

 

 首が無事な可能性に縋る鈴だったが、ラウラは苦笑しながら首を横に振る。

 

「無かった」

「無いの!?首無いの!?是が非でも探してきなさいよ!!」

「いやもう無いんだって鈴!もう無いの!」

 

 シャルロットから強めの口調で諭され、鈴は口ごもる。

 

「というわけでこれは撤去するぞ。虎というのは、ホントに呆気ないものなのだな…」

「こういう風になっちゃうんだよ…虎っていうのは」

「呆気なく終わるのだモノというのは」

 

 意味不明な理論を語りながら虎を取り外すラウラとシャルロット。しかし、ここまで静かに様子を見てきたセシリアが何かに気が付いた。

 

「あの…ラウラさん…?それは一体…」

 

 セシリアが指摘した先には、ラウラの手に握られている何かの破片があった。指摘されたラウラはギクっと目を逸らし、破片に目がいった鈴は張子の虎に起こった最悪の事実を知ることになる。

 

「いや…これ…」

「これ何よ…?」

 

 困惑を隠せない2人に、ラウラは笑みを浮かべているが明らかに目は泳いでいる。

 ラウラから破片を取り上げた鈴はポツリと呟く。

 

「これ虎じゃないの?ねぇ?ラウラ?」

「違う………」

 

 力なく答え、鈴から破片を取る。

 

「これ虎じゃないよ」

「これはその………道路に落ちてた」

「ええ!?」

「…もう1回見せなさいよ」

「ダメだよ鈴!」

 

 鈴がまた取り上げようとするがラウラとシャルロットも抵抗する。

 

「見るな!見たらダメだ鈴!!」

「これあたしの虎じゃないのアンタ!!」

「違うって!」

「あたしの虎でしょコレ!だってヒゲじゃないのよコレ!こっちは目じゃないの!」

 

 落下した首の破片を見せつけながら鈴は捲し立てる。

 

「アンタあたしの虎轢いたのね?」

「……………はい?」

「アンタ轢いたんでしょ!?」

「我々ではないぞ!!」

「あたしの虎を!」

「我々じゃない…!」

 

 色々おかしくて笑ってしまっているラウラだが、虎の首を轢いたことは頑として否定する。何故かセシリアも大爆笑しカオスな状況に。

 

「轢く………」

「鈴、虎のことは忘れてくれ…」

 

 張子の虎に起こった惨劇に、鈴はよろめきセシリアも「酷すぎる…」と言葉を失う。

 

「これだけは分かってほしいが、虎を轢いたのは我々ではない。我々はしっかり避けたしドライブレコーダーにもその記録は残っているはずだ。避けたが後ろから何台もきてたから…。大きいトラックも通っただろ?」

 

 弁解するラウラの様子からして、本当にしっかり避けたのは事実なことはなんとなくカブ組2人も察した。だが同時に納得いかない考えが鈴の頭をよぎっていた。

 

「じゃあアンタ達あれよね?」

 

 鈴はジト目で睨む。

 

「な、なんだ?」

「あたしの虎がよ、大きなトラックに轢かれる様を黙って見てたのね?」

「黙ってなど見てはいないぞ!」

「勿論ね!まだ彼の生死が確認できるのであればアンタまず道に出てってさ、止めるのが人間よ!?」

「いや私が現場に行った時はもう、もう逝っていた………」

 

 ラウラから力弱く発された残酷な一言に、鈴は悲しげな表情を作る。

 

「もう逝ってたの…?」

「だってヒラヒラ飛んでたもん。転がってなかったもん」

 

 更に残酷な事実がシャルロットから告げられる。

 ラウラの指示によって撮影された十数秒の動画には、大型トラックが通り過ぎる度に空を舞っている首の破片が映っていたという。

 あまりに哀愁漂う動画に、何呑気に撮ってんのよ、というツッコミすら口に出せず鈴とセシリアはその事実を受け入れた。

 

「いいな…?直せるものなら直すぞ私だって。張子を作ったことなどないさ、無いけど精一杯やるぞ」

 

 破片を持ちながらそう言うラウラの姿がそれはそれは痛々しく写った。

 首の破片を手に取った鈴は、消えるような声で呟いた。

 

「彼は新聞なのねぇ………基本的には…」

 

 どんよりとした空気に似合わない迷言にラウラは笑いながら「そうだな…」と答えた。

 その後も止まることなく山口へ向けて旅路を続けていったが、車に乗るラウラとシャルロットから、鈴の背中はどこか寂しげに写ったそうな……。

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