半年前、第4兵装試験鎮守府に着任した彼は提督として執務室に座り呟く。
彼は、大本営が自分をここに着任させたことを恨んでいた。
彼は、艦娘の機械部分の技術者になる夢があった。技術者になって憧れの長門型1番艦「長門」の艤装開発に関わりたかった。
だが現実は厳しい。
彼には提督としての適性が出てしまった。
大本営の偉い方々は「技術系もできて提督もできるとか兵装試験もってこいだね」とノリノリで彼をここに着任させた。
彼の目の前の書類の山。どれもこれも実用化前のトンデモ兵器の試験依頼、端に書かれた「大本営より」の文字。思わず目をそらす。
保養を求めて隣に立つ艦娘、大淀を見る。
小さくガッツポーズをとり「がんばれ!」と囁く大淀。
可愛い 眼鏡よく似合う 一生見てれる 可愛い。
「どこから手、つけるの?」
見とれていると秘書艦、長門型2番艦「陸奥」が聞く。
「ん~とりあえず陽炎型にこの新型信管の魚雷試してもらうかな」
「あら、白露型じゃないのね」
「白露型って今、装甲材のテストしてなかった?」
「同時進行できるわよ?いいんじゃない?」
「つめこむのよくない」
「はーい」
「とりあえず陽炎、不知火、黒潮、秋雲を第1会議室へ。大淀、連絡お願いします。陸奥は依頼書のコピーを。」
「かしこまりました、提督」
「えぇ任せて!」
椅子から立ち、襟を整えPCを手に持つ。
深く一呼吸
「よし、始めるか!」
会議室に集められた陽炎型の4人、陽炎、不知火、黒潮、秋雲。
奥でPCから手を離し、好きに座れと手を振る提督。
綺麗な敬礼から用意された椅子に座る陽炎と不知火、黒潮。
一瞬遅れる秋雲。彼女は徹夜明けのようだ。
「えーと・・・今回集まって貰ったのは4人にやってもらいたい兵装試験依頼が来たからだ。陸奥、資料を。」
「はい」
先ほどコピーした依頼書等をまとめた資料を陸奥が配る。指先まで女子力が通ったかのような動きをする。それを秋雲がメモりながら見る。余念がない。
「司令、今回の魚雷ですが磁気信管という認識で間違いありませんか?」
資料を見ていた不知火が手を上げ発言する。
「うん、あってるよ。今回のは比較的敵に近い距離で作動するやつみたい」
「ほな、結構シビアに狙わんとなぁ」
「水雷屋の私たち向きの依頼ね!」
「てことは出撃増える・・・?」
ニンマリ微笑む黒潮と自信満々の陽炎、その横で青ざめる秋雲。
「試験内容としてはいつも通り。普段の哨戒、迎撃なんかで実際に装備して動いて貰う。各自レポートは帰還後1日以内に提出を。試験期間は来週初めより1ヶ月、不足データがあれば延長。必要項目は資料参照で。各自質問は?」
4人が顔を見合わせる。
「ありません。」
代表して不知火が答える。
「なにかあったらいつでも聞いてくれ。では解散!あっ秋雲は残るように」
「・・・え・・・」
心配そうな陽炎をよそに不知火がサッと立ち上がる。黒潮もそれに続く。「先部屋いってるね」と陽炎が一言残し3人共一礼して会議室から出る。何かを察した秋雲だけが残る。
「陸奥も戻っていいぞ」
「やだって言ったら?」
「戻って下さい」
「はーい」
「変なことしちゃだめよ?」と言い残し陸奥も退出する。
提督は秋雲に聞く。
「先生、新作の内容は?」
あぁやっぱりと秋雲が端末を取り出す。
「龍田さんと潜水艦たちのギャグもの、45Pの予定。フルカラーのつもりだったけど出撃増えちゃうからムリかなぁ」
「うっ・・・惜しいことしたなぁ・・・」
「まっお仕事だし仕方ないよね」
「完成したらいくつか購入させてもらうわ」
秋雲から渡された端末に映るサンプルを眺め提督が誓う。
「ご予約ありがとうございまーす。じゃあ完成まで待っててね」
先までとは打って変わって満面の笑みで手を振りながら端末を回収した秋雲が退出、最後に軽く片付けをした提督が退出して会議室は空となった。
提督が執務室に戻ると陸奥と大淀がソファに腰掛けコーヒー片手に会話をしていた。
足を組むのが絵になる陸奥とソファなんだからもっと寛ごうよと言いたくなるほどピシッとした大淀。
さながら圧迫面接のようだが会話は比較的温和なようだ。
「あっ俺も喉乾いた・・・」
「お姉さんの飲む?」
陸奥が飲みかけのカップを差し出す。
それを提督は恥ずかしげもなく飲む。
大淀も見慣れた光景であり、なんの感想もなくお茶請けのお菓子に手を伸ばす。
「あーーもう1杯!もうちょい甘めで・・・」
空のカップを見ながらあらあらと陸奥が組んでいた足を解く。
「じゃあ私のと提督の淹れてくるわね」
給湯室に陸奥が入り残される2人。
「提督、大本営に突き返す分の依頼書、後で纏めておいて下さいね」
「全部突き返したい・・・」
「あの・・・出来ればその・・・半分は受理して頂きたくて」
「善処します」
「大本営からの依頼ですよ?全部こなして頂くのがあなたの勤めです。大本営があなたを信頼して新兵器を預けたいと仰っているんですよ?それをあなたは毎回毎回突き返そうとして!毎回間に挟まれる私の身になってください。そもそもあなたは・・・」
スイッチの入った大淀のお説教を聞き流している提督。中々お菓子に手を伸ばせずにいた。
「はいはい。大淀ほどほどにね?」
「・・・わかりました。」
湯気とコーヒーのいい匂いが漂うカップを両手に陸奥が戻ってくる。
「はい、提督の分、砂糖マシマシよ」
「ありがとー」
陸奥が加わったことにより会話の焦点は仕事から日常へと変わる。
10分ほどの休憩だったが充分に仕事一辺倒の執務室にゆったりとした空気を与えてくれた。