兵装試験の時間です   作:とろろろ

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まだ日も昇りきらない明朝0500頃

第4兵装試験鎮守府の駆逐艦寮、その入り口に1人の少女がいた。
長く流麗な金髪を揺らしながら赤い海軍指定長袖ジャージの裾を捲り大きく伸びる。
「んーーーっ!」
軽くストレッチを行い呼吸を整える。
「ふぅ・・・ふぅ・・・よし!」
彼女、駆逐艦「島風」は朝のランニングを日課として楽しんでいた。
彼女は元々他の鎮守府所属だったが整備性の悪さを理由に後方待機となっていた。そこに島風向けの機関のテストを行いたい第4兵装試験鎮守府から要望があり出向という形でやってきた。
彼女がテストした機関は従来型の出力特性を変更した仕様。
最高出力を追求した結果、低出力~高出力の変化が唐突かつ大きい相当にピーキーな機関となっていた。
テスト結果としては「実戦使用不可」であり、実際島風自身も上手く扱えず持て余すことになった。
だが高出力時の性能は高く島風もそこは高く評価していた。それを使いこなせない自分への不満すら見せる程に。
テスト終了時に「この機関を使いこなせるようになりたい」という島風たっての希望で第4兵装試験鎮守へ正式に転属、今に至る。
この朝のランニングも機関出力を使いこなす為のトレーニングとして提督から発案してもらったものになる。
鎮守府外周を指定された出力で指定された時間通りに巡るというもの。
最初は指定された通りなど全く無理だったが徐々に揃うようになり今ではこれを楽しみに朝を迎える程であった。
朝の鎮守府は静かである。それでも島風のように活動する艦娘も少なからずいる。
港でシャドウボクシングに汗を流す霧島、朝食用の食材を搬入する間宮と伊良湖、外のベンチで朝を迎えようとしている二日酔い那智。
戦いを忘れそうになる光景を流しながら島風は軽快に走る。
ふと手元の時計に目をやる。朝礼まで3時間ちょっと。着替えたりを含めて2時間半くらいは走れる、と考えながら島風は2周目に入ろうとしていた。






島風が5周目に入ろうとする時・・・空母寮では弓道場の清掃が行われていた。

「五航戦、床は任せました。」

「雑巾がけくらいみんなでやりましょうよ?」

加賀と瑞鶴が火花を散らしてにらみ合う。

「またやってますね。あの2人。」

「ほんと仲良しバカップルですよね。」

赤城と蒼龍が微笑ましそうに見つめる。

加賀と瑞鶴が言い争うのはいつものことなのだ。

他鎮守府からの転属組で練度の高い加賀と建造されたばかりの瑞鶴。2人は師弟関係であり同時に恋人とも言える仲である。

今は「五航戦」と瑞鶴とその姉翔鶴を一括りで呼んだが瑞鶴と2人の時は「あなた」と呼んでいたりする。

「床の雑巾がけは弟子の仕事ではないかしら?」

「いや、こんな広いんだからみんなでササッと終わらせましょうよ!ほら蒼龍もやりたそうに見てますよ!」

「うわっ夫婦喧嘩に巻き込まれた!」

「…///」

「加賀さんどうしてそこでほっぺ赤くするんですか!蒼龍も変なこと言わない!あぁ翔鶴ねぇ助けてっ・・・」

妹の叫びも虚しく翔鶴は黙々と窓を拭いていく。

「朝から賑やかやね~」

「たっくさぁ二日酔いのアタマにガンガンくるってーの」

「毎日毎日よく飽きないわよね。」

廊下掃除を終えた龍驤、隼鷹、飛鷹の軽空母3人が入ってくる。

「これで結局全員で雑巾がけ!までがいつもの私達ですからね。」

雑巾を絞りながら赤城がみんなを見渡す。

「赤城さんが言うならやむを得ません。五航戦、やりますよ。」

「ハナからそうしてればいいんですよー」

結局この場にいた正規空母全員で雑巾がけを終え朝礼へと備える空母寮であった。

 

 

島風の周回数が20を数えようとするころ。

提督私室に目覚ましのアラームがなり響く。

寝ぼけ眼のままアラームを止める提督。

そのまま横を向き隣人を起こす。

他の艦娘には絶対見せない寝間着姿の陸奥が一発伸びをキメる。

「んーーー・・・もう朝なのね・・・」

「もう日が昇ってる・・・」

つい4時間ほど前まで執務に明け暮れていた2人にはこの現実は残酷だった。

ベッドに腰掛けていた提督が陸奥の手をとり起こしてあげる。

すっぴんで寝癖がついた陸奥を見れるのは提督の特権である。

お互い寝ぼけたまま朝礼に向けて支度を始める。

「あっ提督、カチューシャ取ってー」

「ほれほれ。」

「ありがとっ」

普段カリカリと執務をこなす2人からは考えにくいほど間延びした空気が流れる。

慣れた手つきで化粧を整える陸奥に支度を終えた提督がコーヒーを差し出す。

それを飲み終えるころにはいつもの提督と陸奥へ完全に変化していた。

 

 




「おっ!提督っ陸奥さん、おはようございます!」
「あら?早いのね。」
「島風おはよう、今日もトレーニングか?」
「はい!これタイム表です!」
朝礼へ向かう道中、提督と陸奥を見つけた島風は笑顔でトレーニング中の計測タイムを纏めた表を見せる。
そこに記されたのは約100周分のタイムであり各周のタイム差は大きくても2秒ほどと見事に纏められていた。
「すごいな。この短期間でここまでタイム纏めるのか・・・というか100周以上この朝だけでしたのか!」
「いや~気付いたらこうなってました!」
島風がサラッとこなした偉業に驚きつつ食堂についた一行。
提督の挨拶から朝礼が始まる。
「皆さんおはよう!」
「「おはようございます!」」
1日の予定を読み終え連絡事項を伝える。
「本日、急ではあるがウチから他鎮守府へ出向していた雪風が帰ってくる。」
ざわつく食堂。
誰となく声をあげる。
「あの雪風が帰ってくる?すご・・・」
「雪風さんってあの有名な?」

この鎮守府所属の雪風、それは最新兵器を満載し他鎮守府へと出向きデータ収集を行う兵装試験のスペシャリストである。
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