近海の哨戒へ出ていた陽炎から連絡が入る。
陽炎の「目標地点」という言葉に空気が引き締まる。
「各艦警戒を。どっからくるかわからんぞアイツは・・・」
陽炎、不知火、黒潮の3人と提督は僅かに緊張していた。
それは駆逐艦3人だけでの任務だからではない。
「対空レーダーに反応・・・民間の輸送機ですね・・・」
「ほな目標とちゃうな」
「いや・・・各艦備えろ・・・あの野郎まさかの空からだぞ・・・」
「空から?!・・・了解!不知火、黒潮は私の後方。目標と位置を合わせつつ移動開始。いい?」
「「了解」」
今この瞬間にこの平和な近海はピリピリとした戦場の空気を纏った・・・
10分程前・・・
「このマップ・・・ここの海域に降ろして下さい。」
上空を飛ぶ輸送機の中でパイロットに1人の少女が話かける。
「よろしいのですか?かなり鎮守府へは遠回りになりますが・・・このまま鎮守府へお送りしますよ?」
「それが申し訳ないんですがこの辺で待ち合わせしてるんです。」
「本機は水上機ではありませんから着水できませんよ?」
「構いません。この高度から降ろして頂ければ助かります!」
「この高度から?!確かに備え付けのパラシュートはありますが・・・」
「パラシュートは必要ないです。」
そう言うと少女は両足にとりつけた装置を自慢気に見せる。
「司令から貰った逆噴射装置です!万が一のためにって持たせてくれました!」
「いくら艦娘と言えどそれだけでこの高度から降下は無茶ですよ!パラシュートをご使用ください!」
「パラシュートなんて開いたら狙われちゃいます!それに大丈夫って確信あるんです!」
「・・・かしこまりました。あなたのご無事をお祈りいたします。」
そういうと何かを察したパイロットは輸送機を彼女が言う目標地点へと向かわせた。
数分後、降下用意を済ませマントを羽織った彼女へそろそろ着く事を伝える。
「こんなとこまでありがとうございました!ないすふらいとっ!でした!」
安全な近海とは言え海の上空を飛んでくれたパイロットにお礼を言うと彼女は開いたハッチからためらいなく飛び降りた。
その頃、海上では・・・
「輸送機から熱源の降下を確認・・・輸送機は離脱・・・間違いないわね・・・」
「サイン無かったら3人だからね。」
「ん~・・・おっ!照明弾撃ったみたいやで・・・1発や!」
「ということは陽炎を指名みたいね」
「あぁ~私かぁ~緊張してきた~」
不知火と黒潮は若干陽炎から距離を取る。
これから行われるイベントを見物客として見れるとなれば緊張も和らぐ。
陽炎は主砲を構え目標を待つ。
上空からマントをひらめかせて落ちてくる少女。それが射程圏内に入る瞬間に発砲。だが対象が速すぎて上手く当たらない。
(仕方ない・・・着水狙うか・・・)
あの速度なのだから着水は隙だらけになる。もしかしたら着水に失敗するかもしれない。どっちに転んでも勝機があると踏んだ陽炎は相手の着水に合わせる。
着水の瞬間、足の逆噴射装置を起動。盛大に水しぶきが上がり陽炎の狙いを妨げる。
本来なら着水なんてできない速度での着水。普通なら身体がへし折れている。だが水しぶきの中から少女が主砲を構えて飛び出してくる。
あの子なら着水は問題ない・・・と見物客2人は考える。なぜなら彼女には相当に高い実力と幸運の女神の唇を奪いにいくほどの強運が付いているのだから。
陽炎の砲撃を縫いながら不規則なジグザグを描くマント。
お互いが零距離まで接近したとき、お互いの主砲がお互いの眉間を捉える。
硬直する2人。ややあって陽炎が口を開く。
「この1ヶ月でまた強くなったね。お帰りなさい、雪風!」
「姉さんお久しぶりです!雪風、ただいま戻りました!」
1ヶ月ぶりの姉妹感動の再会。被っていたマントを脱ぎ幼さの残る少女が顔を覗かせる。
あどけない表情をした陽炎型8番艦がそこにいた。
「しれぇ!陸奥さん!雪風、新兵器の出向テストからただいま戻りました!」
執務室へ1ヶ月の出向から戻ったことを伝える雪風。
しっかりとレポートを提出しお土産の温泉饅頭を差し出す。
常に笑顔を絶やさない彼女に安堵しつつ迎えに出てくれた陽炎たち3人を労う提督だがあることに気付く。
「雪風、おでこにススが着いてるぞ。」
「えっ!ほんとだ!・・・陽炎姉さんでしょ!」
「司令、そこはシーっでしょ!」
仲むつまじい姉妹を見ながら補給と整備を言い渡す。
ハーイッ!と元気な返事をした雪風は陽炎と黒潮の手を引っ張ってドックへと向かった。とっさに雪風を避けた不知火は提督へ一礼、雪風たちを追うことにした。
「あ~ぁ相変わらず元気でなによりだな!」
「ほんとあの子が運に愛されてるのも納得だわ・・・」
執務室に30分ぶりの静けさが戻ってきた・・・