敵の弾など無いかのように広い海を突き進み近距離からの35.6連装砲で仕留める。と同時に帰るべき鎮守府の灯りが見えてくる。
勝ち誇って拳を突き上げながら上陸。
山城の戦果を讃える仲間たち。
口々に「流石山城っ!」「うちのNo1は山城ね!」と拍手を贈る。
「ありがとう、ありがとう・・・あっ姉様!見ててくれた?」
「えぇ素晴らしい戦いだったわ。あなたが妹で鼻が高いわ!」
満面の笑みで歩く山城。「まずは艤装メンテね」とドックへ向かう。メンテのため艤装を降ろそうとしたその時
・・・ピキッ・・・
山城の腰に電流が走る。
「ッンン!イッタッ!痛い!腰、腰!」
バカに重い艤装を背負って戦ったせいか山城の腰が悲鳴を上げた・・・
その場に悶える山城。さっきまでいた仲間たちは何故かいなくなっている。
「助けてぇ姉様ぁ・・・」
絞り出す声も虚しく何の反応もなし。
痛みに耐えながら力を振り絞って叫ばねば。とっさにそう考えた山城は一気に空気を吸って腹に力を入れる。
そして・・・
「うわぁぁぁぁぁっ!」
叫びと共に上体をピシッと起こした山城。
そこはドックではなくベッド。
「夢ぇ?うぅ目覚め最悪よ・・・うっ寒っ・・・不幸だわ・・・」
下着姿の自分を確認して腰の痛みを感じながら状況を整理する。
さっきまでの光景が夢であったことに確証を得た山城は溜め息を吐きながら腰をさする。
「いったたた・・・うぅ湿布も剥げてるし・・・」
腰痛だけは現実。というより腰が痛かったからあんな夢を見たのだろうとまた溜め息を吐く。
たしかに山城は多重装甲の試験を担っているが腰痛の原因はそれだけではない。
そのもう1つの原因。隣で心地良さそうに寝ている下着姿の少女を見つめる。
「あぁあ、このマセガキめ・・・」
呟きながら軽く少女のほっぺをなでる。
「ん~やましろぉ・・・」
寝言でも山城の名前を呼ぶ。その幸せそうな顔にイラッときた山城。少女の額にそれなりに力を込めデコピンする。
「起きなさい!」
パーンッ!という音と共に少女の目がパチッと開く。
「ひぇ?ふぇ?えっ?や・・・山城?えっ?」
「今日は1回で起きれたわね、時雨。」
「あぁおはよう山城、いい朝だね・・・」
おでこをさすりながらゆっくり起き上がる時雨。
「次起こす時はできればもっと優しくがいいかなぁ・・・」
「贅沢言うな。毎晩毎晩あんな時間までぇ・・・あんたのせいでこっちは腰痛持ちなのよ!」
そう言いながら着替える山城。
昨晩のことを思い出しながら「ごめんごめん」と時雨も着替え始める。
「ったく・・・早く明石か提督に見てもらわないとね・・・」
支度を終えた山城が部屋の玄関でゆっくりと座りながら靴を履き時雨を待つ。
するとインターホンが鳴る。
「山城・・・起きてる?」
「はーい・・・って姉様!今開けますね!」
姉の登場に喜ぶ妹。喜びの余りサッと立ち上がる。
腰に走る電流。崩れるように座り込む。
「ああぁあぁ・・・」
「山城、大丈夫かい?」
「大丈夫なわけないでしょ・・・」
時雨が山城の代わりにドアを開ける。
そこには山城の姉、扶桑と駆逐艦「満潮」が立っていた。
「おはよう2人とも・・・山城?大丈夫?」
「うぅ姉様ぁありがとうございます・・・」
「山城の腰痛めるとかアンタどんだけよ・・・」
「いやぁなんでだろうね。」
扶桑の手を借りて立ち上がった山城に時雨が肩を貸す。
扶桑満潮ペアを先頭に食堂へ向かう一同。
ふと山城は満潮の首についた赤い跡に気付く。
(姉様の口紅・・・)
時雨も気付いたようで山城に微笑みかける。
「向こうもおんなじだね♪」
「いいからあんたもっと背高くなりなさいよ。ちょっと低いわ。」
時雨側に傾きながら歩く山城に「今すぐは無理かなぁ」と遠くを見つめる時雨。
食堂までの幸せな道のりをなんだかんだ堪能している2人であった。
「山城っ、これ骨逝ってるわ・・・」
レントゲンを見ながら提督が話す。
朝礼後、すぐに検査を行った山城だったが衝撃の報告に言葉を失う。
「あの多重装甲、そんな重たかったでしたっけ?」
コルセットなんかを用意しながら明石が提督に聞く。
「いや理論上は扶桑型なら不備なく使える筈・・・とりあえず原因解明は後にして一旦艤装降ろして治療に専念してもらうぞ。」
「はい・・・」
不幸だわ・・・と呟く山城に明石が治療を施す。
「提督~しばらくは扶桑さんだけで試験すすめます?」
「あぁそうしよう。原因もわかるかもしれないし。」
「わっかりましたー。じゃあ山城さんドックで艤装降ろしてましょうか!」
明石が車椅子を押しながら申し訳なさそうな山城がドックへと運ばれる。
試験のことを扶桑へ連絡し待合いにいる時雨へ伝える。
「元気なのはいいが程々にな?」
「わかったよ・・・」
「あと山城の付き添い、時雨やってOKにしといたぞ。涼風に礼言っとけ?」
「ありがとう提督!」
この判断が山城の回復をちょぉぉぉっと遅らせてしまうとは誰も考えていなかった。