特に違いが大きい箇所、その1つが体。
普通の船と違い艦娘には手足がある。追加の武器を持ったり、工具で直したりと艦娘に高い汎用性を与えている。
人間で言う格闘技を行うこともできる。
格闘向けの兵装も当然ある。天龍型や伊勢型のように標準で装備している艦娘もいる。
弾が尽きた時の最終手段としても火薬を使えないほど肉薄されても使える。
この兵装試験鎮守府では艦娘に実際の各種格闘技を教え、実戦での効果を見ている。
提督的には、艦娘の強靭な体から放たれる技の数々は充分に殺傷力があり敵に対し積極的に仕掛けて問題ないと評価している。
だが予想外もあった。金剛型の改二艤装。そこについている2枚の盾を鈍器と勘違いしている者がいた・・・
鎮守府を出撃して2時間ほど~
灯りがなければ何も見えないほど暗い海を陽炎たち5人は航行していた。
こんな視界のきかない夜にもパトロールを行わなきゃいけないくらいには日本海側は深海棲艦が出没するのである。
とはいえ殆どの深海棲艦は、「はぐれ」と言われる小規模な連中である。
本来ならいないことを祈るのだが彼女達は少し事情が違う。
今背負ってる魚雷を試さなければいけない。そのための標的がいる。彼女達の目は獣さながらに動き続けていた。
「2時の方向、結構遠く、僅かに白波!」
戦闘を走る陽炎が声を上げる。と同時に全員が索敵を強化する。
「いるわね・・・サイズ的に駆逐、多分イ級1隻」
電探から送られた情報を霧島が伝える。
「霧島さん!司令に入電、発見したって!」
「えぇ・・・司令、駆逐イ級と見られる敵艦を発見。数は1、対応を。」
僅かなノイズの後、提督が指示を出す。
「霧島主体で敵艦を無力化、その後魚雷の標的として使う。的に使えるくらいには元気残しとけ。霧島先頭で単縦陣、霧島に敵を引きつけろ。まずは武装解除だ、いいな」
「・・・了解」
それぞれが提督の指示に短く肯定を返す。
霧島が敵艦目掛け探照灯を照射する。
向こうも気付いたようだ。
陽炎たちは霧島の影に隠れその時を待つ。
まっすぐに突っ込む。徐々に距離が縮まる霧島とイ級。
(相手はイ級、それもはぐれで雷装なし。なら攻撃手段は非力な主砲と噛みつき・・・となると修理費より弾薬費の方がかかりそう・・・撃たないでおきましょうか。)
霧島は加速しながら考える。彼女は計算が得意だ。鎮守府の経理を任されるほどである。故についコストの計算をしてしまう。
距離的には撃てるのである。だが撃たない。彼女なりの節約をしてしまう。
イ級との距離はさらに縮まり大型砲の間合いを過ぎてしまう。イ級の主砲が霧島目掛け放たれる。霧島は金剛型改二艤装に付けられた2枚の盾を使い防御しつつ速度を何故か落とす。
主砲が有効でないと判断したイ級が口を開け噛みつきの姿勢をとり加速するのを見て霧島は盾を開き手招き、「来い・・・」と睨む。
それを理解してか否かイ級が歯をぎらつかせ飛びかかる。常人ならば気絶するほどの不気味さ、それを受けて霧島はにこやかに笑っていた。
瞬間、ドンっとイ級の体の勢いが左右からくる衝撃に殺される。
霧島の艤装に付けられた2枚の盾が閉じガッチリとイ級を挟んでいた。霧島が軽くズレた眼鏡を整えると腕をまくり、大きく開いたイ級の上顎と下顎をそれぞれ手で掴みさらに上下に開く。イ級も抵抗するが戦艦、しかも戦闘用にトレーニングを欠かさない霧島の腕力の前に為すすべなく顎が外れる。続けざまにイ級の主砲に手をかける霧島・・・
「せーの!」
ブチィッ・・・
イ級の主砲は呆気なく体から離れる。かろうじて動いているイ級を掴み後方・・・陽炎たちへと投げる。無事?に着水したイ級はチャンスとばかりに必死に逃げようとズタズタの体で泳いでいた。その速度は魚雷の標的として申し分ないモノ。
待ってましたと言わんばかりに陽炎、不知火の発射管から魚雷が放たれる。幾つかの水柱が上がり息も絶え絶えのイ級が残される。それを囲むように近づきメモをとる4人とハンカチで手を拭う1人。はたから見れば異常とも言える光景。だがイ級以外誰も疑問を抱かない。
彼女達からすれば被弾リスクを抑えつつそれなりにデータの取れるいいテストが出来たのである。ともすれば満足とすらとれる表情を浮かべていた。
「やはり起爆、バラつきますね・・・」
「流石にシミュレーターほど誤差は無かったけど・・・火力ひっく!どんだけ火薬量減らしたの?聞いてくればよかったなぁ」
「ねぇさんたち、次敵はんおったらウチと秋雲が撃つで」
「いいよいいよ~あたしの分姉さんたちにあげるよ~」
「いりません。秋雲、自分で使いなさい。」
「不知火って秋雲に厳しいよね~最近さ」
「不知火姉さん主役の本なんて描いてないのにさー」
通信端末をしまいながら霧島が4人に近づく。
「4人とも、メモ終わったらパトロール再開するわよ。イ級はこのまま鹵獲、私が引っ張るわ。」
「了解~」
4人がメモをとっている間に霧島は提督から事後の指示を受けていたようだ。
何事もなかったかのようにパトロールへ戻る5人。
あとのパトロールで接敵はなく黒潮と秋雲の2人は魚雷が誤爆しないことを祈りながら帰路へとついた。
霧島から送られてきたデータとそれとは別に送られてきた動画ファイルを見ながらコーヒーを啜る提督。
この魚雷のそれぞれの起爆がズレる原因を探ると共に映像に映る霧島の戦い方に若干引いていた。
(もうちょい穏やかなやり方あった気がするけど・・・霧島だしいっか・・・)
5人とイ級の戦闘。夜間でありながら鮮明にその映像を記録し送ってきた撮影班に通信を入れる。
「流石だな、夜なのにしっかり映ってる。これなら後の解析で充分役立つ。感謝するよ青葉!」
「感謝の気持ちはご飯でいいですよ!」
「戻ってきたら飯奢るぞ」
「おっ!いいカメラ用意した甲斐がありますね!」
陽炎たち5人の遥か後方、夜間迷彩のマントを被りカメラを構える少女が笑う。
彼女こそ、この兵装試験鎮守府影の功労者、撮影班班長の重巡洋艦「青葉」。提督含めた艦隊全員の弱みを握る少女である。