仮想敵となるダミーを海域に配置し実戦さながらに動く。
慣れない新兵器に苦戦しつつ性能評価を行う各々。
那智改二は改良型対空電探、隼鷹改二、瑞鶴は新規格カタパルト、潮と曙は新形状の煙突とそれぞれ実際に航行しながら使用感を確かめる。その中にあって唯一陸奥のみ兵装試験に関わっていなかった。
彼女は他5人の護衛兼試験観察担当として出撃している。
だから敵の出現があるまでは正直なところ暇を持て余していた。
そんな陸奥を見て電探感度を確認していた那智がふと陸奥の背中に主砲を向ける。とほぼ同時に陸奥の3番砲塔が那智へ向けられる。暇つぶしの冗談のつもりが陸奥から放たれる明確な殺意を感じ緊張が走る。何故分かった?と撃たれる!と。思わず身構え41cm砲の直撃を覚悟する。が砲撃等はなく陸奥がわざと煙突から出した排気が那智を襲う。
ゆっくりと振り返る陸奥。どこか妖艶に人差し指を唇に近付けながらクスッと笑う。
「あらあら・・・私は味方で呑み仲間よ、忘れちゃった?」
まるでこちらが見えていたかのように振る舞う陸奥に若干戦慄しながら改めて陸奥がここの鎮守府の最高戦力なのだと感じる。
あの一瞬、もし陸奥が敵なら・・・と考えるとゾワッとする。
「すまない、あまりにも旗艦殿が退屈そうだったからな」
「気をつけてよ?味方撃ちました!ってなったら軍法会議ものなんだから。ただ正直退屈ね。」
「受けれそうな依頼があればいいんだがな・・・」
「そんなのほとんどないのよねぇ。出来ることなら私だって新兵器使ってみたいわよ?」
無論長門型向けの兵装試験がない訳ではないが彼女にその指示がくることはない。
那智もそのことは理解していた。
3番砲塔を撫でる陸奥。
その表情は3番砲塔爆発事故の恐怖ではなく大切な宝物を愛でる子供のようであった。
艦娘には何百年も昔、自分たちがまだ船として人々を乗せ戦争していた頃の記憶がうっすらと残っている。
中には自分が沈むその瞬間を生々しくトラウマとして記憶している者もいた。
陸奥はその内の1人。
3番砲塔爆発事故により沈んだ戦艦陸奥の記憶が彼女を蝕んでいた。
何故か3番砲塔に集中する不備、それを気にするたびに陸奥は海に出ることが怖くなった。
そんなある日、彼女は41cm砲向けの対空弾の試験を行っていた。不安もあったがそれなりに順調に確実にデータが集まっていく。
そろそろ帰還かと僚艦に聞いた瞬間それが起きた。
陸奥の3番砲塔が爆発、隣接する砲塔を巻き込み大きな火柱を上げた。あまりに唐突な事態に僚艦だった那智と高雄は硬直。試験を青葉の映像越しに見ていた提督の消火という指示でようやく2人は動き出す。ある程度火が消えた後、陸奥の容態を確認。沈みこそしてはいないが大破状態、艤装はズタズタで爆発により片腕が吹き飛んでいた。全身にわたる火傷もありととても航行できるものではなかった。本人の意識もない。
幸いにもかなり近海での試験だったため鎮守府より明石がボートを引っ張り現地へ急行。ボート上で応急処置を行いつつ那智と高雄が牽引し鎮守府へと戻ることができた。
即座にドックへ運びこまれた陸奥には惜しみなく修復剤が使われ火傷や欠損箇所が回復していく。破損した艤装についても予備品を使用、彼女は一命をとりとめた。
修復完了とともに目覚めた彼女は意外にもあっさりとこの事を受け入れた。曰わく予感はしていたとのこと。
陸奥の目覚めを聞き飛んできた提督へ彼女は問いかける。
もう私は戦わない方がいい?と。
それは陸奥が選ぶことだと提督は告げ、強いて「選択肢は2つくらいかな」と
1つ目は、もし戦うことが怖いならば艤装を解除し普通の女性として鎮守府に勤務もしくは、人として世間に暮らすか。
2つ目は、もし戦いたいと思うなら心置きなく戦えるよう条件はあるが改修を行う。という2つ。
陸奥の内心は複雑であった。戦いたい戦艦としての自分とトラウマに悩む女性としての自分がせめぎ合う。
「私のこの3番砲塔の不安って機械的に直せるものなの?」
「直せる。」
「ならなんで今までその事提案してくれなかったの?」
「もしその改修するとなると陸奥の登録が「現地改修型」って扱いになる。そうなればもう通常の兵装試験はさせれない。それくらい大規模に改修する必要がある。命に関わらないうちは必要ないと思ったから提案しなかったんだ。申し訳ない・・・」
深々と頭を下げる提督。
少しの間があって陸奥が口を開く。
「もし兵装試験できなくなってもここの艦娘でいられる?」
提督が顔を上げ頷く。
「条件が2つある。私の改修、これ以上ないくらいに仕上げて。二度と3番砲塔爆発なんて起こさないように。それと私を秘書艦にして。私みたいな子出さない為に。艦隊をしっかり見渡せるように。」
「戦うことは問題ないのか?」
「あんまりないわよ・・・だってこんな事で引退なんて悔しいわ・・・」
陸奥の表情はなにか覚悟を決めたようであった。提督は罪悪感を感じながらも陸奥に誓う、完璧に仕上げると。
そうして陸奥の改修が始まる。
3番砲塔に対しての神経系の接続、エネルギー伝達等ほぼ1から作り直すに等しい作業を1ヶ月・・・組み上げられた陸奥用艤装が薄暗い工廠で威圧感を放っていた。仕様書には「陸奥用現地改修登録艤装」の文字。完全に規格外品となったこの艤装では正規の兵装試験はもう行えない。だがそれでもと海へ向かおうとする彼女にそれが取り付けられる。接続して気付く。
今まで3番砲塔にあった言葉にできないような不安感、それがない。彼女の精神的には恐怖はある。だが機械としての艤装には不安や恐怖を感じない。提督が持てる全てを費やして入念にこの陸奥のためだけに作った艤装である。その工程を陸奥はしっかりと見ていた。故に怖くない。これなら信頼できる。
しばらくは慣らしを行うがそこも陸奥と提督の二人三脚でこなす。
1週間ほど慣らし一切の不備なく初実戦を迎える。
そこで彼女は3番砲塔からの砲撃によって敵深海棲艦を沈めることに成功する。
喜びと共にトラウマを越えた達成感のようなものに包まれる。
3番砲塔を撫でると提督への複雑な感情が湧き上がる。
元々提督への信頼はそこそこあったが今回一連の提督の動きを見ていた陸奥は、結果として提督への信頼を強めた。2人の信頼の結晶と言えるこの艤装、特に3番砲塔は陸奥の中でかなり大切な存在となり彼女の支えと変化していった。
夕刻1700
出撃していた陸奥達第1遊撃隊から帰還の連絡が届く。
提督は港に出て無事に戻ってきた艦隊を迎える。
那智が疲れたような顔をしているが多分二日酔いであろう。
全員の帰還を確認し安堵したのもつかの間、補給その後のメンテナンスの指示を出す。
各々が補給へ向かう中、陸奥だけ提督へと足を向ける。
「3番砲塔含め艤装、今日もバッチリよ。」
艤装を出したままクルッと回って見せる陸奥。
満足気に補給へ向かう
過去の恐怖を乗り越えた今でも出撃後のメンテナンスを欠かさず提督に任せる。
彼女曰わく強さの秘訣は愛憎のバランス。
今の彼女は艦隊最強を欲しいままに艦隊のお姉さんとしてここ第4兵装試験鎮守府に君臨していた・・・