執務室にて霧島並びに陽炎、不知火、黒潮、秋雲から提出されたレポートに目を通しながら提督は悩んでいた。
陽炎型4人に試験を任せた新型魚雷についてである。
何度か出撃中に使用することがありその際のデータと使用した本人達からの感想、提督の個人的な見解から皆1つの結論に到達していた。
これは実戦では使えない
起爆に関するバラつきは、まず無視できないレベルであり使用に伴うリスクが大き過ぎるのである。
それでありながら現行品の魚雷とコストが殆ど変わらないときた。
「うぅぅぅぅん・・・仕方ない・・・大本営には俺の方からこの事を伝えて試験の早期終了許可をとってみる。そしたら陽炎たちは魚雷を換装、次の試験に備えてくれ。」
嬉しそうな陽炎と秋雲、表情を変えない不知火、不満げな黒潮は各々の返しで了解を伝える。
「ん?次の試験て何になるんだろ?」
陽炎が疑問を抱く。
「次の試験は高感度ソナー、もしくは夜戦用のステルス装備だな。」
「夜戦用のステルス装備!いいね。」
陽炎の目が光る。不知火、黒潮も口角が上がる。秋雲だけ「まだやんのぉ・・・」と露骨にガッカリする。
「夜戦用ステルスってどんなの?」
陽炎が身を乗り出して聞く。
「光を吸収する素材を使ったマント状の装備だな。ベンタブラックだっけ?あの色。それと白波を消す足用外装で夜に見えないようにするってやつだ。」
依頼書と仕様書を陽炎たちに差し出す提督。
4人が2セットに纏められたら紙を囲む。
読み終えたのか提督の机の前に整列し直し敬礼。
「陽炎以下4名、本依頼お引き受け致します!」
漲るやる気に若干提督も押される。
「おう!ありがとう。詳しい内容は魚雷を換えてからにしよう。まだ魚雷の方が終わりになるかわからないし。」
「はい!」
夜戦用というワードを聞いた陽炎はテンション高めのまま姉妹達を率いて早めの昼食へと向かった。
「霧島、引き続き4人の補助頼めるか?」
「えぇもちろん!司令、お任せを」
「私からも頼むわね?あの娘たち夜戦ってなると張り切っちゃうから・・・」
「分かってるわよ、陸奥。私に任せなさい。」
陸奥と霧島の会話を聞きながら大本営へ伝える文章を考える提督であった。
2日後、午前0900~
件の魚雷試験、その早期終了が許可されたと連絡を受けた陽炎たちは意気揚々と執務室の扉を叩いた。
陸奥の声で「どうぞ~」と返事。比較的鎮守府内では豪華な扉を開け、全員が一礼をして入室する。
「魚雷換装の作業依頼に参りました!」
明るく告げる陽炎。直後にキョトンとする。
「あれ?陸奥さん、司令は?」
「提督なら近所の鎮守府で工廠作業の手伝いで出張よ?」
「えっ?嘘ぉ・・・じゃあまだ魚雷このまんまかぁ・・・」
「大丈夫大丈夫!提督からちゃーんと作業許可貰ってるから。明石にも伝えてあるみたいよ。」
「流石、司令はんやな!」
失礼しましたと陽炎たちが工廠へ向かう。
工廠では夕張が自分の工具に錆止めを塗っていた。
「あっ!夕張さーん!」
「ん?陽炎ちゃんたち、魚雷の換装?」
「そうそう!お願いできます?」
「待ってました♪・・・おーいあっかしぃっ!陽炎ちゃんたちきたよー」
工廠奥から明石が現れる。
「はーい準備バッチリですよ。皆さん艤装だしてこっちにならんで下さい。」
明石と夕張が機械を操作し陽炎たちの魚雷が元に戻されていく。
「ついでに次の試験兵装もつけちゃいましょうか!」
明石の提案で形状の特定すら難しいほど黒いマントが陽炎たちに取り付けられる。足まわりにもカナードのようなものが取り付けられる。
「これが夜戦用ステルス装備ですか・・・」
不知火がマントの黒さに驚きつつ呟く。
確かにこれなら夜に視認は難しい。夜戦を得意とする水雷屋の火がつく。
嫌がっていた秋雲ですら笑顔でマントをヒラヒラと動かす。
そこに2つの影が迫る。
「1つ、みんなに伝えることがあるわ。4人の補助に私ともう1人神通に入ってもらうわ。」
霧島に紹介され川内型軽巡洋艦2番艦「神通」その改二が前に1歩出る。
「皆さん、よろしくお願い致します。」
丁寧に頭を下げる神通、それに合わせて陽炎たちも頭を下げる。
そして再度向かい合うと
「やった!神通さんと同じ部隊で出撃だ。」
「ご指導ご鞭撻よろしくお願いします、神通さん」
「神通はんでよかったわぁ」
と喜ぶ3人。
ただ1人、秋雲だけ複雑そうな表情を浮かべながら誤魔化そうとする。
それを見逃さない手練れの軽巡洋艦。
「私では何か不満ですか秋雲?」
「ひっ!?い・・・いや全然ないです・・・はい」
怪訝そうに秋雲を睨む神通。
その顔は完全に鬼教官のそれであり狼狽える秋雲をさらに追い込んでいった。
「ほどほどにね、神通。あくまで兵装試験が目的の部隊よ?」
「分かっています。でも弛んでる娘を見たらウズウズします・・・」
もう逃げ場はない。そう悟った秋雲はとなりで喜ぶ姉たちを困惑の目で見つめていた。
その頃、霧島と神通の改二艤装に夢中の明石と夕張だったが会話を終えた2人が一瞬放つ殺気に思わず距離をあける。
「あまり・・・ジロジロ見ないで下さい・・・」
恥ずかしそうな声とは裏腹に神通の顔にはお仕置きしなきゃ!という言葉が書かれていた・・・
「うーん・・・あんな黒いの夜に撮影できませんよねぇ・・・」
陽炎たちの様子を工廠外から見ていた青葉。
今は視認できても夜にあのマントは視認できない。
つまりは映像として残せない。
「まぁ写らないくらい凄いですよーってのもありかもですね!とりあえず司令に相談ですね!」
笑顔で写真を撮る青葉。本来、盗撮はしてはいけない行為だが彼女にはあまり関係ない。
ある程度撮り終えて帰ろうとした青葉はいつの間にか背後にまわった神通によって2時間近いお説教を受ける事となる・・・