あちこちで悲鳴が聞こえ、村人が逃げ惑う足音がやけに大きく聞こえる。
「早く行け!」という父の声を背に、少年は村の中心にある教会へ向け、走り出す。
今夜は満月だがあいにくの曇天で空は暗く、いつもなら家々の窓から漏れる明かりもなく、そして逃げ惑う村の皆であふれかえった道はとてもじゃないが走れたものではなかった。
「は、早く!」「急がないと!」「ば、化け物が!」
皆が口々に叫ぶが、恐怖のあまり足がすくみ、もつれ、遅々として進まない。
「ああ、どうしよう、逃げないと……早く、早く」
そして、村の外、畑の向こうの森からずるずると歩いてきていたモンスターの姿を思い返す。
そんなモンスターを前に、男たちは、斧や鎌を手に村を守るため、村はずれに集まっていた。
村の男たちも畑を荒らす狼や猪なら幾度となく相手をしてきたが、今夜の相手は肉が腐り落ちた動く死体に、カラカラと音を立てながら歩く骸骨。
野生の動物なら罠を仕掛けたり、その習性をうまく利用して急所を狙ったりして仕留めるが、こんな化け物なんて相手にしたことがあるものは一人もいない。
だから、女子供は教会へ逃げろ。普段は無人で、村の集会所のような場所だが、村で一番頑丈な建物だし、きっと神の加護もあるさ、と。
数年前から、ルーンミッドガッツ王国の辺境では、こうしたモンスターによる襲撃が頻発していた。原因はよくわかっていないが、被害に遭うのはそれこそ名前もないような小さな村ばかり。それこそ一夜で村が無くなっても、行商人が「あれ?」と首を傾げ、ここに村があったのは思い違いだったかと思う程度。
村がまるごと全滅してしまうので、税を納める時期になるまで誰も気付かないなんてこともあり、王国としても対策に苦慮している状況だった。
だが、もちろんそんな話は村の誰も知る由もない。とにかく今は自分たちの村を守らねば、そんな思いで男たちは武器を手に集まっていた。
「行くぞ!」
村で一番の弓の名手が、ギリギリと弓を引き絞り、狙いをつける。
シュッ!という風を切る音とともに放たれた矢は、正確にゾンビの眉間を貫いた。
「よし!」という声が聞こえ……「え?」という声に変わる。
弓を放った男の腕は誰もが認めているし、矢は確かに当たっている。眉間に刺さったままだ。なのに、歩みが止まらないのだ。
「まだだ!」
弓を持つものが次々と矢を放つ。何本かは逸れていったが、それでも頭、胸、足などに深々と刺さっていく。
それでも、歩みが止まらない。
「嘘だろ……」
誰かが呟く。
自分たちが持つ斧や鎌でどうにか出来る相手なのか。
見た目にもやばそうなモンスター相手に、通用するかわからない武器を手に接近戦を挑む……?
パキ……と、モンスター達が作物を踏みつける音が聞こえた瞬間、
「う、うわああああ!」「だ、だめだああああ!」
何人かが恐怖に駆られ、逃げ出す。
「お、追い待て!」「どこへ行くんだ!」
他の男たちも釣られるように逃げ出した。
あんなモノに勝てるわけがない
無理もない話だった。
村の中に逃げ込んでくる男たちの様子は、教会へ逃げる人々の恐怖を増幅させた。
「に、逃げろ!」「逃げるってどこへ!」「か、神様!」「ママー!ママー!!」
パニックに陥り、逃げ惑う人々に押され、転んでしまった。
必死に身をかがめ、静かになったところで、そこら中痛む体をなんとか起こした少年は……周りに誰もいないことを改めて知らされた。両親も兄弟もはぐれてしまったようだ。この混乱では仕方ないことだが。
遠く、教会の方から悲鳴や怒号が聞こえる。
「逃げないと……」
転んだときに捻ったのか、足首がズキズキと痛む。
「く……」
力が入らない。もしかしたら折れているのかもしれない。それでも逃げなければ。
這いつくばりながら進む。逃げなければ!
しかし、背後からズルズル……ペタペタという足音が近づいてきて、覚悟を決めたその時、ヒューン……という音が聞こえた。
そして、目の前数メートルに小さな光の粒が現れ……爆発するように輝いた。
「ここか」「らしいな」
光が収まるとそこには、数人の男女が現れていた。
「間に合ったか」「ギリギリだな」「良くこんなとこポタメモしてたな」「こんなこともあろうかと」「真田さん!」「それ、実際は言ってないらしいぞ」
互いに声を掛け合い、数人が悠然とモンスターの方へ歩みを進める。一人の男がうずくまる少年に声をかける。
「大丈夫……じゃないな、その怪我は」
そう言うと、懐から一冊の本を取り出し、掲げる。
「この者に神の加護を……ヒーリング!」
瞬間、少年を淡い光が包み込み、見る見るうちに傷を癒やしていく。
「う、あ……」
不思議なことに痛みが消えていく。
何が起こったのかわからず、うろたえる少年に男が告げる。
「もう大丈夫だ。危ないから私のそばを離れるなよ」
何が起こったのかわからず、とりあえず立ち上がった少年にそう言うと、歩き出す。モンスターたちに向かって。
「あれは、私たちが退治する」
その視線の先ではすでに何人かが武器を振るっていた。
ザシュッ!
バキッ!
ドゴッ!
ある者は剣で、ある者は槍で、次々とモンスターを屠る。
「ケッ、多すぎてキリがないな」「いっちょ頼むぜ」
「わかった」
男が静かに答え、本を掲げる。
「大いなる神よ、我らの……」
静かに神への祈りが捧げられる。モンスターの周囲に光が集まり始める。
「……地に還せ!マグヌスエクソシズム!」
瞬間、辺り一帯が黄金に輝き……モンスターが一瞬で崩れ去る。
知性のない彼らは、そんな様子を見てもかまわずに光に触れていき、次々と塵と化す。
やがて光が収まるが、後続のモンスターの歩みは止まらない。
「次!」「わかった」
「次!」「ああ」
「まだ来るぞ!」「まかせろ」
ある者は剣を振るい、ある者は矢で貫き、ある者は火球を放ち、次々とモンスターを倒していく。
祖父から聞いたことがある。戦闘能力に長け、様々なモンスターに立ち向かう者、金や名声ではなく、己の信念、理想を求めて高みを目指す彼ら、冒険者について。
グシャッ……カランカラン……
何度となく祈りと共にもたらされた光に触れた最後の骸骨が崩れ落ちる。
「君、大丈夫か?」
少年を背にかばっていた男がゆっくり振り向く。
ただただ驚いて声が出せず、大丈夫だと大きく何度もうなずく。
武器を収めた面々が集まってくる。
「気付いて本当に良かった」「ま、俺らにかかれば楽勝よ」「とりあえずこの事態は騎士団に報告しておかないと」
あれで、楽勝?あんなにたくさんいたのに?村で一番弓がうまいアンディおじさんも、力自慢の木こりのカートさんでも歯が立たなかったのに?
――これが、冒険者!!――
やがて、少年をかばっていた男が跡形もなくモンスターの消えたあたりに歩みを進め、祈りを捧げる。
「……魂に……安らかな……」
「あんな化け物に、祈りを?」
「おかしいですか?」
「だって、僕らの村はあいつらに襲われて、もしもおじさん達が来てくれなかったら、みんな殺され……」
「おじさ……」
「俺、まだ若いんだが……」
「そういえば最近寝ても疲れが取れない気が」
「ちょっと待って、あれでおじさんなら私たちもしかして、おば「言わないで!」
お兄さん達と言えば良かったか。
「ま、言いたいことはわかります」
若干の精神的ダメージを耐えつつ、男が言う。
「しかし、彼らも元は普通の人間。それが死してなお、眠ることが許されない……彼らはそんな哀れな存在なのです」
動く死体、アンデッド。どのようにして生まれるのかは諸説あるが、元は人間、というのは確からしい。
「だからこそ、これ以上苦しまず、安らかに……そんな思いを込めて癒しの光を用い、彼らを解放することが私の務め……」
「ところで、ここにさっき出たソルジャースケルトンのカードが「1Mで」
光速で突き立てられる人差し指一本。
いろいろ台無しだよ!
解説
ポタメモ
アコライト系スキル、ワープポータル、通称「ポタ」を記録している場所のこと。
ワープポータル自体はセーブポイント1ヶ所の他、3ヶ所まで「メモ」をすると、その後はワープポータルスキルで何人か移動できる。
で、ワープポータルのメモ、つまりポタのメモ、ポタメモ。
マグヌスエクソシズム
プリーストのスキル。通称ME。転生前のプリーストでこれを取得すると、他のスキルが取れないほど長いスキルツリーの向こうにあるので、転生実装前はこれを取ると「MEプリ」にカテゴライズされていたほど。
詠唱時間15秒という長さをどう解決するかが、カギ。
作者のプリも当然このスキルを持っている。
1M
RO内の通貨zenyで1,000,000zenyのこと。
カードの価格はかなり変動が大きいし、
ソルジャースケルトンのカード
ROの要素、モンスターカードの一種。クリティカル値を+9できる、武器に刺すカード。クリティカル型のキャラを作るなら是非持ちたい一枚。
なお、ソルジャースケルトン自体はスケルトンを強くしただけの雑魚モンスターである。