茂みに身を隠し、息を潜める。
周りの木立も手伝って俺の姿は外からは見えないはずだ。
音を立てるな。
息を殺せ。
見つからずに距離を詰めろ。
目の前に揺れる草を少し指でよけて視界を確保、外の様子をうかがう。
15メートルといったところか……少し厳しい状況だな……
だが……このままでは……
俺の視線の先、草むらの上にはWIZ娘とBSがいる。
周りの様子をうかがいながら、小声で話をしている。
フェイヨンの片隅の静かな場所とはいえ、この距離では話の内容までは聞こえない。
もう少し近づかなければ……気は焦るが、こらえる。
WIZ娘がうなずき、BSが笑う。つられてWIZ娘も笑う。
くそっ……
だが、絶対その足下の空き缶は蹴ってやる!
「今日は、このウサミミを景品にして缶けりだ(`・ω・´)b」
うちのギルドはギルド狩りの他に、景品をかけてちょっとしたゲームをやることがある。全員強制参加じゃないし、時期が時期、ということらしく今回は少な目だ。
レベルも職も関係なしに平等に競えるうえ、景品が結構なレアだったりするのでかなり萌え……じゃない、燃える。
今回はPvPフェイヨンを使って、缶けり開始となったところで、いきなりWIZ娘が鬼になった。ま、それはいい。
さて、缶けりの鬼に必要な技能は二つ。姿を隠してくる相手を探すことと、相手を近づかせないこと。
そして……幸か不幸かWIZ娘にはその両方が備わっていた。
無理を承知の上でBSがカートを振り回して一気に缶をねらったが、QMで威力を削がれ、魔法の連打であっという間に撃沈。その手際の良さに、全員がどうしたものかと悩んでいた。
事前に決めておいたルール上、倒れた時点で戦線離脱なのでBSは早くものんびりモード。WIZ娘と談笑しているのだが……一応は隙を作るのに協力しているのだろうか……?
「プリ男」ローグがそばに来た。
「注意を引いてくれ、俺が缶を(`・ω・´)」「了解」
俺の返事を聞くと、ローグはすぐに姿を隠す。音も立てずゆっくりと反対方向へ回り込んだようだ。
よし、俺も動くか。一気に茂みから飛び出す。WIZ娘が気づき……魔法を……唱えない……?
「(・∀・)サイト!!」「何ィッ!」身を隠した者を照らし出す火の玉でローグが姿を現す。
「くっ」しかし、まだ行けるっ!ローグと同時に駆け出す。同時に行けば……
「(・∀・)サイトラッシャー!!」ぐあっ
「クァグマイヤ!!」ぬぉぉぉ
「ヘブンズドライブ!!」て……撤退!
今、ヒマワリが魔法を使わなかったか?……見間違いだよな?そうだと言ってくれ!
(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)
[アップデート情報] ○月×日
■女性ウィザードに限り、装飾用ひまわりが魔法をランダムに使用するようになりました。
(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)
「この状況、WIZ娘相手では接近戦は不利か……」どうしたものかとつぶやくと……
「そうでもないぞ」ギルマス(クルセだ)が隣に来ていた。
「どうするんだ?」「考えて見ろ、WIZ娘がいくらDEX型と言っても、魔法の詠唱には時間がかかる」
「だが、詠唱中に近づく術がない、弓職なら話は別だがうちのギルドにはいないだろ」「馬鹿、ここは普通のPvPだ。探せばいくらでもいるぞ」
見ると、ハンターを一人連れてきている。
ハンターか……俺、ハンター苦手なんだよ……なぜかって?ほら、鷹がいるだろ?で、鷹も生き物だから当然代謝があるわけで、その代謝には副産物があるわけで……ま、どうでもいい理由だな。
「プリ男、これはタイミング勝負だ」そう言いながら、『作戦』を俺に伝えるギルマス。
「うまくいくとは思えないんだが……」「俺の計算では大丈夫だ」それが不安なんだよ。
「行くぞ」「何とかやってみる」答えながら位置につく。
「じゃ、行きますよ」ハンターが矢を準備する。
ギルマスがグランドクロスに集中し始める……同時に
「チャージアロー!!」ハンターがギルマスを吹っ飛ばし、WIZ娘の近くへ飛ばす。これでWIZ娘を巻き込むのが『作戦』だ。
後は俺がヒールをかけて……
「(・∀・)ユピテルサンダー!!」 ( д ) ゜ ゜
「グランドクロス!!」 誰もいないところで一人、聖なる十字架を出現させるギルマス。
本来、ヒールで回復させておくべきところだったのだが……この状況では……
「ぐはっ……け、計算が狂った……」倒れた。
しかし、またしてもヒマワリが魔法を使ったように見えたのだが……気のせいだよな?
くそ、こうなったら……自滅覚悟で突っ込む!
「速度増加!!」「ブレッシング!!」「エンジェラス!!」
フル支援をかけて一気に突っ込む。缶さえ蹴ればいいのだ!
「いくぜ!」一気に駆け出す。
何の索もない、見え見えの突進。
当然WIZ娘は対抗策を打ってくる。
「クァグマイヤ!!」
魔力が生み出す泥沼が俺の脚を絡め取る。だが、止まるわけには……
「ヘブンズ……」
く……無理か……
「ドライブ!!」
大地が裂け、割れた岩が襲いかかる……
一見地味だが……WIZ娘がSGより頼りにしている大魔法。
属性鎧ではこの攻撃は防げない。こうした対人戦では結構イヤな魔法だ。
「っとととと!」
だが、かろうじて魔法の範囲から逃れた俺は……勢い余って……
「ふぇ?!」
WIZ娘が目を丸くした顔が見え、俺は盛大に……こけた。
(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)
[アップデート情報] ○月△日
■装飾用ひまわりが魔法を使う際、SPを消費していたのを修正しました。
(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)(・∀・)
「ん……」
派手に転んだ割にはあまり痛くない。何て言うか柔らかい。
「プリ男……」
BSの声が聞こえる。ついでに言うとちょっと温かい。
「あのな……」
何だよ、どうせ俺はヘタレだよ。なんか、手元にふにふにとした感触がある。
「人前でそう言うのは……さすがにどうかと思う」
え?
というか、妙に……全体的に柔らかい感触が……
ガバッと起きあがり状況を確認する……げ。
俺の意志に反して、QMで速度が落ちていた足下はHDの生み出すうねりによって「転ぶ」という事象を生み出し……WIZ娘に突進したらしい。
そして、WIZ娘は……俺の下で地面にノビて目を回していたいた。
「まぁ、アレだ。趣味云々を言うつもりはないが、白昼堂々押し倒すんなら同意を得てからにしておけよ」
「違ーう!」
「『俺は信仰に生きる!』とか言っていたのは、実は口説くための方法の一つだったんだな」
「こ、こら!」
「俺はさ、WIZ娘とお前の組み合わせは悪くないと思うぞ」
「そ、そうかな……ってそう言うことじゃなくて!」
「だけどいきなりってのはな……心の準備ってモノも必要だと思うぞ」
「だぁぁぁ」
俺が必死になっていると、
「ふにぃ~(´・ω・`)」
WIZ娘が起きた。焦点が定まらないのか、目をこすり、頭を2、3度ふる。ふにゃふにゃになったヒマワリがわさわさと揺れる。
こ っ ち の 方 が 先 だ !
「あ、WIZ娘、大丈夫か?」
「あぅ~」
「どっか痛いところ、無いか?」
「ん~」
目の焦点が合ってない(´・ω・`)ど、どうすれば……
俺があわてていると……ヒマワリがシャキ━━━━(`・ω・´)━━━━ン!!となった。と、同時に
「プリ男くん、痛いよぉ」
「あ、ああ、あ、ご、ゴメン」
「あ、缶!」
「え?」
缶は……隙を逃さなかったアサによって、はるか彼方に蹴られていた。
「優勝は……アサ!」
「やたっ(`・ω・´)v」
クリアサにとってはウサミミは意外に使えるらしいからな……
「じゃ、解散」
もう少しPvPで遊んでいくというギルマスとローグを残し、帰宅の途につく。
……視線が痛い。
「や、やー残念だったなーあともうちょっとだったんだが」
強引に話題をふる……果てしなく不自然だ。
「プリ男くんのエッチ」 ざくっ
「変態」 ぐさっ
「露出狂」 ぐあっ
「聖人ぶってて実は欲望の固まりだったなんて……」 _| ̄|○
BSとアサがなにやらWIZ娘にささやき、WIZ娘は……棒読みだから多分意味がよくわかってないだろう……そのまま言っている。
「WIZ娘の方がいいだなんて……ひどいわっあの夜のことは遊びだったのねっ」
アサが身をくねらせる。
「いつの話だそれは」
こいつ、ちゃんとつきあってる相手がいるはずだ。当然、俺からの恋愛感情とかそういったものは一切無いぞ。
「アサちゃん、どうしよう(`・ω・´)」
「ん?どうしたの?」
「私、お嫁に行けない体になっちゃったって」
「ええっ!可哀想に(´・ω・`)」
だああああ!
「BS!何教えてるんだよ!」
「面白いかなー、と」
「面白くねぇ!」
「まー、あとは自分で何とかしろ」
「なΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)」
アサがなにやら耳打ちをし……WIZ娘がそのままそのセリフを口にする。
「責任とってね」
俺の明日は……どっちだ?
解説
属性鎧ではこの攻撃は防げない
ROでは魔法は基本的に何らかの「属性」があり、そのダメージを一番手軽に減らせるのが属性鎧。例えば火魔法に火属性鎧を着ているとダメージが減少するのだが、土属性鎧に土魔法は……100%通る。
グランドクロス
クルセイダー系の攻撃スキルの一つ。ダメージ範囲が十字型、というちょっと変わった範囲攻撃だが、聖属性攻撃のためにダメージ軽減となるモンスターがかなり限定されるので便利……だが、スキル取得までの消費ポイントが非常に多い、消費SPがめちゃくちゃ多い、発動時にHPを消費、さらに反動ダメージを食らうと言うとんでもないスキル。ぶっちゃけ、クルセイダー時代にこれを取るのはほぼ趣味の世界。
作者は使っていたが。