「太陽が黄色いぜ」
意味不明なセリフをつぶやき、家に戻る。あれやこれやは徹夜して聖書を読んでようやく消えた。つーか、普通は1時間もすれば落ち着くのに、一気に記録更新とは。こういう記録は伸ばさなくていいのに。
とりあえず何か腹に入れようかと、食堂をのぞいてみると何人かが飯を食っているところだった。WIZ娘はいない。内心ホッとしながら、軽く挨拶。そのまま奥の台所……というか大きさ的には厨房と呼んでもいいか……へ向かう。
うちのギルドでは飯の当番が決まっていて、当番になった者が準備をする。
朝は当番がパンや野菜なんかを買ってきておくことになっている。朝飯を食わない奴もいるので、作る必要はないが、早起きが面倒なんだよな。パン屋と八百屋が反対方向で、ちょっと不便な立地だし。
ちなみに昼は各自が適当にとり、晩飯は数名でちゃんとしたものを作る決まりだ。
パンを2,3個牛乳で流し込んで少し寝よう。今日の当番、誰だっけ?パンが残ってるといいんだが……
「あ、プリ男くん、おっはよ~(・∀・)ノ」
だあああああああっ!今日の当番はこいつかっ!
自分の分を準備していたのだろうか?いつもここで着ているぶかぶかの服の上にエプロンをつけて、野菜を切っている。
なんでそんな大きな服を?と前に誰かが聞いていたが、「そのうち背が伸びるから」と意味不明な答えをしていたっけな。全然伸びてないけど。
しかし、何というか……まくった袖からのびる腕とか襟から見える……だから俺は聖職者だから!
「プリ男くん、サラダとか食べる?」
「えっ?」
「食べるなら一緒に作っちゃうけど」
「あ、ああ、頼む」
バランスを考えるのも大事か。作ってくれるなら面倒もないし。
トントントンと、小気味よいリズムで野菜を切っている。今までろくに見たこと無かったが、結構手際がいい。うまいもんだ。これならいい奥さんになるんじゃないか?俺には関係ないが。
自分のパンと牛乳でも準備しようと、WIZ娘の後ろを通る……
どんっ ずてっ 痛っ 「きゃん」 どさっ むにっ
野菜を切り終えてWIZ娘が振り返ろうとしたところに俺がぶつかってこけて……
「痛てて……」
「いたた……あ、大丈夫?」
「あ、ああ……お前は?」
「ん、平気(・∀・)」
倒れている俺の背中の上にしりもちをついたらしい。
立ち上がろうともぞもぞと動いているのだが、もう少し、すんなり立ってくれないか?重さはたいしたことないんだが、もたもたするもんだから、むにむにっというのが……だあああっ!
「おーいWIZ娘、パン残ってるか?」
BSだ。助かった。(-_-)
「何やってんの、お前ら?」
「転んじゃったの(´・ω・`)」
「気をつけろよ、包丁持ったまんまで」
Ω ΩΩ ナ、ナンダッテー
ふと脇を見ると、耳元数センチあたりに刺さった包丁が。
「それと、野菜切るのに肉切り包丁使うなよ」
「誰かが菜切り包丁もってっちゃったみたいなの」
「……そこにあるぞ」
指さす方向、俺の手首のすぐ横になぜか包丁が立てかけて置いてある。
(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
寿命の縮みそうな思いをしながら準備をしてもらった朝飯は、味も何もあったもんじゃなかった。
飯の後、部屋で寝ようと思ったのだが「準備して行くぞ」とBS。そうだ、GD行くんだった。眠気は吹き飛んだし、まぁいいか。
「お弁当は?」
「そうだな、頼む」
「まっかせて~♪」
とてとてっと台所へ駆けていくWIZ娘。
こっちも準備するか。
「アスペいるか?」
「いらん」
「わかった」
青石を適当に持っていけばいいかな?
ゲフェンダンジョン。入り口の階段は数多くの猛者の進入を拒み続ける魔の階段として有名。
「あれ?降りられない?(・∀・)?」
「さっさと行くぞ」
「わーん、待ってよー(´・ω・`)」
【 Σ(・д・)←WIZ娘 】
パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ
パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ パシャ
∧_∧ ∧_∧ ∧_∧ ∧_∧ ∧_∧ ∧_∧
( )】 ( )】 ( )】 【( ) 【( ) 【( )
/ /┘ . / /┘. / /┘ └\\ └\\ └\\
ノ ̄ゝ ノ ̄ゝ ノ ̄ゝ ノ ̄ゝ ノ ̄ゝ ノ ̄ゝ
いきなりアサとローグが現れた。
「階段降りるの失敗してますよ、あのWIZ( ´д)ヒソ(´д`)ヒソ(д` )」
「うわんヽ(`д´)ノ」
やはりいたか。最近ここで待ちかまえるアサ・ローグがいると聞いていたが……
ま、紆余曲折はあったが、なんとかGD3へ到着。
普通の武器が通用しない念属性の敵が多いここでは、マジシャン系の職がいると安定度が違う。
「ソウルストライク!!」
「アドレナリンラッシュ!!」
「ファイヤーウォール!!」
「マキシマイズパワー!!」
楽だなぁ。
「よし、シャアはまかせろ!」
「らじゃ(`・ω・´)ゝ」
「行け!最大火力を見せてやれ!」
「いきまーす!ロードオブヴァーミリオン!!」
この二人は組んで臨公に行くことが多いらしく、この辺の連携は見事なモンだ……というか、火力過多だな。DOPが来たとかでも無い限り、危険度は低そうだ。
「ぬおおお!シャア多すぎ!」
「まかせて!ヘブンズドライブ!!」
ズ ン !
「わわわっ全部こっちに来たぁ!」
「しまった!」
「ファイヤーウォール!!抜けてきたぁヽ(`д´)ノ」
売れない芸人のコントか?
「ふー、今のはちょっとすごかったな」
「ヒール連打したから少し休む」
「ああ、いいぜ」
「メテオ降らせれば終わるから楽でいいな」
「へへー♪」
WIZにもいろいろあって、各種ボルトやFW、QMを使いこなすテクニカルなタイプ、SGだけ続けるガスター10とかあるらしいが、WIZ娘は大魔法型。
大魔法型は、ただの火力馬鹿というケースも多いらしいが、昨日の狩りもみている限り、WIZ娘は大魔法の詠唱にかかる時間と属性相性をきちんと考えて使い分けている……と信じたい。
「お、青箱出たぜ」「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
GDはレアが多いことでも有名。今出た青箱の他にもウィスパー、ハンターフライのカードは常時M級。他にもガラスの靴とか裏切り者とか、俺自身露店でしか見たことのない物が出るらしい。
ま、この組み合わせなら少し気を抜いてもいいかと、ぼけーっとしていたらいきなり背後から肩をつかまれ、耳元で
「 わ っ ! 」
「ぬぐぉああああああっ」
「あははは、驚いた(・∀・)?」
「ぼけーっとしてるなよヽ(´ー`)ノ」
心臓がバクバク言っている。驚いたのは驚いたが、み、耳にかかった吐息とかちょっと触れた髪の香りが……じゃなくて!
「頼むから脅かさないでくれ(つд`)」
「悪ぃ、つい、な」
「ぼけーっとしてるんだもん ネー(*・ω・)(・ω・*)ネー」
それにしてもWIZ娘、昨日もそうだったが、ホントに楽しそうに狩りをするんだな。最近は効率だけ求める殺伐とした狩りが多かったせいか、妙に新鮮に映る。
臨公とかもよく行っているらしいが、いつもこんな調子なのか?だとしたら組んだ連中はどう思っているんだろう?楽しめる奴ならいいが、そうでない奴と組んだら、なんて言われてるんだろう?
そんなことを心配していたらWIZ娘がとてとて……とこちらへ駆けてくる。どうしたんだろう?支援は切れてないし、HPも問題ないようだが……
「えい♪」
「んあ?!」
いきなり両手で頭を捕まれた。WIZ娘の顔が目の前にある。にこにこしながらじっとこちらを見ている。
じっとこちらを見つめる視線は真剣そのもの、何かを決意しているかのようにも見える……唇がそっと動き……微笑み……
ちょっと待ってくれ、こっちにも心の準備って物が……それにこんな人前で……じゃない!俺は聖・職・者!
「うん、似合う似合う♪」
「え?え?」
「カッコいいよ♪」
「おーいいじゃん」
頭に何か違和感が……そっと手を伸ばして触れてみる。羽の感触?
「悪魔のヘアバンドげっつ(σ・∀・)σ」
「やったな、M級レアだぜ」
「待て、俺は聖職者だ!こんなの付けられないって」
「出たんだから素直に喜べよ」
「そうそう♪」
言いながら、俺の頭からHBをはずすWIZ娘。そしてヒマワリを外して自分の頭に付ける。ヒマワリ、生えてたんじゃないんだな。ちょっとだけホッとした。
くいくいっと整えて、くるりと回るWIZ娘。
「似合う?」
「おー、結構かわいいぞ」
「わーい」
全身で「うれしい」を表現するように、くるくると回ってみせるWIZ娘。ふわりと広がるマントの下からのぞく脚……いや、そうじゃなくて!
昼になったので、一度外に出ることにした。
「はい、お弁当♪」
「サンキュー」
俺も渡された包みを開ける。サンドイッチが入っていた。店で売っているのと同じように見える。へーなかなかのモンだ、と口に入れる。
「あ、そうそう」
「ん?」
「1個だけマスタード大量に入れてみました(・∀・)vブイッ」
な、なんつーことを……もぐもぐ……え……
「うぉあああああ!」
「プリ男くん、大当たり~」
「だはははは」
大喜びするWIZ娘と大笑いするBS。とにかく口の中の火事を鎮火しようと牛乳瓶に手を伸ばす。
ぐいっと飲んで……苦っ……「ぶはっ」
「1本だけ緑ハーブの絞り汁入れてみたけど、どう?」
「よ……余計な……ことを……」
BSは既に腹を抱えて地面を叩きながら呼吸困難に陥っているようだ。お前、笑いすぎ。
「んー、やっぱりダメかな(´・ω・)」
「改良の余地ありだな」
改良せんでいい、そんなもんは。
午後の狩りは特にレアが出ることもなく、WIZ娘が楽しそうに魔法を唱え、BSが「ぬおりゃあああ!」と気合いを入れ続けて終わった。
ま、それなりの収入になったな。口の中がまだひりひりする……どんだけマスタードを入れたんだよ。
部屋に戻っていい加減寝ようと思ったら、廊下の向こうからWIZ娘が何か言いながら、走ってくるのが見えた。
今まではどうでもよかったが、昨日からその姿が……何でもない。
とてとてとて…… だだっ ふわり
「え?」
俺の前でぶつかりそうになりながら止まって、手に持っていた何かを俺の口の中に押し込む。
「むぐっ」 甘い?ついでになんか鼻腔をくすぐる……イヤ、気にしないでくれ。
「飴あげる(・∀・)ノσ」
「へ?」
「まだ口の中辛そうだから」
「ふぁ、ひや、もふらいりょううらし(あ、いや、もう大丈夫だし)」
って、返事したときにはいなくなってるし。ああ、晩飯の支度か?
飴をなめながら寝ようとしたらギルメンのなりたてアコがいろいろ教えてくれと頼んできたので、スキルとか教えていたら、晩飯の時間になっていた。
飯食ったら風呂入って、寝よう。いい加減体がつらい。
晩飯は……普通だった。当たり前か。いちいち罰ゲームのようになっていたら大変だ。
眠ぃ……と、思いながら機械的に手を動かして食べる。
「だからな……って」
「えー、……かなー?」
「大丈夫……だし……だろ?」
「じゃあ……るね!」
WIZ娘がギルメン達と話をしているのが聞こえるが、頭が働かない。ボーッとしながらなかなかフォークに刺さらないレタスをつつく。
と、肩をトントン、と叩かれた。反射的に振り向く。
「ん?」
「あ~ん♪」
「あ~ん」 ひょいっ ぱくっ
これまた反射的に動いて、口の前に出されたフォークをくわえてしまった。周りで起こる大爆笑。
「わはははは」
「ホント単純だなー」
「カラアゲ1個もらうぜ」「ちぇ」
あれか?俺で賭けかなんかしてたのか?と、口のフォークが引き抜かれる。うれしそうに笑いながら席に戻るWIZ娘。今のフォーク、WIZ娘の……?
頭の中が真っ白になって、朝からの『むにっ』とか『わっ』とか『ふわり』とかが一気に思い起こされ、眠気が吹き飛ぶ。
結局俺は大聖堂で徹夜して聖書を4回も読み返すハメになった。
解説
青石
ブルージェムストーンのこと。青Jとも。さすがにBJにはしない。ポタなどのスキルで使用するので常時倉庫に大量に用意しておくもの。ゲフェンでNPCから購入できる。なお、作者は始めたばかりの頃、そんなこと知らなかったので、一生懸命伊豆で集めていた。
ゲフェンダンジョンの階段
どういうわけか、ゲフェンダンジョンの階段はどれもこれも入りづらい。
特にダンジョン入り口の塔に入って最初に降りる階段は難所ですぐに横に逸れてしまう。これでもパッチで修正されて入りやすくなっているのだが。
なお、横に逸れたところに「階段を降りられなかった人用」という露店を出す商人もいたりする。
シャア
虫系モンスターの中で、ハエのような外観のモンスター、チョンチョン・スティールチョンチョンがいるが、その上位版、ハンターフライのこと。赤いし強いのでこう呼ばれる。
ちなみに強さは三倍どころではない。
DOP
ドッペルゲンガーのこと。ゲフェンダンジョンに出るボスモンスターで、とにかく強い。歩いた後は死屍累々と言うとんでもないボス。ほとんどの人が見かけたら逃げて、討伐隊が来るのを待つレベル。
ロードオブヴァーミリオン
通称LoV。三次職のスキルを含めてもトップクラスの範囲に電撃を降らせる大魔法。なお、見た目は派手だがダメージは残念な感じという、ロマンあふれる魔法である。ただし、ダメージはともかく、暗闇付与があるので、後衛に行きかけたモンスターを引き剥がす効果は高い。
ヘブンズドライブ
通称HD。大地を隆起させて相手を攻撃する大魔法。「範囲が狭いから大魔法じゃない」という意見もあるが、作者としては「画面が揺れるのが大魔法」説を推す。
この説によると、大魔法はMS、LoV、HDであり、SGは大魔法ではない。
ただし、この理屈だとアーススパイクが大魔法になってしまうのが欠点。
ガスター10
SG10以外に何もしないウィザードの蔑称。SG10で狩りづらいモンスターが増えてからは大分減った。
青箱
正式には「古くて青い箱」。開けるとランダムにアイテムが出てくる。要するにガチャだが、箱からしか出ないアイテムもあり、露店で箱を買い漁って開け、一文無しになる「青箱破産」なんてのもある。
ウィスパーのカード
回避+20のレアカード。念属性攻撃を受けると+50%ダメージだが、そもそも念属性攻撃なんて滅多にないので、気にする必要が無く、人気。カードを装着した装備が「モッキング~」となるので「木琴」とも呼ばれる。
ハンターフライのカード
物理攻撃したときに一定の確率でHPを回復できるレアカード。手数の多いキャラが使うと回復いらずになるが、攻撃力アップなどの効果は無いので、持ち替え必須。
緑ハーブ
そのまんま、緑色のハーブ。状態異常回復のポーションの材料にもなる。
どのくらい不味いかというと、とあるクエストでラクダに食わせるとすぐに下すレベル。