「あ゛ーーーー」
既に人間の出す声では無い声を出しながらうめく。誰もいないし、いいだろ。ゲフェンタワーの裏側は人通りもまばらで、こちらを気にかける者はいない。
「二日連続の徹夜かよ……」
部屋で寝ていようとも思ったが、なんとなく落ち着いて寝てられないような気がしてここへ来た。男には一人になれる場所と時間が必要なんだ。
塔にもたれかかり、うとうとしかけるのだが、
「あっちぃ……」
日に照らされた塔は全体が熱く、背中が焼けるように熱い。
やっぱり帰るか。今の時間なら多分誰もいないから、ゆっくり寝てられるかも……?
「あの……」
「え?」
唐突に声をかけられた。見ると、男性騎士と女性ウィザードが立っていた。
どこぞのWIZ娘と違い、清楚で大人の気品がある……いや、街やダンジョンなどで見かけるのは大抵こういう人々で、WIZ娘は例外中の例外か。
「フェイヨンのポタメモありませんか?」
丁寧な言葉遣いの騎士だな……うちのギルドの騎士なんて……常w時w逆w毛w語wのw奴wばwかwりwだwぜwwwwwwwwww。
まあ、堅苦しいのは苦手だから、別にいいんだが、身内以外には礼儀正しく、というのはちょっとカッコいいと思う。
それはさておき、フェイヨンのポタは……あるな。
「ありますよ」
「お願いします」
言って、騎士が懐から青石を2個取り出す。
「では……」
青石を受け取って、立ち上がり、ワープポータルを……覚えているのはここまでだった。
「……ん」
気が付くと、薄暗い天井が見えた。かすかに漂う消毒薬のにおい。ベッドに寝かされているようだし、病院か……?
「知らない天井だ……」
誰もわからないだろうネタを呟きながら、額に乗っていたぬるいタオルをどけ、起きあがろうとして、何かが体の上に乗っているのに気が付いた。
目を向けると……WIZ娘がベッド脇の椅子に腰掛けて、毛布に覆い被さるように寝ている。
……かすかな記憶をたどる……確か、ゲフェンでポタを頼まれ……倒れたのか。そして病院に担ぎ込まれ、WIZ娘が……看病していた……のか?
情けない。傷を癒し、肉体強化の祝福を施すことができても、自分の体調管理すらできないとは。薄いカーテンの向こうを見ると……薄明るい。夕方?壁に掛かった時計を見る……目が点になった。
朝だった。丸一日寝ていたわけか。
そっとWIZ娘を見る。徹夜で看ていたのだろうか?かすかな寝息を立てて眠っている。枕元に目をやると水の入った器とタオルがあった。一晩中、タオルを換えていたのだろうか?そっと手を伸ばし、顔にかかった髪をよけてやる。さらさらで猫のような髪だ。
「ふぅ……」
天井を仰ぎ、ため息をついて、もう一度WIZ娘を見る……見ているだけで幸せになれそうなくらい、あどけない寝顔。
「ダメだな俺は」
WIZ娘が俺のことをどう思っているのかはわからないし、この際どうでもいい。おそらく、誰かから連絡が入って飛んできたのだろう。その時のWIZこの狼狽ぶりは想像に難くない。
身近な、いつも皆に笑顔でいる彼女に心配をかけさせてしまった。
ふと、指で頬をつついてみる。
ぷにっ
「!!!!」
オイオイ、嘘だろ?
この前実家に帰ったときに俺より一回り年上の従兄弟が5つにもならない子供達を連れてきていたが、そいつらと変わらないぞ、これは。
いや、それ以上かも知れん。
「ん……」
動揺しまくって俺が動いたせいだろうか、起こしてしまったようだ。
顔を上げ、目をむにむにとこすって「寝ちゃった……」とつぶやいてこちらを見る。
「あ、気が付いた?」
「あ、ああ」
「大丈夫?どっか痛いところとかない?」
「ん、ああ、ないよ」
「よかった。心配したんだよ(´・ω・`)」
返す言葉もなかった。
WIZ娘の話を要約すると、出掛けようとしたら、俺が倒れてゲフェンの病院に担ぎ込まれたと言う連絡がカプラサービスから入り、あわてて駆けつけた、とのこと。そんなことまでやっているとは、カプラサービス、恐るべし……そこは感心するところじゃないか。
「お医者さんは『過労でしょう、休ませてください』って言ってた(´・ω・`)」
「そうか、心配かけさせてスマン」
「ギルマス、ちょっと怒ってたかも」
「……ちゃんと謝る、俺が悪いからな」
ベッドから出ようとするとWIZ娘がそれを遮る。俺の体力が落ちているのか、押し戻された。
「いま、お医者さん呼んでくるから」
そう言い残して部屋を出ていった。
あいつ、いつもみたいな笑顔じゃなかったな……体中を締め付けるような罪悪感……俺は本当に最低だな。
医者からは「しばらくはゆっくり養生するように」と念を押され、帰ろうとポタを出そうとしたら「ダメ!」とWIZ娘に叩かれ……といろいろあってようやくプロンテラに帰った。
ギルマスは一言だけ
「皆、心配したんだぞ」
こういうとき、あれこれ言われない方がつらい……と初めて知った。
部屋に入り、ベッドに横になる。すぐに睡魔が襲ってきて、起きたら昼だった。
「腹減った……」
そりゃそうか。
誰もいないだろうし自分で作るしかないか、と思ったら、ドアをノックする音がした。
「プリ男くん、起きてる?入るよ?」
「ああ」
WIZ娘だった。俺が起きて動いた音が聞こえたんだろうか……
「大丈夫?」
「ああ」
「おなか空いてる?」
「ああ」
「待ってて、すぐ持ってくるから」
「ああ」
俺、「ああ」しか言ってないな。
しばらくするとWIZ娘が湯気の立つ椀を持ってきた。
「これね、アマツの料理で『お粥』って言うんだって」
「へー」
「あ(・∀・)熱いから気を付けて」
「じ、自分で食べられるから……」
放っておいたら「ふぅふぅ」しそうだったのであわてて自分の手元に椀を引き寄せ、口に入れる。味は……ほとんど無いが、なんだか落ち着く。
「どう?」
「うまいよ」
「よかった。食べたらまた寝る?」
「……そうするよ」
「じゃ、適当に片づけるから」
そう言い残し、部屋を出ようとするWIZ娘に声をかけた。
「WIZ娘」
「なに?」
「ありがとう……」
「気にしないで(・∀・)」
そう答えて、部屋を出ていった。
どうでもいいが、ヒマワリと話している気がしてならないんだが。
食べ終えて、椀をドアの外へ置いておく。台所まで持っていきたかったが、怒られそうなのでやめた。
あまり味はしなかったが、何だかうまかったな……そう言えば、WIZ娘は料理全般をそつなくこなしているような気がする。例のマスタード入りサンドイッチ等は別として、下手をするとそこらの店よりうまく作ることもある。
こうしていわゆる冒険者になる前は何をしていたのだろうか?初めてWIZ娘に会ったのは既にウィザードになった後だったからその辺のことはよく知らない。直接は聞きづらいから誰かに聞いてみようか……
そんなことを考えていたらいつの間にか眠ってしまい、目が覚めたら夕方だった。さすがに体がギシギシときしむような感じがするので「少し散歩してくる」と声をかけて外へ出た。
街はいつも通り……そりゃそうか。
ふと見ると、珍しい服装の商人がいる。何を売っているんだろうと見てみると……
アマツの味 レトルトお粥 500Zeny
i⌒i
/ ̄ヒ-ヲ \
(T'L ヽ < }_,」
〈 ̄ ̄ ̄l [~
L_イ~`ー'i_ ヽ
,. -‐ ムヽ──ニノー' - ..
ひょっとして……俺、感心して損した?
解説
逆毛
ROの男性キャラクターでは髪を逆立てたヘアスタイルが選択できる。呼び方はそのまんま、「逆毛」。そしてその髪型を選び、チャットでよく使われる「w」を多用する騎士がなぜか多く、逆毛と言えば騎士、という偏見が生まれたとか。
レトルトお粥
もちろんそんなアイテムは無い。