「そうですか……」
「すみません」
「いえ、あなたが謝ることではありませんから」
昨日WIZ娘を訪ねてきた騎士は、全く同じ時間にやってきた。
あれから結局WIZ娘とは会っていないので、その通りに伝えた。誰なのかはわからないが、うそを吐く理由もないしな。
「うーん、時間をずらした方がいいんでしょうか?」
「それは……何とも」
俺もWIZ娘がいついるかなんてわからない。
「まぁ、見かけたら伝えておきます」
「すみません、お願いします」
そう言い残し、騎士はペコに乗り、雑踏の中へ消えていった。
ペコ、いいなぁ……眺めが良さそうだ……関係ないか。
あれから自分なりにあの騎士の正体を推測してみたのだが……
可能性1:家族・親戚
WIZ娘の家族って……今まで聞いたことがないな……可能性はありそうなんが、全然似てないもんなぁ……
家族とか親戚なら顔立ち・仕草や雰囲気なんかがどことなく似ている物だと思うんだが……
可能性2:商売相手
レアアイテムが出たときに露店商人を通さずに直接やりとりすることがある。俺も何度かそう言う取引をしたことがあるし、WIZ娘も例外ではない。
これならば、直接でなければ都合が悪いという理由にもなる……が、こういう取引は事前に時間と場所を決めたりするしなぁ……
可能性3:大切な人
一番想像したくないのだが……WIZ娘も一人の人間。歳を聞いたことはないが、そう言う相手がいたって不思議ではない年頃だ。俺との関係は単なるギルドの仲間でしかないから、俺が口を挟むことでもない……ハズだ。
うーん、どれだろう?
臨公広場で聞いた話では、WIZ娘は一部の人に人気があるらしい。
BSに言わせると「あのメテオ連打というのが新鮮な感じがして、癖になる奴がいるんだ。俺もその一人(`・ω・´)b」とのこと。
確かにSG狩りにはない、轟音と地響き、そして爆炎の向こうで倒れていくモンスター、と言うのは新鮮に映る。おまけにWIZ娘自身が『一応』いろいろ考えて動いているので、かなりヤバイ状況でもギリギリで生き残る、と言うことも珍しくない。
それが前衛諸君にとっては脳内モルヒネ垂れ流し状態になるらしい。あの騎士もそう言う中の一人なのだろうか?
そんなことを考えながらちょっと買い物に出かけ、家に帰ってくると、ちょうどWIZ娘がいた。狩りに行く格好だからこれから出掛けるのだろう。
「よ!WIZ娘」
「あ、プリ男くん、こんにちは(・∀・)」
よく考えるとWIZ娘はちゃんと俺たちを「くん」とか「さん」を付けて呼んでいるんだよな。こっちは呼び捨てなのに。
行動はどこか抜けているが、その辺は礼儀とかはきちんとしているんだな……
……あの騎士のように……
!
……イヤ、単なる偶然だろう。ある程度のレベルの教育を受けていたり、家の躾がしっかりしていたり、それだけのハズだ。
WIZ娘は荷物をチェックしている。よく蝶の羽を持たずに出掛けて、歩いて帰ってきたりすることが多かったので、皆が
「出掛ける前にちゃんとチェックしなさい!」
と何度も言い聞かせた成果だ。
「蝶の羽6枚、よし。くわとろぶるでくすとっとととろーすろっど、よし。ヒルクリは……よし」
噛んでるし。
「ふぇん……あ」
あわてて部屋へ戻っていく。相変わらずか。
やがてWIZ娘が戻ってきて、「よし。忘れ物なし」と立ち上がる。
さて……きちんと話をしないと。
「あのさ、WIZ娘」
「ん?何?」
「昨日も来てたんだけどさ、さっきも騎士が来てお前のこと、探してたよ」
どういう反応をするか……
「騎士……さん?」
「ああ」
誰だろう?と言う顔をしている……
「知り合いか?」
「あのね、プリ男くん」
「ん、何だ?」
核心に迫るか?!
「その……」
「名前教えてくれないと、誰だかわかんないよ」
⊂⌒~⊃。Д。)⊃そりゃそうか
隠しても仕方ないので名前を教えると、WIZ娘が……と言うよりもヒマワリが「!」となった。
「プリ男くん」「ん?」
「今日来たのっていつ?」
「んー、30分くらい前かな」
「どこへ行ったかわかる?」
「わかんないけど街の方へ行った」
「ありがとう(・∀・)」
WIZ娘は部屋へとてとてっと駆けていく。しばらくすると……戻ってきた。
狩りのための装備はほとんど置いてきたようだ。
「今日は狩り行かな~い(・∀・)」
と言い残し、外へ出ていく。
呆然と見送る。
WIZ娘が狩りに行かないのは別に珍しいことではない。
一日中蚤の市で時間をつぶしたり、俺たちギルメンと適当にバカ話をしたりして過ごすことはよくある。
「誰かとお出かけ」と言うことも多い……大抵アサが犠牲になるが。
しかし、今のは……普段と違うように見えた……?
俺は……何となく興味がわいてきたので付いていくことにした。
イヤ、別に個人的な興味じゃないぞ。
何か、そうしないといけないと言うか、「後を追っていかないと殺すぞ光線」みたいなものを感じるんだ……
つまり、俺は誰かの意志に従い、行動するだけであって、これは決して俺の意志ではない。いやいや、それどころか、真実を追究すると言うことは教義にも従うことだ。信仰に生きる俺の正しい姿だぞ。
雑踏の中を早足で進む。しばらく進むと……いた。ヒマワリがヒョコヒョコ揺れているのが見える。高さからしてWIZ娘に間違いない。
いったん距離を詰め……WIZ娘だと言うことを確認して、少し距離をおく。
しかし、騎士が去ってから結構時間が経っている。通りをまっすぐ来ているが、こちらにいるという確証があるのだろうか?あ、WISしたのかもしれない。冒険者なら全員受けられるカプラサービスのシステムだから、場所を聞いているのかもしれない。
……WISか。同じギルドにいるとギルド内だけの連絡が出来るから、あまり使ったこと無いんだよな。
そんなことを考えていると……プロンテラ中央の噴水のそばまで来た。きょろきょろとヒマワリが動く。
俺も少し背伸びして周りを見渡す……騎士が……いた。
騎士は露店を見ているらしく、こちらには視線を向けていない……さて、WIZ娘は、と見ると、どうやら見つけたらしく、ヒマワリが騎士に向かって動いている。俺も少し近づいていく。
WIZ娘が声をかけたのだろうか、騎士がヒマワリの方を振り向く。やがてヒマワリが近づき、なにやら話をしている。
よし、ここは師匠直伝の読唇術……なんてものは持ち合わせていない。話し声が聞こえるところまで近づいて……通り過ぎていく「通行人A」になるとしよう。
少しずつ近づく。話をしているのはわかるが、雑踏で何を話しているのかはわからない。
もう少し近づく……途切れ途切れだが会話が聞こえる。
「……いぶん待たせ……」
「……、そんなこと……」
「……まない、なかな……」
「……いき。だって、……」
すぐにUターン、会話の続きを。
「……んとか、いい……」
「……よかったヽ(・∀……」
「あとは……だけ……」
「……は、……すき……」
「……うか、……言っ……」
もう一回!
「……だ、いまか……」
「……、いこ……」
くっ、二人が歩き始めてしまった。声の聞こえる距離でついていったらストーカーと思われてしまう。不自然に見えない距離で追いながら、会話を脳内補完してみる。
『ずいぶん待たせてすまなかった』
『ううん、そんなこと気にしてないから』
『すまない、なかなか説得できなくて』
『平気。だって、大変なのわかるもの』
『あちらの方は何とか、いい方向に話を持って行けた』
『理解してもらえて、よかったヽ(・∀・)ノ』
『あとは、君の両親の説得だけだから』
『私は、大好きなあなたについていくだけだから』
『そうか、でも、きちんと言っておかないとな……』
『そうだ、今から早速行こう』
『そうだね、いこう』
何だ、この補完は……
構図的に、この騎士が婚約を破棄してWIZ娘と……ま、待て!そんなことがあってたまるか!
スレの住人のためにもそんなことは絶対に阻止をして……ん?スレの住人って誰だ?いやいや、この際そんなことはどうでもいい。
とにかく追いかけて、と思ったのだが、二人がいない。
ヒマワリは雑踏に隠れると見えなくなってしまうのも仕方ないが、騎士はペコに乗っていた。頭一つ出ているのだ、見失うはずがない。
辺りを見回す。結構な人出だからいくら何でもペコで全力疾走はあり得ないし、ポタを出したら誰かが間違えて乗ってしまって大問題になる。
テレポ・蝿・蝶ならば音がするはずだし、街中でそれはない。カプラも近くにいないから、他の街へ行ったとも思えない。
近くにいるハズなんだ……あ、アレは……と言うか、ここは!
近年のプロンテラの人口増加に伴い自然発生的に出来上がった、街の一角。ある者は一人で、ある者は二人で、やってくる場所。子供の教育上よろしくないとの議論もわいているが、人間が集まればあって不思議でない場所。
いわゆる色町……一人きりの者を誘う店もあれば、二人で連れ立って入る建物もある……まさか!
いやいや、もっとよく探すべきだ。道路の反対側は普通の店が並び、露店も結構出ているから、その陰になっていないとは言えない。
ペコに乗った騎士は数名見えるが違う。そこらの建物の軒先にペコがつながれているが、近くにWIZ娘も騎士もいない……
何度も見回したが、いない。
どこかの角でも曲がったか、と見てみたが、いない。
クソッ……俺はへたり込んだ……もう、何もかもが……
スマン……心の中でスレの住人達に謝った……だから誰だよそれは……
「あれ?プリ男くん?(・∀・)?」
……誰だよ、俺の名前を呼ぶのは……
「こんなところで何してるの?」
……放っておいてくれ……
って、え!!
我に返って見てみると、目の前にWIZ娘と騎士が立っていた。
WIZ娘の顔は「???」という感じ、騎士の顔は「やれやれ」というか……ややあきれ気味の表情。
「えっと、プリ男君、でいいかな?」
「は、はい」
「往来でそう言うのは少しみっともないと思いますよ」
「あ、え……そ、そうですね」
しどろもどろに立ち上がる。
よく見ると……よく見るまでもないが、騎士は鎧を着ていない。
そして、WIZ娘は……両手に一つずつアイスクリームを持っている……片方は少しなめているようだ。口の周りにちょっとついてる。
見ると、すぐ近くの店は……アイスクリームショップ。ここにいたのか……
店は結構繁盛しているらしく、客も多そうだ。
「じゃね、バイバイ(・∀・)ノシ」
「ああ、また」
軽く挨拶を交わすと、騎士は勝手口につないでいるペコを一回なでて、中へ入っていった。
「えっと……今のは……?」
「前に一緒に臨公行ったアルケミさんの旦那さんだよ」
「……あ、そう……」
「今は引退してアイスクリーム屋さんなの」
「……へ、へぇ……」
「と言っても、お店手伝わずに騎士やってるんだって」
「……ほ、ほぉ……」
「新作が出来たから、食べないか?って呼ばれたの」
「……な、なるほど……」
「ここのアイス、おいしいんだよ(´∀`)」
「……そ、そうなんだ……」
もう一回さっきの会話を補完してみるか。
『ずいぶん、待たせちゃったけど、って言ってたぞ』
『ううん、そんなこと無いよ(・∀・)』
『すまない、なかなかいい感じにならなかったらしくて』
『平気。だって、待つのも楽しいもの』
『何とか、いい感じに仕上がってきたって』
『ホント!?よかったヽ(・∀・)ノ』
『あとは、チョコチップの量を決めるだけだって』
『チョコチップは、少ない方が好きかなぁ(`・ω・´)』
『そうか、多くしようなんて言ってたけどな』
『そうだ、今から行ってみるか』
『そうだね、いこう』
……だいたいこんなもんか(´・ω・`)
俺の……壮絶な勘違い?
あの騎士にしてみれば、まだ身内だけにしておきたい新製品の話、俺には話しづらいのはよくわかる。そして、WIZ娘はきっと早く食べたいとか、食べられないと拗ねたりとかするだろうから、騎士としては真剣だったんだろう……
イヤ、待てよ。、このWIZ娘の関係者だ。揃って俺をからかっていたのかもしれない……
「プリ男くん」
「え?」
「これ、プリ男くんも食べてみる?」
「え……」
「おいしいよ」
「あ、ありがとう」
二人並んでアイスをなめながら家までの道を歩く。
「おいしいね」
「あ、ああ」
何を緊張してるんだ、俺は……
「これ、来週から売るんだって(´ー`)」
「きっとすぐ売り切れちゃうよね」
「あと、あのお店はね……」
WIZ娘はいつものようにうれしそうに話をしている。甘い物を食うと人は幸せを感じると言うが、俺が今感じているのはアイスのせいだろうか?
まぁ、いい。とりあえず、スレの住人達による暴動は阻止できた……イヤ、何のことかはわからないが。
解説
ヒルクリ
ヒールクリップの略。ヒールスキルが使えるようになるビタタカードを挿したクリップのこと。全てのスキルの消費SPが増えるというデメリットはあるが、マジ系では誤差にもならないレベルなのでよく使われる。
くわとろぶるでくすとっとととろーすろっど
正式にはクワトロブルデクストロースロッド。DEXをお手軽に上げる便利なロッドで、露店でもよく見かける品。とはいえ名前が長いので、普通はQDロッドと略す。
WIS
特定の誰かとプライベートチャットする機能のこと。すごい人は8人くらいと同時にチャットすることもあるという。
スレの住人
元々掲示板に書き込んでいたのでその名残。直すのもアレなので残しました。