魔法少女リリカルなのは~ヘタレ転生者は仮面ライダー?~   作:G-3X

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第五話 読書少女と森の妖精さん【後編】

『これでラストだマスター!』

 

メカ犬が叫ぶ。

 

「行くぞメカ犬!」

 

俺もそれに呼応するように叫び返す。

 

バックルからタッチノートを引き抜いて、全体図を出しながら右足部分をタッチして再びバックルに差し込む。

 

『ポイントチャージ』

 

白い光がバックルから発生してそのまま俺の右足に集約する。

 

「はっ!」

 

俺は足に光が集約すると同時に飛び上がる。

 

「ライダーキック」

 

右足に帯びた光を急降下しながら全身に浴びて、俺は連続四回目になる、渾身の一撃をホルダーに御見舞した。

 

ホルダーは俺の放ったキックに触れると、鏡が砕け散るように、乾いた音を立てながら跡形も無くなった。

 

ここで本来ならば、ホルダーは暴走したシステムと素体になった人間に強制的に分離される筈なのだが、今回俺が戦った四体のホルダーはいずれもその現象を起こさずに消え去ってしまった。

 

「ハア…ハア…ハア…こ、これで全部倒したな」

 

俺は息も絶え絶えに呟く。

 

『うむ。しかし分からない事だらけだ。同一のホルダーが一度に四体出現したと思いきや、倒しても分離されずに跡形も無く消え去っていく。唯一残る物といえば…』

 

メカ犬の考察を聞きながら俺はホルダー達が消え去った位置を視界に捕らえていく。

 

そこにある物は、最初に倒したホルダーの近くに落ちていた物と同じタイトルの本だった。

 

もはやこの本は偶然この場所に置いてあったという事は無いだろう。

 

何かしらの形でこの本はホルダーと関係している。

 

それが何かは分からないが今は目の前で起こった事を事実として受け止めるしかない。

 

『マスター。取り合えずこの四冊の書物を回収するぞ。詳しく調べれば何かのヒントが掴めるかもしれない』

 

「そうだな」

 

俺はメカ犬の意見に同意し、落ちていた四冊の本を拾い上げると、その場を離れ俺の家に帰る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん…何も分からん」

 

『此方もだマスター』

 

俺とメカ犬は自宅の俺の部屋で、四冊のファンタジー小説を並べながら、揃って首を傾げた。

 

俺とメカ犬は家に帰ってきた後、其々に分担してこの本について調べてみる事にした。

 

メカ犬はこの本その物から何か特殊な反応があるのかを、俺はこの本についての全般的な情報をだ。

 

まずメカ犬の調査した結果だが何も分からなかった。

 

メカ犬が言うにはこの本はどれも、書店に並ぶ物と大して変わらないただの本らしい。

 

俺の方といえば、小説のタイトルをインターネットで検索に掛けてみて大体の事は把握したのだが、ヒントになりそうな物は見つからなかった。

 

この本は一週間前に発売された物で、前評判も良くて今は何処の書店を覗いても専用コーナーが作られている程の小説だという事ぐらいだ。

 

そういえば、一週間前にすずかちゃんと海鳴図書館に行った時に新作コーナーでこの本が数冊置かれていたのを見たような気もする。

 

まあ、そんな事が分かった所で何にも成らない。

 

「なあ、これって本当にただの本なのか?」

 

俺は手元にあった四冊の内、一冊を手に取り軽くページを捲りながらメカ犬に聞いてみた。

 

『ああ、間違いない。その書物からは何も特殊な物は感知出来なかった』

 

俺はメカ犬の言葉にそうかと返しながら視線は捲られていくページに向け続ける。

 

「ん?」

 

全てのページを捲り終えた後、俺は本の巻末部分に貼り付けられたある物を発見した。

 

巻末のページの中央に紙製の袋がのり付けされており、袋の中には一枚のカードが入っていた。

 

そのカードには俺も良く見覚えがある。

 

一週間前にもすずかちゃんはこれと同じカードを使っていた。

 

そう、これは海鳴の図書館で使われている貸し出し用図書カードだ。

 

もしやと思い、俺は他の三冊の本の巻末も調べてみると、やはり海鳴の図書カードが入っていた。

 

つまりこの本は同じタイトルの本というだけではなく、同じ場所にあった物だという事になる。

 

「同じ場所に置かれた本が姿を変える…」

 

ふと俺の頭の中に最近似た現象が起きた事を思い出した。

 

一週間前に俺とすずかちゃんの目の前で一冊の本から妖精へと姿を変えたフェアリーベルである。

 

思い返してみれば類似点は幾つもある。

 

同じ海鳴の図書館で管理されていた本である事。

 

本からその姿を変えた事。

 

そしてベルの方は俺の見間違いの可能性もあるがどちらもホルダー反応があった事だ。

 

話していて分かるが確りと意識と良識を持ったベルがホルダーだとは断定できない。

 

だとしてもベルと今回のホルダーの類似点は無視できる物じゃない事も揺るがない事実だ。

 

確かめる価値は十分に有る。

 

「なあ、メカ犬」

 

『む、如何したマスター?』

 

「俺がこの前話した妖精の事だけどさ」

 

『マスターその件はまた後で話し合おう。そちらもマスターの精神衛生において重要ではあるが、今は一刻を争うときだ』

 

「だからそれに関係ある事だっつーに!!!」

 

これ以上の会話は誤解を上乗せするだけなので、俺はメカ犬を黙らせて一週間前に起こった出来事から今に至るまでの説明を順を追って話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい純君。遅かったから心配したんだよ」

 

「ごめんね。遅れちゃって」

 

すずかちゃんは気にしないでと言いながら俺を月村のお屋敷に招き入れてくれた。

 

メカ犬に話を聞かせた後、何でこんな重要な事を話さずにいたのだと怒鳴られた。

 

それを言ったらお前は俺の事を可哀相な人扱いしてくれたじゃねえかと売り言葉に買い言葉で、ひと悶着あったのだが、事は一刻を争うという事でベルに会うため急ぎ月村のお屋敷にやって来た訳である。

 

今日は元々すずかちゃんと遊ぶ約束をしていたが幸いだった。

 

ちなみに現在の俺はお気に入りのオレンジ色のショルダーバッグを担いでおり、メカ犬はその中に入っている。

 

「じゃあ純君は私の部屋で待っててね。私はノエルさん達にお茶を入れてくれる様に頼んでくるから」

 

すずかちゃんはそう言って、俺を自室に入れた後廊下を歩いて行ってしまった。

 

ノエルさんという人はこの月村家お抱えのメイドさんの一人である。

 

詳しい人数は俺も知らないが、俺達子供の相手を良くしてくれているのはこのノエルさんとファリンさんという二人だ。

 

ノエルさんはクールな人でファリンさんはまあ…ドジっ娘と覚えてもらえれば良いと思う。

 

この二人に出会った時、俺はリアル職業が美少女メイドな人って実在したんだなと、前世の友人に教えてやりたくなったものだ。

 

さて、こんな事考えてる場合じゃ無いしベルに確かめたい事もある。

 

俺は気を取り直しすずかちゃんの部屋に入り、恐らくこの部屋の何処かに隠れているであろう小さい妖精を呼んでみる事にした。

 

「おーいベル。純だ。君に聞きたい事があるから出てきてくれるかな」

 

俺はすずかちゃんの部屋でベルに呼びかけた。

 

すると天井付近から光の粒子の様なものが俺の頭上に降り注いできたのだ。

 

視線をそちらに向けるとそこにお目当ての妖精であるベルがフヨフヨと飛びながらやって来た。

 

「あら、純じゃない。遊びに来たのね。いらっしゃい」

 

ベルは俺の前にやって来ると挨拶を交わした。

 

「ああ、その事な『これは驚いたな』メカ犬?」

 

ショルダーバッグからメカ犬の声が聞こえてきたので、俺は急ぎバッグのジッパーを降ろして中のメカ犬を外に出した。

 

ファンタジーな森の妖精さんとSFなフルメタル犬のご対面である。

 

この絵図等だけを見ると、この世界が物語だったとした場合何処に向かおうとしているのか、制作方針不明な事限りない状態になっているだろうなと考えてしまう。

 

暫く無言で互いを見詰め合っていたベルとメカ犬だがやがてメカ犬の方が俺に話しかけてきた。

 

『マスター、結論から言おう。彼女はホルダーだ』

 

「な!?」

 

俺はメカ犬の余りに突然な言葉に思わず声を上げてしまった。

 

『いや…正確にはホルダーの一部と言った方が正しいだろう』

 

「やっぱり…そうなんだね」

 

メカ犬の言葉に反応したのは意外な事にもベルだった。

 

俯いているせいでその表情は確認できないが、その搾り出すような声からベルの悲しさが俺にも伝わってきたように感じ取れた。

 

「ベル。君は記憶が無かったんじゃないのか?」

 

俺は記憶が無い筈のベルに何故そんな事を言うのかを聞いてみる事にした。

 

「うん。純の言う通り私も最初は記憶が無かったんだよ。でもね時間が経っていくと段々分かってきたの。自分が如何いう存在なのか、私を生んだ人が誰で今何をしているのか…怖かったんだ。すずかに純に知られたら嫌われちゃうかもしれないってそれに信じたくなかった。これは何かの間違いなんじゃないかって思っていたかったから…」

 

ベルは自分の両肩を自身の両腕で抱きながら震えていた。

 

『ベルよ。辛いと思うが話してはくれないか。こうしている間にも自体は悪い方に向かっている可能性が高いのだ』

 

メカ犬はベルに話を促す様に語りかけた。

 

こんな状態のベルに残酷な事を言っているのは分かっているがメカ犬が言っている事も間違っていないと分かるので、俺は何も言うことが出来なかった。

 

ベルは俺とメカ犬を交互に見ると、少しだけ震えが小さくなり、俯かせていた顔を上げてほんの少しだけ微笑んだ。

 

「そっか…街で戦ってた黒い人は純だったんだね」

 

「分かるのか?」

 

「うん。私も、純が戦ったあのモンスター達も、私のマスターから、純達が言うホルダーが創った同一の存在でその人を通じて何をしているのか分かるから」

 

ベルは悲しそうに言った。

 

「ベルとあいつらが同じ存在?あれは如何見たって別物だろう」

 

俺は思った事をそのまま口にする。

 

『そうか。そういう訳だったのか』

 

ベルが俺の問いに答えようとしたその時、今まで黙って話しを聞いていたメカ犬が声を上げた。

 

『今回のホルダーの能力が分かったぞ』

 

「ホルダーの能力?」

 

『うむ。かなり特殊な部類になるがホルダーの能力は本来自身を超人化する能力を外部で発生させる派生型能力だ。そして本来持っている能力はデータの再構築といった所か』

 

メカ犬の言葉にベルは無言で頷いた。

 

それを確認するとメカ犬は続けて説明を再開する。

 

『本来の能力は媒介とした物をデータ化して人口のAIを生成する事の筈だ。その媒介が今回は書物だったというわけだ。本当ならばそれ以外に出来る事は無い筈なのだが今回ベルの様な存在を生み出したのが派生能力による物だ。派生したのは本来なら自身を強化するホルダーならば誰にでも扱う事の出来る能力だがそれを今回のホルダーは自身の能力で生成したAIに施したのだな』

 

メカ犬が言うには今回のホルダーは自分を怪人の姿に出来る力を内部だけでなく、外部にも使う事が出来る特殊なホルダーで生成したAIに肉付けする事で量産型の人工ホルダーを造っていたというわけだ。

 

「その話だと俺達が戦った四体は説明が着くけどベルは当てはまらないんじゃないか?ベルからは今もホルダー反応が出てないんだぞ」

 

『それは生成された時期に関係があるのだろう。恐らくベルはこの能力で一番初めに誕生した筈だ。もしかしたらホルダー自身も未だに能力に気づかず無意識の内に生み出した可能性すらある。ワタシとタッチノートに組み込まれているホルダーサーチはあくまで暴走プログラムに対して反応する様に設計されている。プログラムそのものが無ければ反応もしない』

 

「えっとつまりベルは…」

 

『うむ。幾つもの要因が重なって偶然にも生まれた本来のホルダー能力の化身と言える存在かもしれないな』

 

暴走プログラム一つで結果がここまで変わるって事なのか。

 

そのせいで色んな人達が傷ついているっていうのに…

 

「ねえ純。お願いがあるの」

 

ベルは突然に俺の目前まで飛んできて懇願してきた。

 

「私のマスターを止めて欲しいの。このままじゃ色んな人達が傷つく事になる。それに私を生んでくれたマスターをこれ以上暴走プログラムで苦しませたくない」

 

俺は無言で頷いた。

 

言われなくてもこれ以上ホルダーの好き勝手には出来ない。

 

それにホルダー自身も、純真な願いを歪められた一人の被害者だ。

 

一刻も早くその苦痛から開放させてあげたい。

 

メカ犬も同じ気持ちだろうと視線を向けると、その対象は意外な事を口にした。

 

『ベル…お前はその選択で後悔は無いんだな』

 

メカ犬の言葉にベルは一瞬だけ肩を強張らせたが、強い意志を宿した瞳がメカ犬を見据えてベルは力強く頷いて見せた。

 

「何が言いたいんだよお前は?」

 

『マスター。恐らくベルを生み出したホルダーを倒せば、ベルの存在は消滅する』

 

その言葉が俺の耳に入った直後、理解が出来なかった。

 

いや、理解する事は出来ていたんだと思う。

 

ただ認めたくなくて無意識にでも理解しない様にしようとしただけなんだ。

 

「ベル…本当なのか?」

 

一瞬とも永遠とも言える沈黙がこの場を支配した。

 

でもそれは実際には数秒の出来事で、沈黙は一人の妖精の言葉であっさりと崩れ去る。

 

「…うん」

 

それは認めたくない。

 

でも認めなければいけない肯定の言葉だった。

 

「私はきっと消えて居なくなると思う。でも、それでも…」

 

ベルは言葉を繋げようとする。

 

その姿を見ながら俺の脳裏にはベルの顔の横に一人の少女の顔が浮かび上がった。

 

俺がその少女の名前を口にしようとした時、部屋の入り口辺りからガシャンと陶器を落とす音が聞こえた。

 

その音の先に居たのは、俺が脳裏に浮かべた少女だ。

 

「…すずかちゃん」

 

俺は本来とは別の用途でこの言葉を使う事になった。

 

すずかちゃんの足元にはティーカップが二つ落ちている。

 

恐らく先程の音の正体はこれで間違い無いだろう。

 

問題は何処まで聞かれていたかだ。

 

入った瞬間に手が滑っただけというならば良いのだが…

 

すずかちゃんの青ざめた表情を見る限り、少なくともベルが消えていなくなると言う件は間違いなく聞こえていたと確信できる。

 

「嘘…だよね?ベルが消えて居なくなっちゃうなんて、ねえ純君」

 

俺は何も答える事ができない。

 

何も答えない俺にすずかちゃんは痺れを切らしたのか、続いてベルに問い質した。

 

「ねえベル…」

 

その言葉は身を引き裂かれるような悲痛な感情が篭っている様に俺は聞こえた。

 

でも現実は残酷ですずかちゃんの期待した答えは返ってこなかった。

 

「…ごめんなさい」

 

このベルの言葉がトリガーになったのだろう。

 

すずかちゃんは後ろを向いて走り去っていった。

 

俺は反射的にすずかちゃんを追いかけようとしたがその時。

 

「待って!!!」

 

呼び止めたのはベルだった。

 

「このまますずかちゃんを放っておくなんて出来ないだろう。早く追いかけないと!」

 

俺はベルの制止を振り切り、再びすずかちゃんを追おうとするが、今度は言葉ではなく俺の腕にしがみ付く事で、ベルは俺がこの場から居なくなる事を阻止した。

 

「純。すずかの事は私に任せて欲しいの。それに純にはお願いが有るって言ったよね」

 

俺はベルの顔を見た。

 

その瞳には、悲痛なまでの覚悟が秘められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ行くぞメカ犬」

 

『了解だマスター』

 

俺とメカ犬は扉を開けて室内に入る。

 

室内は独特の紙の香りに包まれており、読書好きの俺としては何処か落ち着く気さえする。

 

やって来たのは海鳴市一の蔵書量を誇る図書館。

 

一週間前に俺とすずかちゃんが訪れたのもこの図書館だった。

 

俺は迷わずに前へと歩を進める。

 

その先に見えるのはこの施設のサービスカウンターだ。

 

俺がサービスカウンターの前まで行くとそこに常駐している司書さんが話しかけてきた。

 

「あら、君はこの前の可愛いカップルの彼氏君じゃないの。今日は君一人なのかしら?」

 

その司書さんは一週間前に俺とすずかちゃんが読書しているのを見て可愛いカップルさんと茶化していたあのお姉さんである。

 

「ええ。返却したい本があるんで持ってきたんですよ」

 

俺は司書のお姉さんに相槌を打ちながら用件を述べた。

 

「でも、先週借りた本なら返却日までにはまだかなり日が有るわよ?」

 

司書のお姉さんは不思議そうな顔をして言った。

 

「それとは別で返却したい本が何冊かあるんでお願いできますか」

 

俺は肩に提げたショルダーバッグをサービスカウンターに置いて、バッグの中から四冊の本を取り出して見せた。

 

その本を見たお姉さんの眉が少しだけ動いたのが見えたが俺はかまわず続けた。

 

「俺が借りたわけじゃないんですけどもね。道端に同じタイトルの本が四冊も落ちていたんですよ。しかも不思議な事に全部この図書館の本だったんで吃驚です」

 

「そ、そうなの?それは変な話ね…本当に」

 

「はい。しかも突然化け物になって暴れ始めるもんですから苦労しましたよ」

 

「なっ!、君…今日はエイプリルフールじゃないんだからお姉さん嘘は感心しないわね」

 

俺は顔に笑顔を貼り付けたまま更に司書のお姉さんに近づいて、耳元で小声で話した。

 

「嘘を言ってるのはお姉さんの方ですよね?俺知ってるんですよ。お姉さんが緑色のガラス球みたいのを拾ってから不思議な事が出来る様になったって事…」

 

司書のお姉さんは俺が耳元で言った言葉に両目を見開いて距離を離すと俺を未知の生物でも見るかのようにいぶかしみながら尋ねてきた。

 

「…君、一体何なの?」

 

「俺ですか?そうですね…しいて言えば正義の味方ですかね」

 

俺の返答は司書のお姉さんからすれば予想外だったのだろう。

 

時間その物が凍りついた様に司書のお姉さんはその身を固めてしまった。

 

しかしその硬直はほんの少しの間の話で時は再び動き出した。

 

「…ぷっあははははははははははははは!!!!!」

 

司書のお姉さんの盛大な笑い声が図書館内に木霊した。

 

近くに居た他のお客さんも何事だとサービスカウンターに視線を集中させる。

 

「あは、はははは面白すぎるよ君!じゃあお姉さんは差し詰め敵の怪人って所かしら?」

 

腹筋が捩れそうなほどに笑ったのか司書のお姉さんは苦しそうに腹の中程を手で押さえながら聞いてきた。

 

「客観的にみればそうなるでしょうね」

 

俺はその質問にしれっと答えた。

 

「あはははは!!!やっぱり面白いよ君!うんそうね、君のヒーローごっこお姉さんが一緒にやってあげるわ!」

 

そう言うと司書のお姉さんは制服のポケットから何かを取り出した。

 

それは薄い緑の輝きを放つ、パッとみビー球にも見えるが其れとは一線を隔す存在感を持っていた。

 

其れを司書のお姉さんが握り締めると、握り込んだ拳を中心に緑色の光が全身を包んでいった。

 

その光が一層眩しく光った後、そこには異形の存在が佇んでいた。

 

全身が木の様なブラウン色で頭に四角い帽子にも見える物体を被っている。

 

眼光も鋭く口の様に見える部分には上下から鋭い牙が二本伸びていた。

 

右目に位置する部分にモノクルらしき物が付けられているのはお洒落なのだろうか。

 

更に両肩には分厚い本が取り付けられている。

 

もっとも近い表現をするのなら昔話に出てくる様な鬼に学者さんの格好をさせればこんな感じになるかもしれない。

 

この光景に驚いたのは周りの人達だ。

 

図書館内はパニックになり俺とメカ犬、そして目の前のホルダー以外は全員この図書館から我先にと逃げ出していった。

 

実を言えば俺も最初はホルダーの正体を聞いたとき自分の耳を疑った。

 

でも冷静に考えてみれば其れも合点がいった。

 

モンスターになった本は全てこの図書館の本であった事と、ベルの姿に変わった本をその日の内に多く触ったのは俺とすずかちゃんを除けば一番可能性の高いのはこの司書のお姉さんに違いないからだ。

 

ベルからこの司書のお姉さんの性格は、基本ノリが良い所で正気を失っていても性格的な根っこは変わらないからと、聞いていたため自ら正体を現させる為に一芝居打ったのである。

 

ちなみに脚本と演出は隣で黙って見ていたメカ犬で役者は俺である。

 

出来る事ならばこんな心臓に悪い芝居は二度とやりたくない。

 

戦うのとは別ベクトルで嫌過ぎる。

 

兎にも角にも正体を現してくれたので万々歳だ。

 

「ふ~ん…君は逃げないんだね」

 

目の前のホルダーが興味深げに聞いてきた。

 

「言ったでしょ。俺は正義の味方だって」

 

俺はポケットからタッチノートを取り出してボタンを押す。

 

『バックルモード』

 

タッチノートから流れる音声と共に隣に居たメカ犬がベルトに変形して俺の腹部に巻かれる。

 

本当なら戦いたくは無い。

 

このホルダーを倒したらベルの存在は消えて無くなる。

 

でもそれでも俺は戦わなくちゃいけない。

 

何より其れがベルから俺に託された願いだからだ。

 

ベルは願ったのだ。

 

自分の命よりも誰かの平和を…

 

ベルを助ける事の出来ない俺にできる事は何なのか。

 

ベルの望みを出来る範囲で叶える位しか俺には出来そうも無い。

 

そのベルが俺に戦う事を望んだのだ。

 

自分の命と引き換えにこのホルダーを苦しみから解放して欲しいのだと。

 

俺じゃなければ救えたかもしれない。

 

もしかしたらこんな結果にならなくて済む最善の結果を導き出せたのかもしれない。

 

せめてベルの考えを改めさせる事ぐらいならば可能だったかもしれないのだ。

 

でも俺にはそんな事できないから、だから俺は戦う。

 

せめてベルの思う様にしてやりたいと願うから…

 

「変身」

 

俺はキーワードとなる言葉を紡ぎタッチノートをバックルの中央部に差し込んだ。

 

『アップロード』

 

白銀の光がバックルを中心に俺の全身を覆っていった。

 

光が飛散したその場に居るのは一人の戦士だ。

 

全身メタルブラックボディに四肢に伸びる銀のラインとV字の角飾りに大きな赤い瞳。

 

「…本当に面白いわね君。まるで本物のヒーローじゃないの。一体何なのかな君は?」

 

ホルダーは俺の変身をまるで無邪気な子供の様にはしゃぎながら見学して、こんな感想をのたまった。

 

「俺は仮面ライダー…仮面ライダーシードだ!」

 

俺はホルダーの望み通りに答えて見せた。

 

「仮面ライダーか…いい名前だね!!!」

 

ホルダーは言うと同時に俺の傍に駆け寄って来た。

 

『来るぞマスター!』

 

「分かってるって」

 

ホルダーが顔面目掛けて連続で拳を振るって来る。

 

パワーは相当な物で当たればかなりのダメージになりそうだが、生憎俺には当たってやる謂れは無い。

 

力は有っても攻撃が単調で読みやすい。

 

俺はホルダーの攻撃を見切りながら、お返しとばかりに右拳をホルダーの腹部に畳み込む。

 

「くうっ」

 

ホルダーが拳の連打に怯んだ所で俺は回し蹴りを繰り出した。

 

ホルダーも受け止めようとするが、俺はそれを力任せになぎ払い吹き飛ばした。

 

「おりゃああああ!!!」

 

突き飛ばされたホルダーは図書館の壁を突き破り表に転がっていく。

 

その後を追って俺も風穴の開いた壁からホルダーを追撃するために外に出た。

 

外に出るとホルダーは殴られた箇所が未だに痛むのか腹部を押さえながら苦しんでいた。

 

『マスター今がチャンスだ』

 

「そう「待ってくださーーーーい!!!」な!?」

 

俺は驚愕した。

 

其処にはこの場に居ないであろう人物が居たからである。

 

「お、お願いします。仮面ライダーさん!…この人を見逃してあげてください…そうじゃないと私の友達が…ベルが消えて…」

 

すずかちゃんが俺とホルダーの間に割って入って来たのだ。

 

ベルの姿は何処にも無い。

 

恐らくは行き違いになったのだろう。

 

それよりも問題は今此処にすずかちゃんが居るって事だ。

 

すずかちゃんは俺を仮面ライダーを真っ直ぐな瞳でみつめている。

 

俺と違いすずかちゃんは諦めていないのだ。

 

友達を、ベルの命を救う事を…

 

その意志の強さに今の俺が叶う分けも無い。

 

俺は身動きが出来ずただ立ち尽くす事しか出来なかった。

 

「何か良く分からないけどチャンスみたいね」

 

ホルダーはこれを好機と見たか、俺に襲い掛かってきた。

 

俺は避ける事も忘れその攻撃を喰らい続けた。

 

鈍い痛みが俺の全身を襲う。

 

『マスター反撃するんだ!!!このままでは殺されてしまうぞ!?』

 

メカ犬が俺に檄を飛ばす。

 

頭ではこのままではいけないと理解できる。

 

でも身体が言う事を聞いてくれない。

 

ベルの願い。

 

すずかちゃんの真っ直ぐな思い。

 

そして俺自身の動揺が俺の思考を動きを支配している。

 

俺はなすがままに痛めつけられそのまま地に伏せた。

 

ホルダーの声が、メカ犬の声が、すずかちゃんの声が聞こえてくる。

 

だけどその声はどれも何処かぼやけて聞こえてきて…

 

…意識も薄れてきた俺は、もうこのまま楽になりたいなって思い始めて…

 

「…ダー!」

 

何だ?

 

「…ライダー!」

 

煩いな…

 

「仮面ライダー!!!」

 

はっきりと俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「約束したでしょ!私のお願いを聞いてくれるって!戦いなさいよ!こんな事で助かる命なんて…誰かの犠牲で助かる仮初の命なんて…私絶対嫌だからね!!!」

 

黄金色の粒子が俺に降り注ぐ。

 

四枚の透き通る綺麗な羽をはためかせながら。

 

可憐な笑顔が似合う筈の顔を涙で歪めながら俺に必死に呼びかけているのだ。

 

「…ベル?」

 

泣いている。

 

誰がだ?

 

友達が…

 

すずかちゃんが…

 

ベルが…

 

俺は何やってんだ?

 

こんな所で寝てる場合じゃないだろう?

 

俺は誰だ?

 

俺は…

 

「俺は仮面ライダーだ!!!」

 

軋む身体を無理矢理に持ち上げ立ち上がる。

 

体中に痛みが走るがそれが俺の意識を繋ぎ止めた。

 

『マスター!大丈夫か!?』

 

「ああ。まだまだ行けるぜ!!!」

 

俺は一歩前に踏み出す。

 

その眼前に映るのはホルダーだ。

 

「まだ動けるんだ?でもいい加減うざったいかな!!!」

 

ホルダーがみたび拳を俺に振るう。

 

だがその拳は俺に届く事は無かった。

 

「な!は、離しなさい!?」

 

俺はホルダーの拳を自身の左手で掴みその動きを完全に封じた。

 

俺はもがくホルダーを他所に空いている右拳にありったけの力を込めて振りかぶる。

 

「これでもくらえ!!!」

 

渾身の力を込めた右拳をホルダーに叩き込み吹き飛ばす。

 

それを見たすずかちゃんが再び俺とホルダーの間に割って入ろうとするがそれをベルが無言で押し止めた。

 

俺はすずかちゃんの事はベルに任せてホルダーに向き直る。

 

『マスター…』

 

「…」

 

俺は無言でタッチノートを引き抜き全体図を表示する。

 

右足の部分をタッチしタッチノートを再びバックルに差し込んだ。

 

『ポイントチャージ』

 

ベルトから稲妻の様に白い光が発生し、銀のラインを伝ってその光が右足に集約する。

 

俺は一度だけベルを見た。

 

隣ではすずかちゃんが泣いていた。

 

ベルも泣いていた。

 

でも俺の視線に気づいた二人は俺に泣きながらも笑って見せたのだ。

 

二人がどんな会話をしたのかは分からない。

 

俺が今しようとしている事は、二人を永遠に引き裂く事になる行いだ。

 

そんな俺を見て二人は笑っているのだ、泣いているのに、泣くほど苦しい筈なのにだ。

 

だから俺は自身の全力を尽くす。

 

一人の、誰よりも大きな優しさを持った小さな友達の願いに答えるために…

 

「こいつで決めるぜ」

 

俺は大きく跳躍した。

 

ホルダーを軌道に捕らえ右足を突き出す。

 

「ライダーキック」

 

光の粒子が俺を包み込みながら俺はホルダーにこの輝く右足を突き刺した。

 

ホルダーは白い光を発しながら爆発する。

 

其処に残るのは気絶した司書のお姉さんと分離されたシステムだ。

 

俺はベル達の方向を見る。

 

ベルの身体は既に半分以上が透けてきて今にも消えて無くなりそうだった。

 

すずかちゃんはそんなベルを必死で抱きとめている。

 

俺の位置からは二人が何を話しているのかまでは分からなかった。

 

だが最後の言葉だけは口の動きで理解する事が出来た。

 

あ・り・が・と・う

 

その言葉を最後にベルは消えた。

 

一冊の本を残して…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女の子と妖精はいつも一緒でした。

 

楽しい事も

 

嬉しい事も

 

辛い事も

 

悲しい事も

 

二人は何時までも一緒に居ようねと約束しました。

 

お互いが最高の友達だと思えたからです。

 

しかしそんな二人にも別れの日がやって来ました。

 

妖精は本来居るべき場所に帰らなければならないのです。

 

別れを悲しみ泣きじゃくる女の子に妖精は言いました。

 

お話しすることはもう出来ないけど私は何時だって君の隣に居るよ。

 

私と触れ合いたいのなら森の木に寄り掛かってみてね。

 

私の歌が聞きたくなった時は耳を済ませて風の音を聞いて。

 

私は森の妖精…この森に来てくれれば何時だって会えるからね。

 

だから忘れないでね。

 

覚えてくれていれば私は何時だって君の隣に居るから…

 

だから、ありがとう…またね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白い本だったね純君」

 

「…うん、そうだね」

 

俺とすずかちゃんは今ベルだった本を読み終わった所だ。

 

ベルが消えてから三日後、俺の前にこの本を持ってきたすずかちゃんが一緒に読もうと誘ってきたのだ。

 

何でもこの本の続きを俺と一緒に見る様にとベルと約束をしていたそうだ。

 

あれからすずかちゃんは時折寂しそうな表情を見せる物の以前よりは元気を取り戻して来た様で笑顔も幾分見せてくれる様になった。

 

「「できたあ!!!!」」

 

俺とすずかちゃんとの読書タイムに急遽乱入者が二人程現れた。

 

なのはちゃんとアリサちゃんである。

 

二人の手の中にあるのは色取り取りの折り紙で折られた大量の鶴だった。

 

最近何かこそこそとやっていたと思ったらどうやら二人でこんな物を作っていた様である。

 

「最近すずかちゃん元気無いみたいだから頑張って作ったんだよ!!!」

 

「私となのはが丹精込めて作ったんだから有り難く受け取りなさいよ!」

 

二人はそう言うとその千羽鶴をすずかちゃんに手渡した。

 

最初はすずかちゃんもきょとんとしていたがやがて花が咲き誇る様な満開の笑顔で二人にお礼を言った。

 

「ありがとう!」

 

俺はそんな三人の様子を見ながら手元の本の最後のページを見た。

 

其処には挿絵が描かれており、森の妖精が優しげな笑顔で微笑んでいた。

 

今日の海鳴は悲しみを吹き飛ばす笑顔に溢れていて…至って平和だ。

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